■戦略・商品の「次の一手」を読んで勝つ【プロダクトコーン理論-サルにもわかる基礎マーケティング4】

artc20130700一時期のブームも去って落ち着いてきたので、かえって書きやすくなったテーマ、プロダクトコーン理論が今回の記事です。
公式サイトにも新書にもプロダクトコーン理論を紹介していますが、元々がシンプルな理論のため、書籍版「シンプル・マーケティング」のコピー&ペーストでした。
今回は新たに書き起こしたプロダクトコーン理論の記事です。
次の一手を読んで先回りしてください。

【書籍版プロダクトコーン解説(公式サイト)はこちら】
今回の記事と比較しても楽しいです。

シンプル・イズ・ザ・ベスト:プロダクトコーン理論

プロダクトコーン理論は私独自のマーケティング理論で、コンサルタントとしては大ヒット商品です。様々な企業で採用されたり、話題になったことはコンサルタントとしての財産です。

Googleで「プロダクトコーン」と検索すると約66万件ヒットします。一方、マーケティングの基礎中の基礎「プロダクトライフサイクル」は約40万件。単純に比較できませんが、古典と並ぶほどの知名度を得るなんて、提唱者冥利に尽きるというものです。

そもそも、この理論を最初に作ったのは私が30歳の頃です。
メーカーのブランドマネジャーとして、商品開発で色々と悩んでいた時でした。
その悩みの一つが商品の定義でした。
当時は「一次機能・二次機能」や「機能的機能・心理的機能」といった2つの要素で商品を定義する考え方しかありませんでした。

しかも、それぞれの要素には何の関係も脈絡もありません。

「一次機能(や機能的機能)は、商品のスペックに相当する」
「二次機能(や心理的機能)は、デザインやネーミングに相当する」

これだけの定義で商品の要素を分割して、何の意味があるのだろうと思っていました。
チェックリスト以上のメリットがなかったのが本音です。

そこで、思いついたのが、要素を3つに分けることでした。

●規格
●ベネフィット
●エッセンス

artc20130701正直いえば、3つともすでにマーケティングに存在する概念です。なんら新しいことはしていません。単に、それぞれの要素をくっつけただけです。

しかし、後で説明するように、これらの要素が有機的に結びつくと、現状分析だけでなく、今後どうするかの予測に使えるようになることを発見しました。
それらをまとめて、他のマーケティング理論とさらに連携させ、体系的に整理したのがプロダクトコーン理論の理論たるゆえんです。

その当たりの説明は後にして、まずはプロダクトコーン理論の説明をしましょう。
プロダクトコーン理論は3つの要素で商品の定義をしようぜ、という提案です。

規格:プロダクトコーン理論の要素1

商品の規格、スペックです。
本来は数字や専門用語の羅列です。
スマートフォンなら、CPUは APQ8064T 1.9GHz、メモリ16GB、液晶5.6インチ、重さ125gなどなど。
飲料なら、ハトムギ、大麦、どくだみ茶、16種類の素材をブレンドしたカフェインゼロなどなど。

食品なら、エメンタールチーズをブリオッシュでサンドして、黒いダイヤの異名を持つ黒トリュフをフォン・ド・ボー仕立てにしたトリュフソースをかけた、1,000円のファストフードハンバーガーなどなど。

規格は昔から使われてきた、商品定義の老舗とも言うべき要素です。
軽く歴史を振り返ります。
日本の高度成長期、1960年代から1970年代は「モノを作れば、それだけで売れた時代」でした。
家庭の収入が上がり、次々と新しい商品が登場し、生活が豊かになる。しかし、その一方、戦後まだ15年しか経っていなかったので、製造設備は貧弱で量産ができません。
輸入品に頼ろうにも外貨がないので不可能。

そんな時代の商品定義の主役は「工場の定義」でした。
つまり、

●何g
●何cm
●カラーはDICの何番

が商品の定義です。
スペック・規格です。

さて、高度成長期が終わって、作るだけでは売れなくなった1980年代以降、メーカーは途端に困りました。
お客さんにどうやって売るのか。どうしたら買ってもらえるのか、さっぱり分からなかったからです。だって、そんなことを深く考えなくても商品が売れていたのですから。

一方、高度成長期時代に売上げを大きく上げたので、会社の図体だけは大きくなりました。
従業員も何十倍にも膨れあがりました。
扱う商品の数も増えています。
組織も細分化します。
営業部、広告宣伝部、商品開発部、生産部、研究開発部など、新しい部署が次々に新設されていました。

