■ヒット商品を最初に買う人たち【イノベーター理論-サルにもわかる基礎マーケティング3】

artc201211012よくよく考えたら、本も出しているのに、公式サイトやメルマガでテーマにしていなかったマーケティング理論があります。
イノベーター理論です。
メルマガでサルにもわかるマーケティングシリーズを展開している今、ちょうど良い機会です。弱い企業でもトップ企業に勝つための重要な理論、イノベーター理論の記事をお送りします。

メルマガはイノベーター理論の事例集の宝庫

このメルマガでもイノベーター理論を使った記事はたくさんあります。メルマガブログ版で検索しただけでも、全99本の記事のうち24記事がヒットしました。
メルマガではできるだけマーケティング用語を使わないようにしているので、大半の記事では「イノベーター」という単語は1本あたり1~2個しか出てきませんが、数多く出現する記事もあります。

「■がんばれ!日の丸スマートフォン【スマートフォン】」
はイノベーター理論の中でもストレートにアーリーアダプタに焦点を当てた記事です。

「■ネットブックに虹の彼方が見えるか【ネットブック】」
では「イノベーター」という言葉が35回も出てきます。

「■これもソニーです。It’s a Sonyの秘密【ソニー】」
では9回、

「■iMacよ、どこへ行く-続The Different Story of iMac【iMac】」
では15回も出現します。

パソコンや電子機器だけではありません。

「■男女同権か、いじめか【セクハラ】」
といった社会現象をテーマにした記事でも、9回「イノベーター」が出現しています。

私のメルマガはイノベーター理論ケーススタディの宝庫ともいえます。
実務でも私はイノベーター理論を重視しています。ヒット商品を作るためには、この考え方が欠かせないからです。
従来のイノベーター理論から、オリジナルの「ダブル・イノベーター理論」を作ったほど使い込んでいる理論です。

さて、そんな大切な理論であるイノベーター理論が今回のテーマです。
基本的な考え方はとてもシンプルですから、肩の力を抜いてお楽しみください。

生活者は常に3種類に分けられる

スマートフォン、ファッション、食品、飲料…
どんな商品でも生活者は3つのタイプに分けられます。

●最初に新製品を買う人たち
●それに続く人
●みんなが買い始めてようやく買うようになる一般大衆

そして、それぞれのグループに名前を付けます。

●イノベーター(革新者。人口比約10%)
●アーリーアダプタ(早期受容者。人口比約25%)
●フォロワー(後期受容者。人口比約60%)

イノベーター理論の骨子はこれだけです。
とてもシンプルな考え方でしょ?

artc20130502この3分類が実務的にどんな意味を持つのか。
生活者を分類するだけなら単に知的好奇心を満たすだけで終わります。
でも、ビジネスで使うなら企業にとってメリットがなければなりません。

イノベーター理論が大切なのは、最初に新製品を買うイノベーターの人たちに人気が出れば、その商品がアーリーアダプタを通じて一般大衆に広まっていくからです。
イノベーターは無料のセールスマンとして、商品を周囲にクチコミで広げてくれる人たちなのです。

テレビ広告もいらないし、プレゼントキャンペーンも必要ない。
しかも、10%しか人口がいないので、100%の人口を相手にするより広告費や販促費用が安く済みます。逆に、今までと同じ金額の広告費を使っていても効果は何倍にもなりますから、少ない費用で高い効果があります。

マーケティング経費が抑えられますから、弱い企業でも上位企業と張り合うことができます。売上げが上がってくれば、スーパーやコンビニの取扱店を増やすことでもっともっと売上げが上がる。

費用対効果がとんでもなく良くなるイノベーター理論。下位企業に優しい戦略。これが私がヒット商品を何百個も作る原動力となるのです。

ニンテンドーDSはゲーム好きでない人たちが買った

イノベーター理論を使うことのメリットはここまでにして、まずは、イノベーターの事例を2つ紹介しましょう。
私がよく使う事例のひとつはニンテンドーDSです。

一般的に家庭用ゲーム機のほとんどは

●まずはゲーム好きが買い(=イノベーター)
●次にゲームのライトユーザーが続き(=アーリーアダプタ)
●家族で遊ぶために買われる(=フォロワー)

過程を踏みます。

上から順番にイノベーター、アーリーアダプタ、フォロワーに当たります。
この図式は、古くはファミリーコンピュータから始まり、スーファミ、プレステ、そしてニンテンドーDSの親分だったゲームボーイまで綿々と受け継がれてきました。
これはこれでイノベーター理論を応用した立派な例です。

そりゃ、そうですよね。普通に考えればわかることです。
ゲーム機の発売当初はソフトが数本くらいしかラインナップされていません。もし、そのゲーム機が失敗して、遊びたいソフトが揃わなかったら、生活者は悲惨な目に遭います。

本体2万円、ソフト代5千円だとすると、もし1本しか遊びたいソフトがないと、ゲーム1本あたり25,000円になってしまいます。
根強いファンがいたにせよ、結果的にそうなってしまったゲーム機はたくさんありました。PCエンジン、3DO、ゲームギア、セガサターンなど枚挙にいとまはありません。本体が売れないからソフトも揃わない。遊びたいソフトが少ないから本体も売れない。悪循環です。

