■仮説能力、だんだん減らしまShow【仮説思考・仮説能力】

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高度な心理ゲーム

お昼の長寿番組といえば「徹子の部屋」ですが、負けず劣らずの番組があります。
ご存じ「笑っていいとも!」です。
その中でも一旦人気がなくなったのか中止になり、復活したコーナーに私は注目していました。
「だんだん減らしまShow」と題されたコーナーは、スタジオ客100人に出演者がその場で考えたアンケートに答えてもらい、その数字を見て楽しむ趣向です。
このゲームは出演者同士が協力し合って完成させていくものです。そのために、うまく行くと出演者全員に賞品がもらえるようになっています。

進行はこうです。
1番目の人はできるだけ高い数字が予想される質問をしなければなりません。かといって、回答が100%でもいけない。

さて、難しいのは2番目以降の出演者たちです。
質問の結果が前の出演者の出した数字よりも1%でも低くなければなりません。最後の質問者は当然0%ではいけません。

すると2番目、3番目で徐々に減らしていかないと、最後の出演者が厳しくなります。かといって、低くなり過ぎないように意識しすぎると、前の出演者より結果が高くなってしまいます。どちらも失格。

皆さんにイメージしてもらうために、今年の1月12日にオンエアされた例を上げましょう。テーマは「バーゲン」です。バーゲンに関係した質問でなければなりません。出演者は7人。

第1質問「バーゲンに一度でも行ったことがある」
(質問者不明)  97%
第2質問「去年1回でもバーゲンに行った」
(森田一義)   76%
第3質問「バーゲンで買ったものの、自宅に帰ってみると、その商品が意外に良くなかった経験がある」
(関根勤)    78%

関根勤への回答が森田一義より2%高かったので失敗。CMをはさんでやり直し。

第1質問「バーゲンのDMが来たことがある」
(北村総一郎)  92%
第2質問「バーゲンで買った商品を今、身につけている」
(藤井隆)    69%
第3質問「定価で買ったものがバーゲンで売られていたので、悔しかったことがある」
(嘉門洋子)   46%
第4質問「バーゲンで買ったのに1回も着ていない服がある」
(加藤明日美)  56%

嘉門洋子(グラビアアイドル)はお笑い芸人、藤井隆よりも23%も低くなり過ぎ、後が苦しいかなと思った矢先に、加藤明日美(アイドル?)がスタジオの観客と同年代にも関わらず、彼女たちの心が読み切れず10%高くて失敗。

バラエティ番組のゲーム仕立てですが、実はかなり高度なノウハウや観察力、そして人間心理の知識が試されてしまうコーナーです。
特に、観客に直接触れるお笑い芸人ともなると、観客心理をきちんと理解していなければなりません。
それがそのまま白日の下に試されてしまう怖いコーナーなのでした。
例えば、お笑い芸人、極楽とんぼコンビの外すこと、外すこと。

それに引き替え、私がいつも感心するのが森田一義と橋田寿賀子(現在は出演していません)です。
二人が出す質問は見事に狙った数字の近くが出ます。ちゃんと視聴者(特に若い女性)の心理が分かっている証拠です。

出演者にはアイドルやフジテレビの女子アナだっています。その女性出演者たちよりも正確に若い女性一般を理解しているのです。同年代なのに、先の例の嘉門洋子や加藤明日美が外してしまったことを思い出して下さい。

「若い奴らの考えていることはわからん」とぼやいている課長さん、部長さんと比較すると、二人のすごさ、偉さがよく分かります。

さて、「だんだん減らしまShow」はあくまでもエンターテイメントですが、マーケティングではこれを「仮説」と呼びます。
今までの経験やデータ、そして理論からいえば「こうなるだろう」「こうなるはず」。しかし、そのことを検証したデータがないので、「事実」かどうかは分からない。
悪く言えば「推測」、場合によっては「思い込み」や「勘違い」に化けてしまうかもしれない性質の「予測」です。

