■たかが10グラム、されど10グラム【牛丼・カレーショップ】

「優しい女」

「君はこのままだと生ゴミになってしまう。
よし、私が犠牲になって地球環境を守ろう!!」

真面目な顔をしてこう言い放った瞬間、目一杯大きな口を開けて、
彼女の顔ほどもありそうな大きなケーキに食らいつく。
食らいつく。
食らいつく。

画面には大きなスーパー。

「地球に優しい女」

低カロリーシュガー「スリムアップシュガー」の広告だと記憶しています。

あの女性モデルの勢いは今でも脳裏に焼き付いています。
最初に見たときは大きな声で笑ってしまいました。
気持ちがよいくらいの潔さです。一辺にあのモデルさんのファンになってしまったほどです。

【注】「スリムアップシュガーCM」(埋め込みができなかったので、こちらをどうぞ。2013年7月5日追記)
スリムアップシュガーCM

場面が変わります。
先日、オフィスのある東京恵比寿の低価格ステーキハウスに、私ひとりで食事に行ったときのこと。

隣の席に女性のひとり客が座りました。
代官山のハウスマヌカンという出で立ちの若い人。
私はというと、ステーキをほおばりながら、聞くとはなしにウェイトレスとの会話を聞いていました。

「えっと、豆腐サラダとサーロインステーキを・・うーん、400g」

え?400?!!!
びっくりして隣を振り返ると、確かに彼女の細い指はメニューの「400g」を指しています。

しばらくしてジュージュー音を立てた400gの肉のかたまりが彼女の目の前に出されました。
ゆっくりと、でも着実に平らげていきます。
「ほう・・」さすがに感心して見とれてしまいました。
いい食べっぷりです。

食べっぷりと言えば、知り合いの20才の専門学校生の女性は身長152センチでスリム体型。
要するにミクロなのですが、ごはんが大好きで、調子の良いときにはチャーハンにすると3合(約1kg)を平らげてしまうという大食漢です。

次は甘いもの。
数年前、世田谷のチーズケーキファクトリーに行ったときのことです。
ここのチーズケーキは絶品で、私も大ファンです。
ケーキ食べ放題のコースもありました。

ケーキ屋さんですから、客の大半は若い女性。
それがまた食べる食べる。

向かい側の20才そこそこ(に見える)女子学生さんはたった30分で7個のケーキを平らげてしまいました。同伴者の女性も3個をペロリ。かくいう私もチーズケーキは大好きなので、5個頂きました。
甘いものは別バラ(腹)とよく言いますが、それを実感したひとこまでした。

後日、チーズケーキ・ファクトリーの役員とプライベートで話をする機会があったのですが、7個なんてかわいいものだそうです。猛者は4~5時間粘って、15個は食べて行く。

「採算が取れるようには、どうしても見えないんですが?」と私。
「そんな訳ないですよ (笑)。完全に赤字です。
食べ放題を導入して失敗したと思っているんですよ」

と本音を語ってくれました。

すごい、と思ったのもつかの間。もっとすごい人が身近にいました。
私がいつも世話になっている恵比寿のスポーツマッサージのトレーナーです。彼は体育大学卒業。シドニーオリンピック出場選手の何人かは彼の後輩でもあります。

「米1升(ご飯にして約4kg)炊いてチャーハンにして食べたり、回転寿司100皿なんていうのもありました。
さすがに、カレー屋さんで、ご飯2kgに挑戦したときはしんどかったです。
カレールーは多分1kgぐらい。合計3kg程度。
制限時間があったので、急いでかき込むと熱いんです。
だから、納豆カレーにしたんです。納豆を入れるとルーが冷めてくれるので、比較的食べやすい」

うー。何だか文章を書いているだけでお腹が一杯になってきました。
胸焼けがするかも・・ (笑)

食事の重視点は「おいしさ」だけではない

ダイエット本は常にベストセラーになると言われています。確かに、20代女性のうち52%がダイエットを実施していますし、ダイエットのせいで骨粗鬆症が増えたと警告が発せられています。

