■サルにもわかるプレゼンテーション&企画書作成講座【プレ&企画書】

■サルにもわかるプレゼンテーション・企画書講座シリーズ


プレゼンテーションは騙しのテクニック

コンサルタントとして付き物なのが数字です。
次に付き合わなければならないのが、プレゼンテーションと企画書の作成です。
これがなければビジネスが始まりません。

プロジェクトのきっかけはクライアントからの問題意識の提起です。

「期待どおり売れていません。原因と解決方法を知りたいのです」
「今まで、自分たちの都合で商品を作ってきましたが、ほんとうにこれでいいのか、という疑問があります。お客さんの立場に立った商品作りをやりたいと考えています」

次は企画書作成に入ります。「こういう視点で調査と戦略作りをしたらどうでしょうか」というプロジェクト提案で、これが成功しなければビジネスがスタートしません。
また、報告書のプレゼンテーションが成功しなければ、そのクライアントから次のプロジェクトの依頼はなくなります。

企画書 (報告書) とプレゼンテーションは、クライアントとの接点の中で最も重要な役割を果たすものです。

一方、プレゼンテーションや企画書というと胡散臭いイメージもつきまといます。
一言でいえば、

「大した中身もないのに、派手な企画書やプレゼンテーションでごまかすとはなんだ。そういうテクニックは要するに『騙し』である」

という論調です。

当時、私は広告代理店に良く言ったものです。

「企画書やプレゼンテーションでどんなギミック (手練手管・演出) を使おうが構いません。ただし、こちらも、そのテクニックを看破する力があるつもりなので、自信と勇気があればどうぞ。
ギミックばかりの企画書が続けば、その代理店は『そういうものだ』と理解させて頂きます。もし、万が一、ギミックに騙されたら、それはそれで気持ちの良い騙された方として理解しますし、当方は『今度は騙されないぞ』と更に勉強するきっかけができるのだから、歓迎です」

今考えたら、イヤなクライアントですね (笑)

薬の効果は「体内に入ってナンボ」

現在、私は企画書やプレゼンテーションを「薬と接種方法」という関係で説明するようにしています。
提案内容や戦略報告書の内容は薬。プレゼンテーションは接種方法です。

特効薬があります。これを飲めば「身体がだるい」「熱がある」等の症状を一晩で治すことができます。
もし患者が注射嫌いなら「注射をするくらいなら、このままでいい」とタダをこねることもあるかも知れません。また、苦い薬が嫌いなら定期的に飲んでくれないかも知れません。

薬の効果というのは「体内に入ってナンボ」です。その「入り方」を工夫しなければ、「薬を飲まないのと同じ」です。企画書やプレゼンテーションはあくまでも坐薬や点滴あるいは糖衣錠に加工する技術です。提案内容を「より良く見せる」のではなく「効果的に内容を理解してもらう」ためのものなのです。

さて、今回から「プレゼンテーションと企画書の作り方」をシリーズで展開します。ただ、こればかりが続くのも、興味がない読者には困りものですので、通常の記事のように間欠的に公表することにします。
「森さん、自己啓発シリーズのネタが切れたんでしょう」という突っ込みは禁止です。
だって、そのとおりなのですから(笑)

現在のところ、次のようなテーマで執筆する予定ですが、私のことです。この通りにお送りできるとは思っていませんし、評判が良ければ、中級編や上級編も考えますので、とりあえず目安として理解して下さい。

第1回 (今回) プレゼンテーションと企画書とは何だ
第2回 プレゼンテーションの基本
第3回 企画書の基本
第4回 まとめ

ところで、巷では「企画書の書き方」や「プレゼンテーション手法」などのビジネス書が出回っています。今回のシリーズは、それらの「教科書」では飽き足りなかった私の経験を元に書きましたので、偏った部分もありますし必ずしも汎用的とはいえません。

