キムタクのHEROが、初回からずっと30%以上の視聴率のまま最終回を迎え、日本の記録を塗り替えました。
「101回目のプロポーズ」など、瞬間的に50%を越えた例があることを知っていると、たかが30%で記録と言われても不思議な感じがします。ちなみに、HEROの最低記録は30.4%。他の番組プロデューサーは、その半分でもよだれが出る数字です。
いずれにしても、テレビの威力は偉大です。
私たちが生活して行く上で、1日に何回も触れるくせに、それがなくても困らない。
その最先端はやはり広告でしょう。
年間6兆円とも言われる広告費ですし、私たちの目に止まることを大切にしているだけあって、様々な場面で視界に入ってきます。
その頂点に立つのはテレビ広告。
1日3,000本も流れていると言われるテレビ広告は、現代人のテレビ離れが叫ばれる今でも、まだまだ王者として君臨しています。
「腐っても鯛(タイ)」とは私がテレビ広告を指して良く使う表現です。
「腐っても」とは、広告業界では、テレビ以外の広告が常に話題になり、テレビを見る人が年々減ってきているのが常識化しているからです。
「テレビ(広告)の時代は終わった」などと声高に宣言する広告関係者も多い。
「タイ(鯛)」とは、テレビ広告の力が弱ってきたとはいうものの、それ以上の影響力を持った広告媒体がないことを指しています。
なんだかんだいってもテレビ広告は王者なのだという意味です。
ちなみに、最近のテレビ以外の広告で期待を集めたのはインターネットです。
しかし、大半の読者がご存じのとおり、インターネット人口そのものがまだまだ小さいし、趣味性が強く、拡散した嗜好の集まりなので、広告効果は微々たるものです。
ビデオリサーチなどの視聴率調査を手がける調査会社がインターネット・サイトの視聴率を調査しましたが、トップの番組で3%程度しかありません。
キムタクのHEROの例から考えると、インターネットの影響力がどれだけ少ないかということが分かろうかというものです。
実際、2%の視聴率は、ラジオ並あるいは深夜テレビ並です。
インターネットという特殊なメディアがそこまで成長したのは褒めて上げても良いですが、ビジネスで動く企業側としては、「頑張ったね」じゃ、お金は払えません。
インターネット以外にも、従来から広告業界はテレビ以外に様々な活路を求めようとしていました。
家庭用ゲームにペプシマンを登場させたり、主人公が勝つとジャワティを飲むポーズを取らせたりしたゲームが現れて、新たな広告媒体登場かと広告業界では騒がれたものです。もちろん、その結末は・・言わぬが花ですが。
また、コンビニなどで売られているビデオ雑誌の広告や、古くはスポンサー付きのイベントやコンサート(冠イベントなどと呼ばれます)も注目株でした。
しかし、結局、それらは全てテレビ広告の代わりになるほど成長しませんでした。消え去ったものも多い。
テレビ広告の力が弱まったのは事実です。
しかし、それを声高に叫ぶ裏にはちよっとした事情があります。広告代理店戦争です。
トップ代理店は電通です。その影響力は計り知れないとも言われます。
しかし、全広告代理店の中で、電通の占めるシェアはたかだか10%強にしか過ぎません。
それなのに独占企業的な言われ方をするのは、テレビ広告の分野に限れば40%以上のシェアを占めるからです。独占、とまではいかずとも、簡単にひっくり返らない不動の1位です。
下位の代理店が電通を追い越すのは、このままでは不可能です。しかし、テレビそのものの影響力が弱まれば、電通の影響力も低下する。そうなれば、下位の代理店にもチャンスが巡ってくる。
テレビ否定論が大手を振って立ち回るのも、実はそういった裏事情があるからです。
話を戻します。テレビ広告でした。
広告の花のひとつはタレントです。
アイドルや女優、お笑い芸人など、様々な顔ぶれが揃います。
中にはタレント顔負けの素人さんも登場するのがテレビCMの面白いところです。
最近では、永谷園のお茶漬けの若い男性が話題をさらいました。
「おいしそう」「下品だ」との論争もインターネットの各地で展開されていました。
知っている方も多いですが、彼はこの広告制作を担当した広告代理店(東急エージェンシー)の社員です。
最初のサンプルビデオの食べっぷりがあまりにも良く、オーディションでも彼を越える候補者がいなかったことからの起用だったと言われています。
彼は社員ですからノーギャラ。しかし、お茶漬けの売り上げが余りにも増えたので、永谷園の社長が彼に特別ボーナスを出したという噂のおまけつきでした。
無名のタレントがCMに出ることで人気を博し、有名になるケースも多々あります。ポカリスエットは意識的に14〜15才のアイドル予備軍からタレントを選ぶのは有名です。
