最近、新聞やビジネス雑誌をにぎわせているのが、IT関連企業の不振です。それもベンチャーやらSOHOなどのぽっと出の新参者ではありません。松下やソニーなどの堂々とした世界企業が、です。
松下が約1,000億円、NECで約1,500億円、東芝は1,150億円の赤字。日立の2年前の赤字2,700億円ほどではありませんが、十分巨額です。
ソニーは赤字こそ免れそうではあるものの、エレクトロニクス部門の前期比92%減が大きく影響し、前期比40%減の100億円の減益。
理由はもちろん世界的なIT不況です。日本の長期不況も手伝っています。
しかも、これらの赤字には先日のニューヨーク・テロ事件の影響はまったく含まれていません。今後の彼らにはまだまだ厳しい冬が訪れそうです。
一方のソニーの不振はIT不況下の産業部品の売上げ減少が主な原因ですが、どうもそれだけではない不振の兆候が浮かび上がってきました。
草稿段階ではお約束どおり、ソニーと対照的なシャープとの組み合わせで書きましたが、いつもの3.5倍もの分量になってしまったので、泣く泣くシャープを割愛し、ソニー単独の記事にしました。
ごそごそ。
先日、私の身の回りの情報機器をすべて取り出してみました。
中でも、私の大切な時間管理や情報管理をしてくれるのが、個人用の情報機器です。
もっとも、コンサルタントのような仕事をしている割には、皆さんがイメージしているほどたくさんの機器を持っている訳ではありません。
個人用の情報機器はこの4つだけです。
このうち上から3つがシャープ製、最後の携帯電話がNEC製です。
一般ビジネスマンなら大抵は持っているソニーの製品がひとつもありません。
私も不思議でした。特に意識してソニーを敬遠していた訳でも、シャープ製品を選択したわけでもなかったからです。
そこで、他のAV機器もチェックしてみたところ、オフィスにすら、ものの見事にソニー製品がない。
一方で、知り合いもおらず、学生時代の就職面接で皮肉をたっぷり言われ、挙げ句の果てに試験に落とされ、恨み辛みのひとつを言ってもおかしくないシャープ製品は持っている。
(もっとも、新卒採用面接で「将来、何をしたいか」と聞かれ、「社長になりたい」と答えた私も悪いのですが (笑))。
という声が聞こえそうです。
しかし、この3つは私にとって特別な3つなのです。
日々、使いまくり、コンサルタントとしての生産性を目一杯上げてくれる道具たちです。これらの機器たちが作り出してくれる「時間」「情報」という宝石は、年間数100万円、いや、下手をすると数1,000万円の価値があります。
昔、携帯電話を使っていて、その音質の悪さからクライアントの言葉を聞き間違え、あわや数1,000万円のプロジェクトが吹っ飛びそうになりました。
そんな経験を持つ私にとって、個人情報機器は会社の生命線ともいえるのです。
さて、私のような人間の数が少ないのは分かっています。
大抵の生活者のソニーのイメージは非常に良いからです。
一部、数の上では少数派ですが、ソニーを否定的に見ている人もいます。
パソコンでは、肯定派とともに否定派もいます。
まずは肯定派はデザインを主にほめる。
次に否定派。
事の真偽はさておき、最近の携帯電話の不良品回収騒ぎが頭に残っている人には納得のいく話でしょう。
とはいうものの、マーケティングの観点から言えば、ソニーは文句なく「ブランドが確立している」と言えます。同じ性能のものなら、多少価格が高くても、「そのメーカーのもの」「その商品名がついているもの」だから買うという人が多いからです。
さて、それでは何がソニーの問題なのか。
実例を3つ挙げましょう。
まず1つ目は、先日、「コンサルタント日記」でも書いたことです。
1kgを切る軽さのソニーバイオC1は、屋外で使うことを提案しています。ソニーのホームページでは「連れ出して映像で遊ぶ。音楽で遊ぶ」と屋外使用を前提にしたキャッチフレーズがあります。
確かに、旧バイオC1のパンフレットを見ると、65枚の写真のうち63枚が屋外での使用シーンでした。
