■スーパー連続落。犯人は誰だ?!【スーパー】 

artc20020115今回は流通の王者、スーパーマーケットのお話です。
フランスから上陸したカルフールや高級スーパーが話題ですが、今回は普通のスーパーを取り上げました。
100円ショップとドン・キホーテの比較をお楽しみ下さい。


頑張っているのに

日本の冷蔵庫、スーパーが不調です。
ダイエーは阪神大震災を契機に立ち直るきっかけがつかめません。
無敵を誇ったイトーヨーカ堂も今ひとつの不調。
スーパー業界は2001年10月時点で、対前月比なんと35ヶ月「連続」の売上げ減少を記録しています。
スーパーは長らく日本の流通業の主役として君臨してきただけに、その不調は日本経済の象徴ですらあります。

スーパーは私のメルマガに良く出てくる「企業努力を怠った」「生活者をなめてかかった」不良業界ではありません。
それなりに真面目に努力しています。

最近での最も大きな努力、英断の一つとして、取扱商品点数の大幅な削減を実施したことを思い出します。
「お客様のニーズ」を旗頭に、商品でごちゃごちゃしていた店内をすっきりさせる改革を実施したのでした。

●商品棚を低くした。それによって店内が見渡せ、どこに何があるか分かりやすくなった。
●商品の数を絞り込んだ。それによって沢山売れる商品は何列も並べ、ストックを増やすことで目的の商品が探しやすくなり、同時に品切れを防止した。

今やスーパーでは天井高く積み上げられた商品の光景は見かけません。
手が届く範囲に商品が並べられているので、客が商品を手に取りやすくなりました。
天井が見渡せるので店内看板が見やすくなり、遠くにいても自分が目的とする商品のコーナーが一目で分かるようになりました。

土地の価格が高い日本ではかなり贅沢な改革です。一歩間違えれば売上げが減少してしまいかねない英断です。
そういう意味でも、スーパー業界は頑張っています。

流通業の中でも元気な分野や会社もあります。
ご存じ100円ショップや高級スーパーです。また、新興勢力の都市型ディスカウントストア、ドン・キホーテも元気印ですし、マツモトキヨシも一時期の勢いはないとはいえ、勢いがあることには変わりません。東急ハンズや無印良品もまだまだ行けます。

この違いは一体何なのでしょう。
表面的に見れば、昨今の不況のせいで100円ショップがほとんどすべての流通業から売上げを奪ったと解説するのが一番安直な方法です。
特に、若い人たちには「ヒャッキン(100均、百円均一の意味)」が定着した呼称であることを見るまでもなく、彼らに身近な存在になったくらい普及しています。

それは間違いではありません。
今まで文具店で500~600円もしたプラスチック製の書類ケースが100円で買えてしまいます。カメラのレンズなどを保護するウレタンや布製の袋が、1,000円近かったものが100円で手に入ってしまう。
私の身の回りにも100円ショップで買ったものが一気に増えました。

その証拠にスーパーの部門別売上げ減少率(対前年比)を見てみると、

●日用雑貨 17.6%減
●衣料品 17.7%減
●食料品 4.6%減

と、答えは明白です。雑貨は100円ショップにやられ、アパレルはユニクロに客を取られたけれど、食品は強力な競争相手がいないので比較的被害が少ない。そんな図式です。

100円ショップの「何」が元凶なのか?

しかし、本当に100円ショップだけが元凶なのでしょうか。
いや、言葉を換えて言います。
「本当に100円ショップの『低価格』だけが元凶なのでしょうか」

もし、価格が問題なら、スーパーの商品はほとんど100円均一にしなければ、生き残っていけないことになってしまいます。
それは極端だとしても、100円ショップの低価格が元凶だと結論づけてしまうと、取り扱うすべての商品の価格を下げなければならないという発想にしか行き着きません。
いや、現実そうなっています。
スーパーに限らず、値段を下げるだけの下策しか取れない企業が多い。

一方で成城石井などの高級スーパーが盛況です。無印良品は安いですが100円ショップほどではありません。
「安くすればよい」というキーワードだけでは説明できなくなっていると考えた方が自然ですし、心臓にも良い。

