■サルにもわかる調査入門【マーケティング調査】

折れ線グラフ

同じ数字が180度異なる判断の不思議

「消費者調査のデータでは、評価はかなり高いはずなのです」

商品が売れないという相談があった時にいきなり相手の担当者からこのような言葉が出ることがあります。

「え? おかしいな。数字は嘘をつかないのに」と思った瞬間、反射的に出てくる言葉が、これです。

「そのデータを見せてください。分析はいりません。数字だけで結構です」
「これです」
「ははぁ。やっぱり」

そこにある数字は

「売れる、評価が高い」

という彼や報告書のことばとはまったく裏腹に

「買いたくない」

という生活者のつぶやきがはっきりと出ています。

同じ数字なのに一方は成功、一方は失敗の予測が出てしまうのはなぜなのでしょうか。
その秘密を書き始めたら、本を3冊も書けるほど、たくさんのノウハウの説明が必要です。

しかし、少なくともここで言える確かなことがあります。

「データを取った(調査をした)だけでは意味がない」

ということです。

「データは読み込んでこそ、初めて意味を持つ」

のです。

私と彼は同じデータを見ています。しかし、それからの判断か違います。
180度も変わっているのです。
調査とは怖いものです。

過去記事「みんなって一体だれなのさ」でも指摘したように、

「ある数字を分析する人間が『高い』といえば、その数字は高いのであり、『低い』といえば低いのだ」

という単純な話ではありません。

このことばを書いた筆者の方は調査の数字は見たことがあっても、きちんと設計し、実査し、分析したことがない方なのでしょう。
いや、もしかしたらそれは酷な話なのかも知れません。
プロであるはずの調査会社でも似たようなことを言うリサーチャーもいるからです。

マーケティングと調査の甘い関係

探偵マーケティングと調査は切っても切れない仲です。
だからでしょうか。
古いタイプの企業組織では、マーケティング部とは名ばかりで、内情は調査部であることも多いものです。広告代理店のマーケティング部はその典型でしょう。

また、調査といえば浮気調査などの探偵業をイメージする方もいるし、スーパーなどの商圏調査を思い浮かべる人、企業秘密を探る産業スパイなどのイメージを持つ人など様々です。
従って、マーケティングでは「市場調査」や「消費者調査」のように、他の「調査」と区別した単語を使うことがあります。

加えて、アンケートの数字は新聞やテレビ、雑誌など様々なメディアで紹介され、私たちに身近な存在になっています。
例えば、東京大学が実施したインターネット・ユーザーを対象とした調査で、

「テレビを見る時間が減った人 34%」
「睡眠時間が減った人 32%」

などという新聞記事を見ると、

「ほうほう、インターネットをする人の1/3は、睡眠時間やテレビの時間を削ってまで没頭しているのか」

という感想を持つことになります。

今や、データは見るだけの時代ではありません。
素人さんでもアンケートを作ることがあります。
特に、ホームページを見ていると、個人サイトでもアンケート調査と称したページも多く見かけます。

個人経営のレストランや旅館などでもアンケート用紙が置いてあり、よく言えば手作り、悪く言えば知識のない素人さんが作ったことがはっきりと分かる質問が並んでいます。

「一億総マーケター」ということばが一時期雑誌でもてはやされたこともありますが、それを如実に感じるひとこまです。

しかし、調査データを読むときに、無定見に臨んでは危険であることを、過去記事「みんなって一体誰なのさ」でご紹介しました。
この記事では良くある間違いを中心にデータの持つ危険性を説いたつもりですが、どうしても一面的なお話しかできません。
このメールマガジン自体がマーケティングという実務科学を少しづつ切り取ってお見せしているわけですから、仕方がないところでもあります。

数字の見方や危険性を別な角度からテーマにした記事を今後組み合わせることで、全体像をおぼろげながらであっても、お見せする気持ちは変わりありません。
しかし、その前に一度まとまったお話をするのも悪くはないと思い、「サルにもわかるシリーズ」に調査という項目を加えることにしました。

