ブランド学いきなり
森永乳業がスイスエミーと提携した日、新聞発表で誇らしげに語った首脳陣のことばが印象的でした。
「エミーの持つ強力なブランド力で、今後、我が社は一層の成長を遂げるだろう」
なんの変哲もないビニール製のバッグなのに、シャネルのロゴが入っているだけで8万円もする。そんなものを妹が買ったといって怒っていたOLさんがいました。
「あの子ったら、本当にブランド好きなんだから」
さて、訳の分からないまま、いきなり読者の皆さんに質問です。
次のうち、ブランドはどれですか。そして、商品名(企業名)はどれでしょう。
ボルボ | ソニー | ペディグリー・チャム | プラダ |
オロナミンC | コナー | 元気なチャッピー | ミスティ |
ブランソープ | エミー | シストラット |
「うーん」とうなっているあなたのために、手助けの質問を2つ。
上にあげたそれぞれについて、どんな商品や企業なのかイメージが湧きますか?
そして、それは他の競合商品や同業他社と比べてどう違うかをはっきりと言えますか?
イメージがすぐに湧いたものや他と違うところをはっきり言えるもの。
それが(あなたにとって)ブランドです。
そうでないものは単なる商品名です。
知らないものはどうしたらいいかって?もちろん、それは商品名です。ブランドではありません。
あなた一人の常識だけでは世の中に通用しないことがあるかも知れませんので、この考え方を「みんな」に広げます。「みんな」がイメージがすぐに湧いたり、他社と違うところを言えるような商品や企業。それがブランドです。
はい。これで、ブランド学はおしまいです。
ね?ブランドって簡単でしょ?
そんな簡単なのに、なんでみんな難しく言うかなぁ。
「ブランドなんたらかんたら」のタイトルで1冊の本が書けるなんて信じられません。
どうせ、みんな余計なこと書いて雲に包んで自慢話ばかりしているのでしょう。
…って、自分も書いていましたね、「ブランドの明日が見える」なんちゃって(^^;
えっと、バカな話はさておいて、今日は「ブランドとは何だ」というお話です。
2~3年前から、出版業界で「ブランドなんたら」というタイトルさえつければ本が売れたくらいに流行しました。今で言う「e」や「IT」のような効果です。
企業における空前の「ブランド戦略ブーム」です。
流行に鋭い広告代理店や一部のコンサルタントは当然としても、調査会社やデザイナーまでもが「ブランドとは」という持論を展開し始めました。
需要があれば供給がある。当然の流れです。
その結果、ブランドの定義はよく言えば「百花繚乱」、悪く言えば「混迷を極めている」のが実状です。
マーケティングとは「ブランドをどう作り上げるか」のための学問と言い切っても良いくらいに、ブランドは中心的なテーマです。
そこで、ブームが落ち着いた今、「ブランドとは」というテーマを正面から切り取ることにしました。
さて、今回の記事で最終的に検証するのは、次のテーマです。
こんなことを検証してどうするのか?
後で解説しますが、ブランドの芽があるなら今後売り上げは伸びていきます。単なる名前(商品名)ならWiLLは失速するだけです。
WiLLのブランド性を検証することでWiLLの成功を占うことができるという訳です。
WiLLって何だ?
まず、WiLLを知らない方に説明します。
WiLLは複数の企業が様々な商品ジャンルで発売している商品名です。
1999年8月の立ち上げでは5社が参加し、今年に入ってコクヨとグリコが加わって7社体制、17+1種類の商品が登場しています。
(WiLL Vi)
(スムースビア、スウィートブラウンビール)
(クリアミスト、空気を洗うミスト、One Week アロマ)
(WiLL PC <パソコン>
WiLL Fridge <冷蔵庫>
WiLL RANGE <電子レンジ>
WiLL MD <MDプレーヤー>
WiLL BIKE <自転車>)
(WiLL TOUR <海外>
WiLL TOUR <シティ&リゾートホテル・プラン>
WiLL TOUR SPORTS <シドニーオリンピック・ツアー>)
(COSMiCFiZZ <A5, A4ノート、ボールペン>)
(オンタイムチョコレート、リラックスタブレット)
まったく違うジャンルの、違う種類の商品がすべてが同じ商品名で売られているのです。
極めて珍しい商品名の付け方です。
しかも、リストアップされている企業はそれぞれの分野で1位ないしは2位ばかり。そうそうたる顔ぶれです。
WiLLはビジネス業界内で大変に注目を浴びている商品群なのです。
さて、これらの企業には共通する悩みがありました。
それは、「若者受けしない」点です。
団塊ジュニア800万人に受けないのは企業として痛手です。
WiLLはそういった悩みを抱えたトップクラス企業のために作られた商品群なのです。
ブランドは何に役立つのか?
