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紅茶とπ(パイ)【発想力】 2002.12.1

「π型人間」は発想が豊か

以前の記事でコンサルタントの条件の一つは、深い知識や経験と同時に広く浅い知識が必要だと書きました。

具体的には次のような質問でしたね。

「あなたは『2時間以上』話ができる分野を持っていますか」
「あなたは『30分以上』話ができる分野をいくつ持っていますか」

この点について、読者のみなさんからたくさんの感想を頂きました。
一番多かったのは「どちらも自信がない」というものでしたが、様々な質問も頂きました。

「どうやって『2時間以上』『30分以上』と判断するのですか。実際に喋ってみるのですか」
「なぜ『2時間以上』『30分以上』なのですか。1時間半や20分以上ではいけないのですか」

このような質問は「各自勝手に判断せよ」ですが、皆さんの関心が高いものであることが良く分かりました。
また、「プロについて考える」テーマも興味の大きい分野であることは「読者の声」を見ているとよく分かります。

一方、このメルマガを読んでいる方々の目的のひとつが「発想を広げること」です。「視点を変えること」と言い換えても良い。
「どうしたら、そんな視点が出てくるのか」と良く聞かれます。
正直言うと、私は教育コンサルタントではありませんので、自分の視点の出し方を人様にお教えする能力はありませんし、体系化している訳でもありません。

しかし、「2時間以上話すことができる分野を持っている」「30分以上話すことができる分野をいくつも持っている」人の多くは「視点の豊かさ」や「発想の鋭さ」を持っていることも事実です。
そこで、今日はそれを一歩進めて「知識のバランス」をテーマに記事をお送りします。

「T型人間」とは

「π型人間」とは何かを説明するより、その原型である「T型人間」を説明した方が分かりやすいでしょう。

「T」という文字は縦に長い1本の直線「|」と横長の直線「−」でできています。
縦棒は「専門性」を指します。冒頭の話で言えば

「2時間以上、話ができる分野」

ですし、横棒は「幅広い知識」

「30分以上、話ができる分野」

です。
要するに、

「誰にも負けないひとつの分野と、どんな人にも話を合わせられるくらいの、幅広い知識を兼ね備えた人間」

が「T型人間」です。
「π型人間」とは縦棒を1本増やして2本にした人間像のことです。

私の例を上げましょう。
メルマガには過去記事が70本あります。それぞれのテーマは話せば30分以上かかる内容ですから、私は70個以上もの横棒「広く浅い」分野は持っていることになります。
70本の中には2時間以上話すことができる分野もあり、まだテーマにしていないものもありますから、私の縦棒は「π」どころか、数10本以上あることになります。

「T型人間」や「π型人間」をなぜ私が皆さんに勧めるのか。
コンサルタントにとっての必要性には以前の記事で理由を話しました。
縦棒(深い知識や経験)があるとクライアントの気持ちが分かるからです。クライアントの多くは一つの産業や商品分野のことについて日夜考え、悩んでいます。そんな相手の気持ちが分からなければ、きちんとしたコンサルテーションができないというのが私の哲学です。

そして、横棒(浅くて広い知識)はコンサルタントにとって、現代の生活者や市場の動きをモニタリングし、変化があったら即手を打つことができるのがメリットだからです。

一般の方達のメリットは何か。いくつかあります。
まず、発想の柔軟性です。
様々な分野の知識があれば、「ある分野で常識」であっても「他の分野では非常識」ということを身をもって理解できます。
過去記事でお話ししたとおり、

「常識=そのとおりやること=考える必要がないもの=アホになる元凶」

です。狭い分野でしかものを考えられない人は、その分発想が固定されてしまう危険性があることに他なりません。

嬉しいことに、たくさんの読者が私の視点の鋭さや常識にとらわれないものの見方をほめていただきます。
その大きな理由のひとつが「たくさんの分野を(少しずつ)知っている」からなのです。

例えば、ある業界を見る時に、他業界ならどうするかを想像してみる。
例えば自動車業界では各メーカーに系列店があります。業界の人にとっては当たり前のことです。
しかし、他業界、例えば家電業界ではナショナルショップのような系列店が崩壊状態で、量販店が主流です。すると、

