■不思議な不思議な池袋。東が西武で、西、東武【家電量販店】 

artc20020601家電量販店業界のお話です。
量販店が持つ問題点を洗い出してみました。
本来ならヤマダ電機やベスト電器の方が良いのでしょうが、私自身が良く知らないので、カメラ出身量販店を題材にしました。
タイトルはビックカメラのテーマソングです。確かに東京池袋駅は東口に西武百貨店、西口に東武百貨店があり、不思議な街です (^^; 

【注】ビックカメラテーマソング(長いので、BGMとしてお使いください。2013年7月5日追記)

量販店戦争勃発

先日、1通のダイレクトメールが届きました。

「この度、ヨドバシカメラ新宿西口本店が装いも新たに新宿地区最大級の売場として生まれ変わりました」

とあります。

あの西口一帯に鎮座ましましている7つものビルを総称して、「本店」と呼んでいることを私は初めて知りました。

一方、池袋の覇者ビックカメラは新宿東口一帯に3店舗を構え、同地区に8店舗を持つさくらやと激しい競合を繰り広げていましたが、今年5月23日に西口の小田急ハルクに出店。なんとハルクの2階から6階までを占拠。
ヨドバシカメラ本拠地、西口に殴り込みをかけた格好です。
さくらやも新宿駅西口の横手に西口駅前店を開店。

ヨドバシカメラの本店リニューアルはそれら他店の攻勢に対する必死の防衛なのでした。
新宿西口は百貨店戦争から、家電量販店(カメラ量販店)三つ巴の戦場と化してしまいました。

この中で最大手はヨドバシカメラ。全国に16店舗、従業員1,700名、年商約4,100億円。
ビックカメラは東京と主要大都市に16店舗を展開。従業員1,460名。ここまで見るとヨドバシカメラと変わりませんが、年商は約1,700億円と2.5分の1しかありません。
最も弱小のさくらやは東京都を中心に17店舗、従業員500名、年商約1,000億円とヨドバシカメラの1/4。

ちなみに、西口にはソフマップも拠点を構えています。
全国38店舗と最も数が多いですが、従業員数880名、売上高は1,400億円。1店あたりが小粒なのが特徴です。

かつては年率30%で伸びていたパソコン市場の恩恵を受けて、売上げを欲しいままに伸ばしていた量販店でした。しかし、企業の備品限度額が20万円から10万円に引き下げられ、パソコン減税がなくなったせいもあって、パソコン市場は急速に縮小。今やデジカメの売上げの伸びで何とか企業成長を続けている有様です。

その彼らが生き残りをかけた戦争のひとつが、新宿西口の攻防戦だというわけです。

さて、今回は彼らに焦点を当てた記事を紹介します。
テーマは

「何が量販店業界の問題点なのか」

をあぶり出すことです。
従って、今回はビックカメラの話が多いものの、例えばビック対ヨドバシカメラのような構図ではなく、業界全体をテーマとしました。
いつもの生活者の視点が2/3ですが、最後はメーカーの視点にも及ぶ、私としてはちょっと珍しい記事です。
お楽しみください。

中島さんのぼやき

「森さん、聞いてくださいよ。ひどいんですよ!」

普段は温厚な紳士の中島さんが珍しく激怒しています。
彼は大のカメラ好き。
現在使っているデジタル一眼レフカメラは60万円也。
レンズを入れると軽く百数十万円のカメラをお持ちです。

「どうしたの?真っ赤ですよ。
持病の糖尿病にさわりますから、落ち着いてくださいな」

と私。

「いや、これが落ち着いていられますかってんだ。
聞きねえ、聞きねえ。

先日、有楽町のビックカメラに行ったんです。
森さんもご存じの通り、ここは倒産したデパートそごうの跡地をビックカメラが買い取ったものだから、でかいのなんのって。
だから、滅多に入手できない高速タイプ(IEEE1394)のデジカメ用メモリカードリーダー(読み込み機)を探しに行ったんです。

プリンタやデジカメのような主力商品と違い、カードリーダーのような小さなものは店内表示パネルがないので大変です。
売り場のどこにあるのかがさっぱり分からない。ハードディスクの隣りにある店もあるし、ボード類のような部品売場にある店もある。
「売場」を探すだけで1~2時間もかかってしまうことも珍しくないんです。