具体的に言えば、プレゼンテーションや企画書といっても、様々なものがあるからです。ちょっとリストアップしただけでもこんなにあります。

●商品を売り込むためのもの
●社内を説得するもの
●生活者調査の結果を伝えるもの
●マーケティング戦略を提案するもの
●広告や販売促進企画を提案するもの
●人事管理などのシステムを提案するもの

これらすべてに対応しようとすると、結果的に市販の教科書と同じように「原則は分かるけど食い足りない」ものになってしまいます。同時に、私はマーケティングコンサルタントですから、例えば、人事管理システムを提案するノウハウや商品売り込みのノウハウは持っていません。

従って、このシリーズでは「調査」「マーケティング戦略」の2つの分野に絞ったお話をすることにします。分野は限定されてしまいますが、この中から何らかのヒントを掴んで頂ければ嬉しいです。

ニッポンのプレゼンテータ、お坊さん

昔と比べて、プレゼンテーションや企画書はその大切さがより認識されるようになりました。例えば、社内説明ではワープロの大小文字で構成された文書を使って社内説得をしていた時代から、パワーポイントで企画書を作り OHP でスクリーンに投影してカラープレゼンテーションを行う。こんな時代です。

昔から書店のビジネスコーナーには「企画書の書き方」というノウハウ本があふれていました。ここ数年、それに加えて「プレゼンテーション手法の解説」本が現れるようになりました。時代を反映し、それがまた時代を作る。潮流変化の基本パターンです。

そのことを身近に感じたのは、私の会社担当のキャノン営業マンと立ち話をしていたときのことです。

「森さん。本当に最近、OHP マシンが良く売れるのですが、何故なんでしょうね。不思議で仕方がないんです」

ふと気がついたのが、マイクロソフト・オフィス97の発売の直後だった事です。
オフィス97を買えば無料でパワーポイントというプレゼンテーション・ソフトかついてくる。それを使った社内プレゼンテーションが一気に増え、OHP の需要が高まったのではないかという仮説でした。

それから、彼の支店では、OHP の注文が入る度に、客にその仮説をぶつけてみたそうです。そして、わかったことは、「仮説どおりだった」という結論。
実際、ある企業ではパワーポイントを使って社内文書を作るよう全社に指示が渡ったといいます。弊害として、似たような作り方で、挿し絵も同じ資料が氾濫しましたが。

さて、プレゼンテーションは昔の日本ではどうだったのかと考えると、それだけで生活をしているプロがいる欧米社会と比べて、一見、お寒いように見えます。でも、よくよく考えると、日本のプレゼンテーションのプロはお寺のお坊さんであることに気がつきました。お経が終わった後の簡単なお話。これは正にプロのプレゼンテーターの仕事です。その役目は檀家のロイヤリティアップと新規顧客の開拓です。
実際、森家のお坊さんは地方で「話し方教室」の講師を務めています。授業を受けたことはありませんが、彼の話ぶりを聞くと納得です。

「フーテンの寅さん」のような大道商人も立派なプレゼンテータです。
私はナンバ商店街の映画館の横手にあるバラエティショップのプレゼンテーションがお気に入りで、関西勤務時代に毎週のように通い続けながら、そのノウハウを吸収しようとしたことがありました。
ここは、店員 (プレゼンテータ専門要員) が、大道商人のようにああだこうだと客と掛け合いをしながら、安い時計や万年筆などの商品を売っていくのです。一連の口上が終わった後に客がこぞって商品買い求める様を何回も見てきました。圧巻です。

メーカーの社内説得資料に120万円も経費を使った

しかし、昔は企業内ではまだまだこういったプロのプレゼンテータが育っていませんでした。プレゼンテーションよりも企画書重視の体質です。
私個人のお話ですが、ちょっとおつきあい下さい。

私はといえば、メーカー時代から社内説得資料は随分書きましたし、現在でも企画書やプレゼンテーションはプロとして欠かせないものですから、マーケティング関連の本とともに企画書作成のノウハウ本は何10冊も買ったものです。でも、どれも私の求めている物とは違いました。結局、自分で企画書やプレゼンテーションの方法を工夫するしかありませんでした。

