■成功は失敗の母・成功が失敗を生む時【スクウェア】

軽い前フリ・その1:「やっぱり売れないドリームキャスト」 (?)

ドリームキャストがしょっぱなからつまづいてしまいました。
いえ、ソフトが揃わないとか通信環境が揃っていない等、「私はこう見る」の過去記事で話したことが原因ではありません。

NEC 製の部品の納入の遅れで、12月中に100万台を売り上げるはずが、その半分の50万台しか用意できなかったのです。このままでは、売上が約100億円しか上がりそうにありません。

セガは「セガはこのまま倒れたままなのか」「がんばれ湯川専務」シリーズの広告でドリームキャストに100億円の広告費を投じました。その黒幕はあのオニャンコ・クラブをヒットさせた秋元康。社外取締役としての参加です。
100億の売上に同額の広告費。
絶対金額こそ違いますが、桃の天然水で一躍飲料業界に仲間入りしたJT飲料や、同じく吉富製薬との合弁会社のライフィックスの初年度と同じ状況です。

この先、セガはどうなってしまうのでしょうか。
こういうトラブルの場合、細かい生活者データがないと私にもわかりません。
でも、1つだけ祈りたいのは、こういう単純ミスが原因でドリキャスは失敗したのだ、という歴史を残して欲しくないということです。いや、単純ミスは本当に怖いものです。これで、倒産した会社もあるほどです。ばかにしているわけではありません。
むしろ、頑張れ、というところでしょうか。

【注】出典は「日刊ゲンダイ」メルマガ版。知らせていただいた小枝さんに感謝します。

軽い前フリ・その2:「『FF8』予約200万本突破」

2月11日の発売日を控えたプレイステーション (以下プレステ) 用ゲーム、「ファイナルファンタジーVIII (以下「FF8」)」の予約が200万本を到達したと報道されました。前回の「FF7」が予約で150万本、最終売上350万本という実績を考えると、「FF8」は400万本を超える未曽有のヒットを飛ばすのでしょうか。

ゲームソフトの予約を今までにしたことがなく、「FF7」ですら発売当日に店頭で買った私ですが、今回はさすがに大正解でした。「FF7」の時と違って、予約分を引き取りに行った時には「FF8完売・入荷未定」のはり紙が店先に誇らしげに貼ってありました。

愛犬のシェパードにコードをちぎられたため数日前に壊れたプレステを買い換え、初代機よりもゲームスピードが早く音質も圧倒的に良くなって得した気分の森ですが、今回の記事を書き終えるまで楽しみはおあずけです。
「次は『サガ・フロンティア2』が待ち切れないゾ」と、早くも次の新作を心待ちにしているゲームフリークは誰あろう、私です(笑)

音楽業界の100万枚という数字

ゲームの話が出たばかりなのにいきなり音楽業界に移るというのも気が引けますが、連想ゲームのように頭ができている私です。ご勘弁ください。

というのも、「予約で200万本、売上予想400万本」がどういう意味を持つのかをちょっとご理解いただきたいからです。

本やCDは100万枚のミリオンセラーの宝庫です。

特に、CDの世界では「100万枚を売った」と言っても (私のような中年にとっては) 聞いたことがないような曲名がズラズラと並びます。歴代シングルの最高は「およげたいやきくん」の450万枚ですが、それに及ばずともミリオンセラーが年間に20曲も30曲も出現するのには驚愕せざるをえません。

というのも、音楽業界ではミリオンセラーがまったく出ない時期があったからです。具体的には、1990年に突然大ヒットした「おどるぽんぽこりん」の164万枚までの10年間、つまり1980年代は音楽業界大恐慌の時期だったのです。
あの山口百恵も松田聖子も100万枚を越えたタイトルは持っていません。山口百恵の最大のヒット曲は「秋桜 (コスモス) 」ですが、それでも80万枚がやっとという状況でした。
それだけに、1991年の「あなたに会えてよかった」が125万枚のセールスを達成したことは、小泉今日子にとって「80年代アイドル初めての快挙」という意味があったのです。

