■ペットは動物か?友だちか?-ペットよもやま話【ペットフード】

ネコ1

今回はペットのネタ話ギッシリ。マーケティングはちょっと

よちよち歩くかわいさ全開の子犬や子猫はいつの時代も人気者です。

「子犬の頭を『かわいいね』と撫でているミーハーは、子犬がかわいいのではなく、『かわいいね』と撫でている自分がかわいいのだ」

という野田某の名言があります。真実をついている部分もあります。でも、生後50日くらいの子犬をかわいいと思うのは人間の自然な感情と素直に認めたいものです。

私自身、動物は大好きで、本当は動物学者になりたかった人間です。ただ、長男なので、経済的なことを考えて獣医に目標を変更しました。
が、なぜか今はマーケティング・コンサルタント(笑)
もちろん犬猫も大好きです。現在はシェルティ(コリーの小型版)とシェパードを飼っています。お姉さんのシェルティがたった7kgなのに、体重38kgのシェパードがしかられてシュンとしている様を見ながら、

「お前なぁ。もうちょっとシェパードらしく威厳を持ったらどうだい?」

と、文句を言うのも楽しいものです。当の本人は、首をかしげて「えっ?」ってな顔をしていますが(笑)

世の中には飼う飼わないは別にして、犬好きと猫好きに別れます。
猫好きは猫に憧れる、猫と自分を重ね合わせる人が多いのが特徴です。
いつもはどこに行っているのか分からないし、声をかけても知らんぷり。だけど、お腹が空いたら、身をすり寄せて「にゃあ~」と甘えてくる身勝手さ。猫が持つそんな「自由奔放」「気まま、気まぐれ」が魅力なのです。

一方の犬好きは、犬が主人に忠実で我慢強く甘えん坊だから好きなのですが、決して自分がそうなりたいのではありません。あくまでも、その対象となるのが嬉しいのです。
皮肉な見方をすれば、犬好きのほうが身勝手なのかも知れません。

さて、そんな愛されるペットです。一部の団体から「ペットを売買するのは人身売買と同じく犯罪である」との主張があるにもかかわらず、ペット関連産業は拡大し続けています。今や3,000億円とも4,000億円市場ともいわれています。
CD市場の半分、いや、映画市場の2倍といえばわかりやすいでしょうか。
一時期、人気の的だったハウスマヌカンの代わりに、ペット・トリマー(美容師さん)が10代女性の人気職業になったりと話題にはこと欠きません。イメージの割に給料が滅茶苦茶安いのもマヌカンと同じです。

ペット産業は今回の不況でも例外なくダメージを受けており、アメリカの最大手ペットフードメーカー、ピュリナが日本市場から撤退したり、主要ペット専門問屋が相次いで倒産しています。しかし、他の産業から比べればましな方です。それだけ底力があります。

そんな一大産業ですが、雑誌やテレビで紹介されるのはペット専門葬儀屋だったり、珍しいペットだったりと、一般ウケを狙ったものばかりです。ペット産業に占めるサービス部門は推定で10%もありません。これは、獣医、ペットホテル、美容院等の古くからあるサービスを含めたシェアです。残りのうち、リード(引き綱)、首輪、おもちゃやケージ(檻)等のペット用品が20%。そして、ペット自身(生体)の売買が15%。つまり、半分以上(55%)がフードなのです。

ペット用品のマーケティングも非常に興味深いのですが、やはりここは王道ペットフードで攻めてみましょう。ご飯に味噌汁をぶっかけただけの犬猫の「エサ」だったものが、ペットの「食事」になったポイントを解説します。

ところで、ペットを飼っている家庭はたった20%程度です。つまり、読者の皆さんのうち、8割が身近でないテーマです。それでもあえてペットフードの話をするのは、市場規模が大きい割に知られていない産業だからです。比較的若い産業であることもひとつの理由ですが、「しょせん、犬猫のエサ屋」という蔑視意識が、ペット産業のマーケティング研究の足かせになっていることも否定できません。

今回の記事はペット産業マーケティングの総合的な話を意識しましたので、マーケティング上の「あっ、と驚く」視点や発見がないかも知れません。その代わりと言っては何ですが、ペットオーナーだけでなく獣医さんも知らないような「話のネタ」を散りばめてあります。ペットが身近でない読者の方にも「ウケるネタ元」として使えるように記事を構成したつもりです。★★今回は今まで以上に「1つのネタ話ギッシリ」です。読み疲れたらごめんなさい。

ペットのお話-通い婚の猫?

