店面積の大半を占める「陳列」という存在
街を歩いていると様々なものが目に飛び込んできます。
人、看板、店、自動車、道、店先…
そして、一歩お店に入ると、ど~んと面積の大半を占めるのが、陳列、陳列、陳列。
その一角に近づくと、初めて店員が近づいてきます。
あたかも、店は陳列というスペースの集合体ではないかと思わせるような雰囲気です。
当たり前といえば当たり前です。
陳列という名前を与えられているものの、その実態は商品なのですから、商品を売るべき商店の大半を陳列が占めているのは当然です。
では、なぜ「商品」と呼ばずに「陳列」なのでしょうか。商品と陳列は何が違うのでしょうか。
商品は1つ1つの「価値を持った製品」です。陳列は「ある意図を持って並べられた商品の集まり」です。
「ある意図」とは商店が「もっと売りたい」ということです。
生活者が選びやすいだの何だのは後づけです。選びやすければ買いやすい、つまり売りが増えるということです。あえて選びにくくする場合もあります。選んですぐに店を出てしまうより、店に留まって欲しいからです。もちろん客も留まることにメリットがなければなりませんが。
店の面積の大半を占めるからこそ、スーパーやデパートは心血を注ぎます。
それでも理想どおりにはなかなか行かないのに、無頓着な業種も多々見受けられます。
今回は、陳列が持つべき条件の1つ、「選びやすさ」をテーマにお送りします。
Mr. Surfrider inspired me
- この号を敬愛する Surfride さんに贈ります
私が敬愛する「電脳市場」のSurfriderさんが、シストラットのプロダクトコーン理論を使って関西の大型書店を切った、痛快な記事がありました (【Surfin’99】pointed cone 99/3/28)。
光栄なことです。感激しました。
でも、正直な感想は「先を越されたぁ」(笑)
書店が題材の記事を私も構想していたからです。
私も頑張っちゃいます。「電脳市場」との「強引連動企画」です。
…と思ったら、Surfriderさんは ISIZE 書評 (5月中旬スタート) で、もっと突っ込んだ考え方を持って先へ先へと進んでいたことが判明しました。
すみません。
「強引連動企画」ではなく「後追い企画」にタイトルを変更します(笑)
さて、本はコンサルタントにとって重要な情報源です。
情報スピードさえ気にしなければ、社会の事象をまとめて俯瞰できるので、体系だった知識を効率良く吸収できます。学者が書くマーケティング理論の本は系統だって骨太なので、頭をナタで殴られるようなヒントを掴むことも良くあります。同業者のコンサルタントが書いたマーケティング関係の本は、自分のポジションを知るのに役立ちます。
おもしろい経験をしたことがあります。
「セルフ・コンサルティング」というおもしろそうな本をひょいと買いました。読み進めているうちに、シストラットが開発したプロダクト・コーン理論が紹介されていました。DCCM理論もあります。が、他の理論にはクレジットがあるのに、私のものだけがない。
「これは著者に文句を言わなければならない」
と著者名を見ると、何と私の以前在籍していた会社の部長で、親しい友人ではありませんか。野口氏は快くシストラットのクレジット表示要請を受けてくれました。お恥ずかしい話でしたが、著者名を見ない悪いクセは今でも直っていません。
私が1ケ月に読む単行本は30冊程度。雑誌は15誌をほぼ定期的に購読しています。
他業種はできるだけ色々な店を回るクセをつけるようにしている私ですが、書店だけはメインの店を決めています。