ちなみに1991年は堰を切ったような、ミリオンセラー大量排出の最初の年でした。
前年が「おどるぽんぽこりん」1タイトルだったのが一気に10タイトル。しかも、200万枚が3タイトルも続出。信じられない光景でした。
懐かしいので、1991年のベスト売上をリストアップしてみましょう。

順位 タイトル アーティスト 売上枚数
(万枚)
1位 SAY YES チャゲ&飛鳥 275
2位 ラブストーリーは突然に 小田和正 254
3位 愛は勝つ KAN 220
4位 LADY NAVIGATION B’z 145
5位 どんなときも 槙原敬之 138
6位 あなたに会えてよかった 小泉今日子 125
7位 はじまりはいつも雨 ASUKA 120
8位 しゃぼん玉 長淵剛 108
9位 ALONE B’z 105
10位 会いたい 沢田知可子 95

次に、全体像を見るために、歴代売上ベストリストをご紹介します。ただし、あえてミリオンセラー排出元年の1991年時点でのリストを掲載します。
1991年までで200万枚のセールスを達成したのはたった8タイトル。そのうち、1991年の1年間だけで3タイトルを占めてしまったのですから、その異常ぶりが伺えます。

なお、2位の「女のみち」8位の「なみだの操」は殿様キングスというド演歌グループのタイトルですが、1人のアーティスト (グループ) で歴代15位以内に2タイトルが入っているのは彼らだけです。しかも、ダブルミリオン。まさに化け物のような人気でした。(【注】後に読者のご指摘で、「女のみち」はぴんからトリオであることが判明しました)
ちなみに、1位の「およげたいやきくん」の記録は、1998年度現在でもまだ破られていません。

順位 タイトル 売上枚数
(万枚)
1位 およげたいやきくん 453.6
2位 女の道 325.6
3位 SAY YES 275.0
4位 ラブストーリーは突然に 254.2
5位 黒ねこのタンゴ 223.5
6位 愛は勝つ 220.0
7位 恋の季節 207.7
8位 なみだの操 197.3
9位 不明 不明
10位 不明 不明
11位 星影のワルツ 170.8
12位 あなた 164.9
13位 おどるぽんぽこりん 164.4
14位 不明 不明
15位 UFO 155.4

【注】太字は1991年のタイトル

ゲーム100万本の持つ意味とゲームという商品の性質

パラサイトイブさて、ゲームの100万とシングルの100万を比べるのも乱暴かも知れませんが、以下の要件を持った商品です。少なくとも、ビールやクルマの100万と比べるよりかなり近い、と思っていただいて結構です。違いは価格 (ゲームの方が高い) とターゲットの広さ (ゲームの方が狭い) くらいです。

●ハードにはまったく意味がない。生活者が欲しいのはハードに刻み込まれた「中身」である (ゲーム=CD-ROM、シングル=CDあるいはレコード) 。
●内容を楽しむためには、別な商品が必要になる (ゲーム=プレステ、シングル=ステレオ)
●専門店あるいはそれに準ずる店でしか手に入らない (ゲーム=専門店、シングル=CDショップ)

今度は逆の側面からゲームソフトの本数を見てみましょう。
1998年度のタイトル別の売上本数です。

順位 タイトル メーカー&ハード 売上本数
(万本)
1位 バイオハザード2 カプコン-PS 216
1位 ポケットモンスター・ピカチュー 任天堂-GB 151
2位 グランツーリスモ ソニー-PS 150
2位 ドラゴンクエスト・モンスターズ エニックス-GB 122
3位 鉄拳3 ナムコ-PS 119
4位 パラサイト・イヴ スクウェア-PS 99
4位 遊戯王・デュエルモンスターズ コナミ-GB 94
5位 ゼノギアス スクウェア-PS 89
6位 ゼルダの伝説・時のオカリナ 任天堂-64 82
7位 ワールドサッカー コナミ-PS 75
8位 スターオーシャン・セカンドストーリー エニックス-PS 70
9位 XI [sai] ソニー-PS 69
10位 メタルギアソリッド コナミ-PS 67
100位 Jリーグプロサッカー セガ-SS 13

