■史上最大のトレンド商品と雑誌ダイム【小学館ダイム】

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志は素晴らしい企画

小学館のトレンド誌ダイム(DIME)が、創刊12周年を記念して募集した「史上最大のトレンド商品」が発表になった。これは、日経などの他の大賞とは異なり、一般の投票によって選定される一見公平な企画である。これを見て、おもしろかったことを中心に今回の記事を書いてみよう。

この企画は「あなたにとっての、史上最大のトレンド商品を1つあげてください」という質問に対して、はがきで応募したものをまとめるものだ。
従って、必ずしも売れた商品が上位に食い込むわけではない。かといって、いくらその人の人生の中で影響力を持った商品でも、その数が少なければ上位には食い込めない。

そういう意味では、いかに「深く」「広く」受け入れられたかという点が評価される、極めて理にかなった手法である。
惜しむらくは「トレンド」という言葉を理解した人間でないと、応募できないという点である。調査において、「誰でもわかる言葉遣いで質問文を作成すべき」大原則から外れている。まあ、これは良しとしよう。

気になるのは、調査の場合では常識的な「対象者のプロフィール」についての記述がなく、「老若男女21万人」といううたい文句だけが踊っていた誌面だった。これがくせ者で、後述するようにどうにも回答者に偏りがありそうである。

結果、ダイムという読者に偏りがある雑誌の企画ということもあり、企画の趣旨とは異なった「一部の生活者にしか公平でない」結果になっているようだ。

公表された結果

ダイム誌(1998年7月2日号)には、21万通の投票による結果が40位まで掲載されている。
そのうち、トップ20を上げてみよう。

総数213,417票(カッコ内は得票数)

商品 得票数
1.携帯電話 14,980
2.ザウルス 9,121
3.ウォークマン 8,261
4.パソコン 8,176
5.プリウス 7,540
6.ウィンドウズ95 6,828
7.カーナビゲーション 6,287
8.VAIOシリーズ 5,911
9.デジタルカメラ 5,602
10.プレイステーション 4,750
11.たまごっち 3,999
12.Gショックシリーズ 3,738
13.ノートパソコン 3,609
14.DVD 3,573
15.アップルコンピュータ 3,414
16.ファミリーコンピュータ 3,404
17.リブレットシリーズ 3,386
18.MD 3,002
19.PHS 2,685
20.モバイルギア 2,370

シェアの原則ここでも

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プリウスやたまごっち等、最近のヒット商品が並んでいるのは、この類の無記名投票の常である。つまり、記憶に鮮明なものが常にインパクトがあるというわけだ。

その中でもウォークマンが比較的古い商品でかなり健闘している。それだけ、印象に残った人生における最大商品ということなのだ。

まず目につくのがトップ携帯電話の得票数だ。

14,980票は7%にあたる。

クープマンの目標値の6.8%に合致した数字である。

非助成(あらかじめ選択肢を用意せず、自由にあげてもらう方法)で調査をすると、結果はかなりばらける。サンプル数が200や400等の通常のビジネスでの調査だと、あげられた結果の半分以上が得票数1票や2票などということは珍しくない。

また、実数ではなく%で結果を把握しようとすると、3%や4%などという結果では誤差の範囲なので、数値自体に意味がなくなってしまう。

例えば「セクシーと思う芸能人を1人あげてください」といった質問も同じようなばらつきのある結果になるし、セブンティーンという10代女性のファッション誌が毎年実施している「読者の人気商品」なども、移り気で口コミ中心で人気商品が形成される

ところが、ちゃんとした市場の中で力のあるものなら、非助成のシングルアンサーでもトップブランドが6.8%を越える。10.9%を越える場合は「圧倒的人気」と呼んでも良いほどなのだ。マルチアンサーで測定すれば優に40%を越える化け物人気といっていい。

