お昼の長寿番組といえば「徹子の部屋」ですが、負けず劣らずの番組があります。
ご存じ「笑っていいとも!」です。
一旦人気がなくなったのか中止になり、復活したコーナーに私は注目していました。
「だんだん減らしまShow」と題されたコーナーは、スタジオ客100人に出演者がその場で考えたアンケートに答えてもらい、その数字を見て楽しむ趣向です。
このゲームは出演者同士が協力し合って完成させていくものです。そのために、うまく行くと出演者全員に賞品がもらえるようになっています。
進行はこうです。
1番目の人はできるだけ高い数字が予想される質問をしなければなりません。かといって、回答が100%でもいけない。
さて、難しいのは2番目以降の出演者たちです。
質問の結果が前の出演者の出した数字よりも1%でも低くなければなりません。最後の質問者は当然0%ではいけません。
すると2番目、3番目で徐々に減らしていかないと、最後の出演者が厳しくなります。かといって、低くなり過ぎないように意識しすぎると、前の出演者より結果が高くなってしまいます。どちらも失格。
皆さんにイメージしてもらうために、今年の1月12日にオンエアされた例を上げましょう。テーマは「バーゲン」です。バーゲンに関係した質問でなければなりません。出演者は7人。
第1質問「バーゲンに一度でも行ったことがある」 (質問者不明) 97% |
第2質問「去年1回でもバーゲンに行った」 (森田一義) 76% |
第3質問「バーゲンで買ったものの、自宅に帰ってみると、 その商品が意外に良くなかった経験がある」 (関根勤) 78% |
関根勤への回答が森田一義より2%高かったので失敗。CMをはさんでやり直し。
第1質問「バーゲンのDMが来たことがある」 (北村総一郎) 92% |
第2質問「バーゲンで買った商品を今、身につけている」 (藤井隆) 69% |
第3質問「定価で買ったものがバーゲンで売られていたので、悔しかったことがある」 (嘉門洋子) 46% |
第4質問「バーゲンで買ったのに1回も着ていない服がある」 (加藤明日美) 56% |
嘉門洋子(グラビアアイドル)はお笑い芸人、藤井隆よりも23%も低くなり過ぎ、後が苦しいかなと思った矢先に、加藤明日美(アイドル?)がスタジオの観客と同年代にも関わらず、彼らの心が読み切れず10%高くて失敗。
バラエティ番組のゲーム仕立てですが、実はかなり高度なノウハウや観察力、そして人間心理の知識が試されてしまうコーナーです。
特に観客に直接触れるお笑い芸人ともなると、観客心理をきちんと理解していなければなりません。
それがそのまま白日の下に試されてしまう怖いコーナーなのでした。
例えば、お笑い芸人、極楽とんぼコンビの外すこと、外すこと。
それに引き替え、私がいつも感心するのが森田一義と橋田寿賀子(現在は出演していません)です。
彼らの出す質問は見事に狙った数字の近くが出ます。ちゃんと視聴者(特に若い女性)の心理が分かっている証拠です。
出演者にはアイドルやフジテレビの女子アナだっています。その女性出演者たちよりも正確に若い女性一般を理解しているのです。先の例の嘉門洋子や加藤明日美も外してしまったことを思い出して下さい。
「若い奴らの考えていることはわからん」とぼやいている課長さん、部長さんと比較すると、彼らのすごさ、偉さがよく分かります。
さて、「だんだん減らしまShow」はあくまでもエンターテイメントですが、マーケティングではこれを「仮説」と呼びます。
今までの経験やデータ、そして理論からいえば「こうなるだろう」「こうなるはず」。しかし、そのことを検証したデータがないので、「事実」かどうかは分からない。
悪く言えば「推測」、場合によっては「思い込み」や「勘違い」に化けてしまうかもしれない性質の「予測」です。
マーケティングでは常に仮説を立てることが大事になります。
なぜなら、生活者の現在のみならず、一歩先を読んで商品や広告を作らなければならないからです。
「こうしたら、生活者はこう反応するだろう」「こう感じるだろう」といった予測がなければ何もできません。
友人のメーカーに勤める課長さんです。
そのとおり。
しかし、すべての生活者行動に対してデータを整備しておくことは事実上不可能です。
いや、そういったデータがあったとしても、例えば3年前の調査だったら、信頼性は低くなってしまい、使いものにならなくなってしまうこともあり得ます。
かといって、そのたびに調査をしていたのでは、時間とお金ばかりかかってしまう。
どこかで「見切り」をつけておかないと、企業は一歩も前に進むことができません。
そして、「見切り」をどれだけ正確にできるのか。これが仮説能力なのです。
今回の記事は、久々に自己啓発シリーズです。
そして、テーマはそのまま、
です。
冒頭からのお話で、仮説能力とはどんなものかをある程度分かっていただいたと思いますが、ここで、もう少し詳しく見ていきましょう。
仮説能力とは一言で言えば、
のことです。
そのためには、
や
を知っていなければなりません。
日常生活で言えば
のことです。
では、それが分かったところで、どんな意味があるのか?