ネコ2ここで、なじみのない方のために、ペットとペットフードの簡単なお話をしましょう。

今回取り上げるペットは、最もポピュラーな犬と猫です。
犬と猫の飼育率はそれぞれ15%と8%で、犬が約800万頭、猫が約600万頭です。

ペットの飼育頭数の増加率はマスコミで騒がれている割には微々たるものです。犬猫ともに5%程度。ただ、猫の場合は映画がヒットすると飼育率が急増するミーハーな側面があります。

犬の場合、純血種の割合が圧倒的に増えました。今や、日本で飼われている犬の70%が純血種です(逆に猫の場合は30%)。

このうち、猫の頭数には常に疑問がつきまといます。★★というのも、この数字は調査員が戸別に訪問し、「お宅では犬や猫は飼っていますか」と聞いた結果です。実際に猫の数を数えたものではありません。

すると、何が起きるか。★★タマという猫は森さんの家で朝食を食べます。しかし、昼間は渋谷さんのところで、夜は阿部さんのところで食事をします。平安時代の通い婚のようなものです。★★森さん、渋谷さん、阿部さんはタマをそれぞれ自分のうちの猫だと思い込んでいます。つまり、調査上では3匹とカウントされていますが、実際は1匹しか存在しないのです。

いつも、自分の猫が朝食しか食べないと「変だな」と気がつきますが、猫は自然界では1日30~40回も食事をします。ちょこっと食べて、すぐにいなくなり、またふらりとやってきてちょこっと食べる。それだけに実状は更に測りにくいのです。★★読者の中で「うちの猫はいつも外に出ていて小食なんだけど」と思っている方は気をつけましょう。知らないうちに他人の猫だったという可能性があります。

いずれにせよ、ペット産業はたった一部の生活者しか対象にならない、間口の狭い産業です。普及率12%程度はインターネット・ブームが起きる前のパソコン所有率と同じです。つまり、エクセルなどのパソコンソフトのテレビ広告をするようなものといえば分かりやすいでしょう。

ペットフードの知識たくさん

イヌ1次に、ペットフードを見てみましょう。
ペットフードを分類すると2種類の形態があります。
1つはカリカリした食感でビスケットやせんべいのような「ドライ・タイプ」と呼ばれるもの。主原料は穀物です。

もうひとつは缶詰が主流(一部レトルト)の「ウェット・タイプ」と呼ばれます。主原料は肉類や魚類。煮こごりが素材同士をつなぐコーンビーフのようなものですので、水分含有量が70%と原材料自体の量は多くありません。

今でこそ、犬猫各タイプの売上構成比は4分の1づつですが、おもしろいことに、それぞれの発生源は犬と猫で違います。
日本におけるドッグフードの発祥は輸入品を除けば、ある大手製粉企業の子会社である日本ペットフードです。元来は穀物が豊作だった時の廃棄利用として作られたものです。一方のキャットフードは漁獲量が多すぎて、市場での価格維持のために、廃棄しなくてはいけなかった魚の廃棄利用でした。

従って、ペットフードと言えば「犬はドライ、猫は缶詰」が相場でした。
その常識を変えたのが世界最大のペットフードメーカー、マスターフーズです。犬ではペディグリーチャムとシーザーが缶タイプ、猫ではブレッキーズがドライタイプで缶がカルカン。それぞれが大ヒットしています。今回の記事は彼らが主役です。

