readers' voice

自分自身の舞台裏・「私はこう見る」市場導入戦略 98.10.15 掲載

 <みどりさん> 【導入戦略からの1ケ月、どういう戦略を立てていますか】
       「??????」98.11.8

【お返事】

>その中でも私が「かなりおもしろい!」と思ったのは、「桃天」です。

ありがとうございます。
バックナンバーはどうしても、感想を頂ける機会が少ないので、大変参考になります。

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>森様は今、この地位を維持するためにどのような戦略を立案・実行なさっていま

するどい質問です。
これを書き始めると、1本の記事になってしまうほどの分量になるので簡単にお話しします。

維持するための戦略は、立ち上げの段階から計画済みです。
そのポイントは記事の質と広告です。

記事の質はターゲットによって決まります。
この場合、最も重要視するのが、マーケティングの初心者かそれ以上か、という点です。
中級者以上に焦点を当てると、現在の記事内容ではマーケティング的な要素が物足りなくなります。つまり、「参考にならない」ということです。

といって、中級者以上に焦点を当てると、初心者にとって大事な「おもしろさ」や「気軽さ」が薄くなります。「私はこう見る」はあくまでも初心者向けをコンセプトにしていますので、記事を書いている時はできるだけそれを忘れないように気を配っています。
というのは、日常業務が (当然の事ながら) 中級者以上の企業担当者が中心なので、気を抜くとすぐにレベルが上がってしまうのです。

また、みどりさんも指摘していましたが、「おもしろさ」は読者の「問題意識」をどれだけ揺さぶるか、言葉を換えれば共感が得られるか、が最も重視されます。
そういう意味で、ターゲットを考える上で気にするのは、ビジネスマン、OL さんの問題意識です。何と言っても数の上では圧倒的にこの層が多いからです。

さて、その人達はどういう問題意識を持っているか、という点ですが、「生活者」としての顔と「ビジネスマン (職業人)」としての顔を持っています。そして、それぞれに抱える問題意識が異なります。

みどりさんが指摘される「読者の生活に密着しているもの」は生活者としての顔です。ただし、この「密着」という定義も気をつけなければなりません。なぜなら、それぞれに嗜好があるからです。ある人は、普段の生活で飲んでいる飲料を余り意識していないかもしれません。もちろん、どんな飲料を飲んだか、等の話題が彼の生活の中で出てくる頻度が年に1回しかないかも知れません。彼にとっては、ビールの話題の方が生活に密着しているねのかもしれないのです。

逆に、新しい飲料が出たら興味があって、それぞれにトライしている方もいらっしゃるかも知れません。
ある人の生活に密着しているものは、必ずしも他の方に密着してない可能性がたくさんあるのです。逆に言えば、全世代に密着した商品分野というのはそう多くありません。

一方、例えば、商品開発部や営業部で、日々自分の商品をどうすべきか、を考えているビジネスマンがいるとすると、彼にとって最も問題意識が高いのは業界や業種を扱った記事です。彼にとっては、ビールや自動車の話題より自分の業界のことの方が圧倒的に気になります。

就職に頭を悩ませている学生さんにとって、「就職をどう乗り切るか」をテーマにした記事があれば自然と目が行くのと同じです。

従って、私が記事を掲載するときは、それぞれのバランスを取るように気をつけています。読者プロフィールのアンケートをお願いしているのは、そのためです。従って、1人の読者にとっては、A と C が面白かった。でも、別な方にとっては B と D が面白かった、という持ち回りが良いのではないか、と考えています。逆に言えば、毎回全ての人に合致した記事を書こうとすると、深く突っ込むことができず、上っ面を撫でるだけのものになる危険性を感じているのです。これは、私の文章力の問題もあります。

ちなみに、一部の読者は毎回楽しんでいらっしゃいます。
それは、例え業種や商品が違っていても自分の問題意識に置き換えて考える方達です。
例えば、日立の記事は確かに日立の問題を取り上げていますが、同じ事が乳製品に当てはまるのだろうか、と自分で考えている方です。私の記事も、実はそれがしやすいように、どこかで必ず汎用性のある結論やコメントを入れています。

