悪魔と天使の葛藤
「いい気分」「まちのほっとステーション」などなど、いろんなタイトルがついているコンビニ。今や、私達にとってなくてはならない存在になってしまいました。
以前、私が住んでいた東京世田谷の桜上水に至っては、大学が近くにあるせいか、セブンイレブンを筆頭に代表的なコンビニがすべて揃っており、全部で8軒もありました。
コンサルタントとしてもコンビニは大事な情報源です。
街のポスターやファッション、若い人たちの会話が日常で集められるので、移動には電車を使い、車には滅多に乗らない私であることは、以前お話しました。
電車と徒歩が生活者の情報源だとすると、商品の重要な情報源の一つがコンビニです。
私の業界守備範囲は多岐に渡ります。小さいものは1個100円の商品から、大きいものは数百万円。中には「国 (国家)」もあります。
中でも最も多いのがスーパーやコンビニで扱う商品群です。また、これらの低額商品はマーケティングの基本でもあります。だから、用がなくてもコンビニには週に最低2回、多いときには4~5回は行きます。どんな商品が現れて消えていくのかが如実に分かるからです。定点観測のようなものです。
加えて、コンビニでの客層の変化や彼らの商品の買い方なども観察調査の対象になります。生活者と商品の接点が売場ですから、電車内とはまた違う貴重な情報が得られるのが魅力です。
森個人でも昼食のパンや雑誌を買ったりと、コンビニは生活に密着しています。
ビジネスとプライベートでコンビニを活用している私ですが、44才の男性という「個人」に戻ると、どうにもこうにも不満なところがたくさんあります。
しかし、一方で職業としてのコンサルタント魂がそれを逐一押さえている部分もあります。自分の中の天使と悪魔が喧嘩をしているという格好でしょうか。
今回は、コンビニを題材に「【個】対【職】」の葛藤をご紹介します。
「ほっと」できない、ほっとステーション
私が主にコンビニを利用するのは昼と夜中です。
昼は東京恵比寿のオフィスの周辺。夜中は終電で帰った後の自宅周辺です。ここはお高く止まっている地域なので、夜中となるとラーメン屋一軒、居酒屋一軒開いていません。ここのコンビニとジーンズメイトが唯一の「買い物場所」なのです。
ある晩、自宅周辺のコンビニでふと気がつきました。
土日の週末に限って、店内を流れる音楽が違うのです。
いや、気がついたなんてものではありません。いやがおうにも飛び込んでくるのですから拷問です。
拷問器具は大音量のロック・ミュージック。
どう考えても商業を前提とした音楽ではありません。クラブで流れるようなギンギンのハードロックやパンクが、スピーカーの音量目一杯に店内一杯を飛び跳ねています。しかも、かなりマニアックなサウンド。一般受けしない。
今私がいるのは「ものを買う場所」ではなく、学割がきく東京ディズニーランドのダンシングマニアではないかと錯覚さえしてしまう。そんな音量と音質です。
さすがに一度苦情を言ったことがあります。
いつもはブータレた彼らですが、その時ばかりはさすがに
と、バックヤードに飛んで行き音量を下げました。
オーナーが不在なのをいいことに、自分達が持ってきたMDやカセットを流しているのは誰の目にも明かです。客が楽しむのではなく、自分達が楽しむ。
あんな音では商品を選ぶどころではありません。ただでさえ夜中の1時に疲れている身です。店内にいるのが苦痛になります。早々と商品選択を切り上げて、いつもの半額以下の買物で逃げました。
ここで、あの店のあの日の「私の売り上げ」は半分になったわけです。
うるさい、といえば、こんな経験もありました。
ある時、商品を棚に入れているバイトくんがいました。彼の隣には若い女性が興奮しきりに、大きな声で文句を言っています。会話の内容から、この2人は恋人同志であり、いわゆる痴話ゲンカであることがすぐに分かりました。
これもまた夜中の2時。
キンキン声でうるさいのなんの。
しかも、他人の痴情のもつれ話を強制的に聞かされるのです.