一方で、CMの常連さんもいます。いわゆる「CM女王」などと呼ばれる人たちです。
年間10本以上も出演する人気者。
昨年から今年のヒットは藤原紀香。その前は中山美穂でした。そして、最近出てきたのが優香。現在、松島菜々子の人気が急上昇中。
男性では年による変動が少なく、所ジョージは常にCMに登場しますが、何と言っても現在は木村拓也がトップです。
ちょっと見ただけでもこれだけのCMに出演しています。
【藤原紀香】 | |
---|---|
アプラス | 大塚ビバレジ |
カネボウ | JAL |
J-Phone | 宝酒造(タカラcanチューハイ) |
東武百貨店 | 富士写真フィルム(デジカメ) |
ブルボン | 三菱自動車 |
マンパワージャパン | ワコール |
【木村拓也】 | |
---|---|
NTT東日本 | サントリー |
JRA | JCB |
TBC | 富士通 |
森永製菓 | リーバイス |
それぞれのリストを見ると、「あ、そうそう、こんなCMに出ていたよね」と思い出します。
しかし、よくよく考えてみると、こんなにたくさんのCMに出て、私たちは全部覚えているのでしょうか。
また、「藤原紀香が出ているCM」同士で間違えたりしないのでしょうか。アルクの広告なのにJ-PHONEだと思ってしまうような。
素朴な疑問です。
さて・・と。
今回の記事は広告タレントの話ですが、その中でも「人気CMタレント」に焦点を当てることにします。
そして、
「タレント広告は意味があるのか」、いや
「有名なタレントをなぜ使うのか、使う価値があるのか」
をテーマに検証したいと思います。
こんなテーマだと「本当の生活者」は「なぁんだ、当たり前じゃないか」という反応が返ってきそうですが、企業側は「うそでしょ?」という反応になりそうです。
逆に言えば、もしあなたが関係者なら、この記事が当たり前と思えば自分はまだまだ生活者感覚を持っていると自慢しても良いし、「うそでしょ?」と思うなら企業病に侵されていると思えば良い。
今回は格好のリトマス試験紙になる記事を目指しました。
ところで、今回は私にとって珍しくタイトルから記事の構成が浮かびました。
せっかくですから、今回の記事に使えなかった、泣く泣く削除した章のタイトルを紹介します。
広告業界やマーケティング業界の方たちはこれらの見出しだけで、今回私が何を言いたいのかを分かってしまうかも知れません。その時はごめんなさい。
企業はなぜ広告に有名なタレントを起用しようとするのでしょうか。
先ほどの「素朴な疑問」に答えるために、まずはここから考えてみましょう。
その最大の理由は「商品やCMを覚えてもらうこと」です。
過去記事のプリンタ記事のように、タレント(内田有紀)を使うと、ユーザーがエプソンのプリンタを覚えてくれるようになります。
これだけを見ていると、なぜ特定のタレントに企業の人気が集中してしまうのかが分かるような気がします。藤原紀香のように人気のあるタレントを使えば、広告が注目されるだけでなく、そのタレントのファンがもれなく付いてくる。
こんなにおいしい広告はないように見える。
さて、ここまでは広告やマーケティングに関わっている人なら「当たり前」のことです。
このままでは話が進みません。
ちょっと視点を変えて、興味深いデータを見てみましょう。
日経流通新聞が毎年年末に実施している広告調査です。
普通は、消費者の人気ランキングを特集しますが、さすがに、日経流通ならではの企画です。相手が企業の広告宣伝部長です。
普通の広告ランキングは消費者が好きか嫌いかだけで判断します。
しかし、この企画の場合は「売れたか、売れなかったか」という視点で見ているところが、大きく違います。
日経流通のデータをいくら見ても私の疑問解消にはなりませんでした。
こうなったら、藤原紀香のように10本以上も出演している広告で、生活者の記憶に残る広告と残らない広告があると仮定してしまいましょう。様々な要因がありますが、彼女を起用した順番で説明できないでしょうか。
4〜5番目でタレント効果が切れるなら、何故、後発のスポンサーは「普通でない」使い方をしないのか。
理由は2つです。
タレントの広告効果が切れることを知らないことがひとつ目の理由です。
心理学の理屈は知らなくても、ちょっと考えれば分かりそうなものなのに、考えようとしない。
むしろ「他社が使っているからうちも」と自爆も目立ちます。
ようやく最初の疑問が溶けました。
でも、すぐにもうひとつ疑問が湧いてきます。
「普通と違うことをさせる」タレント広告がなぜ少ないのか。
実は、興味深いデータがもうひとつあります。
ビデオリサーチという視聴率を調査する会社のレポートで「タレントCMがタレント人気度に及ぼす影響」と題されたものです。
細かい解説は省きます。