■ターゲット設定とは「買って欲しくない人を決めること」 【ターゲット設定-サルにもわかる基礎マーケティング1】

artc201211012まじめなマーケティング解説記事です。
元々、書籍用に書いた原稿ですが修正しているうちに自分が眠くなったので、「メルマガのノリで」全編、書き直してみました。
シンプルマーケティングのコピペはありません。
「シンプルマーケティングよりもわかりやすい」が目標です。

【この原稿は元々、数年前に書籍用に執筆したものです。コンセプトは「シンプルマーケティングより読みやすい教科書」。
ところが、事例などを修正しているうちに眠くなってきました。
このままではいかんとメルマガのノリで書き直したところ、学生さんや美術の先生たちの評判がよかったので、メルマガの記事に組み込むことにしました。
評判が良ければシリーズ化する予定で、すでにDAGMAR理論と価格理論の記事は執筆済みです。
従来の記事とはちょっとトーンが違いますが、楽しんでください】

ターゲットを決めるなんて面倒くさい

マーケティングの教科書を読むと必ず「ターゲットを決めろ」と書かれています。
かくいう私も著書「シンプルマーケティング」では堂々と書いていました。
でも、こんなことをつぶやく人がいてもおかしくありません。

「それでは、小型、中型、大型と大きさを3つにしたり、大衆的な安さ、中間、高級機と価格で分けたりすればいいじゃないか」

という反論もあるでしょう。
それらを全部取り揃えていたら、1社で何10種類もの掃除機を作らないといけません。

いや、作ることは簡単です。
でも、問題はその先です。
1社で何10種類もの掃除機を作ってもビックカメラなどの量販店の売り場に全部並べることはできません。大抵の業界では競争相手がいるからです。
例えば、家電メーカーは海外メーカーを含めれば何10社もあります。店側としては、売り場にも家賃がかかりますから、限られた売り場面積の中でメーカーを選別しないといけません。

1社で何10種類も作っても売り場に並べられない。
売り場になければ生活者が買うチャンスがなくなります。
その結果、在庫がかさみます。倉庫も膨大な広さが必要になります。
多くの数を作らないとコストは下がりませんから、売価が割高になります。
広告も何10種類も作らなければなりません。
とても非効率なのは一目瞭然です。

そもそも、1社独占なら何種類も作る必要はありません。
そこの会社の商品しかないのだから、わざわざ何種類も作ってコスト高になる必要はありません。

さて、IT系のソフトならどうでしょう。アンチウィルスソフトやスマートフォンのアプリ、電子書籍などなら問題ないのでしょうか。
ロングテールが話題にもなったし、たくさんの商品を作っても売り場はサーバーなので、家電のような制限はありません。サイトだって何10ページ作ってもいいから、並べる商品数は無制限です。

ところが、IT系商品でも売り場制限はあります。
それは、生活者の時間です。
どういうことか。
生活者は何10万種類のソフトがあったとしても全部を見る時間なんてありません。
平均的には1時間閲覧すればいい方です。
その時間内に見ることができる商品の中に自社が開発したソフトやアプリが入ってくれなければ、売り場に並ばないのと同じなのです。
ロングテール理論はあくまでも流通側の論理であって、生活者の視点はまったく含まれていません。

検索したときに上位に表示されるようにサイトに工夫する(SEO対策と呼ばれます)のは生活者の時間が限られているからです。
また、楽天やアマゾンなどの通販サイトで「オススメリスト」「その商品を買った人は、こんな商品も買っています」と表示されるのも、「生活者の時間が有限」だからに他なりません。

「生活者の時間が有限でもサーバーに置いておけば倉庫代はいりません。いつか売れるかも知れない」
しかし、売れないソフトやアプリをいくら作っても開発費を回収するのに時間ばかりかかります。その間に、もっと売上げがあるものを作った方が賢い。
企業の開発陣も資金も時間も有限なのです。

