■オンラインゲームの行方【ファイナルファンタジー11】

artc20021101大変おませたしました。FF11です。
2002年11月7日のウィンドウズ版に合わせて急いで書いたものです。
1プレーヤーの実体験に基づいた視点を、客観的なコンサルタントの目で料理するとこうなるという記事に仕立て上げました。
それでは「ヴァナでお逢いしましょう」。
10年後の第2弾はこちらです。■パルプンテとメタルスライムはルーラの彼方に消える【ネットRPG】2012年12月16日

今日のテーマFF11

今日のテーマは家庭用ゲーム会社の大手スクウェアの初めてのネットゲーム、「ファイナルファンタジー11」です。
あ、今、イヤな顔をした読者が最低でも15人は頭に浮かびました(笑)
というのも、過去に2回ゲームの話をしたのですが、読者からの反応がさっぱりだったからです。

それでも、私は書きます(笑)
二の轍を踏んでしまうかも知れませんが、書かずにはいられない面白いテーマなのです。

まず、記事の主役である「ファイナルファンタジー11(以下FF11)」を説明しなければなりません。
FFはプレイスーションなどの家庭用ゲーム機で遊ぶゲームで、ドラゴンクエストと並んで日本の二大RPGと言われてきました。

RPGとは「ロールプレイングゲーム」の略で、物語を追うようにテレビゲーム上の主人公を操作して、その成長を楽しむものです。
敵(モンスターや悪魔など)と戦って勝つことによって、「経験値」と呼ばれる報酬が増えるたびに「レベル」が上がり、攻撃力や防御力が強くなる。これを繰り返すことで、最初は相手にもならなかった敵のボスに勝つことができるようになる。
物語に沿ってゲーム進行をする中でその達成感や爽快感を味わうのがRPGです。

多くのRPGは剣と魔法と竜が登場する中世世界を舞台にして繰り広げられる物語です。最近のヒット映画「ロード・オブ・ザ・リング」をお手本にして作ったゲームといえば分かりやすいでしょうか。

「ファイナルファンタジー11」はシリーズ初のネットゲームです。
サービスが始まったのが事実上今年の6月ですが大きな問題を抱えています。
売上げが投資額に追いついていないのです。つまり赤字。

最高400万枚もの売上げを上げたことがあるFFシリーズなのに、今回のFF11はたったの15万枚。一方、投資額はゲームの制作費用だけでなく、サーバーやネットワーク構築のためのお金も必要になる。
公式な費用は発表していませんが、任天堂社長をはじめ投資の回収ができていないと考える関係者が多数います。

当のスクウェアは失敗を認めていません。
ネットワークゲームの商売の仕方が従来と違うからというのが彼らの言う理由です。

どういうことか。
FF10までのFFは客が店頭でソフトを買い、家に持ち帰れば売上げが立ちます。
そして彼らはゲーム機にソフトをセットするだけ。一人で遊びます。

しかし、FF11はネットゲームです。ネットにつながなくては遊べません。そして、赤の他人とチームを組んで遊びます。
そのための費用が店頭のゲーム購入費用の他に月々1,280円必要になります。
売りきりではなく入会金プラス会費制の商売の仕方です。
スクウェアはこの月々費用も売上げに計算に入れろと主張しているのです。

例えば、ユーザー1人が1年間遊べばソフト購入代金の3倍が売上げになる。
スクウェアはFF11のサービスを4~5年続けると宣言していますから、ソフト単体の約10倍の売上げを見込んでいることになります。

一見、スクウェアは正しいように見えます。
しかし、

【売上げ】=【売上げ本数】X【遊ぶ期間の平均】

をきちんと考えないと、成功か失敗かの判断はできません。
売上げ本数だけでなく、スクウェアの考える4~5年を本当にユーザーが遊んでくれるのか。検討する要素はこの2つです。

では、彼らの要望に従って計算してみましょう。
まず売上本数をみてみます。
15万本しかありませんから、それを3倍(1年間遊ぶ)したところで45万本。シリーズ最高の売上本数の1/8にしかならない。

11月7日にウィンドウズ版が発売されますが、予約で3~5万本だと発表されています。人気ゲームの予約本数の比率を考えても、プレイーション版と合わせて25万本いきません。
1年間遊ぶとして75万本分。最盛期の1/5です。

