■パルプンテとメタルスライムはルーラの彼方に消える【ネットRPG】

artc20121201今回はドラクエの皮(タイトル)をかぶったFF11のお話です。
ネットゲームのドラクエ10が開始されたのと、FF11が10周年を迎えたので、格好のタイミングと記事を書きました。
テーマがテーマなので、興味のない方はすっ飛ばして、次回の記事にご期待下さい。
10年前の第一弾はこちらです。■オンラインゲームの行方【ファイナルファンタジー11】2002年11月1日

■ドラクエ10見参!

ドラゴンクエストといえば和製RPGのトップに君臨するゲームです。
そのドラクエに10代目の新作が発売されました。ドラクエ10。
今回も客が殺到するのか。量販店に行列ができるのか。
ゲーム好きの私としては観察せざるを得ない作品でした。

このドラクエ新作、普通のゲームではありません。
ネットにつないで数10万人のユーザーとともに遊ぶネットゲームです。
MMORPG(MMO<大人数が同時に遊ぶ>RPGですが、この記事ではネットRPGといいます)と呼ばれるタイプのゲームで、モバゲーやグリーが提供しているネットで遊ぶ釣りゲーム、占いなどとは違います。
発売前からネットRPGを知っているドラクエファンの間では賛否両論。

素直に新作が出ることを喜ぶファンもいれば、ドラクエはネットゲームになったらドラクエではないとする保守派。ネットRPGで新しいドラクエが楽しめるとする革新派。様々な意見が入り交じりつつも、注目を浴びた作品だったのです。

そして、ついに2012年8月、サービスがスタートしました。
販売店には前日徹夜組も現れ、大盛況でした。
予約数は約10万本。固唾を飲んで見守った販売数量は1ヶ月後には約30万本という大ヒットを記録しました。

「えっ?ドラクエって400万本とか売るゲームじゃなかったっけ?
ケタが足りないんじゃ?」

と言ってはいけません。

ネットゲームで30万本は化け物です。
最大のヒット作ファイナルファンタジー11(以下FF11)は2年間で50万本を達成したくらいですから、どう見ても立派なヒットです。

数字は公表されていませんが、今までリリースされた「信長の野望」「女神転生」「大航海時代」「フロントミッション」など、オフラインで名作と言われるソフトのネットゲーム版はそこまでの売上げはありません。

さすがドラクエです。

…と言いたいところですが、しょせん30万本は30万本。
普及率でいえば0.3%しかありませんから、狭いマニア世界の中での「大ヒット」です。
ドラクエだからネットゲームの壁を破って、ついにネットRPGが市民権を得るのかどうか注目していた私から見ると肩すかしをくらった気分です。

ただ、ネットRPGにありがちな複雑で時間をかけないと遊べないようにしている他の作品と異なり、ドラクエ10は初心者に優しくする工夫が随所に設けられています。
子供に配慮した「キッズタイム」も設けました。

それよりなにより、FF11で10年間のノウハウをばっちりと蓄えたスクウェア・エニックス(以下スクエニ)の作品です。
もしかしたら、一度でも遊んだ人たちの高い評価がクチコミで広がり、30万本が50万、100万と増殖するかもしれません。

ということで、ドラクエ10のAmazonのレビューを覗いてみました。
855件のカスタマーレビューの内訳は…(2012年10月6日現在)

評価 人数 比率
星5つ 130人 15.2%
星4つ 133人 15.6%
星3つ 110人 12.9%
星2つ 96人 11.2%
星1つ 387人 45.3%

むむ…星1つが半分を占めています。星5つはたった7人に1人…

いや、なんかの間違いですよね。10年もの長きにわたってFF11を運営してノウハウがたくさんたまっているスクエニですもの(^^;
一時期はスクエニの利益の半分をたたき出していたFF11の会社ですもの。
こんな低評価なんてあり得ない。

気を取り直して、FF11の後継作品のFF14のAmazonのレビューは…
307件のカスタマーレビューの内訳は…(2012年10月25日現在)

評価 人数 比率
星5つ 22人 7.2%
星4つ 28人 9.1%
星3つ 27人 8.8%
星2つ 30人 9.8%
星1つ 200人 65.2%

…いや、なんかの間違いですよね(^^;
ドラクエ10もFF14もネットゲームですから売っておしまいではありません。
アップデートで中身はどんどん進化します。
つい先月もドラクエ10では最初の大規模アップデートが実施されたばかりですから、「10年間はサービスを続けたい」とスクエニが宣言しているので、まだまだゲームの内容は変わるのでしょう。

さて、私は2002年11月号付けでFF11をテーマにした記事を発表しました。
サービス開始直後のことです。
あれから10年。いまだにFF11を続けています。古株中の古株になってしまいました。
サービス開始の頃に友人になった人たち200人のうち、残っているのはたった2人。
友人からは「森さんまだやってるの?知り合いで残っている人なんて一人もいないよ」と呆れられる始末。

プレステ2とパソコンを使い、メインキャラとセカンドキャラの2人を同時に操作し、レベル上げも頑張りました。
現在、メインキャラもセカンドキャラも全20ジョブのうち19ジョブは最大値のレベル99。
レベル上げが簡単になった今なら全ジョブ最大レベルは珍しくもありませんが、レベル75キャップの時はメイン、セカンド合わせて全40ジョブのうち34ジョブがレベル75でした。

メインキャラもセカンドキャラも武器スキルは15個の武器のうち14個が最大値。
魔法スキル12個のうち11個が最大値。
合成は調理レベル99、木工59、錬金術60、裁縫60。
見る人が見れば頑張っているのが分かる状態です。

