■身体計測機-2:訓練のススメ

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Plan – Do – See だけで訓練は OK

では、どうしたら、身体測定機になることができるのか。
簡単です。
Plan – Do – See を繰り返すだけです。

例えば、商品の普及率やテレビの視聴率を例に取りましょう。

「自分が週に2回見るなら、その期間の露出量は1,200GRPくらいだろう」

というような人間変換機になることを、ここでの目的とします。
まず、自分の興味のある商品の広告をチェックします。

自動車が好きなら気になるプリウスの広告、ビールが好きなら中山美穂の一番搾り。何でも結構です。もちろん、最近多い「食べっぱなし型」の永谷園やカップヌードルのようなワンパターン広告でも良いでしょう。

興味があるものなら、やっていて楽しいから、という単純な理由です。

その上で、

「これなら1,000GRP~2,000GRPくらいの露出量」

と自分の回答をメモに書きます。当初の感覚を忘れないようにするためです。

メモは強くお勧めします。
成長のない人間にありがちなのは、自分が最初に思っていたことをすっかり忘れ、結果を見てから「俺の思ったとおりだ」と思い込むことだからです。
中には自分が間違ったことに気がついていても、見栄を張りたいがために「だから俺が言ったとおりだったろ」と言うようなイヤな奴もいます。でも、大半は事実を目の前にして、その強力な誘因力に負け、自分が何を感じていたのかを忘れてしまうのです。
これでは、学習能力がまったくない人間になってしまいます。

さて、メモを書き終わり、その広告が見られなくなった段階で、広告代理店などに依頼して、正確な露出量を調べる。これを繰り返すだけです。
情報ルートのない人は、テレビドラマの視聴率でも構いません。番組改編の春や秋に主要なドラマを1~2回チェックします。「このタレントが出て、この内容なら視聴率はこれくらい」と、やはりメモを残します。
番組の最後や途中で、テレビ局に電話すれば正確な視聴率を教えてくれます。

めげずに頑張ろう

もちろん、最初はまったく当たりません。ボロボロです。
私の場合、15年ほど前に初めてテレビの視聴率をチェックした時は、2クール(1年間)くらいは、実際と私の予想数字に倍近い差がありました。「よし、このメンバーなら、視聴率18%は固いな」と思っていたら、10%の視聴率しかなくてガックリしたり、逆に2倍の視聴率が上がって、びっくりしたりという連続でした。

しかし、だんだん慣れてくると、自分の得意な商品は当たるが、そうでない商品はさっぱりという状況を迎えます。ここで、悲観してはいけません。当たっているものがある、というのは自分の皮膚感覚が成長している証拠なのですから、自分をほめて上げて下さい。

また、仕事が忙しいときには外れが多く、暇なときは当りが多い(または、その逆)という状況も経験することがあるかも知れません。
皮膚感覚とは「仕事がこれだけ忙しい時に、これだけのCM本数が見られるなら、これくらいの露出量(GRP)だろう」というように、ある程度の事前変数をも組み込んだ上で判断できるようになることです。
めげずに、頑張りましょう。

この訓練は、テレビ広告の露出量や番組の視聴率だけに限らず、色々なものに応用できます。
商品の配荷率、プレゼント・キャンペーンの売上、市場シェア、商品の普及率など、すべて同じ方法で可能です。

他の情報も参考になる - 魔法の2%

イメージカット2商品や消費者行動の普及率は自分の感覚だけでなく、メディアを見ることによってもおおよその感覚は掴めます。

例えば、雑誌は商品や消費者行動の普及率が2%程度になると記事にし始めます。「トレンド」に祭り上げるのです。そして、普及率が6%程度に達すると、今度はテレビが取り上げるようになります。

最後に10%に達した商品や習慣、行動はメディアが相手にしなくなり、一般化します。

具体的には、イエローキャブと騒がれた海外での奔放な若い日本女性の性行動は、20代の女性の海外渡航者の2%程度から話題になり始めたし、セックスレス・カップルも同じ数字から雑誌で騒がれ始めました。また、つい最近まで話題になっていた女子高生の「援助交際」も経験者は2%だったのです。