なあんだ。
スクウェアの主張する「月々の収入」を計算したところで、400万本を売り上げるシリーズなのに大したことはありません。
設備投資金額は分かりませんが、恐らく回収できないでしよう。

発売後4カ月経った現在の売上げも微々たるものです。
正確な数字は分かりませんが、ゲーム雑誌ファミ通のベスト30を見ていると、週間売上げ2,000本以上のタイトルにFF11の名前が乗っていません。すると週間数100本の売上げと見た方が妥当でしょう。ほとんどゼロに等しい。

感覚を数字に置き換える

次の検討要素は「遊ぶ期間の平均」です。
こればかりは誰にも分かりません。簡単に言えば

「面白ければずっと続ける人が多い」が「つまらなければ解約する人が多くなる」

という単純な方程式で考えるしかありません。

しかし、推測はできます。「面白い」という感覚を「数字」に置き換えてみます。
今までのRPG(以下「オフラインゲーム」と呼びます)は大体50時間くらいのプレイ時間で終わるように設計されています。
これがメーカーの考える「適性プレイ時間」だとすれば、1日2~3時間を2~3日おきにプレイすれば、約2ヶ月になる計算です。

次にネットゲームがオフラインゲームより魅力的だと好意的に解釈します。
その代表的存在が、ネットゲームの世界で「廃人」と呼ばれるネットゲームに没頭する人たちです(本当の廃人は、ネットゲームを遊ぶために会社を辞めたり、転職してしまうような人たちのことです)。

私の友人は今までのFFですら500時間遊びますが、FF11ですでに1,000時間を超えました。自他とともに認める「廃人クラス」のユーザーです。
その彼女が「そろそろレベル上げに飽きてきた」と言い始めています。

FF11が普通のゲームの2倍魅力的だと乱暴に仮定すれば、上記の普通の人たちは約4ヶ月で飽き始める計算になります。
解約までの惰性期間を考慮に入れても、先の4ヶ月は6ヶ月間にしか伸びません。
スクウェアが計画した4~5年どころか、私が仮定した1年間にすら足りません。

うーん、これでは、スクウェアがどう主張しても、根本的に今までのゲーム内容である限り、そう長くは続かないゲームであり、そして彼らの言う「ビジネス」にもなりそうにありません。
私が「FF11はビジネスとして失敗である」という根拠はここにあります。

私がこんな説明をしなくても、当のスクウェアの経営陣は間接的に認めているようです。
先日の株主決算発表の場でネットゲームへの投資の縮小が発表されたからです。失敗とは思っていなくても、経営に影響するほど投資額が膨らみ、回収が容易でないことを認めたからこその縮小方針です。

期待と価格のアンバランス

先ほど、

【売上げ】=【売上げ本数】X【遊ぶ期間の平均】

といいました。
ここからは、この公式を将来予測にしてみます。

というのも、FF11の擁護派には「バージョンアップによって、爆発的にユーザーが増えた海外のネットゲームもある。だから、FF11だって今後売れるかも知れない」と主張する人も多いからです。

そのことを検討するために、別の角度からみてみます。
マーケティングでは常套手段である「生活者の購買心理」の順番です。
すなわち、次の2つのステップです。

●FF11を知らない人でも買いたくなるか(トライアル購入意向)
●FF11をやった人が満足し、継続したいか/それを他人に広めたいか(レギュラー購入意向)

この2つのことを評価することで、FF11はこれから売上げを伸ばすことができるかをみてみようというわけです。

ここからはゲーム内容の話をしなければ記事が進みません。
そこで、あえて記事を書くために、FF11を購入し、入会することにしました・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
すみません、私は嘘をつきました(笑)
半分は私の趣味です・・・あ、いえ、80%が趣味です(汗)

正直な話をすると、私はFF11を購入しようかどうか迷っていました。FFはシリーズ10本すべてクリアしただけでなく、ドラクエなどRPGは300タイトル以上を遊んできた、自他ともに認めるゲーム好きの私です。
そんな私ですらFF11を購入しようかどうかを迷ったのは、私のネットゲームのイメージが余り良くなかったからです。

ネット接続なんて、スピードが遅いから快適なゲームは楽しめないだろう、他の人間と一緒に遊ぶなんて面倒くさそうだ。自分のペースでゲームを楽しみたい。第一、私が遊べるのは夜中の1時から朝の6時くらいまで。そんな時間に遊んでいるヤツなんかいるのか。