結局の所、ターゲットを決めないと仕様が手探りになり、ヒット商品を作るのに時間と費用がかさむ。
ターゲットを設定するということは、効率よく売れる商品を作る第一歩となるのです。

まとめます。
ターゲットが必要なケースとは

●競合がたくさんいて、似たような商品がたくさんあること

ただ1点です。

つまり、現在の日本のほとんどの業界がこのケースに当てはまってしまうという訳です。

ビアンはターゲットになるのか

ターゲットといえば色んなやり方があります。
「独身女性のための電化製品」や「料理嫌いな主婦のための調味料」などのように表現されます。

大切なのはどうやって生活者を区切るかです。
上の例では「(男性ではなく)女性」だし「(妻帯者ではなく)独身」というように、性別や未既婚で生活者を区切っています。

ターゲットの手法とは「生活者をどういう基準や視点で区切るか」だと言っても過言ではありません。
そして、「ターゲットを決める」とは「区切ったグループのどれに向けて商品を作ったり、広告を作るのか」ということです。

この章ではターゲットの種類を解説します。

(1)古典的な区切り方-外見による分類(デモグラフィック分類)

外見で生活者を区切るやり方です。ちなみに「デモグラフィック」とは「人口統計学」の意味です。
「年齢」「男女」「未既婚」は誰が見ても客観的に変わりません。

「40代に見える20代男性」「女性よりもきれいな男」「ゲイ(ホモ)」もいますが、事実はあくまでも「20代」「男性」です。
これ以外の尺度としては「年収」「居住地域」「学歴」などがあります。

デモグラフィック分類はマーケティング分野で長らく使われてきて、もはや古典ですが、今でも現役で頑張っています。
「20代男性向けの化粧品」や「ビジネスマン向けのスマートフォン」などがそれに当たります。

ところが、この古典的手法にも限界が出てきました。
ターゲットとはそもそも「同じグループの人間なら(例えば女子高生なら)同じ好みを持ち、同じ商品を買うハズだ」との考え方が前提にあります。
しかし、現代社会では、同じ年代、同じ女性だからといって同じ行動をするとは限りません。

たとえば「オヤジギャル」は「若い女性なのに、中年男性のような行動をする」人たちのことです。でも、同年代でかわいい格好が好きな女子もたくさんいます。
「草食男子」は「若い男なのに、恋愛や性に対してガツガツしない」人たちを指します。一方で、隙があればナンパしようとするチャラ男だって健在です。

女子高生とひとくくりにするのも危険です。今時のミニスカート制服にキャラクターもののストラップの女子高生もいれば、腐女子と呼ばれるアニメやBL(ボーイズラブ=ホモ)小説に没頭する女子高生もいる。はたまた援助交際や合法すれすれのプチ風俗で働く女子高生もいます。

年令の違いだって怪しくなってきました。
歌舞伎に行ったことがあるなら知っているでしょうが、中年に混じって若い女性も結構います。1千万人の人口がある釣りは小学生から老人まで年齢層が幅広い趣味で知られています。
一昔前ならありえなかった「美魔女(アラフォーで若々しいきれいな女性)」もブーム。

自分の職場を眺めてみてください。
同じ会社で、年代が同じなら給料も変わらない。職業も当然同じ。
だけど、ネクタイの好みは様々です。異性の好みも好きな娯楽もファッションもクルマも違う。
共通点といえばせいぜいがスーツとネクタイを着ているくらい。
「30代ビジネスマン」とひとくくりにして「同じ行動を取るハズだ」という前提がいかに無理があるのかを身をもって知っているハズです。

デモグラフィックによる消費者の分類はすでに限界に来ているのです。
にもかかわらず、ほとんどの企業がこの方法をいまだに使っています。
なぜか。

1つは簡単でわかりやすいからです。
「20代女性」と新製品企画書に書くだけで読み手にイメージが出てきます。
社内会議で無駄な時間を費やすことはありません。
でも本当は出席者によってイメージが異なるかも知れません。
本部長はキャバクラ嬢しかイメージできない。部長は「20代女性」といえば自分の娘を想像する。同僚社員は合コンで出会った女性や同僚の社員しか知らない。
大きな企業ほど「20代女性」の多くを占める非常勤雇用のアルバイト女性の姿をイメージできません。
それでも「20代女性」と書けば出席者がすべて納得してくれるのです。

