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「細かいことで騒いでいるのは少数派ですよ」【電子書籍】 2012.10.1

液晶テレビを買ったら3ヶ月間は番組が見られない

楽天の7,980円電子書籍専用端末、楽天koboがつい最近の7月、大きな騒動になりました。
専用端末は2万円以上するのが当たり前なのに楽天koboは半額以下です。
楽天kobo専用の書籍取り扱い点数も100万点の予定。
日本IT業界の覇者、三木谷社長が大々的にぶち上げたのですから、期待も高まろうというものです。

でも騒動はそのことではありません。
ワクワクしながら発売日初日に買ったユーザーが次々に撃沈したからです。
koboの性能が悪かった?
いいえ、それ以前に使うことさえできなかったからです。

この話題に詳しくない方に簡単に説明します。
iPodでもWindowsでも、最近の電子機器はすべて最初にセットアップをする必要があり、koboもそれが必要です。
しかし、koboはその段階に決定的な問題がありました。

その1。パソコン用のソフトがインストールできない、インストールできても楽天会員ログインができない、koboのシステムアップデートができない、koboのアクティベーションができないという様々なトラブルが相次ぎ、「商品として使える」状態にならない。

その2。多数の人たちがサーバーに殺到し、セットアップがエラーになり、何回もアクセスするのでサーバーがパンク。接続すらできなくなる。

実は、初日の数時間は楽天のミスでテスト用のプログラムしかサーバーに組み込まれていなかったので、そもそもセットアップができないのは当たり前でした。
加えて、パソコンのユーザー名に漢字やカタカナが使われている場合は、セットアッププログラムが作動しないバグ(設計ミス?)もありました。

発売直後の楽天のレビューは564件中、1点評価が206件と約半分、5点評価は88件。まさに「阿鼻叫喚」という表現にふさわしい状態でした。

それだけなら、他にも例があります。
スクウェアエニックスのネットゲーム、ファイナルファンタジー11も10年前のサービス開始当初は似たような状態でした。
サーバーがパンク状態でアクセスできない。正常になったと思ったらバグが発見されてサービス中止。その繰り返しが1ヶ月続き、とうとう発売初月は無料化する事態になりました。

騒動に油を注いだのが楽天三木谷社長の日経ビジネス(日経新聞にも転載)のインタビュー。
「細かいことで騒いでいるのは少数派ですよ」
「95%の人が初期設定を終えているのです。(中略)5%の人は誰かって?途中で難しくて諦めちゃった人はいるでしょう」
余りにも無防備でユーザーの神経を逆なですることばでした。特に「初心者扱いされた」初期ユーザーは怒り心頭。

そんな中で、次の一手を楽天三木谷社長が打ちます。
楽天レビューの閉鎖です。
レビューが閉鎖されたのは楽天の歴史上初めてのこと。

「内容のほとんどが解決しているので、表に出たままだと『かえってミスリーディングだな』と判断し、いったん、落とさせてもらった」(楽天三木谷社長)

楽天レビューではすべての商品が
「解決していても、削除させてくれない」
のが従来のルールです。
koboだけが特別扱いです。
それに対してユーザーや楽天に出店した商店主は「隠蔽だ」「えこひいきだ」と再び怒り出す。

それよりも、私がびっくりしたのは、東洋経済のインタビューに対する楽天三木谷社長の返答でした。

「購入された端末のアクティベーション(初期設定)も90%以上終わっている。(中略)アクティベーションは同じコボの端末で欧米だと3カ月くらいかかって70%に到達するので、それに比べると、大変うまくいっている」(楽天三木谷社長)

楽天三木谷社長の判断基準が3カ月で70%の製品が使えるようになることだと知って驚愕しました。
新品の液晶テレビを買ったら3ヶ月間は番組が見られないのが当たり前、新車を買ったら3ヶ月間はエンジンがかからないのも当たり前という認識です。
日本製品の凋落の原因の一端をかいま見たようでした。
楽天三木谷社長は物作りをしてはいけない人のようです。

書籍点数にも問題がありました。
「100万点が目標」だったタイトル数が、
「当初3万冊」になり、
「発売時には2万冊」しか実際には存在しなかった。しかも、そのうち1万2千冊がどこでも無料で読める青空文庫。しかも、1円と有料。

「2012年末までに20万冊目標」が8月時点で6万冊しかない。
点数を増やすことは良いことですが
「ヌード写真集やゲイ写真集などが増え」
「ギターコード譜が8月1日の6千点から同12日には1万3千点に増え」
「1枚しかないのに1冊と数える、ウィキペディアの人名ページを9月17日だけで342冊を書籍として揃える(執筆時点の10月2日には消えていました)」
など、まともな書籍がまったく霞んでしまうような作業状況で、「水増しだ」と怒る人も出現。