でも、遊びたいソフトが10本あれば、合計7万円を10本で割れば1本あたり7千円でゲームを遊ぶことができる。

だから、売れるかどうか、遊びたくなるようなソフトがたくさん発売されるかどうかが分からない、発売当初に新しいゲーム機を買うなんて冒険は、ゲーム好き(イノベーター)でないと無理な相談です。

ニンテンドーDSはどうだったか。
結論からいうと、ニンテンドーDSもイノベーター理論の典型例です。でも、その中身が従来と大きく違っていました。

説明します。
ニンテンドーDSはシリーズ累積3,300万台も売れて大ヒットしました。
しかし、2004年12月に発売されたDSは、5ヶ月後の2005年4月で累積200万台しか売れませんでした。苦戦といってもいい。
例えば、Wiiは2ヶ月で200万台が売れました。DSの3倍のペースです。

発売当初は、キラータイトルの「おいでよ どうぶつの森」も「ポケットモンスター」も発売されていなかったので、仕方がないところもあります。

その不振を救ったのが、みなさんご存じの「脳を鍛える大人のDSトレーニング(通称「脳トレ」)」でした。
2005年5月に発売された脳トレは300万本の大ヒットになり、同年12月に発売された脳トレ2は200万本。なんとシリーズ計で500万本も売れたお化けソフトになったのです。

その結果、DSの販売台数は発売から2年後の2006年12月には、1,400万台に膨れあがりました。
ちなみに、「おいでよ どうぶつの森(300万本)」は脳トレ1の半年後の発売、ポケモン(500万本)は1年4ヶ月後です。

さて、脳トレ1の発売1ヶ月前に200万台しか売れていなかったDSなのに、ソフトが300万本も売れたということは、脳トレを目当てにDSを買った人が大勢いたことになります。

でも、脳トレを買った人たちは従来のゲーム好きではありませんでした。
公開されたデータを利用して説明します。
次の表は2007年当時の週刊ファミ通「読者が選ぶTop20」です。

懐かしい名前がたくさん並んでいます。個人的には4位に「ペルソナ3」や16位に「タクティクス オウガ(なんとスーファミのソフトがトップ20に残っている快挙!)」が入っているのはうれしいのですが、名作中の名作「幻想水滸伝5」が圏外なのは許し難い順位表です…って、個人的な好みを言っても始まりません。

週刊ファミ通のメイン読者はゲーム好きの小学生、中学生です。従来のイノベーターと言って良い人たちです。
表ではわかりやすいように、ニンテンドーDSのソフト3本に★をつけました。

週刊ファミ通「読者が選ぶTop20」2007.2.2~2007.4.5

1位 PS2 ドラゴンクエストVIII空と海と大地と呪われし姫君
2位 PS2 ファイナルファンタジーX
3位 PS2 ファイナルファンタジーXII
4位 PS2 ペルソナ3
5位 DS ★おいでよ どうぶつの森
6位 PS ファイナルファンタジーVII
7位 PS2 テイルズ オブ ジ アース
8位 XBOX360 ブルードラゴン
9位 PS2 グランド・セフト・オート・サンアンドレアス
10位 SS
11位 PS2 モンスターハンター2(ドス)
12位 PS2 龍が如く2
13位 DS ★ポケットモンスターダイヤモンド・パール
14位 Wii ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス
15位 PS2 メタルギアソリッド 3 スネークイーター
16位 SF タクティクス オウガ
17位 DS ★ドラゴンクエスト モンスターズ ジョーカー
18位 PSP モンスターハンター ポータブル2nd
19位 PS2 大神(OKAMI)
20位 PSP モンスターハンターポータブル
【注】PS2=プレイステーション2、PS=プレイステーション、DS=ニンテンドーDS、SS=セガサターン、SF=スーパーファミコン

よくよく見ると、この表に脳トレが入っていません。
脳トレはシリーズ合計で500万本のゲームなのに圏外。一方、300万本を売り上げた「おいでよ どうぶつの森」は5位に入っている。

なぜか。理由は簡単です。
脳トレは週刊ファミ通の読者である、従来のイノベーターに買われていなかったからです。

それでは、いったい誰が売り上げ500万本の脳トレを買ったのか。
週刊ファミ通を読まず、従来はゲームのアーリーアダプタやフォロワーの一部だった「頭の柔らかい30代の大人」です。

そもそも脳トレに火がついたのは、FM放送局J-WAVEの聴取率No1の朝の番組「BOOM TOWN」で紹介されてからです。続いて、「中京テレビニュースプラス1」でも紹介。
2番組とも大人が聴いたり見たりする番組ですから、週刊ファミ通の読者たちとは異質な人たちです。

ではなぜ「頭の柔らかい」がつくのか。
そもそも頭の固い人たち(例えば、偉そうにしているオヤジたち)は「自分の脳を鍛える」という発想がありません。
「おもしろいじゃん」という軽いノリは彼らにはできない芸当です。
実際、脳トレの初期ユーザーは、デザイナーや企画マンなどの「頭の柔らかい」人たちでした。

後に脳トレは普通のおじさん、おばさんにも売れるようになります。
しかも、両親へのプレゼントとしてDSとセットで売られる始末。今までのゲームの常識では考えられない珍現象が起きたのです。

バージニアスリムライト・メンソールのイノベーターは新宿のキャバ嬢

artc201211012次の事例です。
バージニアスリムライト・メンソールは古い例ですが、書籍を執筆する際に実施した調査では20代の若い人たちが「読んでみたい」と回答したテーマだったので、講演や研修ではよく使う事例です。

