「SOHO」
この単語を最初に耳にしたのは10数年前のことでした。
ある電子機器メーカーの海外プロジェクトで、さりげなく、当たり前のように「ターゲットはSOHO」とオリエンテーション資料に書いてあったのが初めての出会いです。
一瞬、頭に浮かんだのはニューヨークのソーホー地区。しかし、芸術家と電子機器はどうみても相性が悪そうだ、おっかしいなぁ、と思ったものでした。
その頃、私は駆け出しのコンサルタントだったので、見栄を張って「ふんふん」とクライアントの説明を聞いていただけでした。今なら「それ、何ですか?」と堂々と聞いてしまいます。
私もかわいい時期があったものです (笑)
さすがに放ったらかしのままでは仕事にならないので、「SOHO」の意味を調べようとしましたが、これがまた分からない。普通の辞書には載っていないのです。ましてや、ネットなど存在しない時期でした。なおかつ、その言葉がどんな分野なのかすら分からないので、友人にも聞きようがない。
結局、恥を忍んで、仲の良かったクライアントの担当者に、こっそりと意味を教えてもらったのは今では良き思い出です。
ということで、受け売りですが(笑)、SOHOとは、Small Ofiice & Home Officeの頭文字を取ったものです。
英語のままだとかっこいいですが、要するに「ちっちゃな会社」と「自宅兼仕事場」のことです。
前者は「零細企業」、後者は「内職」とも呼ばれます(笑)
いくらかっこいい言葉で包んでも、SOHOの本質はそれら日本語の呼び名そのものです。
しかし、どうやら漢字をカタカナにすると格好良くなってしまうのは、バブル前と変わらない日本人心理のようです。
物事の本質を忘れて、イメージだけで走ってしまう人たちが増えてくる。
かくして、SOHOを目指す人が急増します。
起業は漢字ですが、かっこいいイメージは似たようなものです。
HO(自宅兼仕事場)は業種によってはイメージが良いかも知れません。
例えば、漫画家、小説家やコピーライターなどのクリエイティブ系の仕事なら、自宅が仕事場というのは絵になります。
しかし、ほとんどの業種は今ひとつ社会的信用がない。
あるテレビ番組でマンションの一室が本社のそばメーカーを紹介していましたが、どうにも様にならない。
個人事務所では大企業と取引ができないケースもあります。
例えば、あなたが革命的な新発明の商品を作ったとしましょう。それを、スーパーやコンビニで売ったら、間違いなく売れる。
しかし、個人事務所では、ダイエーやヨーカ堂は120%相手にしてくれません。
もちろん、会社を新規に作ったところで、事情は同じです。いつ倒産するか分からない馬の骨と取引をするほど社会は甘くないからです。
それを指して「日本は閉鎖的な社会だ」なんて、世間知らずの発言をする人がいます。
冗談でしょ?
ビジネスは慈善事業ではありません。
そういった馬の骨を信用して取引を認める企業を「エライ」と褒めること(もしかしたら「アホ」かも知れませんが (笑))には賛成です。しかし、だからといってその反対の姿勢は非難されるべきなんて単純な話ではありません。
だって、馬の骨を信用したら詐欺だった、てな話はいくらでも転がっているからです。
そんな発言をする識者と言われる世間知らずの偽善者だって、新宿歌舞伎町のど真ん中で、見ず知らずの女性から
と言われて、応じるはずもないでしょ?