それでも、今までと同じく1万円以下で楽しめるならトライもしてみようという気にもなるのですが、ソフト代金だけでなくゲームに必要なオプション機器を揃えると、大きな出費になります。
事前の期待が大きければまだしも、さすがの私もおいそれとは手が出ない金額です。

先に紹介した「廃人クラス」の友人の執拗な勧誘と(「一緒にやろうよ」というヤツです)、うまくいったらメルマガ記事のネタになるかなという不純な動機さえなければ、入会する気にはなれなかったというのが本音です。

まずここに大きな関門があります。
私はゲーム好きです。FFも好きです。可処分所得もそこそこあります。
ゲーム産業から見れば大変良いお得意さんのはずです。
しかし、その私ですら躊躇してしまうほど、私にとってのFF11は「面白そう」という魅力・事前情報と「それに見合った価格の安さ」のバランスが取れていないゲームなのです。
一般ユーザーは推して知るべしです。

ゲームのおもしろさを事前に知らせる役目はスクウェア、ネット接続環境を整える役目はソニーですから、責任はそれぞれにあります。しかし、どちらか一方に問題が少なければ(「価格は高いけど面白そうだ」あるいは「面白いかどうかは分からないけど、ちょっと試してもいい位の金額でオプションが買える」)、ずいぶんと違うはずです。

実例を挙げましょう。
FF11を開始するにはこれだけの費用がかかります。5万円強也。

●ソフト代金(店頭購入) 7,800円
●ネット接続用オプション 18,000円
●コントローラ付き専用キーボード 10,000円
【注1】
●FF11月額費用(第1カ月目) 1,280円
●ADSL入会(So-net)(第1カ月目費用含む、8MB、モデム買取) 17,003円
【注2】
合計 54,083円

【注1】専用キーボードがなくても遊べますが、「ゲーム機能付きチャットソフト(後述)」であるFF11では、事実上、快適に遊ぶのは不可能ですので、初期費用に含めました。
【注2】電話回線でも遊べますが、電話料金を支払うともっと高くなります。

私の場合はすでにADSLに入っていたので17,000円は必要ありませんでしたが、代わりに壊れやすいプレイステーションを買い換えましたから合計金額66,880円。なんと7万円もの出費です。普通のゲーム10本分。これで、FF11が10倍楽しくなければ腹も立つというものです。
友人の強い勧誘とメルマガのネタがなければ手が出ないと私が先ほど書いたのも、お分かり頂けるかと思います。

継続的なビジネスでは、最初の敷居を低くするのはあまりにも定番中の定番です。
1円、10円で投げ売りする携帯電話のようにする必要はまったくありませんが、月々の基本料や通話料で儲けるビジネスなら、最初の敷居である携帯電話の機械は安い方が普及する。

ゲーム業界でもニンテンドーのゲームキューブはソニーの半分以下の8,000円でオプションが買えます。安い価格設定で本気でネットゲームを普及させようとしているのです。

それなのに、ソニーもスクウェアも「FFシリーズだからファンが多い。従って、多少オプションやディスクの金額が高くても、申し込むユーザーが多いだろう」といった風情の価格設定。
殿様と殿様ががっちりタッグを組むとこうなるという、素晴らしいお手本です。

FF11を知らない人でも買いたくなるか

とはいうものの、事前の期待が大きければ5万円を支払っても良いと考えるユーザーだって多くなります。
さて、ここでステップ1「FF11を知らない人でも買いたくなるか(トライアル購入意向)」に話題を移しましょう。

私たちがゲームのおもしろさを知るには、「広告」と「クチコミ」が主なものです。

さて広告はというと・・・スクウェアはピントはずれのことをしていただけです。
だって、渋谷のど真ん中で数十メートル四方の大きな看板に「ヴァナで待ち合わせ」なんてキャッチフレーズだけの広告では、一体なんのこっちゃやら訳が分からないのが普通の神経というものです。