逆に言えば、「20代女性でもこういう種類の人たちをターゲットにします」と説明しようものなら、「(自分の娘を想像して)20代女性といえば●●だろう」と反論が来たり、質問が来たりと面倒なことこの上ありません。
場合によっては「ターゲットがわからない商品なんか発売できるか」と新製品の企画が通らないこともあり得ます。
こんな面倒なことをせずに効率よく企画書を通すにはデモグラフィック分類でのターゲットが最も手っ取り早いのです。

2つめの理由は成功体験による思考の硬直化です。
幹部クラスの40代、50代が若い時はデモグラフィック分類が最も日本人を分類するのに精度が高かったのです。草食男子もいなければガーリーママも存在しませんでした。もっと前だと戦前派、戦中派、戦後派の3種類しかいなかったから年代によって買うものが違っていました。
そんな中で成功して昇格した人たちです。「自分の成功体験が最良の方法」呪縛から逃れられない。

3つ目の理由です。
現実の人間関係でも人を外見で判断する人が多いからです。

「東大卒業だから、すごい人」
「女子高生は考え方が幼稚である」
「田園調布に住んでいるからお嬢さん」
「風俗嬢だから、生活がだらしない」

個人個人の性格や中身を見る前に外見(デモグラフィック分類)で判断してしまう人の多いこと多いこと。

社会学ではラベリングと呼ばれ、社会生活を送る人間の生活の知恵です。手っ取り早く相手を値踏みするのに外見(表面的事実)は便利です。
しかし、現代の商品開発や広告ではもう通用しないのは説明したとおり。

普段の生活で内面で他人を理解するクセがついていない人が、仕事だからといって、そう簡単に人間の資質を読みとる技術が身に付くはずもありません。
かくしてデモグラフィック分類でしか他人を見ることができない若い人が企画案を作成し、外見でしか判断できない年寄りが決定します。

4番目の理由です。
社外データがすべてデモグラフィック分類なので、結局デモグラフィック分類が最も整合性を取りやすいからです。
テレビの視聴率や雑誌・新聞の購読者調査は性、年齢、職業などのデータしか入手できません。すると、どの新聞に広告を出すか、いや、そもそも、新聞に出すのか、雑誌に出すのかの判断はデモグラフィック分類でしかできない。
スカートを膝上15cmにして、プチ風俗でバイトをしている女子高生はどの番組を見ているかなんて視聴率データには出てこない。

ネットならどうか。新しいメディアですから新しい考え方でユーザーを区分しているのか。
googleやFacebookは性年齢でユーザーを区分しています。日経BPネット、Gigazineなどのニュースサイトの媒体資料は性年齢の区分です。従来となんら変わりありません。
デモグラフィック分類は古いだけに互換性があります。技術的に古くても使う人間が多いため、それに従わざるを得ないパソコンの世界に似てなくもありません。

(2)ちょっとマシな-人生の段階による分類(ライフステージ分類)

デモグラフィック分類に限界を感じていた人たちが開発したのがライフステージ分類です。
性年令だけでなく、人生の区切りで買うものが変わるハズだという理屈です。
独身時代にはいい加減だった男も結婚したり、子供ができれば家庭を守ろうとする。クルマはスポーツタイプからファミリータイプに、ワンルームから2LDKに変わります。
有職であっても既婚女性は料理を作らないといけない。コンビニ弁当で済ますのではなく、食器や調理器具も買う。洗剤も大容量になる。