【注】PS=プレステ、GB=ゲームボーイ、64=ニンテンドウ64、SS=セガサターン
出典 : 週間ファミ通 (99.2.11号)

ここで、ゲームボーイは生活者が小学生という特殊 (?) な層であることと、遊び方が異なるので上のランキングから抜くと、ミリオンセラーは年間4本という結果です。
こうやって考えると「FF8」の「予約ですら200万本、最終売上予想400万本」がどれだけすごいかが感覚的にわかると思います。

「えっ? 何か変。だって、CDはアムロやGLAYにしても身近だけど、『鉄拳3』とか、『メタルギアソリッド』なんて知らない。やっぱりゲーム業界は特殊だよ。だから、CDの100万本と比べたって意味がない」

という読者諸兄がいてもおかしくはありません。

確かに、生活者から見た大きな違いの一つは、音楽は様々な場所で「商品そのもの」が露出されるのに対して、ゲームは「やったことがある人」にしか「商品が露出しない」という点です。

例えばミリオンセラーの音楽なら、コンビニやパブなどで流れてもおかしくはありません。また、FM局でも無料で聞くことができます。従って、少なくとも商品の一部は広く露出されます。
一方、ゲームはゲームショー等のイベントで、実際に一部のパートが遊べるコーナーを除くと「無料」で商品を体験する場がありません。せいぜいがゲーム雑誌の画面や記事を読む程度です。

高速道路この差はたばこやクルマのように、その商品を買ったあるいは持っていることが他人に分かってしまう「外的消費」と、シャンプーや冷凍食品のように他人にどんなメーカーのものを使っているかが自己申告でないとわかりにくい「内的消費」の関係と同じような構造や性質を持ちます。

要するに、前者は「見栄」や「社会性」という側面を持ちます。ですから、「ハイライトを吸っている女性」や「バージニアスリムを吸っている男性」は奇妙な奴と思われます。また「デザインの好きでないキャスターを吸っているのを見られると恥ずかしいから、シガレットケースを買う」といった、別消費を促すことさえあるのです。

加えて言えば、「商品の内容を知る」という点で見ると、音楽とゲームはその複雑さがまったく異なります。
音楽の場合、一部「ビジュアル系」と呼ばれるグループやアイドルを除くと、聴覚を使って楽しむ (消費する) 商品です。
一方、ゲームは「聴覚」「視覚」「触覚 (ボタンなどを使う) 」の3つで楽しむものです。

この差は何を意味するか。

感覚数が増えると人間が受ける情報量は二乗比で増加します。
音楽とゲームの感覚数は1:3。それぞれの二乗比は1:9。
つまりゲームは音楽の9倍も情報量が多いのです。
ただし、これは、「同じ時間を比較した場合」です。時間が増えると情報量が増えるのは自明の理です。

すると例えば「FF8」のようなロールプレイングゲームのプレイ時間は40~50時間 、一方の音楽は5分。時間の長さだけで比較すると約500倍。
感覚数による9倍の情報量を計算に入れると、なんと4,500倍もの情報量の違いがあることになります。
ゲーム雑誌でのゲーム画面の写真と解説記事程度ではとうてい「商品が露出した」とはいえないわけです。

これらを考慮すると、音楽とゲームでの100万本の違いの解釈は以下の正反対の2つがあります。

●情報量がケタ違いに多いゲームの100万本の方が貴重、重要な意味がある。
●購入しなくても音楽というのは聞ける (消費する) のだから、実際の「 (購買者ではなく) 消費者」は100万人以上である。
従って、音楽の100万枚はゲームのそれより本来は多く計算されるべきである。
ただし、テレビの音楽番組などが減ったためもあり、例えば「およげいやきくん」の時代のように「100万枚=国民的音楽 (おじいちゃんもおばあちゃんも知っている) 」ほどの効果はない。