「ヴァナディールって何?」
「待ち合わせって、どういう意味?ゲームでしょ?え、何それ?」
「オンラインゲームって何?普通のゲームとどう違うの?」

てなもんです。

ゲーム誌での紹介も広告のうちですが、FF11はFF10ほどの紹介記事は掲載されていませんでした。あの「スクウェア親衛隊」である(笑)週刊ファミ通ですら、初期の頃だけ紹介記事を載せていたものの、現在ではまったくと言っていいほど紹介記事が掲載されていません。

クチコミも「面白さを知る」大きな要素です。
その最大のものは小中学生たちの「友達とゲームを買いあって貸し借りすること」です。買うゲームがだぶらないように、「俺はこれを買うからお前はこれにしな」というタイトル調整をするための仲間やグループすらあるくらいです。
しかし、価格の高さがそれを阻害しているだけでなく、まだ普及していないADSLをゲームだけのために設置してもらえる家庭などありません。

ネット掲示板も大きな要素です。
しかし、ネットでは「文句を言うヤツがかっこいい=俺は偉いんだ」文化が根付いていますから、たいていは良く書かれない。
開発リーダー名を名指しで「死ね」「ボケ」などの罵声は当たり前の世界です。

まず、ここで一旦まとめましょう。
購入に至るまでに心理的なカベが大きいことが分かりました。
商品購入の大きなポイントである「期待」と「価格」のバランスがどちらも崩れていること。

期待を上げるにもスクウェアはピント外れ、ゲーム誌紹介、クチコミ、ネット掲示板、どれもこれも期待を上げることはできない。
ステップ1は残念ながら全滅でした。

さて、ステップ2の「FF11をやった人が満足し、継続したいか(レギュラー購入意向)」に話を移しましょう。
月々の費用を大きな収入源とするゲームですから、通常のゲーム以上に売上げに直結する要素です。また、クチコミにも影響しますから、さらに大事なポイントでもあります。

ゲームの面白さを客観的に判断するのは至難の業です。
私のメルマガでは客観的に表現できる機能やスペックをテーマにすることもありますが、エンターテイメントや食品・飲料のように、個々人の価値観や好みに大きく関わる要素はずっと無視してきました。
しかし、今回ばかりは避けて通れない道です。
今までのタブーを破ってトライすることにします。

さて、ゲームを始めてみると、最初の数時間は「昔のRPG」という印象です。
なかなか敵に勝てず、すぐ死んでしまいます。

これは私だけの感覚ではありません。友人もネット掲示板でもほとんどのユーザーがこの「レベル初期の苦しさ」を訴えています。
オフラインのゲームはは延々と戦闘を繰り返す必要がないようにゲーム設計が変わってきたのですが、一気にここにきて20年前に戻ってしまったかのごとくです。

ちなみに、初期の頃のPRGはクリアするために3,000回くらいの戦闘をします。
最近のRPGはその半分の1,500くらいでクリアできるようになっているのです。

FF11の苦しさ3態

楽しいハズのゲームが苦しいゲームになっている。
昔、あるRPGの開発者が「達成感というのはそれまでの過程が苦しければ苦しいほど、強いものなんです。だから、どれだけユーザーを苦しめるのかが勝負です」なんてインタビューで語っていました。
とんでもない誤解です。

FF11が苦しいゲームになっているのには2つの理由があります。
ひとつは、FF11はマゾ的なゲームである海外のRPGを手本に作られたからです。海外のゲームはオフラインであっても「物語の最後まで到達できないのが当たり前」の前提で作られています。

一方、ドラゴンクエストのような和製RPGが人気が出たのは「最後まで到達することが当然」という姿勢で作られているからです。ちょっと頑張れば、誰でも最後まで物語を進めることができる。
FFシリーズはFF10までは「物語を終えるのが当たり前」でファンを増やしてきたのに、FF11では「ネットゲームだから」という理由で、生活者を無視して180度方向転換をしている。

もうひとつの理由はビジネス上の問題です。
ネットゲームは月々の収入が命です。従って、簡単にゲームを終わらせてしまうと収入が激減してしまいます。だから、引き延ばしをはかるのが儲かるポイントです。

苦労するのは戦闘だけではありません。ゲーム上のお金がなかなか手に入らない。
オフラインゲームではモンスターを倒すと経験値とともに、なぜかその世界で通用するお金が落ちます。
ストーリーを追いかけていく内にモンスターを倒し、経験値とお金が自然と溜まっていく。そのお金を使って、ゲーム上の武器屋や防具屋、魔法屋で、より強い武器や防具を買うシステムになっています。

