■サルにもわかるSOHO・起業【SOHO・起業】 

artc201211012メリークリスマス!・・って、ごまかしてもダメですよね^^;
本当にごめんなさい。大幅に発行が遅れて。
今年はどうしても最後の記事をお送りしたかったので、今日、12/24まで伸ばしてしまいました。
今回は「SOHO/起業」のお話です。世間ではSOHO/起業を煽る情報はたくさんありますが、ブレーキをかけるものは少ないのが現状です。私も脱サラで現在の会社を作りました。だから、SOHO/起業の先輩として辛口に迫ります。

イメージ先行型のSOHO/起業

「SOHO」
この単語を最初に耳にしたのは10数年前のことでした。
ある電子機器メーカーの海外プロジェクトで、さりげなく、当たり前のように「ターゲットはSOHO」とオリエンテーション資料に書いてあったのが初めての出会いです。

一瞬、頭に浮かんだのはニューヨークのソーホー地区。しかし、芸術家と電子機器はどうみても相性が悪そうだ、おっかしいなぁ、と思ったものでした。

その頃、私は駆け出しのコンサルタントだったので、見栄を張って「ふんふん」とクライアントの説明を聞いていただけでした。今なら「それ、何ですか?」と堂々と聞いてしまいます。
私もかわいい時期があったものです(笑)

さすがに放ったらかしのままでは仕事にならないので、「SOHO」の意味を調べようとしましたが、これがまた分からない。普通の辞書には載っていないのです。ましてや、ネットなど存在しない時期でした。なおかつ、その言葉がどんな分野なのかすら分からないので、友人にも聞きようがない。

結局、恥を忍んで、仲の良かったクライアントの担当者に、こっそりと意味を教えてもらったのは今では良き思い出です。

ということで、受け売りですが、SOHOとは、Small Ofiice & Home Officeの頭文字を取ったものです。
英語のままだとかっこいいですが、要するに「ちっちゃな会社」と「自宅兼仕事場」のことです。

前者は「零細企業」、後者は「内職」とも呼ばれます(笑)
いくらかっこいい言葉で包んでも、SOHOの本質はそれら日本語の呼び名そのものです。
しかし、どうやら漢字をカタカナにすると格好良くなってしまうのは、バブル前と変わらない日本人心理のようです。
物事の本質を忘れてイメージだけで走ってしまう人たちが増えてくる。
かくして、SOHOを目指す人が急増します。
起業は漢字ですが、かっこいいイメージは似たようなものです。

HO(Home Office=自宅兼仕事場)は業種によってはイメージが良いかも知れません。
例えば、漫画家、小説家やコピーライターなどのクリエイティブ系の仕事なら、自宅が仕事場というのは絵になります。
しかし、ほとんどの業種は今ひとつ社会的信用がない。
あるテレビ番組でマンションの一室が本社のそばメーカーを紹介していましたが、どうにも様にならない。

個人事務所では大企業と取引ができないケースもあります。
例えば、あなたが革命的な新発明の商品を作ったとしましょう。それを、スーパーやコンビニで売ったら、間違いなく売れる。
しかし、個人事務所ではダイエーやヨーカ堂は120%相手にしてくれません。
会社を新規に作ったところで事情は同じです。いつ倒産するか分からない馬の骨と取引をするほど社会は甘くないからです。

それを指して「日本は閉鎖的な社会だ」なんて、世間知らずの発言をする人がいます。
冗談でしょ?
ビジネスは慈善事業ではありません。

そういった馬の骨を信用して取引を認める企業を「エライ」と褒めること(もしかしたら「アホ」かも知れませんが (笑))には賛成です。しかし、だからといってその反対の姿勢は非難されるべきなんて単純な話ではありません。
だって、馬の骨を信用したら詐欺だった、てな話はいくらでも転がっているからです。

そんな発言をする識者と言われる世間知らずの偽善者だって、新宿歌舞伎町のど真ん中で、見ず知らずの女性から

「突然ですが、1万円を貸していただけませんか?」

と言われて、応じるはずもないでしょ?
(美人なら、鼻の下を伸ばす人もいるかも知れません(笑))