ちなみに、書籍では担当編集者が「たばこの例は個人的にイヤだ。調査データなんか関係ない」と最後まで反対したので掲載できませんでした。

話を戻します。
バージニアスリムライト・メンソールは女性向けたばことして現在でも人気です。一時期は、女性喫煙者の大半がこのブランドを吸っていました。

バージニアスリムライト・メンソールは1983年に日本で発売されました。現在はバージニア・エスに名称変更されています。
お察しのとおり、「ライト」という単語がついているとおり、本来は「ライトでない」バージョンもあります。また、「メンソール」という単語があるように、「メンソールでない」バージョンもあります。

ただし、それらはすべてアメリカでの話で、日本にはバージニアスリム「ライト」・「メンソール」しかありません。
歴史は古く、アメリカでは1968年に発売されました。
そもそもが、婦人運動に対応した女性ブランドで、アメリカでのキャッチフレーズは

「You’ve Come a Long Way, Baby」
(「長い道のりだったね、お嬢さん」)

でした。
意訳すれば、「女性がたばこを吸うなんてと蔑視された時代が長く続いたけど、ようやくそんな時代じゃなくなった。よかったね」です。
(ポスターでは昔の女性との対比で表現しています)

日本発売の1983年といえば、東京ディズニーランドが開園したり、ファミリーコンピュータが発売された年です。というより、1986年から始まったバブル景気の直前と言った方がわかりやすいかも知れません。

このたばこの人気はバブル直前の新宿のキャバクラ嬢から火がつきました。
そして、一般女性にまで広がったブランドです。
キャバクラ嬢から一般女性というとちょっと奇異な感じがします。今でこそ、女子高生の「なりたい職業1位」はキャバクラ嬢ですが、当時は「水商売の女」でしたから、一般女性が嫌がるイメージの上位です。
「夜の女性が吸っているたばこなんて、自分もそう見られるかも知れないからイヤだ」です。

からくりはこうです。
まずは種まきの段階です。
元々、バージニアスリムライト・メンソール(長いので「バージニアスリム」と略します)のメーカー、フィリップモリス社は「夜のたばこ」を作る(専門用語では「位置付ける」「ポジショニング」)のに長けている会社です。

古くはラーク、パーラメントが「夜のたばこ」イメージのブランドでした。長い間「やーさんのラーク、ソープ嬢のパーラメント」と言われてきた「夜のたばこ」の代表選手です。

このイメージは、自然にできたものではなく、フィリップモリス社がクラブのママさんたちに地道にプロモーション活動を続けてきた成果です。
実に、10年近く広告もせずに、プロモーションだけで販売促進をしてきた記録があります(たばこは長らくテレビ広告が禁止されてきたことと、テレビ広告を作る予算がなかったことも原因ですが)。

ところが、ラークは007ジェームスボンドにイメチェンしブレイク、パーラメントはニューヨークの夜景のテレビ広告で、一般向けにブランドに昇格しました。そのため「夜の世界のたばこ」が不在になってしまったのです。
そこで、フィリップモリス社が目をつけたのがバージニアスリムでした。

彼らは当時、盛況だったキャバクラに注目。
キャバクラは1984年開店の新宿歌舞伎町「CATS」だと言われていますが、あの業界の常として真偽のほどは確かではありません。
ただ、1980年代半ばから人気が出た業態であることは間違いありません。

フィリップモリス社がスナックでもクラブでもなく、キャバクラにターゲットを決めたのは新しモノ好きの若い女性従業員が多かったからでした。
バージニアスリムは見事にキャバクラ嬢のたばことなり、一番女性に広がっていったのでした。

第2段階は。キャバクラ嬢と一般女性の接点づくりです。
イノベーターであるキャバクラ嬢に人気が出たら、あとは簡単です。フィリップモリス社が特に何もしなくても広がっていきます。

当時のキャバクラ嬢の大半は専業ではありません。昼間はOLさんで夜のバイトが大半でした。だから「(素人女性なので)3回通えばデートができる」がキャバクラのキャッチフレーズでした。

その彼女たちですが、お金はたくさんあるからファッションにも贅沢ができます。当時はDCブランドが花盛り。お金をかければかけるほど「おしゃれ」と言われた時代です。
そんな格好の彼女たちがキャバクラが休みの日に、当時、流行の最先端だった六本木や麻布のカフェバーに一人でお酒を飲みに行く。
でも、一般人から見たら「普通の女性」です。今のようなヘアスタイルを盛った「一目でそれと分かる」格好はしていません。

彼女たちはとんでもなくおしゃれな格好で、一般女性からはあこがれる存在として目に映ります。そして、女性が一人でカクテルを飲んでいる。その指先には見慣れない細くて長いたばこがある。

「あれ何?バージニアスリムというたばこみたい。マネした~い」

これが真相です。

イノベーター理論を使った戦略

イノベーター理論はこのままでは単なる後付け理論に過ぎません。

●ある商品がヒットした
 ←調べてみたら、イノベーターという新しモノ好きが最初に買っていた。

というだけの話です。
実際、ニンテンドーDSは「偶然」に近い事例です。
色んなゲームを開発し、その中にたまたま脳トレがあり、それがたまたまラジオで取り上げられて、たまたまヒットしました。

