■スマイルゼロ円。笑顔はいくらの価値か【マクドナルド】 

artc20010715今回は、「笑顔」をテーマに取り上げました。タイトルのマクドナルドは、記事のほんの一部です。
いつものように辛口ですが、全編、スマイルマークでお楽しみ下さい(^^)v (^^)v (^^)v (^^)v (^^)v


「笑顔は万価」

笑顔。
赤ちゃんの笑顔。恋人の笑顔。両親の笑顔。友人の笑顔。
心温まる一瞬です。

「笑顔は万価」と言ったのは誰だか知りませんが、これほど人の心を優しくしてくれる存在はそう滅多にあるものではありません。
ある経営者は

「コストもかからず、客の購買意欲を引き出し、自分も客もハッピーになれる。
それは笑顔だ」

といった有名な言葉があります(実は、後述のように笑顔は最もコストのかかるものになり果てていますが)。

実際、マクドナルドのメニューには、ビッグマック、フィレオフィッシュと並んで、

「スマイル 0円」

とあります。笑顔は無料。ちょっとしたエスプリ(とんち (笑))を感じます。

意外と知られていませんが、このスマイル・メニューはすべてのマクドナルドにあるわけではありません。選ばれた店だけに掲載を許された名誉ある称号なのです。
というのも、本部のスーパーバイザーが「この店は接客が良い」と評価した店だけがスマイル・メニューを表示できるからです。

さて、笑顔については様々な心理学の実験もされています。
例えば、同一のモデルの2種類の写真を被験者に見せます。
あるグループにはモデルがニコニコした表情の写真、別のグループには同じモデルがしかめっ面をしている写真を見せます。

笑顔の写真を見た人は、その人をこんな風に評価します。

優しい、親切、幸せ、明るい、聡明

一方の、しかめっ面の写真の場合はこうなります。

厳しい、意地悪、不幸、暗い、冷淡

余りにも当たり前の結果です。
でも、この当たり前さをきちんと数字で確認したことに大きな意味があります。
笑顔一つでその人の性格までもが判断されてしまうのは怖くもあるということなのですから。

美人、美男の仏頂面よりも、そうでない人の笑顔の方が魅力的に見えるものです。
だからという訳か、笑顔でごまかす職業も出現します。
詐欺の類がそれですが、考えようによっては赤ちゃんの笑顔も「職業」なのかも知れません。

いや、いい加減に言っているのではありません。赤ちゃんの笑顔には特別な機能があるという心理学の説もあるのです。

こういうことです。
母性本能は、従来「本能」という単語が付いているように、「女性が生まれ持ってきたもの(=本能)」との説が有力でした。
しかし、ある学者グループは母性は後天的なものであると主張しています。
それは「母性の互恵性」と呼ばれます。

彼らによると、母性というのはどうやって作られるのか。
動物の赤ちゃんはすべて不完全な形で世に出てきます。
バランスを崩すほどの大きすぎる目。ヨタヨタ、ヨチヨチしか歩けない未熟な四肢。
そして、笑顔。

笑顔自体は先に説明したように、人の心を和ませる役目を果たします。
成人が赤ちゃんの不完全な姿を見ると世話をしたくなる。これはある意味種の保存本能です。しかし、赤ちゃんは世話してもらうと笑顔を見せることがある。成人はその笑顔を見ると心が和む。

そうすると、その「ほっとした心理状態」をもう一度得たいがために、再び成人は赤ちゃんの世話をする。
その繰り返しが「母性」を育てるというわけです。
互恵性を「互いに」「恵む」と書くのは、そのキャッチボールがそれぞれの人間(母親と赤ちゃん)が、メリットを受けるからです。

ことの真偽は学説の方向性も決まっていないので、凡人の私には分かりませんが、昨今の母親の幼児虐待などの事件を見ていると、「母性は先天ではなく、後天」という考え方も何となくうなずけます。

