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「ひゅーひゅー」桃天は本当に売れる戦略か?【JT桃の天然水】 98.7.16

元気な桃天

イメージカット1桃天が売れている。年間300万ケースという。これは対前年比300〜400%に相当する。その直接の原因は、あの華原朋美の「ひゅーひゅー」のCFである。

JTの子会社、JT飲料は今まで不遇の企業だった。

たばこの香料の技術は世界でも最も進んでいる、と言われる。直接舌に感じさせ、鼻に働きかける普通の香料と異なり、「燃やし」たものを「煙の形で」感じさせる、という間接的な効果を計算しなければならないからである。

また、たばこのマーケティングは世界でも最も進んでいる業界の1つと言われる。
アメリカのPOP大賞の銅像は、昔たばこ屋の店頭にあったインディアンがたばこを吸っているデザインである。

「公社」という影に隠れて見えないが、日本たばこ(専売公社)は明治時代からマーケティングが最もしっかりしていた企業でもあった。
昭和34年に、日本にマーケティングという概念が伝わった年から、すでに当時の専売公社は組織を作っている。また、現在、当たり前のように使われている林のII類やIII類などの統計理論は、林教授と専売公社の共同研究だった。

また、全国の支社にまで調査課を持ち、全部で120名を越す人材が調査に従事している企業などはそう見当たらない(現在は本社に集約されている)。

贈り物にたばこを。職人さんに2〜3箱のたばこを持たせる。一部の地域で行われている、葬式でのたばこの返礼等の慣習は自然とできたものではない。明治から昭和にかけて当時の専売公社が仕掛けた「キャンペーン」の成果なのだ。
しかも、昭和初期には現在のようなたばこのキャンペーンガールがすでに存在していた、という驚きの事実もある。
最近でも、街にサンプルを配るキャンペーンガールの草分けは昭和55年から当時の専売公社であったし、自販機にパネル形式のポスターやボタンにシールを張って、新製品をさりげなく訴求するPOPは、やはり、昭和55〜56年に同社が始めたことを知る人は少ない。

そんな公社の枠からはみ出して新規事業を考える時、飲料事業が候補に上がるのは当然の成り行きである。
しかし、技術が良いだけではものは売れない。
客観的に見ても、JT飲料の商品は「おいしい」ものが多かったのは事実だ。

が、販売力とマーケティング力は永らく「公社病」にかかっていたスタッフにとって、思った以上に厚い壁だった。なにせ、トップの企業の戦略はお手のものだが、新規参入の戦略はからっきし。キリンの飲料事業やサントリーの清涼飲料水部門が永らく低迷していたのと全く酷似している、と思えば良い。

うわさ半分で聞いても、初年度の広告費の総額20億円が売り上げ総額と変わらない、という状態は「悲惨」という言葉以外の何者でもない。ちなみに、JTと吉富製薬との合弁事業であるライフィックスも同じような状況だった。

当然、経費縮小である。一時、田原俊彦を起用して「完熟コーヒー」のCFを投入するなど、小ヒットはあったものの、泣かず飛ばずの状況が続いたのである。

【以下、小見出しと最初の段落のみをご紹介します】

流通とマーケティングは両輪

初期の惨敗の理由はいくつもあるが、最大の失敗は流通施策とコミュニケーション施策のチグハグさを見誤ったことである。

たばこ市場では、営業マン2000人強を抱える同社である。

日本市場から撤退した、米国トップ企業

よくやる間違いだが、つい最近も、同じ失敗をしでかして撤退した企業がある。
アメリカでトップシェアを誇るペットフードメーカーの雄、ピュリナである。

桃天チャンスとその背景

わき道にそれてしまった。
桃天の話だ。

そんなJT飲料にチャンスが来た。

今回のJT飲料の追い風

初期と異なり、市場は好転している。
さすがに、JTの企業力に期待していたスーパーやコンビニのバイヤーは、JT実力に落胆したものの、着実に自販機網は増えていた。約3万台という小規模ではあったものの、初期の数10倍の販売拠点数である。

何も伝わっていない「ひゅーひゅー」

でも、本当にそうなのか?

桃天を飲んでいる女性に街中だろうが、他社のオフィスだろうが、友人だろうが、誰彼構わず、

「なぜ、桃天を飲むのですか?」

と聞くと

何だかわからない広告は無意味の頂点

私がこう言うと、「『なんだかわからないから、興味を持って飲んでみよう』という趣旨の広告ではいけないのか」という質問が来ることが多い。その時は

「いけないです」

と答えるようにしている。

元祖パルコの勘違い

ちなみに、「何だか訳の分からない広告」の代表例といわれるパルコには、実はきちんとしたメッセージが盛り込まれていたことを理解している業界人は少ない。

知名度というマーケティングの大原則

では、なぜ、桃天が売れたのか?

簡単である。

最も怖いのは、「売れれば良し」とする姿勢である。

なぜ売れたのか、をきちんと把握しなければ、今回のような「美しき誤解」は避けられない。恐らく「成功経験、方程式」として、JT飲料にこのケースが残り、いつか同じような手法を使おうとするだろう。しかし、その時はうまくいかない。何故なら、同じ条件を次の商品は持っていないからだ。そして、結論が出る。

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