■コーヒーを飲みながらマーケティングを学ぼう【スターバックス】

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「サービス悪けりゃ、命取り」

喫茶店に中年男女が2人。
そこに無愛想なウェイトレスが、コップをテーブルに叩きつけるように置くと、水がこぼれてしまう。
そこで、2人、合唱。

サービス悪けりゃ、命取りぃ~。
サービス悪けりゃ、命取りぃ~。

ナレーション入る。

「苦情、最優先、ニッセン」

あれ?どこかで見たことのあるオープニングでしたね(笑)
手を抜いている訳ではありません。
現在の「いわゆる喫茶店」の典型的なイメージです。
こんな喫茶店はまだまだ残っています。
上野や神田の駅前、新宿歌舞伎町などの繁華街で生息しています。

30年前。
コーヒーがまだ高級品、貴重品だった頃、コーヒーが飲める場所は喫茶店しかありませんでした。
しかし、現在、そんな場所はいくらでも見つかります。
アメリカと同様にファミレスやファーストフード。原宿を中心としたオープンカフェ(路上にイスとテーブルを配置して屋外でお茶を飲む形式)やレストラン。
喫茶店の存在意義のひとつが競合に奪われた格好です。

そして、何といっても喫茶店を直撃したのが、今回のテーマである「低価格コーヒー・チェーン店」です。
今ではちょっとした駅前には必ず1店はありますし、東京四谷や虎ノ門のように通りを挟んで両側にドトールが2店あることもあります。

最初は立ち飲みコーヒー店を開発したドトールの独壇場、続いてサントリー系列のプロントが参入。サンマルクが続き、シャノアールのベローチェもビジネス街を中心に頑張っています。独立系(1店しかない個人店)も含めて、あちこちに低価格コーヒーショップが見られます。

そこに、彗星のごとく現れたのが、アメリカからやってきたスターバックス・コーヒーです。価格も高いし、テレビ広告もしていないのに、今では知らない人がいないくらい有名な存在ですし、おしゃれなイメージもしっかり根付いています。
それに負けじとドトールもエスプレッソを売り物にした高級店、エクシオール・カフェを展開。第2次低価格コーヒーショップ戦争の幕開けです。

今回は、それをテーマに記事を執筆しました。
コーヒーを飲みながらマーケティングを学ぼう!
…私の愛読メルマガと同じタイトルになってしまいました(笑)

喫茶店の歴史を簡単に

コーヒーは歴史が長いだけに、まともに紹介すると大変なボリュームになるので、喫茶店に絞りましょう。
世界で初めての喫茶店はトルコだと言われています。16世紀のこと。
そこで飲まれたのは中近東のコーヒーでした。豆をすりつぶしたものを煮立たせ、沈殿した後の上澄みを飲むというスタイルです。

ヨーロッパに渡った時、口に豆が入るのを嫌ったイギリス人が考案したのがドリップ式。コーヒーハウスは大流行りで、思想家や芸術家なども出入りしていたこともあって、市民の議論や交流の場として栄えました。それを小冊子にまとめた出版社を兼ねるところ出現。「ロイズ」、後の「ロイズ保険組合」が有名です。

日本にコーヒーが初めて渡ったのはポルトガル人で江戸時代です。しかし、当時は「単なる珍しい飲み物」で、大名が口にした程度。
日本ですっかり親しみのある飲み物として定着させた立役者が喫茶店というわけで、大正時代からです。

喫茶店の現代版に近いものが登場したのは大正時代の「ミルクホール」です。
ちなみに、同時期に流行った「カフェ」はその名から喫茶店だと思われがちですが、中身は今で言う「バー・クラブ」です。「カフェの女給」(現代のホステスさん)ということばを知っている方も多いでしょう。

一時期、栄華を極めた喫茶店は様々なバリエーションを生み出しました。
ジャズ喫茶、歌声喫茶、同伴喫茶など、マーケティング理論どおり、成熟産業の典型である市場細分化による進化が見られました。