社会的信用がない会社とは、

「歌舞伎町でたまたま会った、見ず知らずの赤の他人」

と同じくらい、「屁」のような存在なのです。

偽善者だけではありません。
私の周囲には「SOHO/起業をやりたい」と、危なっかしくて見ていられない人が多い。
読者の中にもはそういう方が多くいらっしゃいます。

そこで今回は、SOHO/起業の先輩として筆を振るうことにしました。
いつものように、ちょっと辛口です。

この記事の読者ターゲットとしては次のような方たちを想定しています。

●独立・起業を考えている人
●SOHOを考えている人
●いつか自分の力を社外で試したいと思っている人

ただし、

●すでにSOHO/起業を実践している人

は除きます。だって、せっかくSOHO/起業で頑張っている人に雑音を与えるのも申し訳ないからです。
一旦、SOHO/起業をスタートしたら「がむしゃらに頑張ってね」が私からのメッセージです。この記事は読む必要はありません。

手段を目的化する人々

何事にも内容と形があります。
SOHO/起業とは職業の名前ではなく、仕事場の規模や場所の総称です。従って、本来は自分から「うちはSOHO(起業)です」と発言する必要はありません。
一方で、「うちはコンサルタントです」は宣言しないと仕事になりません。そう考えると、あくまでも優先順位は仕事の規模や場所ではなく、内容であることがはっきりします。

それなのに、SOHO/起業という言葉だけが一人歩きして、人気が出てしまうのにはどうしても違和感を感じます。
ひどい時にはこんなことを言う人が出現します。

「私、今の会社を辞めて独立したいんです(起業したい)」
「ふーん、何をするの?」
「SOHOです」

「いや、脱サラをするのだから、それは解っているよ。で、何をするの?」
「…だから、SOHOです」

「あ…あのね、仕事の内容は何?お店をやるの?在宅のDTPか何かをするの?」
「あっ…えっと、決めていません。でもSOHOをしたいんです」

禅問答のような会話です(笑)
SOHO/起業というのは、「何かをするための『手段』」です。それが、完全に目的になってしまっている。
こんな人たちが独立したって、うまく行くわけがありません。業務の内容を煮詰めずに走ってしまうのですから。

一見、説得力がありそうなのはこんなパターンです。

「森さん、なぜSOHO/起業がいけないんですか?
大企業では動きにくいことがSOHOではいとも簡単にできる。
自由度が全く違います。
ましてや、私は上司からああだこうだと言われたくない。
自分で自分の力を試してみたいんです。
それにはSOHOが一番の選択なのに、森さんはダメだという。
結局、サラリーマンはサラリーマンのままでいろということですか?」

なぜ、このパターンがいけないのか。
一見、何の問題もなさそうに見えます。SOHOには大企業にはないメリットがある。それを享受することは何の問題も無いはず。

しかし、ここには、SOHOのデメリットは何も検討されていないのです。メリットだけが強調されている。
例えば、SOHOには社会的な信用がまったくありません。
クレジットカードだって作れない。金を借りるのだって銀行には相手にしてもらえない。いや、消費者金融だって最低限の貸付枠しかセットしてくれない。

例えば、SOHOでは大企業と同じことはできない。金(資金)や人材がないからです。
くだんの反論者も、

「では、今の君が商社でやっている穀物取引をSOHOでやるつもりなのかしら?」
「そんなことできる訳がないことは私だって分かりますよ。資金がないし、人材もいない」
「では、SOHOに移って、何をするつもりなのかな?」
「いえ、まだ決めていません。これから探します」

ほう、彼は今までの人と違うようです。

「大企業には無理で、SOHOでしかできないことはあるはずです。
だから、それを探すんです。
いつまでもSOHOでいるつもりはありません。
目的は会社を大きくすることです」

「ふむふむ、そうしたら、SOHOでしかできないことなら、SOHOのままでいるのが一番なんじゃないのかな?
大きくしようとした途端に、もっと大きい企業が参入してきたら負けてしまう。
いや、SOHOならでは、の業務内容なら、SOHOを卒業して大きくなること自体が難しいということなのではないかな?」

