■紅茶とπ(パイ)【発想力】

artc20021201今回は自己啓発シリーズです。
このメルマガ読者の大きなニーズの一つ「発想力」「視点」をどう磨くのかに焦点を当てました。
これがすべての回答ではありませんが、森流のやり方の一つです。参考になれば嬉しいです。

「π型人間」は発想が豊か

以前の記事でコンサルタントの条件の一つは、深い知識や経験と同時に広く浅い知識だと書きました。

具体的には次のような質問でしたね。

「あなたは『2時間以上』話ができる分野を持っていますか」
「あなたは『30分以上』話ができる分野をいくつ持っていますか」

この点について、読者のみなさんからたくさんの感想を頂きました。
一番多かったのは「どちらも自信がない」というものでしたが、様々な質問も頂きました。

「どうやって『2時間以上』『30分以上』と判断するのですか。実際に喋ってみるのですか」
「なぜ『2時間以上』『30分以上』なのですか。1時間半や20分以上ではいけないのですか」

このような質問は「各自勝手に判断せよ」ですが、皆さんの関心が高いものであることが良く分かりました。
また、「プロについて考える」テーマも興味の大きい分野であることは「読者の声」を見ているとよく分かります。

一方、このメルマガを読んでいる方々の目的のひとつが「発想を広げること」です。「視点を変えること」と言い換えても良い。
「どうしたら、そんな視点が出てくるのか」と良く聞かれます。
正直言うと、私は教育コンサルタントではありませんので、自分の視点の出し方を人様にお教えする能力はありませんし、体系化している訳でもありません。

しかし、「2時間以上話すことができる分野を持っている」「30分以上話すことができる分野をいくつも持っている」人の多くは「視点の豊かさ」や「発想の鋭さ」を持っていることも事実です。
そこで、今日はそれを一歩進めて「知識のバランス」をテーマに記事をお送りします。

「T型人間」とは

「π型人間」とは何かを説明するより、その原型である「T型人間」を説明した方が分かりやすいでしょう。

「T」という文字は縦に長い1本の直線「|」と横長の直線「-」でできています。
縦棒は「専門性」を指します。冒頭の話で言えば

「2時間以上、話ができる分野」

ですし、横棒は「幅広い知識」

「30分以上、話ができる分野」

です。
要するに、

「誰にも負けないひとつの分野と、どんな人にも話を合わせられるくらいの、幅広い知識を兼ね備えた人間」

が「T型人間」です。
「π型人間」とは縦棒を1本増やして2本にした人間像のことです。

私の例を上げましょう。
メルマガには過去記事が70本あります。それぞれのテーマは話せば30分以上かかる内容ですから、私は70個以上もの横棒「広く浅い」分野は持っていることになります。
70本の中には2時間以上話すことができる分野もあり、まだテーマにしていないものもありますから、私の縦棒は「π」どころか数10本以上あることになります。

「T型人間」や「π型人間」をなぜ私が皆さんに勧めるのか。
コンサルタントにとっての必要性は以前の記事で理由を話しました。
縦棒(深い知識や経験)があるとクライアントの気持ちが分かるからです。クライアントの多くは一つの産業や商品分野のことについて日夜考え、悩んでいます。そんな相手の気持ちが分からなければ、きちんとしたコンサルテーションができないというのが私の哲学です。

そして、横棒(浅くて広い知識)はコンサルタントにとって、現代の生活者や市場の動きをモニタリングし、変化があったら即手を打つことができるのがメリットだからです。

一般の方達のメリットは何か。いくつかあります。
まず、発想の柔軟性です。
様々な分野の知識があれば、「ある分野で常識」であっても「他の分野では非常識」ということを身をもって理解できます。
過去記事でお話ししたとおり、

「常識=そのとおりやること=考える必要がないもの=アホになる元凶」

です。狭い分野でしかものを考えられない人は、その分発想が固定されてしまう危険性があることに他なりません。

嬉しいことに、たくさんの読者が私の視点の鋭さや常識にとらわれないものの見方をほめていただきます。
その大きな理由のひとつが「私はたくさんの分野を(少しずつ)知っている」からなのです。

例えば、ある業界を見る時に、他業界ならどうするかを想像してみる。
例えば自動車業界では各メーカーに系列店があります。業界の人にとっては当たり前のことです。
しかし、他業界、例えば家電業界ではナショナルショップのような系列店が崩壊状態で、量販店が主流です。すると、