WiLLがブランドなのかどうかを説明をする前に、そもそもブランドを作ると何が嬉しいのかを説明しましょう。
長いです。腰を据えて読んでください。
ブランドは企業と生活者双方にメリットがあります。
まずは企業にとってのメリットを説明します。
またまた質問です。
東京ディズニーランドが花火大会を開催します。
同時期に、小山遊園地が花火大会を開催します。
両方とも同じ花火師が作った花火を使用します。ただし、他のアトラクションはどちらも遊べません。
さて、あなたはどちらに行きたいですか。
次の質問です。
エルメスのケリー・バッグは30万円です。
それを作っている下請け工場が独自に同じ素材で、似たデザインでバッグを作りました。
価格は10万円です。
あなたはどちらを買いたいですか。
たまにへそ曲がりの方や有名嫌いの方がいらっしゃいますが、講演や研修で質問をすると、80対20でディズニーランドやエルメスを選択します。
一体これはどういうことなのでしょうか。
両方とも中身は同じです。つまり、空中で破裂してしまえば、ディズニーランドも小山遊園地も同じ花火だし、ケリーバッグの品質は同じなのです。
それなのに、80%の人たちがディズニーランドとシャネルを選択します。
何かの違いがそれぞれの魅力を押し上げています。
その「何か」をマーケティングではブランドと呼ぶのです。
そして、同じ価格ならブランドがある(強い)方が選択され、ブランドがある(強い)と同じ品質なのに高い価格で売れる。
これが企業にとってのメリットです。
耳かきを追いかけたある男の話
一方、私たち生活者にとって、ブランドは何がメリットなのでしょうか。
ブランドがないとどう不便なのかを説明するとわかりやすくなります。
例えば、ある耳かきを買ったとします。
この耳かきがまた良くできていて、すこぶる気持ちが良い。お気に入りでした。
ある日、この耳かきが折れてしまいました。
さてさて、彼は困り果ててしまいました。どこで買ったのかをすっかり忘れてしまったからです。
近くのスーパーだったか、旅行に行ったときのお土産だったか。
自分で買ったかどうかすら覚えていません。
ここでまず、商品名すらもない商品の不便さが発覚します。
気に入ったものが二度と買えない。世の中のどこかしらに必ず存在するというのに。
次の段階です。
よくよく見てみると折れた耳かきに小さく会社名が印刷されていいました。
名前だけを頼りに全国版イエローページを調べたところ、同じ名前の会社が80社あることを突き止めました。
仕方がありません。80社すべてに電話をかけて、耳かきを作っているかどうかを尋ねて回りました。
その結果、5社が耳かきを製造しているのが分かったものの、どこが彼のお気に入りの耳かきのメーカーなのかが電話では分かりません。
そこで5社すべてに耳かきを送ってもらうように頼みました。しかし、1社は直販をしていないと断られ、その代わりに販売店を教えてくれたのです。
一番近い取扱店は鎌倉市。東京恵比寿から2時間もかかります。
ここまできて意地になった彼は、鎌倉まで耳かきを買いに行きました。
そこでようやく最後の1本を見つけることができたのです。めでたし、めでたし。
「気に入った商品を、手間をかけずに何回でも買うことが出来る」
架空の話ですが、とんでもない作業です(いかにも私がやりそうですが、あくまでも架空です。念のため)。
普通、ここまでやる人はいません。99.99%の人は耳かきが折れた段階であきらめます。
しかし、もし万が一、シャネルが耳かきを製造したら?
もし万が一、ライオンが耳かきを製造したら?
