■間違いだらけのプレゼント【全日空】 

artc20020301今回はプレゼント・キャンペーンがテーマです。
コンサルタントで販売促進をテーマにした記事が書ける方は、そう多くはありません。理論的な話と実践論に大きな溝があるからです。コンサルタントは実践論は語れない。現場の方々は理論的な話が苦手。
メーカーで泥臭いことをしてきた私ならではの販促のお話は、一見の価値があるかも (^^;

プレゼントという摩訶不思議なもの

「あ…当たった」

SMAPの仲居君がぶつぶつ言いながら文句をたれていた矢先の出来事です。

「お前、何で全日空なんかにしたんだよ。
あ、プレゼントをやっているからだろう。
何々が貰えますとか言っちゃって、いい加減飽き飽きしたよな」

そこにスーパー

「どんなお客様にも当たります。50人に一人無料キャンペーン」

仲居君のように文句を言う客にも公平に当たりますよ、うちは太っ腹なのよという広告でした。
ふーん。全日空は寛大な会社だと言いたいのかぁ(笑)
で、寛大な航空会社だから、出張の時には全日空を選んで下さい…訳ないですよね (^^;
もしかしたら旅費がタダになるかも知れないから、どうせなら全日空にしてね、と言いたいのでしょ?

で、キャンペーンが終わったらどうするのでしょうか、そういう生活者は。
当たった人は感謝の気持ち一杯で、全日空のファンになる…ホントか?
当たらなかった人は何事もなかったように、またいつもの航空会社を選ぶ。

そうしたら、キャンペーンの意味って何なのでしょうか。
キャンペーンが終わったら、みんな元の木阿弥になるだけなのですから。
このキャンペーンの結果はまだ出ていませんから、どうなるかは知りません。でも、確かに良くあることなのです。キャンペーン期間中は売上げが上がるけれど、終わったら売上げも元に戻る。
現在、様々な企業が実施しているキャンペーンの半分以上はそのパターンです。

残りの半分は、期間中も実施後も売上げが変わらない、あるいは期間中は売上げが上がったものの、終わったらいつもより売上げが減り、結局プラス・マイナス・ゼロです。
ほんの一握りのキャンペーンだけが、期間中も実施後も売上げが上がる。つまり「効果があった」と言えるものなのです。

企業はタダで、ボランティアで生活者にものを上げたり割引をするのではありません。自社製品がもっと売れるだろうと期待するからこそ大金をかけるのです。
今回の「私はこう見る」では、そんなプレゼント・キャンペーンという摩訶不思議なものを取り上げます。

たまたま、私の友人である阪本啓一さんのメルマガと似たテーマになってしまいましたが、偶然です。共同企画ではありません。うー、残念(笑)

プレゼント・キャンペーンとは

さて、プレゼント・キャンペーンの話からスタートしましたが、企業は様々な販売促進を私たち生活者にぶつけてきます。プレゼントはほんのひとつです。
ちょっと上げただけでも、販売促進活動にはこんなにたくさんの種類があります。

●プレゼントキャンペーン
●イベント主催・協賛(コンサート、試写会、仕掛け)
●編集記事
●サンプリング
●特売
●チラシ協賛
●フェア
●ユーザー組織
●特売・大量陳列
●コンテスト

いきなりですが、ちょっと頭を切り換えてください。
マーケティングの基本のひとつは

●良いものを作って
●できるだけ広く売る

です。
つまり、商品開発と流通獲得さえあれば、マーケティングや広告なんてうさんくさい(笑) モノはいりません。
ことばを変えれば「(お店に)置けば、売れます」が基本です。

しかし、残念ながらそんな恵まれた商品ばかりではありません。
しかも、「広く」売るためには、「広く置く」つまり、できるだけ多くのお店に取り扱ってもらう必要がありますが、それだけの営業力があるのはJTや松下電産などほんの一部の企業だけです。大半の企業はそれがなかなか実現できない。

基本二重苦だけではありません。「広く置いて」も生活者が商品の存在に気がつかなければ、スーパーの店頭で売れ残り、売場の棚から外されてしまいます。だから「広く置『き続ける』」ためには、「広く」知らせることが必要になります。要するに、次に続く3番目に大切な活動は「広告」です。