「自動車業界が(家電業界にあるような)量販店流通に変化することがあり得るのだろうか」

という仮説が当然の事ながら出てきます。

業界の人間は「あり得ない」という発想に縛られますが、それは単に「そう思いたくない」というだけの話です。
家電業界、特にナショナル(松下)だって、かなり最後まで「そうあって欲しくない」と思っていたけれど、結局、現在のような量販店主体の流通になってしまった。

過去記事「駅ってどーよ」の駅ホームの危険性についての警鐘も、元を正せば、私が船に乗るためにタラップを歩いていた時にふと思ったことが発端でした。
それぞれひとつひとつの事象は皆さんご存じのことです。飛行機やバスや船のような乗り物で駅ほど危ないところはないことは、誰もが知っている。

それを繋げて考えることがなかっただけです。
でも、繋げると言ったって実は簡単なことです。「比べる」だけなのですから。誰でもできることのハズですが、意外にできないことも多い。

醤油とクルマを比べてみる

例えば普通の「常識」のある人は、私が

「マヨネーズと醤油、クルマ、ビール、化粧品、ネクタイ、東京ディズニーランドでは、どれが一番好き?」

と聞くと、

「そんなー、森さん。カタチも業界も固有名詞も使い方も違うものを並べられても、答えられないですよ」

と回答を放棄してしまう。
「比較を自ら放棄している状態」です。
でも、こんな風に聞くと渋々ながらも答えてくれるようになります。

「いや、ほら、そんなことはどうでもいいから、今、私が『どれか好きなのを上げるから』といったら、どれを選ぶのかと考えればいいから」

一見、まったく違う性質のものを比較してみる。
無理矢理でも構わないからやってみる。
これが自然と身に付けば比較なんて簡単にできるようになるし、「駅のホームは危ない」ということがすぐに分かる。

「カタチが違うから」「使い方が違うから」「価格が違うから」といった「言い訳」が「比較すること」の邪魔になっているのです。

「それは分かったけど、質の違うものを比較したところで単なる遊びじゃないですか。ビジネスに使えないですね」

と口の悪い私の後輩です。
いやいや、こういった「狭い了見」の人はどこにでもいます。
私は企業内講演や研修をすることがたまにあります。その時、わざとクライアント企業が所属する業界の例を使わずに講義をします。
AV機器メーカーなら飲料や食品の例を多く出す。アルコールメーカーなら家電やサービス業の例を出す。

多くの参加者はちゃんと聞いてくれますし、興味深く聞き入ってくれます。
しかし、時々「私たちと同じ業界の話でないと参考にならない」と言う参加者や担当者がいるのです。
そんなときの私の答えはこうです。

「この業界の例を出すことは簡単です。でも、それじゃ、業界の先行事例の後追いをする発想しか出てきませんよね。
しかも、そもそも業界にない発想が出てこなくなります。
例えば、先ほどの自動車業界には『量販店』という概念もなければ事例もないわけですから、永遠に『メーカーの区別なく自動車を一度に比較検討できる量販店』というアイデアは出てきませんでしょ」

以前も書きましたが、ホンダシビックは当時の海外旅行と同じ価格で発売しました。「当時の若い人たちの憧れである、海外旅行とクルマ(シビック)のどちらを買おうかと悩んで欲しかった」とメーカー担当者が雑誌のインタビューに答えていました。
この担当者の発想は「醤油とパソコンは比べられない」と言う人には到底できない技です。

また、私の過去記事にあるように、モバイルギアのような小型PCを「カバンの空間の取り合い」と考えることや「ウォークマンは電車の中にいる『時間』の取り合いで勝った」という発想は浮かんでくるはずもありません。

「カタチが違うから」「使い方が違うから」「価格が違うから」というだけで、比較できない、異質のものと考えるか考えないかで、発想というのはどんどん変わっていくものなのです。

いや、「カタチが違うから」異質なのだとしたら、男と女はまったく別物だと言うことになります。
・・あ、まあ、そう考えた方が、女性は神秘的だという男性諸兄の意見には賛成しますが(笑)