折れてしまっても、手に入れるのは簡単です。近くの店に行けばいいからです。
店になければ、とりあえず電話帳で株式会社ライオンを探してどこで売っているかを聞けばよいのですから。
そう。私たち生活者にとってブランドの大切な機能のひとつは、
です。
友人のメグちゃんです。
「同じようなもの」ではダメなのです。「同じもの」でなければならない。
例えば、子供にとってムースポッキーと明治フランは「違うもの」です。
でも、母親にとっては「似たようなもの」です。だから、間違って買ってしまうと子供に叱られる。
また、私にとってモーニング娘。のメンバーは「みんな似たような顔」に見えます。しかし、若い人にとって、それぞれのメンバーはまったく違う人格です。興味関心が違うからです。
買うたびに品質が上でも下でもない。かっこよく言ってしまえば「ジャストミート」です。
ブランドがあれば、私たちは「ジャストミート」の商品が買えるという訳です。
ブランドの歴史から必要な条件を探ってみる
ブランドの説明に、これだけではまだ不十分です。商品に会社名と連絡先を印刷しておけばいいからです。
ではそれ以上に何が必要なのかを見つけるために、「そもそもブランドとは、いつどこで誰が」作ったのか。なぜブランドというものが出来上がったのかを見てみましょう。
ブランド(brand)の語源そのものは「焼き印(brand)」つまりburn(焼く)だと言われます。
アメリカ開拓時代に自分の牧場の牛が他の牧場に迷い込んだ時に、自分の所有であることを証明するためにつけたのがはじまりです。
しかし、これは「商用」としてのものではありません。
オフィスの冷蔵庫に自分の名前を書いたジュースを保存するのと大差ありません。
商用としてのブランドの発端は同じくアメリカ開拓時代の「10セントストア」です。
それまでのお店はよろず屋しかありませんでした。食べ物などは量り売りが中心です。
店の主人は客によって値段を変えるのが当たり前でした。
同じ1スコップのキャンディでも、黒人には20セントで売り、近くの白人には安く15セントで、見かけない旅行者には最も高い30セントと吹っかける。
一見、人種差別のるつぼのアメリカらしい話だと感じますが、実は日本だって同じようなことをしてきた歴史があります。いや、今でもやっている。
八百屋や魚屋を代表とする個人商店です。
「奥さんにはかなわないよなぁ。よっしゃ、20円引きでもってけぇ」
アメリカに話を戻します。
間もなくして出現したのが10セントストアです。
商品が袋に入れてあり、どれを買っても誰が買っても10セントです。
この10セントストアが大当たり。あちこちの町に出来上がったのでした。
そうなると、競争が起きるのが当然の成り行きです。
そこで自分の店の袋に店名の入ったラベルを貼って、「気に入ったら、またうちでどうぞ」と「きっかけの印」を作った。
これが商用ブランドの始まりです。
「誰が買っても一定の品質が得られる」のがアメリカ型ブランドのメリットです。先ほどの「ジャストミート」です。買うたびにおいしくなるわけではないけれど、買う人によって品質が上がる訳ではないけれど、いつも同じおいしさや質を「保証」してくれるのです。
そして、最初のブランドは商品ブランドではなくストアブランドだったのです。
一方の、ヨーロッパはちょっと事情が違います。
時代はルネッサンス。
貴族は様々なデザイナーにたくさんの服を作らせます。
ただ、問題がありました。気に入った服があっても誰が作ったのかが分からないのです。
デザイナーも商売ですから、自分の服を気に入ってくれたらリピート注文をして欲しい。
そこで、服の襟などにデザイナーの名前をつけたのがブランドの始まりです。
シャネルやゴルティエ。
ファッション業界のブランド名がデザイナーの名前なのはその名残りです。
ヨーロッパ型ブランドは「気に入ったモノの品質と同等のものをリピートするための手がかり」です。
アメリカ型とよく似ていますが、アメリカ型は「マイナス(損をしたらどうしよう)を防ぐ」発想なのに対して、ヨーロッパ型は「プラス(良かった)を継続する」発想が違いです。
胎児から誕生へ
ここまでは、まだブランドの胎児です。
ここからのストーリーがまだ続きます。ややこしいので10セントストアに話を絞りましょう。
「ローズマリー10セントストア」の商品は他店より品質が高いのが特徴です。
それもそのはず。店主のローズマリーさんは必ず市場や工場に出向いて、その日に自分が納得する品質の商品を買い付けたからです。
開拓時代のアメリカでは、まだまだ工場の技術水準が低かったので品質にムラがありました。午前中に作った商品はおいしいのに、午後の日差しを浴びるとおいしくなくなります。