その中でも、最もマーケティング的に興味深かったし、ライフサイクルが短く、ケーススタディとして理想的だったのがノーパン喫茶でした。
昭和54年に京都に現れたモンローウォークが草分けと言われていますが、本来は福岡のトップレス喫茶が事実上の第1号店と考えた方が良いでしょう。東京進出は翌年の11月。豊島区の長崎という小さな駅前での開業が関東進出第1号店でした。

そのブームは大変なもので、後期には虎ノ門の官庁街にまで出現したほどです。もっとも、客は満杯で、かつ禁じられていたおさわりなど、あの場所とは思えないほど客が下品だった…と友人から聞きました(笑)

ノーパン喫茶が廃れたのは人気がなくなったからではありません。
女性従業員にとって大敵の夏が来てしまったからです。
屋外から入店する客を考えるとクーラーは必需品です。しかし、薄着(ほとんどハダカの)女性従業員のことを考えると室温はむやみに下げられない。

結果、両方とも中途半端になってしまい、体調を崩して従業員確保はできないわ、暑いので客は来なくなるわ。システムの欠陥といえばそれまでですが、マーケティング上、極めて特異なプロダクト・ライフサイクルの終焉を迎えたのでした。

その後、風俗と合体したり(アイドルのイブちゃんの出身なので覚えている方も多いかも知れません)、ノーパン牛丼や新聞で話題になったノーパンしゃぶしゃぶのように、付加価値をつけたバリエーションが出現したことをご存じの方も多いでしょう。

ちなみに、関西のエッチなおさわりパブは、「ショー喫茶」と呼ばれるだけあって、夜間にはコーヒーを飲む客などいないのに、NTTイエローぺージではなんと「喫茶店」に分類されています。確かに東京のように客の横に座るのではなく、ウェイトレスとしてテーブル間を練り歩くスタイルなので納得といえば納得です。東京ではもちろんバー・クラブの分類です。

ドトールの進出とスターバックスの登場

さて、駅前や繁華街なら1軒は必ず見つかる喫茶店が、急に姿を消し始めた最大の原因が、ご存じドトールです。

見る見るうちに勢力を拡大し、現在では全国に700件のフランチャイズ店、売り上げ424億円をはじき出すトップコーヒーチェーンに成長しました。実際、1999年の飲食業ランキングでは、ロッテリア、つぼ八、ピザーラなどを押さえ、堂々の16位です。

ドトールは元々、コーヒー豆焙煎会社ですから、流通の下流への進出です。
現在の社長が喫茶店協会の海外研修に行ったとき、パリで立ち飲みコーヒースタンドを見てヒントを得たのが現在のショップでした。
そういえば、最初の頃のドトールは座席が一切ない店内でした。
当時は、カフェバーもライブハウスもスタンド式が流行り始めた頃で、狙ったとすれば立派な戦略です。

ドトールの衝撃的なデビューの成功要因は低価格です。
喫茶店で300円~350円が相場だったところに、150円という価格でなぐり込みをかけたのですから、大変なインパクトでした。
座席がなく、さっとコーヒーを飲むだけ。かつセルフサービス。だから安い。
決して、コーヒーの品質を落としているわけではありません。

その後、ドトールも座席を常備し、低価格の理由のひとつである「スタンドだから安い」説得性が薄れていきます。売り上げの拡大を狙い、顧客層を広げようとしたために取らざるを得なかった策だと私は見ています。

冒頭の「古いタイプの喫茶店」は次々と姿を消していきます。
生き残り策として従来型の喫茶店が選んだ道は様々です。
職人による手作りコーヒー、24時間営業、ファッション化など、ドトールに真似ができない差別化でした。

特にファッション化は、原宿のオープンカフェが大人気で、もてはやされたものでした。1996年頃の話です。
それでも、ドトールの快進撃が止まらなかったのは、他の古い喫茶店の客を奪っていったことと、オープンカフェは価格が異様に高く、さすがのドトールも客層が異なっていたせいです。