「T型人間」はその発想を広げる支えとなってくれるでしょう。
様々な分野の知識だけでは「物事を表面的にしか考えられない」クセがついてしまいます。縦棒の「深い知識」は「徹底して考える経験」や「考え方の一貫性」を醸成します。

ひとことでいえば

「受け入れる幅広くて、懐が深い人」

になるメリットがあるといえば分かりやすいでしょうか。

「しがみつくこと」が発想の妨げ

発想がせまくてもったいないなあと感じる人たちの一部を見ていると、あることに気がつきます。
それは「ある事象や考え方にしがみつく」ことで、他のものが見えなくなっていることです。

もちろん本人たちは「それが唯一無二の真実だ」と思いこんでいるので、まさか自由な発想を妨げているとは思いもよりません。ましてや「自分が何かにしがみついてる」なんて思いもしない。「1+1=2」と同じくらいの真実だと思っている。

このタイプには2種類います。
「単純ミス派」と「確信犯派」です。

「単純ミス派」は簡単です。
例えば、以前もお話ししたように、過去記事について

「ネットで書籍を注文するのは今や当たり前の時代なのに、書店の本の並び方がおかしいと批判する森さんの記事は偏った見方だ」

とインターネット普及率が「10%にも満たない」2年前にコメントを寄せてきた人がいました。

彼にとって「ネットで書籍を注文する」のは「1+1=2」と同じくらい真実です。恐らく、彼の周囲の人たちの多くは、ネットで書籍を注文するのは日常茶飯事の出来事なのでしょう。
普通の人の感覚で言えばいかにも「自分の周囲だけのことしか目が行っていない」ことが分かりますが、本人はいたってマジメで真剣です。

このような人たちには「ネット人口が6%しかいないのに『当たり前』はあり得ない」と説明すれば、よほどの人でない限り、納得はしなくても理解はできます。

彼は単純に周囲の「自分が見えるもの」だけで判断しているのですから、「見えるもの」の範囲を広くしてあげればいい。だから、「単純ミス派」と呼びます。

処方箋は簡単です。
できるだけ多くの事象を見て、聞いて、感じること。
これでほとんど解決します。
「T型人間」の「-」の幅を広くすることがこれに当たります。

それよりも根が深いのは「確信犯派」です。
「自信がない派」と私が呼んでいるグループでもあります。
人は不安になると何かに頼りたくなる存在です。心理学でいうところの「親和性が高くなる」状態で、ものや他人に頼る。
宗教や占いが人を集めるのも「不安」がニーズを呼ぶからです。ブランドや高級商品に身を包むのは一種の「不安を解消する」心理状態だと言われます。
(自分に自信がないから、高級ブランドの力を借りて自分の価値を底上げしようとする心理が働くなど)

自信のなさが発想を妨げる

それでは、人はなぜ不安になるのか。
その大きな原因の一つは「自分に自信がなくなった(自信がない)状態」です。
自信がない状態は集団で他人と比較した時に、明らかに自分が勝っていないと思った時に現れやすくなります。

自分の担当の売上げが、同僚よりも減少した。
本来ならうまく行くはずの交渉がまとまらない。
職場の人たちとの関係が思うように行かない。
今までの自分の経験(他人との比較や自分の経験で完成した基準)と比べて、現在の状態が劣っている。そんな時に「自信を失い」ます。

失うだけではありません。元々、自信があったことがない、いつも自信がないという状態の人も多く見かけます。
それはとどのつまり、「他人より勝る分野を作ってこなかった」人に多く見られる傾向です。

何となく大学を出て会社に入り、それなりに恋愛はしたものの、普通に結婚をして子供や家庭ができた。職場では大きな成功もないけれど、大した失敗もない。
良くある光景ですが、自然に任せただけの人生であり、多くは「意図的に他人に勝るものを作ってこなかった」人たちです。

さて、そんな人たちが陥るミスが「『特別なもの』『優位なもの』に頼らないと不安が増幅してしまう」症状です。
彼が一流企業に所属していれば「一流企業社員のプライド」に頼らないと不安になる。日本人の大多数が「一流でない企業に所属している」から、自分は「特別(優位)な存在である」ことを確認できるからです。

あるいは、業界の知識が不安解消のより所という人も見かけます。「業界の事情を知らない人」と接触した時に「へえ、そうなんだ」「知らなかった(汗)」と言われると「ああ、自分は特別(優位)なんだ」という確認ができる。
また、良くあるのが、高卒ばかりの集団に入った時に、自分のより所が大卒であることだったりします。