マーケティングでは常に仮説を立てることが大事になります。
なぜなら、生活者の現在のみならず、一歩先を読んで商品や広告を作らなければならないからです。
「こうしたら、生活者はこう反応するだろう」「こう感じるだろう」といった予測がなければ何もできません。

「そのために調査データがあるのではないですか?」

友人のメーカーに勤める課長さんです。

そのとおり。
しかし、すべての生活者行動に対してデータを整備しておくことは事実上不可能です。
いや、そういったデータがあったとしても、例えば3年前の調査だったら信頼性は低くなってしまい、使いものにならなくなってしまうこともあり得ます。

かといって、そのたびに調査をしていたのでは、時間とお金ばかりかかってしまう。
どこかで「見切り」をつけておかないと、企業は一歩も前に進むことができません。
そして、「見切り」をどれだけ正確にできるのか。これが仮説能力なのです。

今回の記事は、久々に自己啓発シリーズです。
そして、テーマはそのまま、

「仮説能力を身につける方法」

です。

仮説能力とは一体何か

冒頭からのお話で、仮説能力とはどんなものかをある程度分かっていただいたと思いますが、ここで、もう少し詳しく見ていきましょう。

仮説能力とは一言で言えば、

「大勢の考えや行動を予測する能力」

のことです。

そのためには、

「一般の人は何を考えているのか」

「若い女性などの、一部の特性を持った人たちは、どう考えているのか」

を知っていなければなりません。
日常生活で言えば

「人の気持ちが分かる(予測できる)人」

のことです。

では、それが分かったところで、どんな意味があるのか?
ビジネスでは明快です。
一般生活者の気持ちが掴めれば、次にどんな手を打ったらよいのかが分かります。

商品開発が必要なのか、新しい情報が求められているのか、購入のきっかけを作るキャンペーンが有効なのか。考えられることはたくさんあります。
また、商品開発ひとつとっても、基本性能を上げた方がよいのか、使い勝手を改善すべきか、見た目のイメージの改良が良いのか。これもたくさん選択肢があります。

仮説能力はこれらに対する回答を導き出してくれます。
もちろん、仮説はあくまでも仮説なので、検証する必要があります。その時には調査会社や広告代理店などを使えばよいのです。

昨今のIT関連の新規事業を見ていると、この仮説設定がおざなりになったまま過剰な売り上げを期待したり、生活者の先を行きすぎたりするケースが目立ちます。

元々、新規事業というものは、ほとんどの失敗企業とほんの一握りの成功企業という二層構造が古今東西の常ですから、IT関連事業の失敗が多いのは特別なことではありません。
従って、仮説能力がないまま事業化しようとするミスはIT関連に限らない現象です。ひとり彼らのせいだけではありません。
(ちょっと失敗が多すぎるきらいはありますが)

ということは、仮説能力をきちんと身につけ、必要ならば大雑把な調査をするだけで、どんな事業でも失敗のリスクは一気に減らすことができるということでもあります。

日常生活ではどうか。
人に好かれることができます。
相手が異性なら「もてる」。
同性なら「人気が出る」。
上司や取引先なら「できるやつ」と思われる。

あらかじめ「一般的にはこう行動する、こう考える」ことが分かっていれば、例えば初めて会った人でも間違いや勘違いが少なくなります。個別の人間性は、その上で考慮すればいいのです。
もちろん、相手の気持ちを先回りして考えることができますから、相手から「心地よい人」と思ってもらえる可能性が高くなります。

さて、仮説能力とは何か。そして、それが一体どんな得があるのかを分かっていただいた上で、ビジネスマン、OLに焦点を当てて、仮説能力をどうすれば育てることができるかを中心に記事を進めましょう。

第1弾:簡単に仮説能力は身に付かない

のっけからこんなタイトルでごめんなさい。
しかし、仮説能力を身につけるのに王道はないのが正直なところです。
逆に言えば、

「じっくりと取り組み、かつ、あせらない」

という心構えが大事だということに他なりません。
だって、仮説能力をつけるということは「他人の心理を読むこと」と似たような意味を持つのに、人間はそう簡単に理解されてしまうものではないではないですか。