(美人なら、鼻の下を伸ばす人もいるかも知れません (笑))
社会的信用がない会社とは、
と同じくらい、「屁」のような存在なのです。
偽善者だけではありません。
私の周囲には「SOHO/起業をやりたい」と、危なっかしくて見ていられない人が多い。
読者の中にもはそういう方が多くいらっしゃいます。
そこで今回は、SOHO/起業の先輩として筆を振るうことにしました。
いつものように、ちょっと辛口です。
この記事の読者ターゲットとしては次のような方たちを想定しています。
ただし、
は除きます。だって、せっかくSOHO/起業で頑張っている人に雑音を与えるのも申し訳ないからです。
一旦、SOHO/起業をスタートしたら「がむしゃらに頑張ってね」が私からのメッセージです。この記事は読む必要はありません。
何事にも内容と形があります。
SOHO/起業とは職業の名前ではなく、仕事場の規模や場所の総称です。従って、本来は自分から「うちはSOHO(起業)です」と発言する必要はありません。
一方で、「うちはコンサルタントです」は宣言しないと仕事になりません。そう考えると、あくまでも優先順位は仕事の規模や場所ではなく、内容であることがはっきりします。
それなのに、SOHO/起業という言葉だけが一人歩きして、人気が出てしまうのにはどうしても違和感を感じます。
ひどい時にはこんなことを言う人が出現します。
禅問答のような会話です(笑)
SOHO/起業というのは、「何かをするための『手段』」です。それが、完全に目的になってしまっている。
こんな人たちが独立したって、うまく行くわけがありません。業務の内容を煮詰めずに走ってしまうのですから。
一見、説得力がありそうなのはこんなパターンです。
なぜ、このパターンがいけないのか。
一見、何の問題もなさそうに見えます。SOHOには大企業にはないメリットがある。それを享受することは何の問題も無いはず。
しかし、ここには、SOHOのデメリットは何も検討されていないのです。メリットだけが強調されている。
例えば、SOHOには社会的な信用がまったくありません。
クレジットカードだって作れない。金を借りるのだって、銀行には相手にしてもらえない。いや、消費者金融だって最低限の貸付枠しかセットしてくれない。
例えば、SOHOでは大企業と同じことはできない。金(資金)や人材がいないからです。
くだんの反論者も、
ほう、彼は今までの人と違うようです。
惜しいところまで行っていましたが、結局、彼もSOHOを中心に考えている点で変わりありませんでした。
「やりたいこと」の実現のための第一歩としてのSOHO。これが正しいあり方の一つです。
もちろん、目的は「人を幸せにしたい」「自分が使いやすいと本当に思えるものを作りたい」など、どんなことでも結構です。少なくとも、手段の目的化よりは圧倒的に成功する確率が高い。
なぜ、SOHO/起業がこれだけもてはやされているのか?
昨今の長期不況が原因でもあります。リストラされてしまったり、自分が勤める企業の先行きに不安を感じる。だから、単なる「カタチ」なのに、SOHO/起業が最良の選択のように思える。
そんな甘ったれは放っておいて、記事を進めます。
さて、目的と目標がきちんと整理されたら、次はどんな事業を興すかです。最大の難関といって良いし、私が相談される最も多い案件です。
SOHO/起業が手をつける最良の事業とは「他にないもの」ただ1点です。大原則といっても良い。
あなたの会社しか提供できない商品やサービスが最も強いに決まっています。
1頭しか走らない競馬なら必ず1着が取れるからです。
かといって、市場を狭めすぎるのも考え物です。
例えば、実例ですが、こんなアイデアがありました。
友人が宅配専門のメニュー雑誌を作ると言い出しました。
宅配ピザや出前のメニューは家庭ではバラバラになってしまい面倒だ。だったら、各店を回って広告スペースとしてメニューを掲載する雑誌を作ってしまえ、という発想です。
各家庭には無料配布。広告費だけで売上げをまかなおうという算段です。
さて、事業アイデアは固まった。
検証も済ませて需要がそこそこあることが分かった。
自分で実行する自信もある。
ここまでくれば、70%は成功したようなものです。
5年以内に95%の企業が消滅すると以前話したことがありますが、そのほとんどが以上のステップをきっちりクリアせず、いいかげんに「会社を作ったら」何とかなるという発想でいくからです。
さて、成功の30%はそんな組織の話ではありません。
「自分が動くつもりになっているか」という1点です。
いや、いい方を変えます。
「自分自身が走り回って、血尿の1回や2回を覚悟しているか」です。
これは「他人を当てにするな」という意味でもあります。
この場合の他人とは「自分以外のすべての人」が対象です。クライアントになってくれると約束した人、アドバイスをくれる先輩、自分の会社の社員ですら「他人」ですし、「絶対に当てにしてはいけない」のです。
特に大企業出身者のミスのもうひとつは、
このメルマガの「サルにも分かるシリーズ」は、具体的なノウハウの紹介をテーマにした記事というコンセプトで執筆してきました。
今回もそのつもりで、筆を進めてきました。
しかし、結局、SOHO/起業の問題点は技術的なことではありません。
記事の後半が示すように、
これが実際的な最大の正否を分けるポイントなのです。