マーケティングに詳しい人なら「安いものと高級なものとの二極分化である」とその両方を分断して説明することでしょう。
もちろん、それはそれで間違ってはいません。

しかし、何かが足りないのです。
その何かとは生活者の視点です。

「安い方が良いというのは生活者の視点ではないのか」

とお叱りを受けそうです。

「私は安いから100円ショップを使っています。森さんの指摘は一方的だ」

なんて決めつける人も出てきそう(^^;
確かにそれ「も」生活者の視点です。
でも「安いだけではない」のもまた生活者です。

値段が安すぎるとかえって不安という心理。
●●円くらいまでなら安い方が良いけれど、それを越せば、値段の安さよりもむしろ性能や品質が高い方がよいという心理。
多少値段が高いかも知れないけれど、安心な会社や人に自慢できる製品の方が良いという心理。
中身はよく分からないけれど、値段が高い方が品質が良い気がするという心理。

価格が安いのが生活者のニーズとするならば、価格が安くなければものが売れないとするならば、上に上げた心理のほとんどが

「説明できない不思議な現象」
「客なんて気まぐれだ」
「生活者は自分で自分のことは分かっていない」

といった「企業のエゴ」が頭をもたげてくるだけです。

価格だけではない何かがスーパーや流通業の多くを苦しめているはずなのです。それは一体何か。
今回は、その犯人探しをしてみようという趣向です。

題して

「スーパー連続落。犯人は誰だ?!」

テレビ番組「笑っていいとも」をたまたま見ていたので思いついただけのタイトルでした。安直でごめんなさい。

いつも「在庫処分セール」のスーパー?

イトーヨーカ堂社長のコメントがあります。

「総合スーパーの売り上げが伸び悩んでいるのは在庫過剰で商品単価が下がっているためだ。
ヨーカ堂では来店客数や買い上げ点数は増えている」(朝日新聞2002/1/3)

熟語が多いので口語に翻訳すると、こんな感じです。

「客も増えて、たくさん買ってもくれているのだよ。
でもさぁ、うちらが仕入れすぎてしまったので、安くして商品をさばかなくっちゃ行けなくなったのよ。あはは」

あれ?でも、スーパーで最も不振なのは食品部門ではなく、衣料品や雑貨部門です。
鍋やサランラップは牛乳や鮮魚と違い、仕入れすぎたので安く売らなければすぐに質が落ちる商品ではありません。
だから、普通に考えれば上の発言にはちょっと無理があります。

ヨーカ堂の売上げは対前月比100.0%ですから、上がりも下がりもしていません。客数も増加し、買い上げ点数も増加しているのに売上げが変わらないということは、商品単価が常に下がっていなければ計算が成り立ちません。
そこまでは、社長の言い分が正しいです。

しかし、スーパーはいつも「在庫処分セール」をしなければならないのに、雑貨屋さんは「年末在庫処分セール」を1年に1回で済んでしまうのでしょうか。

天下のヨーカ堂。POSデータの鬼と言われるヨーカ堂です。ヨーカ堂系列のセブンイレブン・ジャパンが、本家アメリカのセブンイレブンの経営不振にPOSデータの導入と仕入れ管理のノウハウなどを逆にアドバイスし、立ち直らせたと言われるほどの実力を持つヨーカ堂です。

ダイエーとは格が違うほど仕入れに関してはプロ中のプロなのに、雑貨屋さんよりも頻繁に「在庫処分セール」をしなければならない…とは考えにくいのです。

さて、一方の100円ショップがなぜ人気があるのか。
考えても分かりません。「だって、安いから」以上です。
これが、他の文具等と比べて20%や30%「安い」というなら、接客や立地などの他の要因を疑う余地もあります。しかし、安さは「70%や80%」も安いのです。
「3割4割引きは当たり前」ではなく、「7割8割引きは当たり前」の世界です。

これ以上にインパクトのあるものはありません。
ご存じのように「えっ?こんなものまで100円なの?」
という商品も多い。
ダイソーの社長はこう答えています。

「我々は100円の商品を売っているのではない。
『え?こんなものまで100円なの?』という『驚き』を売っています」

同じような品質で価格が数分の1。100円ショップが流行らない訳がありません。
100円ショップの成功の第一の理由は「低価格」。
冒頭で色々なことを言いましたが、それは間違いありません。

先行き不安だが?