レばらく我慢していましたが、10分も聞かされたたところで、とうとう静かにしてくれるよう、その女性に頼みました。
出ました!若い人の必殺技。
「迷惑」の定義が全く違う相手に何を言っても始まりません。
でも、またぞろあの大声につき合う気もしないので、その大声が迷惑なのだと説明した途端、第2弾が放たれました。
これも良くある(?)セリフです。
レジでこの様子を見ていたバイトくんの同僚に頼みました。
「おーい。このお嬢さんが警察を呼んで欲しいそうだ。駅前の階投の隣に交番があるから、警官を呼んで来てくれないか?」
余談ですが、私は、こういった「こけおどし」が大嫌いです。
その気もないのに、相手をへこませるだけのためのセリフ。相手が男だろうが女だろうがヤワな反撃はしません。相手のセリフを後押ししてあげます。
多分、私のような人間が、電車で痴漢容疑をかけられると、無実を晴らそうと卒先して交番へ行き、挙げ句の果てに痴漢と決めつけられてしまうのでしょうね (過去記事「痴漢」参照)
ようやく彼氏がやって来て謝ったので一件落着はさせたものの、彼女は私を睨んだままブツブツ言っていました。
友人 (恋人?) の職場におしかけプライベートを持ち込む、その女性は単なる社会常識を知らないヤツで済ませても良いでしょう。
でも、ここでの問題は、そういった恋人をそのままにさせているバイトくん。そして、それが迷惑だと感じない若い女性、最後にそういった人たちがのさばっているコンビニという「場」。とてもとても、「商売」という概念からは外れています。
コンサルタントとしては…
さて、ここで他の客を見てみました。
いつもは数10%いる30代以上の客がいません。私と共に逃げ帰ったのか、週末だから元々いないのかがわかりません。
しかし、さすがに10代、20代の若い人たちは平気で雑誌を読んだり、商品の棚の前で選んでいます。いつもと違う買物行動をとっている人は見当たりません。
彼らにとって、あの大音量はまったく気にならないようです。
実は、聴覚というのは体力によって評価がまったく変わるおもしろい感覚です。
元気なときにはどんな音量でもリズムでも平気なのに、体力がなくなってくるとちょっとした音でも我慢ができなくなる。
同時に聴覚は過去記事で紹介したように、情緒に大きな影響を与える感覚でもあります。人の気を狂わせる最も簡単な方法は、ガラスを引っ掻いたあの「キー」という音を大音量で常時聞かせることだと言われます。
電車内で携帯電話の利用が迷惑なのは今では世代を超えた認識になりつつありますが、若い人の感じる迷惑度は中年のそれのたった半分という調査結果が出ています。これも、体力が弱くなっている中年とまだまだエネルギーあふれた若者の感覚の違いなのです。
従って、あのコンビニの音や痴話ゲンカの大声が若い人たちに何の問題もなく、私にとってはイライラするのは当然です。
若い人たちをターゲットにしているコンビニにとって、バイトくんたちの勝手な行動は、偶然にも正しい戦略になっているのでした。
自動販売機より性能の低い人間?