この記事のテーマは「100万という数字の解析」ではありませんから、無理矢理の結論を出しましょう。

●2つの解釈はどちらも均等に正しい。従って、100万という数字に与える影響はプラス・マイナス・ゼロである。
ということは、100万を同列に扱っても、実務上は問題ない

ゲーム・メーカーの性格分け

上記の1998年のゲーム売上を会社別に見ると目立つ名前があることに気がつきます。
10本中2本を排出しているコナミとソニーに並んで、スクウェアが名を連ねているのです。前フリで話題にした「FF8」のメーカーです。

業界の構造を分かりやすく見るために、売上トップ100での各メーカーの販売本数を表にしました。ソフト業界全体での数字ではありませんので、若干の差はありますが、傾向はつかめるでしょう。ちなみに、トップ100で全販売本数の84%を占めます。

順位 メーカー 売上枚数(万本) シェア(%) トップ100での本数(本) 1本あたりの平均販売本数(万本)
1位 任天堂 (コ) 522 14.0 11 47
2位 ソニー (コ) 509 13.6 12 42
3位 コナミ (コ) 463 12.4 11 42
4位 スクウェア (波) 427 11.4 6 71
5位 カプコン (波) 325 8.7 7 46
6位 ナムコ (コ) 312 8.4 6 52
7位 エニックス (波) 269 7.2 5 54
8位 セガ (波) 123 3.3 5 25
9位 バンダイ (コ) 111 3.0 3 37
10位 バンプレスト (コ) 68 1.8 2 34

【注】 (コ) はコンスタント売上派、 (波) は看板タイトルによって波がある売上派 (後述)

まず、ここで気がつくのは5位のカプコンです。元々は「ストリートファイター」シリーズで名を馳せたメーカーですが、1998年は「バイオハザード2」の200万本の大ヒットがあったため、トップメーカーの仲間入りをした会社です。

もし、「バイオハザード2」がなければ、販売本数は125万本と1/3になってしまいます。同様にエニックスも看板タイトルで300万本は確実に売る「ドラゴンクエスト」がないこの年は7位の269万本の売上ですから、半分になってしまっています。

そう。「FF8」のスクウェアも400万本 (と決めつけてます(笑)) があるかないかで、売上ががらりと変わります。ただ、トップ100中、1本あたりの売上本数は、他のメーカーが40~50万本なのに対して、71万本と群を抜いて多くなっているのです。確実に売れるタイトルを少数精鋭主義で市場に投入していることがわかります (が、本当は売れるタイトルとそうでないタイトルの差が激しいのは後述します)。

一方、コンスタントに売上を稼ぐのが任天堂、ソニーなどのハードを供給しているメーカー。そして、大御所と呼ばれ、常に中ヒットを重ねているコナミ、ナムコです。

これらを例えていば、乳製品なら何でもOKの雪印、ギフト市場で強い小岩井乳業、ヨーグルト等の発酵乳なら穴馬としてオハヨー、どれも中途半端な森永乳業、明治乳業というように、どんな業界でも得手不得手の勢力図があるものです。
同様のことがゲーム・メーカーでも存在します。

——————【お好きな方のために】——————

シストラット流、非真面目なゲーム・メーカーひとことコメント

スクウェアという化け物ゲーム・メーカー

チョコボゲーム業界を分かっていただきたくて、引っ張るだけ引っ張ってしまいました。ようやくスクウェアの話題です。残りの紙面は半分もありません。わー、どうしよう。言いたいことはたくさんあるのに。

気を取り直して話を進めます。

スクウェアという会社、「波のある派」と言いながら下手をすると「コンスタント派」を上回ってしまうほどの企業規模を誇り、「FF」シリーズが出た日には軽く第1位のメーカーになってしまうほどの勢いの会社です。他の「波のある派」とは質が違います。

スクウェアは王道メーカーではありません。
あえて言えば、次の企業群のような存在です。

●乳製品業界の小岩井乳業
●AV業界のソニー、パイオニア
●パソコン業界のアップル
●クルマ業界のホンダ
●スーパー業界のイトーヨーカ堂
●ハンバーガー業界のモスバーガー