子供が小さいうちと成人とでは買うものが変わります。
幼児を抱えている母親は外出もままならず、生活が子ども中心になります。100%果汁なら酸味の強いオレンジを避けてアップルを選ぶ。子どもが食べ物や飲み物で汚すため、デザインより機能や価格優先で衣服を選ぶ。外出できないので通信販売を利用する比率が高い。
子供が女の子か男の子かでも買うものが違うし、一人っ子と5人兄弟姉妹でも買うものが違います。

ライフステージ分類の代表的な区分は次のとおりです。

社会人・独身
社会人・既婚・子どもなし
社会人・末子幼児まで
社会人・末子小学校低学年~中学生まで
社会人・末子高校生~大学生まで
社会人・末子社会人

リストを見て分かるように、ライフステージ分類はデモグラフィック分類をベースに改善(細かく)したものです。

デモグラフィック分類よりもライフステージ分類の方が商品を選ぶ時の差が出ます。
特に、家族の存在が大きい調味料、住宅、保険も、生活用品産業にとっては大切な基準です。

しかし、ここにも穴があります。
ライフステージの節目でも生活習慣を変えない生活者たちが増えてきたからです。
結婚しても子供ができても独身時代と変わらない生活をする人たちが多くなったのです。

ギャルママは小さい子供がいるのにギャルの格好をしてネイルもキラキラ。膝上15cmのミニスカートに身を包み、キャラクターものの携帯ストラップを何本もつけています。
最近はギャルママの一般版であるガーリーママも登場しています。
教育価値観も変わりました。子供が受験の年頃になっても「学歴がすべてではない」と子供の自由にさせる人が増えました。勢い古いタイプの受験家庭のような気の使い方はしなくなる。

ワゴンタイプのクルマはそもそも独身時代から趣味の道具を運ぶために持っている人も多い。
結婚しようが、子供ができようが趣味をあきらめない人も出てきました。
家族が揃って食事をする慣習が少なくなった現在、食品も個人の趣味が大きく反映されるようになってきました。

ライフステージ分類はデモグラフィック分類の進化系ですが、それでも現在の生活者を分類するにはまだ不足です。
別な言い方をすれば住居などの一部の産業を除いて、ライフステージ分類が生活者を反映する指標にはならなくなりつつあります。

(3)現状もっとも正確な-価値観による分類(サイコグラフィック分類)

外見や人生の節目ではなく、生活者個人個人の考え方によって生活者を分けようとする方法が価値観分類です。
「デモグラフィック」に対して「サイコ(心理的)グラフィック」とも呼ばれます。

価値観分類はアメリカの社会学者ダニエル・ヤンケロビッチ博士が提唱しました。
博士によると人間の行動はすべて自分の考え方によって起こされるものであり、その考え方を分類すれば行動も(そして商品の選択も)自然と分類できるという考え方です。

価値観分類では男女も年令も関係ありません。
だから、デモグラフィック分類やライフステージ分類ではあり得ないために無視されてきた、男っぽい女性も女っぽい男性も価値観分類では生活者、ターゲットとして成立します。
前述したガーリーママもオヤジギャルも価値観分類では分類可能です。

例をあげましょう。
2003年に発売されたヘルシア緑茶は発売年に200億円を売る大ヒットとなりました。
当初は40代以上の男性を中心に売れました。しかし、翌年には男女比が反転。愛飲者でもっとも多いのが30代後半と20代前半の女性だったのです。
「年令によって同じ行動をするはず」という考え方をベースとするデモグラフィック分類では、ありえないことです。
従って、デモグラフィック分類では「ターゲットが変わった」という言い方になります。

しかし、価値観分類では安易にそう考えません。
20代女性のうち中年男性と価値観が似ている(あるいは中年男性のうち20代女性と価値観が似ている)層があり、この「男女混合の1つのグループが」ヘルシア緑茶を買ったと考えます。
その共通の考え方とは「健康やダイエットに敏感」という価値観です。

飲料には様々な価値観があります。
のどの渇きを抑えてくれる、気分をリフレッシュする、仕事に集中する、リラックスするなどいくつかの要素があります。
そのうちのひとつ、「健康やダイエットを気にする」価値観をもったグループがおり、彼ら彼女たちがヘルシア緑茶に飛びついたのでした。