現実の仕事もきちんとこなしているので、それ以外のコンテンツはさっぱりです。
ちょっと古株ならほとんどのプレーヤーが経験している裏世界、空の四神などは一度も行ったことがありません。
高価な武器装備を落とす中ボスモンスター(以下「NMボス」と呼びます)の戦闘もほとんど経験ありません。
特殊な戦闘の入場券となる印章は7千枚も残っています。
ゲーム内の友人たちからは「レベル上げバカ」と呼ばれています。

そんな私のFF11経験をまとめることで、ドラクエ10をこれから始める人の参考にならないかと記事を書くことにしました。
同じスクエニが10年の経験を学習している訳ですから、その学習内容がドラクエにも反映される可能性が高いからです。

原稿を書き始めたら、普通のメルマガ4本分にもなってしまいました。
そりゃそうです。10年分の経験ですから書くことは多い多い。
しかも、ネットRPGをプレイしたことがない読者の皆さんにも分かるように書くのですから、どうしても解説が増えてしまう。

そこでテーマを絞りました。
「人」です。
プレーヤーがどう感じるか、どう変化するか。
普段のマーケティングでも、私の興味は常に「人」ですし、FF11でも人が絡む限り例外ではありません。
そこで、今回のメルマガは「ネットRPGの中の人」に焦点を当てました。

■プレーヤーの人種が変化する

さて、サービス開始当初はどんな人々がいたのか。
開始当初については2002年11月号で詳しく書きましたので、詳細は割愛します。
簡単に言えば、

「FFの世界観を壊さないように、自分自身も住人の一人として振る舞う」

節度ある大人のプレーヤーが大半でした。
まさに「ロールプレイング(役割を演じる)の世界」です。

だからなのか、親切な人たちばかりでした。

●モンスターと戦ってHPが減り真っ赤になっていると、脇を通り過ぎた人たちからは頼みもしないのに回復魔法が飛んでくる。
●強いモンスターに絡まれて逃げ回っていると助けてくれる。
●チームを組んでモンスターに倒されても、笑って「ドンマイ」と言える。
●「ありがとう」の言葉がこれほど日常的に飛び交う世界を私はFF11初期以外に知りません。

プレステ2に加えてウィンドウズからのプレーヤーが大挙して押し寄せてきた時も同じでした。
FFの世界観を楽しむ人たちが大半。
サービス開始1年後にアメリカ、アジア、ヨーロッパと次々にサービスを拡大。外国人が増えてきたけれど、基本的には変わりませんでした。
一部、マナーが悪い人もいるにはいましたが、大半は「日本びいき」「大人」でした。

「何?お前、日本人のクセにアニメのナルトを知らないだと?
いいか、オレがナルトの魅力を教えてやる」

私はオヤジなので若い人の文化は知らないと言っても、長々とナルトの魅力を語り始める何人もの外国人たち。
日本に留学したことがある外国人。戦後日本に駐屯した経験があるアメリカ人。カタコトで「私、日本語、少し話せます」と話しかけてくるマレーシア人。
チャットで「arigato(ありがとう)」と返してきたので「hey! u speak really nice japanese, dragonstar!!(ドラゴンスターさん、日本語がとてもじょうずですね)」と褒めたら、やたら照れまくるスウェーデン人。

キャラ名も日本語が目立ち、名前だけでは国籍がわからなくなりました。
Hanzo(半蔵)、Nekonohimitsu(猫のヒミツ)、makunouchi(幕の内)などの名前を見ただけでは外国人だとは判別できません。
日本人の多くがHeart(ハート)、Laugh(笑い)、Heloween(ハロウィーン)といった英語名を使うだけになおさらです。

せいぜいが、英語特有の単語や2~3個の単語を繋げた名前で、外国人だと分かるくらいです。Watchyourstep(足元注意-タルタルという小さなキャラを使用)、Dragonslayer(ドラゴン退治)、Ninjastar(忍者スター)等々。

さて、日本人、外国人ともに時が経つに連れ、開始後2年ほどたった頃から異質な人たちが増えてきました。予想どおりです。
イノベーターからフォロワーへの変化です。
異質な人たちの代表は「いかに自分のメリットになるか」を考える人たちです。

●1時間当たりの経験値(効率)をやたら気にするようになる
●経験値が低いチームだと分かったら勝手に戦闘を離脱する。
●知らない他人は助けない。助けられても「ありがとう」の一言もない。
●特殊戦闘(BCNM等)では初心者を敬遠する。

ジョブの役割をまっとうしないプレーヤーも異質な人たちの一種です。
回復役なのにモンスターを殴り続ける。理由を聞くと「回復役は楽しくない(けどワープ魔法を覚えるために仕方なくやっている)」
盾役なのに魔道士たちがモンスターに襲われているのに助けない。理由は「だって死にたくないもん(死ぬと経験値が減ります)」
本人(だけ)はいいのですが、チームが機能しませんからゲームになりません。

「自分から積極的に行動する」のではなく「受け身だが、文句だけは一人前」の人たちも異質です。マーケティング理論でいうフォロワーの悪い部分が出ている。現実社会でもネットでもそういう人種が溢れていますから、あえて説明しません。

ナンパやストーカーも増えました。
そのせいで引退したり、何百時間もかけて育てたキャラを泣く泣く削除して新規キャラを作り直す、サーバーを変えて逃げるなどの防衛策を講じた女性プレーヤーを私は何人も知っています。

それが過熱すると、嫉妬、略奪、策略が出てきます。
その極端な例が、高価な武器装備を落とす可能性があるNMボス狩りです。
戦闘終了後に落とした武器装備をルール無視でかっさらうのは当たり前。
対抗するチーム同士の足の引っ張り合いは日常茶飯事です。
ネット掲示板にあることないこと書き上げて、相手のリーダーや幹部プレーヤーを悪者に仕立て上げる。
事情を知らない一般ユーザーを扇動し、ゲーム内で嫌がらせを繰り返す。
標的となったプレーヤーは結局FF11を引退しなければならなくなります。