逆に言えばトップが6.8%を越えないようなら、まず「定番」というべき商品が存在しない市場である。

それでは、6.8%以下は意味がないのか。
ランチェスター戦略を記した故田岡信夫氏によると、2%~3%というのがその下の目安だという。つまり、

6.8% × 41.7%=2.8%

という訳だ。

これを基準にすると今回は6,000票以上のものが、「本当の意味でのトレンド商品」ということになる。上のリストでいえば、7位のカーナビがその分岐ラインに当たる。

つまり、8位以下は「トレンド商品にふさわしくない」リストとして考えるべきなのだ。
従って、ジャンル別ランキングの表が掲載され、記事にコメントが書かれているが、まったく意味のない内容だと言える。

本当のインパクト

イメージカット3小ネタではあるが、ファミコンとスーファミの順位におもしろいものがうかがえる。

ファミコンが16位(3404票)、一方のスーファミは38位(798票)と大きな差がある。販売台数が同じ程度の1,300万台なのに、この差は何なのだろう。

そう。

本当に最初にインパクトを与えてくれたものが強いというマーケティングの真理がかい間見える。ゲームセンターでしか遊べなかったゲームが家庭のテレビでも遊べるという驚き。これが人々の心の奥底に忘れられないものを刻んだということなのだ。

そういう意味でいえば、MDに駆逐されつつあるウォークマンも、20年後の「史上最大のトレンド商品大賞」でMDより上位につけることだろう。
同様に、5位のプリウスもこの仲間入りをすることになろうが、ウォークマンやスーファミ、はたまた携帯電話が提供した程の「価値観の変化」や「生活の変化」ほどの実力はない。基本的にA地点からB地点に人や物を快適に運んでくれる基本機能には変化がないからだ。

真の「新しい商品」を作るのはかくも難しい。

順位に納得がいかない

次に目につくのが、いくつかの商品の順位である。
どうにも納得がいかないものがところどころに散らばっているのだ。
携帯電話が1位、ウォークマンが3位というのは納得がいく。両方とも累計販売台数が3,300万件(契約者数)、1億7千万台と半端な数字ではないからだ。

しかし、2位のザウルスは初年度こそ40万台と電子手帳としては大ヒットを記録したものの、後継機種では新たなユーザーを獲得できず、「累計で」100万台程度にとどまっているはずの商品である。
しかも、携帯電話、ウォークマンがオールターゲットに広がったのに対して、ザウルスは今も昔も30代後半から40代のビジネスマンに支持されているに過ぎない。

もっと言ってしまえば、普通にビジネスマンを対象とした生活者調査をしても、電子手帳のユーザー比率は10%に満たないのである。同じビジネスマンで、携帯電話60%、ウォークマン70%と比較すると、その量はあまりにも2位とするには少なすぎる。

実は、同様の傾向が、8位のVAIO(超薄型軽量ノートパソコンで、現在大ヒット中)、9位のデジカメ、10位のプレステ、17位のリブレット、20位のモバイルギアで見え隠れする。

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デジカメは確かに一部の層に無茶苦茶ウケた商品だ。私が3年前にあるインターネットの会合に出席した時、90人の出席者の中でカメラを持っていた9人の内8人がデジカメだったというほど、一部の層の商品なのだ。確かに年間100万台以上の出荷があるとはいえ、まだ、一般層に売れたり認知された商品ではない。

プレステは確かに国内1,000万台、海外で2,000万台を出荷する化け物商品であるし、家庭用ゲーム機の日本市場では独占だ。が、同時に小学生以下の子どもが離れてしまった商品でもあるし、女性が比較的多いゲーム機とはいっても、まだまだユーザー全体の15%程度しか占めていない。ただ、20代以上の大人の男性には支持されたゲーム機ではある。

どうにも、デジタル機器に偏り過ぎているのだ。 そして、「老若男女」というからには、絶対に出てきてもおかしくないプリクラ(29位1090票)やポケモン(グッズで22位2211票)がトップ20位以内に登場しない。

ここでプンブン匂うのが、雑誌ダイムの読者像である。

同誌の読者は一言でいえば30~40代のホワイトカラー、特に企画部門のビジネスマンである。そして、パソコンを筆頭にデジタル機器に興味が高く、マニアックな志向を持っている。そう。正に、上に上げたデジカメやザウルス、そして、VAIOシリーズを奉る面々なのだ。