しかし、ある雑誌でこの旧バイオC1の電池が1〜2時間程度しか持たないことが指摘され、それに対してソニーの広報からのコメントが掲載されていました。
さすがの私もびっくりです。
自分たちが提案しているものが「うそだぴょ〜ん」と、生活者に舌をぺろりと出す会社なんて初めてです。
そういう意味で言えばソニーは非凡な会社です。他の企業がやりたくてもやらないことを平気でやってのける。
もっとも、このような生活者をなめた姿勢は、ひとり広報部であろうことは容易に想像がつきます。
それ以降のバイオは小電力CPUの採用など、駆動時間を伸ばすことに力を入れているからです。現在のバイオC1は2〜4時間の駆動時間。少なくとも技術者たちはカタログの世界を目標にしていて、「幻想」だなんて思っていない。
2つ目の事例です。
最近、見かける広告でソニーのロボットペット、アイボの広告があります。今度のアイボは、「いかにもロボット」という外見ではなく、丸顔でつぶらな瞳のぬいぐるみのような、ラッテとマカロンという名の2匹の子犬です。
マンションの1室で、2匹がそれぞれ勝手気ままに目をくりくりさせたり、耳を立てたり、じゃれたりしている様子が映し出されます。
その合間に、タイトスカートの女性が小走りに歩くシーンが数回挿入されます。
「早く帰らなくちゃ」とコピー。
彼女がドアを開けるとラッテとマカロンが頭をもたげて、飼い主(らしき女性)を見上げます。
キャリアウーマンがアイボが待つ自宅のマンションに急いで帰り、アイボは無邪気に彼女を迎える。
そんなストーリーが人間とロボットの境界を越えた愛情を描いて、ほっとした暖かい感情がわき上がってきます。
・・ある疑問がふとわき上がるまでは・・。
会社から帰るわけですから、早退でもしない限り8時間は動き続けなければならない。
早速、ネットで調べたら・・2.5時間でした。
確かに、ACアダプターを使えばいくらでもアイボは遊びます。
また、「近くに買い物に行っただけです」とも言い訳は可能です。
そこで、私の友人の女性に聞いてみました。
10人のうち10人がこう答えてくれました。
早退もACアダプターも一般の人たちが思い浮かべる情景ではない。
3番目も広告の話です。今度はちょっと長いです。
ここ1か月くらいテレビで展開している広告で、動画をそのままカメラからメールで送るインターネット・ハンディカム、DCR-IP7があります。
映画の寅さんに出てきそうなタコ社長が車の中で撮った「今月の売り上げ足りないよ、よろしくね」と飛ばした檄を営業マンが会社で受信して、「はいはい」と席を立つというものです。
別なバージョンで、イキの良いネタを撮って、料理家の服部氏に送る寿司屋もあります。
まだまだヒミツが続きます。4番目です。
ソニーからのメールで注意書きがありました。
一体、何が起きてしまったのでしょうか。
「虚偽の広告」とはいえませんが、「極めて(ソニーに有利なように)誤解されやすい広告」を作るなんて、ソニーらしくもない。
昔、ソニーは量販店のバイヤー(仕入れ担当者)たちに、こうからかわれていたそうです。
「(メーカーに有利なように)誤解される」ことは一般消費財では非常に危険なことです。
例えば、パソコンの世界は長らくそれがまかり通っていました。
「夢」という免罪符があったので、現実的ではない、実用にならないことでも「できる」とされてきました。だから、古くからのパソコンマニアは「できる」と「気軽にできる」とは区別しています。
実はソニーが限りなく誤解を生み出す広告を作っても、数的にはそう大したことはありません。
怒るとしても彼らはマニアと呼ばれる人たちです。数は圧倒的に少ない。
それ以上に心配なことがあります。
ソニーはもはや業態から言えば、AV機器メーカーではありません。生命保険、家庭用ゲーム、音楽、映画、インターネット・プロバイダなどの事業に手を広げています。そして、今度は銀行まで作ってたしまったコングロマリット(複合企業)です。