私は面倒くさがりです
森さんってどんな人ですか?
面と向かってストレートに聞かれることがあります。
そんな時、「面倒くさがり屋」で「欲張り」です、と答えることがあります。大抵の場合、びっくりされます。特に「面倒くさがり屋」の方に驚く方が多いようです。
端から見るイメージが違うのは良くあることです。
例えば、釣りが趣味の人。
私たちは「のんびり屋」のイメージが頭に浮かびます。しかし、本当に釣りが好きな人は短気な人が多いのはご存じのとおりです。短気な人は魚が釣れないと色々と試します。餌、ウキ、さお、釣り場のポイント。いろんな工夫をしてこそ、魚がたくさん釣れて、釣りが楽しくなるものです。
私の「面倒くさがり屋」は釣りの例と似ています。
それは「ローリスク・ハイリターン」を目指しているからです。
「ローインプット・ハイリターン」と言ったほうが正しいニュアンスかしら。
カタカナでいうとかっこいいですが、日本語で言えば
要するに、できるだけ努力しないで最高の結果を出そう、という怠慢の極致が私の目標です。経営学用語では「ROIの最大化」といいます(笑)
これはプライベートだけでなく、仕事、つまり私のコンサルテーションの基本思想でもあります。例えば、過去記事の「時間管理」は「無駄なことはせずに、できるだけ多くのことをする」が基本思想です。これは結局「ローインプット・ハイリターン」を実現する1つの方法といえます。
ところが、人生うまくいかないもので、「棚からぼたもち」を実現するためには、その環境を作るための努力が必要です。
時間管理はそのひとつです。
測定方法も必要です。
今回のテーマ「コスト意識」は、自分の行動に分かりやすい「円」という単位をつけてしまおうという発想です。そうすれば、「最小の努力」「最大の成果」の尺度が実に生々しく分かろうというものです(笑)
タイトルの「われぇ、なんぼのもんじゃい!」は関西の河内弁で、けんかを売るときの常套文句ですが、直訳すると「How much you are!」です(そんな言葉はアメリカにありません。森の造語です^^)。
大の大人が8人も必要なの?
コスト意識を2つの側面から見ていきます。
まず、消極的な側面。コスト意識がないとどうなるか。
実例を挙げてみましょう。
友人に会いに、ある広告代理店のロビー兼打ち合わせスペースにいた時のことです。
隣のテーブルでスキーイベントのスタッフと、イベント会社の社長らしき人物が総勢8人、アンケート質問の内容について打合せをしている場面に出くわしました。
聞き耳を立てるつもりもなく、それとなく耳に入ってきた話を聞いていると(笑)、幾つかの質問に対して代理店のスタッフが意見を述べ、社長が回答している様子でした。
意見交換といっても「~じゃないですかねぇ」「う~ん。でも、こう思うんですが。あっ、でもこういうのもあるかも知れませんけど」と自信のないことおびただしい。
彼らが調査に関して素人さんなのは一発で分かります。しかも、だんまりの時間が長かったり雑談に入ったり。すでに3時間もこのような状態だったことが会話から分かりました。
クライアントがかわいそうになってしまいます。だって、彼らの雑談時間に対しての費用も経費に入っているのですから。大の大人が24人時間もかかれば、人件費だけでもバカになりません。
それより、あの程度の簡単な調査質問なら、シストラットの26才の女性スタッフの手にかかれば1~2時間で完成させてしまいます。プロジェクト中で請求する金額だって5万円を越すことはないでしょう。
このような無駄な仕事のやり方は意外に多いものです。
特に「会議」という名のつくものは危険極まりないケースが多いのは、皆さんもご存じのとおり。
今の冗談、3万円也
シストラットには数種類の料金体系がありますが、「1時間いくら」のタイムチャージ制を採用することもあります。弁護士の相談料のようなものです。
また、プロジェクト費用に「基本打ち合わせ回数」を明記する場合もあります。要するに「打ち合わせは1回90分、3回までプロジェクト費用に含まれています」というわけです。それを越すと「1時間あたりいくら」の費用を頂きます。
そうするとおもしろいもので、先ほどの例のような「ダラダラ」ミーティングは一切なくなります。誰かが雑談のような話をしかけると、大抵の場合、リーダーが「あ、鈴木君。今の発言で森さんの費用3万円分ね」等と茶々を入れてくれるので、なごやかな雰囲気を壊さずにミーティングがどんどん進みます。
(実は、冗談や横道が好きなのがリーダーであるケースが一番多いのですが (笑))
私の演出も大事です。
ミーティングの前の「本当の雑談」では私も冗談を飛ばしますが、「さあ、始めよう」という初っぱなに自分の腕時計をテーブルに置いて宣言します。
ミーティングが終わったら一言添えます。
この宣言は本来タイムチャージ制のときに、双方でスタート・エンドの境目について誤解がないように始めたものです。つまり、最初の雑談は私も参加したので費用を頂くなんてずるいことはしませんよ、という合図でもありました。
しかし、これが参加者の時間意識を深く印象づけるきっかけになったのです。