いいものは作るけれど、個性的な分野で勝負という「クセのあるメーカー」なのです。

1982年に産声をあげたスクウェアが現在の地位を築くきっかけとなったのは、1984年の「ファイナルファンタジーI」でした。これは、「ドラゴンクエストI」の翌年です。「ドラクエ」のパクリと言って良いでしょう。

しかし、エニックスが「ドラクエ」1本しかヒットシリーズを出せなかったのと対照的に、スクウェアは RPG (ロールプレイング・ゲーム) で次々にミリオンセラーのシリーズを排出します。

●プレステでも2作目になろうとしている「ロマンシング・サ・ガ」シリーズ (計5作)
●なぜか、プレステで1作も発表しておらず、スーパー・ファミコンの3作で止まっている「聖剣伝説」 (計3作)
●200万本も売り上げておきながら、ドラクエの生みの親との共同開発なので、残念なことにシリーズ化ができない「クロノトリガー」 (計1作)
●任天堂と喧嘩してシリーズ化できなくなった「マリオ RPG」(計1作)

●ミリオンセラーの仲間入りを果たしたので、シリーズ化はまず間違いない「パラサイト・イヴ」と「ゼノギアス」 (各1作)
●ブランド・ファミリー政策でゲーム業界でもブランド理論が成立することを証明した、シミュレーション分野初の100万枚を売りまくった「ファイナルファンタジー・タクティックス」(計1作)
●キャラクター路線を突っ走った「チョコボの不思議なダンジョン」(計2作)

【注】プレステ用「聖剣伝説」はこの号の発表後に99年夏発売予定と発表されました (99年4月現在)

実に8シリーズのミリオンセラーを持っているのです。
しかも、そのジャンルは RPG 7シリーズ、戦略シミュレーション1シリーズ。アクションもなければ、格闘もレースもパズルもありません。
実質的に RPGだけで稼ぎまくっています。「RPGの雄」と言われるゆえんです。

——————【お好きな方のために】——————

プレステでのスクウェアの販売本数

スクウェアが壊れ始めた

チュンリーでは、スクウェアは他のジャンルのタイトルを出していないのかというと、そうでもなくなりつつあります。3年前から一気に格闘、シューティング、アクション、野球ゲーム、アドベンチャー等、あるとあらゆる分野に新タイトルを投入しはじめたからです。

このスクウェア、直前の4年ほど前に慌ただしい動きを見せました。
急激な人材引き抜きです。
それも、ゲーム業界で名だたるタイトルを開発した大物を中心とした引き抜きです。

格闘ゲームでは、「鉄拳」「バーチャファイター」といったミリオンセラーの開発スタッフを引き抜き、新たにドリームファクトリーという格闘ゲームをメインとするゲームの制作会社を設立。スクウェアのプレステ参入第1弾「トバルNo.1」はここから生まれたものです。

シミュレーション分野では、マニアックなファンを多く持つ「タクティックス・オウガ」を制作したプロデューサーを引き抜きました。「ファイナルファンタジー・タクティックス」は彼の作品です。

他のソフト会社は当然のことながら猛反発。「外道」「汚いやり方」等々、非難の声があちこちから上がったものです。
店頭上場を果たしたために拡大路線を突っ走った結果という見方が大勢を占めています。

我々ユーザーにとってはどうでも良い話です。おもしろいゲームで遊べるなら、優秀な開発者がどこにいようが構いません。
…というのがユーザーの本音のはずなのですが、どうも、かなりの数のユーザーはそう思っていないようです。
移籍した先のスクウェアで作ったゲームがつまらないわけではありません…と言いたいのですが、どうも、それが真相なのです。

RPG以外のスクウェア新タイトルが売れていないのです。
「鉄拳」が200万本、「バーチャファイター」200万本のスタッフが作った「トバル No.1」は65万本しか売れていません。