ただし、私の記事です。テクニック的なお話は極力避けました。
その代わり、調査データや調査会社とつきあうにはどうしたら良いかを中心に記事を進めることにしました。

「サルにも分かる調査入門」というタイトルよりも「サルにも分かる調査会社の使い方」といった趣の記事になってしまいましたが、基本は同じです。調査データを縦横無尽に使いこなして、仕事を楽しくやっていきたいものです。

なお、調査技法に興味がある方は各種の調査入門的な書籍を参考にしてください。良くできている教科書がたくさんあります。

その1: 調査が必要になるのは従業員30人以上の会社から

cojpまず、一番大切な前提条件からお話ししましょう。
調査や生活者データをせっかく勉強しようとしている読者の皆さんには申し訳ないのですが、調査は小さい規模の会社には必要がありません。
特に、日本の会社の70%を占める従業員5人以下の会社ではなおさらです。

小さな会社では、わざわざお金をかけて調査をするよりも、もっと安上がりで、正確な判断基準があります。
それは、社長の勘です。
ただし、創業者で5年以上その会社を維持しているという条件付きです。

最近よく見かける、投資家が資金を湯水のようにばらまいてできあがったような、インスタント社長あるいは成金経営者は、市場や商品についての知識も経験もない人たちなので除外します。彼らの市場や客に対する勘はまったく当てになりません。

また、アムウェイが成功したからといって、なにも考えずに、ただ欲ぼけで目がくらんで作ったようなニュースキンの会社形態の販売代理店がかつてあちこちにできましたが、そういった会社の社長の勘も当てになりません。

新らしく作られた会社のうち、5年後まで残るのは5%しかありません。インスタント社長や欲ぼけ代理店はいずれにしても消滅してしまうでしょうから、「5年以上維持している」条件には合致しません。

さて、なぜ社長の方が調査よりも正確なのか。
小さい企業は小さいニーズでも立派にメシが食えるからです。
大手企業が無視するような(あるいは「対応するには小さすぎて効率が悪い」)ニーズやお客さんの数であっても、小さい企業にとっては売り上げの大きなパートを占めるのです。

業種にもよりますが、従業員5人くらいの会社なら、売り上げが1億円もあれば十分にやっていけます。
でも、トヨタのような大企業では1億円の売り上げはゴミのようなものです。そんな市場に優秀な人材を投入するような効率の悪いことはできません。

一方、調査データは細かいニーズを拾い上げるのは不得意です。
1%、2%は統計学の誤差範囲です。従って、小さなニーズや少ないお客さんの数が統計上の誤りで、実際は存在しないものなのか、少なすぎて単に数字に表れていないだけなのかは判断できません。

でも、30人以下の会社なら、その1~2%で十分以上に売り上げが稼げる。
統計学の限界はマーケティングの限界です。
「調査より勘が正確」と先ほどいいましたが、正確に言えば、小企業にとって「調査は『本当に』役に立たない代物」になり果てます。

その2: データは信用してかかれ - 自分を疑うことと見つけたり

【お断り】
ここでいうデータとは、きちんとしたプロの調査会社などが実施した調査のデータのことをいいます。
雑誌やテレビが実施した調査はいい加減なものが多いので、信用してかかるのは危険です。
新聞は、全国紙は信用できる場合が多いのですが、専門紙は気をつけなければならないことが多いと考えてください。

「データは疑って読め」と考えている人が多いのに驚きます。
その理由は様々ですが、代表的なのは次の2つです。

「自分の感覚とデータが違う」
「調査に従って商品開発をしても成功した試しがないから、調査を信用しない」

まず、前者のポイントについてお話しします。
「自分の感覚とデータが違う」のではなく、「自分の感覚と『分析コメント』が違う」というのであれば、残念ながらそのとおりのことが多いといわざるを得ません。