そこに、彗星のごとく現れたのがスターバックス。
第1号店の銀座店を皮切りに、あれよあれよという間に店舗数を増やしていきます。たった3年半で100店舗を越える勢い。2000年2月に開店した山王パークタウン店が、その記念すべき100号店です。

雑誌でもあちこちで紹介され、一気にスターダムにのし上がったのは皆さんご存じのとおりです。

たった4年の間に、テレビ広告もせず、これだけ知名度が上がり、イメージを定着させたケースは他業界でも珍しいことです。
いまや、「スタバ」という愛称を持つ若者文化として、いや30代以上の大人までも抱き込んで、首都圏では定着した感すらあります。

スターバックスをよく知らない方に説明しましょう。
スターバックスはアメリカ、シアトル発のコーヒー店です。
スタートは1971年。意外に古い企業です。
日本に進出したのが1996年。たった4年しかたっていません。

スターバックスの最大の特徴はその価格と商品です。
目玉が日本ではなじみの薄いエスプレッソ。250円。
一方のドトールはレギュラーブレンドがメインで180円。
もっとも、エスプレッソの売れ行きはいまひとつ。ミルクなどを加えたカフェラテなどのコーヒーが事実上のメインです。

さて、スターバックス躍進の原因はファンに言わせると「コーヒーの味」「お好みで味を自由に変えられる味」です。しかし、味は定性的な評価なので、この記事では言及しません。また、「味を自由に変えられる」のはかなり常連になってからでないと厳しい。数回行った程度では「専門用語が多く、複雑すぎて、訳が分からない」状態ですから、新規顧客が次々と押し寄せる現在のスターバックスの成功要因とはいえません。

スターバックスのKFS(Key Factor for Success成功要因)

それでは、何が成功の理由か。
なんといっても、その価格とおしゃれなイメージが原因です。
ドトールよりも価格は高いけれど、圧倒的におしゃれ。全席禁煙なのも、非喫煙客誘因に一役買っています。
当初は「立ち飲み」がおしゃれだったドトールもスターバックスが進出した頃は「サラリーマンやOLで混雑して、たばこの煙でむせるような」状態でしたから、その差は歴然です。

一方、おしゃれといえば、原宿などのオープンカフェやアフタヌーンティなどの喫茶店(カフェと呼んだ方が自然に聞こえます)も、時代が要請するおしゃれな店ですが、コーヒー1杯が700円~800円。スターバックスはそれより圧倒的に安い。

初期のドトールと同様、時代が後押しした面も否定できません。
ファッション誌やタウン誌がこぞってカフェ特集を組んだ時に、スターバックスがあちこちで記事として取り上げられたからです。

その結果、昨年の人気ピーク時は「スターバックスに行けばとりあえずおしゃれ」な意識が消費者にあったことは確かです。

そんな大躍進を遂げたスターバックスが、どれだけドトールに影響を落としたのかは、データがないのでなんともいえません。しかし、ドトールはスターバックスと同じ価格帯でエスプレッソをメインとした高級版エクセルシオール・カフェを展開し始めたことを考えると、全く影響がなかったとは言い切れません。

エクセルシオールそのものはスターバックス・ファンにとって物足りないおしゃれさですが、ドトールのようなガリバー企業にとっては防衛という意味で効果があります。顧客が逃げるのを防ぐ役割です。
また、客単価が高いのも大きな魅力。エクセルシオールの客単価はドトールよりも100円も高く430円。粗利益率も3~4%も高いのです。

スターバックスの影響はマクドナルドにも現れています。
マックは最近コーヒーをグレードアップし、品揃えも大幅に増やしました。
ブレンド150円、アイスカフェ(アイスコーヒーではないことに注意)170円だけではありません。
カフェラテ200円、アイスカフェラテ200円、カプチーノ200円、アイスカプチーノ200円と6種類に3倍もアップ。

これらの商品投入がスターバックス対策であることは、藤田田氏の最近の戦略を見ていると、いかにも自然な動きです。
彼は、マクドナルドの競合はハンバーガーではなく、他業界であることを明確に意識しているからです。半額キャンペーンも他のハンバーガーチェーン対策ではなく、コンビニ対抗であることは広く知られています。