それだけに、ローズマリーさんがうまく最高の品質だけのものをピックアップする方法を取ったのは賢いことでした。
しかし、仕入れコストが高いので、10セントの価格では1袋当たりの量が少ないのが欠点です。1回でもローズマリーさんの店に行った客は常連になりますが、分量が少ないのでなかなかお客さんが増えません。
そこで、彼女は協力的な工場と農場に頼んで、品質を高いまま供給を安定するような工夫をしてもらうことにしました。ローズマリーさんはたくさん買うので安く仕入れることができます。
また、品質が安定しているので、自分が仕入れのために動き回る代わりに、支店をたくさん出す方にエネルギーを注力できるようになりました。
すると、購買量が増えるので仕入れ値がさらに安くなる。
さて、準備が整いました。
そうなると、お客さんの間でローズマリーさんの店が評判になります。
行ったことがある客はもちろんですが、隣町の住民ですら行ったことがないのに、ローズマリーさんの店が「質が高くて、量が多い」10セントストアであることを知るようになります。もちろん、彼らは機会があれば彼女の店に行ってみたいと考えています。
はい。これで、ブランドがおぎゃあと生まれました。
ブランドの条件
ここで、まとめてみましょう。
ブランドとは次の条件を備えていなければなりません。
カッコ内にローズマリーさんのケースを入れてみました。
ブランドの条件 | ローズマリーの店 |
---|---|
他の競合と一目見て区別できること | 自店ラベル |
品質が安定していること | 工場の品質管理要請 |
他の競合と差別性あるいは優位性がはっきりとあること | 質が良くて量が多い |
たくさんの生活者がその商品名を知っていること | 評判 |
経験していない生活者でもその商品の特徴を知っていること | 隣町の住民 |
1つでも欠けていれば、それはブランドではなく商品名です。
そして、ブランドには強いブランドと弱いブランドがあります。それぞれの条件の合計が強いか弱いかで決まります。
従って、世の中の商品には4つの種類があることになるのです。
商品名もついていない商品 |
---|
野菜や果物を初めてとして、農作物の多くはここです。 また、つまようじやトイレットペーパーなど名前はついているものの、実際の役に立っていないものも、ここに含めて良いでしょう。 |
商品名だけの商品 |
これは多いです。中小企業の商品だけでなく、一部上場どころか有名な大企業のメーカーですら、ここに当たる商品はたくさんあります。 |
弱いブランド |
強いブランド |
この基準が分かれば、冒頭のスイスエミーは、その名前すら知っている人が少なかった訳ですから、「商品名だけの商品」であり、まったくブランドになっていないことが分かります。
従って、「ブランド力を活用」なんてできるわけがない。
ブランドが便利な人とそうでない人
さて、ブランドはなぜ必要なのか。
生活者にとってはブランドがあることが便利だと言うことは説明しました。
「失敗するリスクがない」ために、ブランドを活用するのです。
逆に言えば、
と考える生活者には、ブランドは「屁」の役にも立ちません。
そうです。
ヲタクを初めとするイノベーターと呼ばれる消費のオピニオンリーダーはブランドに惑わされません。パソコンヲタクにとっては、IBMやらNEC、富士通などのメーカー名はどうでも良い。ショップブランドであろうが自作パソコンであろうが、良いモノが安く手に入ればいい。
ブランドが役に立たないもうひとつの生活者グループがあります。
その商品分野に関心がほとんどない人たちです。
洋服は着心地が良くて、寒さを防ぎ暑さをしのぐことができて、他人に不快感を与えなければいいと思っている私のような人間にとって、キクチタケオやらアルマーニやらはどうでもいい商品です。
ただ、年を食うと安い吊しのスーツは1日中着ていると疲れてしまうので、結果的に高いブランドやイージーオーダーにならざるを得ません。この場合は、年齢による体力低下によって、商品分野に関心を持ちたくもないのに持たざるを得ない例外的なケースです。
彼らは普段は商品分野に関心がある他の人間と似たような行動をとりますから、日常のマーケティングでは同じく扱って不都合はありませんが、ひょんなきっかけでまったく違う行動に移りますので注意が必要です。
例えば、今回のケースではオーダーメード・スーツが安く手軽に買えるようになれば、例え無名であってもかまいません。そして、私はキクチタケオのスーツをもう買うことがなくなります。しかし、キクチタケオをブランドとして買っている人たちは決して離れることはありません。