デモグラフィック分類に慣れている人たちは一斉に拒否反応を示します。

「そんなバカなことがあるか。若い女性はオヤジを嫌うし、中年男性は若い女性の感性など理解できないはずだ」

ところが、ある調査では「女性の47%が自分はオス化している」と感じているとの結果が出ています。
いわく、「メイクするのが面倒。実際、忙しくなると会社にもすっぴんで行ってしまう」「彼がウジウジ落ち込んでいる時に『いつまでもウザい!』と思う」といった理由です。オヤジギャルの現代版といってもいい。

実はよくよく観察していると、40代中年男性(の一部)と20代女性(の一部)には共通点が多いのです。
グルーブインタビューで、それら2つのグループが同じ嗜好を持っているのをしばしば目撃します。同じコンセプトや広告に反応する。好きな理由も似ている。
調査現場を長年見てきている私たちから言えば、40代男性と20代女性の不倫は至極当たり前の結果です。ちなみに、30代同士は単なる浮気です。

ヤンケロビッチ博士の提唱は価値観といえば生活価値観のことでした。
だから、1つの価値観ですべての業界をカバーできると考えていました。
例えば、先進層、こだわり職人気質、デザイン重視、善良市民といったグループ名がつきます。

しかし、実務では足りません。
生活者は「パソコンにも音楽にも映画にも食品にも」同じ姿勢で生活している訳ではありません。パソコンには先進層でも食品には無頓着という例はいくらでもあるからです。
従って、私は先の飲料の例のように業界別やテーマ別に価値観分類をするようにしています。
外食価値観、買い物価値観、クルマ価値観、飲料価値観、色のある生活価値観などです。
マーケティングはあくまでも「企業のための」ものである限り、「その企業が売っている(売ろうとしている)」商品に焦点を絞った方が使いやすいからです。

また、私はグループのネーミングにあえてデモグラフィック用語を多用します。
価値観分類の欠点のひとつである「外見でしか他人を判断できない人たち」にもわかりやすくする工夫です。

例えば、外食価値観だとこのようなグループ名をつけます。
デモグラフィック用語として「オヤジ」「主婦」といった言葉を使うのが珍しいと言われますし、「価値観分類の基本を無視するな」と叱られる時もあります。
でも、私は学者ではなく実務家です。企業が使いやすくする工夫をするのが私の仕事でもあります。

第1グループ:B級グルメオヤジ
第2グループ:井戸端会議主婦
第3グループ:味一番
第4グループ:料理好き
第5グループ:健康意識が免罪符
第6グループ:無関心

ターゲット像を説明すると「第5グループ:健康意識が免罪符」では、このように記述します。

●その名のとおり、健康意識が強く、外食でも「ヘルシー」「カロリー」などのキーワードに弱い

●ただし、そんなに栄養知識は高くない。「牛丼屋でも、とりあえずサラダを食べておけば安心」や「塩味が薄いのは健康に優しい」と考える程度【注1】。
だから、本格的な「自然食品レストラン」に興味はない。
あくまでも、普段の自分が好きな料理の範疇で「健康に悪くなさそう」なものを選択する。

●普段の不摂生に対する免罪符として健康意識を利用している。要するに「昨日寝不足だったから、とりあえず野菜ジュースを飲んでおこう」意識である。

●高学歴で30代のOLやビジネスマンが多い。

●ファーストフードはマクドナルドより、モスバーガーやフレッシュネスバーガーが好き。
コーヒーはドトールよりスターバックス。
市販品だと野菜ジュースや乳酸菌飲料を一日1本を飲むようにしている。普段の飲料は天然水や茶系飲料。

(【注1】自然食品などの知識が高い層は存在するが、人口的な塊として小さいので、統計処理をしても独立したグループとして出てこない)