しかし、FF11ではお金がまったく溜まらない。
ゲームを初めて10時間も経ったのに手持ちのお金は500ギルもない。一方、強い武器を買おうと店をのぞくと値段は10,000ギルもする。防具も揃えなければならないし、この先、一体どうなるのか。がっくりとする瞬間です。
このゲームではお金稼ぎ「だけ」のためにゲームをしなければならないのですが、自分で工夫して金稼ぎの方法を見つけない限り、どうにも先に進めないのです。

先輩格の人間もその方法を明かしたくありません。せっかく苦労して見つけた金稼ぎの方法を真似されたら自分の稼ぎ分が減ってしまうからです。
ボランティア精神旺盛のネット社会ですが、この時ばかりは彼らですら出し惜しみをするくらいなのです。

そうなると、現実の「円」とゲームの貨幣単位「ギル」とを交換しようとする動きが出てきます。
「リアル・マネー・トレード(RMT)」と呼ばれるアングラ市場です。
数万円単位のお金が乱れ飛ぶ世界です。
ゲーム上で巨額の大金を稼ぐことができた人間は現金数十万円もの現金を手にすることができる。

苦労の3番目はチームがなかなか作れない場合があることです。
例えば、後述するように職業には人気のあるものとないものがあります。
人気がないものを選んでしまったら悲惨な場合があります。チーム募集をしてもお声がかからない。自分で集めようと思っても断られてしまう。かといって、FF11ではチームを組まないとゲームを進めることが困難です。

ジュノという街で

「4時間も何もできずに立っていたんだー、●●さん(私のキャラ名)助けてー」

と夜中にログインしたばかりの私に、チーム組みを手伝って欲しい旨のメッセージを送ってきたフレンドがいました。そんな光景は日常茶飯事です。

FF11の人間模様

さて、ゲーム開始時の話に戻ります。
開始後10時間。あまりにもゲームがつまらないので、7万円の投資を諦めて解約しようかとウロウロしているうちに、見知らぬ人から電話がかかってきました。

「黒魔道士レベル12ですが、ご一緒しませんか?」

このゲームではチャットやメールができます。その機能を使って仲間を集め、戦術を相談し、強い敵と戦います。モンスターと戦うのに飽きた人間たちはFF11を「戦闘機能付きチャットソフト」と揶揄するくらい、ゲーム進行はそっちのけでチャットにハマる人もいるくらいです。

ゲームが始まって10時間程度の「初心者(=私)」には、見知らぬ他の人間に声をかけることすら恥ずかしくもあり、面倒でもあります。
その時の私もどうやったら人と話ができるのかも分からず、返事をするのに10分もコントローラーと格闘した末、ようやく返事を返しました。

「はい、是非、お願いします」
「返事がなかったので、断られたのかと思いましたw
今どこにいますか。西ランフォールまで出てこれますか」

こんな会話で待ち合わせをし、合流してゲームが進みます。
会うなり彼は私の装備を見つめます。するといきなり指輪を差し出しました。

「これ、あげます。使ってください」

武器や装備はめちゃくちゃ高価なので、私はゲーム開始時の装備以外のものは身につけていませんでした。その時持っていたなけなしのお金を出そうにも、その指輪がいくらのものなのかも分からないと出しようがない。モンスターと戦って拾ったなけなしのアイテムを差し出しましたが、受け取ってくれません。
恥ずかしくもあり、嬉しくもありました。

それからの小一時間、彼主導でモンスター狩りが進みます。
途中でコントローラの操作の仕方を解説してくれたり、ゲームの進め方の助言をしてくれたりと、ゲームを始めて間もない私でも面倒な作業をしてくれたのは痛いほど良く分かります。

まもなく、チームを解散し、最後に彼が言ったのはなんのことのない普通の言葉でした。

「楽しかったですwありがとう!
これから頑張ってくださいね!」

思いもよらず良い人に会えて楽しかったのが私の最初のチームプレイでした。ちなみに、FF11では6人までのチームが作れます。
彼にもらった指輪はその後、随分と長期間、身につけていました。

「ああ、これがネットゲームにはまる原因なんだ」

と納得したのを今でも覚えています。
ゲーム機相手では絶対に得られない相手の反応。思うとおりに動いてくれない反面、思いがけないところで助けてくれたり、考え方が分かったり。
ネットゲームとは実に人間くさい世界なのでした。