そんな時に「そのより所を崩される」危険が迫ると、どうなるのでしょう。
簡単に想像がつきますよね。
そのより所に逃げ込もうとするか、脅かされる存在を排除・否定しようとする。

はい、ここで一人

「発想が固まったビジネスマン」

が生まれました。

発想が固まったビジネスマンの症状

発想が固まったビジネスマンにはどんな特徴が見られるのか。
他業界の人に対しては

「そんなものは業界の常識ではない」
「うちの業界は他業界と違う」
「うちの業界での成功例でないと、理論といっても成功するかどうか分からない」
「門外漢には分からない」

彼の目の前には他業界の人間は私ひとりしかいない。でも、自分の回りには同僚や上司、部下ばかりですから、味方が多い方になびくのは当たり前。

社内には

「今まで成功したという話を聞いたことがない」
「そんなにいい企画なら、なぜ競合企業がやっていなかったのか」
「昔同じようなことをやって失敗したから、今回もダメに決まっている」

これも同じく、従来の慣習に従う社員が多いからこそ、味方が多い方につこうとする心理です。
逆に「過去を振り返ることが悪いことだ」といった社風の会社では「新しいことをするのが味方を増やすこと」ですから、発想が豊かにならざるを得ない・・・という気がしますが、実は根っこは「大勢につく」ことで変化はありませんから、結局こういう人は発想が豊かになれない。

そこまでの攻撃性はなくても、「発想が固まったビジネスマン」には発想のシャットダウン現象が見られます。

「当たり前だから…」
「みんなやっているから…」
「はなから考えたことがなかった…」
「昔からそうだった…」

例に上げたサラリーマンだけではありません。高校生など現代の若い人たちにも頻繁に「発想の固定化=自信のなさ」が見られます。
彼らは人間としてまだまだ自信がない。だから、「●●はこうでなければいけない」という発想が極めて強い。それから外れようとすると「あいつは何だ」とグループから排除されたり、グループ同士でいがみ合ったりする。

アユが流行ったら、CDはおろかファッションもメイクもアユばかり。
ハイソックスもプリクラも「自信がないから、人と似たような行動をするから安心」と考える人間に「自由な発想」はありえません。

「若い人の方が発想が豊か」

というのは相対的なもの言いに過ぎません。正確には

「若い人の方が『頭の中がくたびれた中年おっさんよりは』発想が『まだ』豊か」

と表現すべきものです。

逆のケースを見てみましょう。
例えば、絵画や音楽などの1つの分野で秀でている人間は、他の分野のトップクラスの人間に対して、実に気が合うというか共感を自ら見いだすことが多いものです。
自分に自信があるから許容範囲が広く、同じトップクラスの人間として取り組み姿勢や考え方に共感が沸くからです。

話を「発想が固まったビジネスマン」に戻しましょう。
これまで見てきたように、

「そんなものは業界の常識ではない」

「今まで成功したという話を聞いたことがない」

は、言葉だけを聞いているとマチマチに見えますが、根元の大きなものが

「自信がない」

に尽きます。

だったら、自分に自信をつけるのが「発想力を広げる」早道ということになります。
そのひとつの方法が「これなら他の人間に負けない」というものを作ることです。そして、このことが「T型人間」の縦棒になります。

知識の深さの目標は上位2.8%

さてさて、縦棒の基準を先ほどは「2時間以上話ができること」と定義しました。実は、この表現は質問としては分かりやすいけれど、縦棒の定義としては必ずしも正確ではありません。

「2時間以上話ができる」なら「自信が持てる分野であることが多いだろう」と想定しているだけです。

正確にいうなら、目標は何か。

「他の誰よりも詳しくて、2時間くらいは平気で話ができること」

これをもっと数量的に表現すれば

「自分の行動範囲の中で、上位2.8%の座を占めるくらいに詳しいもの」

です。
2.8%は36人に1人の割合ですから、「会社の『部』でトップクラスに詳しい」人ということです。
そして大抵の会社では「営業部」「企画部」「開発部」など、1つの部が1つの機能を持っていますから、「部で1番」ということは、事実上「営業部で1番」「企画部で1番」「開発部で1番」となります。

