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ヒット商品を最初に買う人たち
【サルにもわかる基礎マーケティング】【イノベータ理論】 2013.5.1

メルマガはイノベータ理論ケーススタディの宝庫

このメルマガでもイノベータ理論を使った記事はたくさんあります。メルマガブログ版で検索しただけでも、全99本の記事のうち24記事がヒットしました。
メルマガではできるだけマーケティング用語を使わないようにしているので、大半の記事では「イノベータ」という単語は1本あたり1〜2個しか出てきませんが、数多く出現する記事もあります。

「■がんばれ!日の丸スマートフォン【スマートフォン】」
はイノベータ理論の中でもストレートにアーリーアダプタに焦点を当てた記事です。

「■ネットブックに虹の彼方が見えるか【ネットブック】」
では「イノベータ」という言葉が35回も出てきます。

「■これもソニーです。It’s a Sonyの秘密【ソニー】」
では9回、

「■iMacよ、どこへ行く−続The Different Story of iMac【iMac】」
では15回も出現します。

パソコンや電子機器だけではありません。

「■男女同権か、いじめか【セクハラ】」
といった社会現象をテーマにした記事でも、9回「イノベータ」という単語が出現しています。

私のメルマガはイノベータ理論ケーススタディの宝庫ともいえます。
実務でも私はイノベータ理論を重視しています。ヒット商品を作るためにはこの考え方が欠かせないからです。
従来のイノベータ理論からオリジナルの「ダブル・イノベータ理論」を作ったほど使い込んでいる理論です。

さて、そんな大切な理論であるイノベータ理論が今回のテーマです。
基本的な考え方はとてもシンプルですから、肩の力を抜いてお楽しみください。

生活者は常に3種類に分けられる

スマートフォン、ファッション、食品、飲料…
どんな商品でも生活者は3つのタイプに分けられます。

●最初に新製品を買う人たち
●それに続く人
●みんなが買い始めてようやく買うようになる一般大衆

そして、それぞれのグループに名前を付けます。

●イノベータ(革新者。人口比約10%)
●アーリーアダプタ(早期受容者。人口比約25%)
●フォロワー(後期受容者。人口比約60%)

イノベータ理論の骨子はこれだけです。
とてもシンプルな考え方でしょ?

この3分類が実務的にどんな意味を持つのか。
生活者を分類するだけなら単に知的好奇心を満たすだけで終わります。
でも、ビジネスで使うなら企業にとってメリットがなければなりません。

イノベータ理論が大切なのは、最初に新製品を買うイノベータの人たちに人気が出れば、その商品がアーリーアダプタを通じて一般大衆に広まっていくからです。
イノベータは無料のセールスマンとして商品を周囲にクチコミで広げてくれる人たちなのです。

テレビ広告もいらないし、プレゼントキャンペーンも必要ない。
しかも、10%しか人口がいないので、100%の人口を相手にするより広告費や販促費用が安く済みます。逆に、今までと同じ金額の広告費を使っていても効果は何倍にもなりますから、少ない費用で高い効果があります。

マーケティング経費が抑えられますから、弱い企業でも上位企業と張り合うことができます。売上げが上がってくれば、スーパーやコンビニの取扱店を増やすことでもっともっと売上げが上がる。

費用対効果がとんでもなく良くなるイノベータ理論。下位企業に優しい戦略。これが私がヒット商品を何百個も作る原動力となるのです。

ニンテンドーDSはゲーム好きでない人たちが買った

イノベータ理論を使うことのメリットはここまでにして、まずは、イノベータの事例を2つ紹介しましょう。
私がよく使う事例のひとつはニンテンドーDSです。

一般的に家庭用ゲーム機のほとんどは

●まずはゲーム好きが買い
●次にゲームのライトユーザーが続き
●家族で遊ぶために買われる

過程を踏みます。

上から順番にイノベータ、アーリーアダプタ、フォロワーに当たります。
この図式は、古くはファミリーコンピュータから始まり、スーファミ、プレステ、そしてニンテンドーDSの親分だったゲームボーイまで綿々と受け継がれてきました。
これはこれでイノベータ理論を応用した立派な例です。