私がFF11を面白いと思っているのはまさにこの部分です。
ドロドロした人間関係や本性が現れる。現実社会でもあることですが、それがもっともっと顕著に、そして凝縮したカタチで表出するのです。
ということは、いい人もいればイヤなヤツもいることに他なりません。
そして、相手の姿が見えることは人間くささを増幅します。

例えば、普通のチャットでは発言しない人はいないのと変わりありません。
しかし、ゲームでは無口な人でも画面に見える「人」という存在です。
それが妙に現実社会とだぶってくる。
無口だけどモンスターに頭から突っ込んでいき、チームが危なくなると真っ先にモンスターの攻撃を一身に受けて他の人たちを守ろうとする人。その逆に仲間を見捨てて我先に逃げる人。

ブツブツと不満ばかり言っている人、場を盛り上げようと気配りを欠かさない人。ナンパ目的で女性から携帯電話を聞き出そうとする人や男性に武器や装備をねだる女性キャラ。

伝聞ですが、皆から信頼され、親しまれている小コミュニティリーダーがいました。彼は戦闘指示も的確。何かあればどこにいても「何か悩んでるの?」とメンバーのために駆けつけてくれる。社会人もいれば40代のおっさんもいるこのコミュニティ・リーダーが実は16才の高校生だったと分かって、みんなびっくり。人の資質に年齢は関係ないといいますが、それを体現してしまう。

それだけではありません。
人間性ということでいえば、人種差別や職業の貴賤に対する人間の醜さも噴出します。

チームで戦闘するために職業や種族の特性を生かしたメンバー構成をするのですが、チーム貢献度が分かりやすい職業・種族とそうでない組み合わせが出てきてしまいます。

そうなると、
「クソタル」
「ゴミジョブ」
「チームの寄生虫」
「使えねーな(お前は)」
「だからエルヴァーンの白魔道士となんか組みたくなかったんだよ」
といった罵声や陰口が出てきてしまう。

もちろん、言われた方はたまりません。
怒るやつもいればへこむヤツもいる。
それでなくても、自分はチームに迷惑をかけているのではないか、お荷物になっているのではないかといつもビクビクする人がいても不思議はありませんし、「ごめんなさい。私は何もできなくて」とチームにいつも謝っている人も多く見かけます。

それが進むと、「あの種族はずるい、能力をもっと下げるべきだ」といった、「足を引っ張る発想」が出てきます。

匿名なのに匿名でないネットゲーム

さて、ここまで読み進めて来た人たちは不思議に感じると思います。
ネットなのになぜもっと気楽になれないのだろう。ゲームなのだからなぜもっとアバウトになれないのだろう。
そんなに苦しいのになぜゲームを進めるのだろう。

その原因のひとつはネットゲームの特殊な匿名性です。
どういうことか。
以前の記事で、ネットは匿名性があるから出会いも別れも重みがなく、人間を人間としてみるのではなく、あたかも「ヌードモデル自動販売機のように他人を扱う」傾向が強まるのだと解説しました。

しかし、ネットゲームではネットでありながら、その法則が通用しません。
ネットゲームは匿名性があって匿名性がないからです。
例えば、シストラットという名前がついたキャラは私「森」ではないし、本職がコンサルタントであることや47才のオヤジであることは誰も知りません。

しかも、私が男性キャラを使っているからといって、本人が男である保証はどこにもありません。事実、私のゲーム世界の友人は男性ですが女性キャラを使っています。一方で、女性なのに女性扱いされるのがイヤだからという理由で男性キャラを選び、男言葉を使う友人もいます。
そう見ると、ネットゲームには充分匿名性があります。普通のインターネットと変わりありません。

しかし、それだけで判断するのは早計というものです。
というのも、ネットの匿名性にとって最も重要なもののひとつである「出入りが自由にできる」という要素がネットゲームに欠けているからです。

どういうことか。
普通のネットでは、掲示板やチャットのキャラは名前を変えて、口調をちょっと変えるだけで済みます。

ネットゲームでも、レベルが浅いうちはイヤなことがあってもキャラを削除して、新しいキャラを最初からやり直せば済みます。
しかし、先ほど説明したように、FF11は時間と手間が異様にかかります。手塩にかけて育てたキャラを辞めるには大きな代償を払わなければなりません。

