前口上
今回は、ちょっとおもしろい試みをしてみました。
先日、私の恋人である(笑)パーミション・マーケティングの阪本啓一さんがナビゲーターをつとめる、インターネット・マガジン(インプレス)の対談連載にゲストとして呼んで頂きました(2001年4月27日発売号)。
テーマは今回のタイトルと同じ「eコマースにモノ申す」。2人して「愛のムチ (c) 坂本啓一」をビシビシと振り回しました。
そこで、同じテーマをメルマガで料理するとどうなるかと企画したのが今回の記事です。それに賛同して頂いた阪本さんから、彼の人気メルマガ「電脳市場本舗~Marketing Surfin’ 2001 ~」の最新号(wave # 162号)で、「beyond e(eの先にあるもの)」と題した企画連動記事が発行される運びとなりました(阪本さん、感謝!)。
おまけに、彼からの提案で、2つのメルマガの発行日を同時にするという、更なる工夫も実現。
本編だけでも楽しめるように執筆しましたが、対談(「インターネットマガジン6月号『パーミション・トーク』」)と2つのメルマガを全て読み比べ、表現形態や執筆者の視点の違いを楽しんで頂ければ楽しさ倍増です。
(特に、「電脳市場本舗」の最新号では、最後の結論が大感動もの!!)
電脳市場本舗のお申し込みはこちらでどうぞ。私も3年前からの熱烈な愛読者です。
本当は顔バレを避けたかったので、4/11に発売された週刊宝島のインタビュー記事もみなさんに紹介しなかったくらいです。インターネットマガジンでこんなに写真枚数が出てしまうと、もうヤケです。ええい。どうとでもなれぇい(笑)
【注】阪本さんの記事はこちらで読めます。(残念ですが、現在リンク切れです)
米ヤフーの凋落
2001年4月13日付けの朝日新聞に、こんな見出しの記事が掲載されていました。
記事はこう続けています。
ネットバブルがはじけた今、ヤフーだけは安泰だと思っていた人たちには衝撃的なニュースです。
私は常々こう言っていました。
しかし、ヤフーの売り上げ急減はその条件すらも危うくなる兆候を示しています。
それだけではありません。
ヤフーは今度、「ネットで儲けようなどとはまったく思っていない」人たち、つまり私たち一般生活者を相手に商売をしようとしています。
本当にうまくいくのでしょうか。
他人事ながら、ちょっと心配です。
インターネット上でのビジネスには、様々なメリットがあります。
しかし、今ではご存じのように、インターネットで儲けるなんて並大抵のことではないと、多数の人たちが気が付き始めています。
…いや、それはそれで真実ではありません。
未だに、私にインターネット通販やサービスの事業展開の相談が来るのですから。
そして、彼らは一様に「インターネットでのビジネスはまだ行ける」という確信を持ってやってきます。
「今のうちにノウハウを蓄積しないといけない」というセリフも昔から変わっていません。
でも、それは一部でしょ?
大企業なんかはうまく行っているし、私は彼らのようなドジは踏みませんよ」
皆さん自信満々の面もちなのです。
こういう人たちを見ていると、あるテレビ番組の光景を思い出します。
それはエイズ患者率75%というタイの郊外にある娼婦街で、日本人にインタビューをした場面でした。
「私はかかりませんよ」
「なぜ、そう言えるのですか?」
「今までかからなかったからです」
「…」
e-business is a business
「自分だけは…」
自分を特殊な存在だと思いたがる気持ちは分からないではありません。心理学でいうところの「アイデンティティの確立」です。
しかし、そのことがシャレになる場合とそうでない場合があります。
特に、「理由なき自信」は周囲に及ぼす被害も大きくなりがちです。
ましてや、ビジネスとなると…
個人レベルでSOHOのようにちまちまとやっているうちは、被害も大したことはありません。1人の事業が失敗したところで、借金はせいぜい2,000~3,000万円程度です。
死ぬ気になって働けば返済できない金額ではありません。
しかし、ベンチャーキャピタルという名の巨額の金が飛び跳ねるとそうはいかなくなります。億単位の金額になることも多いからです。
いや、それ以上に「そんなに簡単に金が入るなら、俺もやってみよう」という気楽な輩が増えてきます。
伝染病のウィルスのように。
その結果、たった30人の会社に30億円もの金が集まる。
でも、社長は実務経験のない元コンサルタント。