もっとも、「おしゃれ」という観点でいえばマックは明らかに不利ですし、マックカフェも大失敗していますから、半額キャンペーンが「攻め」の戦略だとすると、「コーヒー・グレードアップ」はドトールと同じく「守り」の戦略となります。

スターバックスの戦略シナリオを考える

他業界にまで警戒心を抱かせるスターバックスは、快進撃を続けているように見えます。
ドトールにせよマックにせよ、守りはできてもスターバックスを脅かす存在ではないからです。

それでは、本当にスターバックスに死角はないのでしょうか。
確かに、現在はありません。言い切ります。
スターバックスにきちんと対抗できる店や業界は存在しません。

しかし、近い将来、試練の時を迎える可能性は十分にあります。
それを乗り切れるかどうかがスターバックスの分かれ道になりそうです。
後半は「私はこう見る」では珍しく、

「何がスターバックスの力を弱める可能性があるのか」

のテーマで、戦略シナリオを考えることにしましょう。

死角シナリオその1:人気過剰による店内混雑

スターバックスの重要な成功要因はおしゃれ感だといいました。
しかし、このことばは気をつけて使わなければなりません。
というのも、20年前ならいざ知らず、最近は「おしゃれ」と一言ではくくることができなくなってしまったからです。
古着もおしゃれですし、シャネルだっておしゃれ。
「おしゃれ」だけでなく、「どんな」おしゃれなのかを定義しないといけません。

それでは、スターバックスの「おしゃれ」は何か。
一言でいえば、「ヨーロピアン・カジュアル」あるいは「アメリカン・プレステージ」。
エスプレッソという伝統的イメージのヨーロッパの素材を使いながら、それを気軽に飲る。スーツを着こなしているのだけど、さりげなく上着のボタンを外す。
そんな「上質を自然体で」がスターバックスのおしゃれ感です。

これを他のものと比較すると分かりやすくなります。
例えば原宿のオープンカフェはあくまでもヨーロピアン。フランスのカフェをそのまま持ってきたのだから当然です。客が通行人に見られているということは、客もどこかで緊張感を持たなければならない。

一方、昔、流行ったハードロック・カフェやプロントはアメリカン・カジュアルです。
だから、ワイワイ、ザワザワなエネルギッシュなイメージが似合います。

内装や立地はもちろんのこと、空間の演出がそれらのイメージに合ったモノでなければなりません。
例えば、ハードロック・カフェはぎゅうぎゅう詰めが基本空間です。広い店内に客が数名しか入っていないところを想像すれば、違和感がたっぷりあることに気がつくことでしょう。

スターバックスの空間演出は「ゆったり」が基本ですが、適度なざわめきがないといけません。ゆったりだけでは、「ルノアール」や「談話室 滝沢」になってしまう。

その演出は、内装でいえばコーヒーの器具などが雑然と並んでいるところから醸し出されます。メニューでいえば、エスプレッソだけではなくレギュラーコーヒー(本日のコーヒーと呼ばれます)などの選択肢が並び、ケーキやクッキーもある。
コーヒー1品しかないメニューでは高級感がありすぎるか、貧粗なイメージになってしまいます。

ざわめきを中和するのが、ゆったりとしたテーブル配置のレイアウトでした。また、スターバックスがブレークする前の適度に客が滞在しているところがその源だったのです。

逆に言えば、ドトールの「大衆感」は、あの狭いテーブルがところ狭しと並び、オフィス街の昼食時間には、おばさんやオヤジがぎゅうぎゅう詰めになってひしめているところから来たことを考えるとわかりやすいでしょう。

しかし、スターバックスの高いイメージを壊す動きが内部から出てきてしまいました。
昨年夏あたりからピークに達したスターバックス人気によって、それらの優位性がなくなりつつあるのです。
客が殺到しすぎてしまい、ドトールさながらの混雑ぶり。しかも、最近のスターバックスは以前より席数を多く取って、テーブル間が狭くなっています。
彼らは高イメージ維持よりも明日の売り上げを意識しはじめています。