上位2.8%に入れば「かなり詳しい人」「かなりのイノベーター」「かなりのオタク (笑)」というレッテルを周囲が貼ってくれます。これが「自信」の源泉になってくれます。

【注】2.8%の数字の根拠はクープマンの目標値で言うところの
6.8% x 41.7% = 2.8%です。こちらのアドレスを参考にどうぞ。
クープマンの目標値

さて、「部で1番」程度では下手をすると「井の中の蛙」ができあがります(発想という観点から言えば「自信ないクン」よりははるかにマシですが)。
「その部では発想が豊か」と言われても、最後は「生活者に対して」発想が豊かでないと、マーケティングのような生活者相手のビジネスはできません。

バランス感覚のある人なら1つの部で1番になったら、次の領域に興味を持つことが多くなります。「部で上位2.8%」が「会社や業界で上位2.8%」そして「生活者に対して、上位2.8%」というように目標が変わります。

はい、これで

「発想が豊かなビジネスマン」

の一つの条件が整いました。

次は「T」の横棒を見てみましょう。
これは「幅広い」分野に対する知識を指しますが、「上位何%」という言い方はしません。大切なのは深さではなく広さだからです。ちょっとした雑学レベルで十分です。

横棒が「発想の豊かさ」においてなぜ必要なのかは冒頭で説明したとおりです。視点の角度を変える時に他業界の例で考えることは有効だからです。

そして、もうひとつ大切なことがあります。
「発想は高速シミュレーションだ」という研究があるからです。

正確なソースは覚えていませんが、ある心理学の研究チームがいわゆる「発想が豊か」とされるクリエータやアーティストの思考を分解したところ、「ピンと来る」という現象の大半が「自分の中のストックをひとつひとつ当たって、それぞれを組み合わせて予測をする」プロセスを踏んでいることを突き止めたのです。

ただ、そのプロセスをスーパーコンピュータのように一瞬のうちに処理してしまい、結論を「ポン」と出すから「閃き」のように見えるだけだというのです。
周囲はおろか、本人自体も気がついていない。

本当の天才には本当の閃きがあるのでしょう。しかし、私を含め、秀才の道しかない大半の人たちにとって、この研究結果はかなり心強い味方になります。

ちなみに私にも思い当たる節があります。
私は理屈や数字で企画案を提出するマーケティング・コンサルタントですから、クライアントをはじめ、他人には「理屈屋」と映るのは当然です。
しかし、実際に自分の行動や思考を丹念に追いかけていくと、次の4つのステップを辿っているのが分かります。

●まずピンと来る戦略や分析結果が頭に浮かぶ
●それを理論や数字で検証してみる(イメージ的にはピン来た発想から下におろして着地点を探る感じ)
●理論の組み立てに無理がなければ、ピンときたものは正しいとして企画書に書く(着地点を単体で見て、納得がいくものかどうかが合格判定)
●理論的な矛盾や穴が出てきたら、そのピンときた発想は却下。新たにピンと来るものを探す

「シストラット・リサーチ十ヶ条」の第五条

「5. データで積み上げたマーケティングは失敗する」

を設けたのはその現れでもあります。

頭を柔らかくし、刺激を与える

縦棒と横棒が出来上がったら、これを組み合わせます。

「縦棒で頭を柔らかくする準備をし、横棒で刺激を与える」

これが「T型人間」の基本形です。

このことは、様々な分野で言われています。
例えば、ゲーム業界。
業界で有名なクリエータと呼ばれる人たちの多くは、ゲーム業界に憧れる若い人たちに「ゲームしか知らない人間にはゲームは作れない」と警鐘を鳴らしています。暗に「ゲーム開発の専門学校に行ったからって、使いものになるかどうかは別問題だ」ということを言っている。

確かに、ゲームはプログラム・コーディングのテクニックやコンピュータ・グラフィックスをプレイヤーに見せている訳ではありません。
ゲームを楽しむリズム感や爽快感だったり、ストーリーだったりがプレイヤーを引きずり込むのです。
プログラムや華麗なグラフィックスはあくまでも、それらを運ぶ「媒体」に過ぎません。

