よちよち歩くかわいさ全開の子犬や子猫はいつの時代も人気者です。
「子犬の頭を『かわいいね』と撫でているミーハーは、子犬がかわいいのではなく、『かわいいね』と撫でている自分がかわいいのだ」
という野田某の名言があります。真実をついている部分もありますが、生後50日くらいの子犬をかわいいと思うのは人間の自然な感情、と素直に認めたいものです。
私自身、動物は大好きで、本当は動物学者になりたかった人間です。ただ、長男なので、経済的なことを考えて獣医に目標を変更しました。
が、なぜか今はマーケティング・コンサルタント(笑)
もちろん犬猫も大好きです。現在はシェルティ(コリーの小型版)とシェパードを飼っています。お姉さんのシェルティがたった7kgなのに、体重38kgのシェパードがしかられてシュンとしている様を見ながら、
と、文句を言うのも楽しいものです。当の本人は、首をかしげて「えっ?」ってな顔をしていますが(笑)
世の中には飼う飼わないは別にして、犬好きと猫好きに別れます。
猫好きは猫に憧れる、猫と自分を重ね合わせる人が多いのが特徴です。
いつもはどこに行っているのか分からないし、声をかけても知らんぷり。だけど、お腹が空いたら、身をすり寄せて「にゃあ〜」と甘えてくる身勝手さ。猫が持つそんな「自由奔放」「気まま、気まぐれ」が魅力なのです。
一方の犬好きは、犬が主人に忠実で我慢強く甘えん坊だから好きなのですが、決して自分がそうなりたいのではありません。あくまでも、その対象となるのが嬉しいのです。皮肉な見方をすれば、犬好きのほうが身勝手なのかも知れません。
さて、そんな愛されるペットです。一部の団体から「ペットを売買するのは人身売買と同じく犯罪である」との主張があるにもかかわらず、ペット関連産業は拡大し続けています。今や3,000億円とも4,000億円市場ともいわれています。
CD市場の半分、いや、映画市場の2倍といえばわかりやすいでしょうか。
一時期、人気の的だったハウスマヌカンの代わりに、ペット・トリマー(美容師さん)が10代女性の人気職業になったりと話題にはこと欠きません。イメージの割に給料が滅茶苦茶安いのもマヌカンと同じです。
ペット産業は今回の不況でも例外なくダメージを受けており、アメリカの最大手ペットフードメーカー、ピュリナが日本市場から撤退したり、主要のペット専門問屋が相次いで倒産しています。しかし、他の産業から比べればましな方です。それだけ底力があります。
そんな一大産業ですが、雑誌やテレビで紹介されるのはペット専門葬儀屋だったり、珍しいペットだったりと、一般ウケを狙ったものばかりです。ペット産業に占めるサービス部門は推定で10%もありません。これは、獣医、ペットホテル、美容院等の古くからあるサービスを含めたシェアです。残りのうち、リード(引き綱)、首輪、おもちゃやケージ(檻)等のペット用品が20%。そして、ペット自身(生体)の売買が15%。つまり、半分以上(55%)がフードなのです。
ペット用品のマーケティングも非常に興味深いのですが、やはりここは王道ペットフードで攻めてみましょう。ご飯に味噌汁をぶっかけただけの犬猫の「エサ」だったものが、ペットの「食事」になったポイントを解説します。
ところで、ペットを飼っている家庭はたった20%程度です。つまり、読者の皆さんのうち、8割が身近でないテーマです。それでもあえてペットフードの話をするのは、市場規模が大きい割に知られていない産業だからです。比較的若い産業であることもひとつの理由ですが、「しょせん、犬猫のエサ屋」という蔑視意識が、ペット産業のマーケティング研究の足かせになっていることも否定できません。
今回の記事はペット産業のマーケティングの総合的な話を意識しましたので、マーケティング上の「あっ、と驚く」視点や発見がないかも知れません。その代わりと言っては何ですが、ペットオーナーだけでなく獣医さんも知らないような「話のネタ」を散りばめてあります。ペットが身近でない読者の方にも「ウケるネタ元」として使えるように記事を構成したつもりです。
今回は今まで以上に「1つのネタ話ギッシリ」です。読み疲れたらごめんなさい。
ここで、なじみのない方のために、簡単にペットとペットフードのお話をしましょう。
今回取り上げるペットは、最もポピュラーな犬と猫です。
犬と猫の飼育率はそれぞれ15%と8%で、犬が約800万頭、猫が約600万頭です。