当然、スターバックスにとって最も重要な差別優位性である「おしゃれ感」が弱くなってしまいます。エスプレッソというユニークな商品や内装だけで、従来のレベルを維持することができるのか。
断定はしませんが、かなり難しい局面に立っていることは事実です。

死角シナリオその2:客層の変化

人気過熱は客の数だけでなく、質も変化させます。
これがスターバックスの足をひっぱる危険要因になります。

外食産業にとって来店客はひとつのインテリアです
いくら内装に凝ろうが、メニューを工夫しようが、例えば中年のくたびれたおっさんばかりが集まる店には、若い女性は来店しません。
オヤジギャルはあくまでも一部の人たちです。大半は、オヤジの集団を敬遠します。

逆のケースもあります。
若い女性ばかりの店には寄りつきたくないのは、中年男性の偽らざる本音でしょう。

一部のクラブ(若い人たちのたまり場)が、渋谷などの繁華街から青山など移転していったのも、客に中高生が多くなりすぎて、非行のたまり場のようなイメージとなってしまったので、それを避けるためでした。

スターバックスがおしゃれなイメージを獲得したのは、出店場所や内装、そしてゆったりとした空間がおしゃれなだけでなく、客層もおしゃれだったからです。
しかし、人気が過熱すると、様々なタイプの客が押し寄せてきます。これまでの高いイメージをキープできる客だけではありません。

ヤンキー少年、文学少女、牛乳ビン底めがねのおにいちゃん、中坊(中学生)。一般的に「最先端のおしゃれとは遠い」人たちが店内を占めるようになってしまっては、「本当のおしゃれ人間たち」は逃げてしまいます。

死角シナリオその3:接客の質の低下

混雑と客層の急激な変化(と急激な店舗展開)は、従業員の質に大きく影響します。
大量に客をざばかなければならない業種や会社は、鉄道会社に見ることができるように、客を人間だと思わなくなる傾向が出てきます。
次から次へと客をさばくことに主眼が置かれるので、一人一人に気を配る余裕がないからです。

過去記事のファミレスやコンビニの接客にあるように、サービスを望まない・期待しない客が多くなると、いい加減な接客でも苦情か来ないので、サービス低下が著しくなる。

私がこの記事を書くために実に1年半ぶりにスターバックスを回り、一番びっくりしたのが接客レベルの低下です。
特に、混雑ぶりが激しく、金曜日の午後4時だというのに、席に座れずに行列が並ぶほどの渋谷Q-FRONTのスターバックスは「これがスタバ?」と、もう一度自分のいる場所を確認してしまったほどでした。

昔からスターバックスの接客は決して良い方ではありませんでした。
牛丼屋などのチェーン店から比べれば、立派ではありますが。
それが、今では牛丼屋どころか、駅前の立ち食いそば屋のおっちゃんよりも無愛想で、表情と口調には身体的・精神的疲れと「もう来るなよ、忙しいんだからさ」という紙が頬に張ってあるほどです。

一方のドトール。実は接客に関してはチェーン店の中ではかなり良い方です。個店によって差はあるものの、アルバイトといえども基本ができいる店が多い。実際、日経リサーチの調査でも、接客は低価格コーヒーチェーンの中でトップの39ポイント。スターバックスは29ポイントしかないことを見ると、客観的にその差が分かります。

もっとも、ドトールといえどもオフィス街の昼間はどのドトールも必死の形相で、接客も何もありません。しかし、渋谷のスターバックスよりは数倍フレンドリーで丁寧です。
ちなみに、同調査で「待たされない」評価はドトールで67ポイントであるのに対して、スターバックスは42ポイント。1.5倍の開きがあります。

ドトールがおしゃれでないと悪口をいう人に、看板を外して、制服を取り替えたら、

「ああ、やっぱりドトールの接客なんてこんなもんだよな。
それに引き替えスタバはいいよな」

と誤解するくらいに、差があるのです。

接客を気にする客は無意識であっても、早晩スターバックスから足が遠のく可能性があります。
だって、元々スターバックスのイノベーター(初期のファンたち)は「ちょっと大人のおしゃれ人間」ですから、ファミレスの「接客なんかどうでもよい。むしろ、従業員に干渉されなくて良い」層ではないのです。