確認はしていないので断定はできないが、どうにも困った誤解を産む企画でありそうな気がする。

雑誌ダイムの落ちぶれた姿

「雑誌なのだから、そんなにいじめなさんな」と周囲の人間に良く言われる。

確かに、雑誌ほどいい加減なメディアも少ない。間違いが多く、雑な作りをしているため、物事のとらえ方が一面的なのだ。いや、雑誌の宿命であるセンセーションを狙った一面的、独善的誌面構成ならまだ許せるが、編集者の力不足や能力不足、あるいは、「この程度で喜ぶだろう」という読者をなめた姿勢に起因するならば頂けない話だ。

最も分かりやすいのが、パソコン・デジタル関連誌である。
雑誌創刊ラッシュで編集者不足になったこの業界。パソコンに詳しければ編集者になれてしまうほど引く手あまただった。が、いくらなんでも記事で「●●とか▲▲」や「あと、●●●」、「というか…」という表現が余りにも多い。いや、話口調で構成されている記事の話ではない。堂々とした巻頭記事や特集記事で、こうなのだ。「編集者=プロの文章書き」という図式はったくあてはまらない。雑誌の質が落ちるのは当たり前である。

私はダイムの創刊号からの読者だ。当時、メーカーの商品企画室に勤務していた。
それが、GOROという同じ小学館のズリネタ雑誌が廃刊になり、ダイム編集部にGOROの編集者が大挙して異動になったあたりから、ダイムの紙面ががらりとナンパ方向に変わってしまった。

それまでのダイムは商品をきっちりと見ていた。だから、商品カットにモデルはほとんど使用していなかった。商品をちゃんと見せるにはどうするかという視点で写真が撮られていた。そして色っぽい話といえば、水着写真が唯一掲載されたのが「ミスコン」のコーナーだけだったのだ。

イメージカット5それが、GORO編集がダイム編集部を牛耳ったとたん、水着モデルは意味なく出現するわ、商品カットに胸元むきだしで俯瞰アップが出るわ、仕舞いにはシルエットとはいえ、全裸の女性しかも乳首が見えてしまうカットまで掲載されるという始末。

かつてのトレンド情報誌の面影は号を追うに従って消えていったものだった。

誤解のないように添えておきたいが、私はヌードや胸元の谷間が嫌いなわけではない。そういう点については健康な(?)中年男性である。また品位という言葉を振りかざすつもりもない。

しかし、ダイムで裸は見たくない。
理由は簡単である。
私がダイムに求めるのは商品や生活者の情報であるからだ。女性の裸ではないし、スラリと伸びたミニスカートから覗く太ももでもない。
女性の裸体や巨乳の谷間が見たければ、宝島やフライディを買えば良い。

雑誌等は使い分けをすれば良いのだし、それが雑誌の良いところだ(つまり、クラスメディアだ)と自ら主張しているではないか。どうも、この業界は「ジャーナリズム」等とカッコイイことを言っている割には、言うこととやることが違う、好きになれない分野の一つである。

胸元に商品を挟んで紹介するカットに割くエネルギーを、街角のクチコミ情報の収集やメーカーインタビューに費やして欲しいのだ。
他の雑誌なら「しょうがないな」とあきらめられる、こういったアンケート集計分析の未熟さも、ダイムなら腹が立つのである。
いつか機会があれば紹介したいが、家庭用ゲーム機のトップ誌「週刊ファミ通」の分析は素人以下であるが、腹はたたない。

イメージカット6結局、私のダイムに対する期待値が高いがゆえの腹立たしさである。1読者の勝手な言い分だ。

冷静にいえば、GORO編集部に乗っ取られた時点で、ダイムはトレンド情報誌というポジションを自ら放棄し、トレンド・エンターテイメント誌に向かって進んでいったと解釈するのが正しいのだろう。確信犯である。

日経トレンディやSPA!等の台頭によって、差別化する必要性が生じたのかも知れないし、単純に一般誌化して、売り上げを伸ばしたかったからなのかも知れない。事実、発行部数は1.5倍になっているので成功なのだ。

まぁ、私のような偏屈な読者は企画広告がページ数の半分も占めるような日経トレンディか、取材がいい加減な割にプレステージが高い日経流通新聞をメインにしなければならないようだ。
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