考えようによっては、とんでもなく素晴らしい能力です。
何十人ものメンバーを束ねるだけでなく一般大衆を操作し、相手チームの心理的弱点を突き、解散や引退に追いやる。
どうひいき目に見ても、戦略・戦術立案の高度な思考と実行力がないとできることではありません。
リアル社会で起業すればいいのに、もったいないと本気で思います。
尊敬に値します。もちろん、私は関わりたくない人物たちですが…

私が、レベル上げしかしないのはそんな世界に触れたくないからです。
特殊な戦闘をせず、裏世界や空の四神に一切参加しないのはそのせいです。
せっかく冒険の世界を楽しみたいのにドロドロとした世界はごめんです。
過去に何十人ものフレから特定の固定メンバーのお誘いがありましたが、すべてやんわりとお断りしてきました。

「仲の良い友人さえいれば十分ですよ。手伝いならいつでもしますし」

が私の定型文です。

■逆恨みで7年間嫌がらせをする根性

私のように、そんなもめ事との関係を遮断しても巻き込まれることがあります。
前述したセクハラやストーカーもそのひとつです。

金の亡者に巻き込まれることもあります。
一昔前は、ある職人分野は高レベルになると必ず脅迫通信が入ったといいます。
この分野はとてつもなく儲かるので、上位職人数人が協定を結び、新たな人材が入ってこないようにするための脅迫通信だとのこと。

私の場合、ある特定のプレーヤーから7年間毎日嫌がらせを受けています。
7年間毎日、自分の得にもならないおなじ嫌がらせを2,500回も続ける根性は立派です。
私と言えば、二人分で5,000回も嫌がらせを受けていても平気なので、もっと立派ですが(笑)
ちなみに、嫌がらせの原因を探ったことがありますが、逆恨みでした。
2人には会ったことも話したこともありませんでした。

twitterやFacebookでは、ブロックすることで相手の存在を遮断できます。
しかし、FF11では言葉のブロックはできても行動のブロックはできません。
嫌がらせ元のキャラが自分の周りをウロウロしても、視界から消すことはできない。
また、当初はト書きのような表現は例外的にブロックできませんでしたから
「Blackxxxは森のスカートをめくった」
「Blackxxxは森のスカートをめくった」
「…」
が何百回も続いてメッセージウィンドウ一杯になっても止めることができませんでした。
普通の神経ならとっくに参ってしまいますよね。

「本当にこんな人たちばかりなの?」

といぶかる声が聞こえそうです。
全員が全員ではありません。もちろん、気の優しい人もいます。
具体的に人口比率でいえば、とんでもなく変な人2割、(私を含めて)変な人4割、まともな人4割でしょうか。
まともな人が少ない?まあ、一部のSNSよりは多いかも知れませんよ。

FF11には様々な人たちがいます。普通のビジネスマン、学生、主婦。
巷で言われる引きこもりもいます。複雑な心理疾患の病名の人もいます。
FF11が楽しくて気が付いたら会社を首になって、自宅から一歩も出ない廃人と呼ばれる人もいる。

中には私のフレのように、1年間引きこもりをしていたけど一念発起して起業。
中古品売買で初年度の年商が5億円の会社の経営者になっている人もいます。
また、手足がなく口でコントローラを駆使し、見た目はまったく普通の人と変わらないスムースな操作をしている人もいます。彼にとっては、普段の生活では他人と話したり共同作業ができない分、FF11は「初めて友達ができた(彼の言葉)」場所です。

彼らはきちんと他人とのコミュニケーションができますから、バックグラウンドはちょっと変わっていても、あくまでも普通の人です。
普通に会話し、チームと協調し、和気あいあいとFF11をプレイします。

とんでもなく変な人とは表向きはビジネスマンだろうが学生だろうが、行動や言動が普通でない人たちのことです。
そんな、とんでもなく変な人が2割しかいなくても、1日に5人以上会えば、そのうち1人以上はとんでもなく変な人です。
そして、最低でも1日1回以上はイヤな思いをすることになる。
粘着質な人に絡まれたら最後、7年間毎日嫌がらせをされることになる。
やはり普通の神経では持ちそうにありません。

自衛策として最も多いのが「仲の良い人たちだけでしかプレイしない」やり方です。
小コミュニティ内の仲間としかレベル上げもしないし、ストーリーを進めない。
mixiやFacebookで制限付きのコミュニティを作るようなものです。

私自身の感覚でいえば、ネットRPGはいろんな人がいるから面白いのに、そのおもしろさを一部放棄しているようにしか見えません。
しかし、不快な目に会いたくない彼らの気持ちも痛いほどよく分かります。
FF11はそうでもしなければ引退せざるを得ない二者択一的な世界になってしまったからです。

人が増えるとどんなコミュニティでも荒れる要素が増えます。
メイド喫茶の初期の頃はバイト女性も客も純粋にメイドやコスプレが好きで集まった場でした。だから、どこかほんわかとした印象が店内に満ちていたものです。

メイド喫茶が流行り始めると、バイト女性も「コスプレが好きだから」ではなく「時給がもらえるから」勤め始めます。
客も「コスプレが好きというより、かわいい女の子がキャピっと言ってくれるから行く」ようになる。
どこか風俗業界のような様相を帯びる。ストーカーも現れる。
しまいに「(ホンモノの)メイド風俗」も出現するようになります。

ネット社会でも同じ事が起きます。
mixiは初期の招待制の頃と現在とでは会員の質ががらりと変わったのは皆さんご存じのとおり。
twitterは私が始めた2年前は「twitterで炎上するなんてあり得ない」と知識層が私に一斉反撃をしたことがありました。当時のtwitterには節度を守る人たちが集まっていたからです。
しかし、現在はあっちこっちで炎上騒ぎが起きています。
Facebookもいずれそうなるでしょう。