そもそも、それまでのゲーム業界では脳トレのような啓蒙・教育系のソフトは売れないというジンクスがあったのですから、脳トレに広告費用も販促費用もかけていなったのが現実でした。

ビジネスとして偶然に頼るのでは心もとない話です。
もし「企業が意図的に」イノベーター理論を使って、商品を一般大衆にまで広げることができれば、大きなメリットがあります。
それこそがイノベーター理論の真骨頂です。

イノベーター理論をマーケティング戦略として体系化したのが「スキミング戦略」です。
スキミング戦略はイノベーターから一般大衆にまで商品が広がる、自然のメカニズムに注目したものです。
「スキミング」とはスキムミルクの名前が示すように「上澄み」の意味です。「生活者の上澄み(=イノベーター)から進出する」戦略です。

「よし、それならば、イノベーターが好きそうな商品を作ってやれば、一般大衆にまで広がるではないか」

という理屈です。
商品開発だけではなく、販促も「イノベーターが好きそうなやり方」をすれば、「(偶然ではなく)企業がコントロールできる」戦略が出来上がります。

よく見かける事例が「トップクラスの性能だけど価格が高い商品を発売し、それが広まったら廉価版を発売する」やり方です。パソコン、クルマ、ファッション、AV機器、食品など例を挙げたらキリがないほどたくさんあります。
イノベーターたちは「気に入れば価格は気にしない」ので、それを応用したやり方です。

バージニアスリムもスキミング戦略の事例です。

●夜のたばこが不在になった
→それなら、それにふさわしいたばこをアメリカ本国から持ってこよう。
→今の「夜のたばこのイノベーターはクラブのホステスでも、スナックの女性従業員でもない。最近、人気が出てきたキャバ嬢だ」。
→若い彼女たちが好きそうなブランドはアメリカ本国にないか。
→バージニアスリムがあるな。若い女性が好きなメンソールだし、普通と違って細長いから、彼女たちの「他の人とは違う」欲求が満たされる。第一、細長いたばこは指が細く見えるので、ファッショナブルで彼女たちが好む傾向にある。

こんな流れで、ターゲットが決まり、それに対応するブランドが決められます。
あとは、フィリップモリス社が過去に実施したパーラメントのノウハウを利用して、新宿歌舞伎町のキャバ嬢にバージニアスリムを広げる販促を実施すればいい。

次の段階ではイノベーターに人気が出てくれば、アーリーアダプタへ橋渡しをする後押しをします。彼女たちが良く行くカフェバーに、バージニアスリムを常備してもらうように営業活動をする。さりげなく店内にポスターを貼ってもらったり、ロゴ入りの灰皿を無料で配布する。

これで、受け皿ができあがり。
おしゃれなイメージがついたらテレビ広告を流し、取り扱い店数を増やし、一般大衆に拡散して売上を伸ばして行くという段取りです。

イノベーターとアーリーアダプタの生活者の行動を踏まえ、用意周到に道筋を作り、環境を整えて、自然と企業の望む方向に進むように導いていく。
これがイノベーター理論を応用した「スキミング戦略」です。

このメルマガでもこういった「自然に相手を導く」工夫をしました。
初期の読者たちは「自分で購読を決めた」わけですが、実は私に誘導されていたという趣旨の記事です。

【参考】■自分自身の舞台裏・「私はこう見る」市場導入戦略【「私はこう見る」メールマガジン】

【参考】読者の声1(手を入れていない古いページなので見づらかったらごめんなさい)
【参考】読者の声2(同じくです)

ゴリ押しのペネトレーション戦略

イノベーター理論を利用したマーケティング戦略とは逆の戦略もあります。
スキミング戦略と対をなすペネトレーション戦略です。イノベーター理論とは真逆ですが、セットで覚えておくと良いので、ここで説明します。

イノベーターは所詮10%しか人口がいません。だったら、生活者の大半を占めるフォロワーを相手にしたほうが売上があがるではないかという理屈の戦略です。
しかも、イノベーターに売って、その後アーリーアダプタにつなげて、ようやく大衆であるフォロワーに広げるのでは時間がかかり過ぎる。もっと手っ取り早く売上を上げないと、社内事情で新商品や新事業が潰されてしまう。

こんな企業ニーズから生まれたのがペネトレーション戦略です。
スキミング戦略が「上澄み」の意味だとすると、ペネトレーション戦略の語源は「浸透」です。一気に大衆に浸透させる戦略という訳です。

この方法の元祖とも言えるのが、インスタントコーヒーのネッスルでした。
ネッスルが日本市場に進出する前の1960年代は戦後5年しか経っていなかったので外貨がなく、インスタントコーヒーの自由化が始まったのが1961年でした。
それまでは森永乳業がシェア50%以上を占める独占状態でした。

自由化とともにネッスルが日本市場に参入。その時に実施したのが大量の広告と、スーパー店頭での大量陳列でした。
フォロワーの性質である「他の人が買っているなら自分も買いたい」心理を利用して、いかにもたくさんの人が買っている演出をしたのです。
シェアは一気に逆転し、現在では森永乳業がインスタントコーヒーを作っていたことを知っている人もほとんどいなくなりました。

最近の例で私がよく使うのは、資生堂TSUBAKIです。
圧倒的なテレビ広告投下量で、一気にシャンプー&リンスのシェアを奪い取ったのはみなさんご存知のとおり。現在、トップシェアです。