後に残るのは、接客なんて気にしないミーちゃん、ハーちゃんという訳です。
そして、それは更なる客層の質の低下に繋がってしまうのです。

死角シナリオその4:出店数と出店地域の飽和

先ほどの混雑状態と客層は「立地が同じならば」という前提付きでお話を進めました。
3番目の死角はその「立地」の話です。

店舗形態のサービス業は立地が大きな要因となります。
とはいえ飲食業にとっての「立地」は大した優先順位ではありません。飲食店が成功するかどうかは、

【1位】料理などの「商品」の質
【2位】価格
【3位】従業員

がトップ3の要素で、次に続くのが内装と立地です。
立地はあくまでも、おまけ的な成功要因です。

それでも、立地は大きな比重を占める場合があります。
1つは衝動買いが見込め、スピードがサービスの本質のひとつの店の場合。:
その典型的な例がファーストフードです。
「早い、安い、うまい」の最初に来るように、客はできるだけ無駄な時間を費やさないためにファーストフード店に来店します。
実際、マックの出店基準は厳しいことで有名です。
自社基準よりたった5メートルでも外れていれば、その候補地はアウトです。

立地が重要な位置を占めるもうひとつのケースは、イメージが大事な店の場合です。
マクドナルドは1971年に銀座三越の1階に出店して成功物語の発端を作りました。
一方のケンタッキーフライドチキンは、大阪に第1号店を出店したものの、一度日本から撤退しています。

スターバックスがもし、御徒町から日本に進出していたら?亀戸や松戸に第1号店があったら、蒲田に早々と店を作っていたら…
熱狂的なスタバ・ファンは気にしないでしょうが、「ちょっといいかな」と思っている一般ファンは幻滅するか、イメージがドトールに近くなる。

いえ、たとえ良いイメージができている今でも、これから出店する場所が上野、錦糸町、蒲田などの「非おしゃれ系」の街ならば、スターバックスのイメージは変わっていくことでしょう。

イメージ維持という観点からいえば、地方進出にも最大限の神経を使う必要があります。
東京、名古屋、大阪あたりなら、イメージ上、出店可能な立地はいくつもあります。
しかし、一般的な地方都市では、せいぜい主要な繁華街に1~2店が限度です。人口が85万人都市の熊本ですら、上通りあるいは下通りの一角に1店を構えたらおしまい。

かつてディスコの王者の名を欲しいままにしたマハラジャも、地方進出によってイメージに傷がついたことを思い起こします。売り上げは拡大するけれど、後がない。堀り尽くしたらおしまいです。
もっとも、マハラジャのようなディスコ文化は流行り廃りが激しいので、首都圏で廃れる前に地方進出で荒稼ぎをし、自らビジネスから身を引く意図が隠れ見えていましたが。

実際、スターバックス第1号店は銀座です。「ヨーロピアン・カジュアル」のおしゃれなイメージをつけるには格好の立地でした。
一方、蒲田などの「非おしゃれ系」地域にはまだ進出していません。
今のところ、イメージ維持のための立地選択には気を使っているようですから、大幅なイメージダウンを心配する必要はありません。

このことは、逆に言えば、スターバックスは売り上げ至上主義を取ることができないことを意味します。店舗数をむやみに増加できない。チェーン店ビジネスでは、1店舗あたりの売り上げ増加を狙うのは限界があるからです。店舗数を増加できない限り、売り上げ増加は期待できないのです。

スターバックスを一過性のブームで終えるのか、長いビジネスにするのか。それによって、大きく出店戦略は変化します。

スターバックスの甘美なる宿命

スターバックスは元々希少性のコントロールが必要な道を選んでいます。
つまり、売り上げを一定以上に上げることができない性質を持っているのです。
売り上げをむやみに上げようとすればするほど、ドトールとの差別優位性が縮まる運命です。