ブランドは時間短縮の便利な道具
皮肉な言い方をすれば「もっといいものを探す」足かせになっているブランドなのに、なぜ生活者はブランドに頼るのでしょうか。
生活者にとってブランドの大きな利便がもうひとつあります。
細かい勉強をしなくても良いのです。生活コストが削減できるのです。
ブランドでない八百屋の例を見るとよく分かります。
スイカの甘さの見極めはなかなかできるものではありません。軽く叩いてみたり、色を見たりといったコツが必要です。昔の主婦たちはこのコツを体得することが賢さの1つでした。
しかし、たとえばチキータ・バナナのように、スイカにブランドがついていたらどうでしょう。誰が買っても同じ甘さのスイカが保証されます。
つまり、スイカの甘さを見極めるコツを勉強したり経験する手間(コスト)が省けるのです。
そして、ここで重要なのは「勉強に時間を費やさないし、一度も買ったことがない人でさえも」簡単にある品質の商品が買えるということです。
デジカメを買ったことがなくても、デジカメの細かいスペックなどについての知識がなくても、「最高のものは買えないかも知れないけれど、最低のものを買ってしまうリスクが避けられる」。
これがブランドの最大の利点です。
ブランドは「メーカーの約束である」と私は言いますが、まさに「見えない約束」。それがブランドです。
WiLL はブランドか?
ブランドのお話が長くなりました。
そういう観点からWiLLを見るとどうなのでしょうか。
【◎】は合格、【×】は不合格です。
【ブランドの条件】と【WiLLを当てはめると】
【◎】 | 他の競合と一目見て区別できること(自店ラベル) |
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WiLLという名前はロゴデザインを含めて区別は十分につきます。
【◎】 | 品質が安定していること(工場の品質管理要請) |
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現代の大企業ばかりが集まっていますから、品質管理についてはまったく問題なしと考えて良いでしょう。
【◎】 | たくさんの生活者がその商品名を知っていること(評判) |
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WiLLという名前を知っている人は多いようです。知名度の合格点の60%はクリア。
【×】 | 他の競合と差別性あるいは優位性がはっきりとあること(質が良くて量が多い) |
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WiLLを1つでも買ったことがある人で、その商品の個別の特徴を言える人はいます。花王のミストを買った人が例えば他の商品と違うところを言えますし、アサヒのスムースビアとスーパードライの違いを言うことはできます。 しかし、「ではWiLLを友人に一言で説明して下さい」と頼むとみんな困ってしまう。説明のしようがないのです。
【×】 | 経験していない生活者でもその商品の特徴を知っていること(隣町の住民) |
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最後の条件です。
買ったことがない人にとって、トヨタのWiLL Vi とヴィッツの違いや、コクヨの文房具と例えば良品計画のペンとの違いをはっきり言える人はかなり少なくなります。
ましてや、「ではWiLLを友人に一言で説明して下さい」と頼むと、買ったことがある人よりも困り果てる。
さて、総合評価です。
WiLLはブランドになる5つの条件のうち、3つしかクリアできませんでした。
これでWiLLはブランドとしてヨチヨチ歩きですらなっていないことがわかりました。
理由はいくつもあります。
紙面の関係で十分に説明できませんが、その1つを紹介しましょう。
私たちが触れる WiLL の商品や広告で「WiLL とは何だ」の説明がまったくないからです。商品を見ても共通点がよく分からないからです。
ニュースリリースを見ると、WiLL は「遊び心と本物感」だそうです。
しかし、例えばグリコの「オンタイムチョコレート」の説明文にはそんなことは書いていません。それよりも
と「オンタイムチョコレート」の食べる情景を説明しています。
この1文で「本物感」ならいざ知らず、「遊び心」が連想できる人はいません。