すると、困ったことが起きます。
中小企業の頃は営業から生産まで、1人がすべてをこなさなければなりませんでした。しかし、商品数が少なく、技術も高度ではなかったので、一人が自社商品を理解することはさほど難しくありませんでした。
ソニーだって、松下だって中小企業の頃があったのです。
現在でも、中小企業は一人何役も掛け持ちです。

ところが、社員が増えて組織が細分化すると、そうは行きません。
広告宣伝部は広告専門の部署ですから、広告理論や広告実務の勉強をしなければなりません。
GRPとはなんぞや。
効果的なクリエイティブはどうやって作る。
広告代理店にはどう指示したらいい広告を作ってくれるか。
製造部や営業部はやってくれません。広告宣伝部の社員が勉強するしかありません。

すると、広告宣伝部の社員は、自社商品に関する勉強時間が削られます。
新製品の資料には一通り目を通しますが、新技術や新成分を十分に理解することなく、広告を作り、流すことが彼らの責務となります。
特に、細かい最新技術で作られるパソコンや電子機器などは、素人なのにユーザー(マニア)の方が、当のメーカーの企画部門の社員より詳しいなんて珍事が起きます。

一方、研究開発部は技術が高度になってしまったので、技術の進化を次々に進めなくてはなりません。いきおい、営業の知識はおろそかになります。店頭で自分が作った商品がどう商談されて、店頭でどんな扱いを受けるのかを知ることがありません。

それでも、一見、仕事は回っていきます。
良い商品(と彼らが考えるもの)を作ることに没頭すれば、あとのことは広告宣伝部や営業部がやってくれます。
いや、技術部門が営業に口を挟もうものなら、営業からは「余計なことを言うな」と叱られますから、面倒くさいので販売店や消費者のことも考えなくなります。
組織が大きくなればなるほど台頭するセクショナリズムです。

かくして、商品が売れないと

「技術部門がロクなものを作らないから、売りにくい」
「営業部門がちゃんと販売店に商品の良さを訴えないから、売れない」

とケンカになる。
もっとも、現在でも日常の光景ですが…

さて、一方の私たち生活者。
商品があふれ、次々と新製品が世に送り込まれます。生活者は商品を選り好みしようとしますが、規格の細かいことなんて知りもしませんから、似たような商品ばかりに見える。
また、専門用語なんて知らないし、知る意欲もない。

そうなると、従来のようなスペックや規格を商品の定義にするには、企業側、生活者側ともに不都合が起きるようになりました。

そこに登場したのがアメリカの広告代理店が提唱する「コンセプト」という概念です。要するに「生活者が使う普通の言葉で商品を定義しようよ」提案です。

「連続再生時間10時間」
ではなく
「『スタミナ』ハンディカム」
「エンジン●●馬力」
ではなく
「加速スピードが出る新車」

コンセプトは一時期、もてはやされました。
企業側は勉強量が少なくて済む、生活者側はややこしい専門用語や数字から解放される。

しかし、まもなくして、コンセプトも限界が出てきました。
なにせ、所詮言い換えです。氏素性は工場の定義ですから、規格を言い換えたところで「だから何?」と言われることも多くなります。
得をしたのは製造や技術部門以外の営業や広告宣伝部の社員くらいです。面倒な専門用語を覚えなくてもいい。

一方の消費者は

「スタミナってどれくらいもつの?え?10時間?
それってどれくらい長いの?
自分が一日に使う時間なんて覚えてないよ」
「スピードなんて出さないから、そんな新車いらない」

となります。

ベネフィット:プロダクトコーン理論の要素2

そこに登場したのがベネフィットという概念です(正確には昔からありましたが、マーケティングの世界で人気が出たのが、この頃です)。
ベネフィットとは「生活者が得することやモノ」です。

「24時間開いているコンビニ」
ではなく
「食べたいときに食べたいものを、夜中でも買える」
「加速スピードが速いクルマ」
ではなく
「(加速が速いから)高速道路に入るときにも安心なクルマ」

テレビの映画番組で見るなら無料なのに、人はなぜレンタル・ビデオで1日400円も出してビデオを借りるのか。
テレビでは見たい映画が放映されるまで待たないといけませんが、レンタル・ビデオなら

「観たいときに、観たい映画が観られる」
という
「わがまま」

に対してお金を支払っていると考える。

先のコンビニの例では、セブンイレブンの「あなたにはあなたの ケイコさん篇」が当時、大きな話題になりました。「開いててよかったシリーズ」の第一弾です。
ナレーションはこうです。「24時間開いてる」とは一言も言っていません。

「私は夜中に突然いなりずしが食べたくなったりするわけです。
それはもう食欲とかそんなことではなくて、ただもうなんだかいなりずしのことで頭が一杯になってしまうわけなんです。
そこでこうやってセブンイレブンへ。
こんな自分を私はかわいいと思います。」