コンビニの接客は接客ではありません。
マニュアルがあるので言葉遣いはそれなりですが、それ以外の会話となると一気にそのレベルが露呈します。
私は1日たばこを6箱も吸うヘビースモーカーなので、普段は40個を近くのたばこ屋さんで買い置きをしているのですが、たまに、ふと気がつくといつも持っているアタッシュケースにたばこがないことがあります。
運の悪いことに、夜11時以降はたばこ自動販売機は未成年者対策と称して、電源が落ちています。すると、たばこが手にはいるのは夜中に営業しているコンビニしかありません。
ところがこれがまた難儀です。
コンビニの店員は客の話など聞いていないので、私が
と言っても、10回に9回は1つしか持ってきません。
たばこを買うときにほとんどの客が1個買いなので、「この客も1個だ」と思い込んでいるのです。
と、レジで精算を済ませようとしているバイトくんに言っても、聞いているのか聞いてないのか分からず、そのまま精算を済ませようとします。
指を3本上げようが、何をしようが全く効果はありません。第一、返事もしないので、聞いているのかどうかも確認できません。
この状態はバイトくんの顔ぶれが変わろうが全く同じです。個人の問題ではなさそうです。
ある時、結局、そのバイトくんはレジとたばこコーナーとを3往復もしなければならないハメになりました。が、その時大きな音で「チッ」と舌を打ったのです。
温厚な私もそれには切れました。
面白いことにコンビニに限らず、大抵こういったトラブルを起こすような店員は、ネームプレートを外したり裏返しにしています。特に、裏返しにしている輩は確信犯ですので、容赦しないようにしています。
私は機械より賢い人間を相手にしているハズです。
でも、実際は自販機ならボタンを押せばたばこが出てきます。
3回押せば3個のたばこが出てきます。
一方、コンビニのバイトくんは何をやっても1個しかたばこが出てきません。
彼らは自動販売機以下なのでしょうか。
大学のサークルのようなビジネス
生意気なヤツ、恐い人、危ない人。そんな人たち全部にいい顔なんてできません」
コンビニでのバイト経験のある21才の女性です。
強盗だってあるし、こちらも命がけです。それに、私たちも昼間の生活があるから深夜は疲れています。
いつもいつも同じような注文をする客がいたら『あ、こんどもそうか』と思うのは当然でしょう」
「第一、森さんはバイトをプロと勘違いしていませんか? 所詮、私たちはバイトなんです。
時給850円しかもらっていません。
そんな安い給料で、いちいち客の言うことなんか気にしてられません。
また、そういう事情がわかるから、私たちも文句を言う気にもなりません」
こちらは20才の男子学生さん。
いやはや、すでに考えるベースが違っていました。
いつから、商業、商売が学校のサークルのように、仲間同士で傷をなめあう場になってしまったのでしょうか。マックは同じ850円の時給でもっとマシな応対をします。良く間違えることは間違えますが、少なくとも間違ったら謝ります。
これでは、44才のオヤジは退散するだけです。
客を平気で待たせる接客
オフィスの近くのローソンにはレジが2つあります。でも、この2つのレジがフル嫁動をしている情景は私は見たことがありませんでした。
客がいない訳ではありません。東京恵比寿は昔から住宅地域指定でオフィスがなかなか作れなかったところ、商業地域指定になったので会社が急増しました。ビジネスマン、OLが大挙してやって来たので、昼休み時のコンビニは戦争です。レジ前には20人以上の客が長蛇の列を作る光景は日常茶飯事です。
私のような短気な人間は、商品が選び終わっているのにその支払いに15分も待つ気には到底なれません。先客の中に公共料金を支払う客がいたりすると、それだけで普通の商品の精算の5倍は時間がかかるので、最悪です。
バイトくんがいないのか、というとそうではありません。
