■企業が生活者からお金をぶんどれない時【カバン】 

artc20010901今回は「カバンシリーズ全2部作 (笑)」の第1章です。
カバンの外側、つまりカバン自体のお話です。記事の中身は、私の奮闘記。
いち生活者である私がどのような経緯でカバンを探したかを通じて、マーケティングの考え方を学んで頂ければ成功です。


カバン探しの旅の始まり

ガラガラ、どっしゃーん!バラバラ。

「いってぇー」

駅の構内で転んでしまい、かばんの中身を床にぶちまけてしまいました。

知らぬ顔して通り過ぎる人、へえという顔でのぞき込む人、びっくりして振り返る人、散らばった持ち物を拾ってくれる人。
いずれにしても、気恥ずかしい一瞬です。

そしてまた、自分の普段の持ち物の多さにびっくりする一瞬でもあります。書類や雑誌、手帳、パソコン、たばこなどなど。
改めて見ると、他人のカバンが気になります。
みんな、一体、何をどう持ち歩いているんだろう。

時々、テレビや雑誌で「カバンの中身拝見」といったテーマのコーナーや記事を見かけますが、そんなことを考えるのは私だけではなさそうです。

最近、特にカバンの中身が気になり始めました。
というのも、40代になってから、体力の衰えとともにカバンが重く感じるようになったからです。とうとう、肩こりが取れなくなってしまいました。

そこで、12年間愛用してきたサムソナイト・アタッシュケースに別れを告げるべく、カバン探しの旅に出ました。
これが、また難航したのなんのって。遭難しそうでした(^^;
そこで、今回は「カバン」をモチーフに記事を書くことにします。

カバンという商品にはカバン自体と中身の2つの視点があります。
最初は両方一辺に記事を書こうと思ったのですが、長くなったので「カバン編」と「中身編」の2回に分けてお送りします。
「中身編」の隠れたコンセプトは「シャープ対ソニー」。それはそれで、おもしろいお話になりそうです。

2つのパートを続けてお送りするのも芸がありませんので、中身編は数回後にお送りしたいと思っています。しかし、もし、休刊しそうになったときは、次回に繰り上げるかも知れません(笑)

興味のない方にはサブ的に見られがちなカバンですが、様々な角度から光を当ててみると、意外に多くのマーケティング・ヒントが見つかります。
今回は私のカバン探しをこと細かくドキュメンタリー風にまとめてみました。しかし、それだけでは「私に限っての話」なので、皆さんの参考になりません。

そこで、「教訓」のコーナーを随所に設けています。こうすることで、マーケティングの考え方が具体的に分かるように工夫しました。
加えて、皆さんが日常生活の中で、マーケティング的な考え方をまとめる参考になる。自分という狭い世界だけでなく、生活者という広い発想の仕方を学んでいただけるようにしたつもりです。

スタイル的には私が愛読しているメルマガ「経営戦略考」を無断でパクりました(笑)
「経営戦略考」の森さん、お許しを。

私のカバンのご紹介

まずは私のカバンをご紹介しましょう。自慢できるものではありませんが、そこから話を始めないと記事が進みません。
私はここ20年ほど一貫してアタッシュケースを愛用しています。サラリーマン時代からです。

●パカっと開けて、何でも放り込める
ことと
●書類が折れたり曲がったりしない

のがアタッシュを気に入った理由です。

アタッシュケースを最初に買ったのがスーパー長崎屋のバーゲンで980円也(笑)
話はずれますが、私の買い物の仕方はいつもこれです。新しいタイプのものを試す時は、できるだけ安いものを買って使ってみる。

気に入らなければ捨てても惜しくない。
気に入れば、細かい不満点を解消してくれるものを求めて、予算を上げていくやり方です。

システム手帳の時もそうでした。
最初に買ったのはシンガポールで3,500円の安モノ。次に買ったのはファイロファクスです(もっとも、イギリス本国で買ったので14,000円で済みました。日本の1/3の値段です)。

