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「当たり前」と「うそつき」の狭間【ハンバーガーとタクシー】 2000.3.15

オプションは別売りです

色々な商品のパンフレット、広告そして取扱説明書はメーカーの性格が出てくるので私は大好きです。小説のような感覚で、電車の中で読んでいます。ATOKやエクセル、オフィスのコピー機の取り説を「楽しんで読む」人はそう多くないようで、周囲に不思議がられることも多くなります。

その中で、最近特に見立つのが「写真の●●は別売りです」、「ハメコミ合成です」といった注意書きです。特に、広告やパンフレットで頻繁に見かけます。

ワープロで「用紙は別売りです」というような主従関係がはっきりしている場合は納得もいきます。このワープロを買うと、用紙がたくさん付属していると勘違いする消費者もいるだろうと想像できるからです。

しかし、例えば携帯電話のストラップの広告やパンフレットで「写真の携帯電話は別売りです」などと書かれると、思わず笑ってしまいます。「そんな、ばかな」という感覚です。

数100円のストラップを買うと携帯電話がもれなく付いてくるなんてギャグですもの。
いや、ラブホテルに泊まれば携帯電話が無料でもらえるご時世ですから、あり得ない話ではありませんが、常識的に見れば別売りなのは当たり前のことです。でも、それがパンフレットでは堂々とまかり通っている。

これは PL 法のおかげで、ユーザーから苦情が来たときのために、あらかじめお断りしておくという企業防衛の成果です。いちゃもんをつけるのが好きな生活者もいるので、無駄ではあるものの仕方がないことです。

いずれにしても、こういった「お断り」は私たちにとっても重要なことでもあります。心の準備ができるからです。

例えば、デジカメを買ったとしましょう。自分はこれをパソコンにつないで使いたい。だから、デジカメに決めたとします。ところが、買ってみて気がついたのは、実は別売りの接続キットを買わないとパソコンでは写真が見られない。そんな時、何だかものすごい損をした気分になってしまいます。

でも、長年パソコンに親しんできた私は、初めからそのあたりを疑ってかかっています。パソコンにオプションは付き物だからです。まずメモリが標準で充分あるかどうかをチェックします。次に外部接続のポート、例えば PCI の空きがあるかどうかもチェックするといった具合です。

私にとっては、それが「常識」だからです。でも、初心者にとってはオプションがなくても動くのが「常識」、パソコンに接続できるのが「常識」。パソコンに繋がるのがデジカメの良いところだと散々雑誌などで紹介されているからです。

今回は、「常識」とは一体なんだろう、にスポットを当ててみました。
常識ということばが「業界の常識」というように、ある特定の世界での話になったとき、ビジネスでの失敗の可能性が出てきます。逆にその常識を「本当の常識」に戻したとき、新たなビジネスの可能性が芽生えます。

ただ、1つだけお願いがあります。今回の記事は「当たり前」を題材としています。従って、頭を空っぽにして読んでみて下さい。「常識は常識じゃないか」というのではなく、常識を1度疑ってみる。そんな姿勢で読んで頂けば、おもしろく読めるかも知れません。

ハンバーガーショップにて

「いらっしゃいませぇ。店内でお召し上がりですか?」
「はい。え〜と、ビッグマック1つとフィレオフィッシュ1つ。それからアメリカン」
「ありがとうございます。735円となります」

長蛇の列に並んで、ようやくありつけた食事です。プレゼンテーションが終わり、ほっとしたひと時でもあります。
ヤマンバ娘やサボリのセールスマンでごった返している店内をよそ目に2階にあがった途端です。目の前に1枚のはり紙が誇らしげに目に飛びこんできました。

「全席禁煙」

あわてて、レジに戻ってみます。1階のフロアには禁煙のはり紙など、どこにもありません。
店の外に出てみます。もちろん、禁煙の告知はなし。
2階に上がって初めてこの店ではたばこが吸えないという事実を知ったのです。