好意の互恵性は人間のコミュニケーションの基本

「互恵性」の考え方は母性だけに適用されるものではありません。
元々、対人心理学で「好意の互恵性」の概念があり、母性はその理論を応用したものです。

アメリカでこんな実験をした学者がいました。
空港やバス停などの人が集まるところで、まずはいきなり

「あなたの名前は?出身地は?」

などと個人的な質問をします。
当然、ほとんどの人は答えてくれません。

今度は

●まず自分の自己紹介をします。
●次に相手に対して個人的な質問をします。

すると、いきなり質問をするよりも、多くの人が個人情報を教えてくれたのです。

つまり、「好意の互恵性」とは、

「まずは相手に期待する行動と同じ行動を自分が取ること」

がスタートだということです。
それによって、「好意」がキャッチボールのように行き来する。

その応用編が、一部のねるとんパーティが実施しているシステムです。
フリータイムに入る前に、中間的に気に入った相手をカードに記入します。それを、当人に知らせるのです。つまり、自分を気に入っているのは誰かということが一目で分かる。そうすると、自分の名前を記入してくれた相手が気になってしまうという算段です。

妥協もあるでしょうが、このシステムだとカップル成立数が2倍以上に跳ね上がるのだそうです。

素晴らしい現場の接客と笑顔

ことほどさように、笑顔というのは色々な話題を書くことができるほど、奥が深いものです。

「赤ちゃんの笑顔は職業」

という極端な物言いは別として、商売やビジネスでも笑顔は基本です。
実際、この半年で私は3件、素晴らしいと思える接客に出会いました。
1つは西武百貨店、もうひとつはビックカメラ(家電量販店)で2件です。

接客というのは、商品知識やこちらの質問に対するきちんとした反応が大きな評価ポイントですが、そこに自然な笑顔があったことは言うまでもありません。卑屈でもなく、媚びを売るのでもない自然な微笑みです。

両方ともに「素晴らしい接客で、気持ちの良い買い物をさせていただきました。ありがとう」とお礼を言ったほどです。
西武百貨店の担当者からは「その後、いかがですかハガキ」が数日後に届きました。その時にはまだ商品が届いていなかったのはシャレというものですが(笑)

ちなみに、西武で購入したのはスーツです。10万円超の買い物なり。

「森さん、そんなに高い買い物なら笑顔は当然じゃないですか?
それに、ハガキなんてよく来ますよ」

とスタッフの女性。

いえいえ、女性ものの洋服の接客と異なり、百貨店の紳士物スーツ売場なんてそんなもんです。今年、私は百貨店でスーツを4着買いましたが、笑顔に遭遇したのは西武と東急百貨店の売場だけでした。渋谷の東急の別のスーツ売場では、苦虫を噛みつぶしたような女性店員に1時間も対応させられたので疲れてしまったくらいです。
そして、ハガキが来たのは西武だけ。

「森さん、それって単にだまされているだけじゃないんですか?
『この客はまた来るだろう』と思われているからハガキを出す。
他の売場は『こんな客はもう来ない』と思われているだけ…ってことありませんかね」

あはは。それが「だます」ということなら、私は幾らでもだまされたいものです。
「品質の低いものを高く売りつける」なら問題ですが、多少値段が高くても、品質と価格のバランスが大きく変わらないなら、気持ちの良いところで買いたいですもの。

「だって、ブティックなんかで『お似合いですよ』とか適当なことを言って、売れ残りを売りつけたりするじゃないですか」

それならそれでいいじゃないですか。自分が納得して買ったんだから、人のせいにするつもりは私にはありません。また売れ残りだろうが売れ筋だろうが、自分が気に入った服は服です。他の人たちの志向や趣味は関係ありません。

話がずれました。
笑顔は商売の基本ということでしたよね。
確かに最近、お店やレストランのアンケート用紙を見ていると、笑顔は項目として必ず入っています。

●恵比寿のローソン(過去記事に登場したお店です。ここでこんなアンケートを見たのは初めてです)

