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棚からぼたもちのおいしい商売【写真フィルム】 99.12.1

ビッグマックのような写真アルバム

私のような中年が「ああ、若い人の文化だ」と思うものの一つがあります。
10代後半から20代前半の女性とある程度仲良くなると、必ずといって良いほど出現するもの。写真が一杯に詰まったアルバムです。

アルバムといっても、現像したときに必ずついてくる、あの質素なアルバムです。ビックマックさながらに写真がぎっしり入っています。ゴムバンドで止めただけの写真の束を150枚も見せられることもあります。

もちろん、その大半が相手の女性が写っている写真です。
旅行先で女友達とニッコリ、カラオケパブでわいわい。卒業式の写真もあります。
水着姿も目のやり場に困りますが、露天風呂の写真もあるので中年には目の毒だったりすることもしばしばです。

一時期はプリクラがその代用品になった感がありましたが、まだまだその勢いは止まっていません。
いや、eggというファッション誌が女子高生の間でブレイクしたように、勢いはむしろ加速していると言ったほうが正しいのでしょう。

知らない方に説明すると、eggは街での10代女性のファッションを紹介する雑誌です。ただし、アンアンのファッション・コンクールや読者モデルのように「素人をプロに仕立てる」のではありません。「素人は素人のまま撮る」のがeggの最大の特徴です。だから、カメラマンもいるにはいますが、それよりも普通のスナップ写真が目立ちますし、その上にカラーペンでごちゃごちゃと文字やら絵やらが書き込んであります。今では普通に良く見るあの目が痛くなるような写真です。

余談ですが、eggの前身はHeaven's Doorという素人モデルのディスコファッション誌でした。
この雑誌に登場する女性たちは、まさに当時のマハラジャやキング&クイーンなどのディスコでお立ち台に乗って扇子を振り回している人たちだったので、肌の露出が過激なファッションばかりでした。加えて、この出版社の主力誌が女子高生セミヌード誌とSM誌なので、出版社の意図にはおかまいなく、コンビニでは男性誌と並んでいたのが笑えました。当然、eggも創刊時は男性誌コーナーにありました。まさかこんなに女子高生の中でブレイクするとは夢にも思いませんでした。

なぜ生活者が写真フィルムメーカーににじり寄ったか

唐突ですが、今回は写真がテーマです。
しかし、写真フィルムメーカーの戦略の話をしたところで、おもしろい記事が書けそうにありません。デジカメとの攻防戦の話は別に用意していますので、ここでは角度を変えてテーマ設定をすることにします。

写真フィルムメーカー、特に市場の70%を占める富士フィルムは、写真フィルム市場をいかに拡大するかという視点でのマーケティング活動や商品開発をしています。ところがどうにも総花的なのです。それはそれでトップ企業としては正しい戦略です。しかし、拡大というより維持するだけの力しかなく、どこか優等生的で力強さを感じさせません。

例えば、コニカのヒット商品である赤ちゃん専用のフィルム「ママ撮って」のように、ある特定の生活者層を刺激したり、ポラロイドのような特定の用途で力を発揮するような商品の普及に力を注ぐような「成長のためのアンバランスさ」がありません。

いや、確かに富士フィルムもポラロイドタイプのカメラ持っているし、写ルんですのようなカメラの根底を覆すヒット商品も出しました。また、最近ではチェキ (名刺サイズの写真ができる低価格のポラロイドカメラ) がヒットしています。
でも、これらはあくまでも「トップだからオールラウンドにカバーしています」という企業としての活動です。

企業イメージ調査を見てもそのことが分かります。富士フィルムのイメージは「フジ」という企業イメージであって、個々の商品やターゲットではありません。例えば、コニカは「ピッカリコニカ」のイメージが強いし、ソニーは「若者」や「AV機器」のイメージが強い。