話をカバンに戻します。
前フリでお話ししたとおり、コンサルタントとして独立してからは、つい最近までサムソナイトのアタッシュケースを10年以上愛用していました。

中身を入れ替えるのが面倒なので、ビジネスでもプライベートでも、これ一つ。
おかげで、クライアントに会わない日の私の定番ファッション、ジーンズとTシャツ姿にアタッシュケースはちょっと異様です。
「危ないモデル・プロダクションの社長のように見えますよ」
とよく言われます(笑)

私がサムソナイトを愛用していたのは、当時、A4サイズの書類が2列収納できるアタッシュケースがこれしかなかったからです。
使っているうちに収納スペースが広いのと頑丈なのが気に入りました。
駅のホームでも、疲れたらその上に座れてしまう。

欠点と言えば、その収納スペースの広さに比例して、サイズが大きいことと頑丈なので堅いことです。満員電車や混雑したところで他の人に当たると痛そうでした。

教訓-1
やはり差異化は強い。あるニーズに「オンリーワン」で応えたら、多少のマイナス要素があっても商品は売れる。
大きな市場でたくさんの競合があるより、小さな市場で少ない競合を目指すのは弱者のマーケティングの基本中の基本である。

ところが、ここ1~2年、サムソナイトのアタッシュケースの重さに、体力がついていてこなくなってしまいました。何せ、私のカバンは中身を入れると8kgにもなります。それを40代になっても毎日持ち歩く訳ですから、「運動になる」なんて言ってられません。

中身を整理して軽くしようとしても限界でした。
だって、カバン自体の重さが2.5キロもあるのてすから、自ずと限界がある。
旅行カバンでは軽くて丈夫で有名なサムソナイトも、ビジネス用ではまだまだ重いのが実情です。

そこで、10年間の愛用ブランドに別れを告げるべく、新しいカバンを探し始めました。上限予算は10万円。仕事の効率や健康を考えると高い金額ではありません。

目標は色々とカバンの中身を整理したり、1つ1つの小物の重さを量って算出した1.2kg~1.5kg。約半分の減量作戦です。

スタイルは書類が曲がらないものがよい。すると街でよく見かける、軽そうなソフトバッグは対象から除外されます。
(実際に、ソフトバックだと重量も1kgと軽いのが多いので残念です)。
ショルダーバッグはスーツの形が崩れるのでパス。

それ以外なら贅沢は言ってられません。後で分かったことですが、軽いカバンが極端に少ないので、おしゃれだの見栄えだのを云々している余裕はないのです。

カバン探しは、案の定、簡単な話ではありませんでした。
カバンなんて、とにもかくにもたくさんの種類があります。一々、店を回ってカバンを探す時間を使うのもばかばかしいのは、今までの経験から分かっています。

そこで、目を付けたのがインターネット。検索エンジンで調べたり、オークションサイトを覗きました。
目的はもちろん、できるだけ軽いカバンを探すことです。

教訓-2
流通業にとって、情報は立派な商品。
そうでないと、ネットに客が流れてしまう危険性がある。
例えば、東京JR渋谷駅のコンビニ、ランキング・ランクイーンは、一見、普通の駅のコンビニだが、1つ1つの商品や雑誌・CDに売れ行きランキングが表示されている。
それだけでも、かなり他店と違うおもしろさ(価値)がある。
教訓-3
目的の商品を探す手間が省ける「ワンストップ・ショッピング」の概念は、百貨店やショッピングセンターだけの専売特許ではない。
カテゴリー・キラー(サイザらスやビクトリアなどのおもちゃやスポーツ用品店に特化した大型専門店。
一般的に価格も安い)は、安さもさることながら、商品購入に関わる時間短縮ニーズがあることを忘れてはいけない。

情報が見つからない、困った

さすがにネットです。カバンの通販も情報もたくさんありました。
ところが、私が最も知りたい重さを表示しているものがほとんどありません。
たまにあっても目標重量を上回ります。

これにはほとほと困りました。
結局、ネットでの検索をあきらめ、実際のお店を回ることにしましたが、ネットと同じく、重さが表示してある商品がほとんどありません。

覚悟を決めていたので、予算を超過する可能性がある高級品で有名なゼロハリバートンにも触手を伸ばしました。さすがに高級品です。ゼロハリの品揃えが充実していた池袋ビックカメラ本店では、きちんとサイズと重さを並べたパネルが掲載されていました(現在はゼロハリを同店で見かけません)。