それが簡単にできるくらいなら、古今東西から続いている恋の悩みもないし、人にだまされることもない。
昔から「人が理解できない」から悩むのだし、場合によっては「美しき誤解」という副産物も生まれ、人間ドラマが出現するのです。

「3時間で分かる心理学」はあっても、「3時間で人の心理が手に取るように分かる」本なんて基本的には誇大広告です。もし、それが本当なら、心理学者やそういった本の著者はもっと人に好かれたり、もっと自分の好きなことができるような環境(金儲けや社会的地位を上げること)ができても良いはずだからです。

しかし、「人の心を読む」訓練をすることは十分可能です。
仮説能力が身に付いていない人の大半が、そのための訓練を意識的にしてこなかっただけです。
運が良い人や問題意識を常に持っている人が、たまたま、そういったことを教えてくれる人に巡り会ったり、自分で気がついたりしてつちかってきただけです。
先ほど王道しかないと言いましたが、その王道すら習うことがないのが現状なだけです。

第2弾:考える癖をつけることが第一歩
-人のことばを使わない

王道の訓練で最初にすることが「自分で考える」ことです。
「自分の言葉で話せ」「自分で考えろ」というと「言うは易し、行うは難し」の典型のように思われがちです。
しかし、このハードルだけは是が非でも越えてもらわなければ先へは進めません。

残念ですが、

「自分で考える癖をつけずに、人の気持ちが分かるようになる」

なんておいしい話は転がっていないのです。

そこで思い出すのは、今年の正月番組でのフジテレビの特番「SMAP総出演・世にも不思議な物語」です。特に最初のエピソード、香取慎吾が演じる「エキストラ」というタイトルが印象的でした。

主人公の慎吾くんは不思議なアルバイトをします。数行のセリフが書いてある紙を渡されて、通行人にそのとおりの言葉をしゃべるように言われる。しかし、カメラがあるわけでも観客がいるわけでもありません。

実は、世の中のすべての人たちが、コーヒー缶に印刷されたり、ポスターに書いてある、あらかじめ決められたセリフのとおりにしゃべっており、唯一慎吾くんだけが自分のことばでしゃべろうとする人間だったというシチュエーションでした。
他人の言葉でしか語れない現代人を強烈に誇張した背景はかなりインパクトがありました。

有名なSF小説、レイ・ブラッドベリの「華氏451度」に匹敵するといったら言い過ぎでしょうか(「華氏451度」では、書物を所有することも読むことも禁じられた未来社会が描かれています)。

難しい単語を使うとなぜか分かった気になるという人をビジネスの現場では良く見かけますが、これなどは「自分で考えていない」「与えられたセリフしか使わない」典型的な症状です。

具体的に1つ上げましょう。良く聞くのが「価値」ということばです。
「付加価値」「ブランド価値」「顧客にとっての価値」というように、別な単語と組み合わせると、それっぽく聞こえてしまいます。しかし、そういう熟語を多用する人に限って「それって、どういうことですか?」と尋ねると、再び熟語の嵐しか返ってこない。
本当は分かっていない。

第2弾:考える癖をつけることが第一歩
-思考停止のさまざま

「価値」のような専門用語は便利です。
その大きなメリットのひとつは「たくさんの言葉で説明しなくても、一言言うだけで相手に伝わること」です。
しかし、正しい使い方をしないと思考停止の大きな原因となってしまいかねません。
どういうことか。説明しましょう。

「一言言えば済む」のはあくまでも「双方が同じレベルの知識を持っている」ことが大前提です。
そうでなければ、単に混乱を呼ぶだけ。

例えば、私たちマーケティングの現場でも、「ターゲットは20代女性です」といった途端に「分かった」と大きなうなづきが返ってきます。
しかし、それを聞いた取締役たちのイメージする20代女性は、自分の娘なのかも知れません。あるいは銀座や六本木のホステスさんをイメージしているだけか。
一方、20代のビジネスマンは、自分たちの友人や恋人のイメージしか浮かばないかも知れない。