話はそれますが、ある100円ショップでおもしろいものを見つけてしまいました。
商品ではありません。1枚の貼り紙です。
場所は渋谷東急本店通りのアオヤマ・ダイソー。渋谷の一等地にありながら、ビル4階分(200坪)がすべて100円ショップというぜいたくな店です。さすがに、2,000坪を誇る町田店には負けますが、十分に広いスペースです。

ここは渋谷を徘徊するコギャルたちだけではなく、ありとあらゆる客層が集まっており、店内ぎっしりと詰まった商品と客の多さのせいでギュッと詰まったような感覚の売場です。

電気がもったいないので客は歩けという主張がはっきりしており、2階と3階には止まらずに1階と4階専用のエレベータの中にその貼り紙がありました。
全文は長いので、要旨だけを書きます。

「うちとしても品質管理に努力はしているけど、新参者のメーカー製品なんかには品質が悪いものも入っているのよ。
だから、文句を言わないでね。
高品質な商品や接客が欲しい人は他のお店に行ってちょうだい」

この割り切りと宣言はお見事としか言いようがありません。
しかし、ダイソーはいつから「安くて良いもの」から「安いけど、たまには質が悪いもの」を提供するようになったのでしょうか。

確かに「高品質商品」や「接客」を追求し始めたら、きりがありません。

ダイソー渋谷店の宣言は経営姿勢としては正解です。
しかし、経営陣が思っていることをそのまま生活者や従業員に伝えることが、必ずしも良いわけではありません。真っ正直すぎるガラス張りはかえって弊害になることもある。

確かに、「高品質なものは他店で買ってくれ」というのは自信の現れであるという意見もあるでしょう。
しかし、一方で従業員に対する悪影響が出てきます。
つまり、

「ああ、そっか。高品質なものをわざわざこだわって作らなくてもいいんだ」

という誤解が担当者に目覚めてしまった時にどうするのでしょうか。

そう、実は「接客を求めるなら他店でどうぞ」宣言も、

「そっかぁ、客を邪険に扱っても良いんだ」

という勘違い組を生む元凶となり得ます。

「接客がない」のと「接客が悪い」のとでは、大きな違いがあります。
「接客がない」の典型例はスーパーを初めとする「セルフサービス店」です。
「接客が悪い」のは客を客と思わない姿勢です。実際、当の渋谷ダイソー&アオヤマのレジ係はとても褒められたものではありません。商品をほとんど投げつけるように扱います。

「おいおい、金を払ったら、俺の所有物だぜ。壊すなよ」

と言いたくなるような乱暴さです。

また、商品を棚に充填する従業員に「●●はどこにありますか?」と一度でも聞いてみたら良いです。たまに親切な従業員がいますが、大半の従業員から黙ったままアゴで指してくれた先にありがたく訪れると、あいうえお順に商品名が並び、どの階にあるかが書いてある貼り紙に導いてくれます。

「接客がない」はずが「悪い接客」に変化する。
接客ですらそうなのですから、「高品質な商品は他店で」宣言の行き着く先は見えてきそうです。

宣言というのは自分自身も規定するものです。
「頑張ろう」という気持ちがあるならそれを宣言します。
しかし「頑張っているけど、ダメなら許して」と自ら宣言するのと
「頑張る。だから追求の手は緩めない」とでは甘え方が違います。
「頑張っているけど」という前半があっても、どんどん自分の都合の良い方向に歪められてしまうのが世の常です。

もう一度言います。
きちんとした現場教育がない限り、経営者とは言って良いことと悪いことの区別をつけなければならないのです。

ドン・キホーテのお話

さて、一方のドン・キホーテです。
100円ショップと似たような客層が来ていることが分かります。

ドン・キホーテを知らない読者のために簡単に解説します。
ドン・キホーテは関東圏で展開している都市型ディスカウントストアです。
東京、神奈川、千葉、埼玉を中心に33店(うち1店は福岡市)のチェーン店です。
その最大の特徴は深夜営業です。24時間営業の新宿店を初め、午前4時以降まで営業している店は2/3の22店もあります。

