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サルにもわかる広告開発 2003.4.1

腐っても鯛

きのこのこのこ げんきのこ
エリンギ マイタケ ブナシメジ
きのこのこのこ げんきのこ
おいしいきのこは ホクト

今、話題の広告です。
無名だった従業員600人足らず、売上高250億円のキノコの栽培メーカー、ホクトを一躍有名にしたキノコの広告。そのCMソングが大ヒット。オリコンで週間売上げ16位にまで上っています。
広告のチカラをまざまざと見せつけられる一瞬です。

広告と一言でいっても様々な種類がありますし、作り方がまったく違います。広告の目的や役割が違うからです。
例えば、ラジオ広告は耳で聞くものですから、目で見るだけの雑誌広告とは根本的に違います。
また、音と絵が出るテレビ広告は、絵が動かない雑誌広告や新聞広告とは違う作り方であることは容易に想像が着くでしょう。

従って、今回はみなさんが最も親しみやすい「広告の主役」であるテレビ広告に焦点を当てることにしましたが、作り方の基本は他の広告と変わりません。
費用が高いテレビ広告は準備にお金がかけられることだけが違いです。

例えば、標準的な広告の制作費用は2,000-3,000万円、それをテレビ局に持ち込んで流してもらう費用が3-10億円にも及びます。
一方の雑誌広告は、制作費で200万円、雑誌に広告ページとして入れてもらうのに100-3000万円が相場だと思えば、桁が違うことが分かると思います。

ちなみに、「広告の王者」テレビ広告ですが、最近はネットのおかげでテレビを見なくなった生活者が増えたり、テレビよりも自宅では音楽を聴く独身者が昔からいたりと、時代を追う毎に分が悪くなっています。
「テレビ広告の時代は終わった」と言われることも多くあります。
しかし、それでもテレビ以上にたくさんの生活者に触れる広告がない現状では「腐っても鯛」と私は呼んでいます。

なぜか。
テレビでは視聴率1%が約150万人に当たります。
5%の視聴率の番組の直後に広告を流せば750万人に見せることができ、10%なら1,500万人にも及びます。
一度にそんなたくさんの人たちに広告を披露できるのはテレビしかない。
例えば、雑誌は、100万部の発行部数があれば「大」雑誌ですから、その差は歴然です。

さて、今回は広告会社の現場からの視点で

「広告はどうやって作られているのか」

を、おちゃらけを入れながら、ご紹介します。

「へぇ、こんな感じで広告を作ってるんだ」とおもしろがるも良し。
「クライアントとして、こうした方がよいのか」と参考にするのも良し。
「他の広告会社はこんな感じなんだ」と対岸の火事を楽しむのも良し。

広告会社、しかも広告制作となると、クリエイティブのスタッフを主人公にするのが王道でしょうが、それだと余りにも生々しすぎてしまいます。
そこで、このメルマガにふさわしい部署であるマーケティング部に勤務する二人を描きました。

今回の主人公は35才の林本さん。中堅の広告会社、連邦社でマーケティングを担当しています。
脇役は準大手、第百企画に勤める弱冠27才の渡辺さん。彼もマーケティング部署です。

一人は超真面目でスーパーマン的な動きをするマーケティング・スタッフ。
もう一人はちょっとテンションの高い体育会系おちゃらけマーケですが、両方とも実在の人物がモデルです。
あの業界は本当にいろんな人間がいるものです (笑)

連邦社編:情報戦のスタート

冬の寒いある日です。
連邦社の林本さんが近くの定食屋で昼飯を食い、職場に戻った直後です。
営業から電話がありました。

「近々コンペがありそうなんですわ。
ちょっと、打合せをしたいので、明日の午後、時間あるかしら」

営業は他社に先駆けてコンペ(広告企画競争)の情報をつかんだようです。
今回のように先々のクライアントの動きを察知して、各部署に準備をさせるのは営業の最大の役割のひとつといっても良いでしょう。
他社よりも早く情報を察知できれば、その分、用意周到な準備ができ、自社が有利になるからです。

逆に言えば、普通にやっていたのでは間に合わないほど、クライアントの企画提出の締め切りが短いことがほとんどです。
だから、正式なコンペ(広告企画競争)参加の依頼を待っていたのでは、とてもではないけれど、クライアントが要求する水準の広告は作れません。
そのためにも事前の情報収集は大事なのです。

林本さんが次の日にミーティングに行ってみると、集まったのは営業部、マーケティング部、制作部の面々。事前打ち合わせなので、総勢5人という小規模ミーティングです。

【営業】「クライアントはパイス工業。商品は新しいデジカメです。
パイスは最近、デジカメのフルラインナップをにらんで、次々と新商品を開発しているのはご存じのとおりです。お手元の資料にまとめたのが、彼らが計画しているラインナップです。
このうち、比較的彼らが弱い低価格の普及機にチカラを注いでいる訳ですが、この春300万画素機を新たに投入する予定になっています」