ただし、ペネトレーション戦略はスキミング戦略と違い、大きな条件があります。

●一気にたくさんの店に配荷ができ、大量陳列などが可能な「流通支配力」
●一気に広告を大量投下できる「広告資金」

が絶対条件です。

資生堂TSUBAKIは初年度約50億円を広告に投入しました。逆に言えば、50億円くらいの広告費を1つのブランドに出せる企業でないと、ペネトレーション戦略は効果がないのです。

「一気にシェアを稼ぐ」と号令だけは勇ましくても、中途半端に5億円や10億円「しか」捻出できない企業は失敗するだけです。いや、いままでそんな企業が山ほどありました。死屍累々と失敗商品が積み重なるだけ。

●イノベーターに好まれる商品を開発する力
●イノベーターをよく知り、先手を打つことができる企画力

その2つさえあれば実施できるスキミング戦略の方が、よほど企業にやさしい戦略といえます。

よく聞かれるのは「どっちもない企業はどうしたらいいですか?」です。
市場はそんなに甘くありません。
競合企業もやさしくありません。
生活者の目はもっと厳しいです。
私からの回答は「ヒット商品を作るのは諦めてください」です。

余談ですが「スキミング『戦略』」と「ペネトレーション『戦略』」は私が提唱した戦略概念です。オリジナルはランチェスター戦略の「スキミング『プライシング』」と「ペネトレーション『プライシング』」です。

ランチェスター戦略では「スキミング『プライシング』」は「市場参入時に高い価格をつけて、投資の利益を回収してから安い価格をつけること」で、「ペネトレーション『プライシング』」はその逆でした。だから、本来は価格戦略です。

私はその価格戦略の概念を広げて、規格やベネフィットなどの商品全般の設計にも応用し、かつイノベーターや生活者と連動させ、プロダクトライフサイクルにも絡めたマーケティング全般の戦略概念を作りました。これが「スキミング『戦略』」と「ペネトレーション『戦略』」です。

自慢ではなく、オリジナル(ランチェスター戦略)と派生(私)の両方を知っておいた方が、マーケティング現場では恥をかかなくて済みます。

イノベーターはどんな人たちなのか

さて、この章ではイノベーターの人物像を解説します。
まずは「よくある誤解」を説明します。

●イノベーターはマニアとは違う
●イノベーターは女子高生ではない
●各業界で共通するイノベーターはいない

「イノベーターはマニアとは違う」から解説します。
「小さい局地的なヒットが全国ヒットになる」イメージから、イノベーター理論と聞いてマニアを想像する人たちがかなり多いのが現実です。
ちょっとマーケティングを勉強した人たちはロジャースのイノベーター理論で、イノベーターが2.5%の人口しかないところから、やはりマニアを想像してしまいます。
また、「その分野の商品に詳しい人」という共通点があるために、マニアを想像してしまうのも原因の一つです。

マニアとイノベーターは共通する部分は持っているものの、まったく別人です。
私がよく言うのは

「イノベーターは『一般人の心を持ったマニア』」

という言葉です。

マニアの語源はマニアック(maniac)です。この単語を英和辞書で紐解くと「狂気の、狂乱の」です。元々のニュアンスが「常人とは異なる」なのです。だから、口語翻訳では「熱中者」となります。

イノベーターはあくまでも常人です。
ただし、「その分野の商品に詳しい」「熱中することもある」「初期にその商品を買う」がマニアとの共通点です。
例を上げましょう。

「パソコン、何を買ったらいいのかな」
という質問に対して、マニアはこう答えます。
「そりゃ、自作に決まってんじゃん。自作はいいよ。安いし、自分の好きな構成でパソコンを組み立てられるし…あ、簡単だよ。ドライバー1本あれば2~3時間でできるから」

要するに、回答するようでいて自分の価値観を相手に押し付けているだけ。
いや、自分がそれが最良だと信じて疑わないから「押し付ける」意識すらありません。
「ガンダムの話題を振ると2~3時間止まらなくなる」人もマニアです。

一方のイノベーターは

「パソコン、何に使うの?動画?メール?画像加工?
それによって、おすすめが違うんだけど」

とまずは相手の事情を確認しようとします。客観的な意識があるのがイノベーターです。

次に「イノベーターは女子高生ではない」の誤解です。
女子高生はプリクラやお菓子のイノベーターであったことから、「流行=女子高生」という図式が頭にある人が多い。
しかし、女子高生は高額商品には興味が無いので、イノベーターにはなりえません。また、健康意識も低いために、健康関連商品のイノベーターでもありません。
女子高生がイノベーターである分野は限られているのです。

最後の誤解である「各業界で共通するイノベーターはいない」の話題に移ります。
昔はイノベーターといえば「若者」でした。ただし、それが通用したのは団塊の世代までの話です。
当時は「新しいものへの好奇心」は元気のある若者の特権でした。だから、ファミレスや郊外型ショッピングセンターなどを普及させた「ニューファミリー」と呼ばれた団塊の世代がイノベーターだったのです。

しかし、ご存知のように、現在はそんな単純なものではなくなってきています。
お菓子のイノベーターは女子高生ですが、ネットや電子機器のイノベーターは30代男性(特に、独身、技術系)です。インターネット、スマートフォン、SNSのイノベーターは彼らが担っています。