2%という数字は、田岡信夫氏が著書で語っている、彼独自の「クープマンの目標値の下限値」です。そして、6%はいわずと知れた存在シェアの6.8%、10%とは認知シェアの10.9%。
クープマンの目標値は実は商品や企業の市場シェアだけでなく、普及率にも使用できる極めて便利な数値です。どんどん活用してみて下さい。
【クープマンの目標値の解説を見る】

実際、2%という数字は実に見事にバランスのとれた値であることを実感します。
2%とは50人に1人という割合です。学校のクラスに1人、会社の部に1人はそういう行動、そういう商品を持っているという割合なのです。これは「耳新しいが、身近にいてもおかしくない」という状況を意味します。

雑誌がこのあたりから取り上げる理由は正にここにあります。
突拍子もない普及率では、「ウソだ」になってしまいますが、学校のクラスに1人、会社の部に1人なら、「うーん、もしかしたら、他にもそういう人がいるかも知れない」という実感や親近感を沸かせます。
もちろん、雑誌の編集者が普及率の数字を測って、企画を作っているわけではありません。彼らは、ある意味で最も数字という「マーケティング」を嫌う職種ですから。でも、優れたマーケティングと優れた経験は見事に一致するものです。クープマンの目標値などはその好例でしょう。

行動範囲には気をつけよう

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ところで、身体測定機の訓練を積むにあたって、気をつけなければならないポイントが1つだけあります。

自分の行動範囲です。

例えば、自宅と会社の往復、しかも通勤はすべてクルマだけで毎日を送っている人間が皮膚感覚を訓練しても、どうにも限界があります。自分の周囲が限定され過ぎてしまうからです。
こういう人は、根本的にマーケティングに向いていない生活をしています。皮膚感覚という以前に生活を改善した方が身のためでしょう。

また、テレビを見るのが平日は夜だけ、土日は1日中、というような典型的なサラリーマンの行動パターンを繰り返している人間に、主婦向け洗剤の広告露出量を身体で測定しようというのは、無謀以外の何者でもありません(このパターンは『逆L型』と呼ばれるテレビ広告の露出時間の決め方です)。このような人には、ビールやシェーバーのような商品だけに測定を絞る「見切り」が必要です。

組織人なら、組織人のできる範囲で充分

私はプロのマーケティング・コンサルタントです。その皮膚感覚を研ぎ澄ますのはメシのタネでもあります。

だから、例えば、自宅からオフィスまでの通勤にクルマは絶対に使いません。
電車内の人々や会話、広告、駅や街を行き交う人々、そして、店頭の商品すべてが情報源だからです。

また、社員には1ケ月に1回、出社しない日を設けさせています。その日は自由行動。一定の上限はありますが、会社負担で行動費用も支給します。彼女達は前から欲しかった化粧品を買ったり、行きたかったアミューズメント・パークに行ったりと様々な行動をしています。それで良いのです。その感覚が高い質の仕事に活きるのですから。

私達はプロだからこそ恵まれた環境を作ることができます。でも、企業の担当者にとって自分が遊ぶ費用を会社が持ってくれる訳ではありません。また、仕事が忙しくて徹夜続きのこともあるでしょう。

しかし、基本は同じです。「組織人だから」とあきらめてはいけません。
できるだけ、外に出て、自分の足で歩く。これが大事なのです。
私がサラリーマン時代にやっていたことです。

個人的には無茶しましたが

その時は、少なくとも1ケ月に1回は次項でお話しする定点観測をしていました。ただ、商品開発部に配属された時の最初の1年間は、ほとんど出ずっぱりでした。昼間だろうが、夜中だろうがいろんな場所に出かけます。

今だからこそ、若かりし頃の恥をお話しできますが、あの頃は、平日の昼間からナンパしたり、20年前では珍しかった「女子高生の援助交際」の現場を見に、昼の新宿や夜中の綾瀬まで行ったり(彼女たちに話しかけはしましたが、客にはなっていません。念のため)、当時流行りかけていたカフェバーを1日5~6軒、計300軒を2ケ月足らずに一気に回ったりと、まともなビジネスマンではありませんでした(1軒で1杯しかカクテルを飲みませんが、私は酒が弱いので、5~6軒目にはベロンベロン状態になってしまいました。なお、私が在籍していたのは酒類のメーカーではありません)。