ナンパや他人を傷つける行為はFF11だからといって避けられる要素ではありません。
特に、FF11では共通の目標があるため、現金、支配、虚栄が、より極端に現れます。その分、人間の欲望が暴走しやすい世界なのです。
そういう意味では、とんでもなく面白い世界です。
「人間」を観察し、時には巻き込まれ、「人間の性(さが)」を考える上で、こんなに凝縮した興味深い世界はそうそうあるものではありません。

ちなみに、このような状況はプレーヤーだけのせいではありません。スクエニにも問題があります。
初心者には到底プレイできない難易度の高いコンテンツ、欲望がうずまくようなコンテンツ作りがとても上手だからです。

いくつか例を上げましょう。

●18人のチームが14時間ぶっ続けで進まないとクリアできない必須ミッションがある。
これを終わらせないとストーリーが進まない(実体験)

●倒すのに24回も全滅し、毎日プレイしても1ヶ月かかるほど強いモンスターがいる。
こいつを倒さないとストーリーが進まない(実体験)

●20回挑戦して、持ち金全てをつぎ込まないと倒せない敵がいる。
彼を倒さないとレベルを永遠に上げることができない(経験談)

●確率論的に25年ゲームを続けないと手に入らない強い武器装備が多数用意されている。

これらの例は「どこか難易度の基準が間違っている」としか思えないようなものばかりです。
なぜか。3つ理由があります。

1番目。FF11は月額課金制なので、長く遊ばせないといけないとスクエニが信じていること。「長く遊びたいと思わせる」ことと「長くやらないといけない」ことは違いますが…

2番目。初代プロデューサーのゲームに対する考え方に基づいているからです。
雑誌インタビューにこうありました。

「プレーヤーはいじめればいじめるほど、それを達成した時の感動が増えるものです」(記憶なので主旨だけを抜粋)

実際、彼はFF3の長時間セーブができないラストダンジョンを作ったことで有名です。
困難に直面し解決することは誰だって快感です。でもね、「程度」というのがあると思うんですよ…

3番目。「常識の範囲『外』でプレイする少数(だけど声がでかい)プレーヤー」を基準に作られているからです。

毎日15時間以上FF11をプレイする人たちや三日連続徹夜できる人にとっては「14時間連続プレイが必須」は朝飯前です。
そうやって獲得した、とてつもなく強い武器装備があれば24回も全滅するなんて「へたれプレーヤー」です。
時間をかけていくつものジョブを育てている人なら、「超簡単なやり方」で24回も全滅せずに30分で終わらせることができます。

FF11はサービス開始時は電話回線でしかネットができない人たちにも配慮した設計、初心者であるプレステ2でも遊べるようにした「初心者向け」の設計でした。
実際、初期プレーヤーはインターネット未経験者が3割、ネットRPG未経験者が半分もいたのです。この点においてはスクエニは大貢献しました。素直に誉めていいと思います

それが今では「廃人(ゲームにのめり込む人たち)仕様で初心者にハードルが高い」ゲームの代表作のように言われてしまいます。
まさにスクエニ自身がが言うように「ネットゲームは進化する」です。「進化」とは必ずしも「良い方向」とは限らないことを体現した好例を作ってくれたのはスクエニです。

■独自文化も発生する興味深い世界

ここで、外国人の話に戻ります。
海外でのサービス開始からしばらく経つと、外国人と日本人のプレーヤーたちがだんだん微妙な関係になってきました。
外国人が参加し始めてから数ヶ月もしないうちに

「Japanese only(外人お断り)」

と参加希望用メッセージ欄に書き込む日本人プレーヤーが次々と増えてきたのです。
日本人だけで構成されたチームでは外国人の悪口がチーム会話にもどんどん登場します。

最初は言葉が通じない故の誤解なのかと思っていました。
日本人プレーヤーの中には

「誰とも話ができないので、つまらない」
「どこに行くのか、どんなモンスターとどんな戦術でいくのかも分からないから、ストレスばかりが溜まる」

という意見も多かったからでした。

FF11ではそのために英和・和英用の定型文がありますが、限界があります。

「シーフさんは釣りと横だまをナイトさんに入れちゃってください。
ナイトさんはヘイトがっちり固めちゃってね。連携はボーパル、ダンスの湾曲で。
黒さんは墨になっていいですよ。MBは思いっきりどぞ^^」

日本語ですら何のことやら分からない専門用語バリバリの文章です。
外国人との意思疎通に定型文だけで対応するのはどう考えても無理というものです。
外国人はそれでも一生懸命定型文で日本人とコミュニケーションを取ろうとしますが、日本人は「面倒だ」と関わらない。

「外国人はへたくそで経験値を稼げないからイヤだ」という輩もいます。
効率重視、自己中に変わってしまったプレーヤーならではの意見です。
でもね、それは仕方がないというものです。
日本人の多くは1年以上の経験を積んでいる。一方、外国人はつい1ヶ月前にサービス開始されたばかり。上手下手の差が出るのは当たり前です。

人間は初心をすぐに忘れる生き物です。
自分が初心者の時にどんなに下手だったのか。チームの先輩に連携攻撃のタイミングを教えてもらい、何回もボタン操作を失敗しながらようやく覚えたことなど、きれいさっぱり忘れて他人を下手よばわりとは…やれやれ。

さらに多いのは「外国人はマナーがないからイヤだ」という主張です。
マナーは各国の文化で違います。げっぷが「おいしかった」を意味する国もあれば、麺類を音を立ててすするのがマナーの国もある。
お互いに考えるマナーが違うのだから仕方がありません。
それより興味深いのはFF11の世界で作られたマナーが違う点です。