「あー、こんな人、身近にいるね」と言われたら成功です。
「20代独身女性」という単語ほどのわかりやすさはないけれど、「小説の人物像」的なわかりやすさは他の手法を大きく上回ります。
この方法だと企画部署はもちろん研究部門や営業部門、広告部門の人たちにもターゲットの人物像が想像しやすいのが利点です。
近年、注目されているペルソナという手法は価値観分析の一種です。

ちなみに、これらの分類は勝手に想像で分けるのではなく、アンケート調査をベースに分析します。従って、きちんとした数字の裏付けがあります。

価値観分類の欠点

一見、万能に見える価値観分類ですが、欠点もあります。
その多くはデモグラフィック分類と反対の関係です。

●デモグラフィック分類より集計方法が複雑になるため、金と時間が余計にかかります。これらは企業が最も嫌う2大要素です。

●理解できる人が限られるので、社内説得がやりにくい。
「オヤジと20代OLで共通の価値観を持つ層がいる」なんて言っても、普通は「そんなバカなことあるか」と頭の固い上司に叱られたり、「オレは女子高生の方が好きだな」と妙な会話になってしまいます(実話です)。

●テレビや雑誌の視聴率などの外部調査が同じ項目で消費者を分類していないため、自社の実施した調査でしかデータが得られない。
(逆に言えば、自社しかもっていない強みともなりますが)

●価値観分類のノウハウをきちんと持っている調査会社やマーケターが少ない。
過去に実施したと言われる価値観分析の報告書を見ると、たった10数問の質問で価値観分析を統計的に処理していることが最も多い例です。こんな荒っぽいやり方では実態に近い生活者分類はできません。

最後の点は追加の解説が必要です。
企業が知りたい細部のことについてしか聞かれていない価値観質問ばかりなのが、上記の次、2番目に多い例。
例えば、スマートフォンのスペックについてしか聞かずに価値観分析をしている例もありました。
スマートフォンの購入者はスペックばかりを気にしている訳ではありません。
地図の使いやすさ、デザインの好き嫌い、メーカーイメージなど、様々な周辺要素を気にする人たちもたくさんいます。
数からいえばそういう人たちの方が圧倒的に多い。
しかし、マニアックな質問ばかりの調査では「スペック以外を選択基準とする」人たちの存在が「いない」という結果になってしまいます。

かつて、価値観分類は「ライフスタイル分析」と呼ばれ、企業の中でブームになったことがありました。
しかし、価値観分析の手法がいい加減に適用されたり、価値観さえ把握すればすべてのマーケティング活動に答えが出るといった間違った解釈をされて、ブームは去りました。
本来は「ライフ(=生きる)・スタイル(=やり方)=生き方、生きざま=価値観」という概念のはずが、「カーテンの色が変わったから、ライフスタイルが変わった」などと表層的な意味合いで雑誌などに使われるようになってしまったのが原因です。

(4)競合ユーザーによる分類(競合ユーザー分類)

実務でよく使われているものに、デモグラフィック分類でもライフステージ分類でもない、「その商品を良く買っている人たち」による分類があります。
「競合ユーザー分類」と呼ばれます。

iPhoneとアンドロイドスマートフォンのユーザーを分けたり、ユニクロとH&Mを買う人たちを分けたりする手法です。
商品開発の企画書でも「発泡酒を飲む人たちをターゲットとしたビール」といったような記述になります。

競合ユーザー分類は年令も関係ありません。性別も未既婚も関係ない。
ただ1点、そのブランドを買う人たちです。
しかも、企業ではわかりやすいことこの上ない。
「20代女性をターゲットとします」というより「わが社最大の競合であるバージニア・スリムを購入するターゲットを潰すには…」と企画書に書いた方が社内の通りが良いし、士気の向上にも繋がります。

競合ユーザー分類の最大の特徴はわかりやすいことです。
デモグラフィック分類よりもわかりやすい。
大きな企業の場合、数百人、数千人といった末端の営業マンにもわかりやすくないと企業活動の舵が取れません。競合ユーザー分類はそういった側面からも重宝されます。
競合の激しい市場の場合、競合ユーザー分類は最も手っ取り早いターゲットの決め方です。