そりゃ、そうですよね。普通に考えればわかることです。
ゲーム機の発売当初はソフトが数本くらいしかラインナップされていません。もし、そのゲーム機が失敗して、遊びたいソフトが揃わなかったら生活者は悲惨な目に遭います。

本体2万円、ソフト代5千円だとすると、もし1本しか遊びたいソフトがないと、ゲーム1本あたり25,000円になってしまいます。
根強いファンがいたにせよ、結果的にそうなってしまったゲーム機はたくさんありました。PCエンジン、3DO、ゲームギア、セガサターンなど枚挙にいとまはありません。本体が売れないからソフトも揃わない。遊びたいソフトが少ないから本体も売れない。悪循環です。

でも、遊びたいソフトが10本あれば、合計7万円を10本で割れば1本あたり7千円でゲームを遊ぶことができる。

だから、売れるかどうか、遊びたくなるようなソフトがたくさん発売されるかどうかが分からない発売当初に新しいゲーム機を買うなんて冒険は、ゲーム好き(イノベータ)でないと無理な相談です。

さて、ニンテンドーDSはどうだったか。
結論からいうと、ニンテンドーDSもイノベータ理論の典型例です。でも、その中身が従来と大きく違っていました。

説明します。
ニンテンドーDSはシリーズ累積3,300万台も売れて大ヒットしました。
しかし、2004年12月に発売されたDSは5ヶ月後の2005年4月で累積200万台しか売れませんでした。苦戦といってもいい。
例えば、Wiiは2ヶ月で200万台が売れました。DSの3倍のペースです。

発売当初は、キラータイトルの「おいでよ どうぶつの森」も「ポケットモンスター」も発売されていなかったので仕方がないところもあります。

その不振を救ったのが、みなさんご存じの「脳を鍛える大人のDSトレーニング(通称「脳トレ」)」でした。
2005年5月に発売された脳トレは300万本の大ヒットになり、同年12月に発売された脳トレ2は200万本。なんとシリーズ計で500万本も売れたお化けソフトになったのです。

その結果、DSの販売台数は発売から2年後の2006年12月には1,400万台に膨れあがりました。
ちなみに、「おいでよ どうぶつの森(300万本)」は脳トレ1の半年後の発売、ポケモン(500万本)は1年4ヶ月後です。

さて、脳トレ1の発売1ヶ月前に200万台しか売れていなかったDSなのに、ソフトが300万本も売れたということは、脳トレを目当てにDSを買った人が大勢いたことになります。

でも、脳トレを買った人たちは従来のゲーム好きではありませんでした。
公開されたデータを利用して説明します。
次の表は2007年当時の週刊ファミ通「読者が選ぶTop20」です。

懐かしい名前がたくさん並んでいます。個人的には4位に「ペルソナ3」や16位に「タクティクス オウガ(なんとスーファミのソフトがトップ20に残っている快挙!)」が入っているのはうれしいのですが、名作中の名作「幻想水滸伝5」が圏外なのは許し難い順位表です…って、個人的な好みを言っても始まりません。

週刊ファミ通のメイン読者はゲーム好きの小学生、中学生です。従来のイノベータと言って良い人たちです。
表ではわかりやすいように、ニンテンドーDSのソフト3本に★をつけました。