ちなみに、ペットフード自体は第1次大戦の頃にイギリスで生まれたものです。
不思議です。イギリスは勝戦国ですが、ただでさえ戦争で人間が食べるものがないのに、わざわざ「贅沢品」とも思えるペットフードが生まれ、そして売れてしまう。

ところが、ペットフードは「人間が食べるものが少ないから」売れたのです。人間が食べるものが少ないから、犬用の食べ物も作れないし食べ残しもない。だから、犬専用の食べ物が必要だったというウソのような本当の話です。
缶タイプの原材料は主に牛や豚の内臓です。普通なら人間(イギリス人)は食べない部位です。だから、人間の食物調達には影響しないというわけです。

では、「ペットフードは『捨てる肉を使っている』粗悪な商品」かというと一概にそうとも言えません。
テレビで皆さんも見たことがあると思いますが、ライオンやチータが獲物の鹿を倒したら、まずどこに食らいつくか。
決して人間が食べるロースやヒレの部分ではありません。腹、つまり内臓にかぶりつきます。というのも、内臓はビタミン、ミネラル、リン、塩分、繊維等、栄養の宝庫なのです。だから、野生の肉食動物の大好物は草食動物の内臓です。人間の価値尺度で「粗悪品」と決めつけるのは大きな疑問です。

さて、今から約15年前、くだんのマスターフーズは彗星のようにテレビ広告に登場しました。ご存じペディグリーチャムです。年間8,000GRPのとんでもない広告量、そして「トップブリーダーが推奨する」コピーで一世を風靡しました。その後、雨後の竹の子のようにムツゴロウさんや水前寺清子等を起用した対抗商品の広告が続出。

新規参入メーカーも、ライオン、ユニチャーム、ホクレン、アサヒビール、東鳩など名だたる企業が相次ぎました。それまでのペットフードは一見うさんくさい産業で、実際に中小企業も多かったのですが、AGF、マルハ、明治製菓、森永製菓等の有名企業も名を連ねていた隠れた「一流産業(?)」でもあったのです。

ポイントは「くいつき」と「完全栄養食」

イヌ2彼らは何をしたのか。
「くいつき」と「完全栄養食」を重視した商品開発です。

人間なら「この値段なら、この味でしょうがないよね」と内容以外でも商品を評価できますが、犬や猫にとってみれば、そんなことは知ったことではありません。おいしいものはおいしい、まずいものはまずい。飼い主の都合など考えてくれません。従って、おいしい、つまり「くいつき」は最も重要な要素です。

実は、犬は特別な飼い方をしない限り、何でも食べてしまいます。また、与えるだけ食べてしまい、自分で分量を調整する芸当は持ち合わせていません。肥満や糖尿病の犬が多いのはそのためです。ひどい時にはブクブクに太り過ぎて、ちょっと指でつつくだけで皮が破れ、血が吹き出てしまう犬が出現することになります。
ちなみに、犬の「くいつき」を決定づける3大要素は、塩分、脂肪分、糖分です。これを同時に持ち合わせている代表が焼き鳥。読者の中にも思い当たる方が多いと思います。

一方の猫はまったく違う性質と嗜好を持っています。人間と暮らした歴史が圧倒的に短い猫には野生の本能が強く残っています。彼らは自分で食べる量を調整することができます。決して食べ過ぎることはありません。
また、彼らの本能が素晴らしいのは、食後2時間ほどで栄養分析を完了することです。その結果、この食べ物を続けると栄養バランスが崩れてしまうと、本能的に知るのです。「猫は気まぐれなので、今まで食べていた好物も突然食べなくなる」「猫は飽きっぽい」と言われますが、人間の飽きとは種類が違います。

猫の好みはアミノ酸の含有量で決まります。
「猫に鰹節」と言われるのはそのせいですし、海苔が好きなのもそのためです。
加工食品以外でアミノ酸が豊富に含まれているのは新鮮な魚です。そのため、猫用のツナ缶は取り立ての生まぐろを、港の工場でさばいて缶に詰めるという実にうらやましい工程を踏むケースが多いのです。