惜しいところまで行っていましたが、結局、彼もSOHOを中心に考えている点で変わりありませんでした。

「やりたいこと」の実現のための第一歩としてのSOHO。これが正しいあり方の一つです。
もちろん、目的は「人を幸せにしたい」「自分が使いやすいと本当に思えるものを作りたい」など、どんなことでも結構です。少なくとも、手段の目的化よりは圧倒的に成功する確率が高い。

現状否定型のSOHO/起業は失敗するのが当たり前

なぜ、SOHO/起業がこれだけもてはやされているのか?
昨今の長期不況が原因でもあります。リストラされてしまったり、自分が勤める企業の先行きに不安を感じる。だから、単なる「カタチ」なのに、SOHO/起業が最良の選択のように思える。

しかし、SOHO/起業に人気が出たのはバブル時代からです。決して、不況時代だけに流行ったものではない。
その理由の大きな一つは転職理由と大きく関わってきます。

転職理由は昔からその順位は大きく変わっていません。
曰く「職場の人間関係がうまくいかない」
曰く「業務が厳しすぎる、休日が少ない・ない」
曰く「給料が安い」

そのほとんどが「現状否定型」の転職理由です。つまり、

「今の職場がイヤだから、新しいところを探す」
「だって、今の職場が不満足な場合はどうしたらいいんですか?
森さんはそういう不幸な身になった我々の進む道を阻むのですか?」

考え違いも甚だしいです。
「組織がダメなら個人で」という発想。
あるいは
「一人だから誰にも文句を言われずに、自分の能力が発揮できる」という幻想。

個人での活動とは、組織を脱落した負け犬の受け皿ではありません。
特に大企業に所属していて、個人や小規模で活動している人たちを見下している人ほど、「組織より個人の方が楽だ」といった発言が多い。
「(組織でうまくいかない)俺『でも』、(みんなが羨む有名企業に入社した、高い能力があるのだから)あんなの簡単だよ」という訳です。

それが転じて、「実力のあるヤツは起業すべきだ」という妙な固定概念が出現します。例えば、今週号のAERA(2001.12.31-2002.1.7号)に

「会社を捨てられない30代女性 - 能力も人脈も資金もあるのに起業しないのはナゼ」

というタイトルの記事が掲載されていました。

記事内容はその原因が会社への忠誠心だったり、組織の方が大きな仕事ができることの正確な認識であることはほのめかしています。しかし、全体のトーンは

「能力も人脈も資金もあるのだから、独立すればいいじゃん。
しないのは、どこか欠点があるからか?」

という偏見に満ちたものです。
メディアがこんな風に煽るから、SOHO/起業を勘違いする浅い考えの連中が増えるというわけです。

1頭しか出馬しない競馬を狙え

そんな甘ったれは放っておいて、記事を進めます。
さて、目的と目標がきちんと整理されたら、次はどんな事業を興すかです。最大の難関といって良いし、私が相談される最も多い案件です。
SOHO/起業が手をつける最良の事業とは「他にないもの」ただ1点です。大原則といっても良い。
あなたの会社しか提供できない商品やサービスが最も強いに決まっています。
1頭しか走らない競馬なら必ず1着が取れるからです。

ある例を上げましょう。
「マネーの虎」という深夜番組があります。
この番組は新しい事業アイデアはあるけれど資金が足りない普通の人たちが、すでにビジネスで成功している経営者5~6人にプレゼンテーションをし、資金を提供してもらおうという番組です。

現在SMクラブを経営している女性が、癒しをコンセプトに時間制料金を採用した焼鳥屋を提案したり、幼児虐待の経験を持つ風俗嬢が体験談を出版したいので、その資金を提供してもらう。

審査員は居酒屋チェーンで成功した人、趣味性の強いマニアックなビデオ制作会社で成功した人など様々です。すべて現役バリバリのたたき上げの経営者たち。

ある回で同性愛者の男性が「同性愛者だけのための温泉旅館」を作りたいと提案してきました。
そこでの審査員の一人の発言が面白いものでした。彼はショーパブやクラブで成功した経営者です。

