商品をいくらの価格にするか。
本来は大変悩ましい課題です。
安くしすぎると利益がなくなります。
高くしすぎると買う人が少なくなる。
現在のほとんどの業界では競争相手がいますから、相場に合わせれば大体の価格はつけられます。
普通の清涼飲料水で千円の値段はまずありえないし、ソーセージ300gを20円で売るわけにもいかない。
私たちは「このスペック、内容ならこれくらい」という価格は想像がつきます。だから、価格付けで実務担当者が悩むことも少ないのが現状です。
一方で、こんな議論はあちこちで見かけます。
結局、確固たる判断基準がないので、なあなあになってしまうのが実情です。
第一、価格変更は経営に直結するので、そうそう簡単に変えられない。
その割に実用的な価格戦略や価格理論が少ないのがマーケティング担当者の悩みです。決定打だというものがない。
そこで、価格理論をつれづれなるままに紹介するのが今回の記事です。
古典的な「市場価格主義」。
市場でこれだけの価格が求められているのだから、その価格に見合った商品を作りなさい価格付けの手法です。
「言うは易く行うは難し」「机上の空論」の代表選手のような言われ方をすることが多いのも、この手法です。
しかし、自分の努力不足を棚に上げずに真剣に取り組むことで、この手法で成功した事例はいくつもあります。
例えば、最近、話題になっている「500円ピザ」。
吉野家が新しい業態として、今年10月にオープンした「ピッツァナポレターノカフェ」をはじめ、渋谷に350円ピザのナポリスがすでに開店。
カフェのおつまみで良いのなら500円ピザは渋谷に5〜6軒あります。
今までの主流である宅配ピザが2千円以上し、レストランでのピザも千円程度の価格であることを考えると破格です。
でも、宅配ピザの原価は10%〜20%。1枚200円〜400円です。
一方、普通の飲食業の原価は中華で30%、フレンチで40%。それ以上だとコストが高すぎてやっていけないと言われます。
その差に目をつけたのが低価格ピザです。
宅配ピザは暴利をむさぼっているわけではなく、宅配の人件費を合わせると標準的な30%〜40%の原価です。だったら、宅配の人件費分をなくしてしまえばいい。
1枚200円の原価のピザが原価40%だとしても500円の売値でもやっていけるのです。
同様のことはメガネや生花でも言えます。
メガネの年間商品回転数はたったの3〜4回転。つまり、1つのメガネが仕入れてから売れるまで4ヶ月もかかる。ほとんどお金を寝かしているようなものです。
だったら、普通の雑貨の標準である月1回程度の商品回転数にしてやれば、安くても利益が出る。
格安メガネチェーンは仕入れたらすぐ売れる売れ筋のメガネだけに絞って、品揃えをすればいい。
生花は売れ残るとしおれてしまうので、売り物にならなくなる。売値にはその「リスク代金」も上乗せされているので、高くなる。
だったら、これも売れ筋だけに絞ればいい。
大量に作る代わりに商品のバリエーションを少なくすることでコストダウンをはかる100円ショップやユニクロもその仲間です。
マクドナルドをはじめとするチェーン店の多くもここに入ります。
ただし、これらの手法は新しい業態で実施できる方法です。
利益を稼ぐ構造自体を変えることで実践できる。
でも、乳製品、飲料、テレビメーカーがやろうと思っても、生産システムを変えないとなかなか実現しにくい。
「机上の空論」と言われてしまうのは、メーカー自身の怠惰な発想だけでなく、そのせいもあります。
本章は省略します。
2番目の価格づけの考え方を紹介しましょう。
普通はこんな質問をされても答えようがありません。
千円のスマートフォンはとんでもなく安いですが、千円のコーラはとんでもなく高いからです。
私たち人間には「相場感覚」があります。
などです。
そして、その相場が大きくずれた時に「高すぎる」「安すぎる」と感じます。
多くの業界ではすでにある商品の価格が「相場」になりますから、普段は意識しなくてもかまいません。
しかし、相場感覚は時代とともに変化します。
また、人によって感覚が違います。
時代性は例を挙げれば簡単に理解できるでしょう。
100円ショップが文具の価格の相場を崩しました。
牛丼業界が従来の和風ファーストフードの相場を崩して久しい。
古く昔は、つぼ八や養老乃瀧が居酒屋の価格相場を崩し、現在では290円居酒屋の金の蔵がその急先鋒です。
人による相場感覚の違いはちょっと説明が必要です。
私はクルマ好きではないので、400万円も500万円もクルマに出費する人の気持ちは分かりません。でも、電子機器好きなのでトータルで200万円かかっても大して気にとめません。
逆に、クルマ好きの友人は400万円のクルマを買ったために毎日カップラーメンで過ごしても気にならない。一方、電子機器に200万円もかける私を「変なヤツだ」とからかいます。
これを心理的サイフと呼びます。
つまり、私は電子機器に対する心理的サイフは大きいけれど、クルマに当てる心理的サイフは小さい。友人はその逆です。
この例では「好きかどうか」でお金の出し方が違う例です。
しかし、もうひとつ基準があります。
後輩の加藤くんは肉が好きです。和田くんも大好き。ここまでは「好きかどうか」でいえば、2人とも同じお金の出し方をするはずです。
加藤くんは「肉が好きだから」お腹いっぱいに食べられれば幸せです。安い肉でも高い肉でも変わりません。