【参考動画】セブンイレブン「1984年 あなたにはあなたの ケイコさん篇」
(最初の30秒間だけどうぞ)

モンカフェはコーヒーカップに乗せてお湯を注ぐだけで、本格的なドリップコーヒーができる商品です。
大橋巨泉がしゃべる広告コピーは

「おいしいレギュラーコーヒーなのに、豆を引かない、器具がいらない、後始末いらない。おいしいとこだけ、全部頂き」

現在なら「●●産を▼▼製法でコーヒー豆をじっくりと焙煎し…」なんて口上がつきそうですが、ベネフィット訴求の広告では一切必要ありません。

【参考動画】片岡物産「モンカフェ 大橋巨泉編」(最初の30秒間だけどうぞ)

「生活者が得することやモノ」…

規格が

「企業側の商品定義」

だとすると、ベネフィットは

「生活者側の商品定義」

です。

なぜ、ベネフィットに注目が集まったのか。

「規格ではよくわからないから、私が何をどう得するのかを教えてよ」

という生活者からのつぶやきだったからです。
実際に、ベネフィット訴求をした商品はよく売れました。

細かい話をすれば、ベネフィットはすべての(規格であっても、エッセンスであっても)要素がたどり着く終着点です。
ただ、後述しますが、「規格を見て自分のベネフィットに翻訳できる人(イノベーター)」は規格を参考にし、「規格では商品を理解できず、エッセンスでしか自分のベネフィットに翻訳できない人(フォロワー)」はエッセンス(イメージ)を参考にするといった違いです。

例えば、「おしゃれな」エッセンスは、イメージでしか商品を理解できない人にとって、こうやって翻訳されます。

●おしゃれだから、「自慢ができる」
●おしゃれだから、「他人と一緒でも恥ずかしくない」
●おしゃれだから、「自分が楽しい」

エッセンス:プロダクトコーン理論の要素3

さて、商品には3つ目の側面があります。
イメージです。

「おしゃれな」
「まじめな」
「気軽な」

これをプロダクトコーン理論ではエッセンスと呼びます。
マーケティングを知っている人には

「ブランドキャラクター」

と言った方が分かりやすいし、広告に従事している人は

「トーン&マナー」

が近い概念です。

「ブランドキャラクター」とは、そのブランドが持つ人格のようなもので、「真面目な」や「かわいい」といった、「人の性格を表す形容詞」が使われます。
「トーン&マナー」とは広告全体の雰囲気のことです。

「マジメに商品の良さを、トツトツと解説する」ようなダイソン掃除機。
「ほんわかでユーモラスなおじさんを描く」明治カール。
「いつもふざけていて、ちょっとシュールな」キンチョー製品。

プロダクトコーン理論でのエッセンスは、トーン&マナーよりもブランドキャラクターに近い考え方です。
規格とベネフィットを最後にまとめる概念だから、人格を持たせた方が商品としてのまとまりができやすいからです。
もっとも、上の3つの例は人格ももっています。「まじめな人」「ほんわかとした人」「いつもふざけて笑いを取る人」は身近にいますよね。

世界中の古今東西のキャラクターを研究した心理学者がいました。
その結果、ディズニーのキャラクターに人気があるのは、「キャラクターの性格をきっちりと作り込んだから」が結論でした。

例えば、ガチョウはグァグァッとうるさいイメージがあります。それに合わせてドナルドダックの性格が設定されました。また、グーフィーも犬の(アメリカ人の)おとぼけイメージ。ぷーさんもクマのゆったりとしたイメージ。

他方では、マイティマウス(アメリカのアニメ主人公。スーパーマンのネズミ版)やウッドペッカー(アメリカのキツツキのアニメ)がいくら人気があっても、性格付けができていなかったので、長い世代には支持されずに消えてしまったという訳です。

プロダクトコーン理論のエッセンスはこういった背景から、私は人格を持ったブランドキャラクターの性質に決めました。

市場の一歩手前を予測できるプロダクトコーン理論

artc20130701この3つを定義するだけでも格好のチェックリストになります。
事実、プロダクトコーン理論がヒットした理由のひとつが、チェックリストとしての使われ方でした。
新商品、既存商品をプロダクトコーン理論でチェックして、もれがないか、差別優位性があるかなどが検討しやすいからです。

さて、プロダクトコーン理論の真骨頂はここからです。
それぞれの3つの要素は時代によって、生活者の変遷によって

●規格
  ↓
●ベネフィット
  ↓
●エッセンス

と移って行くからです。
例えば、現在、規格で競争している市場があるとします。
それが、ほんのちょっとしたきっかけで、ベネフィットに関心が移っていきます。
ベネフィットが現在の競合ポイントだとすると、エッセンスが次に関心が移るポイントになります。