さて、「T型人間」だけでも十分「発想の転換」「発想を広げる」ことができます。
しかし、残念なことに、時代は変わるし競争もあります。
「T」の縦棒が1本しかないと、時代に取り残されたものにしか詳しくないということになりかねません。
また、自分より詳しい人が出現してきた時に「自信喪失」になりかねない。

そこで、保険が必要になってきます。
これが「T型人間」の発展系である「π型人間」です。
トップクラス2.8%に所属するものを2つ作っておく。1つが何らかの理由で使い物にならなくなっても、もうひとつの縦棒で自分を支えることができる。
その間に「T」の横棒の中から、縦棒の候補を選び育てて「π」に戻す。

その2本の対象はどんなものでも結構です。次の章のマトリックスを参考にして探すと効率が良くなります。
しかし、できれば「水と油」のようなまったく相反するものや性質の違うものを選択するといいでしょう。例えば、パソコンのような理数系に関するものと写真のようなアート系のもののような2つだと、まったく異なる価値のある突然変異的な発想が生まれることがあるからです。

縦棒の探し方

この記事の最後に、簡単な縦棒の見つけ方を紹介しましょう。
縦棒は自分の興味のある分野で作ることは理想的です。興味があればあるほど、知識や経験を苦労と思わずに身につけることができるからです。

しかし、残念なことに「自信をつける」という視点から選ぶと「自己満足」で終わってしまっては意味がありません。周囲があなたを認めてくれないと「自信」に繋がらないからです。

例えば「部で1番」の分野が

「ホッチキスの止め方が最もきれい」

といった小さいものだと、自信をつけるには手軽だし取っつきやすいので初心者向けにはオススメですが、需要が小さいので、それを続けていくのは例えば40代のビジネスマンとしては辛いものがあります。

かといって

「必ずヒットする商品企画案を出す」

といった大きな目標を立てたところで、実現はかなり難しい。すくなくとも実現までに何十年もかかるのでは、「自信をつける」意味がなくなってしまいます。

そこで、オススメするのが、それぞれのマトリックスを作って縦棒として強化する分野を決める方法です。
ステップは次の4つです。

●まず、「できること」と「やりたいこと」の2つの軸を作り、それぞれにABCランクをつける
●2つの軸を縦と横にしてマトリックスを作る
●その結果を「求められること」との軸でマトリックスにします。

逐次、説明しましょう。

●「できること」と「やりたいこと」の2つの軸を作り、それぞれにABCランクをつける
●2つの軸を縦と横にしてマトリックスを作る

これは簡単です。エクセルの表を作って3分割すれば9つのセルが出来上がります。
最も左上のセルは「できることAランク」で、かつ「やりたいことAランク」のエリアです。
しかし「できることがAランク」であっても「あまりやりたくない」なら、それは下の表の左下ですから総合「Bランク」です。

できること
A B C
やりたい
こと
A A A B
B A B C
C B C C

あとは、この空白に自分のできることや、やりたいことを記入すれば良いだけです。
「パンフレットを作らせたら一番」「売れる広告を作らせたら右に出るものがない」という目標をそれぞれにプロットしていくのです。

●その結果を「求められること」との軸でマトリックスにします。

下のような表を作って、記入するだけです。これも作業自体は簡単です。

上の表での総合ランク
A B C
求められる
こと
A A A B
B A B C
C B C C

2番目の表でABCが最終的なあなたが目標とする縦棒の分野です。
理想は「できること」「やりたいこと」「求められること」の3つの軸すべてがAランクの「総合Aランク」ですが、そうそう簡単に見つかるものではありません。
「できること」「やりたいこと」がたとえBランクであっても、「求められること」がAランクであれば、「総合Aランク」になれるのです。
せめて総合Bランクから始めてみるのがオススメです。

これまで、「π型人間」のお話をしてきましたが、これは本来バランス感覚を身につけるジェネラリスト的な人間になるための考え方です。
それを発想に応用しようと書いた記事です。

しかし、人の生き方はそれだけではありません。

「偏っているかも知れないけれど、とんでもなく魅力的な人」

も実際に存在しますし、それはそれで否定する気はまったくありません。いや、むしろ、私はそんな人間が好きでもあります。
従って、今回の記事はあくまでも

「発想や視点が詰まってしまった。どうしたらいいか」

という時のカンフル剤にして頂ければ嬉しいです。
頑張ってね。

【使用画像】ホテルトラスティ名古屋
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