それだけではありません。ようやく、入れてもらえたり人を集めたチームです。ちょっとくらいイヤなことがあっても、再びヒマな時間を過ごすくらいなら我慢した方がマシだという気になるのもムリはありません。
現実世界で、「イヤなことがあっても友人と手を切る訳にはいかない」のと同じ状況に陥るのです。

匿名性であるにも関わらず、実名性と同じくらいに価値ができてしまう自分のキャラ。だからこそ、人間くさいドラマが続きます。
そんな中、現代若者の姿は実は旧来の古い人間とまったく同じであることを見て取れる。実に興味深い世界なのです。

そうなのです。
それぞれの人間の悲喜こもごもの感情が生まれるのも、実はただ一点、「苦労すること」が全てを生んでいるからです。
戦闘に苦労することを知っているからチームの大事さが分かる。金を稼ぐのに苦労することを知っているから、指輪をもらうことがとんでもなく嬉しい。
モンスターに倒されて経験値を失い、それを戻すのに苦労をするからこそ、他人の犠牲になることの大変さが理解できる。

先ほど紹介した「苦しめば苦しむほど良い」というゲーム開発者の思惑にまんまと乗っているのでした。

もちろん、まったりと楽しむ人もいます。
しかし、目的がないRPGやゲームが売れた試しがありません。
まったりと楽しむ人は400万枚のうちのごくわずかの人たちなのです。

前門の虎、後門の狼

ところが、そのことは現代の若い人たちが敬遠する要素であることに他なりません。

●さっと入れて、さっと抜ける
●プリクラや携帯メールといった『お手軽ツール』で、仲間とのつながりを確認する
●『自分の接したい時に、接したい人と接したいようにする』ための道具として携帯電話が普及する

こんな現代の若者とは正反対の世界。
生きる苦労、他人と関わっていかないと生きられない、他人とルールを共有する、自分が主役ではない、自分の常識と他人の常識が違うけれどそのままでは生きていけない。

スポーツマンやチーマーならいざ知らず、渋谷センター街を歩くような現代の若者がもっとも敬遠したくなる世界。それが、FF11です。

現在のFF11は間違えて入ってしまった、名前だけでふらふらっと契約してしまった初期のユーザーたち、他のネットゲームをすでに経験していて、ネットゲームにはまっているユーザーたち、これが合計されてFF11の15万人になっているだけです。

様子を見るためにとどまっている、残りのFFシリーズファンや経験者達、数百万人は知れば知るほど入ることができない。ファンが声高にFF11の良さを伝えようとすればするほど、引かれ、敬遠されてしまう。それがFF11の本質です。
そして、ゲームの良さを知らなければ、初期費用が高すぎて入ることに躊躇する。
「前門の虎、後門の狼」とはこのことです。


さて、実はウィンドウズ版の発売に間に合わせようと記事を急いだのですが、発売日の11月7日になってしまいました。
そこで、ログイン数を見ると…ほとんどいつもの数字と変わらず約3,000人。初心者や倉庫キャラとよばれる実際には稼働していないレベル1を除いた、レベル2の冒険者達の数も10人と変わりありません。

ふと周りを見回すと、動きがぎこちない標準装備のクマのぬいぐるみのようなタルタル族を見かけました。
彼女はあっちいき、こっちいき、好奇心で目をきらきら光らせた子供のような仕草です。
その子のレベルを見るとレベル1の白魔道士。初心者です。

今後のFF11はどうなってしまうのでしょうか。
私にも分かりません。
このまま、解約する人たちが続出してゴーストタウンになるのか、順調に新しい、夢と不安が一杯の新人冒険者達が増えていくのか。

ただ、あの白魔道士の女の子タルタルがたくさんの人の心を和らげ、仲間を作り、笑ったり泣いたりしながら、時間が進んでくれたら。
夕日が沈む異国の城下町にたたずみながら何となくそんなことを考えていました。

戦士レベル34/白魔道士レベル32、エルヴァーン族。2002年秋のひとこまです。

【参考記事】10年後の第2弾はこちらです。
■パルプンテとメタルスライムはルーラの彼方に消える【ネットRPG】2012年12月16日
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