長らく、デザインの分野は感性の塊であると言われてきましたし、現在でもその地位は揺るぐことはありません。
一方で、デザインの良し悪しで売上が変わることは江戸時代の昔からの真実であったし、その重要性は今も昔も変わりません。
しかし、デザインの世界はそれがゆえに、論理や数字が入り込む余地が少なかったのも事実です。マーケティング調査を実施し、デザインの試作品を並べて生活者に好き嫌いを評価してもらったり、それぞれのデザインに対する生活者のイメージを探り、そのデザインの持つ「総合的な」方向性の評価を調べるのが精いっぱいでした。
デザイナーは、結局デザインを作るときは自分の世界を信頼し、それに従ってデザインを組むという昔ながらの方法でしか作業ができません。できあがった試作品について、「生活者は、これが良い」「これはイメージが●●だった」という結果は知らされますが、「どうしたらもっと良いデザインができるのか」という点になると、とたんに従来のマーケティング調査は頼りなくなります。
デザイナー、特に、パッケージデザイナーはデザインを「要素」という単位に分解してものを考えます。そして、それぞれを配置することによって、1つのデザインを作っていきます。
デザイン・ファクター分析とは、デザインを「最終的な配置済みの形態」ではなく、その「デザイン要素」の段階でデザインを評価していこうという考え方です。従って、「できあがったもの」ではなく「できる前」のための、デザイナーのための調査です。
デザイン・ファクター分析はデザイナーももちろんですが、デザイナーに対してオリエンテーションを行う立場の部署や役職の人間に向けた手法なのです。
まずは、事例を見ていきましょう。構造は至ってシンプルです。
「マイルドセブン・ワン100's」のパッケージデザインを要素別に分解すると、下図の右のように6つの要素に分解されます(左下は箱の上部デザイン。胸ポケットにたばこを入れるとこの部分が見える)。
各要素の左の数値が「マイルドセブン・ワン100's と聞いて思い浮かべる」割合、右のパーセントが「好きなデザイン要素」です。
すると、「MILD SEVEN」の大きなロゴ(上段中)や、上部デザイン(下段左)は、「思い浮かべる割合」は61.9%、58.9%と高いものの、「好き」なデザインではありません。
反対に、縦のライン(中・下段右)は「ブランドを思い浮かべる」訳ではないけれど、「好き(32.1%)」なデザインです。
そして、そのバランスが最も取れているのが、「One」という書体(上段右)です。「ブランドを思い浮かべる」し、「好き」なデザインなのです。
【注】これらのデータはダミーです。実際に実施した調査結果ではありません。
ここまで分かれば、後は簡単です。
このデータを元にすれば、以下のようなデザインに対する解答が容易に出てきます。
そして、最も重要なのは、デザイナーに対して「事前に・試作品を作る前に」これらの問題意識の方向性が提示できるという点なのです。