例を上げましょう。
日本人プレーヤーは2~3時間のチーム戦闘が終わっても街に着くまでは一緒に帰ります。そして、リーダーが「解散します」と宣言しない限りチームに残るのがマナーです。
しかし、外国人は「狩りは終わりか?」と聞いて「そうだ」と答えると、さっさとチームを抜けていきます。
最初、私も「外国人はドライだなぁ」としか思いませんでした。

よくよく考えると、こんなことに気が付きました。
日本人プレーヤーたちは人数的に恵まれています。FF11は日本製ですから日本プレーヤーの数が多い。だから、チームを作るのも比較的難しくはありません。午後9時くらいのピーク時にはチーム参加希望者の数が100人近くなることもあります。その中から6人を選べばいい。

しかし、日本人に次いで2番目に多いアメリカ人でもログイン人数が少ないのでチーム編成が厳しいのに、どちらにも時差があるヨーロッパ諸国のプレーヤーたちは大変です。
勢い、戦闘をするよりもボケっとして街をぶらつく時間も増えます。
誘いの通信を外国人に送ると

「やったー!お誘いだ!3日振りの戦闘だ。もうね、退屈で死にそうだったよ!」

と狂喜乱舞する外国人も出てくる始末です。

そんな彼らですから、チーム編成の仕方が自然と変わります。
日本人のように、一斉にチームを作って一斉に終わるスタイルでは、いつなんどき次の戦闘ができるのか分からない。
だから、続けたい人は狩り場に残って補充人員を探します。

一からチームを作るために6人を探すのは大変ですが、補充人員の一人ならログイン人数が少なくてもなんとかなる。
それが延々と続くのが彼らのスタイルになったのです。
そのため、抜ける時はさっさとチームを抜けないと、補充人員が来る時の迷惑になります。
「さっさと抜ける」のは彼らにとってのマナーです。

加えて、チームから抜けたい人があらかじめ補充人員を探すのも外国人同士ではマナーです。
そうしないとリーダーがずっと補充人員を探し続けないといけなくなり、ただでさえ参加希望を探すのにも手間がかかるのにリーダーの負担がとんでもなく増えるからです。
一方の日本人は自分の代わりの人を探す習慣がありません。
外国人から見ると「日本人は補充人員も探さない失礼なヤツだ」と見えてしまう。

三番目の文化の違いです。
ネットRPGでは回復役は少ないのが実情です。
そりゃそうです。普通のRPGでは常に主人公は「ゆうしゃ」ですから、RPG好きが集まるネットRPGではみんな勇者になりたがる。回復役なんて面白くも何ともないと考える人が多い。

それでも日本人プレーヤーたちは元々の数が多いので、なんとか回復役を確保できます。
確保できない場合はそもそも初めからチーム編成をあきらめる。
回復役なしだと「そんなんじゃ稼げない」とチームメンバーから文句が出るし、しばらく立てば回復役がログインするかも知れないからです。

外国人プレーヤーは人が少ないので、そんなことを言ってられる余地はありません。
ちょっとでも回復ができるプレーヤーなら、狩り場に連れていかないと退屈な日々を過ごさなくてはならなくなります。
日本人プレーヤーでは当たり前の「6人中、回復役1.5名」のチーム編成が外国人では「回復役1名」が当たり前。場合によっては「回復役0.5名」なんて場合もある。

これが日本人回復役のストレスになります。

「回復役1人なんて自殺行為だ。だから、外国人からの誘いは恐い」
「回復役1人しかいないから、モンスターに狙われて死んだ。だから外国人からの誘いは断る」

逆に、外国人ばかりのチームでは回復役を2人にしようものなら苦情が出てくることがあります。
回復役以外からは「攻撃役を増やして戦力を上げた方が経験値を稼げるのに、なぜだ」。
回復役本人からは「オレ一人で十分だ。やることがなくなるし、退屈だからもう一人の回復役はいらない」。
私がリーダーですから「オレ流のやり方だ、文句あっか?」と日本流の編成チームにして狩り場に向かいます。
大半の場合は外国人のやり方よりも経験値が多くなるので、不満はなくなり、全員ニコニコしながら街に戻ることになります。

その文化のおかげでしょう。
時が経つにつれて外国人が上手になり、こと回復に限って言えば、外国人の方が日本人より上手な人も出てくるようになりました。

■ゲーム通貨の売買で最大800億円市場

厳密にいえばプレーヤーではありませんが、業者が増えてきたのも同時期です。
そして、業者が一般プレーヤーの行動を変える原因ともなりました。

ドラクエ10ではサービススタートから1ヶ月もしないうちに、ヤフオクでゲーム内通貨のゴールドが売られ始めました。
RMT(リアルマネートレード=ホンモノのお金でゲーム内通貨が取引されること)と呼ばれ、非合法ではありませんがスクエニは禁止しています。
ゲームのバランスが崩れるからです。
例えて言えば、モノポリーを遊んでいて、その場にいない人からモノポリー紙幣を日本円で買ってトップになるようなものです。当の本人以外は楽しいハズがない。

なぜわざわざ数万円も出してゴールドを買うのか。
ビジネスマンのように、1日1時間くらいしかプレイできない人も多い。
ネットRPGではモンスターを倒しても微々たるお金しか稼げません。金策は別に時間をとってやらないといけない仕組みです。
お金がないと強い武器装備が買えません。弱いとチームにも誘われない。
だから、手っ取り早く数万円で時間を買うのが「買う側の」理屈です。

RMTの是非については様々な論争があるので、ここでは深く説明しません。
しかし、買う側がいれば売る側がいる。そして、問題は専門業者が入ってくることです。
RMT市場は全世界で400億円や800億円と言われる巨大産業だからです。