「これだけ資本金があるのだから、売り上げがなくても3年間はメシが食える」
とばかり、広告費に10億円単位の金をつぎ込む。
ところが、フタをあけてみると年間売り上げはたったの1~2億円。
「3年間食える」はずなのに1年後にはリストラの嵐。一時期、100人にまで膨れ上がった規模を一気に20人にまで縮小。
こんな悲劇が後を絶ちませんでした。
とはいえ、去年のようにベンチャー・キャピタルも気楽ではありませんから、金をつぎ込むことも少なくなりました。いや、下手をするときちんと営業している企業からも資金を引き上げ始めてしまい、立ち行かなくなってしまう状態に追い込んでしまっています。
こうなったら、ベンチャー企業もベンチャー・キャピタルも同じ穴のムジナです。
どちらも、大きく欠けていたものがあったのですから。
それはこう呼ばれます。
「ビジネスセンス」
「e-business is a business」という言葉があります。
要するに「eビジネスだって、ビジネスのひとつなんだぜ」という意味です。
当たり前のことをもったいぶって言い換えているように見えます。
でも、従来のeコマースの世界では「当たり前」が「当たり前でなかった」からこそ、必要な言葉なのです。
私の恋人(笑)の阪本啓一さんも
と言い切っています。
パーミション・マーケティングで有名にこそなりましたが、彼は現実世界での伝統的なマーケティングの分野でも、そんじょそこらのコンサルタントなど足下にも及ばない実力を持っているからこそ、言えるセリフです。
インターネット・マーケティングにしがみつかなくてもメシが食える人の言葉なのです。
それでは、今までのeコマースは一体何だったのか?
後半で紹介するように、一部、例外はあります。
でも、キツイ言い方でごめんなさい。私にはこの言葉しか浮かびませんでした。
ラーメン屋とeコマースの関連性
みんな一生懸命やっているんですから」
後輩が口を挟んできました。
「徹夜を続けたりしているじゃないですか」
「どれくらい?」
「え?徹夜なんてそんなに頻繁にできないですよ」
「え?作成技術を持っている人ばかりじゃないですよ」
「文章を書いたり、写真を貼り付けるだけでできるソフトがあるじゃない?素人でも簡単にできる」
「そんな素人臭いものより、プロがやった方が綺麗じゃないですか」
「馬鹿なこと言わないで下さいよ、森さん。
外部のデザイナーに責任を押しつけることなんかできないです」
「担当者がいますよ。それ専用の。
だって1日何十件ものメールに返信するなんて大変じゃないですか。
コンタクトセンターという存在を知らないんですか?」
社長は何をやっているの?」
「やることはたくさんありますよ、多分。
資金集めとか、対外折衝だとか、ベンチャーキャピタルに対して企画書や事業計画を作ったり」
「接待とお絵かきかい?」
「それもあるでしょうけど…」
「じゃあ、やっぱり『大人のおままごと』だね。特に社長は。そして従業員は犠牲者という訳だ」
「え?な、何でそうなるの?」
ラーメン屋を想像して下さい。
大変おいしくて、評判の店です。
客が増えすぎて小さな軒下では間に合わないので、ベンチを用意して夜空で食べてもらったくらい小さな店でした。
さて、このラーメン屋が支店を出しました。息子が店長です。
でも、支店ができてから味が落ちてしまった気がします。
特に、支店の味は本店とはまったく違う気がする。
そんな経験を持つ読者の方も多いと思います。
ある商店があります。
オーナーの親父さんが店に出ている時は従業員たちもマメに働きますが、彼がいないと動きが緩慢な気がします。さぼっているという訳ではないのですが、こちらの気持ちを先回りして行動するという感じがしない。いつもよりモタモタした印象があります。
心なしか、オーナーがいるときの方が客が多い印象がある。
こんな経験をした読者の方も多いと思います。
理屈でも何でもありません。
小さな会社やお店で社長が現場のことを知らず、動かずして、成功するはずはありません。
オーナーの熱意がない会社やお店が成功する訳がありません。
何とか成功させようとするからこそ、色々な工夫をします。接客にも熱が入ります。
「一生懸命」だからこそ、でもお金がないからこそ、全部ひととおり自分がこなさなくてはいけません。
自分が身体と頭で覚えたひとつひとつの商売のコツやノウハウがあるからこそ、従業員を雇い、会社が大きくなっても、その熱意やコツを伝播することができます。
商売の基本とはそういうことです。