食のイノベーターは年代に関係なく「グルメな人たち」ですし、市販飲料のイノベーターは「外回りのビジネスマン」です。健康飲料・食品・器具のイノベーターは40代の経済的余裕のある人たち。

だから、「一人で様々な業界のイノベーター」は見つかりません。
佐藤さんは電子機器のイノベーターではあるけれど、ファッションはからっきしダメ。田中さんは機械ものは苦手だけどサーフィンは大好きといった具合です。
ただし、すべての分野においてフォロワーという人はたくさん存在します。

そうなると、イノベーターの共通点は何かということになります。
イノベーターの特徴は「知識」「好奇心」「可処分所得」「常識知らず」「自己表現」と5つありますが、ここでは最も大事な「知識」だけを説明します。
イノベーターの最大の特徴は「その商品に詳しくて」「好き」なことです。

パソコンならCPUやメモリの仕組みも分かっており、メーカーや型番についても詳しい。Core i3とCore i7の違いが分かっているだけでなく、周辺機器とのやりとりを司る部品の型番H77とZ77の違いも知っています。

ファッションなら、デザイナーやブランドを良く知っているし、縫製、生地の種類にも詳しい。外食のイノベーターなら、おいしいレストランも良く知っている。
コンビニやスーパーのような一般消費財の場合は、マイナーなブランドも良く知っているし、買ったことがあるブランドも多い。
そして、何より新製品を早い段階で試し買いしている。

それに付随して、イノベーターたちは勘で動きます。いや、「動いているように見えます」が正解です。
気に入る商品と興味がない商品を瞬時に見分け、ふと気が付くと気に入った商品の箱を抱えてレジに並んでいる。
本人も周囲も「勘」といっていますが、実はイノベーターは知識が豊富で自分が好きなモノの基準が分かっているので、超高速で判断しているだけです。

では、茶系飲料については詳しいし、コンビニに並んでいるほとんどのブランドを買ったことがあるけど、コーヒー飲料にはまったく興味がない人はどうか。
彼は「茶系飲料のイノベーターではあるれど、コーヒー飲料はフォロワー」です。

パソコンでハードやネットにメチャクチャ詳しいし、自分でPHPやC+プログラムが組めるけれど、エクセルやワードは使ったことがない人の場合はどうか。
この人もイノベーターですが、パソコン全般ではなく(ビジネス系に対して)ネット系、またはハード系のイノベーターです。

「その分野の商品が好き」なのもイノベーターの特徴です。「好きだからこそ知識も豊富だ」というわけです。
多くのイノベーターたちは気に入った商品に出会うと、「あ、あれ、いる(必要)」という言い方をします。
「欲しい」ではなく「いる(必要)」です。
好きだからこそ「欲しい」ではなく「買わなくてはいけない」と、自分に対して強制する強い表現を使います。

「好きじゃないけど詳しい人」はどうか。
「好きじゃない」と自己申告していても、本当は外見をつくろっているだけの場合が多いのが実情ですから、イノベーターです。
でも、本当に「好きじゃないけど、詳しい人」は存在します。

仕事で仕方なく飲料に詳しくなった。
損をしたくないのでスマートフォンを調べていくうちに詳しくなったけど、好きというわけではない。
健康のことを考えているうちに食品に詳しくなった。

厳密に言えば、こういった人たちはイノベーターではありません。
表向きはイノベーターのような行動をするので、私は一応「なんちゃってイノベーター」と呼んでいます。

もうひとつマニアとイノベーターの違いで大切なことがあります。
それは、イノベーターは「マニアより人口が多め」な人たちという点です。
つまり、マニアが2%~3%の人口しかいないとしたら、イノベーターは6.8%の人口です。

乱暴に言えば、「部内に30人いたら2人~3人いる程度の詳しさの人たち」です。
パソコンなどはそういう「詳しいので、パソコンの相談を受けるような人」って、大抵いますよね。

上に上げたイノベーターの特徴の多くはマニアにも当てはまってしまいます。マニアも好きな商品に「詳しい」し「好き」だからです。
しかし、人口比率を多くして「濃い人たちを薄めて」行けばイノベーターに到達するというわけです。
ただし、本来のイノベーターを見分ける基準は人口比率ではありません。
この方法はあくまでも、簡単に見分ける方法の一つと考えて下さい。

ちなみに、パソコンの場合はIT関連の会社は除きます。彼らのトップ10%に詳しい人たちは世間から見たら「マニアを越えるスーパーマン」ですから。

フォロワーは一般大衆

イノベーターだけの説明では分かりにくいので、続く、アーリーアダプタとフォロワーについてお話しします。セットで覚えておけばイノベーターが理解しやすいからです。

まず、わかりやすいのはイノベーターの対局であるフォロワーです。
別名「一般大衆」で、60%~70%の人口を占める一大勢力です。
この人たちは商品が普及した最後に買う人たちです。
情報にも疎く、買おうと思っても「失敗したらとうしよう」「まだ必要ないかな」と様子見をするのが最大の特徴です。

昔、パソコン教室アビバのテレビ広告で「出世に響くから、オレもそろそろパソコンを買おうかな」とつぶやいたガッツ石松さんが典型的なフォロワー例です。
彼らは「他人と一緒に行動することで、安心感を得る」心理が強い人たちです。心理学で言う「親和欲求が強い」人たち。