従業員に聞くと話は早いですよ。
でも、人数が少ないから接客中だったり、いないことも多いから聞くに聞けない。
私は「売場」や「従業員」を探すために来ているのではなく、「商品」を探すために量販店に行くのが本来の目的だと思うんですが・・ (笑)

今回も10分以上探し回って、ようやく従業員を捕まえました。
案内されたのは、小さいけれど立派なカードリーダー・コーナー。
さすが、品揃えの豊富な巨艦店・・・って・・・
案の定、高速タイプはありません。

こんなこともあろうかと、わざわざ『高速タイプ(IEEE1394)はありませんか』と伝えたのに、従業員はあるともないとも言わずに

「自分で探しな。俺は知らんから」

と私に接しただけです。
仕方がないので、他の店員に聞いてみようと、また10分間店員を探し回る。

ようやく見つけた従業員は自信満々に、こう言うではありませんか。

『IEEE用のカードリーダーなんて、世の中にありませんよ』

げっ、いつものいい加減商品知識が始まったぞ。
私は1台持っているのに (笑)」

「あらら、私も高速リーダー(IEEE1394)を持っているよ」と私。

「だから続けました。

『いや、ビックカメラの新宿ピーカンで見かけましたよ』
『ピーカンのどちらですか?東口店?東南店?』
『店名は知らないけど、大きな方です』
『ピーカンは2店あるんです。どちらか分からないと確認ができないので…』

ウソつけ(笑)
2店とも電話すればいいじゃないか。新宿店なら当たり前のようにやってくれるぞ。

『新宿南口を出て、青梅街道沿いに歩いて、2つ目の道を左に…』

言い合いするのも面倒なので、延々と説明しました。

『少々お待ちください』と言い残して彼はその場を立ち去りました。
てっきり私は彼が他店の在庫を調べるためだと信じ込んでいました。
でも、まだまだ修行が足りなかったようです。

20分待ってもなしのつぶてなので、諦めて他の売り場に寄ることにしました。
エレベータに向かう途中、くだんの店員が若い女性客を接客しているのが見えました。
やっぱり!逃げたな (笑)」

「まあまあ、そんなに怒りなさんな、中島さん。
そんなことは家電量販店では良くある事じゃないですか。
さすがに最近は見かけなくなったけど」

と慰めようとしました。

中島さんのぼやき-その2

「いえいえ、森さん、まだあるんですよ、続きが。
今度は別の階のカメラ・デジカメコーナーに行きました。
欲しいのはあるメーカーのコンパクトフラッシュ(デジカメ用フィルム)です。
この売場もどこに何があるのかさっぱり分かりません。

うろうろしていると、カードリーダーが数台ありました。
さっきの従業員が『そんなものは世の中にない』と言い切っているくらいだから、この店には高速タイプがないのでしょう。
でも、ちょっとだけ、と商品を目で流したんです。

『USB(低速接続)』の文字が並んでいました。
『USB, USB, USB, IEEE, USB, USB・・。ないなぁ、やっぱり・・あれ?』
なんとIEEE1394(高速接続)のカードリーダーがあるではないですか。コンパクトフラッシュだけではなく、酢豆、いやスマートメディアも同時に使える機種が。

ふぅ。
この世にないと言い切って、客を放ったらかしにするだけでなく自分の店にあることも知らない従業員がいる。
まったく参りました」

「量販店の従業員では良くあることですよ、中島さん。
私も以前メルマガに書きましたが、書店だってそんなのは日常茶飯事ですもの。
今さら驚きません」

と彼をなぐさめようとします。

「いやいや、森さん。
続きというのはこれではないんです。まだあるんです」
「えっ?まだ?はいはい。こうなったら、全部吐いちまいな(笑)」

「ふと見ると、コンパクトフラッシュを陳列してある棚がある…と思ったら、盗難防止のために厚紙の商品サンプルでした。商品を買いたい場合はこの厚紙を売場に持って行けと貼り紙があります。
私はその『売場』を探しているんですけどね(笑)

仕方がないのでレジに行きかけたら、売場を見つけました。
サンプル棚にはなかったメーカーの商品がここかしこと陳列ケースに並んでいます。逆にサンプル棚にあったメーカーのものがない。
あのサンプルには何の意味があるのでしょうか。棚のスペースのムダを許してしまうところが巨艦店ならでは、かな。