空いているレジの脇で何やらごちょごちょ書類に書き物をしたり、唐揚げを袋に詰めています。目の前の長蛇の列は店が流行っている勲章とでもいいたげな雰囲気です。
そんなこんなしているうちに、ampmがオープンしました。
ここは、オーナー夫婦らしき2人がいつもレジにいるので、ちょっと混んでいると思うと、2つ目のレジをさっと開けて「次の方からどうぞ」と、混雑解消をしてくれます。私はただそれだけの理由で、オフィスから遠いにも関わらず、さっさとローソンを見限り、ampmに通うようになりました。
そのうち、ローソンが改装工事になりました。
コンサルタントという商売の性です。新しくなった店には一度は行きたくなります。
でも新しいハズの店内は大した変更はありませんでした。なぜ改装工事までしなければならないのか不思議なくらいです。ただ、1つだけ変化があるとすれば、たばこを扱うようになった点です。
そこに見慣れた30代の男性従業員が立っていました。
最近、彼の顔を見なくなったような気がしたので、なんとなく懐かしい感覚でした。
驚いたのは、新しいローソンは長蛇の列ができそうになると、ampmのように、さっと2台目のレジを開けて「前の方からどうぞ」と精算を受け付けるのです。しかも、近くにいる途中の客が精算しようとしても「いえ、前にお並びの方から」と、きちんと待っている順番で精算するように誘導します。
「ほう」と感心していると、なじみの彼にバイトくんが話しかけました。
あっ、そうか。彼は前の経営者から店を引き継いだのか。
元々、前の経営者が店に顔を出すところは見たことがありませんでした。
でも、その彼は店番をずっとしていただけあって、現場を知っているのでした。
ただ、雇われの時は自分が楽をするだけだったのが、オーナーとなると真剣に客のことを考え始めたというわけです。
もしかしたら、新参者のampmに対抗するために、サービス向上をしたのかも知れません。
若い人たちは…
20才の学生さんのことばです。
私が、レジのサービス向上の話をしたときでした。
だって、マクドナルドだって商品が出来るのは早いけど、列に延々と並ばなければならないから、結局時間がかかるし、モスバーガーだって元々時間がかかるし」
「第一、そのバイトの気持ちは分かります。
客が混んでいて、レジですぐに対応しても誉められませんけど、報告書に数字が入っていないとオーナーに叱られます。
私の給料は客がくれるのではなくて、オーナーがくれるのだから、どっちを優先するかといったら、当たり前のことです」
言う相手を間違えた私が悪かったです。
Aタイム信奉者の私は無駄な時間はできるだけ避けたいと思っています。
商品さえ選んでしまえば後は無駄な時間です。お金を払わなければ犯罪になるので払っていますが、できることなら顔パスで一括請求をして欲しいくらいです。
でも、20才の学生さんの時間に対する貴重さは私とは違います。
5分、10分くらい待っていたって、試験などの特別な時期でなければ、何の苦痛もありません。
2番目の理由はバイトくんに対する親近感です。
私などは「バイトだろうが何だろうが、その店の代表として接客しているのだから、きちんとして当たり前」という感覚です。
が、彼女は「客として」より「同じ経験を積んだ同僚として」バイトくんを見ているようです。だから、商品を間違えても「しょうがないな」で済んでしまいます。先程のサークル感覚です。
もうひとつ、理由があります。
私のような中年になると、1日の総エネルギー量は若い人たちの数十%も低くなります。立って待つエネルギーは無視できません。エネルギーが有り余っている彼らとは比較にならないのです。
それを如実に感じるのは椅子がないライブハウスでのコンサートに行ったときです。周囲の若い人たちは平気で盛り上がっていますが、私は1時間も経つと、音楽を楽しむどころではなくなります。早く座ってほっとしたくなるのです。