しかし一方で、私の周りには「ダイエット、何処吹く風」と言わんばかりの女性も数多く見かけるのです。52%の残りの48%の人たちです。

チーズケーキの例だけでなく、よく食べる女性は私の周りにいくらでも見つかります。
冒頭のお話がそれに当たります。

立ち食いそばでも最近女性の姿を見かけるようになりましたが、スーツが似合うOLさんが大盛を頼んでいる姿には、中年の私でも「かっこいいぜ、オイ」と感嘆させるパワーがあります。

かといって、日本人全体の食事量が増えているという統計はありません。
カロリー摂取量だけを見れば微減です。
ということは回答はひとつしかありません。
食べる、食べないが両極端になっている。

食べる人が増えた一方、ダイエットで食べる量が減った人がいる。だから、相殺されて全体では微減という計算式が成り立ちます。
あくまでも仮説ですが。

さて、私はコンサルタントです。
食品の仕事をしていると、どうしても「おいしさ」や「おいしさの演出」に目が行きます。
実際にアンケート調査をしても、重視点の上位には必ず「おいしいこと」が鎮座します。

一般の生活をしている私たちも、「あの味で500円は高いよね」という会話はなんということもありませんし、場合によってはちょっと「味の分かるヤツだぜ、オレは」的なニュアンスがあります。一方で、「あの分量で500円は高いよ」という会話は、男同士でも若いとき以外はできない雰囲気があります。

「分量と値段を比較するなんて、意地汚い印象がある。
若いときは仕方がないけれど」

と言われたこともあります。

企業がおいしさを重視する理由は、食品のオピニオンリーダーは女性であり、男性の意見をくみ取るよりもヒットに繋がる可能性があるからです。だから、比較的少食で、味を追求する女性層にターゲットを絞った方が効率的なマーケティングができる。
それも分かります。

しかし、おいしさは多少犠牲にしても、安くてお腹が一杯になることを重視する人たちは確実に存在します。体育会系の学生さんだけではありません。30代のサラリーマンにだってそういうニーズはしっかりあります。

学生街を中心に「量が多くて安い」店が繁盛しています。
牛丼の吉野家は高級店や若者店の実験がことごとく失敗。結局、特盛が大ヒットし、売り上げの25%にまで成長した実績があります。

またカップラーメンでも大盛が最初に登場したときに大ヒットになったことが、「分量を重視する」層が確実に存在することの証明でもあります。

素朴な疑問 – 1人前は何グラム?

そうなると気になるのが、商品やメニューの「一人前」や「2~3人様用」といった表示です。
一体、あの表示を生活者はどうとらえているのでしょうか。

「一人前…って、一人前でしょ?何グラムとか考えたことはないです」
「少しづつしか注文しないので、よく分かりません。あ、居酒屋の話じゃない?
レストランでは普通の食事を頼んだら1人前じゃないんですか?」

じゃあ、大盛は?

「うーん。これもあまり気にしていないです。
イメージ的には、普通盛の1.2~1.3倍くらいかしら」
「大盛を注文したことがないので、ピンときません。
あえていえば、普通盛の1.5倍くらい」

周囲に聞いても明確なイメージは出てきませんでしたが、大盛は普通盛の1.2~1.5倍というのは共通認識のようです。

プロに聞いてみました。
まず、栄養士さん。

「日本人は平均的に300gくらいが1回の食事量です。
もちろん、個人差はあります」

ファミレスの過去記事「サービス悪けりゃ、命取り」にも出演した恵比寿のパスタ屋さんジローでは、

「普通盛はパスタ210gで、大盛は260gです。
あとはメニューによって具の量が変わります。大体70gから100gが平均的ですね。
だから、300g~350gが一人前になる計算です」