また、ご参考まで言えば、記事は以下のようにして書いていきます。

●最終的に言いたいマーケティングテーマ (勉強して欲しいと言い換えても結構です) をまずリストアップします。これは、例えば、「機能としてのデザイン (誰がためにデザインはあるか)」「下位企業の戦略が間違ったときの悲劇 (日立)」等の大雑把なテーマです。大体、いつも30-40個くらいをストックしています。

●一方で、旬な話題や読者が興味のありそうな話題をリストアップしています。
これも30-40個くらいです。例えば「日立が2700億円の赤字を出した」「電子マネーの実験が話題になっている」などです。

●後は、上の2つがうまく組み合わせられるかどうかを吟味して、10個程度に絞ります。例えば、「下位企業の戦略が間違ったときの悲劇 」は、日立ではなくマツダでもピュリナ (ペットフード) でも何でも良かったのです。でも、たまたま日立が新聞を賑わしたので、題材として利用させてもらったわけです。

●書き上がった原稿は常に5-6個あります。その中から、今までの記事のバランス (順番) や、読者の反応によって、次の掲載記事を決めます。また、中には読者の反応によって書き直した記事もあります。ある記事は8月に脱稿したのですが、読者の要望や流れを掴んだ毎に書き直し、現在4回目の修正をしています。

ちなみに、次回予定の「サービス悪けりゃ命取り【ファミレス】」は、根本的にアプローチを変えましたので、まったくの書き直し作業を行ったものです。

●バランスについては、以下の分類によって考えています。

 1. 業界の話題

  (1) 戦略系 (「日立」「ドリームキャスト」等)
  (2) 商品、広告、コンセプト等の個別問題系 (「桃天」「カード」等)

 2. 生活者の動向 (「なっております症候群」等)

 3. コンサルタントの裏話や自己訓練 (「皮膚感覚のススメ」等)

要望等で最も多いのが、業界系ですが、これだけに偏ってもいけませんので、記事数比率で70%が限度だろうと考えていますが、これもアンケート調査で明確にしたいと思っています。また、これ以外の分類も回を進めていくうちに出てくるかも知れませんので、柔軟に構えたいと思っています。

●しばらくして落ちついたら、今後読みたいもののアンケートをしたいと思っています。それによって、改めて計画的にテーマを決めていく予定です。

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広告 (流通) については、検索エンジンの登録などが中心の活動です。ただ、すでに51の検索エンジンに登録していますし、主要な HP、メールマガジン紹介 HP やメールマガジンには出稿していますので、現状とは異なった販促活動が必要だと思っています。

とりあえず、「私はこう見る」の読者増加率がまぐまぐの増加率を上回っていますし、順位も上がっていますので、このスピードが下がり始めたときが危険信号だと思っています。

正確には、まぐまぐの成長率ではなく、ビジネス部門の成長率との比較が大事ですが、このデータを集計するのに時間がかかりすぎますので、まぐまぐ全体を参考にし、その差の時間を質のいい記事の執筆に当てるようにしています。

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>ぜひ、次は、「市場寡占(!?)戦略」を書いていただきたいですね。

はい。ネタはあります (笑)
タイミングとしては、半年から1年くらい後が材料も多く出るのでおもしろいかな、と思っています。

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>(要望)

>なるべく対象が広い生活密着型の文章をお願いしたいです。

上記の説明でお答えになっているかと思います。

>2.それからいつも「本記事は○○行です」とありますが、

この表現についてはかなり検討しました。
元々、他のメールマガジンではこういったボリュームについての記述がなく、「えっ、もう終わっちゃったの?」や「まだ字がたくさんあるぞ」等と自分自身が不満に感じたのが理由です。もちろん、メールマガジンでの読みやすさとホームページでの読みやすさが違いますから、それらを使い分けていただきたい、という主旨もあります。