また、生活者実態調査と称して、渋谷などの繁華街で自分のこれから開発する商品のユーザー・イメージに近い女性の後をつけて、メモを取ったり写真を撮ったり。はたまた、ファースト・フード店で話しを聞いたりということも繰り返していました。今なら「ストーカー」扱いですが、調査という数字では見えない、彼女たちの実態を身体で理解できたのはそれが初めてでした。

ちなみに、後をつけた女性の数は1ケ月間で約150人(そのうち痴漢に間違えられたのが3回)、話を聞いた(ナンパした?)のが、次の1ケ月間で約150人でした。おかげで、ボーナス2回分も自腹を切りましたが、個人的なブレーンが20人ほど出来上がり、その後10年ほどは彼女たちの後輩を含めて、私の大事な情報源やチェック機関として活躍してもらいました。元は完全に取っています。

このストーカー(?)調査は当時流行ったマーケティングの書籍「タウンウォッチング」で紹介された方法です。後日、著者の博報堂の方と話す機会があったのですが、「いやぁ、本当にあれを実践した方がいらっしゃったんですね。そんな方は森さんが初めてですよ。すごいですね」と言われてしまいました。褒められたのか、バカにされたのか、未だに良く分かりません(ここに書いてある方法は私が実践しているものなので「本当にやったんですね」とは言いません。ご安心を)。

皆さんにそこまでやれとは言いません。20年近く前の当時は恵まれた時代と環境だったのですから。それに、私も若くて好奇心と体力と生意気さがあり余っていたのですから。

大事なのは情報を取りっぱなしではなく、その結果と自分の感覚を付き合わせることです。
多少足で稼ぐ情報が少なくとも、そのハンデくらいはすぐにカバーできてしまうはず。あえていうなら、

【皮膚感覚の感度】=【検証】 x 【生情報の2乗】

という公式だと思ってください。

中級編 - 定点観測のススメ

イメージカット4大体の感覚が掴めるようになったら、その精度を上げることを目標として下さい。

いくら我々がプロといっても、やはりオフィス・ワークと通勤電車だけでは情報や訓練材料の代表性に限度があります。普段の生活はそれでも構いませんが、たまに自分の感覚を実態と付き合わせないと、実態とのズレが生じたままになってしまいます。カーナビで位置調整をするようなものです。

そこで、最もオススメなのは、基本中の基本である定点観測。
定期的に同じ場所を訪れるのです。
例えば私の場合、最低でも1ケ月に1回、時間があるときは1週間に1回、以下のいずれかの街に行きます。

●渋谷 ●原宿 ●新宿
●青山 ●銀座 ●下北沢/自由ケ丘
●横浜 ●立川

街をぶらついたり、喫茶店に入ったり、若い人の会話を聞いたりと、やることはたくさん。ただ、先程のカフェバーの時のような特別なテーマがない時以外は、酒だけは飲みません。居酒屋やバーに行ってもウーロン茶で済ませます。

一旦行くと2~3時間は街をうろつきます。もちろん、それ以上滞在しても良いのですが、さすがに時間が許しません。オフィスに戻って報告書を書かなくてはいけませんし、クライアントとの打合せも必要です。

でも、実は2~3時間というのは丁度良い時間なのです。これくらいの時間というのは、2倍の時間をかけたからといって2倍の情報が入るわけではない、1時間あたりの情報取得のコストパフォーマンスが最大になる点です。
皆さんもこのペースで充分でしょう。