面倒なのでサンプル棚の管理なんてしていないのでしょうね。客と同じで放ったらかしのまま(笑)

さて、陳列ケース越しの店員に『レキサー16倍速の256MBはありませんか?』と聞くと、彼はさっと売場を見て

『ありませんねぇ。高速ならこちらの商品があります』

と差し出したのは、パッケージに『高速』とは書いてあるものの、実はクチコミで遅いと評判の商品です。
不機嫌だった私はカチンときました。

『ウソを言っちゃいけないよ。転送スピードが半分くらいしかない商品じゃないか』
『あ、じゃあ、これは…』

と差し出したのはやはり『高速』と書いてあるだけで実際は大したスピードが出ないメーカーのものでした。
ちょっとしたマニアなら知っていることです。

『いや、これも遅い。…じゃ、いいです』
と帰ろうと2~3歩離れようとしたら
『お客さん、お客さん』と声が背中から聞こえます。
ふと、振り向くと

『これ』

と差し出したのは、最初に『ない』と言っていたレキサー16倍速の256MBではありませんか(笑)
高速と称して半分以下のスピードの商品を売りつけられていたところですよ。
私はふと発展途上国のバッタ屋や怪しい店にいるのかと錯覚してしまいました。
たった1時間かそこいらで、こんな目にあったのですから」

中島さんのぼやき-その3

「ということは、中島さんのその1日の災難をまとめると、こんな感じかしら?

●客の話をきちんと聞かない店員
●世の中にそんな商品はないと大嘘をつくだけでなく、自分の店にあることを知らない店員
●客を意図的に放ったらかしにする店員

●商品があるのに「同じくらいの性能」と偽って低性能の商品を売りつけようとする店員
●帰ろうとすると後ろから隠し持っていた商品を出す店員
●サンプルと陳列がまったく違う売場

●どこに何があるか分からない店内表示
●必要最低限である売場の所在を聞こうにも、いない従業員
●小さな商品は同じ量販店チェーンでも個店によって異なる面倒くささ

まあ、よくもたった1時間でこんなにあったものだ(笑)
中島さんが続けます。

「パソコン歴25年の私ですから、量販店の従業員の言葉を信用するということは、数10件放火をして10回以上逮捕されている放火魔と同じくらい信用してはいけないことだと思っています」

「おいおい、ものすごい表現だね(笑)」

「しかし、そんな私でもあきれ果てるほど、こんなに連続してひどい接客に出会ったのは初めてですよ。
事前知識で自分の身を守って良かったです。
でなければ。『性能の低い(遅い)カードリーダー』と『性能の低い(遅い書き込み速度の)コンパクトフラッシュ』を売りつけられるところでした」

と中嶋さんは眉をひそめました。

店と客との寂しい関係です。
本来はもっともっと「ものを買う」楽しさがあるのがショッピングなのに、ケンカのように攻めたり守ったりしなければならない。

実はこのビックカメラは激戦地区である新宿や渋谷、池袋の店ではありません。有楽町という、周囲に競合店がなく殿様商売ができるのです。
つまり「たまたま、接客がひどかった」ではなく、「いつもひどい」可能性が高い。

この話を聞いてから、本当に接客に差があるのかを確認したかったので、知り合いにビックカメラ有楽町店と新宿店に行ってもらい、接客を評価してもらいました。
ビックカメラ有楽町店と同じくビックカメラ新宿店・渋谷店の比較です。
その結果は・・

有楽町店の方が接客が良い 1人
有楽町店と同じくらい 2人
有楽町店の方が接客が悪い 17人

有楽町店の殿様度は中島さんだけの感覚ではなさそうです。

もちろん、まともな従業員もいます。
例えば、新宿のパソコン館のマッキントッシュ売場のK氏はすこぶる真面目な商品知識も豊富な人だったので、私は会社のIT関連機器の大半を彼から買っていました。総額は数百万円におよびます。

新宿のビックカメラでは、自店に在庫がなかったので、池袋店と渋谷店にカメラの照明機材の在庫を確認してくれました。あまつさえ、彼は名刺を私に渡して「池袋店の●●にお申し付けください」と言い添えてくれたくらいです。