まずメーカー時代です。
当時 (20年前) は、プレゼンテーションといえば文字中心の構成。せいぜいが生活者調査のデータや商品評価のグラフがある程度でした。提案内容つまり企画書をできるだけ少ない枚数にまとめる技術が「仕事のできるヤツ」の条件の一つでした。

しかし、商品開発の分野ではそれだけで済みません。
確かに商品の概要を重さや色等の規格でまとめる分には文字だけで充分です。でも、ターゲットの生活者はどういう生活をし、どういう店に遊びに行き、どんなファッションを好むのかなどを背景に商品企画案を説明しようとすると、従来の「仕事のできるヤツ」の企画書では役に立ちません。ターゲットを主人公にした小説まで書き上げていたくらいですから、1~2枚にまとめるなんて、とうてい無理な話です。

かといって、市販の「企画書の書き方」のように、何でもかんでも矢印で繋げて、関連性のないものまで一括りにしてしまうやり方には我慢ができませんでした。

結局、15年前、パソコンで図形やグラフが書けない時代に、商品開発提案として社長を含めた経営幹部への説明資料に印刷の版下と同じ工程を採用し、120万円もかけたこともありました。今ならパワーポイントでまとめることができるような体裁の企画書です。

その銘柄は女性がターゲットだったせいもあり、女性スタッフにほとんどの説明を担当してもらいました。
当時のその会社では女性は補助事務員としてしか扱われておらず、「経営幹部に対する説明を女性がするとはなんだ。幹部会をなめているのか」と方々から批判を浴びせられましたが、結果は大正解。普通なら採用されそうにもないユニークな商品開発案がすんなりと通ってしまったのです。
これらの資料をすべてスライドにまとめ、地方の支社や営業所の数千人におよぶ営業マンへのブロック説明会で威力を発揮したものでした。

初めての転職先である外資系企業ではプレゼンテーションはブランドマネジャーの命のようなものだと言われました。外国本社から外人オーナー経営者が来日し、彼に対して効果的なプレゼンテーションができないと、靴を投げつけられます。それがその企業での彼の葬式です。次の日にはクビを言い渡されるからです。

歴史の浅い日本法人では被害者は数名だったのですが、海外の現地法人では延べ数百名のブランドマネジャーがそれで命を落としたという実績があるくらいです。
「ブランドマネジャーの仕事はプレゼンテーションだ」と言い切る先輩まで出現する始末でした。
ですから、新人ブランドマネジャーの私が、プレゼンテーション教室に強制的に通わされたのは、私本人だけでなく上司の保身でもあったのです。

ちなみに、ブランドマネジャーの本当の仕事は自分の担当ブランドの商品開発、海外の工場への製造計画指示、広告開発、販売促進開発、営業部への配荷要請など多岐に渡ります。場合によっては、倉庫での在庫管理をしなければならない時すらもあります。もちろん、損益計算書を含めた利益管理もブランドマネジャーの仕事です。

それだけに、プレゼンテーションの重要性をきちんと把握しているのはさすが外資系企業だと妙に感心した覚えがあります。OHPによるプレゼンテーション技術を自分なりに習得したのもこの時代です。
ただ、企画書については業界の内情がわかっている社内スタッフや流通業者が中心だったので、企画書作成技術が未熟であったことは認めなければなりません。

それらに磨きがかかったのが、次の転職先であるコンサルティング会社です。
自分達だけで分かっていることをベースに企画を立てる社内提案ではなく、文化の違うコンサルタントとクライアント企業の橋渡しとしての企画書作成やプレゼンテーション。

「日本語ではなぜ good-by のことを『左様なら』というのですか?」とアメリカ人に聞かれてきちんと答えられない日本人が多いのと同じで、文化が違う相手に自分の意図することを説明するのは容易なことではありません。それだけにクライアントが何を感じるのかを知った上で企画書やプレゼンテーションを実施する技術は極めて重要です。