あるプロジェクトの見積もりを提出する直前のことでした。
クライアントのリーダーである部長から耳打ちをされました。
「いえ。今回、その必要はありませんので、予定しておりませんが」
「あれ、やって欲しいんです。しかも、第1回目のミーティングから。それで、超過分は1時間30万円にして欲しいんです」
「ええっ????」
私の料金は安くはありません。弁護士より高い場合があります。
それでも、普通のミーティングで1時間30万円は取り過ぎです。
「いやぁ、あれをやるとメンバーの身が引き締まって、集中力が高まるんです。森さんとのミーティングの後、自分たちだけのミーティングでも明らかに時間を意識しているのが分かるんです。結果、短時間でミーティングが終わります」
「趣旨は分かりました。でも、ご自分たちで『あっ、今の冗談の時間2万円ね』というようにやれば、わざわざ費用はかからないじゃないですか」
「それだと、部内の雰囲気が悪くなるんです。外部スタッフで、皆が一目置いていて、タイムチャージ制で、なおかつ金額が高い森さんのような人でないとうまくまわらないみたいなんです」
「ほめられているのか、ケンカを売られているのかが良く分かりませんが(笑)、黒川さんの趣旨は分かりました。ご要望ならそうしましょう。でも、超過したら本当に頂きます。恨みっこなしですよ」
結局、本当に30万円を頂くことになりました。さすがに申し訳ないので、次のプロジェクトでその分、それとなく値引きしました。
あれからも会議が「たるんでくる」と、同じ依頼が舞い込みます。
コスト意識を持たないと、「時間の無駄」だけの概念で終わってしまいます。
客観的な指標がまったくないから、「我慢できる、できない」「楽しい、苦痛」という感情レベルでしか「無駄」が認識されません。
そうなると、誰が勝つか。
その場での権力者です。つまり、上司、リーダーです。
リーダーには正確な判断を求められます。だからこそのリーダーですし、その分高い給料をもらっています。しかし、現実はそう甘くありません。運が悪いととんでもない奴に当たります。
リーダーであろうがなかろうが、自分が携わっている作業(仕事)はどれだけの価値があるのか。正確な判断するために「有意義」「無駄」に対する客観的なものさしが必要です。
これがコスト意識の消極的側面です。
自分はいくら?
さて、次はコスト意識の積極的な側面を見ていきましょう。
自分という人間を貨幣価値に換算するのは常に心理的抵抗がつきまといます。
思いがけなく低く出てしまうと、プライドが傷付けられてしまうからでしょうか。それとも人間を貨幣換算するのは、人身売買や売春のようにどこか不遜で、「してはいけないこと」という良心があるからなのでしょうか。
「われぇ、なんぼのもんじゃい!」が罵倒として使われるのは、そのためなのでしょう。
一方で、自分の価値って一体いくらなんだろう、という好奇心があるのも人間です。
ただ、このことについても、「労働の対価」としての貨幣価値なら心理的に受け付けられますが、女性に対して「あなたは幾らなら身体を売りますか」なんてアンケートをとったら、現代では袋だたきの目にあってしまいます。
(ちなみに、15年ほど前に某京王百貨店が従業員に対して、この質問を実施した結果が新聞に発表されたことがありました。
もちろん「3億円」「値段はつけられない」「無料」(こういうウィットは個人的に好きです(笑))なんていう回答もありましたが、単純平均値で2万数千円という結果だったのをびっくりしながら読んだ記憶があります。
世の中を知っているというか、夢がないというか。
このメールマガジンは約6,000人が集まる「公共の場」ですから、これ以上書きませんが、分かる方は私と一緒にびっくりしてください(笑))
入社3年目の女性のボーナスが、副部長より多い理由
さて、ここはマーケティングの場ですから、人生の価値ではなく「仕事のアウトプットの価値」を考えることにしましょう。
私が以前在籍していたコンサルタント会社は非常にユニークな給料の決め方をするので有名なところでした。
部全体にその年の「総給与額」が提示されます。
ここから、部員同士がぶんどり合戦を始めるのです。
まず、各自に一人一人の給与額が記入されたシートが配られます。
給与額の隣は空白。ここに、自分が考える来年度の部員ひとりひとりの給与額を記入します。自分の欄もありますから、自分で査定を記入します。
ぶんどり合戦の会議では最初に記入済みシートが全員に配られます。記名式ですから、誰が自分のことをどう思っているかが一辺にわかってしまいます。いつも文句を言っている先輩が意外に高めの給料を考えてくれたり、逆にいつも自分をほめてくれていた同僚が低めの給料しか査定してくれなかったり。
普通なら気が滅入りそうですが、そんなことでがっくり来るような繊細な神経の持ち主は、この会社では使い物になりません。
さて、ゴングがなります。バトルスタートです。
それぞれのスタッフは
●該当者はなぜ、自分がその金額を自己査定したのかの説明をしなければなりません。
それはそれはおもしろい光景です。