▼「挨拶をどう感じたか」
▼「全員が挨拶していたか」
▼「レジで待たされていると感じたか」
に続き、

▼「笑顔で対応していたか」

を聞いています。

その後、
▼「レシートを渡したか」
▼「身だしなみは清潔だったか」
の全7問構成です。

●低価格ステーキ屋(ふらんす亭)

「誰と来たか」などの基本項目に続き、
▼「味」     ▼「価格」    ▼「ボリューム」
▼「品揃え」   ▼「提供時間」  ▼「料理の温度」
▼「雰囲気」   ▼「従業員の態度」▼「従業員の言葉づかい」
▼「店の活気」  ▼「店の清潔さ」
と並んで、

▼「従業員の笑顔」

を「優良」から「悪い」までの5段階で聞いています。

●牛丼の松屋 & ビックカメラ

一方で、松屋の場合、
「味」「量」「値段」「清掃」「接客」「食事が提供された時間」
はあっても、「笑顔」がありません。
松屋では笑顔は軽視していることがよく分かります。

先ほど登場した家電量販店のビックカメラも同じく笑顔軽視派。
レジ前には「笑顔で接します」とポスターが貼ってあるのに、アンケートハガキの回答選択肢には「笑顔」の「え」の字もありません。「レジの接客」という項目があるだけ。

商品の品質まで変えてしまう笑顔のメカニズム

でも、本当に実体はそうなのでしょうか。
半年で3件、素晴らしい接客に出会いましたが、裏を返せば3件しかない。
笑顔は商売の…
…基本のはずです。
…基本だったら嬉しいけど。
…基本…じゃなくなったかなぁ。

だって、改めて見ると、小売店というか飲食業というか、私たち生活者が直接触れる「商売の現場」から笑顔がどんどんなくなっている気がするのです。
例えば、笑顔の話をしていたら、ある友人はこんなことを言っていました。

「この前、恵比寿のびっくり寿司に昼食に行ったんですよ。昼食時間をずらしたので、14時くらいかしら。店内はかなり空いていました。
その時に限ってウェイトレスが気になってしまったんです。
その発端が『びっくり丼って何ですか?』とウエイトレスに聞いたところ、『海鮮丼です』と背中で声がしたと思ったら、足も止めないでそのまま向こうに行ってしまったからです。
忙しいのかなと思ったら、そうではありませんでした。
店内はガラ空きでした。彼女を目で追うと、直前に迫った仕事はなく、テーブルをセットしているだけでした。ふと店内を見渡すと、7人のウェイトレスたちはみんな仏頂面でモタモタとテーブルセットしている。
それに気が付いた途端、今、食べている寿司が急にまずくなってきました。
従業員に対して腹が立った訳ではありません。でも、まずくなった。砂を噛むような味になってきたんです。
私はもうあの店にいかないでしょうね」

彼の気持ちも分からないではありません。
食事というのは、一緒にいる人たち、いや、他の客が楽しそうにしていると、おいしく感じるけど、黙っていたり機嫌が悪そうな雰囲気の同伴者と食べてもおいしくない。

食事だけに限りません。
東京ディズニーランドがなぜ楽しいか。
もちろん、アトラクションが楽しいというせいもあります。
でもキャスト(園内のアルバイトスタッフ)が、わざとらしいくらいにニコニコしていることから来る楽しさの演出も無視できません。

その証拠に、例えば豊島園などの従来型の遊園地の一部のアトラクションは、単独で見ればディズニーランドといい勝負をするくらいに楽しいのに、切符のもぎりや客を誘導する係員がつまらなそうにしているのに気が付いた途端、いや、その表情が無意識に視界に入ると、楽しさが増幅されない。

二重拘束説という心理学理論があります。
母親が無表情のまま「かわいい子だから、こっちにいらっしゃい」と言うと、小さい子供は戸惑ってどうして良いか分からなくなってしまうというものです。
つまり、ことばがいくらプラスの性質を持ったものでも、表情がマイナスのものであれば、心理的葛藤が生じて動けなくなってしまうのです。