「自動車業界が(家電業界にあるような)量販店流通に変化することがあり得るのだろうか」

という仮説が当然の事ながら出てきます。

業界の人間は「あり得ない」という発想に縛られますが、それは単に「そう思いたくない」というだけの話です。
家電業界、特にナショナル(松下)だって、かなり最後まで「そうあって欲し
くない」と思っていたけれど、結局、現在のような量販店主体の流通になってしまった。

過去記事「駅ってどーよ」の駅ホームの危険性についての警鐘も、元を正せば、私が船に乗る時にタラップを歩いていた時にふと思ったことが発端でした。
それぞれひとつひとつの事象は皆さんご存じのことです。飛行機やバスや船のような乗り物で駅ほど危ないところはないことは、誰もが知っている。

それを繋げて考えることがなかっただけです。
でも、繋げると言ったって実は簡単なことです。「比べる」だけなのですから。誰でもできることのハズですが、意外にできないことも多い。

【以下、小見出しと最初の段落のみをご紹介します】

醤油とクルマを比べてみる

例えば普通の「常識」のある方は、私が

「マヨネーズと醤油、クルマ、ビール、化粧品、ネクタイ、東京ディズニーランドでは、どれが一番好き?」

と聞くと、

「そんなー、森さん。カタチも業界も固有名詞も使い方も違うものを並べられても、答えられないですよ」

と回答を放棄してしまう。
「比較を自ら放棄している状態」です。

「しがみつくこと」が発想の妨げ

発想がせまくてもったいないなあと感じる人たちの一部を見ていると、あることに気がつきます。
それは「ある事象や考え方にしがみつく」ことで、他のものが見えなくなっていることです。

もちろん本人たちは「それが唯一無二の真実だ」と思いこんでいるので、まさか自由な発想を妨げているとは思いもよりません。ましてや「自分が何かにしがみついてる」なんて思いもしない。「1+1=2」と同じくらいの真実だと思っている。

自信のなさが発想を妨げる

それでは、人はなぜ不安になるのか。
その大きな原因の一つは「自分に自信がなくなった(自信がない)状態」です。
自信がない状態は集団で他人と比較した時に、明らかに自分が勝っていないと思った時に現れやすくなります。

発想が固まったビジネスマンの症状

発想が固まったビジネスマンにはどんな特徴が見られるのか。
他業界の人に対しては

「そんなものは業界の常識ではない」
「うちの業界は他業界と違う」
「うちの業界での成功例でないと、理論といっても成功するかどうか分からない」
「門外漢には分からない」

彼の目の前には他業界の人間は私ひとりしかいない。でも、自分の回りには同僚や上司、部下ばかりですから、味方が多い方になびくのは当たり前。

知識の深さの目標は上位2.8%

さてさて、縦棒の基準を先ほどは「2時間以上話ができること」と定義しました。実は、この表現は質問としては分かりやすいけれど、縦棒の定義としては必ずしも正確ではありません。

「2時間以上話ができる」なら「自信が持てる分野であることが多いだろう」と想定しているだけです。

正確にいうなら、目標は何か。

「他の誰よりも詳しくて、2時間くらいは平気で話ができること」

これをもっと数量的に表現すれば

「自分の行動範囲の中で、上位2.8%の座を占めるくらいに詳しいもの」

です。

頭を柔らかくし、刺激を与える

縦棒と横棒が出来上がったら、これを組み合わせます。

「縦棒で頭を柔らかくする準備をし、横棒で刺激を与える」

これが「T型人間」の基本形です。

縦棒の探し方

この記事の最後に、簡単な縦棒の見つけ方を紹介しましょう。
縦棒は自分の興味のある分野で作ることは理想的です。興味があればあるほど、知識や経験を苦労と思わずに身につけることができるからです。

しかし、残念なことに「自信をつける」という視点から選ぶと「自己満足」で終わってしまっては意味がありません。周囲があなたを認めてくれないと「自信」に繋がらないからです。

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