ドラゴンクエストといえば和製RPGのトップに君臨するゲームです。
そのドラクエに10代目の新作が発売されました。ドラクエ10。
今回も客が殺到するのか。量販店に行列ができるのか。
ゲーム好きの私としては観察せざるを得ない作品でした。
このドラクエ新作、普通のゲームではありません。
ネットにつないで数10万人のユーザーとともに遊ぶネットゲームです。
MMORPG(MMO<大人数が同時に遊ぶ>RPGですが、この記事ではネットRPGといいます)と呼ばれるタイプのゲームで、モバゲーやグリーが提供しているネットで遊ぶ釣りゲーム、占いなどとは違います。
発売前からネットRPGを知っているドラクエファンの間では賛否両論。
素直に新作が出ることを喜ぶファンもいれば、ドラクエはネットゲームになったらドラクエではないとする保守派。ネットRPGで新しいドラクエが楽しめるとする革新派。様々な意見が入り交じりつつも、注目を浴びた作品だったのです。
そして、ついに2012年8月、サービスがスタートしました。
販売店には前日徹夜組も現れ、大盛況でした。
予約数は約10万本。固唾を飲んで見守った販売数量は1ヶ月後には約30万本という大ヒットを記録しました。
「えっ?ドラクエって400万本とか売るゲームじゃなかったっけ?
ケタが足りないんじゃ?」
と言ってはいけません。
ネットゲームで30万本は化け物です。
最大のヒット作ファイナルファンタジー11(以下FF11)は2年間で50万本を達成したくらいですから、どう見ても立派なヒットです。
数字は公表されていませんが、今までリリースされた「信長の野望」「女神転生」「大航海時代」「フロントミッション」など、オフラインで名作と言われるソフトのネットゲーム版はそこまでの売上げはありません。
さすがドラクエです。
…と言いたいところですが、しょせん30万本は30万本。
普及率でいえば0.3%しかありませんから、狭いマニア世界の中での「大ヒット」です。
ドラクエだからネットゲームの壁を破って、ついにネットRPGが市民権を得るのかどうか注目していた私から見ると肩すかしをくらった気分です。
ただ、ネットRPGにありがちな複雑で時間をかけないと遊べないようにしている他の作品と異なり、ドラクエ10は初心者に優しくする工夫が随所に設けられています。
子供に配慮した「キッズタイム」も設けました。
それよりなにより、FF11で10年間のノウハウをばっちりと蓄えたスクウェア・エニックス(以下スクエニ)の作品です。
もしかしたら、一度でも遊んだ人たちの高い評価がクチコミで広がり、30万本が50万、100万と増殖するかもしれません。
ということで、ドラクエ10のAmazonのレビューを覗いてみました。
855件のカスタマーレビューの内訳は…(2012年10月6日現在)
評価 | 人数 | 比率 |
---|---|---|
星5つ | 130人 | 15.2% |
星4つ | 133人 | 15.6% |
星3つ | 110人 | 12.9% |
星2つ | 96人 | 11.2% |
星1つ | 387人 | 45.3% |
むむ…星1つが半分を占めています。星5つはたった7人に1人…
いや、なんかの間違いですよね。10年もの長きにわたってFF11を運営してノウハウがたくさんたまっているスクエニですもの(^^;
一時期はスクエニの利益の半分をたたき出していたFF11の会社ですもの。
こんな低評価なんてあり得ない。
気を取り直して、FF11の後継作品のFF14のAmazonのレビューは…
307件のカスタマーレビューの内訳は…(2012年10月25日現在)
評価 | 人数 | 比率 |
---|---|---|
星5つ | 22人 | 7.2% |
星4つ | 28人 | 9.1% |
星3つ | 27人 | 8.8% |
星2つ | 30人 | 9.8% |
星1つ | 200人 | 65.2% |
…ドラクエ10もFF14もネットゲームですから売っておしまいではありません。
アップデートで中身はどんどん進化します。
つい先月もドラクエ10では最初の大規模アップデートが実施されたばかりですから、「10年間はサービスを続けたい」とスクエニが宣言しているので、まだまだゲームの内容は変わるのでしょう。
さて、私は2002年11月号付けでFF11をテーマにした記事を発表しました。
サービス開始直後のことです。
あれから10年。いまだにFF11を続けています。古株中の古株になってしまいました。
サービス開始の頃に友人になった人たち200人のうち、残っているのはたった2人。
友人からは「森さんまだやってるの?知り合いで残っている人なんて一人もいないよ」と呆れられる始末。
プレステ2とパソコンを使い、メインキャラとセカンドキャラの2人を同時に操作し、レベル上げも頑張りました。
現在、メインキャラもセカンドキャラも全20ジョブのうち19ジョブは最大値のレベル99。