アトラクションがいくら楽しそうでも、そこに働く従業員がつまらなそうなら、客としての私たちは軽い二重拘束状態に陥るというわけです。

楽しさの増幅効果を狙ったのは、前出のディズニーランドだけではありません。
テレビ番組で観客の笑い声の効果音を流すのもその効果を狙ったものですし、コンサート会場などでファンクラブ会員をステージ前に配置するのも、その熱気をミュージシャンや会場全体に波及させるためです。

笑顔調査をやってみました

話を戻します。
さて、笑顔が実際に売り上げに結びついてもおかしくないと考えていたある日、2001年1月21日の朝日新聞にこんな記事がありました。
企業向けの「笑顔研修」で、その講習を受けた売り場の売り上げが対前年比61%増になった例があるというのです。

研修は笑顔の作り方を教えるだけ。
たったそれだけのことで売り上げがあがってしまう。
上で書いた心理学の研究結果を考えると、十分にあり得る話です。

かといって、さすがにメルマガの記事のために受講する訳にも行きません。
でも、本当に笑顔がお店から消えたのか、残っているとすれば、どんな場所なのかは確認したくなりました。

そこで、「笑顔調査」なるものを実施することにしました。
調査方法は簡単です。
接客の際に笑顔があるかどうかをチェックするだけです。
照れやニヤリではなく、笑顔です。

残念ながら、判定は調査に協力してくれる人たちの個人的感覚によって左右されてしまいます。
ある人が「笑顔」だと思ったけど、同じ表情を見て「笑顔ではない」と判断する。
しかし、それは仕方がないことです。

逆に言えば、「私は笑顔で接しています」と従業員が思っていたとしても、客がそう感じなければ意味がないのですから、調査員の感覚に任せるのが一番自然なことでもあります。

ただ、コンビニとキャバクラを一緒にするのも乱暴なので、いくつかの業種に分割してみました。が、「スマイル0円」と大見得を切っているマクドナルドだけは単体で調査をしています。

なお、家電量販店は「客単価-中」ランクに入れました。実際の買い物金額は数十万円にもなる場所ですが、安売りをしているので、ランク的にはここが適当でしょう。
(いや、数10万円の買い物をする場所として考えると、彼らの接客や対応は腹が立って仕方がないので、精神衛生上ここに入れざるを得なかったのが正解です(笑))

【日常部門 - 客単価小】
●コンビニ
●低価格コーヒー店
●ファーストフード(マクドナルド除く)
●マクドナルド
【日常部門 - 客単価中】
●スーパー
●ドラッグストア(マツモトキヨシ等)
●書店
●家電量販店
●ファミレス
●低価格レストラン(客単価3,000円以下)
●居酒屋
●サービス業一般(マッサージ、美容院等)
【高級部門 - 客単価大】
●中高価格レストラン(客単価4,000円以上)
●百貨店
●洋服専門店(ファッション)
●専門店(雑貨等)
●キャバクラ

さっそく、結果をご覧下さい。
部門別に見るより、笑顔率が低い順番に並べると、大変面白い傾向が見えてきます。

【平均以下グループ】

項目 笑顔率(%) 客単価 企業規模
コンビニ 14.6 大企業
マクドナルド 16.7 大企業
ファミレス 16.7 大企業
スーパー 19.0 大企業
家電量販店 21.4 大企業
ドラッグストア 37.9 大企業
書店 38.9 大企業
低価格コーヒー店 39.3 大企業
百貨店 46.2 大企業

【平均以上グループ】

項目 笑顔率(%) 客単価 企業規模
ファーストフード(マクドナルド除く) 62.5 大企業
洋服専門店 66.7 中小企業
専門店 68.8 中小企業
低価格レストラン 73.3 中小企業
居酒屋 76.0 中小企業
中高価格レストラン 76.2 中小企業
マッサージ、美容院等 92.6 中小企業
キャバクラ 96.0 中小企業
全平均 50.7