その中に、みどりさんのご指摘の「時間で計る」もありました。
また、「雑誌●●ページ分」や「報告書●●ページ分 (?)」という案も出て、結局10案くらい出たのです。

でも、「私はこう見る」の記事の読む時間は人によって、3倍近い開きがあります。
短い文章なら、10秒が30秒になっても、その差は20秒という短時間ですが、15分かかる文章なら、3倍にして45分もかかってしまいます。これは、さっと目を通す方と、自分置き換えながら読む方に顕著です。

また、「雑誌●●ページ分」でも、写真やカットの多いファッション誌と文字が異様に多いパソコン専門誌とでは、これまた3倍近い開きがあります。最も発行部数が多い雑誌で比較しようとしても「週刊現代」や「週刊ポスト」では、インターネットのターゲットが読む比率は圧倒的に少なくなります。

では20代後半から30代のビジネスマンが最も良く読む雑誌となると、SPA! 等になりますが、それでも、彼らのうち15%以下しか購読していません。ですから、基準値が見つからないのです。

結局、メールの長さ、というものの誰が見ても分かるような、例えば映画の上映時間のような基準値が出現するまでは、絶対基準の行数で行くことに決定したのです。
もし、他に良いアイデアがあれば教えていただけると助かります。

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> 桃天はその後、カビが入っていて回収する騒ぎがありました。

はい。おかげさまでその記事が出てから、検索エンジンで「桃の天然水」とキーワードを入れて、「私はこう見る」の HP にたどり着く方が増えました。実は11月27日に発売される「ドリームキャスト」も同様です。

>それから売れ行きが落ちたのは必至でしょう。

意外に売上が落ちていないそうです (日経トレンディ)。
POS データできっちりと見たわけではありませんが、私もびっくりでした。

>このように不潔なイメージが付いてしまって落ち込んだ製品をまた人気商品にす
>るとします。
>コンサルとしてはそのためにどのような戦略を立てるのですか?

これは、商品によって違います。
例えば、ガンの原因とされる不凍液が入っていたと11年前にほぼ同時期に騒がれたたばことワインのケースが興味深い例です。

たばこの場合、売上はまったく落ちませんでした。理由は簡単です。「今までガンになると言われてきたから、今更、不凍液でどうのこうのと言われても気にしない」という声が圧倒的だったのです。ところが、一方のワインは散々です。特に、キッコーマンのマンズワインは (ここのワインが原因でしたが)、一時期売上が半分になってしまったのです。当時 (今でも) ワインのニーズが「健康的」でしたから、それへのダメージが原因でした。

従って、「健康飲料的」な飲まれ方をする「オロナミンC」や「カルピス」の方が、不健康の代名詞のような缶コーヒーよりもこういった不潔事件に対するダメージが多いでしょう。
桃天は、今の段階で言えば、健康的な飲料として飲まれていなかった、という仮説が成り立ちます。

この問題とは別に、「一旦悪いイメージが付いたブランドをどう立て直すか」という視点で話を進めます。
これは、マーケティングの中で最も難しいテーマです。

そのイメージの強弱、誰がそういうイメージを持っているか、その商品のコンセプト (ワインと缶コーヒーのようなもの) を、調べた上で判断をします。
ただ、一般的には、「かなり」悪いイメージが付いた商品を継続して売った場合、企業そのものに悪いイメージがついてしまうので、販売を中止することが多いです。少なくとも広告は中止します。

もし「やや悪いイメージ」程度なら、逆手にとって「こういう風に、品質管理を強化しました」キャンペーンをしたり、しばらくおとなしくしておいて、生活者が忘れた頃に新製品を投入するような方策を採ります。ちなみに、グリコ事件でグリコは前者の方法を取りました。つまり、パッケージには完全なPPフィルムを使い、封を開けたかどうかが分かるような工夫をしたのです。

後者のケースは「悪いイメージ」の原因が違いますが、たばこのケントが採用した戦略です。ケントは一時期外国たばこの代名詞でしたが、ラークが売れたため、「古くさい洋モク」というイメージがついてしまったブランドでした。それを、ケントマイルドとして再活性させ、外国たばこの起爆剤となった、というわけです。その間、優に10年間です。

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> 本当に生活者はそんなに「こだわった」バーガーを求めているのでしょうか?