ちなみに、そう聞かれると、面倒なので私はこう答えるようにしていました。

「それは、『なぜアメリカ人が感謝祭にイースターエッグとうさぎの置物を飾るのかを知らない』のと同じくらい日本人にとって説明できないことだ」

私の周囲の環境だけでもプレゼンテーションの世界は着実に進歩しています。
まだまだ、「小手先でごまかすとはなんだ」という旧態依然とした企業が存在するのは確かですが、ビジネス意識の潮流は明らかにプレゼンテーション肯定派の味方になっています。

ミニスカートとプレゼンテーションの関係

しかし、日本では歴史が浅いだけに誤解も生じます。
ある雑誌社の編集の人と話していたときのことです。

「森さんはコンサルタントですよね。営業やプレゼンテーションのテクニックではどんな手法を使いますか。効果的なテクニックってあるんでしょうか」
「え?それを話し始めたら幾ら時間があっても足りません。どういう主旨でのお話なのでしょうか」
「営業は『プレゼンテーションで成功するにはミニスカートが一番』というんです。森さんの会社は女性ばかりなので、どうなのかなと思いまして」

いやはや。参りました。
確かに、ミニスカートは大きな武器です。
知り合いの女性がある音楽財団の広報担当に転職したときのことです。仕事はその財団が主催や企画をしたコンサートを、新聞などに記事として取り上げて貰うように働きかけることです。

彼女は転職前は写譜 (音楽を耳で聞き、それを譜面に直す仕事) をしていた人なので、広報はまったくの素人。結局彼女が編み出した必殺技が「下着が見えそうで見えない(でも時々見える)ミニスカート」でした。生来、元気一杯の彼女でしたので、精力的に新聞社、雑誌社そしてテレビ局などを回っていたのですが、ミニスカートにしてから圧倒的に記事や番組に取り上げられることが増え、とうとう初年度で特別ボーナスをもらうくらいにまで頑張りました。

余談ですが、彼女の実験に付き合わされたことがあります。
先日、週刊SPA!で、マイクロミニはどこまで膝を開いたら下着が見えるか、という実験をしていましたが、あれの複雑強化版です。
どれくらいの短さのスカートで、どんな下着で、どんな姿勢をとれば、下着が見えるか見えないかという実験です。

「パンチラは効果的に使いたいんです。だから、『ここぞ』という時に見せる。でも、普段は見えそうというところで止める。それを正確にコントロールしないともったいないじゃないですか」

と、当時25才の彼女はケラケラと笑っていましたが、目は真剣でした。

理屈っぽい私の知り合いらしい発想ですが、ホテルの一室で男女が真剣にパンチラ実験をカメラとビデオを使って

「これ、どう?」
「うーん。もうちょい。足を右に傾けて・・
あっ、今見えた!それそれ、それがポイントだ。ちょっと待って。今写真を取るから」

なんて会話をしている様は他人にお見せできる光景ではありません。

一度、彼女に聞いたことがあります。

「なぜ、彼氏に実験相手を頼まないの?」
「だって、恥ずかしいじゃないですか。
それに、彼はまだ若いから、実験中にその気になってしまうと困りますもの。その点、森さんは人畜無害だし」

・・彼女には負けます。

おっぱいで痛みを和らげてくれる歯医者に、ホントに行きたいか?

一方、こんな経験がありました。
友人に紹介されて、霞ケ関のある歯医者に行ったときのことです。
そこは、全部個室でBGMにジャズが流れているような病院でした。私の担当医は30代のきれいな女医さん。

診察中、妙なことに気がつきました。
普通、ピンセットやドリルなどの医療器具は、私を境にして医者と同じ側にあります。
しかし、ここの歯医者では器具が私を隔てて医者の反対側にあるのです。つまり、器具を取るたびに、私の顔を女医さんの上半身が覆いかぶさる。その結果、彼女の白衣に覆われた胸が私の顔を襲うはめになります。
平たくいえば、おっぱいを押しつけられるのです。
結局、診療が終わる10分程度の間で、都合10回はふくよかな感触を味わったことになります。