人間用との違いは、タイで作っていることと、キハダマグロという本来の学術的な分類では正確にはまぐろではない種類を使っていることだけです【注】。でも、キハダマグロだって、最近の回転寿司で堂々とまぐろとして使われているのですから、すでに「違い」ではなくなっています。

【注】読者のご指摘で、キハダマグロは学術的にもまぐろであることが判明しました。現在、再調査中です。

ただし、現在はちょっと事情が複雑になっています。最近の猫は屋内でずっと飼われているので、本能をなくしているケースが目立つからです。高いところから落ちてもクルリと器用に着地するのは猫のお家芸のハズですが、そのまま背中からズドンと落ちてしまう。犬のように食べるだけ食べてしまうのでブクブク太る。犬化したそんな猫が増えてきました。

一方で、最近、特に超小型犬に分類される、シーズーやミニチュアダックスなどの体重5kg以下の犬種は、おやつを豊富にもらっているので好き嫌いが激しくなり、食に関して言えば猫化しています。
おもしろい対比です。

ずば抜けたノウハウのマスターフーズ

ネコ4次のキーワードは「完全栄養食」です。
これは、「水と完全栄養食のペットフードだけで、生命維持に必要なすべての栄養素が摂取できる」という意味です。

味の好みは限りなく人間に近い犬ですが、必要な栄養素はかなり違います。
例えば、普通の人間の食事は塩分が犬の必要量の3倍以上もあるのに、リンは半分以下です。
毎日の食事です。常に栄養バランスを考えるのは大変な作業です。
完全栄養食のペットフードはその手間を大幅に減らしてくれます。

ちなみに、獣医さんの中には毎回の食事に、丼物のようにドライタイプのペットフードに手作りの料理を乗せることを提案している人もいます。飼い主の愛情と栄養バランスの妥協点というところでしょうか。

マスターフーズの親会社はヨーロッパで70%ものシェアを握り、世界数10カ国に傘下の現地法人を抱える一大ペットフード企業です。「くいつき」の高い素材や調味に関するノウハウの蓄積は日本企業の比ではありません。
また、彼らはイギリスに世界最大の小動物(ペット)栄養研究所を持っています。アメリカの全米科学アカデミーが発表しているペットの栄養基準のデータは、すべてここから提供されたものです。栄養に関するデータと経験もハンパではありません。
日本企業が束になってかかっても勝てる相手ではありません。

ちなみに、日本の獣医さんは意外に皆さんが思っているほど、小動物の栄養学に関する知識はありません。6年間の学校の授業の中で、小動物栄養学の授業はたったの3時間あまりしかないのです。
患者さんから相談を受ければ「良く知りません」とは言えません。だから、時々、首をひねりたくなるようなアドバイスを「獣医さんから受けたから」と、忠実に実践している飼い主を多く見かけることになります。

下手をすると、メーカーのブランドマネジャーの方が知識が豊富で正確です。もちろん、最強の組み合わせはメーカー勤務経験のある獣医さんです。東京世田谷にそんな経歴を持つ私の友人が開業しています。人気トップクラスの女性タレントや人気抜群の3人組女性グループがお忍びで訪れるうらやましい環境です(笑)

ペットを知らない人間がマーケティングをすると

ネコ5「くいつき」をいかに広告でうまく表現するかについても、マスターフーズは図抜けた経験を持っています。

日本のペットフードメーカーの広告を見ると、制作者(ディレクター)がいかにペットを飼ったことがないかがはっきりわかります。商品を食べるシーンを見ていると、タレントの犬猫は「もぐもぐ」と食べているからです。

ペットを飼った経験のある人は、好物を食べる犬猫の食べ方を良く知っています。彼らは食べ物を「ガッ」とくわえ、首のスナップを利かせて飲み込むように、のどの奥に固まりを送り込みます。あるいは、口を大きく開けて首を突っ込まんばかりの勢いで、頭から食べ物に突進していきます。
「もぐもぐ」広告では売れるものも売れません。意外に稚拙な失敗をしているのが、敗者メーカーなのです。