よどみなく、サクサクと答えてくれました。

最近流行の低価格焼き肉レストラン。
恵比寿のいつも込んでいて入れない店では1人前の肉は100g。ご飯類を注文しなければ1回の食事で3皿分必要な計算です。

「盛が悪い」とこぼす男談義

そんなことをつらつらと考えていたある日です。
友人たちと話をする機会がありました。

「そういえば、吉野家が株式上場をしたよね」
「そうそう。吉野家は一度倒産しているけど、良く持ち直した」
「でもさ、西武が買い取ってから、味が薄くなったんだよね。ホワイトカラー向けに変えちゃった」
「噂では西武になってから肉の質を上げたらしいよ」

「吉野家って上品過ぎませんか? 学生の僕にはついていけないです」
「えっ、どうして?」
「僕は牛友チェーンが大好きで良く行くんです。あそこのスタミナ焼き肉とカレーの組み合わせは絶品。しかも、量が多くて安い。貧乏学生の味方です」

その店を知っています。私も好きでした。確かに量はハンパじゃない。
昔、東京大井町の店で食べていたら、若い男性客が大盛を注文した時、無愛想な店主がこう言い放ちました。

「お客さん、うち初めて?」
「は、はい」
「じゃあ、やめときな。大盛は茶碗6杯分のご飯だよ。それに肉とカレーがつく。普通盛なら3杯分だから、それにしな」
「え? あ、じゃあ普通盛で・・・」

壁に盛り別に茶碗の分量が書いてあります。私なら小盛とサラダで十分です。
このチェーン店、東京23区でも私鉄の学生の多い、例えば学芸大前駅でしかお目にかかれないのが残念です。

「吉野家とかは味が時間帯によって違う気がする」
「それを言うなら、吉野家とかって結構分量もいい加減じゃない? 混んでいるときは暇なときに比べて肉の量が少ないような」
「あっ、僕もそう思う。普通盛の2倍の肉の量のはずの特盛だけど、普通盛2杯頼んだ方が肉が多い」

せこい話になってきました (笑)

大公開、「盛の善し悪し」調査

そんな男ばかりの会話をきっかけに、ちょっと調べてみたくなってしまいました。

「話題になったチェーン店の量目が本当に違うのか」

がテーマです。

要するに「盛りが良い、悪い」の差が本当にあるのかということです。
上で紹介した雑談を検証してしまおうという「おバカ企画」です。

では、調査の進め方です。
まずは、盛りの善し悪しを見るための規定値がないといけません。
そのため、本部に標準的な量目を訪ねます。

次に実際の食べ物を購入し、量目を測ります。
出てきたその場で肉とごはんを分けて、はかりを取り出す訳にはいきませんから、持ち帰りにしてもらいます。
基本的な作業はこれだけです。後は分析に入ります。

チェック項目の第一は、本部の規定値の評価です。次の3つの観点から検討します。

▼普通盛(大盛)は通常の食事として十分な量か。
▼普通盛と大盛ではどれくらい違うのか。
牛丼では肉とごはん、カレーではルーとごはんを分割します。
▼本部が決めた量目では盛りが良いのはどこか、悪いのはどこか。

これが終わると、購入した持ち帰り弁当の肉やルーとごはんの量目についてのチェックをします。

最後は、時間帯によって盛り(量目)が違うのかどうかを調べます。すべての店を調べるのは大変なので、吉野家だけに絞って調査します。

今回リストアップした店は以下のとおりです。
個店の名誉の問題もありますので、場所は伏せておきますが、すべて都内のお店です。

【牛丼チェーン】
●吉野家
●松屋
●神戸らんぷ亭
【カレーショップ】
●ココイチ
●カレーの王様
●POT&POT
【その他】
●山手線 某駅構内の焼きそば専門店

【各店のまじめな説明はこちら】お店紹介

本部決定の規定値を堂々公開

下の表は本部に訪ねた規定値です。
各店とも具体的な数字をなかなか教えてくれず、難儀したと担当の荻野がぼやいていました。

■【本部規定の標準量目-牛丼】 (単位:g)