しかし、私はその歯医者に2度と行くことはありませんでした。
関西勤務時代に、美容院のシャンプーで同じような経験をしたときは、毎回、そのインターンの子にシャンプーをしてもらうのが楽しみだったのに、歯医者では寄りつきたくもありませんでした。

何が違うのか。
相手に対する期待値です。
歯医者に行くのは、歯の痛みを解消してもらうためです。そして、素人でも歯医者は神経を使う仕事だということを知っています。だから、おっぱいを押しつけなければ痛みが和らがないような腕の医者には近づきたくありません。

一方、美容院でのシャンプーはわざわざ私のどぎまぎした表情を楽しんで、毎回私の顔をのぞき込み「ふふ」とほほ笑むからといって、シャンプー技術に不安を抱くほど技術水準に期待していません。シャンプーはきちんとよごれを落とし、気持ち良くリラックスされてくれれば満足なのですから。

従って、音楽財団の活動やコンサートの紹介という新聞記者の仕事の期待値がそれなりのものであるからこそ、ミニスカートが有効であるのです。
冒頭の雑誌社の営業も同じことです(ここの営業は1枠数万円の広告を受注するのが主業務ですので、金額の問題もあります)。

一方、コンサルタントの仕事はそういう訳には行きません。
歯医者と同じです。いや、少なくとも私の会社では歯医者と同じだけの期待値を持ってもらえるだけの質の仕事を提供しなければなりません。すると、ミニスカートは返って邪魔になります。自ら「弊社のプロジェクトはミニスカートで惑わされるくらいの水準です」と挑発しているようなものだからです。

なぜこんな話を長々としているのか。
プレゼンテーションや企画書は「相手の期待値」によって、第1の方向が決まってしまうからです。

この例では「期待値の高低」という軸でした。
それだけではありません。「期待値の内容」という軸もあります。
例えば、イベントのようなお祭りの企画案では、観客が感じる楽しさのようなものが相手に伝わらなければなりませんから、プレゼンテーションでもその雰囲気が演出できるようなものが効果的です。逆に、消費者調査のようなものでは、腰が座った真面目な演出が、戦術的な戦略では士気を鼓舞するような演出が大事になります。

これらの演出はプレゼンテーションという「舞台」だけを工夫したところで意味がありません。「シナリオ」つまり企画書から意識しなければなりません。ストーリー展開や論理の運びはもちろんのこと、企画書の体裁や挿し絵を使う使わないというところまで影響が及びます。
例えば、調査報告書で「親しみやすいから」といって、無闇にイラストを使ったりするのはマンガチックになってしまい、逆効果になる場合があります。
これら、プレゼンテーションと企画書はすべて「クライアントがそのプロジェクトを通じてプロジェクト担当会社に何を求めているか」を中心に構成されるのです。

これを念頭に置かないで、「プレゼンテーションではプロジェクターをこう置いて」とか「メモ書きはこう準備して」などというテクニックを勉強したところで「仏作って魂入れず」になってしまいます。

コンサルタントとプレゼンテーション&企画書

この記事では「プレゼンテーションと企画書」という書き方をしています。普通なら、準備する順番どおり「企画書とプレゼンテーション」という表現が使われます。

なぜ逆の順番なのか。
企画書は常にプレゼンテーションを前提に作るからです。
例えば、OHPやスライドを使って、私の口頭の説明とセットでプレゼンテーションをする場合は、企画書も1枚1テーマになります。また、1枚のシートには文字数を極力少なくして、概念図が多いものを作ります。

一方、企画書がクライアント社内で一人歩きするような場合は文字を多く使い、DTPのように1ページに概念図数枚とその説明の文章で構成されている企画書を作ります。当然、プレゼンテーションはクライアント一人一人に企画書のコピーを渡し、「●●ページをご覧下さい」という形式になります (この記事では「文書プレゼンテーション」と呼びます)。