ビジネスでは明快です。
一般生活者の気持ちが掴めれば、次にどんな手を打ったらよいのかが分かります。
商品開発が必要なのか、新しい情報が求められているのか、購入のきっかけを作るキャンペーンが有効なのか。考えられることはたくさんあります。
また、商品開発ひとつとっても、基本性能を上げた方がよいのか、使い勝手を改善すべきか、見た目のイメージの改良が良いのか。これもたくさん選択肢があります。
仮説能力はこれらに対する回答を導き出してくれます。
もちろん、仮説はあくまでも仮説なので、検証する必要があります。その時には調査会社や広告代理店などを使えばよいのです。
昨今のIT関連の新規事業を見ていると、この仮説設定がおざなりになったまま、過剰な売り上げを期待したり、生活者の先を行きすぎたりするケースが目立ちます。
元々、新規事業というものは、ほとんどの失敗企業とほんの一握りの成功企業という二層構造が古今東西の常ですから、IT関連事業の失敗が多いのは特別なことではありません。
従って、仮説能力がないまま事業化しようとするミスはIT関連に限らない現象です。ひとり彼らのせいだけではありません。
(ちょっと失敗が多すぎるきらいはありますが)。
ということは、仮説能力をきちんと身につけ、必要ならば大雑把な調査をするだけで、どんな事業でも失敗のリスクは一気に減らすことができるということでもあります。
日常生活ではどうか。
人に好かれることができます。
相手が異性なら「もてる」。
同性なら「人気が出る」。
上司や取引先なら「できるやつ」と思われる。
あらかじめ「一般的にはこう行動する、こう考える」ことが分かっていれば、例えば初めて会った人でも間違いや勘違いが少なくなります。個別の人間性は、その上で考慮すればいいのです。
もちろん、相手の気持ちを先回りして考えることができますから、相手から「心地よい人」と思ってもらえる可能性が高くなります。
さて、仮説能力とは何か。そして、それが一体どんな得があるのかを分かっていただいた上で、ビジネスマン、OLに焦点を当てて、仮説能力をどうすれば育てることができるかを中心に記事を進めましょう。
のっけからこんなタイトルでごめんなさい。
しかし、仮説能力を身につけるのに王道はないのが正直なところです。
逆に言えば、
という心構えが大事だということに他なりません。
王道の訓練で最初にすることが、「自分で考える」ことです。
「自分の言葉で話せ」「自分で考えろ」というと「言うは易し、行うは難し」の典型のように思われがちです。
しかし、このハードルだけは是が非でも越えてもらわなければ先へは進めません。
残念ですが、
なんておいしい話は転がっていないのです。
「価値」のような専門用語は便利です。
その大きなメリットのひとつは「たくさんの言葉で説明しなくても、一言言うだけで、相手に伝わること」です。
しかし、正しい使い方をしないと思考停止の大きな原因となってしまいかねません。
どういうことか。説明しましょう。
概念化、共有化などを含めて、どうしたら訓練できるか。
私が良く勧めるのがブレーンストーミングです。
5〜6人が集まって「文殊の知恵」をひねりだそうとする手法。
略して「ブレスト」と呼ぶこともあります。
自分だけで考えていると煮詰まってしまいます。
従って、他人と話すことで刺激を受けて
と発想が広がるのがブレストのメリットです。
まさに、仮説を作るのにうってつけの方法なのです。
企業うちだけでブレストをして、発想を広げようとしても、たまに従来の概念から抜けきれないときがあります。そんな時のために、例えば若い女性向けの商品なら、20代女性に参加してもらいます。
私の20年来のつきあいがあるテレビ企画プロデューサー竹井氏と企画マン坂本氏コンビのブレストの仕方は実にユニークです。この2人は学生時代からの友人のせいもあって、実に息のあった「2人ブレスト」をします。
重要なプロジェクトでは、彼ら2人セットの力を借りることも良くあります。
ブレストに参加する初心者にもコツがあります。
慣れや成長に従って、4つの段階に分けるのです。
まず、当初の10回くらいは「自分だけ」について考え、発言するようにします。
いつも私は
と言い続けていますが、この場合だけは別格です。
慣れないうちに他人のことを考えようとすると混乱してしまうからです。
自分のことについて、その代わり一生懸命考える。
ブレストは初心者には心強い味方ですが、5〜6人を集めなければならないので、そうそう頻繁にできるものではありません。
そこでお勧めするのが「2人ブレスト」です。
これはプロでも良くやる手法です。
私がコンサルタントへのコンサルティングをするときには、この方法を取ることが多いし、私の元同僚の女性コンサルタントは実に上手に私を「2人ブレスト」の「カベ」として使います。
仮説能力に限らず、発想とか視点というものは、考え抜くことで出てくることが往々にしてあります。友人のコンサルタント田崎氏は「神が降りてくる」という表現を使います(笑)