ところが、これがまた重いのなんのって。
なんとランクが高いシリーズは5kgにもなります。
私は中身を持ちたいのであって、ゼロハリバートンという

「ブランドだぜ、高いんだぞ。わっははは」

な優越感を持ちたいのではありません。
5kgのカバンに1kg分の中身なんて、本末転倒も良いところです。
もちろん、1.7kgのゼロハリもありますが、とてもではありませんが、小さすぎて私の仕事には使えない。

他にもよくよく見ていると、いわゆる高級カバンと呼ばれるものは、ほとんど重いことに気がつきました。
分厚い本革を使っているものは耐久性や手触りは良いですが、いかんせん軽くならない。

「最高の素材を使っている」のでしょうが、「軽さ命」の私にとっては「高級にしたいから、高い素材を無理矢理押し込んだ」ようにしか見えません。
思い余って、オリジナル手作り職人のオーダーメイド品を探してみました。ここでも、重くするのはいくらでもできますが、軽いものは作れないことが判明。

重さが分からない、分かるものは重い。
軽いものは(ソフトバッグ)私のビジネスには使えない。
金に糸目をつけない覚悟をしても、空振りするばかり。
うー、三重苦、四面楚歌です。

教訓-3
一般的に高級品は「結果的に値段が高くなってしまいました、ごめんね」タイプと、「『良い素材を使っている』とか、理屈をつけて上げるから、それで周りに自慢しなさいね。もちろん、値段は高いよ。わかってるね」タイプの2つがある。
前者は説明不要だろう。

後者は、ダイヤモンドや全18金で固めた時計などが典型である。
時計にダイヤがはめ込まれていなくても、時計としての機能や品質は変わらないからだ。
また、同じ商品なのに、2種類の生活者がついてくるのも高級品の特徴のひとつである。

例えば、「自分はもう、ベンツに乗ってもおかしくない地位と収入がある」と判断してベンツを購入する客と「ベンツを買えば、自分の社会的な地位も高く見られるだろう」と思ってベンツを購入する客の2種類だ。
前者の客は「自分に(ふさわしい)商品を合わせる」、後者は「商品の力を借りて、自分を引き上げようとする」心理の違いである。

情報不足という点でいえば、似たようなことをシュレッダーでも経験しました。
シュレッダーで私が最も重視したのは、「同時にシュレッダーにかけられる書類の枚数」と「裁断スピード」です。
この2つをかけ算すれば作業効率が分かる…はずでした。

ところが、多くの文具メーカーのカタログには「裁断スピード」の情報がありません。
「一度に●枚、裁断できるから早い」と片方の情報はデカデカと書いてあるのに、裁断スピードが書いていなければトータルな早さは分からない。

カバンでいえば、縦の長さはあるけど横幅が書いていないようなものです。
シュレッダーのスペック両方が掲載されている宅配文具会社は1件しか見つかりませんでしたので、迷わずそこから購入しました。

ところで、笑ってしまったことがあります。
「一度に何枚もかけられるから早い」機種を、今回購入した両方のスペックが掲載されているカタログでも見つけました。
そこで、裁断スピードを見るとむしろ遅い部類です。総合スピードでは、もっともっと速い機種はたくさんありました。最速機種の数分の一しかありません。

一方で、価格が高い機種が速いかというとそうでもありませんではた。実際、私が購入したシュレッダーの3倍以上も値段が張る高級機種は、総合スピードでは低い部類です。他の機能が充実しているので価格が高いだけでした。

教訓-4
情報は、「たくさん、あればいい」ものではない。特定の情報がなければ、欲しくても買えない生活者もいる。

百貨店のカバン売り場にて

カバンの話に戻ります。
そろそろ、気が弱くなってきました。重さの情報があまりにも少ないからです。
カバンの重さを気にする人なんて、私くらいしかいないのかと心細くなってきます。

確かに、私自身、最初にサムソナイトのアタッシュケースを買った10年前は、ちょっと持って重さを手触りで確認する程度でした。だから、厳密な重さの情報ニーズは大きくなさそうだとは薄々感じていました。

でも、私のように体力がなくなった人はたくさんいるはずです。
他のユーザーはどうしているのでしょうか。
やはりちょっと持ってみて決めるだけ?