そこで、

「あなたのいう『20代の女性』とはどんなことをして、どんなことを考えているのかを教えて下さい」

と質問をすると、実は各自バラバラだったり、果ては

「20代の女性だよ、若い女性。
コンサルタントなのにそんなこともイメージできないのかね、キミィィィ。
シャキィィィィン!!」

とお叱りを受けたこともありました。そんなダボシャツ・ステテコの人はコンサルタント自体が嫌いだったり、質問に答えられないだけなので、何を言ってもダメですから、苦笑するしかないですが。
(サッポロビールの社員に言われた訳ではありません。悪しからず)

「思考停止」とは「分かった気になる」けど、その実「何も分かっていない」こと。
そして、「価値」や「20代女性」といったことばは、人を分かった気にさせる最強のキーワードなのです。

「おお、そこまで私はひどくないから大丈夫だ」と安心しているあなた。まだまだ、気を抜いてはいけません。
思考停止は、例えばこんなところにも出てきます。

「森さん、それは商品の質が違うから当てはまらないと思います」

といった議論です。
商品の代わりに「企業の質が違う」「業態が違う」「国が違う」などのバリエーションがあります。

これがなぜいけないのか。
まあ、話を聞いて下さい。

この発言の後にきちんとした説明があれば良いのですが、大半がそれだけ。以上。
これがいけないのです。
例えば、「私たちの扱っているのは耐久消費財だから、一般消費財を元にしたマーケティングは役に立たない」、以上。

ジャンルが違うということのみをもって、他のすべても「違うはず」だという類推だけで走る。まさに、「男と女は外見が違う」「だから、精神的なものも含めてすべて違うはずだ」と言っていることとまったく同じなのです。

その気持ちも分からないではありません。
恐らく、社内会議で、「思考停止議論」をふっかけると相手が黙ってしまったり、賛同してしまった経験が多々あるからでしょう。
「井の中の蛙」状態はひとり当人だけを責めるわけにもいきません。
議論をふっかけられた相手も同様に、思考停止をしてしまう文化が根付いている組織そのものの問題です。

まさに慎吾くんの世界です。誰もがセリフをしゃべるだけの世界なら、それが当たり前であって、異議を唱える人は皆無。むしろ、自分の言葉でしゃべろうとする人は排除される社会(社風)がまかり通る。
(もっとも、「あいつはうるさいから下手に反論するより黙った方が得だ」と周囲が甘やかしているケースも少なくありませんが)

逆に、「みんな同じ」と決めつける人もいます。
ヤマンバ・メイク、ガングロだというだけで、みんな同じ思考や行動をするものと思いこむ。実際に同じ行動をしているのはメイクだけであって、恋愛の悩みや人生に対する考え方が違うとしても気がつかない。

発達心理学ではこういった研究結果があります。
幼児の頃は目に見える事象だけしか認識できない。
それが小学生くらいになると「抽象化」「分類」という概念が出現する。

例えば、幼児におもちゃを見せるとしましょう。
それを箱に入れてしまうと、目の前で見せているのに「消えた」とばかりに必死になって箱の周りを探します。しかし、成長するに連れて、実は目に見えないけれどおもちゃは箱に隠れていることを理解するようになるというものです。つまり「想像」で物体や概念を認識できるということです。

その観点から言います。キツイ言い方でごめんなさい。
でも、ヤマンバやガングロや表面づらの難しい単語といった「目に見えるもの」だけで判断する「エキストラ人間」たちは、実は2~3才の幼児と同じ幼稚な心理発達しかしていないということなのです。

なぜ、こんな厳しい言い方をするのか。
それは、「ジャンルが違うだけで、違うと決めつけた」り、「目に見えるものだけで判断」する以上、仮説能力が身につかないからです。

第3弾:ブレーンストーミングは初心者の味方
  -ブレストとは

概念化、共有化などを含めて、どうしたら訓練できるか。
私が良く勧めるのがブレーンストーミングです。
5~6人が集まって「文殊の知恵」をひねりだそうとする手法。
略して「ブレスト」と呼ぶこともあります。