ペットの飼育頭数の増加率はマスコミで騒がれている割には微々たるものです。犬猫ともに5%程度。ただ、猫の場合は映画がヒットすると飼育率が急増するミーハーな側面があります。
犬の場合、純血種の割合が圧倒的に増えました。今や、日本で飼われている犬の70%が純血種です(逆に猫の場合は30%)。
このうち、猫の数字には常に疑問がつきまといます。
というのも、この数字は調査員が戸別に訪問し、「お宅では犬や猫は飼っていますか」と聞いた結果です。実際に猫の数を数えたものではありません。
すると、何が起きるか。
タマという猫は森さんの家で朝食を食べます。しかし、昼間は渋谷さんのところで、夜は阿部さんのところで食事をします。平安時代の通い婚のようなものです。
森さん、渋谷さん、阿部さんはタマをそれぞれ自分のうちの猫だと思い込んでいます。つまり、調査上では3匹とカウントされていますが、実際は1匹しか存在しないのです。
いつも、自分の猫が朝食しか食べないと「変だな」と気がつきますが、猫は自然界では1日30〜40回も食事をします。ちょこっと食べて、すぐにいなくなり、またふらりとやってきてちょこっと食べる。それだけに実状は更に測りにくいのです。
読者の中で「うちの猫はいつも外に出ていて小食なんだけど」と思っている方は気をつけましょう。知らないうちに他人の猫だったという可能性があります。
いずれにせよ、ペット産業はたった一部の生活者しか対象にならないという、間口の狭い産業です。普及率12%程度というのはインターネット・ブームが起きる前のパソコン所有率と同じです。つまり、エクセルなどのパソコンソフトのテレビ広告をするようなもの、といえば分かりやすいでしょう。
次に、ペットフードを見てみましょう。
ペットフードには、その形態で分類すると2種類あります。
カリカリした食感でビスケットやせんべいのような「ドライ・タイプ」と呼ばれるもの。主原料は穀物です。
彼らは何をしたのか。
「くいつき」と「完全栄養食」を重視した商品開発です。
人間なら例えば「この値段なら、この味でしょうがないよね」と商品を内容以外でも評価できますが、犬や猫にとってみれば、そんなことは知ったことではありません。おいしいものはおいしい、まずいものはまずい。飼い主の都合など考えてくれません。従って、おいしい、つまり「くいつき」は最も重要な要素です。
次のキーワードは「完全栄養食」です。
これは、「水と完全栄養食のペットフードだけで、生命維持に必要なすべての栄養素が摂取できる」という意味です。
味の好みは限りなく人間に近い犬ですが、必要な栄養素はかなり違います。例えば、普通の人間の食事は塩分が犬の必要量の3倍以上もあるのに、リンは半分以下です。
毎日の食事です。常に栄養バランスを考えるのは大変な作業です。
完全栄養食のペットフードはその手間を大幅に減らしてくれます。
「くいつき」をいかに広告でうまく表現するか、についてもマスターフーズは図抜けた経験を持っています。
日本のペットフードメーカーの広告を見ると、制作者(ディレクター)がいかにペットを飼ったことがないかがはっきりわかります。商品を食べるシーンを見ていると、タレントの犬猫は「もぐもぐ」と食べているからです。
さて、「くいつき」と「完全栄養食」がキーワードのペットフードですが、商品を買うのは飼い主である人間です。従って、「実際のくいつき」だけでなく、上に紹介したように「くいつきが良さそう」な演出を初め、人間に訴える要素が必要です。
そのもうひとつのポイントは商品開発とネーミングです。
「作るのが簡単だし、儲かりそう」という安易な発想で新規参入したホクレンやアサヒビールはあえなく敗退。マスターフーズはその圧倒的な広告投下量とともに、「人間」をきちんと見すえたマーケティングで成功しました。
さて、これだけ普及したペットフードですが、結局生活者はなぜペットフードを買うのでしょうか。
ペットオーナーには大別して3種類います。
まず、伝統的な犬猫を動物として考えている人たちがいます。番犬として犬を飼っているような人たちです。
2つ目のサブグループはドライフードはかわいそうだと、ペット用の肉や魚をわざわざ購入する。家族用にカレーを作るとき、煮込んだ肉や魚をカレー粉を入れる前にペット用に取っておく、等の行動が特徴です。猫の食事の習性を知らずに、缶詰を与える等の行動もこれにあたります。