「おもちゃだ」
私の最初のマッキントッシュの印象です。
15年くらい前の話でしょうか。マックが発売された直後です。
私のその感覚は当時の人たちとはちょっと違っていたかも知れません。
今でこそ、マーケティング・コンサルタントですが、大学の専攻はコンピュータ工学(と経済学)。
アメリカで、当時最新鋭だった大型コンピュータIBM360という機械を使って、パンチカードにPL/1、FORTRAN、ALGOL等の言語でコンパイラや人工知能のプログラムを書いていた学生でした。
社会人になってからもTK-80というハンダゴテで組み立てるコンピュータを始め、アップルIIを会社で使い、PC-8001という最初の国産パソコンを、両親に借金しながら当時で100万円近くものこずかいを使い倒しました。月給手取りで9万円の頃です。
BASICという言語では遅いので、肝心な部分はアセンブラも使わず、いきなり16進数で機械語を書いてしまうという荒技をやっていたのが懐かしい若者でした。
上の10行くらいで「今回の記事はもう読むのを止めようか」と読者の皆さんに思われても不思議はない、完全な「マイコン・ヲタク」です。
・・・
・・・
あ、遠い目。すみません。
当時を懐かしんでいました (笑)
そのヲタクの目前にマックです。
「おもちゃ」以外の言葉が浮かんでこなかったのは、無理もないことだったのかも知れません。
その私が始めて本格的にマックに触れたのが13年前に外資系に転職したとき。マーケティング部門には1人1台のマックがあてがわれていました。
「げ、何でおもちゃがこんなところにあるんだ」
気が重くなったのを今でも思い出します。
Macintosh SEという初期の頃のモデルです。
でも、私のマック評価が
「おもちゃ」から
「とんでもなく便利な文房具」
に変わるまで、そう長い時間はかかりませんでした。
今まで私は、周囲から3つの「ありがたい称号」をもらっていました。
「洋行帰り」、「パソコン・ヲタク」そして「マック使い」です。
3つとも「マイナーな、皆と強調できないイヤな奴のイメージ」です。
「洋行帰り」は「帰国子女」「バイリンガル」とイメージが良くなり、「ヲタク」は良い意味で使われ始めたのに、「マック使い」だけはマイナー・イメージのままでした。
そんなマックが始めてと言ってよい程、日本で表舞台に出ようとしています。
iMac の大ヒットです。
個人的には「唯一、お尻がきれいなパソコン」としてしか存在意義を認めたくありませんが、コンサルタントとしては iMac の市場価値を認めざるを得ません。
今までも読者の方々から「iMacを記事にして欲しい」という趣旨のメールをたくさん頂きました。しかし、読者のパソコンに対する知識経験にかなりの差があります。
それらの人々が混在している状態で、どう記事を構成するのかを練るのに時間をかけていました。
しかも、iMacヒットの理由は?と聞かれて、へ理屈こねて視点を変えて新鮮味を出して時には専門用語でごまかして記事をでっちあげようとし
ても、さしもの私も
としか言いようがありません。
これではミーハー諸氏が黙って見逃すハズがありませんもの。
しかし、機は熟したようです。
iMacが大ヒットし、iBookが発表になったと思ったら、デザインが酷似しているウィンドウズマシンe-oneが投入され、注文に製造が追いつかない状態に。当然、アップルが日米で提訴。とうとう9月20日には東京地裁がe-oneの国内での製造・販売・輸入・展示禁止の仮処分を決定。そのため、ソーテックは色違いのe-oneを10月から投入することで、販売上の痛手を緩和。
一方で、一マックユーザーとしてはG4機の発表も重なり、PentiumIII 500MHz の2.5倍のスピードだとか、このスピードは「スーパーコンピュータ」の分類に入ってしまうので、共産圏への輸出制限に引っかかってしまうだとか、マニアの興味をいやがおうにも煽り立ててくれます。
今iMacの記事を買かないと、書くタイミングを逸してしまいそうな勢いです。
今回のテーマは「なぜiMacが売れたのか」という直接的な視点では新鮮味に欠けますので、そこは他の様々な人の分析をご参考ください。
その代わり、iMacにまつわるアップルの戦略の意味を中心に、iMacのヒットがパソコンにとってどういう意味を持つのかについてコンサルタントの見方をご紹介します。
記事の趣旨がふらつくのを避けるため、今回は読者のターゲットを絞りました。
まさにiMacのユーザーをイメージしています。
読者の約半数を占めるコンピュータ関連従事者の方には申し訳ありませんが、iMacという商品の持つ特性上、読者ターゲットから外させていただきました。
なぜiMacが売れたのか。
冒頭でお話した結論は嘘ではありません。
デザインが良くて、コストパフォーマンスが高くて、インターネットが簡単にできる。おまけに、そもそものマックのイメージが悪くない。
でも、今までデザインが良かったパソコンはなかったのか?(バイオを除きます)
コストパフォーマンスといっても、iMacより安いパソコンはあったのに、iMacほどの話題にならなかったのはなぜか?