自分だけで考えていると煮詰まってしまいます。
従って、他人と話すことで刺激を受けて

「あ、そういえば、そうだった」や
「それだったら、こういう考え方もあることを思い出した」

と発想が広がるのがブレストのメリットです。
まさに、仮説を作るのにうってつけの方法なのです。

ただし、ルールがあります。
出席者は他人の発言を否定してはいけないという点です。
発言を否定されると、人間はどうしても発想が限定されてしまいます。

無意識のうちに

「こんなことを言ってはバカにされるかも」や
「こんな考えをするのは恥ずかしい」

と考えてしまうと、結局従来の延長上でしか物事を考えることができなくなってしまうからです。

さて、ここまでは教科書に書いてあることです。
しかし、ブレストをうまく使うにはコツがあります。
それを紹介しましょう。

第3弾:ブレーンストーミングは初心者の味方
 -ターゲットとなる類似の人(素人さん)に1人参加してもらう

企業うちだけでブレストをして発想を広げようとしても、たまに従来の概念から抜けきれないときがあります。そんな時のために、例えば若い女性向けの商品なら20代女性に参加してもらいます。

彼女には普通に発言してもらいますが、本当の目的はちょっと違うところにあります。
素人さんの普段の考え方や行動は参考にならないことが多いからです。
実は「こういう商品なら買いたい」「こういう商品を作る」という素人さんのアイデアのほとんどはヒットしません。

なぜなら、素人さんは一旦アイデア供給者側に回ってしまうと、発想や冷静維持訓練をしていないだけに「自分だけが欲しいもの」を提案してしまったり、「本当は自分は欲しいとは思っていないが、アイデアを出しているうちに、情が湧いてしまったり、『売れる』と思いこんでしまう」のです。

アサヒビールやコカコーラがOLさんや学生さんを組織して自由に作らせた商品(ピンクのビールやネーミングだけがかっこいい飲料)が大失敗したのはそのせいです。

ではなぜ素人さんをブレストに入れるのか。
参加者が迷ったり煮詰まったときに参考意見を聞いて、出席者への刺激剤にするためです。
あくまでも刺激剤です。時々、たった一人の若い女性の意見を聞いて、それですべてが分かった気になる人がいますが、大変危険です。

彼女たちは確かに40代、50代のおじさん達よりも若い女性について詳しい。
当の本人ですから当然です。
しかし、その彼女が他のたくさんの同年代の女性たちのことが分かるかというと、そうではない。
冒頭のアイドルが会場参加者の気持ちがわからなかったことを思い出しください。

例えば、女子大生に「若い女性」のことを聞いても、高卒の女性のことについては高校時代の友人くらいしか知らない。従って、彼女が指す「若い女性」は女子大生だけしか意味しません。
あるいは、真面目に定職を持っているOLさんには、フリーターの気持ちは、例え相手が妹さんであったとしても分かりません。

だから、あくまでも素人さんの意見は刺激剤として使うのです。
彼女の発言には真実が見え隠れしています。彼女たち特有の偏りの中にも若い女性の共通項が混在しています。
それをどこかで感じ取り、詰まった思考や話に風穴を開ける。
それが彼女の最大の役目です。

第3弾:ブレーンストーミングは初心者の味方
 -気分を変えるのは意外に重要

私の20年来のつきあいがあるテレビ企画プロデューサー竹井氏と企画マン坂本氏コンビのブレストの仕方は実にユニークです。この2人は学生時代からの友人のせいもあって、実に息のあった「2人ブレスト」をします。
重要なプロジェクトでは彼ら2人セットの力を借りることも良くあります。

15年前に一度彼らのブレストに同行したことがあります。
彼らが指定した時間が夜の11時。
しかも、企画プロデューサーの運転で連れて行かれたのが横浜のレストラン、喫茶店、港、深夜の人気のないショッピングセンターの駐車場。実に様々な場所に引き回されます。