雑誌は自宅の近くの本屋さん。本は東京渋谷の紀伊国屋と大盛堂です。オフィスから1駅と近い割に品揃えが多いからです。
店を決めている理由は小さな本屋さん同士、大型書店同士は品揃えが同じだからです。だから距離の近さだけでそれぞれを使い分ければ良い、というわけです。
結果、私の場合のニーズは次のようにまとめられます。
●頻度が低い利用の場合は品揃えの幅を重視。利便性は軽視(つまり渋谷の大型店の紀伊国屋、大盛堂)
こう説明すると、何だか生活者ニーズがすっきり整理されているように見えます。
でも私の本音は違います。品揃えの幅と利便性以上に私が重視している点が、この「まとめ」では隠れているからです。つまり、
「他の書店に行きたくない」
から「書店を決めているだけ」
なのです。
生活者の行動面だけのデータをきれいにまとめると、こういった裏側を見逃してしまうことは良くあることです。
私が他の書店に行かない本当の理由
では何が問題か。
初めての書店では、目的の本を探す時間と手間がかかることです。
わざわざ私が説明するまでもなく、皆さんの多くが経験していることと思います。
先月、急に本が必要になりました。オフィスのある東京恵比寿から渋谷までの、往復30分がもったいない状況でした。
背に腹は代えられぬと、恵比寿駅ビルの大型書店に行きました。
初めて訪れる広い店内をざっと見回します。天井から看板が下がっていますが、目的のゲーム雑誌コーナーは見つかりません。
若い女性店員に「ゲーム雑誌はどこですか」と聞いたところ、
「まっすぐ行って右に回ったところです」
との答え。
指示通り行くと、通路の前方10メートル先に「ゲーム」と大きな看板がありました。そこはゲーム攻略本がずらり。雑誌はありません。
仕方なくレジに戻るとさっきの店員がいました。
「ゲーム雑誌はどこですか?攻略本ではありません」
「だから、まっすぐ行って…」
「そこには雑誌がありませんでした。もう一度聞きます。ゲーム雑誌はどこですか?」
「だから、まっすぐ行って…」
とその時です。横にいた中年男性が「お連れしなさい」と指示を出してくれました。
なんと、「まっすぐ行って右に曲がる」とすぐ横にゲームだけの小さな雑誌コーナーがありました。看板はありません。私が間違えた前方看板のほうが圧倒的に目立ちます。
後で見るとゲームコーナー3つ(!?)、パソコンコーナー2つが分割され、それぞれ10メートルも離れて設置してあるのです。良く見ると他分野にもそういったケースがありました。こんな不統一なコーナー作りははじめてです。
結局、渋谷との往復30分を惜しんだあまり、時間内には目的の本は手に入りませんでした。
後日、わざとその書店で占いとマーケティングの本を探してみました。たった2冊を発見するのに63分かかりました。同じ本をアルバイトに探させて時間を測ると54分。シストラットの学生バイトの時給は1,000円ですから、1回につき900円かかったことになります。
このあたりのデータのご紹介もおもしろいのですが、ファミレスの二番煎じをやってもつまらないので割愛します。
これが書店を変えたくない本当の理由です。
渋谷紀伊国屋や大盛堂が好きだからではありません。馴染みでない書店に行くと、駅から近い理由なんて吹っ飛んでしまうほど無駄な時間がかかるからです。
だから、目的の本がすぐに探せる店があれば、往復1時間の場所まで遠征しても利用する価値があります。また、目的の本をすぐにでも送ってくれるなら、1回900円でもペイします。
また、これら2つの書店が大改装をしてしまうと、私にとっての価値はまさしくゼロになってしまいます。