手元にあるのは、社外秘のハズの商品開発計画表と彼自身が日常の取材でまとめた次機種の予想スペック、そして市場投入予定日です。

【営業】「パイスのいつものやり方だと発売日は約4カ月後になります。
正式なオリエンテーション(企画競争の依頼)は恐らく今から2カ月後。それをまともに待っていたら、オリエンからプレゼン(企画説明)まで3週間しかありません」

【クリエイティブ】「3週間なんてまだいい方です。この前なんて、水丸園食品が指定したのが10日間ですよ、10日間。
それでいて、マーケティング戦略を作って、テレビと新聞の企画案を提出しろなんて言われましたもの。
しかも、企画案はVコン(企画案をスケッチではなくビデオで制作したもの)で5案以上提出。
オレにどうしろ、と。死ね、と (笑)」

広告戦略と広告企画案のセットはまともに作ったら、3カ月はかかる代物です。

【クリ】「この前のビルポ・カージャパンは楽だったよな。
まず、マーケティング戦略のコンペで広告会社を絞って、それからクリエティブ案で広告会社を最終的に絞るから、時間はたっぷりあった。外資系でも珍しいよな、ああいうのって」
とクリエイティブ・ディレクター。

【林本】「あれはかなりキツイですよ。
第1次コンペで落ちたら、完全にマーケティングの責任じゃないですか。
言い訳が効かないし、心臓に悪いですよ、いや、ほんと (笑)」

【営業】「ということで、私は正確な情報を取るようにしますが、皆さんはそれぞれ準備しておいてください。
ちなみに、オリエンの確率は95%ですから、準備がムダになることはまずあり得ません」

【林本】「企画案の前にマーケティング戦略を作ることになる訳だけど、調査予算はいくらくらいもらえるのかな」

【営業部部長】「費用の点はマーケから提案してくれないか。
制作からの提案やプロモーション部隊を含めた全体で考えるから」

彼がこういう言い方をする時は、そこそこ大きな予算を考えている証拠です。

【林本】「それじゃ、ラフ予算案を3日後にメールします」

【営業部部長】「わかった。
それから、制作も外部プロダクションの選定を進めておいてくれ」

【クリ】「了解。デジカメの制作会社ならロビーかな。まあ、相談してみます」

ミーティングが終わりました。
営業部長は効率よく、手際よく仕事を進めるので、林本さんは好きなタイプです。

【以下、小見出しと最初の段落のみをご紹介します】

連邦社編:準備が本番

さて、席に戻ると林本さんはまずデジカメ市場がどういった状況かを把握するために過去の調査資料などを読み返します。
2年前にパイス工業の仕事をしたので、デジカメのマーケティングには土地勘があります。しかし、進化が激しく市場も大きく動くので、2年前のデータなどゴミ同然という可能性もあります。

連邦社編:オリエンテーション

そんなこんなしているうちに、2ヶ月が早くも経ったある日、営業から電話がありました。オリエンが来週にあるという連絡です。
もちろん、林本さんも一緒に行きます。
同行するのは最初に集まった5人。

クライアントの現場に行くと、他の広告会社の面々が待機していました。
数えてみると全部で5社。30人近い人間が無言でオリエンが始まるのを待っています。

第百企画編:課長のおごりっすか、キャバクラ?

場面は変わります。数日前のことです。
入社5年目。第百企画の若手マーケ、渡辺さんは退社の身支度を整えているところに、上司の山田課長から緊急連絡が入りました。

【課長】「コンペのオリエンが明後日にある。時間をあけておいてくれないか。
たった今、営業から連絡があったんだ」

第百企画編:そんなの広告にならんぞ

【クリエイティブ】「んでさあ、今回、こう思うんだよね。
空気感と生っぽさが、今まで足りなさすぎたんだよ。
だからさー、デジカメだろ。
そういうのを見せないと話にならないんだよね。
んでさ、コンペだから目玉がないといけないわけよ。
こう…どっかーんと、目を引くような派手なヤツでさぁ」

【渡辺】「て優香、やまさん。日本語話してよー。ぜんっぜん何のことやらわかりませんですた。
漏れ日本人でつ(´Д`)」

連邦社編:クリエイティブ戦略プレ

さて、場面はまた連邦社に移ります。
林本さんは手慣れた手つきで、次々と調査を実行していきます。

「おい、林本君、そろそろクリエイティブに中間的な方向をプレゼンテーションする時期だな」

営業部長から確認が入ります。
事前準備をきちんとしていても、たっぷり時間があるわけではありません。
本来なら、調査が終わり、分析し、戦略を立てた上で、広告でどんなことを訴えるのかを決めて、クリエイティブ・スタッフに提案したいところです。

第百企画編:目立たなけりゃ、鼻くそとおんなじ

一方の渡辺さんです。
他の仕事をこなしながら、企画案が上がってくるのを待ちます。
…が、なかなかクリエイティブから連絡がありません。プレゼンテーションが3日後に迫っているというのに。

このままでは、マーケティング企画書どころか調査すら間に合いません。渡辺さんはクリエイティブに直談判することにしました。

頑張れ、二人

当日になりました。
プレゼンテーションです。
各社、大きなボードを抱えて、次々と決められた時間にクライアントのプレゼンテーション・ルームに入っていきます。

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