例えば、過去記事でも紹介しましたが、巨人軍王選手がテレビ広告で
「ナボナはお菓子のホームラン王です」の後に続けて
「森の唄もよろしく」
と付け加えるだけで、森の唄の売上げが40倍にもなってしまう。

だから、企業は「商品開発」と「流通(営業マン)活動」、そして「広告」を高いレベルにしようと一生懸命頑張ります。

ところが、これだけではまだまだ足りない。もっと売りたいと企業は欲張ります。テレビ広告で売れる分はすでに売ってしまった。もっと売るにはどうしたら良いかと考えます。
あるいは、予算が少ないので潤沢にテレビ広告が打てない。それを補完するものはないかと企業は模索します。

それを補うのが、「販売促進活動(略して販促)」と呼ばれる分野です。
「聞いたことがあるけど、何となく買わない」生活者にどうやって商品を買ってもらうか。
「今、買っている商品をもっと買いたくなる」ようにするためには、どうするか。
販促は、「商品」「営業」の2大要素と、従者である「広告」に続く、第三の販売活動です。

さて、販促とはどんなものなのかのイメージを多少はつかんでもらえたと思います。
今回のテーマ、プレゼント・キャンペーンはその販促の代表格のひとつです。

「ふーん。それじゃあ、商品を買わなくても応募できて、プレゼントがもらえるのは?
あれもプレゼント・キャンペーンなんですか?」

はい、そうです。
それじゃあ、ちょっと説明しましょうか。
プレゼント・キャンペーンの種類です。

景表法と呼ばれる法律によって、プレゼント・キャンペーンの定義や制約が決められています。
簡単に言えば、商品を買わないと景品を渡さないタイプ(クローズド・キャンペーンと呼ばれます)と、誰でも応募できるタイプ(オープン・キャンペーン)の2種類があります。

冒頭の全日空のキャンペーンはクローズドですし、史上最大1,200万通の応募があった飯島直子時代のジョージアのジャンパー・プレゼントも、広告はキャンペーンの告知しかしないと徹底しているミスタードーナツの「いいことあるっぞぉ~、ミスタードーナツ」もクローズドです。

最近、ペプシやコカコーラが頻繁にやっている、スターウォーズやスヌーピー人形がキャップとして「もれなく」ついてくるキャンペーンはクローズドの親戚の「ベタ付け」です。
古典的にはお酒メーカーが良くやる「何とか小鉢プレゼント」もベタ付けです。

クローズド・キャンペーンの目的は明快です。

「商品を買わないと応募できないので、景品を目当てに買う人が増える。
だから売上げが上がるはずだ」

という思惑です。
法律があるのは、過激になるとギャンブルと同じになってしまうからです。

さてさて、これ自体は何の問題もありません。
私はプレゼント・キャンペーンを否定するつもりは毛頭ありません。有効に使えば、これほど強力な販促手段はないからです。
しかし、冒頭で説明したように、必ずしも売上げが上がっていないのが実情です。販促本来の機能がきちんと発揮できていないことに危惧を感じているのです。

私たち生活者も「失敗しようが企業の勝手でしょ」と対岸の火事を決め込む訳にはいきません。企業が無駄金を使えば使うほど、面白くもないテレビ広告につきあわされるだけでなく、コストダウンが遅れ、研究開発費に回す金が少なくなり、わくわくする新製品がなくなってしまうからです。

それ以上に一部の生活者にとって大事なことがあります。
販促が機能しないと企業は儲からず、私たちの給料も上がらない。プレゼント・キャンペーンの費用を価格に反映しても数%しか下がりませんが、給料に還元してくれれば、一般的な会社なら10%~20%は給料が上がるほどの額なのです。

給料が上がるためのプレゼント・キャンペーンはいくらやってくれても社員は喜びますが、金をドブに捨てるキャンペーンは反対しなければなりません(^^;