徹夜をすれば「一生懸命」なんて単純なことではありません。
それならば、徹夜続きのハードワークで名高い広告業界や調査業界、そしてソフトウェア業界に勤める人たちは皆、独立して大企業にならないければいけない。
ノウハウもないのに人に任せて仕事をしようなどという発想そのものが「おままごと」です。
「プロだから自分よりも上手にできる」なんていうのは単なる言い訳です。
現在、創業者が大企業にした企業の大半が、独立した直後は自分で何でもかんでもこなさなければならなかったのです。外部のプロを使ったり、人に任せたりするのはもっともっと後の話です。
たった1人の情熱が組織を動かす
別な後輩。
「ビジネスなんて流行りすたりでやるものじゃない。
『やるからには成功する』
それしかないんだよ。
だって、失敗したら後には何も残らない。
いや、借金だけが肩に重くのし掛かるだけ。
その構図は古いビジネスでも新しいビジネスでも同じだよ」
「だって、金が集まるんだから、そんなことしなくていいじゃないですか」
「それで、成功したのかね。金が集まったドットコム企業は?」
「うっ…」
別な後輩です。
「従来の企業がネット販売に乗り込むことだってあります。
そしてそれはあくまでもチームや連携プレーが大事じゃないですか。
個人プレーは組織では通用しませんよ」
それは「企業の『表向きの』論理」です。それで、大企業は成功したのか?
ドットコム部門の売り上げが、全社の売り上げの1~2%程度の構成比で「うまく行っている」と言えるのか?単独収支で黒字になっているのか?
新規事業というのは、大企業がやろうが、担当者の血尿と汗がなければ成功しません。
資本やノウハウや人材が豊富にあったとしても、たった1人の情熱が組織を動かすのです。結局、個人商店と基本はまったく同じです。
小さく個人商店のままで「成功」というんですか?
事業を始めるからには会社の売り上げを伸ばして大きくする。
それが「成功」だと思うのですが」
「成功」の第1の定義は「利益を出すこと」。
企業規模の大きさは関係ありません。細かい会計学の話はさておき、原則はあくまでも、大きくても利益がなければ倒産する。
小さくても利益が出ていれば企業は存続する。しかも、大きくするチャンスはある。倒産してしまえば会社を大きくするチャンスすらない。当たり前のことです。なのに、なぜ「大きくすること」が成功の基準になるのか。私には理解できません。
売り上げを拡大して規模を追いかけるのは、「利益をきちんと出せる体質になってから」です。
土台を作らずして2階を作ったって、ちょっとした地震で家は崩れてしまうものです。
「早い者勝ち」の原則はeコマースに当てはまるか
だから、現状は赤字でも意味があるし、『成功』という定義だって変わってくる」
それは一理あります。
特に、現実世界の通販業界はノウハウの固まりのようなものです。ちょっとやそっとの素人ではなかなか事業を軌道に乗せることは難しい。
しかし、それ以前に、現在や近い将来でのネットで本当に「ノウハウの蓄積」が意味があるのかが疑問です。
理由は2つ。
ネットの世界ではユーザー層が次々に変化していきます。
最初は30代の男性が主なユーザー。最近はOLさんが入り込んでいますが、今後は主婦や中年も購買力という点から無視できなくなる。
しかし、男性を中心としたユーザー相手のノウハウと、主婦をメインとしたノウハウはまったく違います。
具体的な例を上げましょう。昔のネットユーザーはパソコンのヲタクが中心でしたから、技術的な操作や知識は大前提でした。
という注意書きでわかってしまう。
いや、分からなければネットをする資格がないから、自分で勉強しなさい。これが当時の常識です。
今でも堂々と残っているFAQ(Frequently Asked Question – よくある質問と回答)という専門用語もその類です。FAQなんて専門用語、インターネットを初めて経験した人には絶対に分からない単語です。初心者向けのコーナーなのに?(笑)
主婦やパソコンにうといサラリーマン(例えば、外回りの営業マン)にとって、一々勉強しないといけないネット世界なんて面倒くさい。
すると彼らに対するビジネスの仕方(ホームページの作り方、注文の仕方、商品のカタログ作りなど)は、ヲタク相手とは根本的に違います。つまり、ヲタク時代に培ったノウハウなんて何の役にも立たないのです。
第一、「ノウハウの蓄積」で、先にネット企業を興した企業は勝ったのでしょうか?光通信は?J-side.comは勝ったのか?