それぞれの場所でブレストをするのです。時間にして平均20分程度。
関西出身の2人ですから、漫才のボケとツッコミを繰り返し、仕事を真剣にしているようにはどうにも見えません。雑談や遊びで数十万円のギャラをふんだくっているように見えます。しかし、出てくるアウトプットの質はとんでもなく高い。

2人だけにしか分からない「カベ」にぶち当たると、どちらからともなく「ほな、場所、変えようか」と行き当たりばったりに車を発進させていきます。

いつものオフィスや見慣れた会議室では、発想も固まってしまいます。
ブレストをするなら

「書を捨てて、街に出よう」

です。

第3弾:ブレーンストーミングは初心者の味方
 -初心者は自分のことから

ブレストに参加する初心者にもコツがあります。
慣れや成長に従って、4つの段階に分けるのです。

まず、当初の10回くらいは「自分だけ」について考え、発言するように指示します。
いつも私は

「自分だけの狭い世界で他人や他を判断しては、マーケティングに携わるものとして失格である」

と言い続けていますが、この場合だけは別格です。
慣れないうちに他人のことを考えようとすると混乱してしまうからです。
その代わり、自分のことについてだけを一生懸命考える。

「自分だったら、こう考える」
「自分だったら、こうする」

という視点で発言するのです。

ちなみに、この訓練はブレストを卒業した時に生きてきます。

「他人の心理は自分と同じくらい奥深いものだ。
従って、他人のことを考えるときも表面だけで分かった気になってはいけない」

ということを知るのに有効です。

第1段階が終わったら、ちょっと慣れと余裕が出てきますから、次は自分に加えて友人・知人について考えます。

「友人にこんな奴がいた」
「友人ならこう考える」

第3段階は「街で出会った人、見かけた人」を加えます。
最後の段階で、ようやく「こんな人がいそう」「こんな人がいてもおかしくないよね」といった想像、つまり仮説の世界に入ります。
晴れて「ブレスト一人前」です。

全行程を終えるのに、早い人で20~30回、遅い人で40~50回の経験を積まなければなりません。

「仮説能力を高めるのに王道はない」

と冒頭でお話ししたのも、こういった地道な経験の繰り返しが大事だからなのです。

話が脱線しますが、ブレストはあくまでも「初心者のための」ツールです。
プロ、いや少なくとも私は滅多にブレストをすることがありません。
なぜなら、ブレストの力を借りなくても、仮説を作ったり生活者心理を読む訓練を常日頃から実施しているからです。

時間や経費を考えると無駄が多いのが、ブレストを避ける最大の理由です。
5~6人参加して2時間かければ、合計12時間分の人件費がかかります。これはすべてクライアントの請求書の中に含まれるのです。

大手外資系コンサルタント企業なら、24才のMBAを卒業したというだけの実務経験もない若造が、1時間10万円くらいのチャージですから、1回のブレストで最低でも120万円もかかります。これに1時間30~40万円もチャージするパートナークラスの人間が入れば、200万円は余計にかかってしまう。
もちろん、全額クライアント負担です。ああ、もったいない。

第3弾:ブレーンストーミングは初心者の味方
 -2人ブレストをマスターすると強い

ブレストは初心者には心強い味方ですが、5~6人を集めなければならないので、そうそう頻繁にできるものではありません。

そこでお勧めするのが「2人ブレスト」です。
これはプロでも良くやる手法です。
私がコンサルタントへのコンサルティングをするときには、この方法を取ることが多いし、私の元同僚の女性コンサルタントは実に上手に私を「2人ブレスト」の「カベ」として使います。

「2人ブレスト」の良いところは、人数が集まらなくてもお手軽にブレストができることです。
やり方も普通のブレストと良く似ています。書記がいないというだけで、相手の発言に反対しない、相手の発言を刺激剤として使うなどといったブレストのエッセンスはそのままです。
ただ、1点だけ違うのが「2人ブレスト」では、ひとりがボール投げの役目を担い、もう一人が「カベ」になって、そのボールをはじいてやる役目に徹することです。