なぜなのでしょうか。
一体、何が本来のキャンペーン機能を邪魔しているのでしょうか。
紙面の都合上、今回はクローズド・タイプだけに話を絞ります。

景品に魅力がないプレゼントなんて意味がない

問題点その1です。
景品に魅力がないからです。
「こんなもん、誰が欲しがるのだろう」というものを景品としているキャンペーンが多すぎる。

現在は商品があふれかえっています。
生活も豊かになりました。だから、私たちは贅沢になっています。
タダでもいらないよという商品がスーパーや雑貨店に並んでいます。

なのに景品といえば、商品のロゴが入っている恥ずかしいタオル、よく分からない置物、変なボールペン、高いのかも知れないけど安っぽく見えるお皿。
中には単価が高そうなものもあります。
けれど、それらは人によっては欲しがるかも知れないけれど「まあ、あってもいいけど」という程度のもの。
最近の景品の流行りは、マイクロソフトの「X-BOX」という家庭用ゲーム機です。「X-BOXが当たります」といっても、一部のマニア以外は欲しいとは思わない。

広告代理店からのプレゼント・キャンペーンの提案をクライアントが如何に吟味していないのかが良く分かります。

「今、話題なんですよ」

と言われて、飛びついているだけ。

「いや、うちは真剣に選んでいます」

という企業でも

「(真剣に)自分だちだけで会議をして議論している」

というだけです。
これではまったく不足です。

キャンペーンにかかる費用は、景品購入代金だけでなく、テレビ広告や新聞広告費もあります。
数億円、あるいは数十億円もかかるのです。企業が自分たちだけで何もかもを決めて、簡単に成功するものではありません。

なぜ、景品をもらう側、つまり生活者に欲しいものを聞かないのでしょうか。
商品開発では買う側の意見を聞く企業が多いのに、プレゼント・キャンペーンとなると途端にもらう側の希望は無視される。

いくつかの企業を除き、プレゼント・キャンペーンの商品を決めるのに、調査データを元に検討する企業はほとんどありません。
「真剣さが足りない」と言われても仕方がないではありませんか。

理由は簡単です。
企業の気持ちの奥底に

「どうせ、タダでもらえるんでしょ?」

という相手を見下す気持ちがあるからです。

「いや、森さん、最近は景品なら何でも良いという生活者ばかりでないのは、企業だって知っていますよ。
だから、一生懸命、複数の広告代理店から提案を受けたり、夜を徹して会議をしているんじゃないですか」

生活者をなめてはいけません。
社内会議だけで生活者の欲しいモノが分かるのなら、誰も苦労はしません。商品開発部隊は調査もせずに、みんな楽に仕事をしますって。
ヒット商品の売上げが社員が徹夜をすることと比例するなら、企業はいくらでも残業手当を出します。
恋に悩んで、夜も眠れない若者は、みんなモテモテになりますって(?)

「頑張ること」は必要条件ですが、決して十分条件ではありません。世の中、そんなに甘いモノではないし、生活者はそんなに優しくはありません。

「雪印食品にだって、一生懸命頑張っている社員もいるんだ。
だから、信用できなくても商品を買ってあげよう」

なんて生活者はほんの一部です。
本当に真剣に景品を探すなら、それなりのやり方をしなければなりません。

「どうせタダだから」という幻想

「モノがあふれているから、タダでもいらない」生活者が多いと言いました。だから、真剣に景品は選ばなければならない。
しかし、本当はそれだけではありません。
企業の「どうせタダだから…」の認識には根本的な勘違いがあります。

正確にいえば、景品は生活者にとってタダではないからです。
私たちは景品をもらうために、次のような手間をかけなければならないのです。

●対象となる商品を何個か買わなければならない(代金が必要)
●あまり気が進まない商品でも、景品のために商品を買わなければならない(心理的コスト)
●申し込みハガキやチラシを読まなければならない(時間コスト)
●パッケージの一部を切り取って、申し込みハガキに貼って、住所氏名を書いて、ポストに投函しなければならない(時間コスト)
●それでも、景品がもらえるかどうか分からない。いや、どうせもらえないだろう(不確実コスト)

現代は「時は金なり」です。
古くは掃除機や洗濯機などの家電、今では携帯やパソコンなどの時間や手間を節約してくれる商品にお金を出して買ってしまう時代です。
それなのに、ああ、それなのに「タダだからいいだろう」という発想は、あまりにも現代の生活者を知らなさすぎます。

プレゼント・キャンペーンの景品とは生活者が心理的、時間的コストを支払ってまでも欲しいと思わせるパワーがなければなりません。
それを生活者に聞かずに景品を決めること自体が不遜というものです。

