3月9日、JTがアメリカで第2位のたばこ会社、RJレイノルズの海外販売権を9,500億円で買収した、と報道されました。
日本企業による最大の買収額と言われています。
周囲の人たちの反応を見ていると、若干の誤解があるようです。
JTはレイノルズ自体を「買収した」のではなく、海外販売権を買い取っただけです。
つまり、アメリカ本国では「セーラム」「キャメル」「ウィンストン」等の同社のブランドは、今までと同じようにレイノルズが製造、販売します。
そして、JTが海外販売権を取得しても、製造はあくまでもレイノルズです。
だから、ソニーや松下の買収とはちょっと様子が違います。
意外に知られていませんが、たばこは最も国際的な商品のひとつです。
従って、海外の販売権の売買は日常茶飯事なのです。
例えば、日本で売られているラークはマールボロ、バージニアスリム、パーラメントやPMライトを持つ最大の外国たばこメーカー、フィリップモリスのブランドですが、アメリカではL&Mという小さなたばこ会社のブランドです(今は消滅しました)。フィリップモリスは、海外販売権を買い取ったのです。その最大の目的は日本市場。
当時のラークはアメリカでは22位の弱小ブランドでした。日本の販売本数のほうが多かったくらいです。海外では日本の他にはエクアドル(だったと記憶しています)で売れていただけ。彼らの狙いが日本市場であったことは明らかです。
というのも、今でこそマールボロやバージニアスリムが人気ですが、当時はパーラメントですら、一部の夜のブランドに過ぎませんでした。私が若い時は「やーさんのラーク、トルコ嬢のパーラメント」と言われていたのです。今のイメージといかに違うことか。
だから、フィリップモリスは日本市場への足がかりとして当時の「洋モク(外国たばこ)」のトップブランド、ラークの販売権が欲しかったのです。
これはこれで、大変おもしろいマーケティングの事例ですが、別な機会にゆずりましょう。
JTがレイノルズの海外販売権を生かして頑張って欲しい、と愛煙家の私としては、密かにエールを送っています。
さて、このメールマガジンで私は、「1日120本の喫煙本数」とか「直径30cmの灰皿を山のようにして」といった表現を堂々としています。私はたばこが大好きだ、ということを隠さないでいられます。
が、現実の愛煙家にとっては厳しい世の中です。
たばこが吸える場所がどんどんなくなって行くからです。
仕舞いにはアメリカのように、「たばこを吸う人間(や肥満)は自己コントロールができない、ダメ・ビジネスマン」とレッテルが貼られてしまうのでしょうか。
「いや、もうそういうイメージがあるよ」と言われたこともあります。
自分を振り返ってみると、実にたばこと縁が深い人生でした。
私の父親はたばこ関係の仕事に従事していました。私の学費や食費はたばこから生まれたものです。
私が渡米した先は、ノースキャロライナ州。全米の葉たばこ生産量の約40%を占める州です。そして、私はデューク大学卒業。たばこで大儲けした人物が作った大学です。
日本で就職した最初の企業は、時代のせいもありましたが、たばこは自由に吸ってよし。
ところが、その後、様子が変わります。
31才で転職した外資系企業は採用面接時の「ここのオフィスは禁煙ですか?」という質問に「違います」という回答があったから転職を決めたのに、1年後には禁煙。
次のコンサルタント会社も禁煙なら転職は止めようと思っていたのに、そうでないから、と決めたとたん、時間禁煙そして完全禁煙に移行。
「転職条件と違うから、違約金を払え」と本当に言いたかったものでした。
転職条件のひとつに喫煙がある、なんて本気にしている人はいませんから、裁判をやっても負けるでしょうが
(笑)
そんな私ですから、シストラットのオフィスは全面的に喫煙OKです。
「森さん、独立したのはたばこが吸いたかったからでしょう」
と友人に言われたことがありますが、半分は本当です。
シストラットの社員やアルバイト採用の時には絶対条件が2つあります。
1つは1つはナイショ (笑)、もうひとつは「たばこの煙がOKな人」です。
自分でたばこを吸う必要はありません。煙が気にならないことだけが条件です。事実、シストラット社内の喫煙者率は世間並みの3割です。特に多いわけではありません。
これがダメ、という方は双方とも持っている実力を発揮できず不幸になるので、どんな優秀な方でも涙を飲んでお断りしています。
クライアントでも同様です。
最近、「お客さんも禁煙」という会社が増えつつあります。
そういうクライアントのお仕事はお断りするようにしています。
というのも、たばこなしに1時間を越えると、私の頭の回転が鈍るのでクライアントに迷惑をかけることになるからです。
半分は言い訳なのは素直に認めますが (笑)
そんな、たばこ寄りの私ですが、今回はその元凶 (?) を実にうまく作り上げた、反喫煙運動の戦略を紹介します。
今回のケースは、企業のようにある1社が戦略を構築したのではなく、それぞれの反喫煙団体が勝手に動いているのに、あたかも1つのグループが動いているような無駄のない動きをしている、という実に稀な例です。
当然、この事例は「社会をどう動かすか」という視点だけでなく「生活者の心理をどう変容させていくか=商品をどう売るか」という問題意識にも十二分に参考になる、と考えています。
なお、私はこの記事で喫煙の擁護をしようとしているわけではありません。事実をベースにうまく情報操作をした嫌煙権グループに感心していることを、あらかじめお断りしておきます。
さて、嫌煙権の話をする前に、人はなぜたばこを吸うのか、という難しいテーマに取り組んでみましょう。
たばこのルーツはコロンブスが新大陸を発見したときにさかのぼります。
ところで話はいきなり変わります。
以前おもしろい事例がありました。
不凍液事件です。あの、クルマに使う不凍液です。
ここで固まっていても仕方がありません。
気分を変えるために、目を転じて嫌煙権運動を見てみましょう。
歴史的に見て、たばこへの弾圧は政治的に行われることが多かったのは事実です。
トルコでは喫煙がばれたら死刑という法律があり、かなりの数の犠牲者を産みました。当のイギリスでもたばこを吸ったら禁固刑という時代があったほどです。
話がずれ過ぎました。私の悪いクセです。
元に戻しましょう。
たばこの弾圧がじわじわと襲ってきている、という話でした。
「えっ、違うの?」というなかれ。
どんなものにせよ、一辺に大量のものを身体に取得して正常でいられるわけはありません。
ここでわかるマーケティング理論がいくつかあります。
まず、連想心理をうまく使うと、情報操作が可能になるということ。
さて、そこまではわかりました。
嫌煙権グループが巧妙に戦略を立てていたかどうかは別にして、かなり的を得た戦略を実施したことは確かです。
が、まだ、ひとつすっきりしません。
これがたばこの本来の姿です。
こうやって考えていくと、たばこという商品は嫌煙権グループが存在していなくても、商品としての存在理由が薄くなっていたのです。彼らはそれを後押ししただけです。
もちろん、極めて巧妙にそれを実行したという点は評価されますが。