週刊ファミ通「読者が選ぶTop20」2007.2.2〜2007.4.5

1位 PS2 ドラゴンクエストVIII空と海と大地と呪われし姫君
2位 PS2 ファイナルファンタジーX
3位 PS2 ファイナルファンタジーXII
4位 PS2 ペルソナ3
5位 DS ★おいでよ どうぶつの森
6位 PS ファイナルファンタジーVII
7位 PS2 テイルズ オブ ジ アース
8位 XBOX360 ブルードラゴン
9位 SS
10位 PS2
11位 PS2 モンスターハンター2(ドス)
12位 PS2 龍が如く2
13位 DS ★ポケットモンスターダイヤモンド・パール
14位 Wii ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス
15位 PS2 メタルギアソリッド 3 スネークイーター
16位 SF タクティクス オウガ
17位 DS ★ドラゴンクエスト モンスターズ ジョーカー
18位 PSP モンスターハンター ポータブル2nd
19位 PS2 大神(OKAMI)
20位 PSP モンスターハンターポータブル

【注】PS2=プレイステーション2、PS=プレイステーション、DS=ニンテンドーDS、SS=セガサターン、SF=スーパーファミコン

よくよく見ると、この表に脳トレが入っていません。
脳トレはシリーズ合計で500万本のゲームなのに圏外。一方、300万本を売り上げた「おいでよ どうぶつの森」は5位に入っている。

なぜか。理由は簡単です。
脳トレは週刊ファミ通の読者である従来のイノベータに買われていなかったからです。

それでは、いったい誰が売り上げ500万本の脳トレを買ったのか。
週刊ファミ通を読まず、従来はゲームのアーリーアダプタやフォロワーの一部だった「頭の柔らかい30代の大人」です。

そもそも脳トレに火がついたのはFM放送局J-WAVEの聴取率No1の朝の番組「BOOM TOWN」で紹介されてからです。続いて、「中京テレビニュースプラス1」でも紹介。
2番組とも大人が聴いたり見たりする番組ですから、週刊ファミ通の読者たちとは異質な人たちです。

ではなぜ「頭の柔らかい」がつくのか。
そもそも頭の固い人たち(例えば、偉そうにしているオヤジたち)は「自分の脳を鍛える」という発想がありません。
「おもしろいじゃん」という軽いノリは彼らにはできない芸当です。
実際、脳トレの初期ユーザーはデザイナーや企画マンなどの「頭の柔らかい」人たちでした。

後に脳トレは普通のおじさん、おばさんにも売れるようになります。
しかも、両親へのプレゼントとしてDSとセットで売られる始末。今までのゲームの常識では考えられない珍現象が起きたのです。

【以下、小見出しと最初の段落のみをご紹介します】

バージニアスリムライト・メンソールのイノベータは新宿のキャバ嬢

次の事例です。
バージニアスリムライト・メンソールは古い例ですが、書籍を執筆する際に実施した調査では20代の若い人たちが「読んでみたい」と回答したテーマだったので、講演や研修ではよく使う事例です。
ちなみに、書籍では担当編集者が「たばこの例は個人的にイヤだ。調査データなんか関係ない」と最後まで反対したので掲載できませんでした。

話を戻します。
バージニアスリムライト・メンソールは女性向けたばことして現在でも人気です。一時期は、女性喫煙者の大半がこのブランドを吸っていました。

イノベータ理論を使った戦略

イノベータ理論はこのままでは単なる後付け理論に過ぎません。

●ある商品がヒットした
←調べてみたら、イノベータという新しモノ好きが最初に買っていた。

というだけの話です。
実際、ニンテンドーDSは「偶然」に近い事例です。
色んなソフトを開発し、その中にたまたま脳トレがあり、それがたまたまラジオで取り上げられて、たまたまヒットしました。

そもそも、それまでのゲーム業界では脳トレのような啓蒙・教育系のソフトは売れないというジンクスがあったのですから、脳トレに広告費用も販促費用もかけていなったのが現実でした。

ビジネスとして偶然に頼るのでは心もとない話です。
もし「企業が意図的に」イノベータ理論を使って、商品を一般大衆にまで広げることができれば、大きなメリットがあります。
それこそがイノベータ理論の真骨頂です。

ゴリ押しのペネトレーション戦略

イノベータを利用したマーケティング戦略とは逆の戦略もあります。
スキミング戦略と対をなすペネトレーション戦略です。イノベータ理論とは真逆ですが、セットで覚えておくと良いので、ここで説明します。