J-side.comは大橋巨泉のテレビ広告まで出しながら、結局つい先日精算の憂き目に会いました。
皮肉っぽい言い方をすれば、それらの企業は「有効なノウハウなんて、元々蓄積していなかった」だけですが、百歩譲って彼らがノウハウを蓄積したとしても、それが生かせないほど時代が変化しているのです。
もっといいましょう。
実は、彼らが持っていたノウハウは「ネットで儲けようとする人たちから」広告費をいかにぶん取るかというノウハウです。しかし、ネットバブルが弾けて広告が少なくなってしまった現在、そんなノウハウを持っていたって活かす場所がない。
更に、現実世界では広告を取るには営業部隊を結成して、売り込みをしなければならない訳ですが、そういったノウハウは彼らは持っていません。
彼らのいうノウハウとは、あくまでも「客からの注文依頼をどうさばくか」という側面でしかありません。注文がなければ何もできない。自分から攻めて注文を取ってくる営業ノウハウは持ち合わせていないのが現状です。
過小評価か過大評価か
今や2,000万人がネットの利用者なんですよ。
しかも、これからどんどん伸びていくのは間違いない」
私に言わせると、なぜネットだけが急激に儲かる仕組みになるのかが不思議で仕方がありません。2,000万人という数字自体に疑問がありますが、それは過去記事を見ていただくとして、それ以外にも市場を「過大評価」しているとしか考えられません。
まずは、わかりやすいところで言いましょう。
万が一、2,000万人が正しい数字だとしても、日本の人口は1億2,000万人。
そのたった6分の1しかないのです。
現実世界の方が急激に売り上げを拡大できるというならまだしも、市場規模を比較すると、その逆の論法はあり得ない話です。
次の視点です。
eコマースは基本的には通信販売です。自宅にいながら商品が買える。しかし、現物を目で見たり触ることはできない。
さて、現実世界での通販の市場規模は2兆7,000億円ですから、通販で商品を買う人たちがネット通販に変わってもらうだけでも大きな商売になりそうな気がします。
現在のeコマースの大半がそんな前提というか思い込みで動いています。
しかし、現実社会に目を転じてみると、あの2兆7,000億円はたかだか5%の生活者によってそのほとんどが支えられているのです。通販のヘビーユーザーとめったに通販を利用しない超ライトユーザーの2種類しかいないのが実状。
しかし、ネット通販の事業者のほとんどがこの現実を知りません。
自分を振り返ってみれば、多くの方は一目瞭然のはずです。
通販を利用したのはいつだったのか。大抵の場合、数年前という記憶が蘇ってくることでしょう。
個人の感覚だけではおぼつかないのであれば、通販のユーザー規模や性別や年齢別といった属性は、ちよっとした調査をするだけで分かってしまうことです。
すると、通販のように商品を手に取らなくては不安だという95%の人たちは、ネットだからといって、その考えを改めるわけではないことがわかります。いや、あえてそういった仕掛けを作るのならまだしも、ほとんどの新規開業ネット通販は工夫すらしないまま、単に通販サイトを立ち上げるだけです。
ましてや、その5%の人たちの大半は、30代の小さな子供を抱えて、近くのスーパーにすらなかなか行けない主婦。あるいは、高校生の子供と一緒に通販カタログをテーブルに広げて楽しむ40代~50代の主婦なのです。
そういった人々がインターネットの世界に入り込む時までは、5%のユーザーすら確保できません。せいぜいが3番目の通販ユーザーであるOLさんがネット通販で品物を買うチャンスがあるかどうかです。
それを知らずして、やれネット通販は将来性がある、儲かると騒ぎ立てたところで、うまく行かないのは火を見るよりも明らかです。
5%の生活者しか存在しない通販市場ですが、それがネットに移行するのは間違いないでしょう。そういう意味では「遠い将来」にはネット通販も大きな市場になります。
問題はそのスピードと供給者のスピードの差です。
現実社会では、従来そのスピードは一致していました。
需要が少しずつ伸びるのと同時に供給も少しずつ伸びていくからです。
一気に多額の資本が入らず、最初の頃は個人ベースの小資本が市場に入っていきます。そして、その個人企業が少しずつ大きくなっていったり、ある程度の大きさの市場に成長したときに、大企業が巨大資本にモノを言わせて参入する。
その一連のスピードが自然だった訳です。
一方、ドットコムでは市場が大きくなるスピード以上に、金に目がくらんだ亡者たちが供給スピードを早めようとします。
しかも、マッチポンプさながら、入り込んだ金を吸い上げる企業が出てくる。生活者向けのドットコムは必ずしも成功していないのに、マッチポンプの一方の成功が新聞などのメディアに頻繁に登場するものだから、中身を吟味しない亡者が次々と群がる。
まさに、生活者の都合などお構いなしに騒いでいるだけ。
これがeコマースの実体です。
モスバーガーと健康なeコマースは似ている
それではeコマースに明日はないのか?