「同性愛者をターゲットにするといっても、人口が少なすぎる。
需要が少ないのではこの企画は不安だ」

しかし、提案者の彼の一言が私をうならせました。

「確かに人口は少ないです。
でも、日本にたった1つしかないんですよ!!たった1つです!」

審査員の経営者はたいした器ではないなと、その時、私は感じました。
どういう経歴で今の規模まで事業を大きくしたのかは知りませんが、この方はすでに初心を忘れてしまっています。すでに、他の大規模事業者と同じようなことをし、同じような発想をし始める。
しかし、マーケティング的には、この同性愛者クンの方が圧倒的に正しい。

では、どんなアイデアがよいのか。
それは自分で考えてみてください。

ただし「今までにないものが有利なアイデア」は当たり前のように見えますが、実はそこを間違えている人も多く見かけます。
例えば、「本当は大した差ではない」のに、アイデアに没頭するあまり目が曇って、あたかも「画期的」「他に類を見ない」ように思えてしまう。
私のような第三者から見れば

「似たようなものがたくさんあるじゃないか」

というアイデアなのに、本人は

「いや、森さん、ここが違って、こうなんですよ。だから、画期的なんです」

と言われたところで、一般の生活者は納得できない。
カメラや音楽のマニアが細部の画質やライティング、音の質感などを延々と話しているようなものです。

市場規模を確認せよ

かといって、市場を狭めすぎるのも考え物です。
実例ですが、こんなアイデアがありました。
友人が宅配専門のメニュー雑誌を作ると言い出しました。
宅配ピザや出前のメニューは家庭ではバラバラになってしまい面倒だ。だったら、各店を回って広告スペースとしてメニューを掲載する雑誌を作ってしまえ、という発想です。
各家庭には無料配布。広告費だけで売上げをまかなおうという算段です。

ここまでは、いかにもSOHO/起業らしい発想で好感が持てます。
しかし、次がいけません。
雑誌の採算分岐点は80店(正確な数字は忘れてしまいました)。営業地域は彼が住んでいるある郊外の街でした。
しかし、そこにはどう考えても数10軒くらいしか宅配をする店がない。
たとえ2店に1店が広告を掲載してくれたとしても、160軒もの宅配店や出前店が必要です。

私は彼にアドバイスをしたのはたった2点です。

●その街の宅配可能範囲エリアに一体何件の宅配店があるのかを、電話帳からしらみつぶしに当たること。
●数店でよいから、自分で営業に回って、何店が興味を示してくれるのかをチェックすること。

しかし、結局、彼はどちらも実施せずに見切り発車。印刷サンプルを持たせたバイト学生が受注したのはたった数店でした。
(Jさん、バラしてごめん (笑))

自分の感覚がどれだけ普遍的で客観的なものなのかを、きちんと判断できる人は多くありません。だったら、簡単な需要予測の調査をするだけでも失敗は大幅に減るものです。
彼の場合は、電話帳から調べる人件費と自分の労力だけで良かったはずです。数万円の出費でそれが分かる。しかし、そのことをしなかったために、彼はその数十倍もの赤字を抱えることになったのでした。

これは彼一人の問題だけではありません。
あるベンチャーキャピタルが嘆いていました。

「需要予測をすることは、我々、金を出す側としても重要な判断基準なんですよ。
でも、口を酸っぱく言っても、調査やテストをやろうというベンチャー企業がいない。
あれでは、うまくいくものも失敗するはずですよ。
日本のベンチャー企業はまだまだお寒いですね」

低価格理髪店で勢いのある理髪店チェーン(確かキュービーハウスだったと記憶しています。10分で終わり、たった1,000円)は、事業検討していた時、電話調査を100人に実施したそうです。15万円くらいで済んでしまう調査です。
たった15万円を出す発想がないために、数百万円、いや数千万円をフイにしてしまうSOHO/起業は多いものです。

SOHO/起業よりも規模が大きいですが、「事業アイデアの差異性」と「需要予測」の2つとも無視した会社が、続々と設立された時期がありました。
アメリカからニュースキンが日本市場に参入した時です。
ニュースキンはアムウェイと非常によく似た販売システムを持つ企業です。取扱商品もアムウェイ初期とよく似たシャンプーなどです。

アムウェイ・ビジネスは「早い者勝ち」的なところがあります。
自分の子供が増えれば増えるほど売上げが上がる仕組みになっているからです。アムウェイが大成功したのに、後から参入したのではうまみが少ないことに、歯ぎしりして悔しがっていた輩が多かったのでしょう。
「今回は出遅れてはいけない」
とばかり、ニュースキンの代理店に殺到した企業や個人が相次いだのです。

