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「グループダイナミクスは信用しない」
シストラットの定性調査の基本です

「グループダイナミクス」はなぜ日本では通用しないのでしょうか

現在の日本のグループインタビューを支配する思想は「グループダイナミクス」と呼ばれる考え方です。
これは、1つの同種のグループを集めた場合、自発的に対象者が発言すると自然と1つの結論にまとまる、というアメリカのグループインタビューの基本思想に乗っ取っています。

その結果、何が起きるのか。
たった1人の「うるさい」対象者がずっとしゃべり続け、結局2時間の制限時間が終わってしまう。司会者はその間、制止することもなく、他の人に発言を求めることなく、ただ「次のテーマ」を提示するだけです。
グループダイナミクス信奉者はこれでよし、とします。

本当でしょうか?
せっかく1つのグループ6人分のリクルート費用、会場費、お茶代、謝礼を用意したのに、1対1でのインタビューと変わらない結果しか出てこないのは、どうにも納得が行かない。そんな素朴な疑問からシストラットはスタートしています。

他人に対する国民性の違い

「グループダイナミクス」は元々アメリカから輸入された考え方です。
アメリカでは、ディベート番組の視聴率が高かったり、高校でディベートの授業があったりと、「議論をする」ことが当たり前の国民性を持っています。
また、調査に参加することは自分の意見が反映されることであり、光栄な事だと考えます。ですから、日本では当たり前の高額な「調査謝礼」はアメリカには存在しません。皆、無償です。

一方、日本人はまだまだ「人との意見の戦い」を回避する傾向にあります。また、調査への参加は「面倒なこと」として、あるいは「ちょっとしたこずかい稼ぎ」として受けとめられています。
ですから、「うるさい」対象者がいれば、その人と違う意見を言って気まずくなるのは避けたいと思います。また、発言をして参考にしてもらう、というより、2時間ほど黙っていれば数1,000円、あるいは1万円近いこずかいが入ってくるという意識があるので、ますます「うるさい」対象者に任せておけばいいや、という心理になるのです。

実は前提条件に当てはまっていない、日本の「グループダイナミクス」

「グループダイナミクス」では、以下の2点を条件として上げています。

●同一グループが
●発言を繰り返すことで意見が昇華する

しかし、両方とも、日本のグループインタビューの現場では実現できていないケースが多々あります。
アメリカは単一民族の国家ではないことはご存じの通りです。従って、それぞれの価値観は「都会 vs 田舎在住」「白人 vs 黒人」「収入」などで明確に分かれます。だから、グループインタビューのリクルートでも条件が付けやすいので、対象者を集めやすいのです。

ところが、日本は単一民族ですしメディア等の発達により、例えば「都会 vs 田舎在住」で価値観が違うことはもうありません。戦後しばらくは年代で価値観が異なりました。戦前派と戦後派がその代表例です。しかし、団塊の世代がオヤジっぽくなくなり、20代のオヤジ・ギャルが台頭し、10代のオバタリアン化が進んでいる現在、その常識はあてはまらなくなりつつあります。

ただ、個人的に見ればこういう傾向があるにも関わらず、他人が入るとなると、一気にその個人の価値観は歪んでしまいます。
例えば、同じ価値観を持っていたとしても、20代前半の OLを40代主婦のグループに入れてしまうと、OLの発言が激減してしまいます。同様のことは、20代社会人と学生、女性と男性の組み合わせで言えるのです。
すると、「同じ価値観(同一のグループ)を持っているのに」「席を並べて意見を聞く」のは実質不可能だと言わざるを得ません。

「鈴木さんと同じ意見です」は「発言」ではありません

さて、2番目の「意見の昇華」はどうでしょう。
良く見受けられるのは、「うるさい」対象者の後に、例えば司会者に「あなたはどう思いますか」と聞かれると、同席の人の「鈴木さんと同じです」という回答だけで、納得して次のテーマに移っていってしまうことです。
端から素人目で見ても「議論による意見の昇華」ではないことは明らかです。
実際、一人一人、きちんと意見を聞く【One on One グループインタビュー】では、「それでも結構ですから、田中さんのことばで教えていただけますか?」と水を向けると、「基本的には鈴木さんと同じ意見なんですが…」という枕詞とはまったく裏腹に、正反対の意見を述べる人も少なくありません。

また、一見発言が多いようでいて、「議論の昇華」になっていないケースもあります(【参考 : 本音が出にくいテーマもある】

発言が出てくるまで、黙ってジッと待つ。たった一人でも発言があれば、それをグループの代表意見として考える。どうしても、日本人に適用するのに無理があるのは当たり前です。

アメリカでグループインタビューをすれば、疑問は一気に解消します

私がこの件について、確信を持ったのは、クライアント時代にアメリカでグループインタビューを実施したときでした。
議論の白熱の仕方が日本人とはまったく違うのです。
「ああ、これなら『議論の昇華』ができるわけだ」
「こんなに白熱した議論なら日本で言う『司会者(master of celemony)』を『調停者、仲介者(moderator)』と呼ぶのが良く分かる」
と強く納得したのを今でも鮮明に記憶に残っています。

日本での構造的な問題

「グループダイナミクス」がアメリカでこその思想だというのは、グループインタビューの設計者が英会話を理解できなければ無理な話ですので、仕方がないところもあります。

実は、もうひとつ、構造的な問題があります。
グループインタビューの司会者(多くは設計者でもあります)は、極めて個人的な世界での業務しかできないのです。アンケートなどの定量調査では、複数のチームが実施、分析することも可能ですが、グループインタビューの現場では司会者は一人です。

バックヤードにはクライアントや調査会社の担当者がいますが、関係者以外は立入禁止の世界です。他人の業務をこなしているところを見ることはできません。従って、自分の師匠のやり方以外に冷静に観察し、自分の業務の参考にするといった機会がないのです。
そういう状況だからこそ、プロ同士の情報交換やプロ育成を目的に協会ができていますが、十分に機能していません。

そう。実は、最も多くて幅広い司会者を見ているのは、皮肉にもプロではないクライアントに他ならないのです。私はクライアント時代に述べ300人もの司会者を見てきました。その経験がなければ、恐らく今でも「グループダイナミクス」の信奉者だったでしょう。

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