さらに、びっくりしたのはレジでこんなことを言われた時です。

「お客様。これと同じものでもっと安いケーブルがありますが、いかがしますか?メーカーものではありませんが」

しかも、このオジサン(失礼!)1年前はぞんざいな接客をするので、私が嫌っていた人です。2度びっくり(笑)

流通業の商品知識とは

「森さん、かわいそうですよ。
有楽町のお店の従業員は単に商品知識がなかっただけでしょう。
あんなにたくさんの商品があるのに、いちいち覚えていられませんよ。
私は彼らに同情しますね」

私の後輩です。

「彼らが勉強不足だから許してやれ・・と?」
「そうです。森さんだって彼らの立場になれば分かりますよ」
「だったら、キミはウィンドウズが欲しいのに、iMacの新型を薦められて、『ウィンドウズXPが走りますよ』と言われたので買ってしまったら、仕方がない・・と? (笑)」
「あっ、いえ、それはあまりにも…」
「だったら、『このクルマはリッター20km走ります。日本車で最も燃費が良いです』と言われて買ったものの、実はリッター2kmしかなく、日本のクルマ全車種中、下から2番目の燃費の悪さだったことがわかっても、仕方がないから許せ…と?(笑)」

「いや、買ってしまったんだから、返却はさすがに…
でも、そんな場合は、一言くらい文句をいうとか、クルマメーカーや公正取引委員会に苦情を言うとか…」
「あのね。IEEE1934とUSBはスペック上数10倍もスピードが違うんだよ。
それなのに『そんな商品は世の中に存在しない』言い切っている。
『リッター5km以上の燃費のクルマなんて、世の中に存在しません』と言い切るセールスマンはどう見てもおかしいよね。
中島さんが怒っているのはこのことなんだ。

キミが興味のない商品(違いが分からない商品)は『許してやれ』
キミが知っている商品は『許せない。クレームをつける』
では、自分さえ良ければいい子ちゃんで、相手を悪者にするという発想だよね。
コンサルタントの卵としては感心しないな、そんな自分勝手で偏った考え方は・・」

「あぅ…」

彼をこれ以上問いつめてもかわいそうですから、止めておきましょう。
従業員が商品知識がないのはプロ意識の欠如している昨今、珍しいことではありません。しかし、知らない(商品知識がない)なら「知りません」「調べましょうか」とするのが商売の筋というものでしょう。

いや、それ以前に自分が売っているモノについて、勉強していないということは「無責任」であり、「ビジネスの世界では『悪』」だと言い切っても良い。

なぜわざわざ私たちが「努力もしないでのうのうと商売をする」相手のことをおもんばからなければならないのでしょうか。
実害をこうむっているというのに。

ところで、先日も登場した友人のひなちゃんの職場に行く機会がありました。
彼女はあるブティックの店員さんです。
とにもかくにもびっくりしたのは、彼女の商品知識の豊富さです。
実に細かいところまで工夫してあるデザインを細部に渡って説明してくれます。
当たり前です。彼女はそのブランドが大好きで就職したのですから、立派なユーザーでもありファンでもあるのです。だから、勉強を勉強と思っていない。

しかも、会社から強制されるのではなく、自ら社販で自社ブランド服を買いあさります。
給料日に2,000円しか残らない月もあります。
小さなアパレルや雑貨店では珍しくも何ともありません。
彼女のような人間が喜々として働いているし、自社ブランドを薦めるのは誇りに思っている。

これでは量販店や百貨店が勝てるはずがありません。
いや、家電とロリータ服がケンカしろと言っているのではありません。商品知識という点において、あまりにも仕事に対する姿勢の違いがありすぎる。

「アパレルの店員はだから給料が安くてこき使われている」
「雇われだから」
「アパレルの店員は悪いところを隠すことだってある」

といった言い訳や甘え、責任のすり替え議論は通用しません。

商品知識を持っていなければ、つまり勉強していなければ、客に伝えることすらできません。勉強していてそれを客に伝えるかどうかの判断はまた別の次元です。勉強しなくても良い、怠けていても良いという理由にはまったくなりません。

「森さん、量販店がウソなら後で苦情を言えばよいだけですよ。森さんみたいに文句を言う客は嫌われますよ」

後輩が反論します。

いや、文句を言ったのは私ではなく中島さんなのですが(笑)
あ、でも私も言っているか、この記事で (^^;
しかし、どちらの客が良いのでしょうか?