確かに、「調査報告書の分析」を疑った方がよい場合があります。私の経験では、10の報告書があるとすると、そのうち3~4つは「この数字をこう読むのは変だな」と思うレベルです。冒頭にあげた「買いたくない」という生活者のつぶやきを「評価が高い」と解釈するお話も、この例のひとつです。

残りのうち、4~5つの報告書は、分析といっても当たり障りのないことをコメントしただけや分析の文章表現を曖昧にしているために、明確に「違う」訳ではないけれど、「正しい」訳でもないと評価すべきものです。
ようやく10の報告書のうち2つくらいが「まとも」な分析をしているのが現状です。

しかし、分析ではなく「データが(感覚と)違う」となると話は別です。
データよりも自分の感覚を疑った方がよいケースが90%を占めるからです。
訓練されていない人たちの感覚は、あくまでも「自分の周囲の人たち」や「仕事を通じて見聞きした人たち」がベースになっています。
限定された人たちの情報でしか判断できない人の「自分の感覚」ほど危険なものはありません。

例えば、マーケティングに携わっている人たちの100%がホワイトカラーです。
工事現場や警備員などのブルーカラー職の知り合いはほとんど皆無でしょう。
あなたの会社の商品を彼らが買ってはいけないというのではない限り、あなたの感覚はデータとは違って当たり前です。

また時々ある勘違いでいえば、インターネットに関するものがあります。
このメールマガジンの読者の方は全員「インターネット・ユーザー」です。
また、ここの読者の方々は全員「メールマガジン」という名前を知っているし、「読んだことが」ある訳です。

しかし、メールマガジンの知名度(名前を聞いたことがある)は、昨年の段階で「インターネット・ユーザーの3%」しかありません。全人口でいえば約0.8%、つまり1%にも満たない数字です。
「嘘だ、信用しない」というか「えっ、びっくり」というかはあなた次第です。

実際にあったケースだと、過去記事で「本屋の陳列はわかりずらい」という趣旨に対する反論のメールが典型的なものです。
その読者の方の主張はこういうことです。

「森さんの個人的なケースに限定しすぎていて不当に書店の評価を歪めている。
本を探すなら今時ネットで検索すればすぐに探せる時代なのに、陳列がわかりにくいと文句をいうのはとても変だ」

【注】個人的な批判をするつもりは毛頭ありません。悪しからずご了解下さい。

本とりんご昨年の5月の記事でしたが、当時の実質的なインターネット普及率はたかだか6%程度です。
その中でも、書籍を検索して買うことができることを知っている人たちは、半分に満たない割合。つまり、その方の感覚は残り97%の人たちの感覚とはまったく違うのです。

しかし、彼にとってはそれが日常であり、それが「自分の感覚」です。
そして、彼の感覚に合わない趣旨の記事を書いた私に「歪んでいる」と批判をしたくなるくらいに、それは強い思いこみだったのでしょう。

そのような人たちが「データが自分の感覚に合わないから、調査を信用しない」と主張するのは、もったいないことです。せっかくの羅針盤をみすみす逃しているからです。

話を変えます。
調査を信用しない第2のパターンはこうでした。

「調査に従って商品開発をしても成功した試しがないから、調査を信用しない」

この文を、別な単語に置き換えてみます。

「料理本に従って料理を作って、おいしかった試しがないから、料理本を信用しない」

どこか変だなと分かって頂けますか。
料理本には、「柔らかいお肉をスーパーで探す方法」や「新鮮な魚介類の見分け方」も書いていません。もちろん、素材の味を損なわないような包丁の使い方も、なべのかき回し方も書いていません。
はたまた、料理のセンスを磨く方法も書いていません。
だからといって、料理本すべてを信用しないという人はいません。

現在のマーケティングは打ち出の小槌でもインスタント食品でもありません。お湯を注げば3分間で、誰でも同じ味のカップラーメンができるのとは違います。
マーケティングに期待を寄せてもらうのは、それに携わる私にとっては嬉しいことです。しかし、過度な期待は悲劇を生むだけです。