書店という低付加価値業態
なぜ、顧客無視のレイアウトになってしまうのでしょう。
書店は棚貸し業、スペースブローカーだからです。つまり、自分の店舗スペースは自分で管理していない。出版社が自社のスペースを確保しているからです。
そのほうが書店は楽だからです。入荷した本をチェックして、入れる棚を考えるのは面倒だからです。ダイヤモンド社の本はダイヤモンド社の棚に放り込んでおけば、ことは済んでしまいます。
いや、どんな本を入荷したら良いかを考えるのすら面倒です。
出版社がスペースを管理してくれれば、書店はどの本を扱うべきかを考える必要はありません。彼らが全部やってくれます。
自主ビジネス放棄の業態。これが現在の書店業です。
彼らは自分の頭で考えることを、どこかに忘れてきてしまったようです。
「右に曲がってまっすぐ行けば」確かにゲーム雑誌はありました。これは、「事実」です。でも、もっと目立つところに、つまり前方に大きな看板があれば客の注意はそこに向かうのは当然です。しかし、そのことがわからない。
いや、意味もなくコーナーを2つも3つにも分散すること自体が不思議です。
今回は極端な例ですが、他の大型書店も同じようなミスを犯しています。
例えば、ゲーム雑誌とゲーム攻略本は大抵の書店では別な棚にあります。出版社が違うのと、雑誌と書籍の扱いが書店内部で違うからです。でも、ゲーム雑誌を読む人の多くは攻略本も読みます。客から見れば一緒になっていなければなりません。
問題はコーナーだけではありません。コーナーの分類の仕方にも疑問があります。
大抵の書店は以下のような分類で売場を区切っています。
●ビジネス ●趣味
●小説・エッセイ ●旅行
さて、「私はこう見る」が単行本になったとしましょう。
このメールマガジンは「マーケティング・エッセイ」のようなものです。
マーケティングの本としては内容が柔らか過ぎます。といって、エッセイにするにはテーマが偏り過ぎます。
さて、あなたはどこに探しに行きますか?
正解は「出版社によって探す場所が違う」です。
出版社がダイヤモンドやPHPならばビジネス・コーナーへ行くのが正解です。が、マガジンハウスならエッセイ・コーナーです。
なぜなら、ダイヤモンドはエッセイ・コーナーに自社のスペースを持っていないからです。一方でマガジンハウスはビジネス・コーナーに自社スペースがない。
こんな知識を持たないと本が探せなかったり時間がかかるのは、どこかに問題があると考えるほうが自然です。
もうひとつ、例を出しましょう。
私が良く利用する「ビジネス」には以下のようなサブコーナーがあります。
▼広告 ▼営業
▼「3時間で分かる…」等の簡単に読める本
▼「家電業界残酷物語」等の業界スキャンダル的な本
「私はこう見る」の記事に触発されて、アサヒビールのマーケティングについて勉強したいと思ったアイさんは、ビジネス・コーナーに行きます。ここまでは正解です。
でも、大抵の大型書店のマーケティング・コーナーには「アサヒビール」の本は絶対にありません。経営・経済コーナーか業界スキャンダルのコーナーです。あるいは、業界解説シリーズのような本を探すのが吉です。
「えっ、だって、私は『マーケティング』というテーマで探しているのに」
と言ったところで、仕方がありません。書店にはマーケティング・コーナーには理論の本だけしか置かないという「暗黙の決まりごと」があるのですから、私たちそれを押し頂かないと永遠に目的の本は売ってもらえません。ちなみに、「決まりごと」は書店に聞いても教えてくれませんが(笑)
You deserve it.