「事前にきちんと勉強をして、量販店に騙されないようにする。
文句は言う時もあるが、基本的には従業員はいないものだと思って買い物を済ませる。
結果的に店には何ら負担はない」

客と

「知識がないので従業員に相談する。
しかし、その後、騙されたとクレームを言い、商品を返却したり他の商品と取り替えさせる」

客との2種類です。

前者は量販店を腹でせせら笑っていても、それ以上店に負担をかけることはありません。
しかし、後者の客は店員が説明する人件費の分だけ経費がかかっているだけではありません。苦情処理のための人件費、返品の手続きをするスタッフの給料、そして返品にかかる運送費や倉庫代など、とてつもなくお金がかかります。

ただ、前者は従業員を泥棒のように思っているが、後者は先生のように思っている。
人間の尊厳という点では前者は「人でなし」ですから、後輩のような人は中島さんや私を人でなしのように冷たい目で見ますが。
しかし、「商売の邪魔」「コストアップ要因」となるのは実は後者の客なのです。

ごめんなさい。正確な言い方ではありませんでした。
私が良く言うように「ゼロか1かの問題ではない」ですね。
本当はどっちも良くないです。
一番良いのは量販店の従業員を先生のように扱って信じてくれて、返品などのコストアップ要因の迷惑もかけない客です。

えっ?どんな客かって?

「騙されたことに気がつかない客」
「泣き寝入りする客」
「使われる身になった相手の気持ちも分かるので、許してやる客」

です(笑)

生き残るための客層拡大

中島さんは

「商品がどこにあるのかが分かりやすければ、私は従業員など量販店に求めない。
だから、接客もいらない」

と言い切っています。

量販店が初めからスーパーマーケットのようにセルフにしてしまえば、彼のような敵を作ることもありません。
事実、ヨドバシカメラがカメラ機材などのディスカウント店だった頃の30年前、店内にはほとんど従業員はいませんでした。
カメラマニアたちが現像液や印画紙を買っていく当時のヨドバシカメラでは、それが当たり前でした。

それでは量販店はなぜ従業員を置くことになったのか。
量販店は中島さんや印画紙を自分で買って写真を焼き付けるようなマニアばかりを相手にしていたのでは、客数が少なすぎて売上げが上がらないからです。
客数を増やそうとすると、初心者もターゲットにせざるを得ない。
しかし初心者は自分では情報を取ったり消化したりできない。
そのために、接客(説明、説得)に力を入れざるを得ないという訳です。

この傾向は価格表示の変更で拍車がかかりました。
どういうことか。
昔は、家電製品は「メーカー販売価格」がありました。
だから、

「うちは安いよ!」

と客に伝えるのに

「(メーカー販売価格から)●●%引き」

といった表示が最も分かりやすい。
「3割4割引は当たり前!」のテレビ広告が成立するのです。
これを「相対価格」といいます。

しかし、現在は「オープン価格」つまりメーカーは販売価格を決めないから、勝手に値付けしてね、となります。
そして「相対価格表示」ができなくなり、「絶対価格表示」しか許されなくなってしまったのです。
そうなると何が起きるか。

「PowerMacG4で850MHzのデュアルが22万円!」

としか価格表示ができない。
ところがマックをよく知らない初心者には、この価格が高いのか安いのかはさっぱりわからない。
しかし、私のようなマックを長年触っている人間にとっては

「サラ金で金を借りてでも買いたいくらいに安い」

ことが一発で分かります。
これを「絶対価格」といいます。

量販店としては「初心者に分からない価格表示」しか許されないのに、初心者を取り込まなければ商売が伸びない。

だからこそ、「それ以外で初心者に対応できる」方法を取らないといけない。
それが「説明をたくさんすることで買ってもらう」販売方法、つまり「セルフではなく接客による販売」に力を入れざるを得ないということなのです。

しかし、大きな問題があります。
商品知識を含めた従業員教育にはお金がかかります。
だって、本来ならば売上げを上げるために時間を使わせたい優秀な販売員や本部の従業員を講師にする訳ですから、その間の彼らの給料は「ムダ」になる。