でも、それではその時の体調や疲れ具合によって、重さの感覚が変化します。体調の良いときにカバンを買いに行って軽く感じたけど、日常の体力では重く感じてしまうのでは話になりません。

もちろん、重さなんていい加減なものであることも知っています。例えば、カバンのバランスが良ければ軽く感じ、悪ければ重く感じる。取っ手が持ち安ければ軽く感じ、持ちにくいと重い気がする。

素人の私としては、そんな様々な条件をかぎ分ける力がありませんし、知識を習得する時間を費やすつもりもありません。
それならば、客観的な数字が一番手っ取り早くて確かな判断材料です。

…と思ったら、やっぱりありました。
カバン用のハカリが置いてある売場が。

案の定、専門店でもなければ量販店でもない。渋谷東急百貨店のカバン売場でした。
「腐っても鯛」とは、このことです。
古きよき時代の「顧客指向の百貨店の残党」です。

「さすが、デパートですね。ハカリがあるんですか」
「重さを気にする(百貨店に来る)お客さんは多いですよ」

とは売場主任らしき女性の弁。

思わず狂喜乱舞してしまいました。
私のようなニーズを持った客はいる。だったら、軽いカバンの品揃えもさぞかし多いだろ…うっ?

現在の百貨店の衰退の原因の一つが見えてきました。
品揃えがあまりにも中途半場なのです。
量販店と比べてそう広くない売り場には、様々な価格のカバンが陳列されています。

丁度、セールの時期だったせいもあって、安いソフトバッグは3,000円くらいからの価格設定です。かといって、ブランドモノは10万円に近いものもあります。
ただ、売場が小さいので、それぞれがすべて少しずつしか陳列されていません。

私の目的のアタッシュケースやハードケースも品揃えが極端に少ない。商品点数は量販店や安売り店の1/3くらいしかありません。
しかも、ノーブランド商品の価格は量販店よりも2倍程度は高い。

百貨店は売り上げを稼ごうとして、結局、品揃えを競合店と似たようなものにしただけです。しかし、似たものにすればするほど、価格差が客足を遠ざける。
一方で、セール販売をして価格差を縮めようとすればするほど、今度は品揃えの狭さが露呈する。
「前門の虎、後門の狼」状態に自ら追い込んでしまっているわけです。

うーん、こんな品揃えでは百貨店は負けるはずだよなぁ、と思いつつも、「ハカリで商品を1つ1つチェックしてくれる」なんて接客は他店ではありえない、百貨店ならではの存在意義です。これで、品揃えが他店と比べて、せめて70%くらいにまで拡充してくれていたら…と残念がっていても始まりません。

ちなみに、百貨店の価格の高さはそう気になりません。
だって、後述するように20時間もカバン探しに費やす労力を考えると、5万円のカバンが7万円になったところで、十分にペイするからです。

百貨店でわかったことは、結局、軽いものはソフトバッグだけ。中身を守るハードタイプはすべて重いことでした。
しかし、ハカリと店員さんに感動した私は、目標よりはちょっと重い1.7キロだけど、扱っている中では一番軽いアタッシュを買ってみました。

13,000円也。予算を大幅に割った金額です。
しかも、前の日に来店した量販店では、似たような質のカバンが7,000円くらいで売られていたような気が… (笑)
何はともあれ、三越の売り上げ再向上の要因が接客の向上であることを実感したひとこまでした。

購入後、不安は的中。
目標に達しなかったとはいえ軽いのは歓迎でしたが、いかんせん収納スペースが足りない。
中身の半分をあきらめてもカバンがパンパンになるほど。
結局、タンスのこやしとなりました。