盛り種類 盛り容量 盛り許容範囲 具容量 許容範囲 ご飯容量
【吉野家】
350 ±20 90 ±10 260
大盛 430 ±20 110 ±10 320
特盛 490 ±25 170 ±15 320
【松屋】
350 +20~-10 90 +10~-5 260
大盛 470 +20~-10 120 +10~-5 350
牛皿 90 +20~-10 90 +10~-5 なし
【神戸らんぷ亭】
350 ±10~20 90 ±5~10 260
大盛 450 ±10~20 130 ±5~10 320
特盛 500 ±10~20 180 ±5~10 320

【注】松屋には特盛がありません。

まず、ここで目を引くのは、普通盛はごはんと肉をあわせて350gあることです。
丁度1食分、300gを越えた当たり。
大盛になるとほぼ500g。お腹が一杯になるはずです。

次に分かるのは、普通盛では90gしか肉がないことです。
「所詮400円~500円の食べ物」ですから、高い牛肉がその値段で食べられる事自体を喜ばなければなりませんから、文句を言える筋合いではありませんが…

3番目に気がつくことは、一般的に理解されているとおり、特盛は普通盛の2倍の肉の量です。ただ、大勢のイメージとは異なり、大盛は必ずしも普通盛の1.5倍ではありませんでした。神戸らんぷ亭で1.4倍ですが、吉野家は1.2倍しかない。

4番目のチェック項目は、牛丼チェーンによって肉の量目が違うかどうかです。
見ておわかりのとおり、チェーンによってずいぶんと差があります。
後発である神戸らんぷ亭がもっとも量目が多く、最もコスト削減を意識しているのが吉野家。大盛で最も差が大きく、実に20g、18%もの差があります。

一口の肉は平均7~8gですから、神戸らんぷ亭は吉野家より3口分も多い。
一方、お腹が一杯になるのは松屋の大盛。吉野家の特盛と総重量(肉とごはん合計)がほぼ同じです。

最後に目を引くのは、プラス・マイナスの規定値の幅です。吉野家がプラスでもマイナスでも20g(特盛は25g)の幅を認めているのに対して、松屋はマイナスは10gまでしか認めず、その代わりプラスは20gまでOK。より生活者に立った規定の設け方です。

それよりもプラス・マイナスの規定値の許容範囲の設定の仕方が面白いのです。
上の表の右から2番目(「具許容範囲」)と3番目(「具容量」)の列を見て下さい。
右から2番目は肉の量の許容範囲、3番目は規定値を表しています。

吉野家では普通盛の肉は90gが規定値ですが、10gまでは許容するということですから、80g~100gまでならば正当なサービスだと本部が考えている事を意味します。

このルールに従えば、吉野家では普通盛が10gまで多くても良く、大盛は10gまで少なくても良いとなります。
すると、普通盛の肉は10g多ければ100gであり(標準90g+許容範囲10g)、大盛が10g少なければ、これまた100gと同じになってしまいます(標準110g-許容範囲10g)。

つまり、吉野家は肉の量が同じであっても、値段が100円違うことに客の大半が納得すると考えているということです。「???」…ですよね (笑)

次はカレー(と焼きそば)部門です。
まずはデータをご覧下さい。

【本部規定の標準量目-カレー、焼きそば】 (単位:g)

盛り種類 盛り容量 盛り許容範囲 具容量 許容範囲 ご飯容量
【ココイチ】
普通 420 ±20 170 ±10 250
大盛 630 ±20 280 ±10 350
【カレーの王様】
普通 410 ±20 160 ±20 250
大盛 590 ±20 240 ±20 350
【POT&POT】
普通 450 ±20 200 ±20 250
大盛 570 ±20 250 ±20 320
【某駅構内の焼きそば専門店】
普通 223
289

ご飯1,300gまで選べるココイチはさすがに大盛も気前よく630g。
カレーの方が牛丼より盛りがよいのが分かります。

普通盛を見ると最も盛りが少ないカレーの王様ですら410g。最大の盛りのPOT&POTでは450gにもなります。
もっとも、牛丼の大盛が430gでカレー普通盛と一緒の値段の500円(ココイチのポークカレーは400円)なのでコストパフォーマンスはそう大きく変わりません。
焼きそばは大盛でも270g。牛丼の量にすらなりません。