65万という数字自体は立派です。5万本売れれば採算がとれると言われるゲーム業界です。利益は真っ黒です。1998年の売上ベスト100の20位程度には入ります。贅沢な悩みです。例えば、エニックスの「ドラクエ」の次に売れたタイトルは「スターオーシャン2」で、エニックスは「ドラクエに続く2番目の柱」とコメントしているくらいです。このタイトルの売上が70万本。ビール業界で言うところの一番搾りのような存在だと思えば、感覚がつかめるでしょう。

牌神だけど、200万本タイトルのスタッフが結集して開発したソフトです。どう見ても65万本は少なすぎる本数です。

悲惨な出来事も起きています。
「アインハンダー」というシューティング・タイプのタイトルは10万本しか売れませんでした。AQUES(アクエス)ブランドで出した麻雀ゲームや野球ゲームも3万本と聞いています。

「FF7」の35分の1です。

スクウェアの取り分が定価の半分として、8,000万円の売上しかありません。製作費が2億円だとすると1億2千万円の大赤字。ちょっとしたプロダクションでは即倒産です。いや、全国に1,000社あると言われているゲーム製作会社の3分の2は危ないでしょう。そんな失敗作が何本もあるスクウェア。FFシリーズの売上がなければとうていできない芸当です。

ゲーム売上ベスト100でスクウェア作品1タイトルあたりの本数が71万本と他社平均より多いのは、「ヒット作ばかり出している」のではなく、「100位以下どころか赤字のどうにも売れないタイトルと、大ヒット作が極端」というだけなのです。そして、その分岐点は「RPGかそれ以外のジャンルか」という一点です。

「いや、大きな会社だって失敗はある。それを怖がっていたら何にもできないじゃないか」

至極ごもっともです。私もそう思います。
ただ、問題は「失敗したこと」ではなく「失敗の仕方」です。
商品を出す企業で「失敗することは分かっていた」などというところはありません。皆、成功を信じて世に送り出すのです。そんな発言があったとすれば、それは「言い訳」か「仕事をなめているか」のどちらかです。

「らしさ」を考えない商品は失敗する

野球一体、何が起こったのでしょうか。
結論を急ぎましょう。
スクウェアは自分の「らしさ」を計算せず、従来の成功法則のまま拡大路線を採用してしまったのです。それが失敗の原因です。

「らしさ」とは何か。
松下電器は誰もが認める世界的大企業です。商品に対する信頼もあります。じゃあ、この松下が100%果汁の新製品「パナソニック・オレンジジュース100」を出したら、売れるか?
そのジュースが機械油の臭いがしそうなのは、私だけではないでしょう。

逆に、みんなが知っている大企業コカコーラがMDヘッドフォンステレオを発売したところで、まず買おうという気になりません。ネーミングとキャッチ・コピーは

ジョージア無糖・MDポータブル
プレイ時間200時間、クリアな音質、響く低音」

うーん。かなり無理があります(笑)

スクウェアはあくまでもRPGのゲーム・メーカーと生活者には思われています。
「トバル No.1」や「アインハンダー」を排出する格闘ゲーム・メーカーでも、アクションゲーム・メーカーでもありません。

「今までの FFシリーズは面白かった。だから、新作RPGも面白い『だろう』」という期待はありますが、「今までのRPGは面白かった。だから、野球ゲームも面白いだろう」とは生活者は考えません。

いや、むしろ「RPGが得意な会社に臣白いアクションゲームなんか開発できないよね」となるのがオチです。
「『バーチャファイター』や『鉄拳』のスタッフが作ったから、面白いだろう」とは考えません。いや、一般の生活者はそのこと自体知りません。

「ゲームは面白ければ良い」というのは半分ウソなのです。

ゲームには「面白さの保証」が必要です。特に、サンプルがなく立ち読みもない、商品を買わないと内容が判断できないものには、「ソンをしないための保証」が必要です。それが、「スクウェア」というメーカー名ですし「RPG」のジャンル名です。

だから、「面白さの保証」がない「トバルNo.1」は200万本級のスタッフが開発しても60万しか売れませんでした。
一方、マニアックなファンがいるとはいえ30万本しか売れていない「タクティックス・オウガ」のプロデューサーの手がけた「『ファイナルファンタジー』タクティックス」は「ファイナルファンタジー」の名前があったので100万本を売った、という訳です。

