コンジョイント分析はアメリカでは調査会社の75%が使用経験があるという程ポピュラーなのに、なぜか日本ではまだ知られていない調査手法です。
シストラットはコンジョイント分析を日本で事実上最初に導入した企業です。
PSM分析と並んで、コンジョイント分析に関しては日本でもトップクラスの臨床例を持ち、双方ともに私たちの代表がシストラットを興す以前の1985年から28年間の経験とノウハウの蓄積があります。
コンジョイント分析とは、商品やサービスを構成する要素(規格や性能)の最適な組み合わせを探る手法です。
例えば、ミニコンポの場合を考えてみましょう。
ミニコンポが持つ規格や性能の項目といえば、
といった基本要素に加えて、
等々が上げられます。
コンジョイント分析では、生活者から見た要素の最適な組み合わせによる製品設計や商品改善企画が可能になります。
「え?それなら、単純にそれぞれの項目について『あなたが商品を選ぶときに大事だと思う項目に○をつけてください』と、重視点を調査すれば良いだけじゃないのか?」と疑問を持たれる方も多いでしょう。
実際に調査をしてみると分かります。回答者である生活者は「どれに○をつけても良い」となれば、「あれも欲しい、これもいいな」と次々に理想を追いかけることになります。従って、○だらけの回答が出現するだけです。
もちろん、どの項目が人気があるかを知りたい場合は従来の手法でもかまいません。「音質を重視する人が一番多い」「次に価格を重視する人が続く」という当たり前の結果の羅列になること請け合いですが。
ところが、商品の構成要素の組み合わせを知りたいとなると、○をつけるだけの方式では限界があります。
○をつけるだけの方式では人気のある規格ばかりを上から10個採用して商品を作れば、最高のものができます。しかし、実現不可能なものを取り除いていくと、結局他社と同じ商品が出来るだけです。
また、この要素の中に価格を入れようものなら悲惨な調査結果ができあがります。
の商品が最高に受け入れられるスペックです、と言われても開発チームは頭を抱えるだけです。「そんな高品質で安いコンポなら俺だって欲しいわい」と、皮肉の一つも言いたくなります。
人間はバランスを常に計算して生きている動物です。
「あちらが立たねば、こちらが立たず」といった状況は日常茶飯事。私たちは常にそれを乗り越えて生活していると言っても過言ではありません。
その時の判断は「どれを重視するか」といった単純な話ではありません。例えば音質は「ドラムの音がタンバリンのように安っぽくては困る。数千円ならもう少し良いものに金を出しても良い」。
かといって「プロが聞いて唸るほどの音質はいらない。それなら数千円でも安いほうが良い」と言った具合です。
ここに、音質と価格のシーソーゲーム関係(トレードオフ)が生じます。
音質と価格の2つの要素だけでも面倒なのに、コンポの10個も20個もある規格や機能を同時に検討するとなると、すべてに網の目のようにシーソーゲームをしなければなりません(下図)。
「どれを重視しますか」という単純な質問と人気投票調査だけでは、商品開発のスペック決定には対処できないことがお分かりでしょう。
コンジョイント分析は、こんな問題をきれいに解決してくれます。
例えば、下図はコンポの価格について、生活者の重視度をコンジョイント分析で測った結果です。商品価格はある程度安いほうが人気が高いものの、安すぎるとそれ以上重視度が伸びないどころか、かえって、重視度が低い、つまり、敬遠されるということがわかります。これは、従来の「いくつでも○をつけて下さい」式の調査では得られないものです。
さて、ミニコンポを構成する要素(規格、機能)のすべてについて、これらのポイントがわかるということは、それらの数値をすべて足し上げると、そのミニコンポの総合的な「魅力度」がわかることを意味します。
しかも、何10億通りもの組み合わせのスペックのミニコンポの評価がコンジョイント分析では机上で検討できてしまいます。
例えば、
が、一発でわかってしまいます。
また、例えば、あるスペックは生活者の受容性は高いけれど、現在の技術では不可能だが、長期目標としては実現可能だということもコンジョイント分析ではわかります。コンジョイント分析は技術投資の方向性を探るのにも役立つのです。
それまでは、ひとつひとつモックアップ(試作品)を作り、5〜6個の候補についていちいち調査しなければななかったことを考えると、極めて使い勝手の良い方法です。
私がこの手法を始めた28年前は、カードにそれぞれのスペックを書き込んで、それを調査にかけ、コンピュータに入力していました。現在、SPSSという統計ソフトにコンジョイント分析が標準で装備されるようになってから、コンジョイント分析に注目が集まるようになりましたが、所詮、SPSSもカード式です。調べられる項目はわずか20〜30個に過ぎません。
今は270個まで対応できるパソコン用の専用ソフトがあります。良い時代になったものです。
コンジョイント分析は、効率的により良い商品を設計、企画する補助となりますが、これによって、不毛な開発競争も避けられます。
例えば、スマートフォンではメモリ容量を重要するユーザーが多くいます。
アプリが20本しか入らない、写真が500枚しか保管できないのでは確かに不便です。では、メモリ容量はあればあるほどその機種の魅力が高くなるのか?
違いますよね。
32GBもあれば写真数万枚、アプリ数千本は収納できます。動画さえ記憶させなければ持て余す容量です。それでは、どれだけの容量があれば生活者は納得し、他の機能にも目が向くのかがわかる方が企業にとっては有益です。
また、iPodにしても、2万曲も入るiPod classicよりも、2千曲しか入らない軽くて安いiPod Miniの方が売れたのはご存じのとおりです。
メーカー技術者も「本当にこんな大きな容量が必要なの?」と思っていながらも、企画部門から要求が来たり、販売店が「大容量と言ったほうがお客さんに売りやすい」というような言葉をまともに受けて作っています。何かが変です。
優秀な技術者は例えソニーでも数が限られています。生活者不在のままのメーカー同士の競争をする位なら、別なことに彼らを投入したほうが余程差別性のある、高性能な商品が出来ます。それに賛同するのなら、コンジョイント分析は金属疲労のような不毛な開発競争に見切りをつけることができるのです。
なお、今回の例ではわかりやすいハード商品をあげました。一方、靴やバッグ、たばこやビールなどの感覚商品、嗜好品と呼ばれるものにもコンジョイント分析が応用できることを付け加えておきます。
最近は統計ソフトやエクセルにもコンジョイント分析が装備され、気軽にできるようにはなりました。しかし、大学で学生が研究するならまだしも、企業の実務に使えるものではありません。
最も詳細なコンジョイント分析ができるのがACAと呼ばれるコンジョイント分析専用のソフトです。次に、カード数10枚を使用した方法、そして、もっとも簡易な分析しかできないのが一般統計ソフトに組み込まれているコンジョイント分析機能です。
コンジョイント分析専用ソフトは30属性(上で説明した「大きさ」「デザイン」「価格」など)にそれぞれ9水準(「A4版」「デザインA案」「10万円」など)の270項目が設定できるのに対して、カード方式と統計ソフトでは5属性にそれぞれ3水準の15項目がせいぜいです。
従って、カード方式と統計ソフトでは重要な属性をあらかじめわかっていなければならず、場合によっては属性や水準を絞り込むために事前調査が必要になり、期間も予算も大幅に増えてしまいます。
一方のコンジョイント分析専用ソフトでは、「とりあえず、入れるだけ入れてみる」ことが可能なので、実務的には大きなメリットがあります。
あえて精度の点数をつけるとすれば、コンジョイント分析専用ソフトが100点、カード方式が30点、統計ソフトタイプが20点と、大きな差があります。