例を上げましょう。
現在、すでに市場が飽和したと言われるデジカメ。
1995年にカシオQV-10で切り開かれた家庭用デジカメ市場は、当初「解像度」がヒット要件でした。
カシオの35万画素から80万画素、120万画素、200万画素と進化し、その時その時のヒットモデルは最初に高解像度を実現した機種でした。

それが、300万画素になった途端、解像度の魔法が消えてしまいます。
300万画素のモデルを出してもなかなか売れず、200万画素の旧モデルが元気だったのです。
しばらくは旧画素数が売れ続け、400万画素モデルが発売されても、一世代前の300万画素モデルが売れ筋のままでした。

artc20130702ようやく流れが変わったのは、カシオEXILIM EX-S1「コンパクトでスリム(だから、バッグに忍び込ませられる)2002年」モデルに人気が出てからです。
ソニーのDSC-Tシリーズ「スマイルシャッター(広告では「スマイルシャッターなら、笑顔を逃さず撮れる」2007年)」も人気でした(画像をクリックすると拡大します)

特に、カシオEXILIM初代機EX-S1はたった125万画素しかありませんでした。400万画素が当たり前の時代です。それでも大ヒット。その代わり、名刺入れに入る程薄く小さいサイズです。2代目ですら200万画素です。

「規格からベネフィットへの移行」時代の始まりです【注-応用編】。

【注-応用編】プロダクトコーン理論を習熟した人の多くがぶち当たる疑問に「規格とベネフィットの境目をどう判断するか」があります。
上記のように、一見、スペックに見えるけれど、実はベネフィットというケースがそれに当たります。笑顔シャッターは機能の名称ですから規格、コンパクトでスリムは規格だからです。
しかし、注意したいのは訴求ポイントが「サイズ88x55x11.3mm、軽さ85g」でも「笑顔認識自動シャッター機能」でもないことです。

「コンパクトでスリム」はカバンに入れていても邪魔にならず、必要なときさっと取り出して写真が撮れる気軽さが、カメラに詳しくない素人でもすぐに想像できます。店頭に行って実機を触ろうものなら、その薄さと小ささに驚き、カバンに入れて取り出す様子が0.4秒後に想像できてしまいます。
スマイルシャッターは「(笑顔を感知するから)失敗がない」こともすぐに想像できる。

これを私は「スペックの皮をかぶったベネフィット」と呼び、立派なベネフィットです。

もちろん、ベネフィットをもっと進めると
「(スリムコンパクトだから)バッグに忍び込ませても邪魔にならない」
「(スリムコンパクトだから)毎日持ち歩いても苦にならない」
「(スリムコンパクトだから)常備できるので、シャッターチャンスを逃さない
のような「真性」ベネフィットに進化します。

スマートフォンもこの例です。
この点については、過去記事「■がんばれ!日の丸スマートフォン」に詳しく書きましたので、そちらを読んでもらった方が早いです。

簡単に内容を説明すれば、
●CPUやバッテリー容量など
の規格から
●地図検索に強い、twitterやFacebookが使いやすい、など
のベネフィットに消費者の関心が移ることを予測しています。

電子機器だけではありません。
化粧品(スキンケア)も変わります。
薬事法が厳しいので、あまり露骨に規格はうたえないケースが多いのですが、それでも規格からベネフィットに移るケースが散見されます。

例えば、コラーゲン、コエンザイムQ10などの新成分配合の商品が従来のスキンケアの売れ筋でした。また、現在もシルクを材料とした化粧品やポリフェノールを、有効成分として配合した化粧品など百花繚乱の様相を呈しています。

しかし、現在、50代のスキンケアといった年齢別のスキンケアがヒットしはじめています。年代別やシーン別訴求はベネフィットの代表的なもののひとつです。

ベネフィットの次はエッセンスに移行します。イメージです。
イメージ広告はよく流れていますし、みなさん、想像がつくでしょうから、誌面がもったいないので、ここでは詳しく説明しません。

さて、プロダクトコーン理論ではこの3つの流れは逆流しません。
すると、

「次に何が来るのかを予想できる」

ようになります。
つまり、現在、規格で競争している業界は、しばらくするとベネフィットで競争するようになる。ベネフィットをうたう商品ばかりの業界はイメージに移るといった具合です。

すると、半歩先のマーケティング戦略を考えることができるようになります。
いや、二歩、三歩先の手も打てますが、半歩先でないとヒットしません。
競争相手より先に手が打てる。これは大きなメリットです。
商品開発に数年もかかるクルマのような業界では、あらかじめ規格中心の開発なのか、ベネフィット中心の設計なのかを予測できる。