その3: データは信用してかかれ - 賢い調査会社の使い方

「調査の使い方はひとつの専門知識であることは分かる。
だからこそ、そのためにプロがいるのではないか」

という反論があります。
その通りです。
しかし、そのプロの能力がないということと、調査自体が信頼するに足りないということとは別にして考えなければなりません。

プロが正常に機能しない問題には2つの原因があります。
1つは「何でもかんでもできる」と言ってしまうプロの側の問題。
もうひとつは、プロの使い方の問題です。

前者は調査やマーケティングに限らず、広告代理店やデザイナー、販促プロモーション会社など、外部機関に共通した問題です。売り上げが欲しいから、できないことでもできると言ってしまう。この点については、残念ながら、使う側(クライアント)がプロを見る目を養う以外に回避する方法はありません。

唯一の安心材料は、調査会社というのは比較的真面目な人間の集まりだと言うことです。上に「●●」がつくことすらあるのが玉にキズですが(笑)

その理由のひとつが、調査会社は一般的に規模が小さいところが多く、深い専門知識が必要なので「営業職」がいないことです。
メーカーでも、営業職より技術者と直接話をした方が、(自社に不利なものも含めて)正確な情報が入りますが、これと似たようなものです。

また、調査会社のリサーチャーは、売り上げを上げることを人事評価の対象に設定されていないことが多いのも、クライアントに対して正直になれる理由でもあります。逆に言えば、営業職がいる調査会社は注意をして損はないということです。

調査会社に関して言えば「何でもかんでもできる」という姿勢で、できないことをできると言ってしまう問題よりやっかいなことがあります。
彼らは気が弱い人たちが多いので、クライアントが強く「こうしたい」というと、「それは違います」と1回は進言しても、それ以上は主張できないことから来る誤解やトラブルです。

例えば、座談会は一般的にアンケート調査より安価な調査手法です。
しかし、出席者が20~30人程度しかいないので、例えば

「20人のうち、5人が『その試作品を買う』といったから、25%の需要がある」

といったことは言い切れません。しかし、クライアントは予算の関係上、調査は安く上げられる方が良いと考えます。

リサーチャーとしては調査技術上、正確なデータが出てこないことが分かっていても、クライアントが主張すれば貫き通すことができない。クライアントはというと「プロなのだから、できるだろう」と期待する。そこに悲劇が生まれます。

これは、正確な情報をきちんと伝えることができない調査会社が悪いのです。調査に慣れていないクライアントは、調査技術上無理があるのか、その調査会社や担当者リサーチャーが手を抜きたいからそう言っているのかが判断つかないものです。

これを回避するにはクライアントが勉強するしか方法はありません。
「定性調査のたった20~30人の結果だけでは、全体像を把握できない」ことをクライアントが勉強する。
目利きにならなければならないというのは、そういうことなのです。

ただし、1つ気をつけたいことがあります。
先にお話ししたように、調査会社は真面目なところが多いのですが、コンサルタントは別種です。口から先に生まれたような人も多いので、同じに扱ってはいけません。

私ですか?
皆さんのご判断にお任せします。
さすがに、自分からは「森は信用できる人間ですよ」とは言えませんもの。
(↑もう言ってるって?(笑))

かといって、詐欺師は自分を詐欺師とはいいませんし…
(↑オイオイ(笑))

さて、つまらないギャグは放っておいて、信用できる調査会社を選ぶ1つの方法は「有名な調査会社を選ぶ」ことです。
慣れないうちはオススメです。ここでは具体的な会社名の公表は避けますが、調査会社で大手や有名どころは信用できることが多いのが実感です。

ただし、これもコンサルタントは別物です。「有名=実力がある」公式は必ずしも当てはまりません。
これ以上は夜道を歩けなくなるとヤバイので言及を避けますが(笑)

包丁後者、つまりプロの使い方に関して言えば、再び料理を例に取ると、刺身を切るのに果物ナイフを使うようなものです。
「ものを切るのは同じじゃないか」とばかりに、
「調査は同じじゃないか」と
調査会社に戦略提案機能を期待したり、安いからと言ってグループインタビュー(20~30人の座談会)をアンケート調査代わりに使ったりすれば、うまくいくわけがありません。