販売代理店として会社を作り、一気に従業員を数10人も雇い入れるという暴挙に出た会社が次々と出現したのでした。

しかし、どう考えてもアムウェイは先に類似のシステムや商品がなかったのに対して、ニュースキンはアムウェイという強力な競合相手がいる。
差異性がない。

しかも、ニュースキンの商品の受容性はアムウェイから売上げを奪うほどでもないし、今までアムウェイを買っていなかった人を引きつけるものでもない。つまり、需要が限られている。

最も大事なことは、新たに会社を設立した連中は、「差異性」も「需要」も考えていなかったことです。彼らはオウム返しに

「アムウェイが成功したのだから、ニュースキンもうまくいく」

としか言わないのです。
要するに何も考えていない。
案の定、これらの新設企業は壊滅状態でした。後に残されたのは借金だけ。男というのは豪快な分、悲惨な結果を迎えてしまうものだということを、イヤと言うほど見せつけられることになっただけでした。

ビジネスの基本ができていない会社や個人がうまくいくほど、日本経済や生活者は甘くありません。そんなSOHO/起業が消えていくのは、至極当たり前のことなのです。

事業アイデアが一般的すぎてもいけないし、狭すぎても失敗する。
アイデアとは難しいものです。

判断基準のためのコツが1つあります。
もし、自分が中~大企業に勤務している場合は、自分の感覚は「一般的すぎる」と思って間違いありません。だから、自分が面白いと思ったアイデアは、実はすでに一般化していたり、差異化が足りないケースが多い。

一方で、もし、自分が中小企業に勤務していたり、大企業であってもマスコミなどのクリエイティブな仕事に就いている場合は、感覚が鋭すぎるので、自分が面白いと思ったものは「進みすぎていて、需要が少なすぎる」と考えた方が無難です。

組織的な話はどうでも良いけど、一言

さて、事業アイデアは固まった。
検証も済ませて需要がそこそこあることが分かった。
自分で実行する自信もある。
ここまでくれば、70%は成功したようなものです。
5年以内に95%の企業が消滅すると以前話したことがありますが、そのほとんどが以上のステップをきっちりクリアせず、いいかげんに「会社を作ったら」何とかなるという発想でいくからです。

ここまでで、成功の残りは30%です。
個人でオフィスを構えるか、会社を作るか。
しかし、組織形態は最終的にはどうでも良い話です。
株式会社を作るのに1,000万円必要ですが、この金額が必要なのは会社設立までの審査期間である2週間程度です。
ちょっとお金を借りて設立が承認されたら、すぐに引き上げて返却するなんて手口で作られた株式会社はいくらでもあります(いや、別に悪いことをしている訳ではありませんが)。

私の古くからの知り合いで「モーなんとか」の仕掛け人の一人は、学生時代から企画マンをやっていますが、過去18年間この世界にいても会社を作ったことがありません。ずっとフリーです。

「自分で会社を作るより、会社を育てて売って、また育てて売って、の繰り返しの方が面白いじゃないですか」

といっていた彼も、個人活動から20年経ってようやく最近作るつもりになったようです。
本人からではなく、奥さんから聞いた話ですが。

ただ、1つだけアドバイスがあるとすると、「共同出資」や「共同経営」はできるだけ避けた方が良いという点です。
中には成功した人もいるでしょう。
しかし、私の知っている限り、共同出資や共同経営で成功した試しがありません。

彼らを観察していると、理由の大きな一つは意見の対立による内部分裂です。
設立の時は「みんな仲良く」と、出資額も権限も同じように設定します。しかし、実際に経営していくと温度差が出てきます。

経営方針や姿勢の違いならまだしも、こんな泥臭いというか些末なところでのすれ違いが起きます。

「俺はこんなに働いて苦労しているのに、あいつは椅子に座っているだけだ」

実際は、椅子に座っている側は

「俺はこんなにものを考えているのに、あいつは単に身体さえ動かしていれば仕事をしている気になっていやがる」

と不満たらたらだったり…

会社設立時には、言い出しっぺの人間が最低限51%以上の株式を持っていなければいけません。
これは夫婦間でも同じです。いや、感情問題になるだけに夫婦間なら「なおさら51%の原則」を死守しなければなりません。