その点、マスターフーズの撮影は徹底しています。
広告に使う5~6匹の犬猫の撮影期間中のすべての食事シーンを撮影。その中で最もおいしそうに食べているシーンを使うのです。5日間の撮影なら50~60のカットから選べます。しかも、事前に自分の商品を食べさせてみて、特に食いっぷりが良い犬猫ばかり集めているのですから、映像の迫力が違います。

一見、不誠実に見えますが、酒の飲めないタレントを使ってビールの広告を作ったり、使ったこともないのに「私はいつもこれ」とにっこりしているアイドル広告よりはよほど真面目です。

それでも芸ができたり飼い主の言うことに忠実な犬の撮影はまだスムースです。
キャットフードはそれこそ「気まぐれな」猫が相手なので、制作スタッフも大変です。
「は~い。タレントの猫が逃げたので、撮影は一時中止します」と、中断の多いことおびただしい。しかも、制作者が意図したように動いてくれないので、回すフィルムの長さが尋常ではありません。ブレッキーズというマスターフーズの看板ブランドの撮影済みフィルムは、黒沢監督の「影武者」のすべてのフィルムとまったく同じ長さだと言われています。

あまり良い話ではないので、ここで公表しようかどうか迷った「ウワサ」があります。
ある大ヒットをした子猫の映画がありました。
犬なら事前に教え込むことで「演技」をしてくれますが、先程お話ししたように、猫はなかなか指示通りに動いてくれません。
それでも、映画は作らなければなりません。
ある時、この映画に主役の猫が怪我をして、折れた足をぶらぶらさせながら歩くシーンがありました。

で、その監督「は~い。怪我のシーンとります」
助監督「OKです。ボキッ」

何度聞いても話しても、その度に背筋がゾッとする話です。
その「ウワサ」元の人は私以上にショックだったようです。
「もう、あんな映画なんて2度と作りたくないッスよ、森さん」
今でも彼が映画産業に関っているかどうか、私は知りません。

先日、アメリカでディズニー映画の撮影で動物虐待の疑いをかけられたとの報道がありました。ディズニーははっきりと「虐待の事実はない」と言い切っています。天下のディズニーとペット先進国のアメリカ。虐待があろうハズはありません。説得力は弱いですが(笑)

ペットフードは人間が買う

イヌ3さて、「くいつき」と「完全栄養食」がキーワードのペットフードですが、商品を買うのは飼い主である人間です。従って、「実際のくいつき」だけでなく、上に紹介したように「くいつきが良さそう」な演出を初め、人間に訴える要素が必要です。

そのもうひとつのポイントは商品開発とネーミングです。

おもしろいデータがあります。
キャットフードのうち、ドライタイプ、ウェットタイプ共に売れているのが「フィッシュ」、「ビーフ」。次にはドライタイプでは「かつお」、缶タイプでは「まぐろ」です。
「へえ、そうなんだ」では済ましてはいけません。
実は、猫の「くいつき」は例えばドライタイプの「かつお」と「まぐろ」とでは変わりません。でも、ドライの「かつお」が売れる。缶タイプの「まぐろ」が売れる。

なぜか。人間が買うからです。

日本人が「かつお」と聞いてイメージするのは鰹節、「まぐろ」は刺身と寿司です。日本人の心理、経験では「かつお」と「乾燥した状態」は相性が良いのに対して、「まぐろ」と相性が良いのは「生の状態」だというわけです。

同じことはペディグリーチャムでも言えます。
「ビーフ&野菜」は同ブランドの人気バラエティですが、本来なら犬には野菜は必要ありません。前述したように、彼らは内臓からビタミンや繊維をちゃんと摂取できるからです。これが売れるのは人間(飼い主)の発想です。