花王の「空気を洗うミスト」のテレビ広告は「彼氏が遊びに来る前に空気を洗って『おかなければならない』」と、妖精のような目に見えない女性がいちいち「ああだ、こうだ」と言っている緊張感や義務感は伝わってきますが、「遊び心」は感じることができません。
いや、それ以上に「遊び心と本物感」を感じる商品をクルマで、お菓子で、パソコンで、そしてビールで探してみてくださいと頼んだら、WiLL のターゲットであるはずの「団塊ジュニア」のOLさんたちはいくつも「WiLL以外の」商品をリストアップしてくれました。
「伝える、伝えない」といった問題以前に、商品コンセプト自体に他の競合と比べた差別性がないのです。
先輩か他山の石か
これからWiLLはどうするのでしょうか。
トヨタはあのタイプのクルマの割に3カ月で5,000台とそこそこの売り上げを記録しました。
しかし、他の商品はあまり芳しい結果ではありません。
近畿日本ツーリストは目標をクリアしたといいながら、45,000組の利用です。ツアー企画では多いというものの、この販売数量ではツアー業界にすら影響を与える数ではありません。
アサヒは100万ケースに目標を上方修正したと報じられました。しかし、一番搾りが7,000万ケースも販売している中で100万ケースはビール業界で大きな数字ではありません。
志を低くすれば、いくらでも目標数量を上回る売り上げを確保するのは簡単です。
「品切れになるくらいに売れる商品を作るコツは?」
と聞かれて
「簡単です。年間10個しか作らなければいいのです」
というジョークがあります。
こうなると、イクシーズという1980年に登場した商品群を思い出します。
今では、サングラスとアパレルが細々と残っている程度ですが、当時は画期的な商品群としてビジネス界で注目を浴びたものでした。
イクシーズはダーバンの20代の男子学生向けブランドとして作られたブランドです。
提携企業として、
エース | バッグ | 月星化成 | シューズ |
---|---|---|---|
極東ノート | 文房具 | 大和商事 | 室内装飾品 |
プラチナ万年筆 | 筆記用具 | ダーバン | 衣料 |
武井商事 | 寝装品 |
の7社が参加しました。
その後、
リコー時計 | 時計 | 岡村製作所 | 家具 |
---|
が1981年に加わり、1982年には
レブロン | 化粧品 | 三郷陶器 | 食器 |
---|---|---|---|
ブリジストンサイクル | 自転車 |
最後に84年に
中西儀兵衛商店 | インテリア |
---|
と、実に合計13社がイクシーズを彩る一大グループとなったものでした。
イクシーズを取り扱う店舗数も1983年で2,980店まで広がった大きな企画だったのでした。
しかし、結果はブームで終わりました。今では「ああ、そんなのが昔あったね」と思い出す40代、50代がいる程度です。
WiLL 参加企業は怒るでしょう。
一流企業、トップ企業ばかりが集まっている WiLL と一緒にするなと言われそうです。
でも、あの時と大変よく似ているのです。
何がって、「何を伝えたいのかが良く分からない商品の集まり」という点です。
結局イクシーズはブランドにはなれませんでした。ロゴとシリーズ名を統一しただけの、各企業バラバラに動いている商品コンセプトや商品分野たち。
「山脈企画」とおだてられ、「ヒット商品事例」としてビジネス書で堂々と紹介された結果が「消滅」でした。
ちなみに、1983~1984年の、この頃にヒット商品とされたものには次の商品がありました。
タカラカンチューハイ | どんびえ |
TOTOウォシュレット | シチズン「ベガ」 |
金鳥「どんと」 | 六甲のおいしい水 |
チェッカーズ / オールナイトフジ / 風の谷のナウシカ / カフェバー | |
キャッツ(ミュージカル) |
芸能関係を除けば、今でも十分現役で頑張っているヒット商品たちです。
それから比べたら、イクシーズの寂しいこと。
20年前の二の舞になるかどうか。
1年しか経っていないWiLLです。大企業が集まっている商品群です。
これからならまだ間に合います。ここで結論を急ぐのではなく、見守っていきたいと思っています。
ただ、WiLL関係者の皆さん。パネルの陰に隠れているからといって、原宿ショールームの事務テーブルの上に、堂々と競合企業の富士通製ノートパソコンを開いて放っておくようなことだけは止めましょうね。参加企業の松下にはレッツノートという立派なヒットパソコンがあるのですから (^^;
これでは先行きがちょっと不安かも (笑)
【参考サイト】WiLLショップ
http://www.willshop.com/