いいことづくめに見える競合ユーザー分類ですが、欠点も多く抱えています。
その最大の問題点は競合のユーザーが同じ理由でその商品を買っているかが保証できない点です。
例をあげて説明します。

クルマのベンツを買う人にはいくつも種類がいます。

●ベンツの機能をきちんと評価してベンツを選んだ人。クルマ好きといってもいい。

●ベンツによって家族を守りたい人。ベンツの持つ剛性は事故から身を守るのに最適であると考える。

●自慢をしたい人。自分は「ベンツを持っているほど、すごい人間なのだ」と周囲に誇示する。逆に言えば、自分に自信がないからベンツの威光を借りる。

●ベンツくらい持っていないと周囲がうるさいと感じる人。自分はベンツには興味がないし、持つ必要性も感じないが、周囲がそうでないと納得しない。大企業の経営者など社会的な立場が高い人が多い。「ベンツの威光を借りる」のではなく「自分にベンツを合わせる」意識。

ベンツひとつをとってもこれだけの種類のユーザーがいるのだから、これらすべてをひとまとめにして「ベンツのユーザー」として生活者像を語ったところで、収入が高いこと以外、何も見えてきません。

同じ事は「mixiを使っている若い女性」と「Facebookに登録している若い女性」といった比較、「iPhone所有者」対「Andoroid所有者」の比較にも言えます。
それぞれの2つの層をいくら分析しても、多少の違いや表層的な差は出たとしても、本質的なところは何もわかりません。

ましてや、時代やユーザーが急激に変化する業界では使い物にならない。
twitterは初期の頃はパソコン通信やmixiを最初に広めた「新しいもの好き」な人たちがユーザーの多くを占めていました。具体的には30代独身男性です。
しかし、1年も待たずして女子高生や大学生の巣窟となりました。

スマートフォンの通信手段LINEも2011年6月に登場して以来、10ヶ月後の2012年8月には国内で2,800万人にも普及しています。普及率が約30%にもなりました。
こんな変化が激しいものをテーマにユーザーを分類したところで企業活動に使えません。
「激しい時代に対応できる企業力が生き残りの条件」などと言われますが、これは無理難題というものです。アップルですら対応できない理想論です。

競合ユーザー分類のもう一つの欠点は、企業が競合と思っている相手が本当に競合なのかどうかがわからないという点です。
本来、競合の関係にあるということは、生活者がラークを買うかキャビンを買うかで迷うという現象があって初めていえることです。
しかし、大半の企業は「価格帯が同じだから競合」「おしゃれというイメージが同じだから競合」「購入者の性・年代が同じだから競合」 というように安易に競合関係を決めています。
現実は、そうではないことはいくらでもあります。

●「価格帯が同じだから競合」
ユニクロとH&Mは「低価格衣料」「ファストファッション」ということで競合だと思われている節があります。
でも、顧客層はまったく違います。
ユニクロは機能性や基本機能重視の顧客が多く、H&Mはファッション性を重視する顧客が多いのが現実です。
「ユニクロにしようか、H&Mがいいかな」と迷う生活者は皆さんが思っているより少ないのです。

●「おしゃれというイメージが同じだから競合」
「おしゃれ」という言葉ほど幅の広いものはありません。
シャネルはおしゃれです。一方、古着ファッションもおしゃれです。では、シャネルと古着は競合か。違いますよね。
高級感、親しみやすい、若々しいなどもその類です。

●「購入者の性・年代が同じだから競合」
ここまで読んだ読者ならもうおわかりでしょう。
膝上16cmのミニスカートに今時のメイクの女子高生と、化粧といえばにきび予防のクレアラシルしか使わない女子高生とでは買うものは異なって当然です。一緒に論じることはナンセンス。