「森さん、そんなこといったって、森さんのような忙しいビジネスマンばかりじゃないんですよ。
主婦とか学生のようヒマな人たちもいるじゃないですか」

私の後輩です。

彼は基本的に勘違いをしています。
主婦がヒマですって?
そんなことを聞いたら世の中の奥さんたちに総スカンを食らいます。
世の中の主婦のうち50%は有職主婦です。つまり、家事以外に仕事もしている。家事だって、掃除、洗濯など、やらなければならないことが山ほどあります。

井戸端会議だって、彼女たちにとって決して暇つぶしではありません。
れっきとした「ストレス解消のエンターテイメント」です。つまり「必要経費」。

第一、彼女たちがヒマなら、時間が有り余っているなら、掃除機の代わりにほうきとチリトリが今でも主流なハズじゃないですか。洗濯機の代わりにタライがまだ残っている。堂々と家族の食卓に冷凍食品を解凍したものが並ぶはずがない。
端から男性にどう見えようとも、彼女たちは「ヒマではない」のです。

学生はというと、確かにヒマをもてあましている連中が多い。
自ら「ヒマです。誰か遊んでください」と出会い掲示板に書き込んでもいます。
だけど、彼らは「ヒマだ」といっている傍ら、コンビニで弁当を買って食っています。昔の考え方をすれば

「時間があるなら(=ヒマなら)、料理でもすればいいじゃないか。
好きなものが食べられるし、健康だし、第一、食費が安い」

と言う発想になります。

でも、今の若い人たちの発想は次元が違います。

「ヒマで死にそうだ。でも、自分が興味のないことは(死んでも)やらない」

が彼らの本音なのです。古い人たちに理解できる言い方をすれば、かなり贅沢な思考になっている(当の本人たちは贅沢だとは思っていません)。
そんな人たちを表面だけで見ても、プレゼント・キャンペーンの効果があるはずがありません。

ここで、話を一旦、まとめましょう
「景品にパワーがなければ、プレゼント・キャンペーンは成功しない」が第一のポイントです。

インターネット・キャンペーンの落とし穴

さて、手間がかかる(=コストがかかる)から応募しないということは、コストがかからなければ良い訳です。
プレゼント・キャンペーンのネットでのメルマガやホームページに人気があるのもそのせいです。

例えば、まぐまぐの「プレゼント情報」のカテゴリに登録されているメルマガは197誌。合計104万部が1週間で発行されています。
ちなみに、マーケティングは61誌、99,692部。たったの1/10です(笑)

マウスをクリックするだけで景品が当たるかも知れない。
商品を買う必要がないし送る必要もない。コストがかからない。

しかし、一部のキャンペーンを除いて、本当に効果があるのか、はなはだ疑問です。だって、下手をするとそういう人たちは応募した商品どころか、景品や企業すら覚えていないことが多いからです。

ネットのプレゼント・キャンペーンに良く応募する人は、自分を振り返ってみたら分かりやすいかも知れません。試しに、1ヶ月前に応募した商品は何で、景品は何だったのかを思い出してください。ね、ムリでしょ?

企業側からすれば、こういう計算が成り立ちます。
キャンペーン費用が広告費用を合わせて5億円かかったとしましょう。応募が運が良くて50万人も来た。すると、一人当たり1,000円かかったことになります。

さて、たった1ヶ月で忘れてしまう人から1,000円を取り戻すためには、100円の商品なら10個、1,000円なら1個で済む…のではありません。これでは赤字です。

一般的なメーカーの利益率は5~6%くらいですから、100円の商品なら200個(1日に6個!)、1,000円の商品でも20個(1日に0.7個)を買ってもらわなければ、元が取れません。しかも、今までその商品を買ったことがない客や、他の銘柄を買っていたのを止めて、その商品を買ってくれる客であることが条件です。

いくらあなたがペットボトルのお茶が好きでも、1日に6本も飲むのは珍しいだけでなく、いつもの「お~いお茶」を止めて聞茶を飲まなければならないのです。
ほとんど毎日1,000円のシャンプーをボトル1本使えますか?(笑)
いや、そもそも、1ヶ月2万円(30日 X 0.7個/日 X 1,000円)も買う銘柄なんて、そう簡単にあるものではない

もう一度言います。
その銘柄のファンでもない、たったクリック1回しかしない生活者にそんなことが期待できますか?