技術者の立場でいえば、不要なもののためにそんな商品を作るのは信義則に反します。でも、生活者が誤解しているならその誤解をベースにものを考えるのがビジネスです。だって、生活者が考える「事実」が唯一の「事実」なのですから。
もし、それが嫌なら啓蒙活動をするしかありません。でも、そのコストは膨大です。マーケティングでの最大の決断の一瞬です。

私が中学生の時、尊敬していた獣医さんに

「僕は獣医になりたいんです」と言うと
「獣医っていうのはね、森君、動物が相手じゃなくて、飼い主である奥さんたち相手の商売なんだよ」

と、動物好き・人間嫌いの私を知っていた彼が教えてくれたのを今でも覚えています。当時は何のことだかさっぱりわかりませんでしたが。

でも最終決定者はペット?

ネコ6「作るのが簡単だし、儲かりそう」という安易な発想で新規参入したホクレンやアサヒビールはあえなく敗退。マスターフーズはその圧倒的な広告投下量とともに、「人間」をきちんと見すえたマーケティングで成功しました。

ところが、そのマスターフーズが辛酸をなめさせられた競合商品がありました。「フリスキー・モンプチ」です。シャンパングラスに盛ったモンプチをフォークで「チンチ~ン」と鳴らし、優雅なペルシャ猫が食べている広告を見た読者の方も多いと思います。モンプチの成功は高級感にあると考えている業界関係者も多いのですが、実は隠れた成功要因がありました。缶の容量です。

猫は自然界では1日に30~40回も食事をします。でも、人間の都合と常識で、1日2回と決められている猫も多くいます。特に、缶タイプは皿に盛ったまま放置できないので、1日の食事時間が決められています。
その場合、普通の猫の1回の食事量は80g。
カルカンは1缶210g、モンプチは85g。するとどうなるか。
カルカンを買った飼い主は缶の半分を猫に与えます。が、残りの半分は冷蔵庫に収納されることになります。つまり2回目の食事は1回目より新鮮さが落ち、なおかつ冷たい食事となります。

新鮮さが猫の「くいつき」に大きく影響することは先ほど説明しました。
問題は温度です。猫は犬と違い、元来、熱帯や亜熱帯に生息する動物です。ライオンをイメージしていただければすぐにわかると思います。つまり、猫の体内本能の中に「冷たい食べ物は自然界には存在しない」のです。しかも獲物を倒した直後は体温で暖かい。それを好んで食べるのが肉食動物なのです。2回目は更に「くいつき」が落ちるのは当然です。

モンプチにはそんな障害はありません。1缶を食べ切ってしまえばおしまい。
カルカンとモンプチの本来の「くいつき」の差はほとんどないにも関わらず、実質上の「くいつき」はモンプチが上になってしまう。
マスターフーズはあわててカルカンの90gミニ缶を開発しましたが、時すでに遅し。1年以上もモンプチの独走状態を許したカルカン・ミニ缶はモンプチの勢いを弱める力しかなく、2位に転落してしまったのです。スーパードライと他社のドライと同じように、「先手必勝」の格好の例になってしまいました。

ペットオーナー3種類

イヌ4さて、これだけ普及したペットフードですが、結局生活者はなぜペットフードを買うのでしょうか。

ペットオーナーには大別して3種類います。
まず、犬猫を動物として考えている伝統的な人たちがいます。番犬として犬を飼っているような人たちです。

彼らは基本的には「エサ」を与えているだけです。だから、みそ汁ぶっかけ飯で十分だと考えます。彼らは滅多にペットフードを買いません。買ったとしてもできるだけ安い、10kgで980円のドライフードで済ませます。彼らにとってはペットフードは「生命の維持」です。

2番目のタイプは、ペットは動物ですが、あくまでも「動物としての」習性や生理等をきちんと理解している、あるいは理解しようとペットに接している人たちです。
プライベートでペットを飼っている獣医さんがその典型です。ペットの伝統が長いイギリスやアメリカの一般オーナーにはこのグループの人たちが多いのは事実です。もちろん、日本でも予備軍として一般のオーナーにもこういう人たちが存在します。獣医崩れの(笑)私はこのグループに属します。
彼らにとっては「健康体の維持」がペットフードです。