取扱商品は実に多岐に渡ります。
食品、雑貨、洋服、下着、おもちゃ、バッグ、家電などなど、あらゆるジャンルの商品が所狭しと詰め込まれています。

業界的に言えば、ここは通常のチェーン展開とまったく違う品揃えや仕入れ管理体制を敷いています。
普通、チェーン店は効率を重視するため本部で品揃えを管理します。つまり、あるチェーン店で扱う商品は、原則としてすべての個店で扱います。

しかし、ドン・キホーテでは仕入れの全責任は売場の責任者に委ねられます。本部ではありません。
自分の担当売場にはすべて自分で責任を持つ徹底した分権制度の会社です。現代企業運営のセオリーをまったく無視したやり方で成長した、きわめて面白い流通企業です。

ドン・キホーテでは品揃えも個店によってまったく違うだけでなく、同じ商品で価格すら違うことは当たり前です。
例えば、新宿歌舞伎町店の店頭で人気があるチャイナ服(ロングサイズ)は5,800円ですが、渋谷店ではまったく同じものが7,800円です。なんと、2,000円、35%も価格が違うという「普通の常識なら『珍事』」が日常茶飯事です。
そして、そのチャイナ服は新宿大久保通り店では扱っていないのです。その代わり他店にはない服があるという具合です。

ドン・キホーテの現場に行くと、時間帯によって(土地柄のせいか新宿歌舞伎町店では)近くに勤めるホステスさんや男性従業員の姿がチラホラ見えます。また、大久保店ではアジアンタウンのど真ん中という立地のせいで、アジア系外国人らしき言葉が客から飛び出します。
しかし、それらは来店客の一部です。大半は、10代後半から大人までの若めの男女が店内にあふれています。

100円ショップが女子中高生から中年まで幅広く、マツモトキヨシなどのドラッグストアが女子中高生の比率がかなり多いのに対して、その中間的な客層がドン・キホーテの得意な層です。

話がずれまくりました。
100円ショップは100円ショップで将来的に問題を抱えています。盤石な業態ではないし、トップ企業のダイソーも危うい橋を渡っています。
しかし、過去の100円ショップは立派に成長してきましたし、彼らがスーパーから客を奪ってきたのは明白です。

ドン・キホーテは都市型ディスカウントとして人気があるのも確かです。ここも一般の相場から比べて安い商品が沢山並んでいます。

しかし、100円ショップはまだしも、ドンキホーテが人気があるのはちょっと不思議です。古くは新宿のサンペイストア、新橋のキムラヤなど、都市型ディスカウントストアは決して珍しい存在ではないからです。
なぜ、ドン・キホーテがこんなにもてはやされるのでしょうか。

古くからのファンやちょっと業界を知っている人はドン・キホーテが深夜営業であることを理由として指摘します。確かに、キムラヤもサンペイも夜になったら店を閉めてしまいますから、他店にない特徴です。
しかし、特徴は必ずしも有利であることとは違います。

現に、深夜営業がドン・キホーテの成功の秘訣であるならば、深夜が忙しく昼間や夕方は閑散としていなければなりません。しかし、昼や夕方にもドン・キホーテは客で一杯なのです。年末にでもなるとも、昼なのに客があふれて身動きが取れないほどです。
サンペイストアやキムラヤはここまで混雑していません。深夜営業がなくてもドン・キホーテは他の都市型ディスカウントストアより繁盛しているのです。
ドン・キホーテは深夜営業が成功の一つではあるものの、あくまでも「ワン・オブ・ゼム(いくつもある成功要因のひとつにすぎない)」なのです。

すると、「元気のない流通=スーパー」と「元気のある流通=100円ショップとドン・キホーテ」の違いは何なのでしょう。
「安いから」というのは簡単な答えですが、さっきお話ししたようにドン・キホーテは必ずしも競合のディスカウントストアと比べて安いわけではない。
それだけで説明しようとしても無理があります。

ドン・キホーテの成功理由である「深夜営業」は100円ショップには通用しない。共通点ではありません。

プチ・エンターテイメントという視点

「だって、楽しいじゃないですか」

ふと、目をくりくりして、当たり前のようにボソッと喋るひなちゃんの言葉に、私はびっくりしてしまいました。

あああ、なんで気がつかなかったんだろう!
その通りじゃないか。

あくまでも冷静を装い、彼女の発言を引き続き聞きます。

「うん?何が楽しいの?」
「だって、色んなものが見つかるんですよ。
お店をウロウロしているだけで、
『こんなものがあるんだぁ』
『えっ、これ何?』
『キャハハ、ばっかじゃないの?』
と感嘆詞が何回も出てくるんですよ。100回くらい」

