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「ナウイぜ、以上」【IT産業】 2000.3.1

奇っ怪、奇妙キテレツが電波を飛び交う日

「携帯でJサイド。ナウイ」と大橋巨泉が言えば、ビキニ姿の外人女性が「ヒシサブリニ、キイタ」と答える。
・・な、なんですかぁ、これ?

名刺のような紙がドミノ倒しになって、何本も広がっていく。「携帯電話、インターネット、世界が広がる」とナレーション。
・・え、ええええ?

「ト・リ・ケ・ラ・ト・プ・ス」と今をときめく若者のアイドル・ミュージシャン浜崎あゆみが、折れそうな長い爪でキーボードを叩くと、恐竜が出現。
ライコス。
スーパー入る。
・・わわわわ、な、何が起こったの?

最近、奇っ怪な広告がテレビ画面をところ狭しと跳びはねています。
いや、いにしえの昔から、テレビ広告に奇っ怪、奇妙キテレツな画像が流れるのは日常茶飯事です。そう驚くものでもありません。

従来の広告業界の常識でいえば、奇妙な広告には大体3つのパターンがありました。
1つ目は競争相手が大量の広告を流しており、そのまま普通に作っていたのでは自社広告が目立たないから、やぶれかぶれで訳の分からないものを作って「話題にさえなればいい」とばかりの「カミカゼ特攻隊」のような企画案にします。
古くは三菱自動車のエリマキトカゲがそれにあたります。サントリーモルツのとんねるずバージョンもこの仲間です。ちょっと趣は違いますが、リコー・カラープリンタの動物シリーズもこの中に入れて良いでしょう。

2つ目は、かつての禁煙パイポやピップエレキバンのように、中小企業で広告予算が少ないから、とにかく目立つものを作って予算の不足分を話題でカバーするもの。

最後のパターンは「訳が分からないのがおしゃれだぜ」とばかり、パルコの亡霊を追いかけただけの安直な勘違いファッション広告です。これについては別の機会に記事のテーマにしたいと考えています。
あ、ただ、個人的にはGAPだけは特別扱いさせてください。なぜか、あの広告好きなんです (笑)

とはいうものの、IT産業(情報技術産業)の広告はすさまじいものがあります。
ファッション産業を除けば、産業すべての広告がこのような「やぶれかぶれ型」なのは前代未聞です。

比較的マシなプロバイダの広告も「皆さん、うちのことは知ってますよね」という前提で作られたものばかり。とりあえずまともに近いソネットの広告だってほめられたものではありません。

だって、いきなり床を破って、たこが乗った潜水艦が飛び込んできて

「ニフティ。以上」

ですよ。これが「@nifty」というとりあえず日本で最大の会員数を誇るプロバイダだと誰が想像できましょう。

いや、これを見て、

「@niftyという名前は知らなかったけど、プロバイダの広告だとすぐに分かった」

という読者の方は名乗り出てください。真っ向からその人に喧嘩を吹っかけさせて頂きます。覚悟おし(笑)

@niftyの広告を初めて見た時、私は10年間続いた@niftyを脱会しようかとマジに思いました。会員増の効果があるなら我慢もします。でも、あの広告を見て、「@niftyに入会しようかな」と思う人が相当数いるなら、私はコンサルタントを廃業します。

1会員としての立場で言えば、それだけの費用があれば、もっと通信環境を充実して欲しいと切に思うからです。少なくともテレホタイムや週末に突入すると動きが無茶苦茶鈍くなるのは緩和されるでしょう。自分の会費が環境向上のために使われるのではなく、ドブに捨てるしかない低水準の広告に使われるのなら、他のプロバイダに乗り換えたほうが利口です。ただでさえ、@niftyの法人契約は個人契約より割高なのですから。

素直なクライアントと真面目なクリエータのハーモニー

「やぶれかぶれ」広告に戻りましょう。
金が余って余って、広告でも流さないと税金で取られるからばかばかしい。だから、経営者1個人として趣味でやってみたというなら、私は何も言いません。自社の金をどう使おうが、プロジェクトの依頼もないのに私ごときが口を挟む筋合いがないからです。実際、税金で取られるなら広告をしてしまえという会社も存在します。

しかし、テレビ広告をするには最低でも3億円、場合によっては10億円くらいかかることもあります。もし、万が一真剣に冒頭のような大橋巨泉の広告で売り上げを上げようなどと考えているならば、悪いことは言いません。即刻中止したほうが身のためです、従業員の生活のためです。

さて、いつもより、皮肉っぽい書き出しで始まった今回記事のテーマはIT産業の広告です。
ヤフーの株価1億円が話題になりマザーズが話題沸騰する中、これから、豊富な資金にものを言わせて、IT関連企業がどんどんテレビ広告の世界に入ってくるでしょう。でも、財務的に基礎体力がある企業ならまだしも、ベンチャーキャピタルなどの後ろ盾で資金調達をしているような企業の場合、一歩間違えればアウトです。倒産です。