以上見てきたように、競合ユーザー分類は取り扱いが難しいのです。それでも、安易に競合ユーザー分類を使う企業が後をたちません。

ターゲット設定とは「買って欲しくない人を決めること」

さて、ターゲットの種類について説明したところで、次はターゲットをどう決めるかです。

「え?買って欲しい人をターゲットにすればいいんじゃないの?」

という疑問がわいて当然です。
わざわざ、字数を使って説明するほどのものではないと思う方も多いでしょう。
そこに落とし穴があります。

企業担当者が「せっかく商品を作ったのだから、1個でも多く売れて欲しい」と思うのは良く分かります。
それがアダとなって、こんなターゲット設定をしてしまいます。

「メインターゲットは20代から50代男女。」
「メインターゲットは20代から40代男性。サブターゲットは女性」

一番目も二番目もよく考えると、「ターゲットは全員」と言っても良いくらいに設定範囲が広い。
一番目は「10代と60歳以上以外はすべて」です。いくら日本が高齢化社会だからといっても、これではターゲットとは言えません。
二番目も「メイン」と「サブ」の表現でごまかしていますが、要するに「女性全部と働き盛りの男性」ということです。人口比率にして75%程度でしょうか。

こんなターゲット設定をするから、広告のキャラクターは「全国民に人気のあるタレント」となり、「老若男女に受ける無難なゆるキャラ」になってしまうのです。
パッケージデザインも無難、広告コピーも無難、販促プロモーションも無難。

結局、

「毒にも薬にもならない、十把一絡げ」

の商品ができあがります。
もちろん個性がないから売れない。

みんなに好かれようとして、結局誰にも好かれない。
「そういえば、鈴木っていたね。悪いヤツじゃないし成績も中間だったけど、なんか影が薄いヤツだったなあ」と学友が集まった席で言われるような人はクラスに何人か必ずいるものですが、そんな商品になってしまう。

だから、私がよくアドバイスするのは

「買って欲しくない人はどんな人ですか?」

と自問自答することです。
もちろん「そんな人はいません」は回答として認めません。

無理にでもいい。「買って欲しくない人」をキチンとイメージすることで、ターゲット像が明らかになるのです。
ターゲットが明確になれば商品や広告の個性も出てくる。
スーパーの棚に並ぶいくつもの競合商品と違うことが生活者にも伝わる。

ただし、どこかの経営者のようにツイッターで

「イヤならガストに行け」や
「送料が払いたくなければ、二度とうちの通販で洋服を買うな」

などと罵倒してはいけません。

普通のメーカーなら直接、生活者と対話することはありませんから、「社内での気持ちをひとつの方向に向ける」ことができれば良いわけです。
そのことが、自然と生活者に伝わる。
「あ、この商品は自分向けなんだ」と思ってもらう。
ターゲットを決めることは、これが大切なのです。

ちなみに、「買って欲しくない人たち」は多すぎても少なすぎてもいけません。
ターゲット規模は人口比率で少なくて10%、多くて40%が適切ですから、その範囲に収まらないといけません。理由はクープマンの目標値で説明できますが、ややこしいので別な機会に譲ります。

また「買って欲しくない人たちは『この商品が好きでない人たち』」といった、堂々巡りの回答も不可です。
上で説明したような分類方法(性年令や価値観)での説明でないと、ターゲット像が浮かび上がってこないからです。

ターゲット設定に相性がいい、イノベーター理論

イノベーターとは「ヒット商品を最初に買う人たち」です。
だから、「誰がイノベーターなのか」を探し、彼らをターゲットにするのが最も効果的です。
イノベーターに売れると、無料のセールスマンになって周りに広げてくれるからです。

さて、今回の誌面が尽きました。続きは別の機会に譲ります。

【後日談】ということで続きのイノベーター理論の記事を書きました。併せて読むと、より理解が深まります。ご一読ください。
■ヒット商品を最初に買う人たち【イノベーター理論-サルにもわかる基礎マーケティング3】
2013年5月23日/

【使用画像】http://passtell.jp/
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■サルにもわかる基礎マーケティング・シリーズ・リスト【進行中】

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