彼らは様々なところで普通のプレーヤーの邪魔になります。

●業者が何十人も張り込み、お金になるモンスターを徹夜で独占し続ける。
●不正ツールと呼ばれるプログラムを使い、普通のプレーヤーなら何時間もかかる作業を数分でこなして、通貨を大量に漁る。

FF11ではサービス開始後4年目の2006年にスクエニが大掃除をしました。
業者プレーヤーを次々と強制退会。所有していた通貨3500億ギルをすべて没収。
日銀が貨幣供給量を一気に引き締めるようなものです。
そのおかげで物価は下がりました。貨幣供給量の引き締めと供給体制の強化。マクロ経済学そのままの現象です。
ちなみに、ここでは解説しませんが、FF11は経済学の教科書のような動きをするので、とても興味深い世界です。

一夜明けたら高価格の武器装備の多くの価格が劇的に下がりました。500万ギル(通貨)だったものが、1時間ごとに400万、200万と下がるのです。
それらの武器装備が欲しかったプレーヤーは大喜び。
しかし、一生懸命コツコツお金を半年以上も貯めて買ったプレーヤーたちはがっくり。

おいしい供給源を絶たれると業者は次においしい分野に移動します。
職人システムです。鍛冶や調理。
もちろん、不正ツールを使います。

業者に追いやられた一般プレーヤーは金を稼ぐ手段がなくなり、収入が激減します。
かくして、稼げなくなった職人たちは、大挙して薄利の商品を作ることになります。
しかし、それらの商品はレベルが低い人たちの主な収入源です。そこに怒濤のように高レベルの職人が移動するのですから、供給がダブつき価格水準が下がる。ただでさえ低レベルで薄給な人たちはさらに収入が減る。
経済の崩壊です。

これがプレーヤー同士の確執や疑心暗鬼を引き起こします。
RMTを快く思っていないプレーヤーが一般プレーヤーを業者だと勘違いして罵倒したり、嫌がらせをするようになります。

私も素材狩りに行ったときに何度「この業者!」「出て行け」「死ね」などと罵倒されたことか。挙げ句の果てに私が倒そうとしたモンスターを根こそぎ倒されて邪魔されたこともありました。
街を歩いて「人殺し」と何十人にも言われ、通行先を数十人が通せんぼして通してくれないのと同じような状況です。

その場に居合わせるとムッと来ますが、冷静に考えると集団心理の凝縮の結果ですから、非常に面白い社会現象です。
社会学の研究対象にすると格好の材料になりそうです。

■FF11が最高利益…すんばらしい!

サーバーはネットRPGの根幹です。
スクエニの利益を左右する要素でもあります。
そして、プレーヤーの環境にも大きく影響します。

さて、FF11では一つの街に200~300人も集まることは珍しくありません。
サーバー全体でピーク時には3,000人~4,000人がプレイしています。そのうちの10分の1が狩り場や洞窟に行かず、待機したり休んだりすることは自然な行動です。

ところが、これがスクエニの予想外の事態だったようです。
雑誌の開発者インタビューには何回も

「こんなにプレーヤーが一カ所に集まるとは想定していなかった」

と掲載されているので、開発側の共通認識なのでしょう。
もしそうだとしたら、開発側はあまりにも「社会学」や「街の形成過程」というものを知らなさすぎます。
情報や物品を求めて人が一カ所に集まるのは、当たり前中の当たり前だからです。

サービス開始から4年たった2006年4月。アトルガンという街が有料追加ディスクで初めて解放された時にプレーヤーが大挙して押し寄せました。
新しい街や土地は旅行のようにワクワクするものです。ましてやネットRPGですからどんなモンスターがいるのだろうか。どんな素材を落とすのだろうか。もしかしたら大量にお金が稼げるかも知れない。早い者勝ちだ。
アトルガンに限らず、FF11では新しい街や土地が開放されると一気にプレーヤーが押し寄せるのです。

といっても、私がログインするのは深夜です。
街にたむろしてたのはたかだか500人です。ログインしているプレーヤーの5分の1です。
それでも、混雑しているので操作も重いし、他の人もスローモーションのように止まっているようです。
その時です。システム側からアナウンスが響き渡りました。

「サーバーが落ちる可能性があります。ただちに他のエリアに移動してください」

「え?え?え?」がみんなの反応でした。

新しい街に大挙して押し寄せるのはスクエニも分かっているハズです。
第一、アトルガンが解放されたのはサービス開始から4年も経っている頃です。今までの経験から学習しているハズ。
なのに、今さら移動しろと、上から目線のアナウンスに群衆はざわめき立ちました。
ちらほらとしか人が移動しないので、都合3回、同じアナウンスが流れました。

突然一人のプレーヤーから大声が響き渡りました。

「サーバー増設しろや、ボケっ!!」

みんな拍手喝采。

これが何を意味しているのか。
サーバー費用を安くすればその分、会社としての利益が増えます。
スクエニが外国人と日本人の混合サーバーにしたのも追加サーバー費用がかからないからです。日本人が少ない深夜帯には外国人を入れる。賢いやり方です。

サーバー費用をケチればケチるほど利益は大きくなりますが、プレーヤーの居心地はどんどん悪くなります。
アトルガンの街のようにスローモーションでしか人が見えない。競売所でモノを買うにもボタンが何10秒も反応しない。チャットをしようにも文字入力が反応しない。ポストから宅配されたアイテムを受け取ろうにも「通信層が混んでいるようです…」と何十回ボタンを押してもメッセージが返ってくる。

現在も玄関口となっているジュノ市の一角では200人しかいないのに動きがカクカク。まともに買い物すらできない有様です。
最近は戦闘地域でも同様のことが起きています。