アクティブ読者のまつおさんのようなプロがいれば心配する必要はありませんが、ベンチャー企業のような中小だと、広告担当者を新たに採用することはしないものです。

英会話NOVAの業績不振の一つが広告費の負担増加という事実を見るまでもなく、テレビ広告は売り上げを上げる魔法の電波となると同時に、業績の足を引っ張る「クモの糸」にもなり兼ねません。
それだけに使い方を誤ると大変なことになります。

普段なら、

「ま、いいか。どこがが失敗してからケーススタディとして取り上げれば、私の話にも説得力が出るから・・」

と冷静に見守っていきます。

ところが、このメールマガジンの4割近くの読者がIT関連に従事している技術者の方たちです。ひと事ではありません。
そこで、今回はこれから広告をする可能性があるIT産業の方たちのために、広告の基礎知識をご紹介します。

こういう話すると必ず「シストラットの営業をしている」と揶揄や非難する方がいらっしゃるので、あらかじめ申し上げておきます。
シストラットではこの記事を読んでのIT関連企業からの広告戦略の依頼は、お受けできません。わざわざシストラットにお金を払わなくても、ある程度のレベルならまともな広告が作れるからです。

これからお話する内容は、私の独自の考え方は別にすれば「素直なクライアントと誠実な広告代理店」の関係なら、当たり前に出てくるものです。私がわざわざしゃしゃり出て、有料アドバイスをする必要はまったくありません。
ただ、個別無料相談サービスも行っておりませんので、悪しからずご了承ください。

【以下、小見出しと最初の段落のみをご紹介します】

秘密の会話?

では、冒頭の広告はというと、クライアントの広告担当が広告の知識もなしに

「俺だってテレビ広告くらい作れるぜ」

とクリエータごっこをやってしまったか、よほどたちの悪い代理店にぶつかってしまったかのどちらかです。

テレビ広告は魔法の杖

一般の方のテレビ広告のイメージは「金がかかる」「でも売り上げは上がる」です。
テレビ広告には金がかかるから、そんな大金が出せる会社の商品は安心できるというイメージは厳然と存在します。ペットフードが「イヌ、ネコのエサ屋」から「ペットフード『会社』」にイメージが変わったのもそれが原因ですし、「サラ金」が「消費者金融」になったのも、テレビ広告のパワーです。

「それなりの理由を」「一定数以上の人たちに」

でも、テレビ広告をしている商品を冷静に観察してみてください。「みんな」売り上げを伸ばしていますか?
コカコーラのタブクリアは一説によると広告費20億円。でも、現在の売り上げはほとんどゼロ。

なぜ?なぜ?なぜ?

それでは、冒頭のテレビ広告がなぜいけないのか。
何が言いたいのかが分からないからです。最も初歩的なミスです。

「Jサイドというものと携帯電話を使って何かをする」

というのは分かりますが、これがプロバイダなのか、インターネット通販なのか、ぐるなびのような情報サービスなのか、検索エンジンなのか。とにもかくにも、何が何だか分からない。いや、もしかしたらiモード用のコンテンツなのかも知れません。

「来週、今度はパンティも取ります」

また、ティーザー広告という手法もあります(ティーズということばは「じらす」という意味です。日本でいうストリップは、ストリップティーズの略で「服を脱ぐことで客をじらす」という意味です)
生活者に興味を持たせて次の広告に注目させる方法です。一般的には新製品で実際の発売前に流すのが慣例です。古くは「お元気ですか?」の日産のクルマ(名前を忘れてしまいました)、パスポートサイズのソニーハンディカム、最近ではあの永谷園のお茶漬けのテレビ広告で顔を隠した男性が出演しちょっとした話題になりました(実は反町隆史)。

「意味が分からない広告」は知名度も上がらない

「知名度さえ上がればいいんです。会社の名前が知られればいい。
それに、IT産業の会社なんて一般の人には関係がないから、それが分かっている人つまり見込み客だけを相手にすればいいんです。何でもかんでも一般の学生さんやOLに繋げなけれ気が済まないのは森さんの悪いくせですよ」

とある人に言われました。
なんと贅沢な話です。
広告効果と費用対効果を計算した上でやっているのなら脱帽です。

ではどうすべきだったか

今回は文句を言っても始まりませんので、「私はこう見る」では珍しく「ではどうしたらいいか」をちょっとだけご紹介します。
というのも、IT関連産業は一部を除いて小さな企業が多く、彼らを非難するだけで終わってしまうのはかわいそうだからです。日立をやり玉に上げるのとはちょっと質が違います。

@niftyやsonet、BIGLOBEはそれぞれ大きな企業ですが、これらネット社会で長い企業は文句を言われなれて鈍感になっているので、「馬の耳に念仏」で「言ったってしゃあない」状態という理由もあります。

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