企業の大きさと笑顔の冷たい関係

まず、全平均では50%。つまり、私たちは2回に1回の買い物でしか笑顔を見ることができないという事実です。これを高いと見るか、低いと見るかは読者の皆さんの判断に委ねます。できるだけ広く業種を選んだつもりですが、全業種を網羅しているわけではないからです。

それよりも、気になるのがマクドナルドの笑顔率の低さです。たった16%。
「スマイル0円」「平日笑顔」などと大見得を切っているお店の笑顔率とは到底思えない結果です。
できないことなら書かなければ良いのです。このままでは却って、信頼をなくしてしまいます。だって、自分で宣言したことすらできない企業が、一々私達に言わないけど重要なことができるなんて思えないからです。

こうなると、「マクドナルドは牛肉100%」や「従業員はいつも手を洗って清潔にしています」なんて宣言すら「ホントかよ、オイ」と突っ込みたくもなります。
かつての噂の「猫の肉を使っている」や「トイレから出ても手を洗わないまま、半額バーガーを作っている」と思われても仕方がない結果です。

又聞きですが、マクドナルド本部社員も気が付いているようです。

「この店はいいんですよ。
従業員もちゃんと笑顔で接している珍しい店です」

とある地方都市のマックを紹介するときに思わず言ってしまった言葉だとか。

「おごれるもの、久しからず」

ふと、頭をよぎった言葉です。
いえ、特に意味なんてありません。ふと、思っただけですから…独り言です。

一方で、他のファーストフード店は意外な高率となりました。なんと63%。
後述しますが、大企業グループで唯一平均以上の笑顔率を獲得しているのです。
実は、この数字を見て不思議に思った私は、この結果とは別に20店ほど回ってみましたが、その時も50%は軽くクリアしてしまったのです。イメージとはげに恐ろしきものなりけりです。

コンビニ、ファミレス、スーパーの低い数字はこんなものでしょう。
というか、私たちが最も「笑顔を期待していない」業種です。これ以外に上げるとすれば、立ち食いそば屋のおっさんくらい^^

それよりも、百貨店の46%というのは一体何なのでしょう。見事に平均以下。
客単価の高い業種で唯一平均以下なのです。

「え?だって、百貨店は高級な販売店でしょ。
わざとらしいくらいにていねいな接客と笑顔はいつもあると思っていたけど」

と驚きのあなたに、あるお話をしましょう。

百貨店は連続売り上げダウンであえいでいます。
新宿の京王百貨店に続き、三越が再び勢いを取り戻していますが、彼らの増収のきっかけが、店舗内の接客アップなのです。具体的には、内部の管理部門の人数を減らし、現場の販売員の数を増やしたのです。もちろん、接客に伴う商品知識などの充実も同時に図っているのです。

笑顔率と業績がリンクしているのかどうかはこれだけでは断定できませんが、まったく関係ないとは思えません。
ただ、少なくとも私たちは他の百貨店の笑顔や丁寧な接客は過去の遺産で、単なるイメージしか残っていないからこそ、三越が業績を回復したと見ることは可能です。

ちなみに、百貨店は「ひどい」接客がないのも、「昔の良い接客イメージが残っている」理由でもあります。昨日、ビックカメラ池袋本店では私の目の前でレシートを投げる女性店員がいました。こういう極端なケースがあると、せっかくの笑顔店員のイメージも吹っ飛んでしまうものです。

次に一般的な傾向を見てみましょう。

項目 笑顔率
全平均 50.7
大企業平均 31.3
中小企業平均 78.5
客単価-大 70.8
客単価-中 47.0
客単価-小 33.3

想像通り、商品単価が高くなると笑顔率が上がります。
客単価の高い商品は接客時間が長いことも一因です。
しかし、よくよく見ると、客単価が大きい業種は確かに笑顔率が高いものの、客単価の小さい業種と中くらいの業種では大きな差がないことが分かります。