「書店だって工夫している。ベストテン・コーナー等はその良い例だ」
同感です。
だから、私は初めての書店ではほとんどベストテン・コーナーに「しか」行きません。
ということは、もし、ベストテンしか置いていない数坪の極小の本屋さんが近くにあれば、そこに行きます。大型書店の他のスペースは私にとって無駄、いや、ベストテンコーナーを探す邪魔になるからです。
これはすでに、コンビニの雑誌売上の急増という形で発生しています。
今や、雑誌全体の売上はコンビニが2/3を占めるまで成長。書店では一般雑誌はほとんど売れません。あのややこしいレイアウトの本屋は不要だからです。食べ物とついでに雑誌が買える。立ち読みをしても文句を言われない。家の近くにある。コンビニで雑誌を買う理由はいくつもあります。でもわざわざ書店で買う理由は少ない。
私はスペースブローカーとしての書店業の存在を非難しているわけではありません。
そういう業態はたくさんありますし、出版社、生活者にとって売買ができるスペースは必要です。必要なところにビジネスが発生するのは当然の成り行きです。
ただ、付加価値は高くありません。普通のものを右から左に流すだけですから、それなりの付加価値しかないのは当たり前です。
アメリカで良く使われる言葉に「You deserve it」があります。
私流に訳せば「当たり前じゃん」ですが、直訳すると「あなたは、それにふさわしい」です。ただし、「それ」が価値の高いものか、低いものかについてのニュアンスは含まれていません。罪を犯して有罪でも「You deserve it」。世界的な大発見をした研究者がノーベル賞をもらっても「You deserve it」です。
付加価値の低い業態を続けることについて、私は非難も否定もしません。
でも、「You don’t deserve it」では困りものです。事実、書店業界は様々な圧力をコンビニ業界に仕掛けています。
「You don’t deserve it」
ちなみに、この森流訳は「お門違い」です。
人間の思考過程 - ニーズの枝分かれ
なぜ書店は選びにくいのでしょう。
人間には「判断の枝分かれ」があります。ニーズ・ヒエラルキーと私は呼んでいます。
例えば、主婦の木村さんが100%果汁を買おうとします。
まず、彼女が選択するのは
家庭で飲むので、1リットルが経済的です。
●アップル(味)
を選びます。オレンジやグレープフルーツでは酸味が強すぎるからです。
●カゴメ(メーカー)
です。彼女にとってはカゴメのアップルが一番おいしいし、安心だからです。
●クリアか白濁か(バラエティ)
です。ただ、繊維質が多そうな白濁にはあまりこだわりません。
すると、木村さんのような選び方をする客が多いお店は、陳列をこう分けるのが選びやすい売り場になります。
■味
■メーカー
■バラエティ
一方の例を見てみましょう。独身一人暮らしOL一年生のみどりさんです。
●350mlの容量
にこだわります。
●繊維質が入っているバラエティ
をいつも選んでしまいます。
すると、彼女の場合の陳列は
■クリアコーナー・白濁コーナー
■味
■メーカー
となります。
選びやすいというのはこのことです。主婦の木村さん向けの売り場にみどりさんが行ってしまったら、白濁のものを探すのに時間がかかるだけです。
メーカーは自分の会社の棚をなんとか確保しようとします。この場合の生活者はメーカーなんて気にしていない。両者の熱いバトルが繰り広げられるのが「陳列」いや売り場なのです。
ちなみに、OLみどりさんのような選び方をする人には、商品開発の大きな武器にもなります。
普通の果汁飲料は
■味
■バラエティ
■容量
の順に企業は考えています。
「トロピカーナ・ピーチ・果肉入り・350ml」新発売という感じです。
しかし、みどりさん向けなら
■バラエティ
■容量…
とするのが良いわけです。
タカラが大ヒットを飛ばした「すりおろしシリーズ」はこの典型的な例です。
「タカラ・すりおろし・りんご…」新発売です。
ニーズ・ヒエラルキーを応用して成功、知らなくて失敗
東京池袋西武はかつて日本で最大の売上を誇る百貨店でした。
その隣の東武百貨店がリニューアルした時、皆が興味津々でした。
「二流の東武が勝てるのか」
結果は皆さんご存じのとおりです。圧勝でした。
東武の象徴的な売り場作りが「平場重視・ハコ軽視」でした。
平場とはメーカーやブランドが混在している売り場です。間仕切りで空間を仕切ってはいません。一方のハコはそれ自体がブティックのようにあるブランド一色になっている空間です。
ブランド神話が崩れ去ったのにも関わらず、ハコ重視体制をとった西武と早々と平場に移行した東武の違いが顕著に表れた結果です。
例えば、ネクタイ売り場がその典型です。
西武ではネクタイは各ハコに点在していました。また、ネクタイ売り場もブランド別のコーナーです。
境さんはペイズリー柄のネクタイが欲しくて売り場に行きました。
ブランド神話がない境さんにとって、メーカーがエルメスだろうがダンヒルだろうが気にしません。東武は柄ごとにコーナーを仕切って陳列しています。一方の西武はバラバラ。勝敗は明らかです。
良く比較される東急ハンズとロフトですが、そのコーナー作り、陳列作りはまったく違います。ハンズに人気が集中するのは当然です。
この考え方は陳列だけとは限りません。物事を決める判断が伴うところにはいくらでも応用できます。
以前、ご紹介したフロムAとデイリーanも同じです。フロムAは「おしゃれな仕事」「勉強したい」などのベネフィットによる分類。一方のデイリーanは「地域別」「職種別」。
一に性格、二に性格、三四がなくて五に【ナイショ】 (笑)
こんな話をしていたら私の友人は一言。
「森さん。風俗嬢の写真指名も、そういう分類で選べないかな?」
うーん。そういう楽しい…
もとい、邪なことに思考の応用が早いのは彼の良いところです(?)