教訓-6
流通によって客層が異なる。
それはつまり、ニーズも異なるということだ。
従って、メーカーの対応も流通によって変えないと、モノが売れない、安いモノしか売れないということになる。
一見、当たり前のように見えるが、何でも安売りの風潮が流行ると、百貨店ですら安売り指向になってしまう。
判断力が鈍った証拠といえよう。
「当たり前のことを当たり前に。ただし、徹底的に」は森流マーケティングの基本だが、真実でもある。

10万円が5,000円に化けた。ちっとも嬉しくない

三再び、カバン探しの旅が始まります。
そろそろ意気消沈してきました。
というのも、この段階で使った時間は、すでに20時間。軽いプロジェクトなら1本分に当たります。日常の工夫で、時間短縮をコツコツと積み上げてきたものが一辺に吹っ飛んでしまう。

私はカバンに関して言えば、ショッピングを楽しむつもりはまったくありません。目的のモノがはっきりしていて、それが手に入りさえすればよい。
それだけです。

結局、もう一度、品揃えが多いカバンの安売り店に戻りました。
私の欲しい商品が見つからない以上、もう一度、目標スペックを見直して選び直すためです。

そして、結果的に買ったのが現在使っているアタッシュです。
重さは1.7キロ。
ベニヤ板に合皮を張った安普請ですが、軽いのが嬉しい。
先のお蔵入りのカバンと違って、多少なりとも収納スペースがあります。

買ってから気に入ったのは、カバンがジャバラのようになっていて、フックを外すと奥行きが広がる工夫がほどこされていることです。

収納スペースも妥協しました。
A4版2列のサイズはあきらめ、B5サイズにしました。カバンの重さをこれ以上妥協できないため、中身をムリヤリあきらめることで総重量を減らそうという魂胆です。

実は、ここからまた中身の争奪戦が始まりますが、それは後日に譲ります。

価格は、なんと5,000円。
お金を渡す時に「15,000円」と間違ったほどの激安です。
うーん。
本来ならカバン業界は当初の予算である10万円を、私から奪い取ることができたはずです。
しかし、結局、私からは5,000円しか取ることができませんでした。都合、95,000円の「得べかりし売り上げ」を失ったことになります。

教訓-7
モノが売れない、安いモノしか売れない原因はいくつもあるが、その際たるものは、ちゃんとした商品開発ができていないことだ。

払いたいのに払えない人々

お金を払いたい、払っても良いと思っているのに、自分のニーズに合った商品がないから使えない。
私だけでしょうか。
色々と考えてみます。

出てきた仮の結論は「私のケースに限ったことではない」です。
世の中、「若い人」「女性」向けの商品開発ばかりしてきたおかげで、団塊の世代という1,000万人を越す大きな市場を取り逃がしています。

彼らは、新しいモノを受け入れるパワーが下手な10代よりもあります。可処分所得も大きい。
お金を使っても良いと思っています。
だけど、彼ら向けの商品がないから「使いたくても使えない」状態なのです。

今回のカバンのケースでいえば、確かに「主流ニーズ」は「重さはそんなに気にしない。でもデザインや色、価格を優先する」ことなのでしょう。
街ゆく人々を見ると、それはよく分かります。

次のニーズは恐らく高級志向。
高級カバンを持つような人は重くても良いのは容易に想像できます。彼らは、こんな人たちなのでしょう。

●自分でカバンを持ち歩くような地位にはいない
●クルマで移動することが多く、持ち歩くのは駐車場から目的地のビルまでといった、短い距離

従って、ブランドモノのカバンは4~5kgといった、「いいカバンを持ってるだろう、うらやましいだろう、えへん」という「見栄を持ち歩く」ように進化してしまった。
これも、街の人々や自分の周囲にいるビジネスマンを観察しているとよく分かります。

しかし、新しい第3のニーズが台頭してきているのは確かです。
先ほどお話しした団塊の世代の体力が衰えてきた人々。
あるいは年齢に関係なく、モバイル機器などの情報機器を持ち歩く人々のニーズです。

つい10年前には持っている人すら見かけなかった、サブノートパソコンの台頭からそれは推測できます。
550gのモバイルギアをはじめ、最近はVAIOの980gのパソコンなど、1kg前後のパソコンに一定のファンがついています。