求めている層が確実に存在します。だから、モスバーガーは第2位になれたのです。
また、フレッシュネスバーガーも日本進出で売上を伸ばしています。唯一の問題は、その層をモスから奪えるかどうかでしょう。
ただ、1位にはなれません。「こだわった」層は生活者の70%も80%もいるわけではないからです。

マーケティングとは、最終的には「自分の所にどれだけの人が来てくれるか」の科学です。望んでいる人が多くても競争相手の数が多かったり、マックのように強い相手がいるなら、自分への顧客は少なくなります。だったら、全部の数は少ないかも知れないけれど、競争相手がいなかったり弱い分野に進んだ方が得をします。

これは、平均思考とクラスタ思考と私が呼んでいるものです。
平均発想は文字どおり「平均的に言えば」という枕詞を使ってものや市場を考えるやり方です。一方、クラスタ思考は「こういう人がいるかも知れないが、こういうニーズもあるよね」と生活者をグループに分割して考える方法です。

日本の企業は平均思考が極めて強いのが特徴です。ですから、ある商品がヒットしたら、似たような商品が次々に市場に現れます。これはこれで、生活者にメリットがあります。競争によって品質が上がるからです。

でも、それだけでは利益が上がらないのも事実です。特に、業界で3位や4位のメーカーはトップメーカーの資金力や研究開発力に真っ向から対決するには、厳しいのです。だから、クラスタ発想が必要になります。

生活者の立場から言えば、企業がみんな「多数決で一番」の商品しか作らなかったら、つまらないでしょう。自分の嗜好が常に「主流とは限らない」のですから。

>それより個人的に傷み野菜で安いバーガーを作ってくれたほうが親近感が持てま

逆に「痛み野菜を使うなんて客を馬鹿にしている」と反発する層がいるかも知れませんよ。
安いものだけが売れるなら、100円化粧品はなぜ売れないのでしょうか。
青山商事などのディスカウント紳士服がなぜ単価をアップしているのでしょうか。
バリ島旅行5万円より、ワンランク上のホテルのパックで8万円のプランの売上が多いのはなぜでしょう。
もちろん、一方で100円ショップが大繁盛しているのも事実です。

ここでは細かい話はできませんが、価格と期待値のバランスが常に生活者にあります。つまり、「求める品質に対して、適切だと判断する価格」です。
その「求める品質」が総体的に低ければ価格は安くて良いのですが、「もっと価格を上げてもいいから、質が高いものが欲しい」という層も確実に存在します。
キッコーマンの丸大豆しょうゆやネスカフェのインスタントコーヒーのエスプレッソなどが良い例です。

> モスはあまりにも「こだわり」を追求しすぎている気がします。

外 (生活者) に対して言う、言わないは別にして、「品質へのこだわり」を捨てたときのしっぺ返しほど恐いものはないというのは、メーカー時代にイヤと言うほど経験しています (笑)

例え、試飲会などの目隠しテストで、スーパードライとサッポロ生ビールの違い分からなかったといっても、そのことで「一般生活者はビールの味がわからない」と結論づけてはいけないのです。品質へのこだわりの違いはボディブローのように効いてきます。そして、それは、商品やビジネスにとって最も重要なリピート客 (20%のヘビー・ユーザーが売上の80%を占めるのが普通です) が真っ先に、敏感に感じとります。

そういう意味でいえば、私のモスバーガーに対する品質へのこだわりは当然だと思います。ただし、「海老を捨てる」のは、現在の「省資源志向」を逆なでする訳ですから、言ってしまうと損をする、という計算をすべきでした。

それぞれの方々へのご意見もお待ちしています。

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