イノベータは所詮10%しか人口がいません。だったら、生活者の大半を占めるフォロワーを相手にしたほうが売上があがるではないかという理屈の戦略です。
しかも、イノベータに売って、その後アーリーアダプタにつなげて、ようやく大衆であるフォロワーに広げるのでは時間がかかり過ぎる。もっと手っ取り早く売上を上げないと社内事情で新商品や新事業が潰されてしまう。

こんな企業ニーズから生まれたのがペネトレーション戦略です。
スキミング戦略が「上澄み」の意味だとすると、ペネトレーション戦略の語源は「浸透」です。一気に大衆に浸透させる戦略という訳です。

イノベータはどんな人たちなのか

さて、この章ではイノベータの人物像を解説します。
まずは「よくある誤解」を説明します。

●イノベータはマニアとは違う
●イノベータは女子高生ではない
●各業界で共通するイノベータはいない

まずは「イノベータはマニアとは違う」から解説します。
「小さい局地的なヒットが全国ヒットになる」イメージから、イノベータ理論と聞いてマニアを想像する人たちがかなり多いのが現実です。
ちょっとマーケティングを勉強した人たちはロジャースのイノベータ理論で、イノベータが2.5%の人口しかないところから、やはりマニアを想像してしまいます。
また、「その分野の商品に詳しい人」という共通点があるために、マニアを想像してしまうのも原因の一つです。

マニアとイノベータは共通する部分は持っているもののまったく別人です。
私がよく言うのは

「イノベータは『一般人の心を持ったマニア』」

という言葉です。

フォロワーは一般大衆

イノベータだけの説明では分かりにくいので、続く、アーリーアダプタとフォロワーについてお話しします。セットで覚えておけばイノベータが理解しやすいからです。

まず、わかりやすいのはイノベータの対局であるフォロワーです。
別名「一般大衆」で、60%〜70%の人口を占める一大勢力です。
この人たちは商品が普及した最後に買う人たちです。
情報にも疎く、買おうと思っても「失敗したらとうしよう」「まだ必要ないかな」と様子見をするのが最大の特徴です。

イノベータ理論とキャズムの違い

もう紙面が尽きました。
最後に、イノベータ理論に関する様々な注意点を列記して、記事を締めくくりましょう。
元々のロジャーズのイノベータ区分とシストラット流の区分の違い。そして、最後にちょっとだけキャズムとの違いを解説して、この記事を終わります。

元々の提唱者であるロジャースは以下の5分類です。

●イノベーター(革新者。人口比約2.5%)
●アーリーアダプター(初期採用者。人口比約13.5%)
●アーリーマジョリティ(前期追随者。人口比約34.0%)
●レイトマジョリティ(後期追随者。人口比約34.0%)
●ラガード(遅滞者。人口比約16.0%)

私は5グループも覚えられないので3つにしています。というのは半分冗談です。
学究分野なら5グループでもいいのですが、実務では細かすぎます。
後ろから着いてくるレイトマジョリティやラガードをターゲットにすることはマーケティングの現場ではほとんどありませんから、この2つはまとめて1つにしても困りません。いや、そもそも忘れてもらってもかまわない。

イノベータ理論はもっと活用できる

「それでは、企業はみんなイノベータ理論を使えばいいじゃないか」

そのとおりです。
しかし、実際にきちんとイノベータを理解して、イノベータ理論を実践している企業は多くありません。

企業が勉強不足という理由もあります。
イノベータはある種「扱いが難しい人たち」なので、そうそう簡単に企業になびいてくれないのも理由です。
生活者が分かっていないので、イノベータが好む商品を開発することができないのも大きな理由のひとつです。
また、イノベータは10%しかいないので、
「少数の人たちしか相手にしない=売り上げが少ない」
イメージから抜け出せないのも理由です。

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