1台目の(デスクトップ)パソコンが普及したので、2台目としての軽量サブノートパソコン需要が出てきたのでしょう。10年前は1台目のパソコンとしてサブノートを使う生活者がいなかっただけ。

体力低下と情報機器に対応すべきカバンは軽くて丈夫な商品です。
価格は2種類。
多少高くても品質がよいのは、私のように体力低下とモバイルを持ち歩く2つの条件を兼ね備えた人向け。
もうひとつは、廉価版でモバイルを持ち歩く主に30代の可処分所得の多少低い人、または体力低下の(普通の可処分所得の)新団塊の世代。

そんなに難しい発想の商品ではないではないかとお笑いになる読者に一言。
業界にどっぷりと浸かっていると、「灯台もと暗し」状態になってしまうのはよくあることです。あなたがカバン業界を笑うように、他業界の人があなたの業界を笑っていない保証はどこにもないのです。

教訓-8
商品開発はあくまでもターゲット(対象顧客)をベースに考えなければならない。
そして、生活者の変化に追いつかなければならない。
…当たり前に言われていることだが、それを実感として理解しているかどうか。
当たり前だと思う人は、例えば、新団塊の世代への対応を真剣に考えているかどうかを再確認せよ。
「対応の必要なし」ときちんと説明できるか、「すでに対応している」と回答できない企業は「当たり前」がまだまだ頭でっかちの範疇であることを疑った方がよい。
教訓-9
「業界の常識」に縛られている人の発想は、それだけ狭くなっていることが多い。
特に、新しい生活者の台頭を見逃してしまうケースが後を絶たない。
他業界をあざ笑う前に自分を再チェックせよ。自分があざ笑われているかも知れない。

一握りの努力をしたものだけの特権、ブランド

くだんのカバンです。
ベニヤ板では耐久性が低いので、早晩買い換えなければなりません。
実際、購入してから半年しか経っていないのに中身の重量に耐えきれず、歩くとハンドル部分がギシギシ言い始めています。

買い換えの時、また同じような「無駄な」時間を使わなければならない。そのことを考えると気が滅入ります。

ブランド品の良いところは、そんな時間を使わずに済むことです。目をつぶっていても、同じ品質のカバンが余計な時間を使わずに手に入ります。サムソナイトを気に入っていた頃のカバン探しは、本当に楽でした。

しかし、ブランドモノは重くて使えないのは前述のとおり。
一方の目的に近いノンブランド・カバンはほとんどが一点モノです。販売店に聞いても同じ商品がメーカーから来るかどうか、まったくわからないと回答してくれます。
現在のカバンも2~3個買おうと思ったのですが、それができない。

もしかしたら、私のニーズに合ったカバンが世の中のどこかにあるのかも知れません。
知っている人は知っているのかも。

個人的には「是非、教えて下さい」と言いたいところですが、コンサルタントとしては、

「生活者が知らない商品は、存在していないのと同じこと」

なのです。生活者の勉強不足をバカにするより、それを知らしめていない自分(メーカー)を反省する必要があります。

まだまだ、私のカバン探しは続きます。

教訓-10
ブランドを確立してしまえば、メーカーも楽をして(改めて存在を知らせるための広告費用も不要で)自動的に客が買ってくれる。
客も楽をして同じ品質のものが買える。
しかし、そのためには多くの企業努力が必要となる。
それを乗り越えてきた企業だけが、ブランドという特権を手にすることができるのだ。
それは、ブランドについてのビジネス本を1,800円で買って、知識だけを詰め込んだ頭でっかちのエリートでは決してない。

後日談
結局、1kgのソフトカバンを買いました。ドン・キホーテで3,900円なり。
ところが、これが使いやすい。パソコンは専用の軽い緩衝材でできたカバン用仕切りで守ってくれます。携帯電話もちょっとしたペンもポケットが多くて使いやすいものでした。

気に入った私はこのカバンを2回に分けて合計15個も買いました。記事中にあるように、いつ何時、このカバンが手に入らなくなってしまうかも知れなかったからです。

しかし、それも10年たった現在では在庫切れ。
これからまたカバン探しの旅に出ます。
【使用画像】鞄倶楽部
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