お菓子や食品のように、商品開発に時間がかからないものであっても、広告やパッケージに書くキャッチフレーズを、プロダクトコーン理論に従って変更することで売上げが上がる。コストはパッケージの印刷代だけ。

しかも、プロダクトコーン理論では「先に進みすぎた」手や「結局、進んでいなかった」手を打つ失敗がなくなるのです。「次の手」がわかるからです。

プロダクトコーン理論とイノベーター理論の結合

artc20130704なぜ、こういうことが可能なのか。
なぜ、規格からベネフィット、ベネフィットからエッセンスに移っていくのか。
そのカギはイノベーター理論にあります。
図を見て下さい。

いちばん左端の三角形は先日、記事にしたイノベーター理論です。
イノベーターからアーリーアダプタ、フォロワーに商品が広がっていきます。

■ヒット商品を最初に買う人たち【イノベーター理論-サルにもわかる基礎マーケティング3】

左から2番目の長方形は、アメリカの社会学者シスレスワイトの結論心理を図式化したものです。
シスレスワイト博士はこう主張します。

「教育水準の高い人は、自分で判断をしたがる。
教育水準が低い人は、他人の判断をあおぎたがる」

元々がアメリカの社会学ですから、

●教育水準の高い人は医者や弁護士のような人たち
●教育水準の低い人たちはゲットーに住み、小学校しか出ていないような黒人たち

をイメージしていました。
それをマーケティングに置き換えると、

●教育水準の高い人たち
=その業界の商品に詳しい人たち
=イノベーター

になります。
一方の

●教育水準の低い人たち
=その業界の商品に詳しくない人たち
=フォロワー

です。

さて、自分で判断したがる人たちが必要とする情報は?
そうです。規格ですよね。客観的な事実です。
他人の判断をあおぎたがる人たちが必要なのは?
はい。店員のススメや世間の評判(=イメージ)です。

artc20130704図の右端にプロダクトコーンを逆さまに置きます。
すると、必要な情報が一致します。
「風が吹けば桶屋が儲かる」ではありませんが、イノベーターはプロダクトコーンで言う規格を必要な情報と判断し、フォロワーはエッセンスに基づいて商品を買う買わないの判断材料とすることがわかります。

だから、イノベーター理論でイノベーターからフォロワーに移行するとともに、生活者が欲しい情報がプロダクトコーン要素の順番になるのです。
イノベーター理論が逆流しない限り、プロダクトコーンの要素は逆流しません。

プロダクトコーン理論とプロダクトライフサイクル理論との融合
-市場環境と訴求ポイントが自動的に導き出される

さて、プロダクトコーン理論とイノベーター理論が繋がれば、他の理論とも繋がります。
先ほど、デジカメの例で「ほんのちょっとしたきっかけで、規格からベネフィットに移る」と言いましたが、実は「きっかけ」には法則性があります。
それは普及率です。

artc20130705図を見て下さい。
プロダクトライフサイクル理論とイノベーター理論の関係を示した図です。プロダクトライフサイクル理論については別の機会に記事にする予定なので、ここでは簡単に説明するにとどめます。

プロダクトライフサイクル理論はマーケティングの古典的な理論の一つです。
商品や産業には以下の4つの段階があると主張するものです。
人間の成長になぞらえて「ライフサイクル=人生の段階」と名付けられました。

●導入期(こども期)
●成長期(青年期)
●成熟期(中年期)
●衰退期(壮年期)

導入期の中身をよく見ると、イノベーターが商品や市場を支えています。
成長期はアーリーアダプタ、そして成長期後期から成熟期にフォロワーが入り込んでくる。
このことを私が発見した30年前にピンときたのが「プロダクトコーン理論と繋げられるぞ」でした。

そうなると、3つの理論が有機的に結びつくことになります。

●導入期にはターゲットをイノベーターとして、訴求ポイントは規格
●成長期にはアーリーアダプタで、ベネフィットが有効戦略
●成長期後期からはフォロワーとエッセンス

という、一連の戦略が自動的に導き出されるというわけです。

歴史は繰り返す-ぐるっと回るプロダクトコーン

プロダクトコーンは一旦エッセンスに行き着くとどうなるか。
ぐるっと回って規格に戻ります。ベネフィットに逆戻りしません。

例えば、アサヒ飲料の三ツ矢サイダー。
従来はグリコポッキーのような、青春のシーンを切り取ったテレビ広告が主流でした。中学生の女の子たちが海辺をはしゃいで、三ツ矢サイダーをゴクッと飲む。
それを変更し「5回濾過して、磨いた水を使っています」キャンペーンを実施。パッケージにも堂々と表示したのです。
エッセンス訴求から規格訴求への変更です。
その結果、売上げは30%増加しました。

artc20130718同じことが、午後の紅茶にもいえます。
午後の紅茶は一度イメージ広告まで行き着きました。
紅茶飲料ではトップブランドですから、業界代表として行き着くところまで行き着いた。
発売後、20年もたつと午後の紅茶のイメージが「人工甘味料が入ってる」「着色料や人口的な添加物が入っている」と思う人が多くなります。