もう一度いいます。
データを疑う前に自分を疑う。これが重要です。

「では、データはまったく間違いがないのか」

というと、それも違います。
「90%は自分を疑え」ということは、逆に言えば、10%は本当にデータがおかしい、あるいは質問の仕方や回答者の選別を間違えたために、データの取り方がおかしい場合があります。

例えば、よくあるパターンが「調査をした場所」です。
調査のやり方には様々なものがありますが、そのうち、ポピュラーな手法に会場調査があります。
渋谷や銀座で通行人に声をかけて、あらかじめ用意した会場に来てもらい、そこでアンケートに答える方法です。

しかし、同じ20代の女性でも、銀座に良く来る人と、御徒町や上野に来る人では、考え方や感性が違います。
それなのに、例えば御徒町の20代の女性だけを集めて分析し、日本女性の代表のようにグラフを作ってしまうと、とんでもないミスを犯してしまいます。

結局、どうしたらよいのか。
データをまず信用してかかります。
「おかしいな」と思ったら、自分の感覚を疑って街に出るなり売り場に行くなり、情報を確認します。それでも変だ、と思った段階で初めてデータを疑うのです。そして、調査の方法やデータの取り方に疑問を持つようにする。

過去記事「iMac」の記事で、「変だと思っても、理論を疑うより、その理論が正しいと仮定して、市場を見ると発見があることが多い」というお話をしましたが、それにかなり近いものと考えてください。

その4: データ「だけ」に頼るな

アンケート調査は便利です。
人の考え方や判断を数字に置き換えてくれるので、数字の見方さえ収得できればこんなに分かりやすいことはありません。

しかし、限界もあります。
調査の限界のひとつを、私はいつも次のような言葉で表現しています。

「調査が最も得意なのは、【現在の生活者のこと】
次に得意なのは【過去の生活者のこと】
最も不得意なのは【未来の生活者のこと】」

この分類は同時に人間の記憶の限界です。
人間は「現在やっていること」が一番記憶に残っています。従って、アンケート調査にも現在のことを答えるのが最も簡単です。

過去の話となると、記憶がどんどん曖昧になってきますから、数字もどんどん当てにならなくなってしまいます。

「1年前の6月1日にあなたは何をしていましたか?」

というアンケート質問は愚の骨頂です(そんなことを質問する調査会社もいませんが)。

そして、未来。
1カ月先の自分の行動を約束できる人など皆無です。
ましてや、選択肢も用意せずに

「あなたはこれからどんな商品が欲しいですか。自由に記入してください」

と質問をして、まともな回答を期待する方に無理があるというものです。

もうひとつ。データだけを見てはいけない例を出しましょう。
よくあるパターンとしてこんな質問をよく見かけます。

「この商品について不満点をいくつでもあげてください」
【選択肢】
●価格 ●性能 ●デザイン・・・

これを分析して、

「この商品はデザインが一番問題があるので、修正しましょう」

という提案を出します。

ところが、身近な例でも人が言っていることをそのまま鵜呑みにできないことが良くあります。
喧嘩をしていて相手の女性が

「あなたのこういうところが嫌いなの」

と言われて、彼は反省。態度を改めたのに、彼女は

「でも嫌いなの」

を繰り返すばかり。
よくよく聞いてみると、彼女も気がつかない本音が

「彼が根っこから嫌いになった。目の前から消えて欲しい」

だったりします。身につまされる話ですが…いや、そんなことはどうでもよいです(笑)

逆に、

「ああして欲しい、こうして欲しい」

という女性の希望を全部聞いたのに、「アッシーくん」「ミツグくん」として便利な存在だけど、好きな人の対象(本命くん)にはなれないということもあります。

人というのは

「こうして欲しい」

ということばで表現しても、本当に欲しいものはうまく表現できず、考えた末に出てきたものが、とりあえず世間の常識の言葉だったということが頻繁に起こります。
だから、調査で出てきたデータをそのまま鵜呑みにしても、アッシーくんやミツグくんの企業版になるだけです。