そういう分類はあっても良いでしょうね。
でも、私の女性の好みは
「一に性格、二に性格、三四がなくて五に【ナイショ】」です(笑)
私に合わせたらシンプルなものしかできなさそうです。
ヒットしないだろうなぁ。
Sure, I know I don’t deserve it!
補足記事 : 陳列・ディスプレイ・選ぶもの?【書店業】1999.6.1
本文記事だけで、できるだけ完結しようと考えている「私はこう見る」では異例のことですが、補足記事をお送りします。
前回の「陳列」の読者の声をたくさん頂きました。いつものように活発な意見が出て大変嬉しかったのですが、同じご指摘が相次ぎました。
ぶらぶら見ながら興味ある本を見ることもある」
記事が舌足らずだったことが災いして、ケンカ腰のメールまで頂いてしまいました(笑)
皆さんの問題意識に回答する形での執筆なので、ちょっと手厳しくはなりますが、ご容赦下さい。
陳列はぶらぶら購入でこそ必要なもの
ご指摘はそのとおりです。生活者の行動で、ぶらぶら見ながらの書籍購入は確実に存在します。
しかし、ぶらぶら購入だから、陳列について寛容で良いわけではありません。むしろ、ぶらぶら購入でこそ陳列の選びやすさが重要になります。
まず先に例を出してしまいましょう。
例えば、指名買いの極めて多いたばこの場合、
陳列は彼にとってまったく不要なものです。
もう一つの例を出しましょう。
みなさんに身近なインターネットのサーチ・エンジンでも同じ事が言えます。
何でもかんでもキーワード検索をする上級者は別にして、一般的には
「自分の知りたい分野のホームページにはどんなものがあるかな」
という時には、ジャンル別のページが便利です。ちなみに、上級者はこのような時でもキーワード検索を使います。
ジャンルを次々に探索する時間がもったいないのと、既存のジャンル分割が彼らにとって不便だからです。
時はキーワード検索が便利です。
その時には、それぞれのホームページがプロバイダのサーバー・コンピュータにどう並んでいるか等、知る必要はまったくありません。
最近、「シストラット」というキーワードで検索し、この記事やシストラットのホームページにたどりつく方が増えています。「シストラット」という単語さえわかっていれば、ホームページにアクセスできます。シストラットがコンサルタントだろうが、メーカーであろうが、はたまた個人であろうが、そんな情報は不要です。
でも、ヤフー等のジャンル別検索サイトでシストラットのページを探そうと思ったら、シストラットの名前だけでなく、この名前の存在が企業であり、かつマーケティング・コンサルタントであることを覚えておかなければなりません。覚えることが2つ増えてしまいます。
その上で、それに見合ったジャンルを探さなくてはなりません。行動が1つ増えてしまいます。
ちなみに、ヤフーではシストラットはマーケティング分野に登録されていません。経営コンサルティング分野です。なぜなら、ヤフーのマーケティング分野にはコンサルティングという概念がなくなってしまっているからです。
マーケティング分野には「一般的には戦略立案機能がない」と解釈されている調査会社ばかりが登録されているのです。
「戦略立案をするような会社はないかな」と探している人にとって、ヤフーの経営コンサルティング分野は最初に覗く項目ですが、マーケティング分野では調査会社のリストの山に埋もれてしまう可能性があります。
戦略立案を専門とするシストラットにとって、どちらに登録するのが良いか。議論の余地はありません。
シストラットをヤフーで探そうとすると大変な手間と努力、そしてちょっと多めの記憶力が必要となりますが、キーワード検索なら一発です。
書店ならこうなる
書店に当てはめると、こうなります。