逆の発想もあります。
私の友人のコンサルタントは喋るのが苦手なことを自分で知っています。従って、彼にとっては文字中心の企画書を書くことが第1の目標となり、OHPではなく文書プレゼンテーションが中心になります。

いずれにしても、プレゼンテーションと企画書は一体です。
どちらがバランスを欠いても意味がありません。文字ばかりの企画書をOHPにコピーして、それを投影したプレゼンテーションをたまに見かけますが、文字が小さすぎて読める訳がありません。とてもではありませんが、集中力を保つことが難かしくなります。そして、ふと気がつくと目が閉じて夢の世界に遊びに行ってしまうことになります。

だから、市販の教科書で「企画書」と「プレゼンテーション」が一体になっているものがないのが不思議で仕方がないのが本音なのです。

さて、コンサルタントとしての企画書やプレゼンテーションにはどんな種類があるのでしょうか。
一般的なプロジェクトではこんな流れになります。

■企画提案★
プロジェクトが成約する前の企画提案です。「こういう視点でプロジェクトを立案しました」という説明です。
クライアントから「こういうことで森さんにお願いしたい」というオリエンテーション (事前主旨説明) がベースになります。
分量としては30~60分。企画書のページ数は20~30ページ。出席人数は1~10人。
■キックオフ・ミーティング
成約後に詳細のスケジュールや役割分担の説明をします。
分量としては15~30分。企画書はレジュメにし、ページ数は3~5ページです。出席人数は1~3人。
■調査票原案提出
アンケート調査のラフ案を作成し、説明します。
調査票は手法によって分量が違いますが、シストラットで最も頻度が多いのが10ページ程度のアンケート調査です。説明時間は30~90分。出席人数は1~3人。
■第1次、第2次分析報告★
調査結果を報告します。
グラフや概念図を中心にそれぞれ説明時間90~180分。ページ数で100~200ページ。出席人数は3~10人が中心ですが、50~100人という場合もあります。
■戦略提案報告★
調査結果をベースにマーケティング理論、心理学、社会学を使用して提案を行います。説明時間60~120分。ページ数で50~100ページ。出席人数は3~10人が中心ですが、50~100人という場合もあります。

このうち、★印のついている「企画提案」「分析報告」「戦略提案報告」の3つがOHPを使ったプレゼンテーションで、残りが文書プレゼンテーションです。

聴衆心理を背景にしたプレゼンテーションと企画書

「え? 聴衆が1人でも OHP を使うんですか?」
と良くびっくりされます。
教科書では OHP は3人以上の聴衆がいる場合が効果的と説明されていることが多いからです。
しかし、シストラットでは OHP プレゼンテーションが中心です。
OHP の最大の利点が「聴衆の頭が物理的に下がらない」という点だからです。

人間は姿勢によって心理が変化します。
胸を張って堂々としていると前向きな考え方になり、逆にうつむき加減になると否定的な心理が支配します。
OHPは聴衆がスクリーンを見つめるわけですから、視線が前になり頭が下がることはありません。距離によっては頭が上がり、胸を張る姿勢になります。一方で、文書プレゼンテーションは目の前の文書を机において目を下に向けるわけですから、頭が下がりうつむいてしまいます。

クライアントにどちらの姿勢をとって欲しいかは議論の余地はありません。
企画提案の場合は私の提案を受け入れてくれるように前向きになって欲しいし、戦略提案の時には「よし、これで売れるぞ」と士気を高めて欲しいからです。
そのために、私が独立したときに最初に購入したのが、電話・ファックス・コピー機・パソコン、そしてポータブルOHPマシンでした。ちょっとしたミーティング・ルームでも、OHPのプレゼンテーションができるようにとの配慮からです。

