ワコールがグッドアップブラを初めて世に送ったのが1992年。
その大ヒットに追いつけとばかり、他の下着メーカーも一斉にバストを強調するブラジャーを市場に投入したのは、記憶に新しい出来事です。
この商品は「女性の下着だから関係ない」とばかり思っていた世の男性にとっても衝撃的でした。
同じく大ヒットした先輩格のヒップアップパンツは知らなくても、グッドアップブラの存在を知らない男性が極端に少ないことを見てもそれが分かります。
ここに興味深いデータがあります。
ちょっと古いものですが(1994年)、女性が自分あるいは他の女性のボディに対してどう感じているかをワコールが調査したものです。
●現在の体型と理想的な体型
項目 | 現在(cm/kg) | 理想(cm/kg) | 差(cm/kg) |
---|---|---|---|
身長 | 158.9 | 161.3 | 2.4 |
バスト | 82.7 | 84.5 | 1.8 |
ウェスト | 60.4 | 58.9 | ▼1.5 |
ヒップ | 86.6 | 85.3 | ▼1.3 |
体重 | 49.3 | 47.2 | ▼2.1 |
より身長が高く、ウェスト、ヒップは細く、体重はもっと軽く。
しかし、バストだけは豊かに。これが「首都圏に住んでいる平均的」な日本人女性の理想です。
次のデータです。
●セクシーな女性とは
順位 | 項目 | % |
---|---|---|
1位 | 豊かな胸 | 56.0 |
1位 | 表情のある目 | 56.0 |
3位 | 足首のしまった脚 | 46.0 |
4位 | 形良く上がったヒップ | 40.0 |
4位 | 細いウェスト | 40.0 |
【参考】
順位 | 項目 | % |
---|---|---|
- | 健康的 | 28.0 |
- | 存在感がある | 20.0 |
- | 知性 | 18.0 |
- | 清潔感 | 16.0 |
- | 意外性 | 8.0 |
- | やさしさ | 2.0 |
1980年代の「女性が定義するセクシーな女性」は、外見ではなく、(精神的、経済的)独立、しなやかさ、強さなどの内面的なものが多く見られたことを考えると、隔世の感があります。
(もっとも、「セクシー」という言葉には、男性と同じく「色っぽい」の概念と、「理想的な、かっこいい」概念とが入り交じっていますので、本当は調査質問の設計にはもっと注意を払う必要があります)
内面よりも外面で測る。その中でもトップがバストです。脚が3位。
●自分のボディで一番嫌いなところと、最も男性の視線を感じるところ
項目 | 嫌いな部分(%) | 男性の視線を感じる(%) |
---|---|---|
脚 | 36 | 44 |
おなか | 26 | 4 |
バスト | 16 | 26 |
ヒップ | 12 | 6 |
腕 | 2 | 6 |
首 | 2 | 0 |
ウェスト | 0 | 2 |
特にない | 6 | 14 |
脚が「嫌い。見て欲しくないのに男性の視線を感じてしまう」のトップで、バストは2位。
男性の友人の話を聞いていると、ヒップの6%はかなり低い数字です。背後からの視線なので、彼女たちは気がつかないのでしょう。
これらの数字を見るだけでも、現代女性の「寄せて上げて」のニーズがあることが良く理解できます。
ここまでだと、何だかちょっと危ないメールマガジンのように見えてしまいますね (笑)
ご心配なく。
今回の記事のテーマ「も」マーケティングに関わるお話です。
「痴漢」「セクハラ」と続いた「新男女関係3部作」のトリをつとめるのは「男女雇用均等法」です。
(番外編の「恋人たち」は書籍版で発表する予定です)
テーマそのものは法曹関係ですが、「マーケティングという視点から見るとこんなことが言える」が本記事の骨子です。
「男女雇用均等法」は以前から携帯電話に次いで、男女問わず期待の声が高かったテーマでもありました。
そんな期待の中、のっけから怪しい話でごめんなさい。
でも、もうちょっとバストの話におつきあい下さい。
なお、地方都市と首都圏とでは事情が違うと思いますが、その点はご容赦下さい。
これほど女性がバストの大きさを強調したり、バストが大きいことが良しとされた時代は日本の歴史始まって以来のことです。
例えば1980年代までのアイドルは大きなバストをわざわざ隠していたものです。
榊原郁恵、小泉今日子、太田広美、アグネスチャンなどの大きなバストを持つアイドルは、さらしを巻くなどの涙ぐましい努力をしていました。
様子が変わったのが、1980年代の後半に大ヒットしたワンレン・ボディコン時代からです。過去記事(百貨店)でお話をしたので重複は避けますが、少なくとも「女性が女性らしさを強調することは、実は良いことなのだ」の思想を一般女性に広げる大きな役目を果たしたのは事実です。
その後から、下着メーカーのブラのカップサイズ別の売り上げ比率が変化しました。
Aカップ、Bカップの比率が減少し、C、Dカップが増えました。それだけではありません。当時、国産メーカーが滅多に開発しなかった、EやFカップも登場したのです。
日本人女性のバストがいきなり大きくなったのではありません。
バストが大きいのが恥ずかしくて、ワンサイズ小さいブラをつけていた人たちが、正常なサイズのものを買うようになった結果です。
Dカップをつけていたのに、きちんと測ったらHだったという極端な例もあります。
さて、豊かなバストは女性ならではの特権です。
バストを強調するということは、男性に媚びを売るとの考え方もありますが、それは過去の話。今では「女性」という「性」に誇りを持つことでもあります。
なぜ、女性心理が変化したのかはさておき、こういった時代に、一見すると逆の動きがあります。
「男性」「女性」という2つの区別された概念ではなく、「男性」も「女性」も同じに扱えという「男女同権意識」です。
それが形になって現れたもののひとつが今回のテーマ、「男女雇用均等法」です。
女性の権利主張については「婦人運動」と呼ばれる社会的な動きから、前回のようなセクハラのように、局地的なものが拡大されたものまで、様々な形態があります。それを逐一紹介したのでは、スペースが足りません。
「仕事」という観点での「同権」に絞って考えてみましょう。
最近の朝日新聞にこんな記事が掲載されていました(切り抜きが見つからず、記憶でお話ししています)。
男女雇用均等法が施行され、女性の深夜勤務を含めて、男女の区別がなくなった労働条件が認められたことを紹介した記事の中でした。
結果、男女差別の聖域(?)として残っているのは、現在では職場での扱いによるものがメインです。
そんな職場で女性が感じる差別の最も典型的なものは、
です。
もうひとつは
です。
そんな質問をする彼女たちを入社後に観察してみると、おもしろいことに気がつきました。
この業界は出入りが激しいのが特徴です。入社しても1〜2年で辞めてしまう。これは男女関係ない傾向です。
もっとも、こんな女性ばかりではありません。
私は古い人間ですから「真剣勝負」だの「意地」だのといったことばを使いますが、もう一方の種類の彼女たちは実に自然体で仕事に接しています。
ハードな仕事でもきちんとおしゃれを楽しみ、髪を振り乱すときは振り乱し、でも仕事を楽しんでいる女性がいます。
別の女性コンサルタントがこう漏らしました。
冒頭の女性のバストの話はどうなったかって?
はい。ようやく、その話の番です。
もう一人、今度はメーカーの一般事務のOLさんに登場してもらいます。
実は社会学的に言えば、彼女は典型的な心の動きをしているのです。
少数グループが世の圧力を受け続けると、その特徴をシンボルにして、そのグループの良さを改めて見つめ直そうとする動きが活発になります。一種の開き直りですが、前向きのそれです。