せっかくお金を出して時間を使って行くくらいですから、好きな音楽のハズなのですが、そんなことはどうでもよくなってしまうほど、体力が続きません。
コンビニ流の品揃えはたばこに通じるか
その東京恵比寿のローソンです。
今まで、たばこを扱っていなかったコンビニがたばこをどう仕入れるか、面白そうなので、ちょっと見てみることにしました。
というのも、コンビニは欠品当たり前の世界だからです。
特に、弁当などのナマモノは配達時間の狭間になると、棚が空っぽになってしまいます。
その割には、メーカーが欠品を出すとコンビニは大騒ぎです。中には取引停止になって倒産してしまった会社もあります。客には欠品を平気で出し、メーカーにはうるさい。これがコンビニですが、私は文句を言うつもりはありません。自分の責任なら「しょうがない」と甘くもなりますが、他人の失敗は許せないのは人間の心理だからです。
そして、ビジネスの世界は弱肉強食。強い者が勝つのは当たり前です。倒産したメーカーは可哀想ではありますが、コンビニに牛耳られるような商品しか作ってこなかったのが悪いだけです。生き残りたかったら、欠品を恐れて過剰在庫になろうが商品を作り続けるか、他メーカーには真似ができないヒット商品を作るかのどちらかです。
一方、スーパー等では欠品は販売機会の損失ということで、かなり嫌います。もちろん、その商品を目当てに買い物に来た客が逃げていくのを恐れるという事情もあります。
また、個人商店、特に魚介類や野菜などの生鮮商品を扱っている魚屋さんや八百屋さんも欠品は当たり前ですが、その時間ははっきりと決まっています。閉店間際です。
しかし、24時間営業しているコンビニはそういうリズムはありません。いや、正確に言えば、昼食時や夕方等の客が混雑する直後がその時期なのですが、本当に奇麗さっぱりなくなっていくのです。
当然の事ながら、コンビニの欠品常識世界は在庫管理の成果 (?) です。売れ残れば、それがそのまま損失になる。弁当が1個売れ残るとせっかく売れた1個の利益がなくなってしまう。だから、経営側としては当然のことです。それで客が逃げなければ、という前提です。
一方のたばこ屋さんは欠品は大恥が常識の世界です。
かつて、日本たばこの営業所で通常注文以外の補填注文を受け付けていた時など、わざわざタクシーで営業所に駆けつけてマイルドセブンを1カートンだけ仕入れるという、採算度外視のたばこ屋さんまであったくらいです。
ちなみに、マイルドセブン1カートン(10個) の利益は250円。タクシー代はどう見ても1,000円。儲かるハズはありません。
売れ筋のマイルドセブンを欠品させてしまうという計画性のなさは置いておいたとしても、
という根性は立派と言えば立派です。
さて、しばらくして、ローソンに行ってみると見事に「品切れ」の張り紙がたくさんありました。レジ上の透明なボックスに84種類のたばこが置いてあるのですが、そのうち2/3は品切れでした。
異様な雰囲気です。
近くのたばこ屋さんの売れ筋くらいなら、日本たばこの営業マンが教えてくれます。それを参考に仕入れればある程度は需要予測ができるハズなのですが、そこまで厳しく見るのは止めましょう。
慣れるまでに1ヶ月はかかるだろうと思い、しばらくしてまた見に行きました。
さすがに、「品切れ」の張り紙は減ったものの、それでも1/3の20~30種類のたばこにはりついています。
レジ上のたばこに気がつく客も少ないようです。レジで
等と不満げです。
店を出た客の一人が
と友人と話しているところを聞いてしまうと、客の不満は明らかです。
その店のたばこの売上がどうなったかを知るすべはありませんが、恐らく平均以下であることでしょう。ちなみに、半年後の今では「常時3~4品の欠品」に「改善されて」います。
目まぐるしい新製品は必要か?