そこで、キリンが実施したのが「実はヘルシー・キャンペーン」。
午後の紅茶には添加物も何も一切入っていないことを訴えました。規格訴求です。
これで、売上げが20%一気に上がったのでした。

三ツ矢サイダーにしても、午後の紅茶にしても、飲料業界で既存ブランドの売上げがこんなに上がるのは珍しいことなのです。
携帯電話もスマートフォンのカタチになるまではイメージで選ばれていました。そこにスマートフォンが登場。一気に規格で買う、買わないの判断をされるようになったのです。

artc20130706なぜこうなるのか。
図を見て下さい。プロダクトライフサイクルの右、成熟期にラクダのコブのようなものがくっついています。
これを私は「ミニ・プロダクトライフサイクル」と呼んでいます。

成熟期になってフォロワーが多くを占めるとき、新しい切り口や技術で商品が進化すると、イノベーターが戻ってきます。
イノベーターは規格で商品を判断しますから、規格訴求が有効になるという訳です。
そして、この新商品がミニ・プロダクトライフサイクルに成長すると、新しいサブ分野が産まれます。
マーケティングで市場細分化という概念がありますが、これがその生成過程なのです。

例えば、カメラの世界では二眼レフ、一眼レフ、コンパクトカメラ、レンズ付きフィルムと進化しました。しかし、一眼レフもレンズ付きフィルムも並行して残ってカメラのサブ分野になっています。
まさに市場が細分化したわけです。
そして、それぞれのカメラは一眼レフはプロ、コンパクトカメラは一般家庭、レンズ付きフィルムは女子高生のイノベーターたちが市場に目をつけて拡大したというわけです。

ちなみに、デジカメも細分化の一種です。しかし、今までと違ったのはフィルムという存在を真っ向から消し去ったので、カメラそのものを置き換えてしまったことです。
そして、デジカメの中で一眼レフやコンパクトタイプが細分化し、それぞれの細分化の分野でイノベーターがいるのです。

同じ事はスマートフォンにも言えますし、テープレコーダーのような録音機器にも言えます。
機械モノだけではなく、飲料、化粧品、食品などさまざまな産業で、このプロダクトコーンの巡回現象が観られるのです。

自社商品をプロダクトコーンでチェックしてみよう

プロダクトコーンはマーケティング戦略に使うだけではありません。
デザイン開発、コンセプト開発、広告開発などマーケティングのあらゆる分野で応用ができます。
例えば、みなさんが所属する会社の商品。
パッケージデザインやパンフレット、WEBページからプロダクトコーンの3つ、規格、ベネフィット、エッセンスを作ることができますか?

artc20130707例えば、これを見てください。
キリン生茶のパッケージ写真です(画像をクリックすると拡大し、文字が読めます)。
表には
「さわやかな香り」と表示されています。ベネフィットです。
「生茶葉凍らせ製法」と書かれています。規格です。
全体のトーンはお茶の緑とネーミングの「生茶」が醸し出す「自然・天然」です。
ちいさい面積なのに、きちんとプロダクトコーンの3つの要素が入っています。

artc20130709永谷園「1杯で、しじみ70個分のちから」も同じです(画像をクリックすると拡大し、文字が読めます)。
「しじみ70個分」「オルニチン25mg」は規格。
「お酒好きのお父さんに、おもいやり」はベネフィット。
エッセンスは親しみやすさ、やさしさ。
実際、この商品の初期パッケージには規格とエッセンスしかなく、最初はまったく売れませんでした。ところが、苦肉の策として、二日酔い防止のためのみそ汁とスーパー店頭でPOPを貼ったところ、大ヒットしたのでパッケージにも印刷したという逸話があります。

artc20130711それでは、こちらのサイダーの写真を見て下さい。
「ウルトラサイダー」と「円谷プロ」しか書かれていません。「商品はサイダー」しかわからない、話のネタだけの商品です。

artc20130712冷凍食品の写真では「4種のチーズ使用」の「蔵王えびドリア」「蔵王酪農センター直送ミルク」は規格ですが、ベネフィットはありません(画像をクリックすると拡大し、文字が読めます)。

artc20130714じゃがりこのパッケージには、「たらこバター」と規格しかありません。誰でも知っているじゃがりこだから他の情報はいらないというのなら、ファンしか買わなくていいと割り切っているのでしょうか?違いますよね(画像をクリックすると拡大し、文字が読めます)。