アーリーアダプタはイノベーターとフォロワーの中間です。
中間だから、イノベーターとフォロワーを足し上げて2で割る性格かというと、まったく違います。アーリーアダプタはアーリーアダプタで独特の性格を持っています。
それは、製品のベネフィットで動く点です。

イノベーターのように「スペックに詳しいので、スペックを見れば欲しい商品かどうか分かる」「自己満足でも気にしない」わけでもない。フォロワーのように「スペックとかよくわかんないけど、回りの人たちか買い始めたら、それは『いい商品』『自分も買うべき商品』」と他力本願の判断をする訳でもない。

アーリーアダプタは「自分にとって何が得なのか」で商品の購入を判断する人たちです。ある意味、3つのグループ中で最も「利にさとい」人たちです。
私は書籍では「ウケ狙いの人たち」とアーリーアダプタを表現していますが、その基本的な行動原理が「ベネフィット」という訳です。

ちなみに、イノベーター理論と「規格」や「ベネフィット」といったプロダクトコーン理論の要素と繋げたのは私が最初です。
自慢ではありません。時々、「森さんは他の人の理論のパクリだ」と批判されることがあるので、この機会に明記して防衛させてください(^^;

もうひとつの特徴があります。
それは、アーリーアダプタはイノベーターほど良い商品を見極めるチカラがない点です。
だから、アーリーアダプタは自分で商品を探すのではなく、イノベーターが使っている商品から自分の得になるものを選ぶのです。

まとめます。
イノベーター理論のメカニズムはこうやって広がっていきます。

【ステップ1】イノベーターが気に入った商品を見つけてくる

【ステップ2】アーリーアダプタがイノベーターの使う商品から「自分が得すると思うものを選ぶ」

【ステップ3】イノベーターとアーリーアダプタと合わせると、人口比率は3割に及びます。そうなると、フォロワーは「みんな使っている」と錯覚してくれる。そこで、最後の大物グループ、フォロワーが動いて普及が一気に広がる

血液型でいえばこういうイメージです。

●ちょっとおっちょこちょいで憎めないけど、勘でササっと動く「B型」
●お山の大将で人から注目を浴びたいし、「良い悪い」ではなく「好き嫌い」で行動する「O型」
●みんなと一緒で動く良識派だけど、慎重なのでみんなの後から着いていく「A型」

ちなみに、以前、6,000人のアンケート調査で血液型とイノベーターとの相関を調べたことがありましたが、結果は「無関係」でした。血液型の説明は「理解をするためのイメージ」くらいにとどめておいてください。
あ、あと、AB型に対応するグループはありません。AB型の人、ごめんなさい。

加えて、私は各グループの動機に着目して、こんな言い方をすることもあります

●イノベーターは「Have to(~しなければならない)」で動く
●アーリーアダプタは「Nice to Have(~あったらいいな)」で動く
●フォロワーは「Fear not to Have(買わないと恥ずかしい)」で動く

だから、デジタル一眼レフカメラのイノベーターは「撮ってすぐ本社に送れる」報道カメラマンで「Have to」が動機でした。
アーリーアダプタは「趣味の写真のネガもいらないし、写真の保管場所もいらない。第一、フィルム代が不要。そのクセ35ミリフィルムと同じくらいきれい」と考えたハイアマチュア(上級アマチュア)。

デジタル一眼にはまだフォロワーがいません。シニア層や女性層が話題になっていますが、話題が先行しただけで人口はそんなに多くないからです。

デジタル一眼のフォロワーは子供の運動会を撮ったり、家族旅行に持っていく家族層でしょう。しかし、運動会はビデオに座を奪われ、記念写真はコンパクトデジカメや携帯電話のカメラに占拠されています。これから、どうやってフォロワーにまで売り込んでいくのかは今後の課題です。

イノベーター理論とキャズムの違い

もう紙面が尽きました。
最後に、イノベーター理論に関する様々な注意点を列記して、記事を締めくくりましょう。
元々のロジャーズのイノベーター区分とシストラット流の区分の違い。そして、最後にちょっとだけキャズムとの違いを解説して、この記事を終わります。

元々の提唱者であるロジャースは以下の5分類です。

●イノベーター(革新者。人口比約2.5%)
●アーリーアダプター(初期採用者。人口比約13.5%)
●アーリーマジョリティ(前期追随者。人口比約34.0%)
●レイトマジョリティ(後期追随者。人口比約34.0%)
●ラガード(遅滞者。人口比約16.0%)

私は5グループも覚えられないので3つにしています。というのは半分冗談です。
学究分野なら5グループでもいいのですが、実務では細かすぎます。
後ろから着いてくるレイトマジョリティやラガードをターゲットにすることは、マーケティング現場ではほとんどありませんから、この2つはまとめて1つにしても困りません。いや、そもそも忘れてもらってもかまわない。

一方、ロジャースのイノベーターは2.5%の人口しかいません。
2.5%なんて調査誤差です。実務ではこんな小さいグループを相手にしようとすると、調査サンプル数がいくらあっても足りず、調査費用ばかりかさみます。2,000サンプルを取らないと2.5%の人たちが50人いる調査ができないのでは、実務には使えません。
今ならネット調査で2,000サンプルを揃えるのには安く済むようになりました。それでも300サンプルで済むのなら費用的にそれに超したことはありません。浮いたお金を別の調査に使った方が賢いというモノです。
従って、ロジャースのイノベーターは単独のグループとして扱うには、実務で無理があります。

