日本経済始まって以来の未曽有の不景気だと言われます。あっちでバタッ、こっちでバタッと企業が倒産する音が聞こえてきます。
一方で元気な企業も存在します。ソニー、ホンダ、エプソン等です。
そんな平成不況の中、日立が大幅な赤字を出してしまいました。単独で2,700億円の赤字額。4,000人削減などのリストラ案などを発表しています。
あの9兆円巨艦の赤字です。新聞は大騒ぎ。
「うちがおかしくなったら、(社会的な影響は)山一証券どころではないインパクト」
グループ企業合計で33万人の従業員を抱える同社役員の、一見、責任感のある発言ですが、実は極めて傲慢な、いかにも日立マンらしいニュアンスは、この際無視して話を進めることにします。
朝日新聞 (98.9.4) によると以下の点が指摘されています。
主に売上比率が大きい重電・情報関連部門の不調が招いた赤字です。
「運が悪い」、「不況のあおりを食らった被害者」日立、という図式が見えそうです。
しかし、マーケティングの視点から今回の日立を眺めてみると、実はもっと根が深いことがわかるのです。
まず、日立の商品ラインナップを見てみましょう。私達が親しんでいる家電、電子機器だけではなく、プラントや電力施設など実に多岐にわたる商品を扱っています。
正に日立が「総合電機企業」と言われる所以です。
そして、企業規模がでかい。連結で年間売上9兆円、従業員33万人。
「巨艦」と言われる所以です。
これだけ広範囲の商品を扱っていると、巨艦日立は何があっても潰れない、赤字にならないというイメージがあってもおかしくはありません。
実際、日立の役員がコメントしたように、
「総合電機メーカーは、時代ごとに伸びる分野を持っていたが、今は、そういうものが見あたらない」
のです。
うーん。商品ラインナップが広いということには、こういったメリットがあったのか、と納得しそうなコメントです。
でも、何か変です。
デジタル・カメラは現在でも急速に市場を拡大しています。
パソコンは今一つ成長がなくなってしまいましたが、周辺機器、とりわけプリンタは元気です。
また、この不況で「一人勝ち」と言われる携帯電話だって元気です。
日立の役員は何を指して「利益を支えるものがない」と言っているのでしょうか?
しかも、上に上げた成長分野には、すべて日立も商品を出しているのです。
えっ?と驚いたあなたは正常な一般消費者です。
デジカメはmpegのカメラを出している、とか、携帯電話は
IDO と J-PHONE 用に供給している、タイフーンというレーザープリンタを日立作っているよ、というあなたはマーケティングのプロか「ヲタク」です。
そう、商品ジャンルの広さや企業規模はマーケティング上、大きな意味を持たないのです。
「クズはいくら集まってもクズ」だからです。
デジカメ市場が伸びていても、日立の MP-EG1 というデジカメは売れていません。
エプソンが大幅な売上増と利益増を果たしたプリンタ市場でも、日立のタイフーンは全く精彩を欠いています。
そんなものが寄ってたかっても、日立の利益に貢献するわけがありません。
先ほどの日立の役員のコメントは
「大した努力をしない企業にも、利益を与えてくれるような、おいしい商品が、今はない」
と翻訳する必要があります。
もう少し、詳しく見てみましょう。
日立のそれぞれの商品分野の市場シェアを見ると、それが良くわかります。
商品ジャンル | 市場シェア | 順位 |
---|---|---|
汎用コンピュータ | 22.0% | 第3位 |
PCサーバー | 8.3% | 第5位 |
電子レンジ | 12.1% | 第5位 |
カラーテレビ | 8.5%以下 | 第6位以下 |
据え置き型ビデオ | 10.1%以下 | 第6位以下 |
ビデオカメラ | 6.7%以下 | 第5位以下 |
冷蔵庫 | 15.5% | 第3位 |
エアコン | 9.6% | 第5位 |
洗濯機 | 19.0% | 第2位 |
【注】出所 : 市場占有率98
そう。どの分野も日立は1位というものを持っていないのです。いや、2位、3位というのも実はほとんど数えるほどで、大半が5位あるいはそれ以下。
デジカメやプリンタでの日立は特殊なケースではありません。日立、という企業が持っている性質のようなもの、それが、トップの市場がない、ということなのです。
トップがあれば、当然下位が存在します。
下位メーカーというと、三洋電機の例を私は良く使います。
一方、下位企業はそのままでは勝負になりません。
「側面攻撃」や「ニッチ攻撃」などの差別化を主体とした競合戦略をとらなければなりません。
しつこいようですが、もう少し詳しく説明しましょう。日立のケースというのはちょっと誤解が生じやすいのです。
ここで上げた「生活者」が関係する家電部門は日立総売上のたった9%しか占めていません。でも、日立という企業の本質は同じです。そして、読者諸兄が日立から学べることも同じです。