「えっ? そんなこと言われたってピンと来ないよ。
だって、『FF7』は知ってるけど『スクウェア』なんて名前、知らない。
それに、今やっている『幻想水滸伝 II』は面白いけど、どのメーカーが出してるなんて覚えてないし」

はい。大半のユーザーがそうでしょう。
一般商品と違って、ゲームはちょっと複雑です (正確には「違う」のではなく「未成熟」ですが)。

上に上げた「らしさ」のメカニズムは、マニアックなユーザーと雑誌の編集者に当てはまります。彼らは、メーカーや開発者などの裏話には詳しいからです。さて、そういった彼らだけがゲームを買うのなら、100万本なんて絶対に出荷できません。
でも、彼らは一般ユーザーに多大な影響を与えます。

例えば、雑誌社は自分たちの判断で大きく取り上げるか、小さい囲み記事にするかを決めます。当然、大きく取り上げたゲームほど読者の反響が大きくなります。また、ゲームの場合「読者の期待するこれから売られるゲーム」というアンケートを常に取って発表しています。記事作りにはそれらのデータが大きく影響します。

すると、読者と雑誌社のシーソーゲームが起こります。
特定のゲームの前人気がどんどん膨れ上がって行くのです。雑誌の購読者はゲームのマニアです。ゲーム人口1,600万人のうち、1冊でもゲーム雑誌を読んでいる一般ユーザーは推定で70万人。つまり、マニア中のマニアしか読んでいないのです。

そして、雑誌の上では今までお話しした「一部の詳しい人たち」が新作に期待を膨らまします。

これが、本当の一般ユーザーにこう流れます。
まず、ゲームソフトを扱う小売店は、雑誌の人気ランキングを参考にして仕入れるかどうかや仕入れ本数を決めます。すると、「雑誌で人気のある」タイトルはいろんな店で売られることになります。売っている小売店の数が多ければ多いほど、客の目に触れ、興味を持たれる割合が近くなるのは当然です。

次に、それらのマニアユーザーは友人にクチコミで広げます。「今度の『サガ・フロンティア2』すげぇ、面白そうだよ」。あるいは、早々とゲーム発売日に入手して「『ゼルダの伝説』まいった。はまったなんてもんじゃないよ」とやるわけです。

場合によっては、こずかいの少ない小中学生は仲間で買うゲームの役割分担を決めます。そして、それを交換し合うのですが、その時に候補として遡上に乗っかるタイトルを決めるのがこういったオピニンオンリーダーの情報です。

もう気づかれたと思いますが、その時には「メーカー」の情報が抜け落ちてしまっています。かくして、数の大半を占める「本当の一般ユーザー」はメーカー名を知らないまま、メーカー名を意識した「マニア + 雑誌」連合軍の影響を受ける、というわけです。

「敵しか知らない」のでは「5戦すら危うい」

スターオーシャン「らしさ」が大事なのは、生活者ができるだけ少ない情報で、効率よく商品を選びたいというニーズから発生しています。

100%果汁を選ぶには、「IBMやソニーのジュースはどうだろう。おいしいかな」、と考えなくても良いわけです。逆に、パソコンを検討するときは「カゴメって、パソコンを出していたっけ」と思い出す必要はありません。パソコンメーカー数社から検討するだけで事足りてしまうのです。

それを計算せずに新分野に挑戦した企業はことごとく粉砕されてきています。

いや、「自分の会社が生活者にどう見られているか」ということすら知らずにいるケースも多いのです。マシなところでも「一流企業だと思われている」ということだけで安心してしまって、「今まで成功したのだから、今回もうまく行くはずだ」という「成功が失敗を生んでしまう」ことがあるのです。

「一流企業」と「らしさ」は違います。有名企業だから商品が売れるというのは、マーケティングの1側面しか見ていません。

「敵を知り、己を知り、百戦危うからず」ということわざがありますが、「敵しか知らない」のでは「5戦すら危うい」と肝に銘じるべきでしょう。
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