もうひとつイノベーター2.5%を1つの独立したグループとして扱わない理由があります。
2.5%を私はマニアと呼びます。
彼らをターゲットに設定しても他の人たちに広がらないので(一般大衆への波及効果がない)、実務で相手にするには効率的な戦略を作ることができません。
コスト(記憶する手間や調査費用)と効果(戦略的な波及効果)を考えると、実務では効率が悪いのです。
従って、私は上位2つのグループ(ロジャース版イノベーターとロジャース版アーリーアダプター)をひとつのグループとして扱います。

すると、5つのグループが3つに減り、覚えやすくて、効果的な戦略を作ることができるグループができあがるというわけです。

さらに2つ注意点があります。
ひとつめ。
イノベーター理論を3つに分けているのは私だけです。
ネットで検索をすると3つのグループに分けて定義しているサイトも時々見かけますが、その大半は私からの派生です。
オリジナル理論と実務仕様理論の両方知っておいた方が、マーケティングの現場で恥をかかずに済みます。

ふたつめ。
ロジャースと私のイノベーターの人口構成比の差についてです。
ロジャースのイノベーター2.5%とアーリーアダプター13.5%を足し上げると16%になります。この2つを併せてイノベーターと定義すると、日本では人口が多すぎるのです。
私のイノベーターは10%程度のグループです(正確には産業によって8%~12%の範囲で変化します)。

なぜなら、「1つのグループが他の人たちに影響を与える」グループを調べると、日本の場合どんな産業でも10%程度の人口の集まりの人たちになるからです。
そして、この「10%程度」は電機産業を中心とする様々な業界で「これを超えたらブレイクする」普及ラインと合致しているのです。

逆に言えば、16%を境にブレイクした商品はほとんど見あたりません。理屈と現実がマッチしていないのです。16%をイノベーターとするとつじつまが合わないのです。

しかも、実務でも10%と16%では大きな違いがあります。
イノベーターに普及したあとはアーリーアダプタに生活者(購入者)が移るので、マーケティング戦略を変えないといけません。ターゲットが変わるので当然ですよね。

普及率10%の段階で戦略を変えるのはジャストタイミングですが、普及率16%まで待ってしまうと、戦略対応が遅れてしまいます。現在の競争が激しい市場では、このタイミングの遅れは致命傷になりかねません。

従って、私のイノベーターは考え方はロジャースをもとにしていますが、実際の数字(人口比)は異なるという訳です。

ちなみに、ロジャースの言うイノベーター2.5%は私が言うマニアの2.8%とほぼ同じです(クープマンの目標値で6.8%X41.7%=2.8%)。0.3%なんて誤差の範囲ですから、まったく同じといってよいでしょう。

artc20130502最後に、イノベーター理論の図の作り方も異なります。
ロジャースは統計学の正規分布のような山形の図でイノベーター理論を表現しています。この図だと各グループの人口比はよく分かりますが、イノベーター理論の神髄である「イノベーターから一般大衆に広がる」イメージはわきにくい。
従って、私は三角形でそれが一目でわかるように改良しています。

キャズムという用語が一時期流行りました。
同名タイトルの本が売れたからです。
内容はイノベーター理論とほぼ同じですが、趣旨としては「普及する初期にはキャズム(溝)があり、それを乗り越えないといけない」というものです。

キャズムは、特にIT関係の人たちに浸透した概念です。
その理由はキャズムで紹介されていた事例の大半が、「オラクルのデータベース」といった、IT関連の事例だったからです。

ところが、これが一般商品分野で応用するのにアダになります。
「オラクルのデータベースがフォロワーに普及した」といっても、全人口から見たらマニアより小さい0.1%といった普及率です。
キャズムは「IT専用のイノベーター理論」だと思っていれば間違いありません。

というのも、キャズムが指摘する「溝」はイノベーター理論でもあるからです。
それは、イノベーターからアーリーアダプタに移るのに時々失敗するからです。一般的な商品の場合、それを「ブーム」と呼びます。

イノベーター理論はもっと活用できる

「それでは、企業はみんなイノベーター理論を使えばいいじゃないか」

そのとおりです。
しかし、実際にきちんとイノベーターを理解して、イノベーター理論を実践している企業は多くありません。

企業が勉強不足という理由もあります。
イノベーターはある種「扱いが難しい人たち」なので、そうそう簡単に企業になびいてくれないのも理由です。
生活者が分かっていないので、イノベーターが好む商品を開発することができないのも大きな理由のひとつです。
また、イノベーターは10%しかいないので、
「少数の人たちしか相手にしない=売り上げが少ない」
イメージから抜け出せないのも理由です。

「生活者不在」「生活者に向いたマーケティング」ができない企業が、そう簡単にイノベーターに向き合えるハズもありません。

ただし、一旦、イノベーターが企業の味方をしてくれれば、こんなに頼もしい人たちはいません。
「サルにもわかる基礎マーケティングシリーズ」の第1回
「■ターゲット設定とは『買って欲しくない人を決めること』」
と併せて、ぜひぜひ活用してください。

【使用画像】http://passtell.jp/signature


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■サルにもわかる基礎マーケティング・シリーズ・リスト【進行中】

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