すべてにおいて後手後手に回る対応で騒ぎが収まる様子すら見えません。

電子書籍の話題はiPadからだった

電子書籍が話題になったのはiPadが2年前に発売された時からです。
あれから、電子書籍を提供する母体は増えました。シャープのように大々的にぶち上げたものの、一気にトーンダウンした企業もありました。

「電子書籍元年」と言われ続けていますが、電子書籍の市場規模は630億円(2009年)→670億円(2010年)→629億円(2011年)と、むしろ昨年は減少しています。
電子書籍の市場規模がペーパーバックを2010年に追い越したアメリカの勢いとはえらい違いです。

でも、アンドロイド・スマートフォンのアプリ販売所である「Google Play」では、日本語の電子書籍が販売されはじめました。
2012年9月26日現在、コミック128冊、IT109冊、ビジネス55冊、文芸44冊、合計336冊の和書が販売されています(青空文庫は無料)。

一方で、今回の記事を配信するきっかけとなったキンドル(アマゾン)の10月発売説が話題になっています。
iPadの登場では電子書籍がブレイクしませんでしたが、本家アマゾンとなると話が変わります。
もしかしたら、今度こそ本当に「元年になるかも知れない」。

なにはともあれ、これだけ話題になり、関心も高い分野なのに、日本の書籍市場がどう変わるかをきちんと解説、分析した書籍や雑誌が少ないのは淋しいばかりです。
「出版社の危機」や「出版はこう変わる」「出版社を通さない個人著者が増える」といったような業界寄りの話ばかり。

「だったら、自分で書いてしまおうか」が今回のメルマガ執筆の動機です。
私だって、出版業界に詳しくはありません。
けれど、いつものように「生活者の視点」に立って見るとどうなるのか、なりそうなのかを考えることはできます。
いくら素晴らしい技術でも製品でも、生活者を忘れた商品は売れません。
だったら、生活者に視点を置いた電子書籍の分析があってもいい。

今回の記事は、そんな視点をつらつらとお話ししたいと思います。
テーマは
  「生活者から見たら、電子書籍ってどーなのよ」
です。

【以下、小見出しと最初の段落のみをご紹介します】

本を手に取った時の手触りは永遠の文化

まずは、いつものように、今現在、どんなことが言われているのかを整理してみます。
電子書籍賛成派の意見はとりあえず放置します。彼らの多くは煽ることで商売上、有利になるので、本気で言っているかどうかも怪しいところがあるからです。

捨てる手間は週刊誌で年間52回

その前に、今度は出版物を2つに分けて考えてみます。
「ストックとフロー」というマーケティングではよくある考え方を使います。
つまり「保管される出版物か(ストック)」「捨てられる出版物か(フロー)」を分けることです。

「ストック(保管)出版物」は単行本を中心とした「書籍」です。
専門書もここに入りますし、著名な作家が書いた小説や古典などもここです。
最近まで百科事典を書棚に並べてインテリア代わりにする家庭が多かったものですが、これも「ストック」の代表例です。

年間228冊、雑誌を買わないと元が取れない

まとめる前に、もうひとつ。電子書籍の価格です。
「価格と価値のバランスが取れれば普及する」
と先ほど書いたので、価格の問題をスルーする訳には行きません。

出版社と生活者の「負のスパイラル」

それでは、明日からでも雑誌を次々と電子化し、キンドルカラー版で大型のリーダーが発売されれば、電子書籍は急激に普及するのか。
それは、「ちょっと待った」です。
いくつかの理由がありますが雑誌の電子書籍化の普及はそんなに早くないでしょう。

18万点が普及ライン

それでは、どれだけ電子書籍の販売点数があればいいのか。
巷では、「5年後には100万冊を電子化」と掲げる出版デジタル機構が官民一体となって旗揚げされ、電子書店国内最大手「eBookJapan」は7万点、koboが約4万点とかまびすかしい気がします。
しかし、在庫点数の多さを誇るジュンク堂池袋店だけで、取り扱い点数は約30万点です(冊数では150万冊)。
とてもではありませんが、電子書店の7万点なんて郊外のちょっとした中型書店並の品揃えでしかない。
これでは「今の電子書籍では欲しい本や雑誌がない」というのも納得がいきます。

電子書籍の普及はデジカメ型

電子書籍は音楽業界と比較されることが多い。
コンテンツを格納するハードがあり(紙とプラスチック)、それを取り扱う販売店があるのは共通です。
だから、音楽業界がiPodによって壊滅的状況に陥れられたように、出版業界もアップルやアマゾンを警戒します。

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