レベル上げが簡単になった今なら全ジョブ最大レベルは珍しくもありませんが、レベル75キャップの時はメイン、セカンド合わせて全40ジョブのうち34ジョブがレベル75でした。
メインキャラもセカンドキャラも武器スキルは15個の武器のうち14個が最大値。
魔法スキル12個のうち11個が最大値。
合成は調理レベル99、木工59、錬金術60、裁縫60。
見る人が見れば頑張っているのが分かる状態です。
現実の仕事もきちんとこなしているので、それ以外のコンテンツはさっぱりです。
ちょっと古株ならほとんどのプレーヤーが経験している裏世界、空の四神などは一度も行ったことがありません。
高価な武器装備を落とす中ボスモンスター(以下「NMボス」と呼びます)の戦闘もほとんど経験ありません。
特殊な戦闘の入場券となる印章は7千枚も残っています。
ゲーム内の友人たちからは「レベル上げバカ」と呼ばれています。
そんな私のFF11経験をまとめることで、ドラクエ10をこれから始める人の参考にならないかと記事を書くことにしました。
同じスクエニが10年の経験を学習している訳ですから、その学習内容がドラクエにも反映される可能性が高いからです。
原稿を書き始めたら、普通のメルマガ4本分にもなってしまいました。
そりゃそうです。10年分の経験ですから書くことは多い多い。
しかも、ネットRPGをプレイしたことがない読者の皆さんにも分かるように書くのですから、どうしても解説が増えてしまう。
そこでテーマを絞りました。
「人」です。
プレーヤーがどう感じるか、どう変化するか。
普段のマーケティングでも、私の興味は常に「人」ですし、FF11でも人が絡む限り例外ではありません。
そこで、今回のメルマガは「ネットRPGの中の人」に焦点を当てました。
さて、サービス開始当初はどんな人々がいたのか。
開始当初については2002年11月号で詳しく書きましたので、詳細は割愛します。
簡単に言えば、
「FFの世界観を壊さないように、自分自身も住人の一人として振る舞う」
節度ある大人のプレーヤーが大半でした。
まさに「ロールプレイング(役割を演じる)の世界」です。
だからなのか、親切な人たちばかりでした。
プレステ2に加えてウィンドウズからのプレーヤーが大挙して押し寄せてきた時も同じでした。
FFの世界観を楽しむ人たちが大半。
サービス開始1年後にアメリカ、アジア、ヨーロッパと次々にサービスを拡大。外国人が増えてきたけれど、基本的には変わりませんでした。
一部、マナーが悪い人もいるにはいましたが、大半は「日本びいき」「大人」でした。
「何?お前、日本人のクセにアニメのナルトを知らないだと?
いいか、オレがナルトの魅力を教えてやる」
私はオヤジなので若い人の文化は知らないと言っても、長々とナルトの魅力を語り始める何人もの外国人たち。
日本に留学したことがある外国人。戦後日本に駐屯した経験があるアメリカ人。カタコトで「私、日本語、少し話せます」と話しかけてくるマレーシア人。
チャットで「arigato(ありがとう)」と返してきたので「hey! u speak really nice japanese,
dragonstar!!(ドラゴンスターさん、日本語がとてもじょうずですね)」と褒めたら、やたら照れまくるスウェーデン人。
キャラ名も日本語が目立ち、名前だけでは国籍がわからなくなりました。
Hanzo(半蔵)、Nekonohimitsu(猫のヒミツ)、makunouchi(幕の内)などの名前を見ただけでは外国人だとは判別できません。
日本人の多くがHeart(ハート)、Laugh(笑い)、Heloween(ハロウィーン)といった英語名を使うだけになおさらです。
せいぜいが、英語特有の単語や2〜3個の単語を繋げた名前で、外国人だと分かるくらいです。Watchyourstep(足元注意−タルタルという小さなキャラを使用)、Dragonslayer(ドラゴン退治)、Ninjastar(忍者スター)等々。
さて、日本人、外国人ともに時が経つに連れ、開始後2年ほどたった頃から異質な人たちが増えてきました。予想どおりです。
イノベータからフォロワーへの変化です。
異質な人たちの代表は「いかに自分のメリットになるか」を考える人たちです。
ジョブの役割をまっとうしないプレーヤーも異質な人たちの一種です。
回復役なのにモンスターを殴り続ける。理由を聞くと「回復役は楽しくない(けどワープ魔法を覚えるために仕方なくやっている)」
盾役なのに魔道士たちがモンスターに襲われているのに助けない。理由は「だって死にたくないもん(死ぬと経験値が減ります)」
本人(だけ)はいいのですが、チームが機能しませんからゲームになりません。
「自分から積極的に行動する」のではなく「受け身だが、文句だけは一人前」の人たちも異質です。マーケティング理論でいうフォロワーの悪い部分が出ている。現実社会でもネットでもそういう人種が溢れていますから、あえて説明しません。
ナンパやストーカーも増えました。