昔の記事「It’s a Sonyの秘密」で、ソニーが販売店から「効能が書いていない薬のようだ」と揶揄されていたと書きました。技術者集団のソニーなので規格しか念頭になかったからです。
(記事では、その反動で暴走したソニーを描いていますが(笑))

【参考記事】■これもソニーです。It’s a Sonyの秘密【ソニー】(2001.11)

みなさんは自社商品やパンフレットを見て、プロダクトコーンを作ってみて下さい。
世の中にある全商品のうち、きちんと3つの要素が入っているパッケージやパンフレットは100商品のうち5~6個しかありません(広告はセブンイレブンやモンカフェのように、あえて入れない場合もあります)。
逆に言えば、チャンスです。競争相手が不完全なのですから、自社商品がきちんとしていれば有利になります。

正確に言えば、せまいパッケージに3つの要素が全部入っている必要がない場合もあります。導入期には規格で判断する生活者が多いのですから、規格さえきちんとうたえばいい。成長期にはベネフィットさえあればいい。
しかし、導入期から成長期にいつ移ったのかを判断するにはコツがいります。見逃してしまうこともある。第一、その都度デザインを変更しないといけない。

それなら、はじめから全部入れておいて、強調するのは自由度が高い広告で対応するのが賢いやり方です。
理想的にはパッケージに3つ全部書いておき、時期がきたら規格をベネフィット場所に置き換えて、用済みの規格は小さく表記したり裏面に配置するといったきめ細かいデザイン管理が正しいやり方です。

プロダクトコーン理論とDCCM理論の融合
-差別優位性のチェック

せっかくプロダクトコーンの要素が書かれていても、差別優位性がなければ意味がありません。他にいくらでも似たような商品があるのですから。
食品では「おいしい」としか書かれていない食品のいかに多いことか。

ということは、つまりプロダクトコーンと差別優位性を掛け合わせて考えるのが良いということです。
私の独自理論のひとつDCCM理論と掛け合わせるとすっきりします。
規格で差別優位性をチェックする、ベネフィットで差別優位性を確認する、エッセンスで差別優位性を見る。

規格
ベネフィット
エッセンス
差別性【D】
↓チェック↓
↓チェック↓
↓チェック↓
優位性【C】
↓チェック↓
↓チェック↓
↓チェック↓
説得性【C】
↓チェック↓
↓チェック↓
↓チェック↓
市場性【M】
↓チェック↓
↓チェック↓
↓チェック↓

理想的にはそれぞれ3つの要素が差別優位性を持っているのが望ましい。
しかし、現実的には3つすべてが理想的に差別優位性を持つことは、なかなかできることではありません。
実は、大事な要素には差別優位性が必要ですが、それ以外の2つは差別優位性がなくても売れるのです。

栄養ドリンクが良い例です。
リポビタンD、リゲイン、アルフィーなど各社の栄養ドリンクは薬事法に縛られるので、規格はみな「滋養強壮、栄養補給」しか言えません。

そこで、各社はベネフィットで差別優位性を確保しています。

「ファイト!一発!」
「24時間戦えますか」

また、女性向けを標榜している栄養ドリンクもあります。
他社が男性中心の訴求をしているので、「女性向け」は差別優位性があります。
「なぜ女性向けなのか。女性の生理サイクルに良い成分でも入っているのか?」などと聞いてはいけません。
例えあったとしても薬事法でいえないからです。

artc20130716悪い例は写真のシリアルです。
「1日に必要なカルシウムの50%」の規格はありますし、ベネフィットでは「ミルクがおいしいココア」と表示されています。全体のトーンはマンガチックで「楽しい」です(画像をクリックすると拡大し、文字が読めます)。
一見、すべての要素が入っています。

しかし、そもそもシリアルはミルクと合わせて食べる食品です。「ミルクがおいしくない」シリアルなんてあり得ません。従って、このベネフィットには差別優位性はありません。

さて、こういう場合は2つ注意点があります。
1つ目。
1つしかない差別優位性は、その時に業界で中心となっている要素か近い将来に中心となりそうな要素でないと意味がないという点です。
現在、規格で競争している。けれど規格では差別優位性がない。しかもまだ規格での競争が続きそうだ。
そんな時にベネフィットやエッセンスで差別優位性を確保しても、意味がありません。