一方、調査票 (アンケート用紙) は、対象者が丸をつける方法が主流ですから、文字が多くなるのは当然です。そのために、文書プレゼンテーションにならざるを得ません。それをコピーしてOHPで投射するのは愚の骨頂です。第2弾のプレゼンテーションの記事で細部のお話をしますが、プレゼンテーションのコンセプトはすべて「聴衆を疲れさせない」のが目標だからです。小さな文字が投影されたスクリーンを見つめるほど疲れるものはありません。

もうひとつびっくりされることがあります。
ページ数です。
シストラットの企画書も報告書もページ数がかなり多いのです。
一般的に企画書は短い方が良いとされています。
1ページにまとめること。これを中心に説明している教科書もあるくらいです。
その理由はさまざまですが、「文字が多いと読んでくれない」「説明が長いと聞いてくれない」という否定的な理由が支配しているようです。

しかし、「読んでくれないのは説明や途中の過程がつまらないから」です。分かっていることをとうとう喋られたのでは、「そんなことはどうでも良いから、結論を言ってくれ、結論を」となるのは当然です。多忙で、途中過程の細かい部分は判断業務とは関係ない社長クラスでは「時間がないから説明を短く」することもありますが、大半は「ゴミ (つまらない説明) はいくら集まってもゴミ」になります。

面白い映画だとスクリーンに集中し、2時間があっと過ぎてしまうというのに、自分達の給料がかかっているビジネスのプレゼンテーションに30分もかけたら飽きてしまうということはあり得ません。本当に自分達の役に立つ内容なら、人間の集中力の限界である2時間くらい聞き耳を立ててくれるはずです。

この点は、メーカー時代から気をつけていました。
マーケティング部署にいると、営業マンに対する指示書や説明文書を作ることが多くなります。先輩達は「短くしろ」と檄を飛ばしますが、私はそれに逆らっていつも長い文書を書いていました。その代わり、誰が読んでも分かりやすく面白いように、原稿を高校の美術の先生やOLさんのような、ビジネスとは関係ない人たちに読んでもらって修正する方法を取っていました。研修の教科書になったこともあります。
そして、その精神はメールマガジンや私の執筆した本にまで脈々と受け継がれています。

私の企画書のページ数が多い理由はもうひとつあります。
教科書やプレゼンテーションの学校に行くと必ず教えてくれるもののひとつが「OHPのプレゼンテーションでは、1枚のシートに最低でも3分間はかけなさい」というものです。だから、60分間の説明では20枚のシートになります。しかし、私は1枚平均1分しか説明しません。逆に1枚に収める情報量は1分で説明できるように絞ります。

現代人はテレビ世代です。
メイベリン化粧品のマスカラの広告では、たったの30秒間に33回も場面が切り替わります。広告の平均は10~15カットですから、2~3倍のスピードです。
そんな時代に1枚3分というのは、地方で地元の旅館やパチンコ屋さんの紙芝居広告 (パラパラ広告と私は呼んでいます) を見せられるようなものです。現代人の注意や興味のリズムにまったく合わないのです。

1枚1分というのは「あるある大事典」のような情報娯楽番組のフリップ (司会者やアシスタントが持っているボード) にかける説明時間に合わせた時間です。これくらいのスピードでないと、プレゼンテーションの大目標である「疲れさせない」ことが達成できないとの計算からです。

プレゼンテーションや企画書のメリット

プレゼンテーションや企画書はビジネスマン、OLだけのものではありません。
学生や主婦もその方法や精神を知っていても損はない分野です。
学生は卒論や論文発表、主婦はご主人との様々な交渉。
独身者には気になる異性にアプローチする方法。
妻帯者はこずかいアップ交渉。
様々な場面で「他人に自分の考え方を伝える技術」は必要になります。

逆に、こういった方法を知っていると、生命保険の勧誘や自動車のセールスマンなど、様々なアプローチをかけてくる人々から自分を守ることもできます。
どう使うかはあなた次第です。

【次回「プレゼンテーションの基本に続く】
■サルにもわかるプレゼンテーション・企画書講座シリーズ

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