それも違います。
今までのeコマースは地に足がついていなかっただけです。
両足でしっかり立ち始めることができれば、それこそ、その時がeコマースの成長の時です。
そして、それはすでに始まっています。
個人をベースとした通販です。
品揃えは決して多くはありません。大々的な広告費もかけていない。
しかし、扱っている商品については、ただならぬこだわりがある。
彼らは従業員を10人も20人も抱えているわけではなく、1~3名くらいでこじんまりと運営している。
しかし、客はリピーターが多く、信頼もしているから口コミで徐々に少しずつ、でも確実に広がっている。
そんな「店」がこれからの主役になっていきます。
誤解を避けるために続けますが、私は決してeコマースは小規模商店の集まりになると主張している訳ではありません。
そういった彼らが今後ネット界の巨人となる可能性を秘めていると言いたいのです。
こんな話をしていると必ず思い出すのがモスバーガーです。
脱サラ2人組で始めたこのお店は、大手資本のマクドナルドの路線を取れませんでした。
●(金がないから)大規模な店ができず、目が行き届く小規模店舗しか作れなかった
●(金がないから)作り置きができないので、注文があって初めて作り始めざるを得なかった
ナイナイづくしのスタートだからこそ、ダイエー資本の日本で最初のドムトムバーガーやマクドナルド、そして親会社が巨大ガムメーカーのロッテリアとはまたく異なるやり方をせざるを得なかったのです。
しかし、そんな脱サラの会社が今では第2位のハンバーガー・チェーンです。
時代が要請したからです。
もちろん、モスバーガーはその時代の緩やかな変化に緩やかに対応した。
いいえ、もう一度言います。
「資本がないので、緩やかにしか対応できなかった」のです。
そんな成功物語が現在のインターネット個人商店から生まれていくと思っています。
決して急がない。でも現在の生活者の意識の半歩先は進んでいる。
成功するeコマース、落ちこぼれるeコマース
では、どんな個人商店でもその資格があるかというとまた違います。
大規模なeコマースが今まで無視していた「生活者を大事にする」商店だけが参加資格を持つのです。
どんなことか。
その反面教師を見てみましょう。
3ヶ月前に私はアップルストア(アップルコンピュータ直営のネット通販)から、パソコン本体を購入しました。
まず、私はネットで自分のクレジットカード情報を流したくありません。以前、ひどい目にあった経験があるからです。
ところが、アップルストアからネット上で直接注文するためには「毎回」クレジットカード番号を入力しなければならないのです。
例えば、クレジットカード番号は機密保持が万全なファックスであらかじめ送っておき、注文だけネット上で行うといった他のネット本屋などで広く使われている選択肢がまったくありません。
ようやく、ページの下に小さな文字で「電話で注文するにはここ」と電話番号が書いてあったのを見つけました。
まず、ここで不合格です。
ネット通販だからホームページ(とユーザーが気がつかないくらいに小さな電話注文の告知)による注文方法しか受け付けないというのは、まったく生活者のニーズに反します。
具体的な数字は上げることができませんが、一般生活者のニーズは
「はがきなどの郵便」
「ファックス」
「電子メール」
など実に様々な注文方法の選択肢を望んでいます。
実際、千趣会などの現実社会の通販はこれらすべての注文方法を用意しています。また、逸品などのショッピングサイトで成功しているネット通販のほとんどは、これら複数の注文方法を整備しているのです。
アップルストアは
に過ぎないと言われても仕方がない対応です。
次です。
アップルストアに注文の電話をしました。
が、繋がらない。月曜日の午後3時だというのに繋がらない。都合12回も電話をするハメになってしまいました。
アップルストアは通販会社です。
売り上げの生命線である注文です。