サーバー偏重はさらにプレーヤー間の人間関係にも影響を及ぼします。
FF11では追加ディスクとして新しい地域が有料で公開されます。
しかし、追加ディスクをプレステ2に入れインストールし、数時間にわたる長いアップデートを終え、緊急メンテのお約束を経て、さあ新しい大地に降り立とうとしても、簡単には行けません。

指定されるアイテムを取らないと新天地には行けないからです。
しかも、特定のモンスターしか落とさない。
モンスターの数は限られています。せいぜいが10匹程度しか一度に出現しない。そこに数百人ものプレーヤーが押し寄せますから、取り合いになる。

昨日まで仲良く協力しあってチームを組んでいた相手同士でアイテムの奪い合い。スクエニがFF11のテーマとして掲げる「友情」や「絆」が吹っ飛ぶ瞬間です。
前述した自己中プレーヤーが増えたのはこの頃からだと私は思っています。
新規プレーヤーだけでなく、既存プレーヤーも変わっていった。その理由の一つが「自己中でないと損をする」ことを学習したからです。

なぜ、スクエニがこんなことをするのか。
雑誌のインタビューに対して開発陣は明確にこう答えています。

「新天地へはみんながわたりたがる。
でも、一斉に移動されたのではサーバーがパンクします。
だから、少しずつしか移動できないように設計しました」

スクエニは利益が減ってしまうサーバー増強ではなく、プレーヤーに負担をかける選択をしたのでした。

「サーバー増設しろや、ボケっ!!」
は、みんなの心の叫びだったのです。

「FF11は最高の利益」というスクエニの記事を見かければ見かけるほど、私はやるせない気分になります。

例えていえば、18ホールのゴルフ場の会員権を売って毎月の会費を取っておきながら、1日に数千人もの客を受け付け、先客がホールを終わらずまだフェアウェイにいるのに、次のグループを入れて「さあ、早くボールを打ってください。間に合いませんよ」とキャディにせかされるようなものです。

民間企業ですから利益を取るのはまったくかまいません。それを原資にして、もっとももっと面白いものを作って欲しいとも思っています。
しかし、そのためにプレーヤーが普通に遊べない環境にコストダウンしているなら…と考えさせられます。

■血が通った人間の戦闘パターンは無限大

悪口ばかり言っていると読む方も辛くなることは分かっています。
同時に

「そんなにイヤなら、森さんはなぜFF11を10年も続けているのですか」

と言われそうです。

10年続けているのは、結末を見たかったからでもあります。
ここまで来たら最後まで見届けないと気が済まない。意地みたいなものです。

でも一方で、FF11にも良いところがあります。
そのひとつは戦闘システムの優秀さです。
普通のDVD版RPGではラスボスを倒すまでに1,000回程度の戦闘をこなします。
だから、戦闘のおもしろさ、飽きずに続けられることがとても大切な要素となります。

FF11のキャラは一人一人の血が通った人間が操作しています。
だから、微妙に個人個人の動きが違います。
ナイト、狩人、シーフ、白魔道士、赤魔道士、吟遊詩人といった同じ構成でも、プレーヤーが違えば私の立ち回りが異なります。

がっちりとモンスターの注意を自分に固定するナイトもいれば、適度に狩人やシーフに注意を向けさせてダメージを分散させるナイトもいる。
最初からガンガン攻め立てる狩人もいれば、前半はおとなしく攻撃しておき、ここぞという時に一気に責め立てる狩人プレーヤーもいる。
そこには上手下手と個性という2つの側面が現れます。

そんなメンバーに合わせて自分の立ち回りも変えていくのが、オフラインゲームにはない無性の楽しさです。
自分のジョブも変わります。回復役なのか攻撃役なのか。補佐役なのか盾役なのか。それらによって立ち回りも変わる。
同じゲームとは思えないほど戦闘が変わるのです。

30もあるジョブの組み合わせだけでなく、自分のジョブ。メンバーの個性。狩りをするモンスターの種類。それらを組み合わせると何億とおりものチーム戦闘が楽しめる。
だから、何千回も戦闘しても、10年間レベル上げだけを遊んでいても飽きることはありません。

ただ、これらの楽しみができたのは2年前までです。
現在では、基本6人チームだったものが18人の大所帯が基本になってしまいました。18人もいれば適当に殴ったり回復するだけでも戦闘が成立してしまいます。
また、18人もいると個性もへったくれもありません。

2番目の良いところです。
私個人はあまり関心がありませんが、FF11の良さとしてチャットの使いやすさを上げるプレーヤーが多いのも事実です。
FF11には周囲の距離や対象となるプレーヤーに応じて5種類の方法があります。
これらを使い分けて友人たちとチャットをします。
プレーヤーの中にはログインしたらチャットだけ楽しんで終わる人も少なくありません。
ちなみに、ドラクエ10では2種類しかありません。
初心者向けにシンプルにしたつもりのようですが、逆効果だったようです。

3番目。
強い武器装備や大きなダメージを出すことで満足感にひたる楽しみ方もあります。
twitterやFacebookには目標がありません。だから、自慢がしにくい。
でもRPGならば装備を一目見て

「いい装備してますね」
「その武器、取るのが大変だったでしょう?」
「ダメージ、すごーーい」

と素直に賞賛してくれる人がいます。
そして、それらは現実とは異なり、努力をすればするほど(時間をかければかけるほど)実るのです。

「廃人」とひと言で片づけるのは簡単ですが、誰しもAKB48と同じで「努力すれば、いつか必ず報われる」世界にあこがれるのは認めなくてはいけません。

4番目。
コンテンツの数がハンパでないのもFF11の魅力のひとつです。
最もわかりやすい客観的事実はディスク容量です。
プレステ2のディスク容量は40GBあり、これが一杯になってしまったほどデータが詰まっているのです。
普通のゲームで約20種タイトルと同じ分量が入っていることになります。