過去1年間の営業実績を集計して「自分はこれだけ稼いだ」と主張しようとする奴。相手の遅刻回数を集計して「勤務態度」を非難する奴。「彼女はまだ若いが、素質は▼▼さんほどありそうだから、現在より月間3万円高くても良い」と定性的に説得しようとする奴など、様々です。
中には「私はこんなに給料をもらう資格はない。過大評価だ」と査定額を必死に下げようとする輩まで出現します。給料が高いとその分プレッシャーも高くなるからです。実に、多種多様な人物像が浮彫りになるのです。
入社3年目の女性のボーナスが副部長より多いことなど、日常茶飯事です。
実際、私は副部長でしたが部長の1.5倍の年収でした。この会社では肩書と給料は相関しません。
私?私の最大の武器は、営業成績と私独自の理論のロイヤリティ収入でした (笑)
これらの営業によって売上が増加した分の2%を、ロイヤリティとしてよこすべきだ」
というのが私の主張です(笑)
これでかなり年収を上げることができました。
こうすると、新入社員や成績の上がらない社員の査定額は月間で5~6万円になってしまいます。これではさすがに生活できなくなるので、私のような高額年収社員の給料が削られて補填されます。
彼らにとって厳しい話です。だって、自分がもらっている給料は、仕事の価値に見合っていないことがあからさまにわかってしまうのです。
しかし、私のように、大企業で「自分はどれだけの価値があるのか」があやふやなまま昇進することに、我慢ができなくなった人間にとっては格好のシステムです。また、交渉力に磨きをかける最適な訓練の場でもありました。査定の会議が来ると嬉しくてワクワクしてしまったものです。
「肉体的欠陥」が堂々と評価対象になる外資系企業
その前の外資系企業にいた時の給与査定には参りました。
ここでは普通に上司が「計画性」「実行性」などの項目に点数をつけて評価するシステムでしたが、その項目の中に「身長」があるのです。「背の高さ」が人事評価対象なのです。
背が低いと交渉、責任感、威圧イメージがないので、仕事をする上で不利だ、というものです。
私は身長が165cmしかないので、その項目だけはいつも最低ポイント。その分、他でカバーする「反発心」がありましたので、他のブランドマネジャーの1.3~1.4倍の年収を勝ちとることができました。
「肉体的欠陥をあげつらうのは卑劣だ」と文句を言っても始まりません。
「デブは出世できない」なんて、日本企業で堂々と言ってご覧なさい。いくら「それは自己管理ができない証拠だ」と説明しようが何をしようが、あなたは確実に袋だたきの憂き目にあいます。
でも、アメリカでは「正義」です。ビジネスどころか人間性までが疑われてしまう「肉体的欠陥」です。だから、身長が人事評価の1項目になっている会社がイヤなら、辞めるのが一番手っ取り早い。
「郷に入れば郷に従え」ではなく「郷に従いたくなければ、郷に入るな」です (笑)
「本当に正当な評価を受けよう」とすると、「給料ぶんどりバトル」が待つ会社に行くのが最適です。
いや、次のステップがありました。独立です。そうすれば、自分がやったことはすべて自分に跳ね返ってきます。泣いても笑っても、すべて自分の評価です。
誰のせいにもできません。「クライアントが悪い」と愚痴を言おうが、そのクライアントの仕事を受けたのは自分なんですもの。恨むなら自分を恨むしかない。
私ですか?
とりあえず、身長の不利を他で補うことができる自信がついてから、給料バトル会社に転職しました。すみません。小心者なんです (笑)
誰でもできる「コスト意識」計算
さて、ここまででコスト意識の2つの側面を見てきました。
1つは、無駄を省くための消極的コスト意識。
マイナスをゼロにするという観点でのコスト意識です。
従って、これだけでは生産性は上っても仕事の質が上がるわけではありません。
もう1つは、自分の価値を測るための積極的コスト意識。
給料というわかりやすい単位で自分の能力を測ってみる。
これは、プラスをもっとプラスにする観点でのコスト意識です。
仕事の質が評価対象です。
これから、皆さんでも簡単にできるコスト意識の測り方をご紹介します。
いくらなんでも「給料ぶんどりバトル」を実行している会社は多くありません。
私がいた会社ですら、今では普通の人たちが社員の多くを占めるようになったので、かつてのバトルの勢いがなくなったと聞いています。
ましてや、そんな会社に転職するなんて現実的ではありませんし、オススメもしません。どうしても、というなら止めませんが(笑)
いつものようにステップを紹介します。今回は3つです。
●プロジェクト計算
●他人と比較する
時給計算
さて、第1ステップは時給計算です。
自分の税込み年収を2,000時間で割ります。
これは、あなたの「もらっている」時給です。
決して、「実労働時間」で割ってはいけません。忙しい職場だと人によっては時給350円などといった悲劇が生まれ、必ず世をはかなむ人が出現します(笑)
企業はこれだけでは利益が残りません。保険、福利厚生費はもちろんのこと、家賃、光熱費、備品など様々な費用が必要です。
従って、自分の時給を3倍します。
これが、あなたの「給料の価値」です。
さて、いくらになりましたか?