最後は、ペットを人間のように扱おうとするグループです。
数でいえば圧倒的多数を占めます。また、最近のペット産業ブームはこの人たちが作ったといっても過言ではありません。

イヌ5ただ、このグループには2つのサブグループがあります。

極端な例を上げれば、犬が欲しがる様子に「かわいそうだから」とケーキでも焼き鳥でも上げてしまい、ブクブクに太ったペットが糖尿病や歯周病にかかってしまってから慌ててしまうタイプです。

また、寒いからかわいそうだと犬用セーターを買ったりしてしまう。メキシコ原産で毛足の短いチワワならまだしも、犬は元来北方の生まれです。酒樽を首に吊して雪山の救助作業を手伝うセントバーナードや、犬ぞりで有名なシベリアンハスキーをイメージすれば簡単に分かります。

「ペットを人間のように扱う」のではなく、「おもちゃとして置いておく感覚」と言ったほうが分かりやすいかも知れません。
誤解がないように付け加えますが、私はこの人たちを非難しているわけではありません。体重5kg以下の超小型犬は正式分類英語で「Toy Dog」(日本語訳は愛玩犬だが、直訳すると「おもちゃ犬」)と呼ばれます。元々そういう目的で作られた犬種なのです。

ところで、夏が終わった軽井沢で一時期野犬が増加したという現象があり、問題になりました。しかも、これらの野犬は決して雑種などではなく、シベリアン・ハスキーやゴールデン・リトリバー等の純血種であることが特徴です。

原因は簡単です。ある家族が(レンタル)別荘に避暑に行ったものの何かが足りない。

「あっ、そうだ。ヨーロッパの金持ちのように、犬と優雅な夏を過ごすのがかっこいいライフスタイルなんだ」

と気がつき、子犬を買い求めます。出費はたかだか10万円程度。安いものです。
夏が終われば日常生活に戻ります。その時、すばらしき夢の演出のための道具である子犬は邪魔な存在です。大都会の自宅では飼えない。だから、ごみ箱に捨てるように犬を捨ててしまう。こんな人たちが一時期たくさんいたのです。

この場合の犬猫は「おもちゃ」といえば「おもちゃ」ですが、こんな非常識な人間は「ペットオーナー」として認めませんので、どのグループにも属しません。いや、所属なんかさせてあげません(笑)

最大のグループ

ネコ72つ目のサブグループはドライフードはかわいそうだと、ペット用の肉や魚をわざわざ購入する。家族用にカレーを作るとき、煮込んだ肉や魚をカレー粉を入れる前にペット用に取っておく等の行動が特徴です。猫の食事の習性を知らずに、缶詰を与える等の行動もこれにあたります。

ペットフードで言えば、缶タイプのペットフードを好んで上げるのがこの層といえます。人間の食べ物に近い外観だからです。ただ、一方で、柔らかい缶タイプより歯によいからという理由で、ドライフードをあえて与えるという勘違いもしでかします。最も幅が広い層ですし規模も大きいグループです。

そんな彼らにとって、ペットフードとは何なのでしょう。
実は食事ではありません。
彼らは犬や猫が喜ぶ顔を見たいために200円や300円を支払っているのです。

●自分がペットに愛情を注いでいることを確認するためのツール。
●ペットが喜んでいることを見てほっとする、幸せな気分になるためのエンターテイメント・ツール。

これがペットフードの本当の姿です。

私の知り合いに脱サラをしてペットの通販会社を設立した人間がいます。また、ペット産業が儲かるからと用品の輸入販売を開始した会社もありました。もちろん、両方ともペットの飼育経験などまったくありません。
当然、あえなく大敗。

ペットを舐めていると、エライ目に会います。愛犬に顔を舐められても、ゆめゆめペットを舐めてはいけません。口の中が毛で一杯になります。
…もとい、猫舌でなくても火傷します。
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