続けて品揃えの話です。
品揃えと言えば、コンビニの商品は次々と変わっていきます。
前回の記事で紹介したチョコレートを筆頭に、カップ麺、ドリンク類、弁当などふと気がつくと今まであった商品がなくなっているなど、当然のごとく行われています。
セブンイレブンはそれが徹底しており、POS管理で2週間で一定の売上が上がらない新商品は次々に定番から外していきます。
せっかく気に入った商品を見つけても、その大半が消えてなくなる。
またぞろ、おいしいのかまずいのか分からない、新しい商品を試さなければならないハメになります。そして、10個試して1個気に入ったモノが見つかっても、また、その商品が消え去ってしまう。一体自分は何のために商品を買っているのかも分からなくなってしまいそうです。
余計なお世話ですが、そういった短期でしか売れない新商品を次々と作るメーカーはさぞ利益率が悪いことでしょう。また、腰を据えて商品を作ろう等と思いもしないでしょう。ちょっと目先の変わった安直な前回の記事のようなチョコレートの新製品が出てくるのも、実はそういった流通の事情が影響しています。
だから、私は気に入った商品が見つかると近くのスーパーに行きます。
しかし、そのスーパーでもしばらくすると商品が消えていく。
私が気に入るのは売れない商品ばかりなのでしょうか。
実は、そのとおりでもあり、そのとおりでもないのです。
商品の売れ方には幾つかのパターンがあります。
代表的なのは、じっくり型と即効型。
即効型は新発売して、すぐに売れる商品です。ぱっと見て興味を引く商品が多いのが特徴です。もちろん、広告にも左右されます。発売直後に大量の広告を流せば、一気に売れますし、そうでなければ売れ行きもそれなりです。
その代わり、続けて売れるかどうかは別問題です。
じっくり型は、説明型商品が多いのが特徴です。
パッと見ただけではその商品の良さが分からない。でも、一度食べたり飲んでみてその効用を自分で確認できるような商品は、クチコミを筆頭にじわじわと売り上げを伸ばしていきます。カゴメキャロットジュースなどはその典型のひとつです。
新製品導入後の2週間で売れる商品は「すべて」即効型です。
更に、即効型は続けて売れる商品と、単なる花火で飽きられる商品とに別れます。
当然、本当のヒット商品は数少ないので花火商品が大半。つまり、すぐに売れなくなってしまう商品ばかりが残ることになります。その時点で定番コード抹消対象という烙印を押され、またぞろ新しい商品が入ってくる訳です。
コンビニで売れない商品はメーカーも力を入れません。いや、正確にいえば全体の売上が少ない商品には、営業マンも力が入りません。スーパーで売れたから育てようという細かい管理をしているような企業は少ないのが現状です。
力が入らない商品はよほど力のある商品でなければ、スーパーでも売れなくなります。
そして、その商品は消えていく運命になるのです。
ペディグリーチャムを持つマスターフーズなど、いくつかのメーカーはそれを見越して、新製品導入の時期をずらします。
例えば、ダイエーのようなPOS管理が甘いスーパーにひとまず商品を入れます。彼らなら3ケ月間くらいは売れなくても陳列棚に残ったままです。次に広告を流してきちんと売れるのを待ちます。
そして、おもむろにコンビニに扱ってもらうように商談をかけるのです。
この方法だと無駄がありません。商品をちゃんと育てようとするなら、そして、早いうちに売上げを稼ごうなどと焦らないなら、最良の方法です。
日本たばこではコンビニに当たるのが駅のKIOSKですから、一般のたばこ屋さん→KIOSKという順番に販路を広げていきます。
コンビニは新製品だけを扱うところ
コンビニは新製品を買うところだとばかり思っていました」
20才の女性の言です。
お見事です。
彼女は流通の使い分けをきちんとしています。
定番モノが欲しければコンビニでなくてもどこでも買えるし」
そう。彼女の中では、コンビニは新製品殿堂の場。続けて買いたい商品なんて期待していません。また、当然の事ながらメーカーの利益率なんてハナから考えてもいません。それで、メーカーが潰れようが知ったことではありません。だって、それがないと生活できないような商品などは彼女にはないのですから。
また、流通業にとって他店ではなく自分の店に客に来てもらうようにするためには、他店や他業種 (この場合はスーパー) にはない商品を扱うのが一番効果があります。つまり、「新製品をどこよりも早く」揃えることで売上を作ってきたのがコンビニという業態なのです。
