男性の私にとって、女性の行動には不思議なことがいくつもあります。
そのうち、最近特に気になっているのが電車内など公共の場での食べ方です。
1971年、東京銀座で歩行者天国が始まりました。
その様子に対して「女性が歩きながら物を食べるとは、ふしだらだ」というような論調が多かったことを、当時高校生だった私は「へぇ」という目で見ていたことを思い出します。また、最近の歩きたばこについても、表立った批判はないものの不快に感じている男性が多いことは事実です。
でも、そのことについて考察するつもりはありません。
男だろうが女だろうが、歩きながら太陽がさんさんと降り注いでいる屋外で食べるものの味は格別だからです。性差はありません。
また、1日120本の喫煙本数の私にとって、女性がたばこを吸うことなど何とも思っていません。いや、かっこ良く吸っている姿には憧れさえ覚えます。20代の頃、ハイライトを吸っている女性を喫茶店で見かけ、その姿にしびれた私は思わず声をかけてしまった、という経験すらあります。
食べ物の分野でも、東京新宿のホームで缶詰のポークビーンズを一気にかけこんでいた20代半ばのスーツ姿の女性も、立ち食いそば屋で大盛りを注文する若い女性の光景などは日常茶飯事です。
個人的に言えば、電車の中で女性が何をどう食べようが、まったく関知しません。
・・・が、気になる。
最近時々見かける光景が、気になって仕方がないのです。
何がって、その食べ方です。
彼女達は一様に膝の上に置いたバッグに食べ物を忍ばせています。
パンやスナック菓子の類です。
ちょっとつまんで、サッと口に入れる。
そしてまた、バッグに手を入れ、また、つまむ。
これだけを見れば、何ということのない行動です。
でも、バッグに手を入れて口に運ぶ、そのサイクルが異常に短いのです。ちょこちょこと落ち着かない鳩のように、その機械的な仕種を続けます。
いくら、人の観察が私の情報源だといっても、すいている終電近くの隣席や前席でこれをやられたらたまりません。私が雑誌を読んでいようが、携帯ワープロでメールを書いていようが、視野の隅でちょこまかと動く物体があるのです。周囲は静止したまま。これで気にならないわけがありません。
人間は基本的には動物です。動くものに神経が集中するのは当たり前です。そうでなければ、草原で自分を狙う肉食動物から身を守ることなど到底不可能です。
私たちのプレゼンテーション・テクニックでも、ポインタ(指し棒)の使い方にはかなり神経を使います。OHPなどの静止画上に動く物体を置くと聴衆の注意を引きます。だからこそ、注意を喚起したい場所にポインタを使用するのですが、この使い方を誤ると、つまり、むやみにあっちこっち動かすと、聴衆に伝えたいことが散漫になったり、本当に注意して欲しい場所に興味が行かなかったり、といった不都合が起こります。
このちょこまか動く女性達ですが、先日数えてみたら、3分間に40回も同じ動作を繰り返していました。1回につきたったの5秒間。しかも、そんな回数をこなしていながら、手もとの15cm程度のフランスパンは半分以上も残っています。
コップの水をコックリ、コックリ、シーソーのように上下を無限に繰り返す「水飲み鳥」のおもちゃが思い浮かびます。あるいは「ししおどし」と言っても結構です。
数える方も暇だよなぁ、と自嘲気味に思いながら、向こう側の女性の手元を一心不乱に見つめている私。異様な光景です。
とうとう我慢できずに、知り合いの女性数人に尋ねてみました。
まず、皆、一様に笑い出します。
「あはははは、森さんも気がついていたんですか」
えっ?そんなに女性の中ではポピュラーなの?
・・という訳でもなさそうでした。
ここで、まず思い浮かぶのが牛丼です。
私が好きな食べ物というのが最大の理由ですが、それ以外にも理由があります。
牛丼や立ち食いそばを初めとする和風ファーストフードにとって、女性客はかなりマイナーな存在でした。
牛丼の場合は以下の3点が主な理由です。
そんな冬の時代が変化したのがつい3〜4年前です。
女性が牛丼を店で食べ始めたのです。
初動は学生のカップル。
お金がない彼らにとって、2人で1,000円でおつりがくる牛丼は魅力的な存在です。
とそれまではカップルですら女性の姿を見かけなかっただけに、ちょっとした驚きでした。
カジュアルフードではありませんが、確実に従来の女性の食行動から外れた、おもしろい現象が見られる店があります。
大戸屋という定食チェーンです。
牛丼、定食屋に限らず変化したのが「食べること」に対する姿勢です。簡単に言ってしまえば、「良く食べる」し「それを隠さない」のです。
10〜15年という短い間に確実な変化があります。
電車での「水飲み鳥式食事法」、女性の食べるものではないはずの牛丼に進出、定食屋に留まっていないですぐに帰る、男性の1.5倍を平気で平らげる。これ以外にも紹介できない事例を数多く発見しています。
そうやって、対象分野を広げて考えると実は「菓子」は極めて古くから「場の変化」を経験してきた業界です。
古くは遠足のお菓子、クレープを初めとして、現在ではコンビニ前にしゃがみこみ、パンツを見せながら仲間とたむろしている女子高生や、学校の教室で友だちとのコミュニケーションのためにお菓子を交換し合う。そういった菓子文化で見られるように、着実に「場の多様化」が進んでいます。
これは菓子メーカーだけに限りません。
「差別化ポイントがない業界だ」とふんぞり返って「自慢している(?)」プライドの高いメーカーほど、ちょっと見方を変えれば差別化要素などコロゴロ転がっているものです。本当に差別化ができない業界など数でいうと5%にも達しません。