■ドラクエの原点を忘れたドラクエ

話をちよっと変えます。
RPGの原点はアメリカで1981年に発売されたウィザードリーとウルティマだと言われています。
それらのアメリカ製RPGは「普通にプレイしていたのでは最後までたどり着けない」のが当たり前でした。
ゲームの開発者はどんどん難しくする。プレーヤーはその難問に挑戦して突破する。
ストーリーもありません。ストイックなまでにダンジョンを進んで行きます。
初期の頃の「女神転生」を知っている方ならイメージがわくでしょう。

そんなアメリカ製RPGは日本ではヒットしませんでした。

5年後の1986年5月、ドラクエが初めて姿を見せました。

「誰でもちょっと頑張れば最後までプレイでき、勇者になれる。物語のあるRPG」

和製RPGの誕生です。
ドラクエ発売の翌年1987年12月に発売されたFFも同じスタイルでした。
かくして、ペルソナ、幻想水滸伝、ロマンシングサガなどの和製RPGは世界観を変えたり、戦闘システムを変えながら発展し、日本のゲームジャンルのトップに躍り出ました。

そんな進化を遂げて市民権を得た和製RPGなのに、ネットゲームになった途端、原理原則を外してしまいます。

「『ユーザーがパッチの修正自体に慣れていないため、そのたびに不満が寄せられている』 (2002/09/24の東京ゲームショウにて、スクウェア和田社長) 」

とスクエニ自身が発言するように、

「ネットゲームはこういうものなんだから、その世界の中で楽しみなさい」

と押しつけてきます。

ドラクエ10では、ドラクエ好きからこう言われます。

「メタルスライムもない。イオナズン・メラゾーマ・マヒャドの魔法がない。伝説の武器・防具シリーズもないドラクエはドラクエじゃない。
ターン制(プレーヤーとモンスターが交互に攻撃する)じゃないドラクエはドラクエとはいえない」

彼らにとって、ドラクエ世界の象徴がないドラクエはドラクエではありません。

スクエニやネットゲームに詳しい人の言い分。

「これがネットRPGです。常に進化していくのですから、まほうのかぎやさいごのかぎも出てきますよ。魔法のじゅうたんとか、キラーパンサーみたいなものも出てくるようになります」

再びドラクエ好き。

「ゲームをはじめてから数十時間以内に出てこなければ、それはドラクエじゃないでしょ?
それとも、作りかけのものを小出しにして、先にお金を取るのがネットRPGなの?」

Amazonのレビューやネット掲示板でも、「ネットRPGなんだから当たり前」論調と「いや、これはドラクエの世界じゃない」と反論する古くて新しい論争が繰り広げられています。

アメリカ製オリジナルRPGの枠を破って新しい提案をした和製RPGの頂点ドラクエ。
その精神を忘れて、「利益が最高だから」と「普通のネットRPGの延長としてしか開発されていない」ドラクエ10。

ドラクエはFFシリーズと異なり、かたくなに剣と魔法の世界にこだわり、「ゆうしゃ」であることを守ってきました。シリーズでは一部を除いて3Dキャラを避けて、昔ながらの3等身キャラを続けてきました。
その「変わらない世界」がドラクエ好きには「ホッとする我が家に戻ってきた」感情を沸き起こさせるのでしょう。
だから、FFよりもずっとずっと保守的な感情を抱くドラクエファンにとって、現在のドラクエ10が
「ドラクエの皮をかぶったFF11だ(キャラや魔法などの名前が同じだけのゲーム)」
と感じるのも無理はありません。

■私は間もなく新しい命を授かります

実は、ひとつ、FF11の良さを隠していました。
というのも、この良さは引退した人しか口にしないからです。

一部の人は酷評しますが、多くの人たちは口を揃えて

「懐かしい」
「あの時は楽しかった」

と言います。

引退の日には友人たちが見送ってくれる。
走馬燈のように楽しかった思い出が蘇る。
引退した多くの人たちがモニタの前で涙したと語ります。
離れて初めてわかる良さ。
もう戻ることはないけれど、思い出をたくさんくれた世界。

ネットではFacebook、twitter、mixなど様々なサービスで人との出会いがあります。
しかし、FF11の決定的な違いは共通の目標に向かって進むことです。
FF11では多くの時間を共通のモンスターと戦うことに費やされます。
しかも、それぞれが役割分担をもって協力しあわないと倒せない相手。
時には瀕死になり、時には道に迷い、時には争う。
他のネット世界では味わえない経験。
それこそが、多くの人を引きつけて放さないネットRPGの要素なのかも知れません。
☆ ☆ ☆
あるプレーヤーから一通のメールが届きました。
彼女は新規入会が少なくなった時期にFF11を始め、たまたま私と知り合いました。
彼女は一人前のプレーヤーとして小コミュニティを作り、メンバーたちの面倒もよく見ていました。

彼女が引退すると聞いたのは出会ってから2年後。
彼女は引退の寸前に私にメールを送ったようです。
私の返事はもう届きませんでした。

メールで印象に残った言葉がありました。

「誰もいない荒野でどうして良いかもわからなかった時、森さんに出会いました。
『また、明日もここで待ち合わせね』と言われて、ワクワクしながら毎日ログインしていました。

1年ほどして、そんな私に森さんから『手伝って欲しい』と頼まれたことが、とても嬉しかったんです。
森さんへのお礼がようやくできるということと、自分が森さんに頼られるまで成長したんだと実感できたからでした。

私は間もなく新しい命を授かります。
引退してもFF11のことはずっとずっと忘れません」

FF11の最大の良さ。
それは、プレーヤーに最良の思い出を残す場であることなのかも知れません。

【参考記事】10年前の第一弾はこちらです。
■オンラインゲームの行方【ファイナルファンタジー11】2002年11月1日
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