細かく言えば、トップ企業のイメージは「全てに強い=総花的」でなければならないところがあります。でも一方で、小学生のときから算数も国語も平均的に成績が良い子どものようなものです。それより、他はそこそこ平均的だけど理科だけは滅法強い人間のほうが結局偉大な実績を残します。

「全てに強いけれど、●●はもっと強い」

が本来求められる成長するためのトップ企業の姿です。

女子高生の間で写真がコミュニケーションの道具として使われるようになったのは、決してメーカーの意図ではなく、彼女たちが無理矢理に工夫して自分たちの文化に商品を合わせているだけです。

そこで、今回は写真フィルム業界がいかに戦略を立てたかではなく、生活者が写真フィルムににじり寄ったのはなぜかについてお話しします。
その中でも女子高生を中心とした若者にフォーカスを当てることにします。
彼女たちの心理をのぞき込むと、「今後のスタンダード」となりうる要素を幾つも抱えているのがかいま見えるからです。
セーラー服恐怖症の私ですが、私服なら大丈夫です。

【以下、小見出しと最初の段落のみをご紹介します】

写真ご披露現象のひとつの理由

冒頭に上げた写真ご披露大会は、彼女たちの言語表現の能力不足を補うものとして発達した文化だと最初は思っていました。彼女達を見ていると、「私って、こんな人なの」ということを伝えたくて写真を新参者の私に見せていたからです。共通言語としての日本語の語彙が貧弱な彼女たちですから、写真抜きでは私との会話や自分を描写するのにかなり苦労するのです。

数か月前が「懐かしい」?!

実はもうひとつ、大事な心理・意識が写真に大きく関わっていたのです。
発端は私に自分の写真を見せるときに必ずつぶやくことばが「懐かしいなぁ、それ」であることに気がついた時でした。

同じ日を「お久しぶりです」「先日はどうも」という感覚

いずれにしても、時間感覚の違いは女子高生だけの問題ではなさそうです。本格的に考えてみることにしました (メルマガでは女子高生に焦点を当てたままです。悪しからず)。

まず、辞書を引いてみます。でも、時間を表すことばの定義ははっきりしません。

●しばらく
 「少し、長く時間が経過したと感じられることを表す」

●懐かしい
 「以前のことを思い出して、もう一度会い (見) たいと思う気持ちだ」

「女子高生の時間感覚調査」

そんなことを考えていたら、ちょっと古い資料が見つかりました。
おもしろいのでご紹介します。
タイトルはズバリ「女子高生の時間感覚調査」 (97年8月)。
今はなき「アクロス」という流行をテーマにした専門誌です。

『昔は良かった』と思うときがある yes 88.7%

境界線があいまいになっている現在の女性像

アクロスのデータで女子高生達が本当に半年前や1年程度でも「懐かしい」「思い出」となっていることが分かりました。
でも、どうしてこうなってしまったのでしょう。

確かに、私たちの時代でも先のことは考えずに突っ走っていたことは事実です。
大人から「もっと将来を考えなさい」なんて言われても「へのカッパ」。就職した会社の同期の男性が、結婚を考えて貯金をしていると聞いたとき「へぇ、しっかりしているなぁ、でもおやじ臭いなぁ」と思ったこともありました。私といえば「25才までは自分に投資するから、貯金はゼロ」が目標でした。お金の使い道はナイショですが。

40倍のスピード差は本当だった

これで疑問が解けました。
女子高生は自分達の将来像が見えてこないのです。大人の女性がどんなに仕事をしていても自己を確立しても、それは中身です。女子高生に見えてくるのは「なぁんだ、似たような格好をして、似たようなことをしているだけじゃん」という表面だけの類似性です。で、「ばばぁが何言ってんだよ」と。

女子高生をスケベ心ヌキで見つめてみたら?

最後にもう一度、写真に戻りましょう。ここまで来ると話は簡単です。
女子高生の「懐かしい」「思い出」を他のグループや自分達のグループ内でビジュアル言語で共有する最も安くて手っ取り早い方法が・・・そう、写真であったのです。

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