そんな重要な部分で12回も電話をしなければならないところはチケットぴあ以外にはひとつもありません。少なくとも一般に知られている「信用のある」千趣会、ファンケル、カタログハウスなどの大手は話し中すら滅多にありません。当然といえば当然です。
その「(通販会社として)当たり前」がアップルストアには通用しないのです。
ようやく受け付け担当と繋がりました。
対応は可もなく不可もない。
しかし、ここで予想していた問題が発生しました。
担当者は住所を口頭で復唱したのにも関わらず、確認メールで間違えていたのです。
バイク便や宅急便、はたまた宅配ピザなどでよく住所を間違えられる経験があるので、わざわざしつこく復唱してもらったのに。
最後の段階です。
送られた確認メールで住所の間違いを発見した私は再び電話をかけました。
メールでの修正依頼を受け付けてくれないからです。
これも不便。
出てきた担当者は誠実に対応してくれましたが、修正済みの確認メールを依頼したところ、「通常は対応していない」と回答されてしまいました。
びっくりです。
確認メールというのは売買の契約書のようなものです。
これが間違ったまま代金を振り込み、不測のトラブルが生じた時に唯一証拠となる手がかりが確認メールなのです。それを間違ったまま取引を進めるというビジネスセンスが私には理解できません。
結局、2カ月後にもう1台のマッキントッシュを買った先は、より価格が高いビックカメラからでした。いくら安くてもアップルストアからはもう買う気がしませんでした。つまり、私(という1人の生活者)はeコマースを捨てて、現実社会のお店を選んだのです。
【注】アップルストアはメーカー直販ですが、部品の取捨選択を賢くすれば、ディスカウントストアより安くなるのです。
アップルがアップルストアを広く告知しないのは正解かも知れません。
マーケティングの基本のひとつは
だからです。
なぜ、こうなるのか。
生活者の立場に立っていないからです。
なぜ、立てないのか。
ひとつには、商売の素人がやっているからです。だから、私に「おままごと」などと言われてしまう。
そして、もうひとつ。
現実社会でも生活者のことなど考えていない店が多いからです。
セルフ店や安売り店が大流行り。コンビニも元気。
顧客のことなどどうでも良い。商品さえ並べば売れていく。学生バイトが適当にレジを打っていれば、自然と商品がさばける。
そんな現実を目の当たりにして、
と安易に考えているからです。
実は、その裏には本部のスタッフが必死になって考え、末端がいい加減でもとりあえず最低限でも売り上げが稼げるような仕組みを作っていることを知らない。表面だけで商売を判断している。
それをそのまま真似ようとしたって、うまく行くはずがないことを理解していない。
ビジネスをなめてはいけません。
そして、全てに通じることを最後に言います。
商品を売る前に自分を売る。「この人(企業や店)がいうなら、大丈夫だろう」という顧客からの信頼。
この商売の大原則を忘れたビジネスはどんな大企業であっても立ち行かなくなります。
雪印の事件や、顧客の信用を逆手に取った牛丼の両目詐称(過去記事)を見てもおわかりでしょう。
ましてや、小資本でかつ前人未踏で実績も信用もないインターネットという世界です。
ハンデがある分、現実社会の大資本よりも、もっともっとそのことについて真剣に考えなければならないハズなのに、もっともそれをおざなりにしている現在のeコマース。
それに加えて、需要と供給のアンバランスと市場規模の読みの甘さ。
これで成功する企業が続出したら、私はコンサルタントとしてやっていく自信がなくなってしまうところでした。
あー、よかった(笑)
ネットバブルが弾けたのは、「商売とは何だ」という基本に立ち戻る絶好の刺激剤なのだと私は考えています。
eコマースの本当のスタートは今からです。
【注】阪本さんの記事はこちらで読めます。(残念ですが、現在リンク切れです)