万が一、ある大型書店が本を客にとってはほとんど意味がない順番に並べていたらどうでしょうか。例えば、入荷日付順です。
そこには、「ブランド戦略」のとなりに「ファイナルファンタジー8最終攻略」「必ずやせるアロエダイエット」が並んでいます。
もし、書店が自分の在庫をきちんと把握していれば、指名買い客はカウンターに行って、目的の本を持ってきてもらえば事足ります。その客にとっては陳列がどう並んでいようが、まったく無関心でいられます。
ぶらぶら買いで、いくら「いろんなジャンルの本が見たい」というニーズがあっても、こんな並び方で80万冊の在庫があるのでは途方に暮れます。
いや、現代人はぶらぶら買いにあてられる時間も限られます。3時間も4時間も時間がとれる人はかなり限定されるでしょう。
ぶらぶら買いは「いつもはビジネス・コーナーに行っているけど、今回はエッセイも見てみようかな」という「ブロック発想」で行われます。それだけに、「ジャンルの区切り」は必要かつ重要なのです。
書店の指名買い対応機能の欠如
書店に限らず、一般的に小売業は客が「指名買い」をしたい時のきちんとした対応機能を持ち合わせていません。例えば「指名買いカウンター」「指名買い要員の店員さん」は存在しません。
だから本来はそれに代わる陳列に力を入れなければならないのに、書店はきちんとできていないことが問題なのです。
書店で「指名買い」をしたい時、「一般的な作業を行う」店員に「余計な」リクエストをしなければなりません。一般小売店の場合は店員が「兼務」していますし、店内をうろついていますので、気楽に「●●はどこですか」と聞ける「雰囲気作り」をしています。
しかし、大型書店では店員はほとんどカウンターの中に常駐しています。店内にいても、それは、客の要望を聞くためではなく、在庫の補充をするためです。ですから、足早に店内を動き回り、腰をかがめてストックから本を取り出すのが彼らの行動です。気楽に話しかける雰囲気ではありません。
少なくとも一般の商店で良くある光景の「何かお探しですか」と近寄ってきたり、「いらっしゃいませ」と目を合わせてくるような大型書店の店員にはお目に掛かったことがありません。
中にはあからさまにイヤな顔をする店員もいます。「こんな忙しい時に対応できません」と言われたこともありました。
それらはすべて、書店が「指名買い」を本業の機能としてではなく「おまけの業務」として考えているからです。
本の並びが頭に入っていない店員に話しかけてしまった日には、面倒なことになってしまいます。店員自身も私が欲しい本がどこにあるのか、いや、自分の店で扱っているのかどうかすらわかりません。そこで、先輩や上司に聞くことになります。
しかし、従業員同士だときちんと教えてくれない場合があり、「どっかその辺だよ」と言われ、彼は陳列棚に直行します。その間、私は延々と待たされたあげく、「うちでは扱っていません」と言われます。
時にはその後「仕方がないから別な本でも探そうかな」と思って陳列棚を見ていたら、本来欲しかった本が見つかったというギャグのような経験はSurfriderさんだけなく、良くあることです。
彼らの行動だけを見ていると、がらくた市やジャンクショップのようなところで
「おじさん、▼▲なぁい?」
「良くわかんないからさ、その辺探してみてよ」
という会話と良く似ていることに気がつきます。極めて原始的な商売の方法です。
「ネット検索をなぜ使わないか」といぶかる読者もいらっしゃるので補足します。
一般的に客が知りたいのは「今、買えるかどうか」です。書店側も現在手もとにないと、他の書店に逃げられてしまうことを恐れます。自分の書店にその本があるかどうかの情報はネットでは検索できないことがわかっています。だから、直接、陳列を探すのです。