「なんだかねぇ、宝探しをしてるみたいなんですよ。
宝探しの参加費は100円ポッキリ。
しかも買ったものが手元に残る。
こんなに安くて楽しい場所って、あまりないんですってば」

20歳になったばかりの彼女の独特の言い回しが新鮮ですが、言っていることはまっとうです。
ヒントが出てくれば検証は簡単です。

まず、100円ショップは小物がぎっしり詰まっている店内が特徴の一つです。元々、1つ100円という単価のため大きなサイズの商品はありません。勢い、小物が多くなる。また、坪面積あたりの売上げを上げようとするためには、悠長なディスプレイなんてしていられない。
棚にぎっしりと詰め込むだけ詰め込んだ方が良い。

その結果、ごちゃごちゃの店内ができあがります。
しかし、それを掘り起こしてみると意外なものが見つかってしまう。100円ショップの楽しさは確かにそこにあります。
見たことがない商品があったり、意外なものが100円だったり。
それが、彼女が言う「宝探し」なのでした。

ドン・キホーテの売場の作り方はもっとすさまじいものがあります。
天井高く積み上げられた商品の山は圧巻です。店内なんか見渡せる訳がない。天井からつり下がっているチャイナ服は絶対に客が自分では取れません。階段の壁一杯にまで、携帯ストラップやヘアピンなどがびっしりとぶら下がっています。

ほとんど、「商品を見せる気なんてないでしょ?」と聞きたくなるようなごちゃごちゃした店内です。
「見やすい売場」「買いやすい売場」なんてそもそも存在しない空間。それがドン・キホーテです。

こういう売場を見ていると中華系の雑貨ショップ「大中」を思い出します。渋谷に20年前からあるこの店は、一時期、女子高生御用達のお店でした。
ここでも、「見やすさ」なんてまったく考えられていない店内の陳列は、あたかも秋葉原のジャンクショップのような雑然とした店内なのです。

そして、もうひとつ思い出すのは、西武百貨店系列の食品コーナー「coo(クー)」と今はなき横浜そごうの食品売場の差です。
cooは15年前の当時、「情報発信基地」という古いプライドの元に作られた新しい提案の食品売場でした。

高級品がメインの売場には、「高級にふさわしい」とばかりに整然と並べられた高級食材が、ブティックのように空間をぜいたくに使って並べられていました。
…と表現するとかっこいいですが、現実はポツン、ポツンと漬け物や果物が並んでいるだけ。

一方のそごうの地下はカゴに無造作に投げ込まれた果物やタルから直接すくって計る漬け物。そして、客の目の前で、ピチピチ飛び跳ねるブリをかっさばいて、見る見るうちにパックに詰め込むパフォーマンス。

勝敗は明らかでした。
cooは売上げが悪く、すぐに普通の高級食品コーナーに改装され、そごうは大繁盛。

お客様のニーズ?

一方のスーパーはというと…
「お客様の利便を」という旗頭の元、店内スッキリ改革を実施した…

確かに目的の商品を探しやすくすることは、客の立場に立つことでもあります。しかし、一方で、さっと買ってさっと帰る顧客行動は売上げにつながらないのも事実です。
「滞店時間」「回遊性」という専門用語があるとおり、いかに長時間、客に店内に留まって欲しいかの研究をしていたはずです。

例えば、大抵のコンビニのおにぎり・弁当売場あるいは飲料売場は店内の奥にあります。
なぜなら、コンビニ利用者の多くはおにぎり・弁当や飲料を買う客だからです。
入り口近くに売場を置くと、すぐに入って目的のものを買ってすぐに出られてしまう。これでは売上げが上がらない。
そのため、奥に進んでもらうことで他の商品にも注目してもらう。
そのための導線誘導なのです。