だからもう一度言います。いや、何回でも言います。
プレゼント・キャンペーンをする限り、景品に魅力がなければ意味がありません。手間というコストを省いて、見かけの応募数だけを上げることを画策しても、結局は無意味になります。

ゲンキ~ンの勘違い

まだ続きがあります。
「誰にとって、魅力があるか」と言う点です。
マーケティングではターゲットといいます。
これが考えられていないキャンペーンがいかに多いことか。

モノがあふれている時代です。
選べる時代です。
だから、ある人にとって魅力的な景品は別な人にとってはゴミ同然です。お金をもらってもいらない。

なんなとなく「若い人をターゲットに」、なんとなく「まだ我が社の商品を買ったことがない人をターゲットに」、なんとなく、なんとなく。
こんなことをしていたら、結局「みんなが欲しいモノ」になってしまいます。そして、そんなものは価値観が多様化した現在、「時間をかけてでも欲しいモノではなく」…
元に戻りましたね(笑)

プレゼント・キャンペーンはターゲットが誰なのかをはっきりさせないと失敗します。だって、ターゲットをはっきりさせないと、魅力ある景品が選べないからです。
もっとも、商品自体のターゲットがはっきりしていないケースが多いので、そういう発想の企業に何を言ってもダメですが。

例えば、数年前に全日空が実施したポケモンのぴかちゅうキャンペーン。
これが大当たりしました。恐らく、航空業界ではトップクラスの反響でしょう。乗客もはっきりと増えたのですから。

その理由は父親であるビジネスマンが、子供に催促されたからです。親にとってみれば、どこの航空会社も変わらない。だったら、子供がうるさいから全日空に…という訳です。
「将を射んとすれば、馬を射よ」の好例でした。

その努力を怠ると「ええい、面倒だ。誰もが好きな現金にしてしまえ」と安直なギフトチケットや、50人に1人が無料になるキャンペーンになってしまいます。
しかし、現金にはまた別の問題があります。

「いや、森さん、現金は誰だって欲しいじゃないですか。
『あーだ、こーだ』とへ理屈をこねたって、現金にかなうものはありません。
森さんのいうややこしいことなんか関係ないですよ」

と私の知人が語気を荒げて反論します。

確かに、私も現金を景品にしたキャンペーンのプレゼンテーション企画を考えろと言われたら、できないことはないです。
恐らく、こんな感じのプレゼンテーションになるのでしょう。

「【ひとしきり、『現在は如何に価値観が多様化しているか』の事象を説明し、大ヒットが生まれにくいことを印象づけます。
また、中元・歳暮で『欲しいモノランキング』なんてデータを付ければカンペキです。
商品券(現金)が堂々のトップだからです】
さて、今まで見てきたように、現在の生活者の価値観は多様化しています。
確かに、『欲しい景品』を私たちが見つけることは可能ではあります。
しかし、それが御社の●●ブランドの売上げを押し上げる力があるかどうかは甚だ疑問であることは、今までのお話を聞いておわかり頂けたと思います。
ましてや、御社の市場シェアは20%もあります。
プレゼント・キャンペーンの景品は御社のシェア以上に人気のあるものでなくてはならず、かつ、現在持っていないもので、今後欲しいものでなければなりません。
でないと、御社の売上げを増加することができないからです。
そう、ここにそれが可能な強力な武器があります。
それは『ゲンキ~ン』と呼ばれる極めて魅力ある販促物です。
仕入れも簡単、包装も不要。
老いも若きも関係ない。欲しいモノに直ちに変身する魔法のプレゼント。誰もが必ず欲しがる最終兵器。
是非、御社の●●ブランドの制覇にお役立てください」

ね、それっぽいでしょ?(笑)

ゲンキンには大きな問題がいくつもあります。
まず、仕入れコスト。
10,000円のゲンキンや商品券の仕入れ額は10,000円(+α)です。一方、10,000円の価値があるブルゾンやジャンパーなら、仕入れ値は3,000円くらい。
プレゼント・キャンペーンの費用の1/3は景品代金です。キャンペーン費用に大きく影響します。