他人は絶対当てにするな

さて、成功の30%はそんな組織の話ではありません。
「自分が動くつもりになっているか」という1点です。
いや、言い方を変えます。
「自分自身が走り回って、血尿の1回や2回を覚悟しているか」です。

これは「他人を当てにするな」という意味でもあります。
この場合の他人とは「自分以外のすべての人」が対象です。クライアントになってくれると約束した人、アドバイスをくれる先輩、自分の会社の社員ですら「他人」ですし、「絶対に当てにしてはいけない」のです。

なぜか?
SOHO/起業では、本当に、真剣に、命がけで、会社を守ろうとする意志は創立者である自分だけだからです。
創業から一緒にやってきた仲間であろうが、自分についてきた後輩や社員だろうが、あてにしてはいけません。必死に会社を守るのは「自分だけ」と心得るべきです。
その上で、何年も経って、彼らがあなたを支えてくれたと分かったら、「改めてその段階で」感謝すれば良い話です。

なぜこんな話をするのか?
今まで、ゴマンとそんな悲劇を見てきているからです。
若干27歳で自分一人の会社を作った後輩がいました。彼は

「俺が年間2,000万円分の仕事を出してやるから独立しろ」

と先輩に言われ、その気になって会社を作ったら、なしのつぶて。

「約束が違う」

と文句を言っても

「あんなもの社交辞令だ。それを真に受けたお前が悪い」

とけんもほろろ。
当時、サラリーマン・コンサルタントだった私は、見るに見かねて彼に仕事を出し続け、私からの売上げが彼の会社の総売上の半分近くになったこともありました。

またある知り合いは、創業時についてきてくれた後輩に会社の金を持ち逃げされて倒産寸前になったこともありました。
また、別な経営者は創業時から頑張ってくれた社員が、会社の業績がちょっと悪くなった途端に逃げられたとこぼしていました。主力社員だっただけにかなりの痛手だったようで、営業活動と仕事を一人でこなすために身体を壊してしまったほどです。

もちろん、逆恨みはいけません。
社交辞令を真に受けた自分が悪いのは確かですし、社員が辞めるのは批判できる話ではありません。
だからこそ「他人を当てにするな」ということなのです。
もっとも、SOHO/起業の場合、創業した本人が早々と逃げる(会社を畳む)ことも珍しくはないので、どっちもどっちですが(笑)

「他人を当てにするな」ということは、「甘えるな」と同義であることを指します。
SOHO/起業なんて、これまでもお話ししたように「荒波の太平洋に、ちっぽけな漁船で出航する」ようなものです。最後の砦は自分だけなのです。
社会的信用もないし後ろ盾も資金もない。
その代わり「自由(な判断、行動)」という代償を得るのです。

元々、日本人は自由と代償という対の概念を持ち合わせていない人が多い国民です。自分の自由(主張)は得ようとするが、代償(義務)は支払おうとしない。アメリカとはまったく違う自由の概念です。

しかし、それも「企業」という壁に守られている時だけです。一歩、外海に出航した途端、代償を要求される。それについていけなくなることが、SOHO/起業の失敗となるのです。

暖かい気持ちをもったまま、冷徹になれますか?

特に大企業出身者のミスのもうひとつは、

「使えない人材も無理に使おうとする」
「権限を委譲しようとする」

です。
「他人を当てにするな」とほとんど同じ概念です。

最近、トヨタが管理職評価を見直しました。成果主義から部下育成主義への転換です。今までの人事査定は成果主義80%、部下育成20%だったのを大幅に変更して比率を逆転させたというものです(確か40%対60%だったと記憶しています)。
成果主義で最高益を出したものの、部下に任せず自分でやってしまうことが多くなったため、人材が育たなくなってしまうことへの反省です。

大企業はこれで良いのです。
企業体力があり、将来を見据えなければ企業の発展がないからです。
また、「人は命」ですから、大企業となると企業を支える人の数も大人数が必要です。