インターネットが簡単にできるなんてどのメーカーも言っている。今更なぜそれが売れた理由になるのか?
マックのイメージは今までだって良かった。なぜiMacだけにそのイメージの良さが売れた理由になるのか?
そんな質問をしていくと、「売れた理由」は理由になっていないことがわかります。
「え?マックのデザインは?あれは生活者ニーズじゃないの?」
といぶかる人もいるでしょう。実際、マック信者の中にはデザインポリシーをマックの魅力として上げる人も少なくないからです。
しかし、デザインはすべてアップルの「都合」から出たものです。生活者のニーズに応えたわけではありません。あえて言えば「機能美」です。
その後、「一生、砂糖水を売り続けるのがイヤになった」元ペプシのスカリーが社長に就任。創業者ジョブズを追い出し、推し進めたマックの戦略も大正解でした。ジョブズが表向き嫌がっていた拡張性 (大画面のカラーモニタに繋げられることや外部ハードディスクを繋げられること) を高め、一般市場はもちろん、ビジネス市場にも対応できる商品を開発したのです。
息を吹き返したアップルは次のステップで失策を犯すことになります。
流通戦略とコミュニケーション戦略のミスです。そして、おまけとしてマイクロソフトの造反。ここでは紙面の都合上、ビルゲイツがいかに優れたマーケターであるか、の3番目の話は省略します。
アップルはマックをIBMに占拠されたビジネス市場に何とかして食い込みたいと商品を用意し、ソフトを揃えようとしました。しかし、結果は売上げアップに貢献したものの、ほとんど食い込めない。個人市場では一時期25%のシェアを取ったこともありましたが、市場規模が数倍も大きい一般ビジネス市場では5%がやっと。
企業向けの流通網をきちんと揃えていなかったからです。
そして企業ではシビアな保守・メンテナンスが必要です。
2つ目のコミュニケーション戦略のミスとは何か。
簡単です。
いうべきことを言っていなかった。その一言で充分です。
ウィンドウズ95が発売されたとき、一般誌いや女性誌ですら特集を組み、いかにウィンドウズが使いやすいかを大々的に訴求していました。マックユーザーがじたんだを踏んだのは、あたかも、ウィンドウズしかできない機能、あるいはウィンドウズがマックより先に実現したような伝われ方をしたからです。
ようやくiMacにたどりつきました。
2年前の1997年。ジョン・スカリーに追い出されたアップルの創始者の1人、スティーブ・ジョブズが暫定社長としてアップルに戻りました。
この頃のアップルと言えば、ウィンドウズ95の余波をもろに受けて、10%以上ものシェアを持っていたのが、3-4%にまで下がっていた頃です。
ジョブズがまずやったこと。それは、要するにリストラです。彼が「余計だ」と判断したものは技術であれ、人であれ、全部切り捨てました。イエスマンしか置かないジョブズらしいやり方ですが、実際、利益が改善され健康体になったのです。古くからのユーザーはごちゃごちゃと文句を言ったものの、下位メーカーとして正解のやり方です。
さて、ここで変だな、と気がつきます。
今までデザインが良いという理由で売れたパソコンはありませんでした。いや、正確に言えばソニーのバイオがデザインで売れた第1号ですが、iMacとほぼ同時期なので、一緒にして良いでしょう。
デザインだけでいえば、PCの世界でもオリベッティがイタリアンデザインを大胆に取り入れて、デザイン性はかなり良かったはずです。でも、悲しいかな、誰も話題にしてくれませんでした。デザインの善し悪しは別にすれば、リサだって、マック自体だって、デザインが特徴のパソコンだったのです。NECが当時PC-9800シリーズで、マックのデザインを真似て作ったものの、まったく売れなかった「前科」もあります。
「ポケットボードがパソコンの競合だ」というと怪訝な顔をされます。
「携帯電話やPHSがパソコンの驚異だ」と言ったら、「バカなことをいうものじゃない」と叱られたことがありました。
説明が面倒なので「パソコンは雑誌『じゃまーる』や写真・カメラに駆逐されるかも知れない」等とは思っていても口が裂けても言わないようにしてきました。
「パソコンの競合はワープロだ。せめて、キーボードに変換・無変換キーを入れたものを装備すべきだ。できないならオプションで用意せよ」
とあるパソコン・メーカーに提案したら、
「ワープロが競合なんて、あり得ない。バカにするな」
と叱られたことがありました。
・・11年前のことです。