年収320万円の方で、時給4,800円。
年収700万円の方で、時給7,500円。
つまり、「あなた一人で」これだけの時給分を会社利益に還元しないと、存在価値がないといわれても仕方がない、あるいは堂々と「俺は会社を儲けさせている」と言えません。
いかがですか?それだけの自信はありますか?
プロジェクト計算
価値給料が計算できれば、いろいろと応用がききます。
例えば、冒頭のアンケート質問票の場合、全員が年収700万円のスタッフだと、8人が3時間もウダウダやっているので、その経費はこうなります。
これは高いのか安いのか。
一番正確な方法は、調査会社に見積もりを頼んでみることです。
ちなみに、冒頭で説明したように、ハガキ程度の質問なら26才のプロの女性で5万円です。彼らは差し引き13万円も無駄金を使っていることになります。
プロジェクチーム内の他のメンバーの価値給料を計算して、本当にこのプロジェクトは給料に見合っているのかを評価するのも楽しいです。また、無駄なことをやっていると分かれば、予算さえ許せばアウトソーシングを活用するのも利口な手です。
給料ぶんどりバトルの会社では、このような内部コストでプロジェクトを運営しています。
人それぞれに内部価格が決まっています。給料を3倍した値段です。
仕事を取ってきた人間はスタッフィングや経費管理を自分で行います。その時、そのプロジェクトの利益額の大きさに従って、どのスタッフを使うのかを考慮しなければいけません。
「これは、プロジェクトが小さいから、森さんには視点を考えてもらうだけにしておかないと、赤字になるぞ」
といった具合です。
逆に言えば、内部コストに見合う効果がないと判断されれば、その人に仕事は一切回ってきません。
コストに見合う、あるいは、このテーマができるのはこの人しかいない、と判断されれば、引っ張りだこになります。
実に合理的なシステムです。
この方法の唯一の欠点は、内部コストの計算が実際の給料をもとにしか、算定されないことです。普通は供給が一定の場合、需要が大きくなると市場価格が上昇するものです。なのに、私という人間は一人しかいないのに、いくら需要が多くても価格は一定。
過去記事にあったように、月間780時間地獄が待ち受けているという訳です。
他人と比較する
こんなことも計算してみるとおもしろいでしょう。
例えば、あなたが企画提案書を作りました。かなりの力作で3ケ月もかかりっきり。文字どおり寝食を忘れて完成させた自信作です。
さて、この提案書の質の善し悪しは別にして、単純計算でかかった金額は次のようになります。
「おおおお、これは500万円もの価値があるのか」と喜んではいけません。
次に、この企画提案書を競争相手に持ち込んだら、幾らで買ってくれそうなのかを考えてください。あるいは「これ、500万円で買ってください」と申し出たら、相手企業が快諾してくれるかどうかを判断基準としても結構です。
または、どこかの企画マンがこの企画書を書いてきて、その報酬として500万円を請求してきた時、あなたはどう思うかを考えればいいのです。
この答えが、あなたの本当の「アウトプットの価値」です。
もし、残念なことに「ノー」がでるなら、何が問題かを考えることが大切です。
なら、いくらであれば良いかを考えます。半分ですか?それとも1/3の170万円ですか?
「170万円くらいならいいかな」ということであれば、3ケ月もかかった提案書をどうすれば、1ケ月でできるようになるかを考えなければなりません。
なら、アウトプットの質をどうすれば高めることができるのか、いつまでに高められるのかを考えます。
それまでは、あなたは会社に借金をしていることになるのですから。
すべては自分のために
「コスト意識を持て」と言われるのは、経営者側の勝手な言いぐさであることが多いものです。社員に十分な給料を払いもしないで、経費だけを締め付ける道具としての言葉です。
だけど、本当に自分のこととして考えると、コスト意識は自分を高め、無理・無駄・ムラを省く最高のものさしになります。
でも、私にはひとつ悩みがあります。
「ローインプット・ハイリターン」(邦訳「棚からぼたもち」)
あぁ、いつになったら私は実現できるのでしょうか。