しかし、SOHO/起業となると事情が一変します。
大企業と違って、会社を支える人数は自分一人しかいないからです。
それなのに、大企業と同じように「使えない人材を無理に使う」ためには膨大なエネルギーが必要です。

「(ダメなヤツから)撤退する勇気」を持たない経営者は、それだけで経営者失格です。
相手が人間なだけに気が引けるのも理解できますが、企業体力のないSOHO/起業では共倒れになるだけです。
大企業出身者のSOHO/起業失敗で意外に多いのが、この人材の扱いなのです。

ある若い経営者がいました。
彼は若干23歳でIT関連の企業の経営を任された。
彼は大企業にかつて所属していましたし、良き技術者ではありましたが、いかんせん経験が足りなさすぎた。また、人が良い好青年でしたが、経営者になるには優しすぎるのが気がかりでした。

案の定、部下とアルバイトに確執が起こります。そして、不満分子の1人が組織を引っかき回すことになりました。
彼女を押さえられない若き社長に他の社員やバイトたちの不満が注がれます。

焦燥しきった表情で私に相談してきたときには、時すでに遅し。取り返しのつかないところまで事態が悪化していたのです。

「森さん、私はどうしたら良いのでしょうか」
「まずは、彼女を親会社に転勤させるなりして、あなたの組織から外すことだ」

「いや、でも彼女にも良いところはあるんです。もちろん、対立しているグループの子たちもいい子ばかりなんです。だから、悩むんです」
「無理だね。だったら、方法は一つしかない。総入れ替えだ。結局、そこまで社内の空気が悪化したら、一人をなんとかしてもそれを引き継ぐ人間が残ってしまう。だから、一気に入れ替えるしか方法はないよ」

「親会社の社長からも実は同じことを言われました」
「そう。もしそうなったら、キミは彼女たちに『申し訳ない』と思うかい?」

「もちろんです。だから、悩んでる…」
「それで良い。キミは経営者として未熟だし、失格だ」

「…はい、そうです」
「だから、彼女たちに『ごめんなさい。自分は未熟だったせいで、迷惑をかけてしまった。
次に来る人たちには同じ過ちを犯さないから許して欲しい』と、『心の中で』思ったら良い。
キミの性格だと辛いよね。それって。
でも、経営者とはそういうもの。辛いという気持ちや孤独が、経営者になることの代償なんだよ」

人は自分の思い通りには決して動いてくれません。
文句も言うし、反抗もする。
だけど、いや、だからこそ、人の問題はいつになっても悩みの種です。でも、それを乗り越えなければ、結局、誰も自分の会社を支えてくれないことを肝に銘ずる必要があるのです。

あなたは、暖かい気持ちをもったまま、冷徹になれますか?

最後はどれだけ腹をくくれるか

このメルマガの「サルにも分かるシリーズ」は、具体的なノウハウの紹介をテーマにした記事というコンセプトで執筆してきました。
今回もそのつもりで筆を進めてきました。
しかし、結局、SOHO/起業の問題点は技術的なことではありません。
記事の後半が示すように、

「どれだけ腹をくくれるか」

これが実際的な最大の正否を分けるポイントなのです。

腹をくくれば、人間、なんとかなっていくものです。
特に、SOHO/起業のように、自分一人かせいぜいもう一人を食わせていけるだけの収入はなんとかなってしまう。
それは、やとわれだろうが事業主だろうが同じです。

しかし、アルファベットで「S」「O」「H」「O」なんて、おしゃれに身近で気軽なファッションイメージでいるかぎり、それはかないません。
失敗しても自分だけならいくらでも責任は取れます。
しかし、迷惑がかかるのは取引先、社員・バイト、家族なのです。

独立して自分の可能性を計るのは大いに結構です。
しかし、あくまでもあなた一人で生きてはいけないこと「も」肝に銘じてください。「他人を当てにするな」しかし「自分だけではない」。
一見矛盾したこの問題をきちんと解くことができる人だけがSOHO/起業の成功というパスポートを得ることができるのです。

この記事のタイトルは「サルにも『わかる』SOHO/起業」であって、
決して

「サルにも『できる』SOHO/起業」

ではありません。

【ご参考まで】シストラットの設立時の費用のお話
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