また、講習を受ける側の人件費もかかります。
年間で5日間講習を受けさせれば、実に1億円近い無駄金が必要です。

その分を売上げでカバーしようとすると、約30億円を余計に売らなければならない計算です。

だから、コストを圧縮するために中途半端な教育しかできない。となると、その場限りのごまかしで対応する従業員がはびこるという図式になるのでした。

だったら中島さんはなぜ通販で買わないのか。
話が長くなるので割愛しますが、その突っ込みは読者コメントで送らないように(笑)。

「在庫あります」の不思議

最後の話です。
量販店で不思議なのは「在庫あります」という表示です。
「本日、お持ち帰りになれます」という表示の場合もあります。
スーパーやデパートなどの「まともなお店」では見たことがないものです。

それ自体には問題はありません。在庫があることを客に知らせているだけですから、むしろ親切に思えます。
問題なのはその表示がない多くの商品です。売場によっては「在庫あります」が書いていない商品のうち、半分以上が「実は在庫がない」時もあります。

だって、商品の展示はしているのに

「あー、在庫、切らしちゃってますね」

なんて言葉が平気で出てくるんですもの。

「えっ?なんでいけないんですか?
量販店では当たり前じゃないですか?
私なんか欲しいモノがあると『在庫ありますか?』と必ず聞きますよ」

うーん、かなり量販店の教育が行き届いたお客さんだ(笑)
欠品はスーパーなどの普通の小売業では最も忌み嫌われるもののひとつです。
商品を買うつもりで来た客がその店で買わない(買えない)わけですから

「うべかりし利益」

がなくなります。
それだけではありません。
仕方なくその商品を買いに客は他店に探しに行きます。もし、その客が戻ってこないとなると

「常連客の喪失」

となります。
量販店で言えば、せっかくポイントカードで自分の店で買い物をしてもらおうと努力しているのに、品切れによってすべてがムダになる訳です。

スーパーでは欠品をしたメーカーはペナルティを課せられることも珍しくないし、欠品が続いたメーカーは取引停止になることもあります。体力のないメーカーは倒産の憂き目に会うこと必至です。

それが「一人前」と言われ、市民権を得る資格を持った小売り企業のあり方です。
ひとり家電量販店だけが特別扱いされている。

「だって仕方がないでしょ、森さん。
家電量販店は安いのだから、僕らは我慢しなければいけないですよ。
それがイヤなら行かなければ良いんです」

そう、後輩の言うとおりです。
安いからには、私たちはそれに見合った妥協をしないといけない。当然です。

家電量販店の前身は「安売り店」でした。
彼らの創業者は体当たりで「定価を維持したかった」メーカーと戦っていました。

メーカーは安売り店には商品を売りたくない。
市場価格が安売り店に引っ張られて全体の価格が下がり、自社の利益が減るだけでなく、他の販売店から苦情が来るからです。

だから、量販店の祖先たちはメーカーから正規に商品が仕入れられませんでした。
その代わり、バッタ屋やカバン屋のような怪しげなところから、在庫過剰品や倒産品、はたまたノルマに困ったメーカーの営業マンからの闇取引を通じて、商品を調達せざるを得なかった。

メーカーは製造番号を追跡し、それを流した販売店にペナルティを課すなどの対抗手段を取ったりと防衛に必死でした。
というわけで、昔の家電量販店が品揃えを安定的に供給できなかった、つまり品切れがひんぱんに起きていたのには、それなりの理由があったのです。
しかし、それも「かつては」の話です。

今では家電量販店はメーカーの主力売場です。売上げの大半を彼らが稼いでくれる。妨害どころか、リベートまで払ったり優先的に新製品を販促したりと、積極的に働きかけています。
現在の量販店は本来、安定供給を勝ち取った巨大小売企業群なのです。

在庫が確保できない理由はありません。
きちんとした在庫管理をやっていないだけです。
なぜか?数万点の在庫管理を正確に実施するのが面倒だからです。
彼らは、今の家電量販店は過去の創業者の築いてきた道に乗っているだけです。
私たち生活者は彼らの怠慢のツケを払っている犠牲者に過ぎません。