それ以上に、大企業(実際の規模は別にして、有名企業ともいうべき)と中小企業の差の方が圧倒的に開いていることがよく分かります。

(下のグラフを見てください。もし、客単価できれいに別れているなら、点線のような角度でのグラフでなければならないのに、実際のデータは客単価が大きいところは「より笑顔率が高い」結果になっています。もっとも、この客単価の金額の差の定義をきっちりしているわけではないので、厳密なものではありませんが)

「なぁんだ」とお思いのあなた。
そう、正解です。
要するに、大企業は手を抜いているというわけです。
顧客満足度調査?接客向上運動?
ちゃんちゃらおかしくって、へそが茶を沸かします。

彼らは、「大企業」「有名」「プライド」という名の下に、顧客を邪険に扱っているだけなのです。私たちはそれを「大企業だから安心」「大企業だから信頼できる」「大企業だから一流」の名の下に、本質を判断することを放棄しているだけです。

もとい。
大企業の本社は賢いのです。
だから、顧客満足度調査や接客向上運動をやっている。だって、「できない」から目標にする訳であって、初めから到達していれば、わざわざスローガンになどしないのは人の常だからです。
彼らは、自社が顧客を小バカにしていることを良く知っているのです。
ただ、企業が大きいので動けないだけです。

でも、私たち生活者にとってはそんなことはどうでも良い話です。企業内部の事情なんて知りませんし、知る必要もない。
気持ちの良い買い物ができれば、おいしく食事をさせてくれればそれで良い。

結局、現場の工夫ができない接客ではなく、本部が決定できる「値下げ」という「自分の価値を下げて」でしか売り上げを上げることができない構造に陥っているといったら、言い過ぎでしょうか。

生活者がものを買わなくなったのは「高いから」だけではないことに、早く気が付く必要があるのです。

阪本啓一さんのフリーターイズムを憂うに賛同

阪本啓一さんのメルマガ「Surfin」で、「フリーターイズムを憂う」のテーマで記事が書かれていました。まったく同感です。
彼の趣旨は「フリーターやバイト」という身分が良くないといっているのではなく、「責任感や当事者意識がないこと」が批判されるべきだというものです。

私が彼と食事をしている時に言った次のことばも象徴的に「フリーターイズム」を批判したものです。

「昔は雑誌などで素人の女性が紹介されていた時も、堂々と『ウェイトレス』と書いてあった。今の『デパガ』と同じ扱い。
でも、今はウェイトレスという『職種』に誇りを持つ人がいなくなってしまった」

そんな中、ある読者の方からこんな感想をいただきました(要約しています)。

「私は23才でコンビニ店長をしています。
バイトの質が下がったのは私も実感します。
例えば『お客さんとは笑顔で接しなさい』と指導すると、こんな答えが返って来るんです。
『私が楽しくないのに、なぜ笑わなければならないんですか?』
こんな連中を相手にしているとどう答えて良いのか、悩んでしまいます」

実はこの記事を書こうと思ったのは、この方のコメントがきっかけでした。
そして、冒頭にあげた「笑顔はコストがかからず…」は、現代日本ではまったく正しくないことが良く分かります。
こんな連中を相手にしているのです。実は、笑顔は最もコストがかかるサービスの1つに成り下がっているのが現実なのです。

「笑顔の互恵性」は、「価格の互恵性」

結局、笑顔を気にするかしないかは、その人が「食べること」や「買い物をすること」をどう位置づけでいるかによるのです。
例えば、食べ物の位置づけには次の種類があります。

●体力の維持(単なるエネルギーの補充行為)
●親しい人あるいは親しくなりたい人との共犯幻想(コミュニケーション)
●娯楽(エンターテイメント)の一種
●自己の満足(純粋に食べ物だけを楽しむ。グルメ一本槍)

食べることを「体力の維持」「自己の満足」としてしか考えていない場合は、笑顔があろうがなかろうが関係ありません。

例えば「体力の維持」では、エネルギー源が体内に入りさえすればよいので、食べる行為は一瞬で良いからです。その時には笑顔も内装も不必要です。面倒くさくないように食べ物を運んできてくれる人がいて、暑さ寒さがしのげて雨風にさらされない防壁さえあれば良いのです。
サラリーマンのための昼食の立ち食いそば屋がその典型です。