2番目は商品イメージの問題です。
この点については次の章でお話しします。

3番目は心情的な問題です。
身近な親戚や夫婦なら問題はありませんが、例えばつきあい始めた恋人から誕生日のプレゼントに平然と当たり前のように1~2万円の「ゲンキン」が贈られたら、どう思いますか?
「ラッキー!」と感じる方はそれで良いでしょう。

でも

「私のことをきちんと考えてくれていないんだ」
「ものを上げれば良いと考えている物欲だけの人なんだ」
「自分の好みではないけど、一生懸命、選んでくれたんだと思った方が良いな」

と考えるのであれば・・?

企業はその相手の恋人です。
そして、そう感じるあなたは生活者です。
そして、最後に大事なのは

「そんな相手(企業やブランド)をこれからも好きになれますか?」

の問いです。

ブランド・イメージと景品の蜜な関係

次の間違いです。
商品イメージとあまりにも違う景品ラインナップです。
活動的なイメージの商品なのに落ち着いたおしゃれな景品。食品なのにクルマが景品になる。「ピクニックをこれで行こう。お弁当にはこの商品を使おう」というメッセージもなしに、単に「今話題のクルマが当たります」だけ。

「とにかく一度買ってもらえば良いのだから、景品なんて何でも良いだろう」

とばかり、商品イメージと違う景品を用意する。
プレゼント・キャンペーンは短期の勝負策です。だから、確かに「欲しい」と思われるモノなら何でも良い。

しかし、ブランドイメージは長期のモノです。
そして、プレゼント・キャンペーンにもブランドイメージが影響するのです。

身近な例を出しましょう。
異性の友人が誕生日にプレゼントをくれました。

もし、深い仲でもないのに、いきなり下着を贈られたら?
もし、深い仲でもないのに、いきなり会社の同僚から両手に抱えきれないほどの花束を会社に送られたら?
もし、深い仲でもないのに、いきなり競馬の馬主席のチケットを贈られたら?

プレゼントはその人の趣味や性格が出るものです。
それを「ああ、あの人らしい」と好意的に受け止めるのか、「いきなりこんな花束を贈られたって、却って迷惑だ」と否定的になるのか。
いずれにしても、その人らしいものなら、例え馬主席でもほほえましくなるものですが、ハゲオヤジが花束を贈っても気持ち悪がられるだけです。

企業だって基本はまったく同じです。
つまらない、どこでも手に入りそうな景品をプレゼント・キャンペーンに使う企業やブランドは、それまでいくら良いイメージでも「見損なった」と言われるのがオチです。
ましてや、いつもそんなことをしているブランドや企業は「またかい?」とバカにされるだけ。

プレゼント・キャンペーンの景品は、企業やブランドの趣味やセンスの良さが試されるチャンスでもあるのです。
そうなると、必然的にプレゼント・キャンペーンをブランドイメージを定着する手だてとして使う発想が出てきます。

たばこのピースが良い例です。
ピースの持つ、「大人」「上品」のイメージを保ちつつ、ピース紺のオリジナル・ジッポライターや懐中時計を景品としてプレゼントして、非喫煙者にも人気です。
プレゼント・キャンペーンはうまく使うと、広告では表現しきれないブランドの世界を補完してくれるのです。

史上最高の1,200万通の応募があったジョージアのジャンパーは「ほっとする」をテーマにして、大成功しただけではなく、ジョージアのブランドイメージにも多大な影響を与えました。

プレゼント・キャンペーンが失敗する理由に「常連さんにしか魅力がない」ケースもありますが、紙面が残り少ないので割愛します。

基本に戻ると、商品力

ビジネス(マーケティング)の基本は

●(存在、特徴を)知って
●試して
●もう一度買いたい

と生活者に思ってもらうことです。
企業側から言えば、

●知らせて
●買わせて
●なじませる

と言葉遣いが変わりますが。

これを逆の順番で説明しましょう。
商売においてはどんな分野でも常連客が最も重要です。一般的に、2割の常連さんが、売上げの70%~80%を占めるのですから、経営を安定させるためにも彼らをどれだけ増やすかが勝負の分かれ道です。