では、どうしたらよいか。
データをデータとして見るのではなく、そのデータが示す人間像を一旦消化、解釈し、

「そんな人ならどういうことを考えそうか」、
「自分の会社の商品を目の前にしたときに、どう行動するのか」

を想像し、一手先を読むことが必要なのです。

私の場合は、「現在の生活者の状態」をベースにして、心理学で「これから」を予測するようにしています。
自分の勝手な想像より遙かに正確ですし、説得力があるからです。

いずれにしても、データはあくまでも人を表現するひとつの方法にすぎません。
データだけを見るのではなく、データを通じた「人を見る」。
何千本もの調査データを読んでいると、文字通り、数字の裏に生活者たちの映像が浮かんできます。
ここまでは皆さんに要求しませんが、「数字ではなく人を見るようにする」これが調査データを上手に使うコツなのです。

その5: 調査は所詮、スライス・オブ・ライフと心得よ

前の項「データだけを信用するな」と似て非なるものです。
私は調査を「象と7人のめくら」と比較して話をすることが良くあります。

ある7人の視覚障害者が象を触って、喧嘩をしています。
鼻を触った1人は「象というのは、ホースのようなものだ」
足を触った1人は「いいや、象は丸太のようなものだ」
お腹を触った1人は「お前たちは何を見ているのだ。象ってのはな、カベみたいなものなのだぞ」

ゾウ人間というものは、どんな単純な性格でも、たった1時間やそこいらで表現できるほど浅くはありません。
調査も同じです。
たかだか1時間程度の調査で1人の回答者のすべてを把握できる訳はありません。

従って、

「今回の調査は(生活者の)しっぽを探る」
「今回の調査は(生活者の)足を探る」
「今回の調査は(生活者の)シルエットを探る」

というように、具体的な目標をきちんと設定しなれければ、とんでもない判断ミスを犯してしまうのです。

「調査とは1回ですべてがわかるわけではない」のです。
まずは、象の全体像、つまりシルエットのようなものを把握し、細部は次の調査で明らかにする。

その企業がそれまでに実施した調査の蓄積によっては、シルエットを見るだけで事足りる場合もありますし、お腹のシワ1本、1本を数えるようなことをしなければならいこともあるかもしれません。

調査は蓄積があればあるほど有利になります。
調査は1回の実施より、2回の方が4倍の生活者理解ができるのです。

調査データはナイフ

ナイフところで、私自身が過去に経験した調査本数を改めて数えてみると、約4,000本にも及びます。よくもこれだけやったものだと、この記事を書くときに苦笑いしながら数えていました。

約4,000本の中にはアンケートなどの数字で結果が出てくる「定量調査」と呼ばれるものと、座談会などの言葉を分析する「定性調査」があります。
前者は統計学の知識、後者は心理学の知識を必要とします。

メールマガジンのイメージが強い人は、私の得意分野を「(心理学に強い)定性調査」と思う傾向があるようです。しかし、私が関わった4,000本のうち、実は定量調査が約80%を占めます。
私は数字でバシバシ切り分けて「良いものは良い、悪いものは悪い」と言い切ることが得意だからです。

学生時代の専攻分野がコンピュータ工学出身なので、元来理科系の頭であることも影響しているのでしょう。
プロダクトコーンなどのオリジナルのマーケティング理論は、コンピュータ・プログラムのサブルーチン(あ、今はライブラリと呼ぶのですね)の発想です。

そんな経験から、「シストラット・リサーチ10ケ条」を作り、ホームページで公開しています。

シストラット・リサーチ10ケ条

調査データはナイフのようなものです。
人を傷つけることもできますし、食材を切ったりと生活を便利にすることもできます。使い方次第で、毒にも薬にもなるのが調査です。
是非、調査を薬にして役立ててください。
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