しかし、コミュニケーションやエンターテイメントとして食を楽しむ一般的な多数の人々にとっては、そうはいきません。
食は五感で楽しむと言われています。
味覚だけではなく、視覚、聴覚、嗅覚、触覚がフルに発揮されるもの。それが「食」です。

びっくり寿司の仏頂面のウェイトレスが視界に入った友人が、「飯がまずくなる」気分になったことを思い出して下さい。これは、端的に「食」が視覚に影響されることを表しています。
普通の食器に移し替えればコンビニ弁当やスーパーの総菜もおいしく感じられる経験があれば、おわかりでしょう。

笑顔が大事なのは「食」だけではありません。
物販だって、「欲しいものを手に入れる」だけなら通販で良い。でも、「選ぶことの楽しさ」が、ショッピングの要素に入った途端に笑顔は重要な要素になります。

あるいは、私のスーツのように「最終的にものが手に入れば良い」のだが、選ぶ時間を割かなければならない場合は同じことです。スーツというのは選ぶ時間が5分だったとしても、サイズ合わせや伝票記入、引き取り手段の打ち合わせなどに最低でも30分~40分もかかってしまいます。1時間近くも従業員と顔を合わせなければならない制限下において、「針のむしろ」か「心地よい雰囲気」かは大きな違いとなって現れてきます。

ファッションに興味のない私にとって、スーツを買いに行くのは苦痛以外の何者でもありません。元々、興味がないので選ぶ時間はせいぜい10分なのに、百貨店といえど、あの仏頂面の店員と延々とつき合わなければならないからです。

そう。
冒頭で「母性の互恵性」の話をしました。
同じことなのです。
「笑顔の互恵性」と私は呼んでいます。
お客さんから
「この店で買い物をして、食事をして良かったな」といった「満足の笑顔」を得たいなら、自分から笑顔を見せなければならないのです。
そんな商売の基本ができていないのが、今回の調査対象のお店で笑顔率が低かったところなのです。

無計画な値下げという下策しか打てない企業たちよ、さらば

ここまで読んで頂いてまだ「笑顔ってそんなにないものかな」とお思いのあなた。
実は、非常に興味深いコメントが調査をしてくれたスタッフたちから上がってきていました。

「この調査を始める前は、なぜ森さんが『笑顔がない』と言っているのかが分かりませんでした。
でも、調査を進めていて、私が普段買い物をしている時は、店員や従業員の顔を見ていなかったことに気が付いたんです。

それがなぜなのか、今は分かります。
どうせ、店員の顔を見たってブスっとしている。
無意識に、そんな相手に対していやな気分になりたくないから、顔を見なくなってしまったんですね。
自己防衛の一種です」

なんと、殺伐とした悲しい話ではないですか。
客にそこまでやらせていることに気が付かず、

「どうせ客は笑顔なんか求めていやしない」

と決めつけ、

「自分が楽しくないのだから、笑顔なんて作る必要がない」

というバイトや社員たちをはびこらせる。

不況だ?
ものを買ってくれない?
冗談でしょ?
ものを買おうという生活者の意欲を長年の間にそぎ取ってしまったのは、当の企業たちではないですか。

因果は巡る、当然の報い、You deserve it.
ものを売るのに、考えなしに価格を下げるだけの下策しか打てない企業たちよ、さらば、です。

後日談です。
私の後輩がこの記事を読んで一言。

「実は、もしかしたら、私がキャバクラに行くのは、殺伐とした買い物という行為の日常生活の中で、笑顔を見たいからなのかも知れません。
そう考えると、私にとっての笑顔の値段は1万円以上」

新説です!
買い物や食事の競合がキャバクラだったなんて (笑)
…でも、あながち暴論とは言い切れないところに、マーケティング・ヒントが隠されている。キャバクラには滅多に行かない私も、そんな気がしてならないのです。

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