さて、そこでは何をするか。
もちろん先ほど上げたような情報収集をするのですが、大事なのは、それを身体で覚えることです。

例えば、店や客層などを身体に染み込ませるほど通う。最初は1週間に1回のペースを3ケ月ほど続けてみて下さい。
すると、ある日訪れたとき、街並みを見ると「何か感覚が違うぞ」という感じが身体を襲います。そんな時というのはいつものブティックがなくなっていたり、新しい居酒屋ができています。あるいは、同じ若い人でもあか抜けないファッションの人が多くなった等、客層の変化や街を行く人々の混雑具合がいつもと根本的に違っています。
例えば、渋谷のセンター街はバブル崩壊直後はいつもと変わりない混雑だったのに、その2~3年後はスカスカの状態が続きました。そして、また、2年くらい前から「走ったらぶつかる」状態の混み具合に戻っています。

そう。
「違うぞ」部分だけをチェックしておけば、一瞬にして街の基本的な変化が掴めるのです。
そして、その感覚が実態とのズレを矯正してくれるのです。

参考までに言えば、私は書店についても店を決めます。
コツは通勤途中、つまりしょっちゅう行くのにも負担にならない場所で、かつ大き過ぎず、小さ過ぎない店を選ぶことです。具体的には私鉄沿線にある一番大きな書店、という程度のサイズです。
いつもの書店なら、棚にある本が変わるとピンときます。つまり新刊本が一瞬にして発見できます。
そうでもしないと、2時間でも3時間でも店内を回らないといけなくなってしまいます。

八重洲ブックセンターなどの売上ベスト10情報や、平積みの本だけをチェックすることで、手間を省くのも可能です。が、良い本が必ずしも目立ったところに置いてあったり、ベスト10に入るわけではありません。第一、我々のようなマーケティングの専門書を探すような身では、ベスト10情報は大ざっぱ過ぎて使い物になりません。

ベスト10情報を使うときは、「とりあえず世間で話題になっているビジネス書を押さえておかないと、プロとしてクライアントに対して恥ずかしい」という書籍をチェックするときだけです。

上級編 - 理論を使う

さて、感覚を十分磨いたら、最後は上級編です。
中級編では感覚を実態と合わせました。
今度は、感覚を理論と合わせます。

イメージカット5例えば、前述のように、普及率は2%で雑誌が取り上げ、6.8%でテレビが取り上げます。そして、10.9%を越えるとメディアは相手にしなくなります。

だから、例えば自分の感覚が「普及率5%」と告げても、テレビでとっくの昔に取り上げられたものならば、その感覚は上方修正しなければならないことになります。

また、モノ、特に普及率は勢いという側面があります。一般消費財の普及率は6.8%くらいまではジリジリと上がっていきますが、それを越えると一気に加速。そして、10.9%を越えたあたりから一時期停滞し、その後、しばらくしてから、再び一気に41.7%まで上昇するのです。
ただし、家電や音響機器の場合は急激に普及するのが10.9%を過ぎてから、と業種によって多少のずれがあります。

また、普及率が60%を越えると、勢いがなくなり、徐々に70%に近づき、しばらくそのまま平穏な時期が続くのです。
そんな時、賢いメーカーがいると、細分化市場を作ってしまうような差別化商品を市場に投入します。

ここでは細かく説明しませんが、テープレコーダー、カメラ、100%果汁、チーズなどをそれぞれ思い出して下さい。あるいは、最近で言うと、家庭用ファックスやMDも参考になるでしょう。大体上記のように市場が発展しているのがわかると思います。

参考にために、いくつかの耐久消費財の普及率を上げておきます。

 耐久消費財名 普及率 (%)
電子レンジ 91.7
乗用車 83.1
ルームエアコン 81.9
VTR 76.8
CDプレーヤー 59.9
洗髪洗面化粧台 38.4
ビデオカメラ 35.0
衛星放送受信機 34.7
温水洗浄便座 33.9
温水器 31.7
パソコン 25.2
FAX 22.2
衣類乾燥機 20.9
ビデオディスクプレーヤー 16.0
カラオケ装置 12.6

【出典】平成10年 : 総務庁

これらの予備知識、理論背景があれば、感覚を修正するのは難しくありません。
自分の感覚は「普及率25%くらい」と囁いているのに、一向にその市場が勢いづいて伸びているという情報がない。そんな場合は、まず自分の感覚を疑ってみれば良いのです。まず自分が間違っています。

皆さんのご検討を祈ります。
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