販売現場ではネット検索は最後の手段として、その本が実在するかどうか、入手可能かどうかを調べて「取り寄せ」を客に伺うためのものなのです。
商品を選ぶ行為は指名買い、ぶらぶら買いの両方が存在します。
小売業の基本は客に商品を選んでもらうことです。なのに、その方法のひとつしか提供せず、しかも、記事で指摘したように極めて選びにくい提供方法しかしていない書店は、小売業として未成熟あるいは低付加価値のスペースブローカーと言われても、仕方がない業態です。そして、そのことが今回の記事の趣旨の一つなのです。
ぶらぶら・指名、たった2つのニーズに対応できない、ぬるま湯業界
ではなぜ書店業は「選びやすさ」に真剣に取り組まないか。
理由は簡単です。店員ですらどこにあるかがわからない状態ですから、「何かお探しですか」なんて聞いていたら、客からの依頼が殺到し、人件費がかさんで利益が出ないからです(笑)
逆に言えば、客に店員の代わりをやらせているのが、大型書店だというわけです。
そういう業態はほかにも存在します。スーパーやディスカウント・ストアのセルフ店です。ただし、その分価格が安いのが客にもわかりますから納得づくです。書店はそうではありません。
「本の種類が多いから店員が把握するのは無理だ」という声が聞こえてきそうです。書籍業界の人たちの常套文句です。
だったら、「私」の興味のある本だけを扱っている本屋を作って欲しいのです。そこは、小さくても結構。でも、店員や検索システムがきちんとしている。
そう無理を言っているつもりはありません。
現在の書店は「全部百貨店状態」です。小さな書店は「よろず屋」。
でも、一般店では専門店も元気です。書店業界だけが百貨店とよろず屋しかないのは、どう考えてもおかしい。
「一般の商品は肉と洗剤というように商品の形が違うから楽だ。本は皆同じだから難しい」と言われたことがありました。
一般商品の専門店はその分研究しています。努力しています。
同じ「洋服」を扱う店だから品揃えが同じになる訳ではありません。
ターゲット顧客を考え、彼らの欲しいものをつかみ取り、たくさんある洋服の中からそれに見合ったものを仕入れる。でも失敗すれば倒産の憂き目にあう。これが努力です。小売業なら当たり前のことです。
書店だけが「本には種類がたくさんあるから、仕入れるものを選ぶのは難しい」と言い訳をして許される時代ではありません。
事実、その発想でまんが専門店ができました。
きれいな古本屋チェーン「ブックオフ」も盛況です。
書店だけが特別扱いされる理由はどこにもありません。だって、ビジネスは生活者がいて成り立つものですし、洋服屋の生活者と書店の生活者は同一人物だからです。
唯一違うとすれば、長年の慣習で「書店の生活者」は書店業界にあきらめさせられ、飼い慣らされていることだけです。
誤解のないように付け加えますが、私はこの記事を書店業界に反省して欲しくて書いているのではありません。
皆さんに、この業界を反面教師として「陳列とは何か。人の選択の思考過程にあわせることがどれだけ大事なのか」を学んで欲しいだけです。
というのも、書店業がそう簡単に変わるとは思いませんし、変えるつもりがあるとも思えないからです。
ベストセラーの集計では、本当はゲーム攻略本と大川隆法の本がトップテンの上位に食い込むのに、書店業としてのプライドが許さないからとあえて外し、平気で20位くらいの文芸書を7位や8位に持ってくる。
そんな嘘の固まりで事実から目を背け、客も自分もごまかしている書店業界に変革の意志があるとは到底思えないからです。
ちなみに、調査業界では数字の改ざん(メーキングといいます)をやったことがばれた調査会社は、永遠に業界から追放されてしまいます(笑)
今回は、記事を短くしようとしたあまり、舌足らずになってしまいました。
反省いたします。