一方の和田くんは「肉が好きだから」、肉の質にうるさい。安くて固い肉なんて食えないといつも文句を言っている。彼にとって、肉の量は関係ないからです。
ここでの心理的サイフは「肉の量」「肉の質」のどちらに重点を置いているのかを考えなければなりません。
現実的には3段階以上のことを考えて価格付けを行う必要はありません。細かすぎても企業が対応できないし、生活者も混乱するからです。「肉の質と部位と焼き加減と付け合わせやソース」に心理的サイフがあるといっても、やり過ぎです。
昔、自動車メーカーがこれをやり「少量多品種生産主義」をあげたところ、マツダ・ファミリアだけで140種類ものタイプができあがり、利益率が低下。1台のファミリアを売って1万円しか利益がなくなってしまったことがありました。
なにはともあれ、心理的サイフの考え方がわかれば、価格はすべての人にとって安いか高いかを議論しても意味がないことが理解できるでしょう。
自社商品のターゲットとなる消費者が安いと思うか高いと思うか。
これさえ気にしていればよいのです。
いくら、ターゲット以外の人たちが「高い」と言っても気にすることはまったくありません。
価格の表示の仕方には2種類あります。
です。
コンビニには3,500点〜5,000点の商品があります。
私たちの生活を支える商品が一杯です。
でも、よくよく見ると、一部の例外を除いて3千円以上の商品は置いていません。
家庭用ゲームをコンビニが扱っていたことがありました。今と違って様々なラインナップを揃えていたものです。当初「コンビニで初めての高額商品の扱い」ということで、流通業界で話題になりました。
価格付け理論とはちょっと違いますが、面白い心理テクニックを使った例を紹介します。
ある営業マンは企業向けにワインを販売しています。
といっても、業務用ではなくあくまでも個人向けです。
職場に出かけ、終業後にワイン試飲会を開催し、その場でワインを売るビジネスです。
ワインのケースを詳細に説明すると、彼のやり方は「ドア・イン・ザ・フェイス法則」と行動経済学でいうところの「アンカリング効果」との組み合わせです。
アンカリング効果とは「最初に提示された数字が常に人の基準となる心理」のことです。
ルーレットで勝手に決めた数字を元にして(みんな見ています)、「国連に参加している国のうち、アフリカの国の数の割合はルーレットで出た数字より上か下か」と聞きながら具体的な数字を尋ねます。
冒頭で「値上げをするなら20%未満を繰り返す」ことが大切だと説明しました。
ただし、さすがに上限というものがあります。
14%の値上げを2回繰り返せば30%の値上げができます。
でも、競争相手の商品と品質が変わらないのに、30%も値上げしてしまったら売上げは下がります。
当たり前のことです。
でも、やり方によっては、売上げを上げることができます。
心理的サイフの続きです。
アンケート調査で「この商品を買わない理由」を聞くことがあります。
(私自身は、このたぐいの質問は戦略立案の参考にならないので、ほとんど実施しません)
ほとんどのケースで「価格が高いから」の項目がトップ3に入ります。
激安のはずの100円ショップですら「価格が高い」と言う輩(回答者)がいます。
前章からの続きです。
こんなことを堂々と胸を張って
と解説するメーカーがいかに多いことか。
さらに話を続けます。
実は、「商品の質を上げる」のは物理的でなくてもかまわないのです。
競争相手に引きずられた値下げがエスカレートすると、
商品すら値下げしないといけない気がする。
ヨーグルト市場で明治ブルガリアが半分近くのシェアを持っているのに値下げする。
即席みそ汁であさげが半分近いシェアを持っているのに、低価格品に合わせて値下げするなどが良い例です。
価格は生き物です。不思議なことも起きます。
バブル時代、ある宝石店が100万円の宝石が売れないので、やけくそで300万円に値上げしたら、飛ぶように売れたという逸話があります。
あるテレビ局の通販事業部が間違えて、ジャガイモの価格を5倍に表記ミスしたところ、注文が殺到したことがあります。
なぜ、こんなことが起きるのでしょうか。
本来、価格は安ければ安いほどいいと思われています。
なのに、むしろ高い方が歓迎されている。
紙面が尽きたので、タイトルを列記するだけにしました。
いずれの項目も狭い話で、現在、価格戦略で定番がなく、細かい戦略理論が跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)していることを表しています。
最後に価格付けをする手法を紹介します。
といっても、詳細はシストラットのサイトに書きましたし、調査手法ですから技術的な話になってしまい、メルマガの趣旨としてはなじみません。
従って、リンクだけを貼っておきます。
価格理論の話を紹介してきましたが、最も大切な「価格と価値」の話に大きくスペースを割きました。サブタイトルにもさりげなく、唐突に入れました。
Value for moneyの翻訳は「お値打ち価格」「お手頃価格」などと紹介されています。「お得です」「安いよ」のニュアンスがある。でも、私には違和感があるのです。
本来は「Value(価値)」があって、それを説明する「for」がついたフレーズです。「●●価格」というように「価格」が主役の言葉ではありません。