そして、最も大事なのはドトールとの価格差がこのままである限り、差別優位性の差が縮まれば縮まるほど、ドトールの方が有利になるという宿命を負っている。
それが現在のスターバックスです。

なぜか。
スターバックスはおしゃれという魅力だけで、ここまで伸びてきたからです。逆に言えば、その根幹を傷つけるようなことをすると、マイナスの影響が大きすぎてしまう。「親ガメこけたら、みなこける」状態です。

では、スターバックスはどうしたら良いのか。
おしゃれ以外の魅力を作り、二人三脚体制にするしか方法はありません。
そのひとつのヒントは「コーヒーとは私たちにとって、一体何だ」という問題意識です。
コーヒー「も」扱っている店はたくさんあります。でも、コーヒー「しか」扱っていない店は、スターバックスとドトール(と喫茶店)だけなのです。

だから、コーヒーを飲むことによって私たちが何を得るのかをきちんと考えておかなければ「スターバックスに行こう、行きたい」ではなく、「仕方がないから、スターバックスでも行こうか」になってしまいます。つまり、スターバックスは私たちにとって、あってもなくても良い存在になってしまいます。

さて、それではコーヒーとは?
紙面が限られているので、とりあえず「ほっとすること」としましょう。
「癒し系」元祖(?)の飯島直子が出演した缶コーヒー、ジョージアの広告やジャンパー懸賞キャンペーンの成功を見るまでもなく、コーヒーの大きな力のひとつは「ほっとする」です。

しかし、これだけでは足りません。
「ほっとする」といっても、「誰にとって」が抜けているからです。
例えば、私にとって「ほっとする場所」のひとつが、34年の歴史があるロシア料理店の渋谷ロゴスキーというレストラン本店です。

しかし、20歳前後の若いひとたちにとって、ロゴスキーは伝統的な店内やナイフとフォーク、そして丁寧な接客が醸し出す「高級店」であり、肩肘を張らなければいけない店です。

一方、私にとって、クラブ(昔のディスコのような店。ホステスはいませんです)は、音楽がガンガンうるさいだけで、ほうほうのていで逃げ出したくなる場所です。
ところが、50年代、60年代のオールディーズのライブ演奏があるパブは、私にとっては、どれだけうるさくても「ほっとできる」場所なのです。

ドトールがなぜ成功したのか。
価格が安いことも大きな要因です。
しかし、元々、コーヒーを飲むことで「ほっとした」状態になることができたからだと私は考えています。

もう一度、当時の状況を思い出して下さい。
街には、喫茶店くらいしかコーヒーが飲めるところがない。しかも、300円なので一旦座ったら、ある程度時間を過ごさないと損な気がする。

一方、ドトールは立ち飲みであっても、いや立ち飲みだからこそ、外出したビジネスマンが、さっと入って一杯のコーヒーと1本のたばこを楽しみ、「さ、行こうか!」と気を引き締めて取引先に行くか帰社する。
その一瞬の「ちょっとした『ほっ』」が、せいぜい缶コーヒーの1.5倍で得られるのです。

一方、当初スターバックスが人気を集めたのも、ひとつには「たばこの煙が苦手な人」にとって、ドトールは「ほっ」ができる場ではなかったからです。全席禁煙のスターバックスは彼らにとって、まさに「ちょっとした『ほっ』」が得られる場所でした。

ちょっとおしゃれ人間にとっても、アフタヌーン・ティはある程度時間を潰さないと700円はもったいない場所でした。しかし、低価格のスターバックスは彼らにとっての「ちょっとした『ほっ』」です。

「ちょっとした『ほっ』」が得られない混雑ぶり、座席の狭さ、そして荒い接客。それを前提にして、「おしゃれ」という表面に隠れた本当の「ちょっとした『ほっ』」をどうやって提供できるのかをもう一度考えること。それが、これからのスターバックスの存在を決める最も重要な点です。
それは何か、いやスターバックスが、そもそもそのことに気が付くか。
まだまだおもしろくて目が離せない業界です。

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