とはいうものの、スーパーがこんなことを知らないはずがありません。
ではなぜ、こんなこと、つまり取り扱い商品点数を減らしたのか。
推測はできます。

客というのは商品が多すぎると購買意欲が削がれます。
あるインスタント・スープのメーカーが実験をしました。当時、彼らのラインナップは15種類もありました。メーカーの営業マンは15種類全部取り扱ってもらおうと頑張ります。

しかし、ある実験をしてみます。
3種類、7種類、15種類をそれぞれ並べた売場で、どれが一番売れたかを調べると…
実は7種類の売場が一番売上げが多いことが分かったのです。
不思議に思ったメーカー担当者が15種類を揃える売り場があるスーパーに行ってみました。

まず、客は商品に目を止めます。この比率は15種類の売場が一番高かったのでした。遠くからでもまとまったデザインの商品が面積を占めているのだから、目立つわけです。

しかし、商品棚にあるスープを見ていくつかを手に取りはするものの、多くの客はそのまま買わずに他の売り場に行ってしまうのです。
その理由は
「種類が多すぎて、訳が分からなくなった」からでした。
「面倒なので『買うのを止めた』」わけです。

私の著書「シンプルマーケティング」にもこんなアメリカン・ジョークを紹介しています。
アメリカでカウンターに座った男が飲み物を注文した。

「おい、コーラをくれ」
「コカコーラですか、ペプシコーラですか」
「コカコーラだ」
「缶にしますか、瓶にしますか」
「瓶がいいな」
「レギュラーにしますか、ダイエットコーラにしてますか」
「ええい、めんどくさい。セブンアップにしてくれ」

人間が同時に比較できる種類は11種類とも20種類とも言われています。
正確な数字は別にして、人間はある一定の数を超えると頭の中身がオーバーフローしてしまいます。

スープの場合は15種類と7種類の間にオーバーフロー・ポイントがありました。
日本航空のアイルという旅行パックはさまざまなオプションを組み合わせて選ぶ旅行プランが売り物でしたが、20種類以下に押さえるように設計したと言われます。それまでの彼らの現場経験から上限値があることが分かったのでしょう。

従って、スーバーが取り扱い商品点数を減らすことは、一見、顧客ニーズに合わせるように見えます。少なくとも、4万点もの商品の品揃えでは多すぎると判断したのでしょう。
しかし、結果的に4万点を2万5千点を減らしたのは減らしすぎであったということになります。

良く言えば、スーパーは客のニーズに応えようとして、結果的に重要な要素である滞店時間や回遊性という「企業側の論理を切り捨てようとした」。しかし、運悪く、もうひとつの顧客ニーズである「買い物の楽しさ」が取り扱い点数によって充足されていることに気がつかなかった。

効率というニーズ?

しかし、それを悪く解釈することもできます。
「効率」というキーワードです。
取り扱い点数を減らすことは大きなコスト削減になります。
扱い商品はスーパー本部のコンピュータにデータベースとして登録されます。この数を減らすことができればデータ入力のための人件費が安くなります。大型コンピュータのリース代金がその分安くなります。

年に2回の取り扱い商品の見直しをする時にも、4万点の売上げデータを見直し、取り扱いを継続するか中止するかを判断するよりも、2万5千点の方が楽です。そして、それは人件費の削減になります。

4万点の商品をスーパー保有の配荷センターで保管し在庫管理するよりも、2万5千点の方が手間がかからない。
スーパーの各個別店舗からの注文をまとめ、それぞれの店に配達する箱詰め作業は4万点の中からピックアップするより2万5千点からの方が、作業時間が早くなる。それはとどのつまり、人手(=人件費)が安くて済む。

「生活者の利便性」と「効率」。
そのどちらをスーパーが狙ったのかは分かりません。恐らく両方を同時に実現しようとしたのでしょう。しかし、効率によるメリットに目がくらみ、生活者の利便性の一方しか見えなくなってしまっていた。

その結果、「目的買いなら良いけれど、ショッピングの楽しみがなくなってしまった売場」にスーパーが成り下がってしまったという訳です。
そして、スーパーは取り扱い点数が減るだけでなく、新製品も意欲的に扱うことが少なくなってしまいました。
現在のスーパーは「いつもの『あれ』はあるから安心。でもそれ以外はいつもの『買わない、興味がない』ものしか置いていない」売場でもあります。