おまけに、階段のかべには、もうひとつはり紙があります。

「他のお客様のご迷惑となりますので、商品をお買い上げになってからお席におつき下さい」

ごていねいなことに、2階にはスタッフが張りついて、商品を持ってない客は1階のレジに追い返しています。混んでいる時に、順番を無視して最初に席を取っておこうという不埒な客対策という訳です。
プチン。切れました。なぜかって? 後で説明します。

第2話。シーンが変わります。
終電だったので途中駅でおろされてしまいました。仕方がないのでタクシー乗り場に向かいます。
しかし、運悪く金曜日の夜です。タクシー乗り場は長蛇の列。延々寒空を30分も待たされたあげく、ようやく来たタクシーに乗り込みました。その途端、シートの目の前に「禁煙」のはり紙。

発車した運転手さんを慌てて制止しました。

「ちょっと待って、降りるから」
「え?もうメーター下ろしちゃったよ。困るなぁ、お客さん」
「そんなの関係ないです。このクルマ禁煙だから」
「そんな。また、戻るの?ちょっとなんだから、我慢しなさいよ。体に悪いし」
「説教はいいから、とにかくドアを開けてください」
【以下、小見出しと最初の段落のみをご紹介します】

現代の雲助

1日120本を吸うヘビースモーカーの私だけでしょうか。
年に数回はこういう目に合います。
え?どういう目かって?
普通のおとなしい客なら、仕方がないとばかりに我慢してしまうような仕打ちです。

人間は事前予測を素早くシミュレーションする精巧な存在

ハンバーガー・ショップにせよ、タクシーにせよ、私が腹が立ったのは「たばこが吸えなかったから」ではありません。正に、後続のタクシーの運転手さんが代弁してくれたように、「レジで精算を済ませてしまえばこっちのもの」「発車してしまえばこっちのもの」という商売根性が気に入らないのです。人の常識を逆手に取ったやり方。

どこまでがルールなのか

さて、そうなるとひとつの疑問が沸いてきます。

「一体、いつ、どういう風になったら『ルール』で、どうなったら『まだルールではない』のか」という点です。

数字で置き換えてみると

話をまたまた戻しましょう。
現在の日本ではまだまだたばこが吸える店が多く、全席禁煙の店は売り上げを落としていさえする、ということでした。そして、「約束」や「常識」は刻々と変化しているということでした。

それでは、同じ約束を共有している人たちが80%も存在していたらならば?
例えば、たばこが吸える店が80%も存在していれば?
たばこが吸えるのは当たり前という前提で行動しそうです。

20%が「珍しい」

逆の例もあります。
大衆週刊誌、例えば週刊ポストや週刊現代などには、毎号といって良いほどヌード写真が掲載されています。ヌードがないのは週刊新潮など一部の週刊誌だけです。割合にしてほぼ2割。

私たちは「おじさん向けの週刊誌にはヌード写真は当たり前」になっています。でも、外国人から見れば一般書店で売っている雑誌にヌードなんてとんでもない。
だから、国際便で堂々とヌードが掲載されているそれらの週刊誌を常備したために、海外から批判を浴びて提供を取りやめるようになってしまいました。

マーケティングは「常識」を利用する

マーケティングでは、「常識」を利用することがよくあります。
ソニーは従来のものを小さくするのが得意です。そして、それは、生活者の中では半ば常識化しています。だから、パソコン市場に再参入した時も、小さい(B5サイズの)ノートパソコンを含めた方が有利になります。実際、バイオのノートは一時期、出荷台数の40%ものシェアを占めた大ヒットとなりました。

「常識」とはモノを考えなくても済む便利な道具

人々の生活をスムースにしてくれる潤滑油、常識。
ところが、この便利な常識には大きなデメリット、弊害があります。
深くモノを考えなくても行動できる、生活できる反面、考える癖がどんどんなくなっていくのです。要するに「アホ」になります。

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