ひとくち10グラム差、100円也

さて、本部の評価がひととおり済んだところで、次は実際の持ち帰り弁当の評価です。
現場は本部指示を守っているのでしょうか。

実際に測った量目が次の表です。
表が大きくなるので肉だけに絞りました。まず牛丼です。

【実際の量目-肉】(単位:g)

盛り種類 実際容量 規定値 許容範囲 判定
【吉野家】
80 90 ±10 ▼10 ×
大盛 102 110 ±10 ▼ 8
特盛 130 170 ±15 ▼40 ×
【松屋】
90 90 +10~-5 + 0
大盛 100 120 +10~-5 ▼20 ×
牛皿 117 90 +10~-5 +27
【神戸らんぷ亭】
76 90 ±5~10 ▼14 ×
大盛 103 130 ±5~10 ▼27 ×
特盛 142 180 ±5~10 ▼38 ×

【注1】本来は規定値よりも多いと×だが、松屋の牛皿のようにこの場合は●とした。
【注2】ツユについては、標準的な容量を量り、それを計算で戻している。

先ほどの本部の規定値で一見優秀に見えた牛丼の盛りも皮(ごはん)を剥ぐと、とんでもないものが見えてきました。
何と、9種類の商品のうち、規定量以上なのは松屋の牛皿だけ。残りの8種類は規定の範囲内だろうがなかろうが、すべて規定量を下回ってしまいました。

しかも、規定量の許容範囲にすら入っていないのが、なんと6種類にも及ぶのです。実に充足率が33.3%しかない有様。

よくよく見ると大盛や特盛はチェーン店に限らず規定違反です。しかも、違反の幅が大きい。なんとマイナス38g(らんぷ亭)、マイナス40g(吉野家)と実に1/4も決められた量に足りないのでした。

その結果、松屋では400円の普通盛と500円の大盛で肉10gしか違わないという珍事が起きてしまいました。10g(とごはん)で100円。100グラム1,000円の肉はスーパーでも最高級な牛肉です。

もっと面白いことに、松屋では250円の牛皿の方が500円の大盛よりも肉が多いという珍現象まで発生しているのです。

要するに牛丼チェーンの呼ぶ「大盛」とか「特盛」なんてのは、何の意味もなしていないということが分かっただけです。
どこの盛りが良いとか悪いとかのレベルではありません。はぁ…
気を取り直して続けましょう。

普通盛と大盛の差を見て下さい。
前出の彼らの意見は正しかったことが分かります。
普通盛2杯の方が特盛よりも肉の量が多いのです。要は特盛や大盛は肉をケチっているのでした。

ちなみに、ごはんは規定量どおりです。いや、規定より多め。
意地悪い見方をすれば、肉をコスト削減(?)することで利益を出そうとするものの、食べ終わった後に満腹感がないと客から苦情が来るので、比較的低コストのごはんを多めにすることでカモフラージュした。でも、表向きには本部が「肉の量は2倍でお得」と販売促進をしてくれるので客は来る。

好意的に見ようとすれば、やはりあくまでも従業員のミス、手元が狂ったなどが原因と見るしかない。企業責任ではなく個人責任です。

一方のカレーは規定どおりでした。いや、規定よりむしろ多めの盛りです。

【実際の量目-カレールーと焼きそば】(単位:g)

盛り種類 実際容量 規定値 許容範囲 判定
【ココイチ】
普通 180 170 ±10 +10
大盛 215 280 ±10 ▼65 ×
【カレーの王様】
普通 183 160 ±10 +23
大盛 243 240 ±10 + 3
【POT&POT】
普通 244 200 ±10 +44
大盛 319 250 ±10 +69
【焼きそば】
普通 227 223 + 4
大盛 317 269 +48