2つ目。
3つのうち1つしか差別優位性が確保できない商品は、将来的に生活者の関心が移った時に、立ちゆかなくなることを覚悟しておかなければなりません。
いまのうちに、次の要素を睨んで商品改善をしておく必要があります。
逆に言えば、プロダクトコーンで次の主流要素が分かっていれば、商品改善の方向性がせばまるので、有利になります。

現在、ベネフィットで競争している場合、まず間違いなく規格に戻ることはありませんから、技術的なスペックに手をつける必要がありません。
もちろん、上で説明したように、成長期後期でミニ・プロダクトライフサイクルが見込める場合は、規格に大きく手を入れて、ターゲットをイノベーターにすることも可能です。

どちらを選ぶのかは、市場の状況や自社技術の先進性を考慮に入れて決めればよいのです。
自社技術が革新的でない場合は、ミニ・プロダクトライフサイクルの道は選択できません。従って、エッセンスの差別優位性を確保する戦略をあらかじめ立てておけば良い。技術に自信があればミニ・プロダクトライフサイクルを狙うことも、エッセンス路線を狙うことも可能です。
それこそが「マーケティング戦略」です。

プロダクトコーン理論の開発秘話

最後の章として、せっかくざっくばらんなメルマガなので、ちょっとした裏話をして終わりましょう。

規格、ベネフィット、エッセンスの3つを組合せたら商品の定義になる。
それに気が付いた私は最初は並列に並べていました。今のような三角形ではありません。単なる表です。

これはこれで便利でした。
少なくとも、旧来の「機能的機能」「心理的機能」の改善版になり、私のメーカー時代の仕事には大変重宝しました。
特に、当時、外資系企業でブランドマネジャー職についていた私にとって、部下の提案、広告代理店や販促物の企画会社からの提案をチェックし、評価し、方向を定めるには大活躍です。

ベネフィットが抜けている企画や、エッセンスしかない企画が横行していたのですから、3つの要素がきちんと計算された企画に作り直したり、そもそも無理がある企画だということが分かったり。
プロダクトコーン理論のプロトタイプは、広告や企画のチェックリストとして大活躍していました。

もちろん、名前なんてありません。
社内では「森さんチェック」なんて言われ、「森さんに企画を通すなら、これら3つをはっきりさせるか、根性でぶつかるか、どっちかしかない」と部下や代理店の人たちに言われていたものです。

ある日、ふと、それぞれを並列に羅列するのではなく、上に重ねてみました。
いたずら心半分、ちょっと気になったことがあったのが半分です。
というのは、自分でプロダクトコーンを使っているうちに、あることに気が付いたのです。

それは、商品が普及する過程で、
規格→ベネフィット→エッセンス
の順番で生活者の関心事が変わることに気が付いたからです。
自社内での企画で最初に気が付き、確認のために他業界の例を片っ端から集めてみると、このルートが大半でした。

当時、理由はまだ良く分かっていませんでした。イノベーター理論との整合性もプロダクトライフサイクルとも繋げていなかったからです。
でも、少なくとも順番があることは確かだぞ。
だったら、単に表に矢印をつけるのではなく、初めから順番があるというイメージをつけるために、重ねてしまえとなった訳です。

私の理想はお手軽に使えるレゴのような理論

私の理想はレゴ・ブロックのように、様々なマーケティング理論をみなさんが組み合わせて、最適な戦略を簡単に作ることができる環境を整えることです。
前述したプロダクトコーン理論、イノベーター理論、プロダクトライフサイクル理論、DCCM理論の組合せは、まさにその一例です。

レゴのパーツだから一個一個はシンプルでないといけないと思っています。
イノベーター理論だって5つのグループを3つに減らしました(複雑な理論だと、自分が混乱してしまうのも大きな理由の一つですが(笑))。

そこには、私独自の理論もありますが、基本的にはすでに存在するマーケティング理論を簡素化したり、改良したものです。今回は説明しなかったDCCM理論だって、元を正せば心理学を応用したものです。
大したことはやっていません。

「古い技術と古い技術の新しい組み合わせ(スティーブ・ジョブズ)」
「枯れた技術の水平思考(任天堂 横井軍平氏)」

と結果的に同じことを、たまたま30年前から実行していただけです。

この姿勢は、独自調査分析手法の「ブランド・レーダーマップ分析」や未公表の「刺さる言葉・抽出分析(コンセプトを洗練化したり、キラー・キーワードを抽出する分析手法)」にも脈々と受け継がれています。

【参考】ブランドレーダーマップ分析

ただ、プロダクトコーン理論の図を三角柱から茶筒のようなカタチに変えただけで、オリジナル理論だと言い張る某汐留大手の広告会社だけは頂けません。
日本を代表する大手企業なのだから、もっとプライドを持ちなさい(笑)
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