そして私たちはといえば「安売り店」の幻想の元に、昔の価値観(「昔はそうだったから仕方がない」)をありがたく押し頂いている滑稽な存在というわけです。

はて、どこかで似たような話がありましたね。
そう、正に秋葉原が同じ道を歩んできました。
秋葉原は、一部のマニア向けのジャンク屋や本当のゲリラ店を除き、大きなチェーン店が倒産するくらいに凋落してしまった。
今では事情を知らない地方の人たちや外国人にしか相手にされない街となってしまいました。

量販店とブランドの冷たい関係

品切れが及ぼす被害は量販店ではありません。メーカーが損をするのです。

「売れるはずだったものが売れなかったので、販売機会の損失?」

いいえ違います。

品切れを起こすとどうなるか。
私たちは「それじゃあ、似たようなモノは」と他商品を探します。いや、量販店の従業員が他社製品を薦めます。
よほどソニーファンがVAIOを求めているならいざしらず、自分の欲しいモノは他の商品で代用できると思うからです。

そして、当初と違う商品を買った後はどうなるか。
私たちは自分の判断が常に正しいと「思いたい」心理が働きます。
クルマの広告をもっとも注目して見ている視聴者はそのクルマを買った人だという調査結果があります。

「俺はやっぱりあの素晴らしいクルマを買って正解だった」

と思いたいからです。
ということは、量販店で品切れで買えなかった代わりの商品について、人は

「最初に買おうと思ったものと変わらないね。いや、むしろ、こっちの方がいいじゃないか」

と思うようになる。
それが続くと

「なぁんだ、どれを買っても変わらないじゃないか」

と学習するようになります。
これをなんと言うか?
マーケティングに詳しい人ならすぐに分かります。

「コモディティ(穀物などの汎用品)」です。

コモディティは個々の製品の特徴がないから、どれを買ってもいいわけです。すると、「価格が安ければ安い程良い」となります。
ティッシュやトイレットペーパーはその代表例です。
最近ではネットのプロバイダがコモディティ化しています。

そして、ブランドはコモディティと正反対の存在です。
ブランドにはきちんとファンがいます。多少高かったり性能が同じであっても、ブランドに育った商品を買います。

しかし、品切れを起こして「他の商品でもいいや」が習慣化してしまうと、ブランドが育たなくなってしまうのです。
冷蔵庫やエアコンなどの家電量販店で扱っている商品のメーカーは、元々がブランドづくりが下手です。しかし、家電商品でブランドが育たないのはメーカーだけのせいではありません。

たとえそうであったとしても、わざわざブランドに育つ可能性のある商品を「欠品」が阻害してしまうことに、メーカーは早く気がつかなければなりません。

ここまで読んだ方で鋭い読者はおわかりかも知れません。
家電量販店は「ブランドを作られては困る」立場なのです。だって、ブランドができてしまえば、目的の商品がないと他の商品をその店で買わずに、他店に行ってしまいます。
ソニーVAIOがどうしても欲しい人には、NECや富士通のパソコンをいくら薦めても売れません。

また、量販店はブランドを確立したメーカーには従わざるを得なくなります。
客がそのブランドを欲しがっているなら、その商品を仕入れざるを得ない。すると、量販店の売上げはブランドを持ったメーカーからどれだけ入荷されるかで決まってしまう。

大切なことなのでもう一度いいます。メーカーにブランドを作られると量販店が困るのです。
欠品を平気で行い、それを日常化して私たち生活者に「量販店なら仕方がない。ここでは当たり前」と思わせるのは、実は大変に高度で緻密なマーケティング戦略です(←皮肉です)。

しかし、それではすでに立ちゆかなくなるほど、消費が冷え込んでいます。
冒頭で説明したように、パソコン減税がなくなり、10万円以上の買い物は固定資産とする法改正が施行されてから、年率数10%で伸びてきたパソコンの売上げが縮小した今、量販店はデジカメでようやくメシを食っている状態です。
だから限られたパイの奪い合いで接客や周辺サービスに力を入れようとしています。
しかし、それも低水準です。

そして、小売業の本分は「品揃え」なのに、ないがしろにする小売企業はいずれ滅びる運命にあります。
量販店はこれからが正念場です。
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