カレーは優等生でした。ココイチの大盛以外はすべて規定量を上回っています。POT&POTの大盛はなんと69gも規定を上回っています。

唯一の不誠実結果であるココイチの大盛、マイナス65gは規定量の1/4に当たります。カレーショップは大きくなると牛丼屋のように客をだまくらかすことを覚えるようです。いや、そうだからこそ企業規模が大きくなるのでしたね。失敬 (^^;

焼きそばは他のチェーンと管理方法が異なり、29人分の量を一人当たりに割り戻すので規定値に端数が出ています。合格。

牛丼の結果がかなりいい加減だったので、追加の調査をしてみました。
時間帯によって盛は違うのか。
その結果が下の表です。

結論から言うと、混雑状況や時間帯によって盛りに差はなく、吉野家は常に規定違反でした。

【吉野家の混雑状況による量目-肉】(単位:g)

盛り種類 実際容量 規定値 許容範囲 判定
【混雑時-1】
68 90 ±10 ▼22 ×
大盛 90 110 ±10 ▼20 ×
特盛 135 170 ±15 ▼35 ×
【混雑時-2】
80 90 ±10 ▼10
大盛 75 110 ±10 ▼35 ×
牛皿 132 170 ±15 ▼38 ×
【閑散時-1】
75 90 ±10 ▼15 ×
大盛 105 110 ±10 ▼5
特盛 150 170 ±15 ▼20 ×
【閑散時-2】
65 90 ±10 ▼25 ×
大盛 85 110 ±10 ▼25 ×
特盛 140 170 ±15 ▼30 ×

【注1】ツユについては、標準的な容量を量り、それを計算で戻している。

データは掲載しませんが、焼きそばはすべて合格。

一発勝負 – 生活者の目は厳しい

あえて書く順番を逆にしましたが、ここで、明らかにしたい前提条件があります。
実はそれぞれの量目はすべて一発勝負です。平均はあえて取っていません。従って、持ち帰り弁当の盛りの差は単なる偶然、運が悪かっただけなのかも知れません。

しかし、私は「一発勝負」を選びました。
その理由は2つです。

1つは標準的な量目が決められている以上、1回たりともその規定値を外れてはいけないのが企業としてあるべき姿だからです。
「たまたま、運悪くそういう盛りだったから許して上げて」は、本来許されない甘えです。

2つ目の理由は、似た理由ですが生活者側からの視点です。
生活者は1回でも条件が悪ければ、その経験ですべてを判断します。カエルがキムチに入っていれば、牛乳に毒素が入っていれば、たった1回でも客にとって許されないことなのです。

これは、メーカーに長年所属した私が、代替商品10個しか持たされずに、1人で苦情処理のため訪問した先でその筋の人からドスを左右2本突きつけられたり、お客様相談室のスタッフがすべて逃げてしまい、ブランドマネジャーという理由だけで、地方で最大の暴力団の組長の内縁の妻からの苦情を処理しながら、身を持って学んだことのひとつです。

大切な前提条件がもうひとつあります。
今回の実験に際しては、盛る係の腕の善し悪しはまったく考慮していません。つまり、腕が未熟だから差が出たとは一切考えないようにしています。

理由は2つです。
1つは、それなりの熟練者なら数グラムの違いも出ないほど正確に盛ることができるハズだからです。

実際、本部が「プラスマイナス5g」を規定にしているということは、それだけの技術を持つ人間が従事していることを前提にしている証しです。
吉野家はそのために盛りつけ係の全国大会を開催し、技術向上に努めているのではないですか。

「牛丼は固形で盛りにくいから」や「ザル状のお玉はカレーほど規定量が測りやすいわけではない」といった言い訳は聞きません。

私の親戚に札幌で弁当屋さんを経営している人がいます。学生時代にそこでバイトをしたことがありますが、パートのおばちゃんたちのご飯の盛りつけに、2~3グラムの差しかないのにびっくりした記憶があります。
熟練とはそういったものです。