普通なら、商品を頻繁に入れ替えると在庫の無駄が生じます。また、新製品を入れると、その通知や売り方などの余計な事務手続きが増えることになります。加えて、目まぐるしく変わる商品をさばくのに、間違いがないように管理しようとすると作業が遅くなります。つまり、「コスト」がかかる訳です。
でも、コンビニはPOSと直結したコンピュータ管理で、その事務費を極力抑えることに成功しました。在庫が余ってしまうリスクを回避するために、メーカーや問屋の負担で配送させたり、逆にコンビニの中央倉庫に一括配送をさせてコストを下げたり、注文から配送までの期間を短くさせたりと工夫を凝らしているのです。
「私はこう見る」では、努力をしていない企業を題材に辛口の記事を書くことが多いのですが、コンビニについてはきっちり企業努力をしている数少ない業界の一つです。
経営的に言えば、このやり方、つまり死に筋商品をできるだけ早く見つけて、売れ筋だけを残す方法は大成功です。
この方法で、不振を極めた本家アメリカのセブンイレブンの経営をテコ入れする、という、子供が親に指導するようにもなってしまいました。
そして、新製品を探すならコンビニという図式を作ったのも成功です。もちろん、これは、日本の主要コンビニはすべてスーパーの系列会社であることも大きく影響しています。ご存じのとおり、セブンイレブンはイトーヨーカ堂、ローソンはダイエー、ファミリーマートは西友です。
だから、彼らとしてはスーパーとコンビニが同じ土俵でけんかをさせたくありません。コンビニは新製品、スーパーは定番商品という図式は彼らにとっても無駄のない棲み分けです。
アメリカでは良くある24時間営業のスーパーが日本ではほとんど見かけないのも、夕方まではスーパーで夜はコンビニで商品を買って欲しいからです。どちらでも、親会社は儲かる。いや、下手にスーパーがコンビニの陣地に戦争を仕掛けるようなことがあると、無駄が生じます。奇麗に棲み分けてもらった方が都合がよいのです。
真の差別化とは
さてさて、中年のコンビニに対する個人的不満はすべて却下されてしまいました。
●人の話を聞かずに間違えだらけ。しかも注意をされると舌打ちをするバイトくん
●レジで平気で客を待たせる接客方法
●欲しくてもすぐに買えなくなる品揃え
本当はまだまだあります。無臭の店内で冬だけはおでんの匂いが充満し、酔っていると気持ちが悪くなると言ったのは読者のNABEさん。でも、全部却下です。
そうなんです。
コンビニは我々のような中年は相手にしていません。だから、それでいいのです。
ターゲットをきっちり絞ること。それは、ターゲット以外の人たちにいくら文句を言われようが不満を持たれようが気にしない、企業としての強い意志。これが大事なのです。
みんなに好かれようとすると、八方美人になって誰にも好かれなくなる。差別化戦略の基本中の基本ですが、それを忠実に守っているのがコンビニであるのです。コンサルタントとしての森は心底そう思っています。
そして、素晴らしいのは徹底した差別化戦略のもと、従業員 (オーナー) と客の独特の商文化まで作ってしまったことです。従来の発想や顧客満足とはまったく別な世界。こんな例は他の産業にありません。
若い人向けのコンビニはこれからも中年に嫌われる存在でいて欲しいと思っています。
ゆめゆめ、売上が伸びないからといって、主婦や我々にターゲットを広げることなど、絶対にしてはいけません。
だって、これだけ恨みがあるコンビニに今更すり寄られたって、
と意地でも思いますもの。
個人としての森は頑なにそう思っています。
中年オヤジはガンコなんです。
【後日談】
この記事を発表してから、数年間、毎年春になると一斉に感想メールがやって来るのが恒例でした。毎回100通近いメールです。記事を発表してしばらくたつと感想メールが途絶えるのが普通なのに珍しいことです。
おもしろいのは、その99%が「死ね」だの「てめえみたいなコンサルタントになんか仕事をたのまねーよ」「二度とコンビニに来るな」といった罵倒です。
おそらく、どこかのコンビニチェーンがオーナーを対象にした研修で、この記事を紹介するのが恒例になっていたのでしょう。
どのチェーンなのかは知りませんが、反省どころかそういう反応をするオーナーが集まっているのが、コンビニという場です。研修担当の方、効果はまったくありませんですよ(笑)