一方で、例えば雑貨店は「店に行ったら、何か新しい発見(商品の発見)があるかも知れない」と思えば、客は自然と足を運びます。そして、その時は何も買わなくても、そのうち買ってしまう。
その差は歴然です。
そして、100円ショップやドン・キホーテはその一方の典型という訳です。

その証拠に、スーパーの中でもジャスコ(現イオン・グループ)だけは元気です。対前年比の売上げは5.6%の「増加」です。
彼らは新しいジャンルの商品も意欲的に取り入れています。

例えばカット野菜。
すでに野菜が切られているので袋を開ければそのまま調理ができるものです。日本の普通のスーパーではカット野菜は野菜売場に数点並べてあるだけです。
しかし、ジャスコはカット野菜だけを集めてコーナーを作ってしまいました。1品あたりの平均売上げは、普通のスーパーの数倍だと言われます。

ジャスコのやり方が必ずしも「最良の方法」ではありません。
しかし、事実として彼らの生活者に対するアプローチは「買い物の第二の基本」(第一は「欲しいものが簡単に手に入ること」)である「プチ・エンターテイメント」を押さえているのは確かです。

従来の保守的なスーパーでは、売れるか売れないか分からないカット野菜などにスペースを割く冒険などできません。
「本当に売れない商品」と「工夫次第で、十分に売れる商品」の見極めがつかないし、それを実行する勇気もない。バイヤーの保身です。

その結果、「守りに入った商売」は面白味に欠け、客にもその覇気のなさが伝わります。それが「買い物の楽しさがない場所」になるのはあまりにも当然でした。

コンビニも昔と違い、守りに入りかけています。
しかし、コンビニはその売場面積の狭さから、「次々と新製品を導入する」ことで、擬似的に売り場面積を増やす効果を狙ってきました。その結果、副産物として「いつ行っても何か新しいものがある売場」を作ってきたことになるのです。
変形ではありますが「プチ・エンターテイメント」の一種であることは間違いありません。

ムダというニーズ?

「スーパーは本来ディズニーランドであるべきである」

というと、叱られてしまいます。
業種があまりにも違いすぎるので、イメージをしてもらえないからです。

しかし、ディズニーランドは無駄ばかりです。
チリ一つを拾うのもパフォーマンスだし、物販店に行っても商品を薦められることはない。18,000人とも言われるキャスト(バイト)に充分以上の教育をする。
しかし、その壮大な経営上の無駄が1つの世界を作り上げ、その夢の世界を私たちが楽しんでいます。

ドン・キホーテも無駄ばかりの売場に見えます。
顧客無視の陳列に見えます(一部、本当にそういう部分もありますが)。しかし、だからこそ、宝探しや「おっ、これは」という商品を発見してしまった時の「小さな自慢」を来店客は得ることができるのです。

通販のカタログも商品点数ばかりが多く、これも無駄ばかりです。
一時期、構造的な赤字になり、カタログを小分けにして制作費や郵送費を切りつめることで黒字になりました。
しかし、生活者は元々、3~5社のカタログをテーブルに開いて見比べることが多いので、1つ1つは薄くても生活者の目の前には膨大な商品が並べられているのです。
もちろん、好きな人にとって、通販での買い物は一種の「プチ・エンターテイメント」です。「カタログを見ているだけで楽しい」からです。

イトーヨーカ堂が発達させたPOSデータ管理(商品ごとの売上げ記録)は、「死に筋商品を排除して、売れるものしか並べない」売場づくりを作り上げることに成功しました。

しかし、その結果、数字を扱う優れた管理者は育成できたものの、「売れ筋を見つけてくる」「原石を売れ筋に育て上げる」能力が喪失してしまったようです。

ヨーカ堂が数年前にバイヤー(仕入れ担当者)制度を見直し、POS管理による死に筋商品の発見はアシスタントレベルに担当させ、バイヤーは「売れ筋を見つける」ための職種に変更しました。
そのこと自体は評価できますが、結果的に機能していないようです。
ヨーカ堂はまだまだ売上げが改善できていないのです。

「買い物の」楽しさ、「プチ・エンターテイメント」を失ったスーパー業界。
まだまだ苦難の道は続きそうです。

【使用画像】Denis Darzacq
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