そして、常連になるためには、一度でも買ってもらわなければ話にならないのは、自然の道理というモノです。
どうあがいても、1回でも買ったことがない、試したことがない人は常連になりようがない。

すると、一度でも買ってみようかなと思ってもらうためには、その商品の存在を知っていなければなりません。
もちろん、その次にその商品の特徴も知らなければ、

「えっ?ボルボって、お菓子でしょ?」

という生活者にはクルマは売れようがないのですから(笑)

一般的に、少額商品では「知っている人」が100人いれば20%~50%が、一度でも買ってしまいます。

従って、普通は

●常連になってもらうためには(商品の善し悪しはとりあえず置いておいて)、試し買いが必要
●試し買いのためには、知ってもらうことが必要

という手順になるわけです。

さて、「知ってもらう」と自然と試し買いが増えるとお話ししました。
しかし、知っているのに(まだ)一回も買わない人も存在します。
上の残りの80%~50%の人たちです。
この人たちに「広告だけ」で買ってもらうようになるのは至難の業です。
だから、広告以外の方法で買ってもらう。

その方法の総称が販促であり、先ほど上げた「イベント」や「特売」などのいろんなテクニックというわけです。

とどのつまり、プレゼント・キャンペーンが成功するには、実は、商品自体に実力や魅力がなければいけないということに他なりません。
「キャンペーンで1回は買ったけど、不味かったからもう買わない」では効果がないではないですか。
巡り巡って、「基本が大切」なのは、結局、何でも同じでした。

「贈り物」は「ココロ」

随所、随所で私は企業のプレゼント・キャンペーンを「個人 対 個人」のプレゼントや贈り物に例えました。

「どうせ、相手は何100万人もいる生活者という『一塊りの存在だから』」

とか

「どうせ、企業は儲けているんだから、そこから『搾取』するのだから」

といった乾いた関係でプレゼント・キャンペーンを見ていくと、絶対に見えてこない「本質」があります。

生活者を「息吹を感じる『個人』の集まり」と考えるのと、「商品を買ってくれる群衆」と考えるのとでは、企業の対応はまったく違います。
私が「消費者」と呼ばず「生活者」と呼ぶのには理由があります。
「消費者」は文字通り「消費をする」「者」です。
では生産・製造をするのは?…企業だという考え方です。

しかし、私たちは「消費だけ」をしているのではありません。
私たちは働いて、生産や製造に従事しています。その労働の対価で「消費」をしているだけ。「消費」者なんて呼ばれる筋合いはありません。

マーケティングは「(人の)集合を相手にする学問」だと言われます。従って、社会学を勉強すればよいと先輩達は言います。しかし、それはマーケティングの一面を表現したに過ぎません。私が集団の科学である社会学だけでは限界を感じ、個人を見る心理学を勉強するようになったのは、「もっと『消費』者を見るにはどうしたら良いのか」と模索した必然的な結果でした。

古くからの読者はご存じですが、「マーケティングであっても『個人を見ようとする』」私の姿勢は、今回のプレゼント・キャンペーンの記事だけではありません。私のマーケティングのすべてに深く関わるテーマです。

プレゼント・キャンペーン、いや販売促進活動は、「個人」とは最もかけ離れたところで、無駄な金が飛び交っている分野の一つです。
ちょっと視点を変えるだけで、まだまだ進化します。

プレゼントを選ぶ努力、プレゼントを選ぶ側のセンス、プレゼントをもらう側の心構え。

「贈り物をするということは、相手にココロを伝えることだ」

と言われます。

愛情たっぷりで真剣に相手のことをおもんぱかるプレゼント・キャンペーンをする企業や商品は、いつか生活者から愛情たっぷりのお返しが来ることでしょう。
「売上げ」という最高のお返しで。
signature




こちらの記事もどうぞ


 
この記事はいかがでしたか? 今後の参考のために教えて下さい。

メールアドレス
(匿名アドレスの場合は
そのまま送信してください)
ご感想 かなりおもしろい
ややおもしろい
どちらともいえない
ややつまらない
かなりつまらない
わからない
コメントがありましたらどうぞ
【ヒミツ】等と書いて頂ければ公表はいたしません。
ご安心下さい。