そのせいで引退したり、何百時間もかけて育てたキャラを泣く泣く削除して新規キャラを作り直す、サーバーを変えて逃げるなどの防衛策を講じた女性プレーヤーを私は何人も知っています。
それが過熱すると、嫉妬、略奪、策略が出てきます。
その極端な例が、高価な武器装備を落とす可能性があるNMボス狩りです。
戦闘終了後に落とした武器装備をルール無視でかっさらうのは当たり前。
対抗するチーム同士の足の引っ張り合いは日常茶飯事です。
ネット掲示板にあることないこと書き上げて、相手のリーダーや幹部プレーヤーを悪者に仕立て上げる。
事情を知らない一般ユーザーを扇動し、ゲーム内で嫌がらせを繰り返す。
標的となったプレーヤーは結局FF11を引退しなければならなくなります。
考えようによっては、とんでもなく素晴らしい能力です。
何十人ものメンバーを束ねるだけでなく一般大衆を操作し、相手チームの心理的弱点を突き、解散や引退に追いやる。
どうひいき目に見ても、戦略・戦術立案の高度な思考と実行力がないとできることではありません。
リアル社会で起業すればいいのに、もったいないと本気で思います。
尊敬に値します。もちろん、私は関わりたくない人物たちですが…
私が、レベル上げしかしないのはそんな世界に触れたくないからです。
特殊な戦闘をせず、裏世界や空の四神に一切参加しないのはそのせいです。
せっかく冒険の世界を楽しみたいのにドロドロとした世界はごめんです。
過去に何十人ものフレから特定の固定メンバーのお誘いがありましたが、すべてやんわりとお断りしてきました。
「仲の良い友人さえいれば十分ですよ。手伝いならいつでもしますし」
が私の定型文です。
私のように、そんなもめ事との関係を遮断しても巻き込まれることがあります。
前述したセクハラやストーカーもそのひとつです。
金の亡者に巻き込まれることもあります。
一昔前は、ある職人分野は高レベルになると必ず脅迫通信が入ったといいます。
この分野はとてつもなく儲かるので、上位職人数人が協定を結び、新たな人材が入ってこないようにするための脅迫通信だとのこと。
ここで、外国人の話に戻ります。
海外でのサービス開始からしばらく経つと、外国人と日本人のプレーヤーたちがだんだん微妙な関係になってきました。
外国人が参加し始めてから数ヶ月もしないうちに
「Japanese only(日本人のチームだけ)」
と参加希望用メッセージ欄に書き込む日本人プレーヤーが次々と増えてきたのです。
日本人だけで構成されたチームでは外国人の悪口がチーム会話にもどんどん登場します。
厳密にいえばプレーヤーではありませんが、業者が増えてきたのも同時期です。
そして、業者が一般プレーヤーの行動を変える原因ともなりました。
ドラクエ10ではサービススタートから1ヶ月もしないうちに、ヤフオクでゲーム内通貨のゴールドが売られ始めました。
RMT(リアルマネートレード=ホンモノのお金でゲーム内通貨が取引されること)と呼ばれ、非合法ではありませんがスクエニは禁止しています。
ゲームのバランスが崩れるからです。
例えて言えば、モノポリーを遊んでいて、その場にいない人からモノポリー紙幣を日本円で買ってトップになるようなものです。当の本人以外は楽しいハズがない。
サーバーはネットRPGの根幹です。
スクエニの利益を左右する要素でもあります。
そして、プレーヤーの環境にも大きく影響します。
さて、FF11では一つの街に200〜300人も集まることは珍しくありません。
サーバー全体でピーク時には3,000人〜4,000人がプレイしています。そのうちの10分の1が狩り場や洞窟に行かず、待機したり休んだりすることは自然な行動です。
悪口ばかり言っていると読む方も辛くなることは分かっています。
同時に
と言われそうです。
10年続けているのは、結末を見たかったからでもあります。
ここまで来たら最後まで見届けないと気が済まない。意地みたいなものです。
でも一方で、FF11にも良いところがあります。
そのひとつは戦闘システムの優秀さです。
普通のDVD版RPGではラスボスを倒すまでに1,000回程度の戦闘をこなします。
だから、戦闘のおもしろさ、飽きずに続けられることがとても大切な要素となります。
話をちよっと変えます。
RPGの原点はアメリカで1981年に発売されたウィザードリーとウルティマだと言われています。
それらのアメリカ製RPGは「普通にプレイしていたのでは最後までたどり着けない」のが当たり前でした。
ゲームの開発者はどんどん難しくする。プレーヤーはその難問に挑戦して突破する。
ストーリーもありません。ストイックなまでにダンジョンを進んで行きます。
初期の頃の「女神転生」を知っている方ならイメージがわくでしょう。
そんなアメリカ製RPGは日本ではヒットしませんでした。
実は、ひとつ、FF11の良さを隠していました。
というのも、この良さは引退した人しか口にしないからです。
一部の人は酷評しますが、多くの人たちは口を揃えて
「懐かしい」
「あの時は楽しかった」
と言います。