彼は、自分が考えていることをつらつらと話します。
普通のブレストのように、まとまっていなくても良いです。考えていることを「あーだ、こーだ」と話すだけ。

「カベ」役は、その話に合いの手を打ったり、質問したり、時折自分の意見を言ったりします。ボール投げ役の顔色を読んで、様々な角度や視点から相手に刺激を与えていきます。
相手の表情が変わったときがピンと来たときですから、一呼吸、相手に考える時間を与えます。

相手がなぜピンときたのかは分からなくても良い。
でも発言してはいけない。黙ったまま。
相手の思考が中断されてしまうからです。
相手の表情が落ち着いてきたら、また別な角度から発言して刺激を与えます。
ボール投げ役はとりあえず思考がまとまったら、別な(関連した)話題を振ります。

これの繰り返しが「2人ブレスト」です。
普段の生活で「森さん、相談があるんだけど」といった時の大半が、聞いて上げるだけで納得したり、気が済んだりする事があります。
それに近いことをするのです。

この方法は相談する側の人間が、問題を解決できる能力を持っていることが条件です。
従って、数名のブレストよりも中級者向けかも知れません。

仲間やデザイナーの友人と雑談をしていて、ふと気が付くと相手が誘いをかけていることに気が付き、暗黙の了解で「2人ブレスト」に突入、なんてこともしばしばです。
そのうち慣れてくると、相手が気がつかないうちに「2人ブレスト」に持ち込み、気がつかないまま終わってしまうという芸当もできるようになります。

そうなるとお金がかかり(時間を浪費し)、多数の人間のスケジュールを調整する手間もタイミングも必要なブレストにわざわざ頼ることもありません。実に合理的に同じことができてしまうのです。
もっともここまで来ると、普通のブレストを完全に卒業するレベルではありますが。

さらに、「1人ブレスト」という技もありますが、これはかなりの上級テクニックなので、「私はこう見る」のテーマにふさわしくないし、残り紙面も少ないので割愛いたします。

仮説能力の実現方法がブレストだけの記事になってしまいました。
ブレスト以外に様々な訓練方法がありますが、初心者がもっとも取っつきやすく、かつ効果が上がる方法として、とりあえずは十分でしょう。

とにかく考えよう

仮説能力に限らず、発想とか視点というものは、考え抜くことで出てくることが往々にしてあります。友人のコンサルタント田崎氏は「神が降りてくる」という表現を使います(笑)

ただ、困るのは「どこまで考えればいいのか」の基準をどう表現して良いのやらが分からないことです。
私だって明確な基準を客観的な分かりやすい表現では伝えられません。
あえて言えば、「私はこう見る」の記事は私が考え抜いた結果を記事にしたものが多いので、基準のための参考になるかも知れません。

私はプロですから、ある一定の品質や結論を出すのは素人さんよりも圧倒的に早いのは事実です。しかし、出てきた視点や結論はあくまでも生活者の視点に立ったものです。特殊な知識や能力が必要な性質のものではありません。
ということは読者の皆さんも時間をかければ、同じ品質のものが出てくるはずなのです。

私の記事に共感するのは第一歩。
次は、

「自分からそういったことが指摘できるか」
「そういった視点を自分が取ることができるか」

人に言われると分かるけど、いざ自分でやろうとすると思考が固まってしまうのは良くあることです。
皆さん、良いところまで行っているのです。
自信を持ってチャレンジして下さい。

「考えすぎ」という点でもうひとつのアドバイスを。
考えないことに対しては問題があるものの、考えすぎることの弊害はありません。
どんどん考えることが自分の能力向上に繋がると思って下さい。

ちなみに「考えすぎて、頭がウニる」のは、考えたことにはなりません。
その大半が理由もなく迷っているだけです。
あるいは、道筋をはっきりさせずにいるので、糸口が見つからないだけです。
これを私は「混乱している」と呼びます。

考えることと行動をすることは別物ではありません。
「書を捨て、街に出る」ことも「考え抜く」ための大事なテクニックです。

「牛丼の肉の量に疑問を持ったら、測ってみよう (笑)」

「行動的な思考派」
という人種もけっこう多いですよ。
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