2つ目は、未熟者を盛りつけ係のような重要なポストにつけるべきではないからです。
チェーン店では店長ないしは店長に準ずる社員以外が盛りつけ係につくことを禁じています。量目を重視する生活者がいるいないに関わらず、明らかにチェーン側は盛りつけは重要な仕事であることを認めているのです。

従って、生活者である私たちがわざわざ「腕が未熟だから仕方がないよね」と同情して上げる必要は一切ありません。

【舞台裏】松屋以外は一発勝負であることは確かです。
しかし、松屋のこの数字を見てびっくりした私は3回測定をくりかえしたのですが、数グラムの差はあれ、ほとんど変わりませんでした。確信犯の匂いを感じ取った私は、あくまでも上記の原則にのっとり、第1回目のこの数字を決定データとしました。

「『しょせん』牛丼屋」が意味するもの

これがスーパーやコンビニで扱っている商品なら大問題です。
お菓子などのパッケージ商品は法律で内容量の記載が義務づけられています。100gの容量のポッキーがもし90gしかなかったら。
精肉売場で豚肉肩ロースのパックに280gと表示されているのに、測ってみたら260gしかなかったとしたら。

苦情殺到、新聞書き立て、インターネットの企業告発ページ急増必死。

「たかが400円の食い物屋だから、そんなに目くじらを立てなくてもいいじゃないか。ケチくさいよ、森さん。
というか、そういうところに目くじらを立てるのは…森さんらしいか (笑)」

友人のコンサルタントが諭してくれました。

これは「盛り」よりも他の要素、例えば「味」を重視している人の代表的な反応です。
しかし、もし「来店するたびに、味が違う牛丼屋に行きたいか」というと、もちろん彼の答えは「ノー」です。たかが400円なのに? (笑)

盛りも味もどちらも重要なニーズです。
だったら、味が不安定なのと同じく、盛りが不安定なのは褒められたものではないはずなのです。

もちろん、大げさに「牛丼チェーンはけしからん」とがなり立てるつもりは毛頭ありませんし、やれ企業告発だと騒ぐつもりもありません。
この記事は単に企業のモラルをテーマとしているだけです。

その観点から、改めて言います。
彼らは「肉が2倍でお得」と堂々と「企業として」訴求しています。それは「生活者に対する約束」です。生活者はその言葉を信じてお金を支払っているのです。私のようにいちいちハカリで量を測らなくても、「企業が自分自身で宣言したことは守ってくれるだろう」という信頼の元に対価を支払っている。
なのに、それがきちんと守られていない。

チェーン組織は街角の屋台のラーメン屋とは訳が違います。
今や数10億円~100億円の売り上げを持つ企業体なのです。スーパーに商品を供給しているメーカーと規模は変わりません。

しかも外食産業だから適当で良いというものでもありません。企業としての責任は他のメーカーと等しくなければならない。

「ま、いいじゃないか、森さん。
『しょせん』牛丼屋なんだから、僕たちも期待なんかハナからしてやしないさ」

と別な友人。

そこです。
生活者は牛丼チェーンは企業などとは思っていない。松下やトヨタと同じく株式会社などと思ってもいない。
この点を当事者は肝に銘じる必要があります。

トヨタのいい加減な社員がいい加減な対応をすれば、社会的に非難されます。
それはなぜか。トヨタは「常識的で誠意ある行動をする会社でなければならない」と期待されているからです。だからこそ、社会的な地位も高い。

牛丼チェーンは自分で自分の首を絞めていることに気がつく必要があります。
社会的な地位が低いということの最大の欠点は良い人材が採れないことです。また社員の志気にも影響します。

社員が胸を張って「オレはここで働いているんだ」という状態を作ることも会社の立派な使命のひとつです。

たかが、数グラムですが、されど数グラム。

そのたった数グラムは「コスト削減(?)による」大きな利益をもたらしてくれるでしょうが、生活者からの信用や社会的地位も同じくらい損なうことを忘れてはいけません。
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